事実認識をより確実にして,社会的事象の持つ意味や背景を追究する

実践研究「社会」研究成果の概要
事実認識をより確実にして,社会的事象の持つ意味や背景を追究する
社会科学習はどうあったらよいか
~「資料を読み取り,説明する力」の育成に焦点をあてて~
飯田市立鼎中学校
中島 博文
Ⅰ 研究テーマ設定の理由
本校の全校研究テーマは「確かな学びをつくる学習はどうあったらよいか」である。テーマ中の「確
かな学び」を,社会科では「知識・技能を習得し,単元の終末時に自分の言葉でまとめることがで
きる(活用できる)学び」と考えた。そこで,このような学びを通して「社会的事象の意義や特色、
相互の関連を多面的・多角的に考察し,その過程を適切に表現する力」を育みたいと考え,本テーマ
を設定した。
Ⅱ 研究内容
1 授業の構想
PLAN
(1) 単元の目標
アフリカ州の国々のモノカルチャー経済からの脱却について多面的・多角的に考察し,その過
程や結果を適切に表現している。(社会的な思考・判断・表現)
(2) 単元の構想
中1の生徒たちが,「アフリカ諸国のモノカルチャー経済からの脱却を図り,自立を目指して取
り組んでいる姿」を,どこまで“自分事”としてとらえられるか。次の事実認識に基づき,「自立
への問題意識」を醸成していく。下記の③で提示する資料が価値ある資料と気づき,生徒たちが
“自分事”としての問題意識をもたせるために,①②の学習による事実認識を大切にする。
① 自然環境や歴史などのアフリカの概要について知る。
② 特定の産物の生産や輸出に偏るモノカルチャー経済の現状と要因がわかる。
③ アフリカの農家の人々の現状に関する次の資料を提示し,「日本人としてどう思うか」を考
えさせる。
ア 割合が高い児童労働の実態(北アフリカ・ナイジェリア以外は5~14歳の労働に従事する割合が30%を超す)
イ 店頭でのコーヒー価格を 330 円とした時,農家の取り分は 1 ~ 3 円(南北間の不公正な
貿易構造。安く買い取られる)。
ウ コーヒー園での一日の賃金 0.5 ドル(約59円)。
(②③出典:教育出版「中学地理」・帝国書院「中学生の地理」)
《期待する問題意識》モノカルチャー経済が続き,③ア~ウの状態ではアフリカ諸国の人々の暮
らしは一向によくならない。どうしたらアフリカ諸国は自立できるか。また,日本人としてどう
支えるか。
《見とどけ》単元終末時に,まとめを200字程度で書かせる。
2 授業の実際
DO
(1) 単元名 「モノカルチャー経済からの脱却を図るアフリカ」(中学1年)
(2) 単元の展開
第1時 アフリカ州の自然環境・文化。
第2時 アフリカ州のあゆみ(植民地支配の歴史)。
第3時 学習問題「南アフリカ共和国などを除いて,多くのアフリカの国の輸出が特定の物なの
は,なぜか」を設定した。予想として「一つの物をたくさん輸出した方がお金がかからな
い」「他の物を作ってもお金があまり増えない」「植民地時代に作るのが定められていて,
それが今も残っている」などが挙がり,モノカルチャー経済が続き,自立に向けて苦悩し
ているアフリカ諸国の姿が見えてきた。問題解決に向けての見通しが持て,学習課題「ア
フリカの輸出品の特色と、自立に向けた課題を説明しよう」を持った。
学習課題について,6ヶ国を抽出し,次のように班ごとに分担して追究した。
①1・2班:ウガンダのコーヒー ②3・4班:ガーナ・コートジボワールのカカオ
③5・6班:南アフリカ共和国・ボツワナ・ザンビアの鉱産資源
それぞれの班の追究の資料を,「現状」(~がある。地理的な見方),要因「(~なのは何
故か。地理的な考え方)
,
「今後に向けての課題」に分けた。その中に,前述「授業の構想」
で掲載した資料も加えたが,
「えっー」という声や食い入るように資料を見る姿があった。
第4時 第3時の追究の続きと共に班ごとに発表の打ち合わせを行った。
