最新開発援助動向レポート No.19 「グレンイーグルズ・サミット」 林 泰史 国際開発研究センター主任 概要 第 31 回主要国首脳会議(G8 サミット)は 7 月 6 日夜、英国北部スコットランドの保養 地グレンイーグルズでのエリザベス女王主催の歓迎夕食会で幕を開けた。主要議題は議長 「アフリカと開発」と「気候変動」に決め である英国ブレア首相のイニシアティブ1により、 られた。その狙いは、アフリカへの援助額増大のコミットメントを各国から引き出し、気 候変動への具体的な対応を図る、特にアメリカを取り込むことである。その他、 「テロ対策」、 「貿易」、 「北朝鮮とイランの核問題」、 「中東和平」などについて話し合われ、次の 12 の成 果文書が発出された。アフリカ、気候変動(総論・行動計画)、津波、世界経済・石油、貿 易、知的財産権、不拡散、テロ、中東和平プロセス、拡大中東構想、イラク、スーダン。 最終日に全体総括として議長サマリーを議長が発表した。その主な内容は、アフリカへ の援助額を 2 倍にし、地球温暖化のスピードを遅らせるというコミットメントを引き出す ことにあり、ブレア首相の狙いは満たされた。ジェフリーサックス教授2は「ブレア首相が これで世界をミレニアム開発目標達成に一歩近づけた」と評している。一方、アメリカの G8 シェルパ3は今回なされたコミットメントが、確実に、かつ、どのように達成されるかが 重要としている。 招待国・機関には主要議題に従って、アフリカからアルジェリア、エチオピア、ガーナ、 ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、タンザニア、アフリカ連合、国際通貨基金、世界 銀行、国連、また、気候変動については、ブラジル、中国、インド、南アフリカとメキシ コ(新興経済諸国)が参加した。 7 日の午前 9 時少し前にロンドンで発生した同時多発テロ攻撃対応のため、一時ブレア首 相がロンドンに戻ったが、その間、ストロー外相が議長代行を務め、8 日までの議事日程を ほぼ予定通りに終了した。同テロに対しては異例の 2 回も声明が発出された4。 以下に、焦点となった「アフリカと開発」、「気候変動」、「市民参加」、「農業補助金」に ついて ODA に対する各国の対応に触れてから述べる。 1 2 3 4 主要国首脳会議では伝統的に、主催国が主要議題を設定することになっている。そのため主催国の事務官(シェルパ) は、開催までの約 1 ヶ月間に各国の事務官と事前交渉を行い、全ての参加国の署名による合意によって主要議題を決 定しなければならないことになっている。 ジェフリーサックス教授は国連ミレニアムプロジェクトのリーダーで、援助額増大を強力に主張し続けている。 Faryar Shirzad, U.S. Deputy National Security Advisor for International Economics and the US G8 Sherpa ブッシュ大統領は「G8 で貧困の解消やエイズ患者の支援、環境問題について話し合う人がいる一方で、無実の人々を 殺す者がいる。この対比は何よりも鮮明だ」と記者に述べている(朝日新聞 7 月 7 日付け) 。 1 ODA について 既に 2002 年 3 月メキシコ・モンテレ-で合意したように、2015 年までにミレニアム開 発目標を達成するためには、ODA の大幅な増加が必要である。ドナーのコミットメント等 に基づく OECD の推計によると、G8 及びその他のドナーから全ての開発途上国向けの援 助は、2004 年と比較して 2010 年までに、年間の総額で約 500 億ドル増加し、そのうち少 なくとも年間の総額で 250 億ドルが追加的にアフリカ向けとなると見込まれている。 各国の ODA の対 GNI 比 0.7%目標達成年で見てみると、フランスは 2012 年までに、英 国は 2013 年までに、ドイツ及びイタリアはまず 2010 年までに 0.51%、そして 2015 年 までに 0.7%達成を表明している。一方、日本は財政難から ODA 予算は 6 年連続で削減さ れ、2005 年度は前年度比 3.8%減の 7,862 億円、2004 年度では ODA の対 GNI 比 0.19%(実 績)となっている。 日本は今回のサミットでは ODA の対 GNI 比 0.7%目標には触れなかったが、既に「骨太 の方針 2005」において述べているとおり「わが国にふさわしい十分な水準を確保する(ODA 事業量の戦略的拡充)」とし、今後 5 年間で計 100 億ドル(約 1 兆 2000 億円)を増額する とした。小泉首相は「今まで、日本は ODA 等の見直しを進めてきた。90 年代においては 世界でも日本の ODA は第 1 位であったが、見直ししてきた結果、日本の ODA はだんだん 増えるというよりも減るような状況であった。しかし、G8 諸国がこれからやはりアフリカ は大事だということで、アフリカの支援を増やしていかねばならないということなので、 日本もこれから減額するのでなく増額の方向に転じる」との方針を表明した。具体的には、 「ODA 全体としては、今後 5 年間で 100 億ドルを積み増そう、3 年間でアフリカに対する 支援を倍増させよう」ということをこのサミットで表明した(総理内外記者会見より)。 達成の見込みについては、イラク向け債権放棄、インド洋津波による被災国からの円借 款の返済猶予などで相当程度可能としている(朝日新聞 7 月 8 日)。実際のところ、円借款 についてはアジアでは返済が増えており、中国向けは新規供与を止めたところである。な お、財務省は債権放棄、新たな円借款供与は原資である財政投融資資金の水膨れを招き、 また、一般会計からの拠出は厳しい財政事情のために慎重である。