第4章 フランスと日本の国際協力 1.基本的指標 まず、フランスと日本の国力を示す基本指標を比較してみよう。 図 表 4- 1 で 示 す よ う に フ ラ ン ス の 国 土 面 積 は 約 55 万 ㎢ で 日 本 の 約 1.5 倍 あ る が 、人 口 は 日本の約半分である。そして国内総生産は総額では日本がフランスの 2 倍以上であるが、 国 民 1 人 当 た り で は フ ラ ン ス は 29,276 米 ド ル で 日 本 の 30,889 米 ド ル と ほ ぼ 同 水 準 に あ る 。 産 業 構 造 で フ ラ ン ス が 日 本 と 際 立 っ て 異 な っ て い る の は 農 業 で あ る 。 日 本 の 1.5 倍 の 国 土 面 積 を 有 す る フ ラ ン ス は 自 然 条 件 に も 恵 ま れ 、耕 地 面 積 は 国 土 の 36%、約 1,958 万 ヘ ク タ ー ル に 達 し 、日 本 の 13%、約 473 万 ヘ ク タ ー ル を は る か に 凌 い で い る 。国 内 総 生 産 に 占 め る 農 業 生 産 の 割 合 は 日 本 が 1.6%で あ る の に 対 し て フ ラ ン ス は 2.2%と そ れ ほ ど の 差 は な い が 、 穀 類 の 自 給 率 で は 日 本 が わ ず か 24.2%に と と ど ま っ て い る の に 対 し 、 フ ラ ン ス は 175.5%と 穀 類 輸 出 国 と な っ て い る 。フ ラ ン ス が ヨ ー ロ ッ パ の 農 業 大 国 で も あ る こ と を 示 し ている。 フランスの人口構成で日本と異なるのは外国人の人口割合の多さである。日本の外国人 人 口 が わ ず か 1.6%で あ る の に 対 し て 、フ ラ ン ス は 10.7%を 占 め て い る 。難 民 の 受 入 数 も 日 本 が 人 口 10 万 人 当 た り 0.2 人 で あ る の に 対 し て フ ラ ン ス は 23.1 人 に 達 し て い る 。 前 章 第 4 節 で も 取 り 上 げ た よ う に 、 こ れ は フ ラ ン ス が 西 ヨ ー ロ ッ パ の 中 心 に あ り 19 世 紀 か ら 20 世 紀 に か け て 広 大 な 海 外 植 民 地 を 有 す る フ ラ ン ス 帝 国 を 形 成 し た と い う 歴 史 的 遺 産 が その一因であるといえよう。 図 表 4- 1 フランスと日本の基礎指標 フランス 国 土 面 積 (1,000 ㎢) 人 口 (2005 年 、単 位 :1 万 人 ) 人 口 成 長 率 (2000~05 年 、%) 日 本 547 377 6,050 12,809 0.4 0.2 外 国 人 人 口 (2005 年 、%) 10.7 (12 位 ) 1.6 (28 位 ) 難 民 数 (2004 年 、人 口 10 万 人 当 たり) 23.1 (11 位 ) 0.2 (29 位 ) 1,835.7 ( 5 位) 3,946.1 ( 2 位) 29,276 (19 位 ) 30,889 (16 位 ) GDP に占 める農 業 生 産 の割 合 (2005 年 、%) 2.2 (16 位 ) 1.6 (19 位 ) 耕 地 面 積 (2000 年 、単 位 :1,000 ヘクタール) 19,583 GDP(2005 年 、単 位 :10 億 米 ドル) 1 人 当 たり GDP(2005 年 、単 位 :米 ドル) 穀 類 自 給 率 (2001 年 、%) TOEFL 受 験 者 数 (2002 年 、人 口 100 万 人 当 たり) 平 均 得 点 (2002 年 ) 4,736 175.5 ( 3 位) 24.2 (28 位 ) 196 ( 8 位) 664 ( 3 位) 231 (19 位 ) 186 (29 位 ) ( 出 所 ) 経 済 社 会 デ ー タ ラ ン キ ン グ , http://www.dataranking.com、 FAO, http://www.fao.org 55 55 少 し 視 点 を 変 え て 、 主 に 英 語 圏 以 外 の 外 国 人 を 対 象 に し た 英 語 検 定 試 験 TOEFL の 人 口 100 万 人 当 た り の 受 験 者 数 を み て み よ う 。 