第5時 学習問題について,分担ごと班単位で発表した。終末時,まとめを200字程度の文章で
書いた。(時間5分)。
-1-
(3) 第5時・授業終末時の生徒のまとめと,全体を通しての考察
A生は学習前のレディネス調査の際に,「自分にとってアフリカとは?」という問いかけに
対して「チョコレートが食べられる喜び。作ってくれてありがとう。」と記した。授業終末のま
とめでは, A生 は,次のように記した。A生は追究時,「農家の人たちはチョコレートを食べ
ない」ことや「児童労働の割合が高い」ことを資料から読み取り,大変な驚きを持った。そして,
コーヒーがアフリカの「世界的な輸出品目」である事実を知った。そこで,自立を支えるために
コーヒーの売買でフェアトレードの必要性を訴えるに至った。
A生のまとめ アフリカはコーヒーやカカオ,
アフリカはコーヒーやカカオ,プラチナなどの世界的
プラチナなどの世界的な
世界的な輸出国である
輸出国である。
である。その一
その一
方,コーヒーなどを作
コーヒーなどを作っても適正
っても適正な
適正な価格で
価格で売れないため,
れないため,たくさん作
たくさん作ってももらえるお金
ってももらえるお金はご
くわずかである。それにより,子どもは学校
どもは学校に
学校に行けず,家の手伝いをしなければいけなくなる
手伝いをしなければいけなくなる。
児童労働を
児童労働を少しでも減少
しでも減少させるため
減少させるため,
させるため,フェアトレードを広
フェアトレードを広めようとしていて,
めようとしていて,私たち消費者
たち消費者
がフェアトレード商品
がフェアトレード商品を
商品を買うことによって,
うことによって,アフリカがよくなっていく。
アフリカがよくなっていく。
B生は事実を適確に捉え,多面的・多角的に考察している。「アフリカの輸出品の特色と,自
立に向けた課題を説明しよう」について複数の項目(熱帯に気候を生かした熱帯性作物の栽培,
モノカルチャー経済,南アフリカ諸国の高い経済成長,低賃金)について記述している。さらに,
自立に向けた姿をリアルにとらえさせるために,「ウガンダは一人あたりの年間GNIが460ド
ルなのに,コーヒー農園での一日の収入は0.5ドドルと極めて低額」等の資料提示が必要だった。
B生のまとめ アフリカでは熱帯
アフリカでは熱帯の
熱帯の気候を
気候を生かし,
かし,カカオ豆
カカオ豆やコーヒー豆
やコーヒー豆の生産が
生産が盛んです。
んです。
また,
また,南アフリカでは豊富
アフリカでは豊富な
豊富な鉱産資源が
鉱産資源が地下にあり
地下にあり,
にあり,この資源
この資源の
資源の輸出によって
輸出によって南
によって南アフリカ諸国
アフリカ諸国
は高い経済成長率を
経済成長率を達成しています
達成しています。
しています。しかし,
しかし,問題点もあります
問題点もあります。
もあります。プランテーション農業
プランテーション農業によ
農業によ
り,モノカルチャー経済
モノカルチャー経済になっている
になっている国
国
があり,
があり
,
労働賃金が
労働賃金
が
一日働いても
一日働
いても取
取
り
分
は59円
は59
円とな
経済になっている
いても
っています。
っています。そのため,
そのため,子どもたちも学校
どもたちも学校に
学校に通えず仕事
えず仕事をしなければ
仕事をしなければ生活
をしなければ生活できない
生活できない状況
できない状況です
状況です。
です。
さらにモノカルチャー経済
さらにモノカルチャー経済の
経済の国は輸出品に
輸出品に頼っているため,
っているため,そのものの価格
そのものの価格の
価格の変動に
変動に影響を
影響を受
けてしまうこともあります。
けてしまうこともあります。
C生は,事実をもとに ,「自立に向けた課題」について迫ることができた。 モノカルチャー
