『対人恐怖と社会不安障害』

『対人恐怖と社会不安障害』
笠原敏彦 著
対人恐怖は、神経症レベルに留まるものから、統合失調症やうつ病、更には人格障
害との関連を考えるべきまでの極めて多様な病態である。
「対人恐怖は、日本人に増加している。」と筆者は述べており、その理由として「自己
主張より他者配慮」、「個人主義より集団主義」などの『日本人特有の国民性』や、物質
的な豊かさや少子化に伴う他者との関わりの減少などから見た『日本の社会文化的特
徴』を挙げている。それらは納得出来るものが多く、興味深い内容だった。
本書は、大きく分けてⅢ部構成になっている。第Ⅰ部では「概念と診断」について述
べており『自分だけが悩む』対人恐怖のタイプだけでなく『他者に迷惑をかけることを
悩む』対人恐怖のタイプに視点をおいて説明している。第Ⅱ部では「治療の進め方」
について述べており、筆者の治療技法を詳細に記している。第Ⅲ部では「臨床の実
際」について述べており、対人恐怖症と統合失調症の関連性などを記している。それ
ぞれ事例や解説を所々で取り上げ、読みやすく理解しやすい構成になっている。
対人恐怖と一言で言ってもその種類はさまざまである。自分の赤面が人に迷惑をか
けていると悩む「赤面恐怖」や自分の視線が人に迷惑をかけていると悩む「自己視線
恐怖」、他者に知られたくない考えが、自己の意志に反して独語の形で口から洩れ出
て、周囲の人に聞かれてしまう「独語妄想」、自分の身体の一部が醜いと感じる「醜形
恐怖症」などである。しかし、症状を読んでいく中で、患者の行動に共通点があること
が分かった。
まず、たいていの患者は「自分の症状が恥ずかしく、家族や友人などの周囲の人に
相談出来ない」と一人で思い悩む。その結果、宗教を信じ、精神強化のための修行を
したり、独学で自分の症状を学び、何とか治そうと無理をする。これらは、カウンセリン
グを受ける(精神科へ行く)前の行動パターンであり、結果として、いずれも上手くいか
ずに外出時の恐怖から逃れるために引きこもりになるケースが多いようだ。また、事例
を読むと対人恐怖を発症した患者は、誰もが幼少期より引っ込み思案で大人しい性格
という訳ではなく、なかには明るくリーダー的な存在だったと言う人もいた。筆者は「対
人恐怖は成績優秀、明朗快活な好青年に多く見られる」と述べている。
他者から見れば、「気のせいだ」「気にし過ぎだ」と理解されない些細なことも、対人
恐怖の患者にとってはとても深刻な問題である。そんな中でも、すぐに精神科に受診
に行かない患者が多いのはやはり精神科を特別視する風潮が今もあるからだと感じた。
「対人恐怖とは何か」の基礎を勉強するのに適した本だと思った。
(関根)