緑化工の考え方について −特に切土斜面・崩壊斜面の緑化復元−

Ohta Geo-Research Technical Report VOL.14
Ohta Geo-Research Technical Report VOL.14(1999.8.)
緑化工の考え方について
−特に切土斜面・崩壊斜面の緑化復元−
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法面 ・斜面緑化工の考え方
1.緑化とは
2.緑化の条件
3.緑化の方法
4.緑化事例
1. 緑化とは
法面や斜面を緑化する場合を、自然の状態からの植生回復に置き換えると、.火山噴火後の溶岩
上のような乾燥した裸地から、植生が次のような変遷を遂げて行く過程になぞらえることができ
る。
噴火直後の溶岩流の上の植生復元例(桜島 tagawa(1964)など)
①火山噴火後の無機的な環境
無機的な環境であり有機質も養分もなく、しかも極めて乾燥した状態(保水性がない)。
②乾燥に強い地衣類やコケが生える段階 約 20 年
自らの体内に保水性機能をもつ植物だけが生育できる状態
③一年性草本類から始まり多年生草本類に覆われる草原の段階 約 50 年
地衣類やコケを肥料にして、成長し、自らの死骸も土壌となって、土壌を生成させていく段
階
④陽性の低木が繁茂する「やぶ」のような低木林 約 100 年
一定の土壌の厚さが確保され、多様な動植物が広がり始める段階
⑤陽性の高木が繁茂する「林」になった陽性高木林 約 150∼200 年
林の中で多様な生態が営まれ、植物種や動物種の数が飛躍的に拡大する段階
⑥陰性の高木が繁茂する「森」になった陰性高木林 約 500∼700 年
生態系のが安定し、動植物と環境(土壌や大気)が相互に影響しながらも安定した状態にな
った段階(植物群落では極相という)
乾性遷移系列の変遷 (大島 1979)
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なお、斜面の緑化と熔岩地の植生の復元との大きな違いは、下記の点である。
①切土斜面や崩壊地はそのほとんどが 45゜∼60 程度の急傾斜であり、時には 60゜を越える崖地の
ような場所での緑化を要求されることがある。すなわち、土壌が生成されても豪雨によるガリー
の生成や小崩壊で流されてしまう可能性が高い環境にある。
②切土斜面や崩壊地の面積は、熔岩地全体の広さから比べてきわめて狭く、植生が環境(大気・
土壌)に与える影響が局所的である。
以上のように、切土斜面や崩壊地の緑化は、自然の状態ならばきわめてゆっくりとした時の変化
に伴って復元する植生(この場合動植物や環境をすべてふくんだ生態系の変位といってもよい)
を数年∼数十年の間で行おうというものであり、そこに法面緑化技術が必要になってくる。
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2. 緑化の条件
前項の指摘でもはっきりしているように、斜面緑化の大前提となるのが、「生育基盤である土
壌」の存在である。土壌は、栄養素と水分の保持・有機物と生物の作用による無機栄養素の生成
など、植物の生育にとって非常に重要な役割を果たしている。
このような基本的な条件(土壌の生成程度)に加えて下記の物理的な環境条件が変化する中で、
緑化の目標が決められていくものと考えられる。
①降雨条件
②日照条件
②気温条件
すなわち、植物の生成に最低限必要な土壌を確保した後は、寒冷乾燥地・湿潤温暖地などの違い
で緑化植物の種や最終的に目標とする生態系(低木林か高木林かなど)が決められれくる。
この最終目標となる生態系は、対象とする斜面周囲の自然植生におくのがもっとも合理的であ
る。なぜなら周囲の植生は、いま緑化対象となる斜面がおかれている物理的な環境条件でもっと
も安定していると考えられるからである。
なお、斜面の崩壊などに対する耐性を考慮して、植生を積極的に変えていこうという考えもで
きるが、このときもむやみに外来種を導入するのではなく、周囲の自然植生でもっとも斜面の安
定に寄与するような植生を調査・抽出し、目標とすることが望ましい。目標は現在の斜面の植生
が変遷して自然にたどり着くものであることが合理的であり、外来種を導入する場合は、周囲の
斜面に進入し、在来種を駆逐するものは望ましくない(生態系の変化が発生する)。
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3. 緑化の方法
斜面の緑化方法は、
(1) 生育基盤の形成
(2) 種子の播種や植栽
(3) 追肥や間伐などの、事後の手入れに大別される。
(1) 生育基盤の形成
植物が育つには、急斜面などで土壌が流されないことが必要である。このため、従来は特しゃ
地対策のように斜面の階段工や編柵工などが用いられ、局所的に斜面勾配をゆるくし、土壌の流
出を防ぐなどの方法を用いていた。
近年は、岩盤斜面の切土などが行われ、人力では上記のような施工が困難になり、土壌にセメ
ントを混ぜて斜面に直接吹き付け、生育基盤を形成する厚層基材吹付工が発達した。
さらに、寒冷地などでは、凍上や積雪により厚層基材が破壊されたり削られたりするのを防ぐ