デ ー タ が 存 在 す る 29 カ 国 中 、 日 本 が 664 人 と ア イ ス ラ ン ド 、 韓 国 に つ い で 第 3 位 を 占 め て い る の に 対 し て 、 フ ラ ン ス は 196 人 ( 第 28 位 ) に と ど ま っ て い る 。 し か し そ の 成 績 で は 、 フ ラ ン ス の 受 験 者 の 平 均 点 231 点 ( 19 位 ) は 日 本 の 186 点 ( 29 カ 国 中 最 下 位 ) を 大 き く 上 回 っ て い る 。 ち な み に 平 均 点 の 上 位 は オ ラ ン ダ 、デ ン マ ー ク な ど 西 欧 諸 国 で 占 め ら れ て い る 。第 3 章 で 検 討 し た よ う に 、フ ラ ン ス は国際的コミュニケーションの手段として英語の重要性は認めながらも、フランス語の国 際的言語としての地位を保持したいとする国民的意識の表れと解釈できる。 2.国際協力 フ ラ ン ス は 国 内 総 生 産 の 総 額 で は 日 本 の 半 分 以 下 で あ る が 、図 表 4- 2 に 示 し た よ う に 、 ODA で は 104 億 米 ド ル と 日 本 の 111 億 米 ド ル と ほ ぼ 日 本 と 同 水 準 に あ る 。 し た が っ て 国 内 総 所 得 に 対 す る ODA の 比 率 は 、日 本 の 0.25%に 対 し て 0.47%と DAC 諸 国 の 中 で は 相 対 的 に 高 い 地 位( 10 位 )を 占 め て い る 。国 民 1 人 当 た り の ODA も 日 本 が 103.1 米 ド ル( 15 位 ) で あ る の に 対 し て フ ラ ン ス は 165.5 米 ド ル ( 12 位 ) と 高 い 。 ODA 総 額 に 占 め る 贈 与 の 割 合 は 、 フ ラ ン ス は カ ナ ダ ( 100.0%)、 米 国 ( 99.9%)、 英 国 ( 95.7%) な ど に は 届 か な い が 86.3%に 達 し て い る 。 日 本 は DAC 諸 国 《 22 カ 国 》 の 中 で 極 め て 低 く わ ず か 54.1%で あ る 。 二 国 間 援 助 の 比 率 は フ ラ ン ス が 72.2%で あ る の に 対 し て 日 本 は 79.2%で あ り 大 差 は な い 。分 野 別 の 配 分 に つ い て は 、フ ラ ン ス が 社 会 イ ン フ ラ 25.2%を 占 め 、経 済 イ ン フ ラ 9.4% で あ る の に 対 し て 、 日 本 は 社 会 イ ン フ ラ が 20.0%、 経 済 イ ン フ ラ が 23.4%で 社 会 イ ン フ ラ よ り 多 く 、 フ ラ ン ス の 9.4%を 大 き く 上 回 っ て い る 。 OECD の Development Cooperation Report の 別 の 区 分 に よ る 棒 グ ラ フ ( 数 値 の 表 示 は な い ) に よ る と 、 フ ラ ン ス の 「 教 育 ・保 健 ・ 住 民 」 の 項 は 20%を 上 回 っ て い る の に 対 し て 日 本 の そ れ は 約 7%で あ る 。 こ れ は フ ラ ンスが国際協力の対象として、アフリカをはじめとする旧植民地を抱えていることと無関 係 で は な い 。ODA の 地 域 配 分 を 見 て も 、フ ラ ン ス の そ れ は 54.1%が 旧 植 民 地 が 多 い サ ブ サ ハ ラ ・ア フ リ カ 諸 国 向 け で あ る の に 対 し て 、 日 本 は そ の 47.7%が ア ジ ア 向 け で あ る 。 56 56 図 表 4- 2� フ ラ ン ス と 日 本 の ODA フランス ODA(2006 年 、単 位 :100 万 米 ドル) 日 本 10,448 ( 3 位) 11,187 ( 4 位) 0.47 (10 位 ) 0.25 (18 位 ) 165.1 (12 位 ) 103.1 (15 位 ) 贈 与 比 率 (2004~2005 年 平 均 、%) 86.3 (18 位 ) 54.1 (22 位 ) 2 国 間 援 助 の割 合 (2005 年 、%) 72.2 79.2 社 会 インフラ 25.2 20.0 経 済 インフラ 9.4 23.4 農 業 (食 糧 援 助 を除 く) 1.4 5.8 工 業 などその他 の生 産 分 野 5.7 5.0 緊 急 援 助 (食 糧 