経済や南アフリカ共和国の現状,「自立への動き」については,丹念に記述している。ただし,
自分の思いを加味しながら記述している点もよい。C生にとって「アフリカの農家の人々」の
資料が腑に落ち,自立に基づいた記述が多い等,「自立に向けての問題意識」を持つことができ
ている。
C生のまとめ アフリカは児童労働
アフリカは児童労働の
児童労働の割合が
割合が高く,女性が
女性が働いても一日0.5
いても一日0.5ドル(59
一日0.5ドル(59円
ドル(59円)など賃
など賃
金が低く,流通業者の
流通業者の取り分が多いから,
いから,コーヒー豆
コーヒー豆を作っている人
っている人の取り分を増やせば,
やせば,児
童労働の
童労働の割合が
割合が減り,女性が
女性が働いて稼
いて稼ぐ賃金も
賃金も増えると思
えると思います。
います。
南アフリカ共和国
アフリカ共和国は2008
共和国は2008年以降
は2008年以降,
年以降,モノカルチャー経済
モノカルチャー経済から
経済から抜
から抜けられているけど,
けられているけど,他の国は
モノカルチャー経済
モノカルチャー経済から
経済から抜
から抜けられていない。
けられていない。南アフリカ共和国
アフリカ共和国がモノカルチャー
共和国がモノカルチャー経済
がモノカルチャー経済だった
経済だった時
だった時
は輸出合計が
輸出合計が少なかったけれど,
なかったけれど,モノカルチャー経済
モノカルチャー経済を
経済を抜けたら輸出合計
けたら輸出合計が
輸出合計が増えた。
えた。流通業者
の取り分が多く,生産者の
生産者の利益が
利益が少ないというのは不公平
ないというのは不公平だから
不公平だから私
だから私たちがコーヒーを正規価格
たちがコーヒーを正規価格
で買うことでウガンダは大
うことでウガンダは大きく変
きく変わる可能性
わる可能性を
可能性を持っている。
っている。フェアトレードは適正
フェアトレードは適正な
適正な価格で
価格で継
続的に
続的に取り引きしてもらえるから生産者
きしてもらえるから生産者の
生産者の利益は
利益は増えると思
えると思う。
Ⅲ
研究の成果と課題
CHECK&ACTION
1
生徒たちがアフリカの自立について問題意識を持って追究することができた。このことは,資料
「児童労働の実態」「コーヒー1㎏の価格の内訳」「1日の賃金」などの資料提示によって,生徒た
ちの追究への意欲が喚起・醸成されたのではないかと考える。
2 授業の終末時に,学習問題について200字程度で内容をまとめた。生徒たちは資料を基に文章を
作成することを通して,①事象間がつながったり,②因果関係がわかったりするようになり,学習
問題を多面的・多角的にとらえることができるようになった。これらにより,終末時の200字の
まとめは,社会科で大切にしている多面的・多角的な思考力を身につけることに有効だと考える。
3 C生は実証授業後,社会的事象への興味・関心が高まってきている。このことは,資料をもとに
「自立に向けた課題」について追究する中で,社会的事象について自ら考える楽しさを味わったこ
とによると考えられる。
終末時の 200 字のまとめを,本単元終了後も継続して行ってきている。その中でC生は,鎌倉幕
府が徳政令を出したことについて,「徳政令は幕府のイメージダウンとなり,人々の政治不信につ
ながった」と書いた。このことから,継続して行うことで,生徒たちが次のような育ちをすること
がみえてきた。まず,4 分間で 200 字程度のまとめができるようになる。次に,学習問題について,
事実をまとめるだけでなく,自己の思いをも加味しながら記述することができるようになる。
これからも,授業終末時の 200 字のまとめを継続していくようにしたい。
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