処置をしたものまで考えられるようになってきた。
また、厚層基材は生育基盤にセメントが混じっており本来の土壌とは違い、土壌の団粒構造の
保持などが不完全であった。
近年は、この問題を解決するために
①砂にポリエステル系繊維を混ぜて疑似的に砂に粘着力を発生させ、土壌を形成する方法
②ジオテキスタイルなどの袋(植生袋)に生育基盤を注入し、土壌を形成する方法
が考案され、実際に使われるようになってきている。
なお、生育基盤と傾斜の関係では、傾斜が急になるほど生育基盤は薄くするのが一般的であり、
自然条件と同じく、傾斜の急な斜面では草本や低木が主体となる緑化復元を目指すのが自然(維
持管理も含めて)と考えれられる。
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(2) 種子の播種や植栽
旧来の緑化の方法は、植栽が主体であった。しかし、近年の施工方法の進展や、省力化から、
種子を直接法面に吹き付けたり、前項のように、植生基盤と一緒に法面に吹き付ける工法が発達
し、最近は植栽よりもその割合が多くなってきている。
また、植栽木と播種による木本の根茎の発達具合を比較すると、植栽に比較し播種の方が根茎
の発達がよいという研究結果もあり、播種による緑化が今後も主流になっていくものと考えらる。
なお植栽は、郷土種の導入や早期の樹林化など、特別の配慮が必要なときに播種と併用すること
が効果的であると考えられる。
播種木;根系の絡み合いが多い
根系が太い
数が少ない
主根が深く伸張する
ネット効果が大きい
植栽木;根系の絡み合いが少ない
根系が細い
数が多い
主根が消失する(どれも細い)
ネット効果が小さい
播種木と植栽木の根系の違い
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(3) 追肥や間伐などの、事後の手入れ
緑化工施工後の、追肥や間伐、樹木に巻き付く蔓性植物の除去などの手入れは、法面だけでは
なく、すべての人工林に必要な作業である。
たとえば、杉檜林の手入れ、雑木林(最近は里山林などとも呼ばれる 2 次林)の定期的な伐採
は、樹木と環境が良好にバランスを保つために必要な手段である。
以上のように、法面の緑化でも、緑化目標をどこに置くかで、管理の方法なども考えておく必
要がある。
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4. 緑化事例
当社の近傍で施工された事例を中心に 斜面の植生工による緑化の変遷を示す。
写真-1
切土法面の状況 このように切土法面は自然の斜面勾配よりも急になっていることが多く、多く
の場合生育基盤の斜面上への造成・保持が課題になる。
写真-2
切土法面の状況 施工状況によっては上記のように切土していない部分も伐採の対象となる場合
がある。このような場合は山腹斜面全体の緑化復元を考える必要があり、特に緑化復元目標の設
定が重要になる。
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写真-3
切土法面を 厚層基材吹付と植栽で
施工した直後の状況
斜面には植生が全くなく、人工の植生
基盤が形成されている。植生基盤の中
には、草本と木本の種子が入っており、
草本→木本と発芽成長する。草本は木
本の肥料などになる。
写真-4
同上。斜面上部は旧切土法面で 斜面
下部は最近新たに掘削し、厚層基材吹
付と植栽を施している。
写真-5
上部が旧法面 下部が切土整形・緑化
工施工後 1∼2 ヶ月の斜面
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写真-6
吹付後 1 ヶ月程度経過すると斜面
は草本で覆われ始める。
写真-7
ニセアカシアは、成長が早く 2 ヶ
月程度ですでに 1m 程度になる。
写真-8
斜面上部の旧切土法面
15 年程度経過しており、ニセアカ
シアの樹林が形成されている。
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その他の斜面緑化事例
写真-9
葛などの蔓や多年性草本により緑化復
元している切土法面。
切土後 10 年程度たっているが、木本類
の進入がない。
厚層基材などの吹付ではなく、切土に直
接種子を吹き付けた場合、生育基盤が貧
弱なので、それにあった植生で安定して
いる事例
十年後には木本類主体になる可能性は
ある。
写真-10
切土法面が固結粘土層主体で、生育基盤
ができなかった事例。
海成粘土層などは、降雨と風化で硫酸酸
性になり、植生が育たない。
このような地盤には人工で基盤を作っ
てやる必要がある。
写真-11
植栽によって復元した赤松林
植栽後 15 年程度経過している。
元々尾根であり、土壌は薄く、アカマツ
−モチツツジ群落が成立するような条
件であったので、自然の環境とうまくマ
ッチし緑化が成功している例。
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参考文献
法面緑化の最先端(1995) 小橋澄治 村井宏 編 ソフトサイエンス社
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