2013年6月号:ハイパーソニックエフェクト

総領事便り(6月号)
ハイパーソニックエフェクト
バリ島の南部、ヌサドゥア地域の五つ星ホテル等豪華なリゾートに滞在して過ごす休日
は、非日常的な環境の下で極上の休日を約束してくれます。しかし、その様な休日を過ご
すことは、バリ島でなくても、ハワイ、モルディブ等、世界中に点在するリゾートでも可
能ではないでしょうか。
バリは、「神々の棲む島」、「世界の朝」、「地上最後の楽園」とも呼ばれており、こ
の小さな島には、他のどの地域にも見られない、何か特別な魅力が存在している様です。
その魅力は、一体どこから来ているのか、私の個人的ミッションの一つとして、その秘密
を是非探ってみたいと思っておりました。
「出会いはいつでも、偶然の風の中・・・・」さだまさしの歌の中に、確かその様な歌
詞の入った歌があったと記憶しております。そう、それは、ある日突然やってきました。
バリに永く住んで観光業を営んでいる邦人女性から私共に連絡があり、バリの音楽に精通
した邦人を紹介して下さいました。
その人の名は、大橋力さん。別名、山城組組長の山城祥二さんで、1974 年より 37 年に
亘り、
新宿三井ビル前広場にて邦人によるケチャダンスの公演を主宰し続けて来た人です。
お会いしてお話ししてみますと、大橋さんの口からは、音楽に関する造詣の深さが溢れ出
て、話題も、まるでフーガの様に次から次へと休む閑無く出て来ました。
私は、大橋さんのお話にすっかり虜になってしまい、ひたすら聞き役に徹しておりまし
た。その際に、大橋さんが自ら理論化した「ハイパーソニックエフェクト」に関するお話
も聴かせていただくことができ、バリ島の魅力について、私は、その回答の一つを見つけ
ることが出来た様な気がしております。
今後も、バリ島にて活躍中の一流の芸術家等のお話を聞くことで、バリ島の魅力の根源
を探ることが出来るのではないかと考えておりますが、今回の総領事便りでは、大橋さん
から伺うことの出来ました下記の通りのお話の概要を皆様にもシェアーしていただけます
れば大変有り難いと存じます。
記
1.自分(大橋氏)は、本業は科学者であるが、若い頃より作曲家及び合唱団の指揮者等
も務める等音楽活動を続けて来ており、将来の道として、科学をとるべきか、芸術をとる
べきか、かなり長い期間悶々と悩み続けて来た経緯がある。
ある時、偶然に、東京芸術大学の小泉文夫教授への知遇を得て、特に、音楽の道につい
て貴重なアドバイスを享受された。同小泉教授との出会いこそが、その後の自分の人生を
決定づけることとなり、また、科学の知識も、音楽を理解する上で理論的手法を与えてく
れる上で極めて役立つこととなった。若いときに進むべき道を一つに限定しなかったこと
が、その後のバリ島の芸術、特に音楽の理解に大きく寄与することとなった。
2.小泉教授より、西洋古典音楽ではなく、東欧のブルガリアの農村共同体の音楽、アフ
リカ熱帯雨林に住むピグミー族、象牙海岸のお祭り、そしてバリ島のケチャ及びガムラン
等世界のマージナルな地域における音楽研究に励むことを教示され、その様な辺境地にお
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ける独特の音楽の中に、人間の脳に快感を与えてくれる音楽があることを発見した。
それらの音楽は、普通の人間の耳では知覚できない高周波からなる音楽で、人間の脳に
影響を与え、美しさ及び心地よさを感じさせ、ひいてはそれが、自律神経系及び内分泌系
を活性化させることを脳波や多数の指標上で総合的に計測に成功し、その研究の成果を「ハ
イパーソニック・エフェクト」論に理論化し、米国の科学雑誌に投稿したところ、大きな
反響を得ることが出来た。
3.バリ島は、島の周りが断崖絶壁或いは遠浅の海であり、大型外国船が利用できる様な
港も存在せず、外来勢力の影響を制限する役割を果たして来た。バリ島は、有限性という
世界モデルへ導いてくれる絶妙な大きさの島であり、これまで、十分な時間をかけて自然
と人間の行為が相互浸透させ、持続性、成熟性の高い独自の(限定された地域の)文明を
形成して今日に至っている言えるだろう。
バリ島は、熱帯雨林気候に属し、年間降雨量も多い。また、赤道直下でもあり、直射日
光に恵まれ、土壌も豊穣であり、米作に適した環境にある。他方、有限の灌漑用水の分配
処理をどうするかという大きな問題があるが、バリ島の人々は、その灌漑用水を管理する
ため、スバックという共同体組織を作り上げ、その灌漑技術を駆使して、山にトンネルを
掘削し、伏流水を活用して、棚田を切り開き、山の上から下に向けて順次に水を落とし、
バリ島の棚田はスバックと抱き合わせで世界遺産に登録されている。
バリ島の棚田を守るための共同体組織がスバックであるが、スバックでは、全て、口伝
により、その時々の状況に合わせて問題を柔軟に対処している。他方、共同体であるスバ
ックは、単に水を管理する共同体にはとどまらず、稲の神様への祈り、ヒンドゥーの神様
に祈りを捧げる際の祭りを司る役割を併せて有している。
バリ島の人々の社会行動はほとんど例外なく、共同体システムに吸収され、それを主体
として執行されている。この様な社会行動を引っ張っている原動力は、人々を陶酔させる
魅力を持った表現芸術を伴う祝祭や儀礼による脳の報酬系の活性化に他ならない。
仮に、祝祭や儀礼の快感を下にした報酬系誘導自己組織化がバリ島の中で亡くなってし
まったとすると、バリ島の社会は激甚なる打撃、或いは崩壊にさらされる危険性があるで
あろう。
4.バリ島の音楽には、人類の感性脳を活性化する何かの仕組みを持っている。ガムラン
の奏でる音の周波数のスペクトルは、人類に音として知覚できる周波数の上限である20
kHzの二倍の40kHz以上であり、銘器の誉れの高い楽器からなるガムランの音楽では
周波数が100kHz を優に超えるものがあり、この知覚できない高周波に注目して、その
高周波が脳に及ぼす影響、脳波など多様の指標化で総合的に計測することが出来た。
その結果、それが脳幹、視床等の脳の基幹組織を活性化するという事実を発見し、そし
て自律神経系、及び免疫系の内分泌系を司っている部位が平行して活性化していることを
発見した。ガメランの素晴らしい楽器が知覚や意識では捉えられない「ゆらぎ」に満ちた
超高周波の存在により、脳は美しさ心地よさを強く感じている様である。バリ島の人々は、
それを聴覚ではなく、皮膚感覚のようなものでとらえているのではないだろうか。
ケチャも16ビートの精緻なリズムの編み目模様の中で、ケチャを行う者に陶酔と至福
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の感覚をもたらし、それが、究極の共同体へとバリ島の村人を結束させる強靱な絆となる
のである。
(了)
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