援 助 を含 む) 7.8 3.6 50.5 42.2 100.0 100.0 54.1 17.6 9.6 47.7 ODA の対 GNI 比 率 (2006 年 :%) 国 民 1 人 当 たり ODA(2005 年 、単 位 :米 ドル) 2 国 間 ODA の分 野 別 配 分 (2005 年 、%) プログラム援 助 等 合計 ODA の地 域 配 分 (2005 年 、%) サブサハラ・アフリカ アジア ( 出 所 ) 外 務 省 『 ODA 白 書 』( 2007 年 版 )、 OECD, Development Coopretaion Report 2007 3. フランスの AFD と日本の JICA 前 述 し た よ う に 今 日 の フ ラ ン ス の 国 際 協 力 の 中 核 を 担 っ て い る の は 、 日 本 の JICA に 相 当 す る AFD で あ る 。両 者 の 組 織 、活 動 を 比 較 し て み る( 図 表 4- 3)。JICA の 創 立 は 1974 年 で AFD よ り も 古 い ( 2003 年 に 独 立 行 政 法 人 化 )。 AFD が 経 済 協 力 中 央 金 庫 ( CCCE) の 系 譜 を 引 く 本 来 的 に は 公 的 金 融 機 関 で あ る の に 対 し て 、 JICA は 海 外 技 術 協 力 事 業 団 を 引 き 継 い だ 技 術 協 力 中 心 の 機 関 で あ る 。し か し 、AFD が 旧 協 力 省 の 業 務 を 一 部 引 き 継 い だ こ と で 、 開 発 銀 行 と 協 力 実 施 機 関 と い う 二 重 の 役 割 を 担 う こ と に な っ た よ う に 、 JICA も 2008 年 に 国 際 協 力 銀 行 の 業 務 を 一 部 吸 収 し た こ と で AFD に 類 似 し た 機 関 と な っ た 。 AFD の 職 員 数 は 1,306 名 で JICA の 1,664 名 を 下 回 り 、し か も そ の う ち 410 名 は 現 地 事 務 所 の 採 用 者 で あ る 。海 外 事 務 所 は AFD が 世 界 各 地 47 カ 所 に 設 け て い る の に 対 し て JICA は 39 カ 所 で あ る 。 AFD の 場 合 、 う ち 24 事 務 所 は サ ブ サ ハ ラ ・ア フ リ カ 諸 国 、 ア ジ ア は 6 事 務 所 に す ぎ な い の に 対 し 、JICA は ア ジ ア が 21 事 務 所 、サ ブ サ ハ ラ ・ア フ リ カ 諸 国 が 14 事務所と両者は対称的である。 予 算 規 模 は AFD が 約 43 億 ド ル で ODA 総 額 の 41.2%を 占 め て い る の に 対 し て 、 JICA は 約 13 億 ド ル で ODA 総 額 の 11.6%を 占 め る に す ぎ な い 。し か し 今 後 は 前 述 の と お り 、JICA も国際協力銀行の業務を一部吸収したことで、そのシェアは増大していくであろう。 57 57 � � 4- 3� � � � � � AFD � � � � JICA AFD 沿革 JICA 創 立 (1998 年 ) 創 立 (1974 年 ) (CFD を引 き継 ぐ) (海 外 技 術 協 力 事 業 団 等 を引 き継 ぐ) 独 立 行 政 法 人 化 (2003 年 ) 国 際 協 力 銀 行 の業 務 の一 部 を吸 収 (2008 年 ) 職員数 1,306 名 (2007 年 末 現 在 ) 1,664 名 (2008 年 度 ) (うち 410 名 は現 地 事 務 所 採 用 者 ) 47 カ所 39 カ所 (サブサハラ・アフリカ 24、アジア 6) (アジア 21、サブサハラ・アフリカ 14) 予算 35 億 ユーロ(2007 年 ) 1,516 億 円 (技 術 協 力 、2007 年 ) 米 ドル換 算 43 億 ドル 12 億 8,700 万 ドル ODA 総 額 に対 する比 率 41.40% 20.7% 海外事務所 ( 出 所 ) JICA ホ ー ム ペ ー ジ http://www.jica.go.jp/、 AFD, Annual Report 2007 よ り 筆 者 作 成 58 58
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