一方、外務省は途上国 の要望が強い無償資金(一般会計から)での増額を主張している。100 億ドルの具体的な内 容については今後、政府部内で調整していくことになっている。 債務救済について G8 は 6 月 11 日の財務省大臣間で合意されたとおり、重債務貧困国が 国際開発協会(IDA)、国際通貨基金(IMF)及びアフリカ開発基金に対して抱える債務の 全てを削減し、また、国際金融機関の貸付能力が減少しないことを確保するために追加的 な資金を供与するとの提案に合意した。更に、G8 は他の債権国も同様に債務救済するよ うに働きかけていくとしている。これはブレア首相の強力なイニシアティブの下実現した が、日本はアメリカの後一番最後に同意している。 2 表:国・機関毎の ODA 増額の内容とその対策 国・機関 ODA 増加内容とその対策 EU 2010 年までの ODA の対 GNI 比 0.56%到達を新たな共同中間目標としつ つ、2015 年までに ODA の対 GNI 比 0.7%に到達することを約束した。EU は、2004 年から 2010 年で 345 億ユーロから 670 億ユーロへ ODA をほぼ 倍増させる。この増加分の少なくとも 50%がサブサハラ・アフリカに向け られることになろう。 ドイツ 2010 年に ODA の対 GNI 比 0.51%、2015 年に 0.7%に到達することを約 束した。 イタリア 2010 年に ODA の対 GNI 比 0.51%、2015 年に 0.7%に到達することを約 束した。 フランス 2007 年に ODA の対 GNI 比 0.5%(うち 3 分の 2 がアフリカ向けで、2000 年以降少なくとも ODA は倍増となる)、2012 年までに ODA の対 GNI 比 0.7%に到達するスケジュールを発表した。 英国 2013 年までに ODA の対 GNI 比 0.7%に到達するスケジュールを発表し、 また 2003/04 年から 2007/08 年の間にアフリカにおける二国間拠出を 倍増する。 アメリカ 2004 年から 2010 年の間に、サブサハラ・アフリカ向け援助を倍増するこ とを提唱する。年間総額 50 億ドルまでの供与を目標としたミレニアム挑 戦会計、150 億ドルのエイズ救済のための緊急計画、アフリカにおける人 道上の緊急事態へ対処するための 2005 年における 20 億ドル以上のイニシ アティブ、及び 12 億ドルの新たなマラリア・イニシアティブを立ち上げ た。5 年間で 6 億 6 千万ドルの世界的な平和活動イニシアティブ等を通じ て、紛争の予防及び緩和に引き続き取り組む。 日本 今後 5 年間の ODA 事業量について、100 億ドルの積み増しを目指す。今 後 3 年間でアフリカ向け ODA を倍増することにコミットし、また、今後 5 年間で 50 億ドルの「保健と開発に関するイニシアティブ」を立ち上げた。 日本は、アフリカ開発銀行と連携し、 「アフリカの民間セクター開発のため のイニシアティブ」の基金に対し、今後 5 年間で 10 億ドル以上を供与す る。 カナダ 2001 年から 2010 年に国際的支援を倍増し、2003/4 年から 2008/9 年に アフリカ向け援助を倍増させる。さらに 2005 年の予算により、主にアフ リカが影響を受けている疾病と闘うため 3 億 4,200 万加ドルが追加的に供 与された。2 億加ドルのアフリカのためのカナダ投資基金は、民間投資に 対して官民の危険負担資本を供与する。また、カナダは、ダルフールにお ける AU の努力に対して 1 億 9,000 万加ドル及び人道上の要請に対して 3 9,000 万加ドルを供与する。 ロシア HIPC イニシアティブへの 22 億ドルの債務救済を含め、アフリカ諸国が負 う 113 億ドル相当の債務を削減、また削減へのコミットを行った。これら に加え、ロシアは、HIPC 諸国の非 ODA 借款による全債務残高を帳消しに することを検討している。これにより、これらの諸国の債務救済額は 7 億 5 千万ドル増加する。 (イタリックはアフリカについて) アフリカ支援: アフリカに関する成果文書によると、アフリカは過去 5 年間でサブサハラ・アフリカの 3 分の 2 以上の国が民主的な選挙を実施、インフレは 10 年前の 5 分の1の水準、過去 10 年 間での 16 のアフリカ諸国の成長率は平均 4%以上であり、どの先進諸国よりも高い。長く 続いてきた紛争は終結に向かいつつあり、G8 は今がアフリカにとってその課題への対処と その機会を現実のものにする好機としている。 アフリカの指導者達は個人的なコミットメントとして次を示した。貧困削減及び経済成 長の促進のための計画を推進し、透明性及び良い統治を深化させ、民主的制度及びプロセ スを強化し、汚職に対して完全に不寛容であることを示し、アフリカ内の貿易への全ての 障害を除去し、また、大陸全体に永続的な平和と安全を実現する。 一方、G8 は具体的に以下をコミットした。1) アフリカの平和維持部隊がアフリカにおけ る紛争をより良く抑止、予防及び解決することができるよう、それら部隊に対して追加的 な資金を供与する。2) より強い民主主義、効果的な統治及び透明性に対して拡充した支 援を供与し、汚職と闘い、奪われた資産を返還することに貢献する。3) 保健及び教育 への投資を促進し、HIV エイズ、マラリア、結核その他の致死性の疾病と闘うために 行動する。4) アフリカの貿易のための能力の構築の支援及びビジネスに必要なインフ ラへの追加的な投資の結集等により、成長を促進し、投資環境を改善し、また、アフリ カにとって貿易が役に立つようにする。 資金援助については G8 諸国が 2010 年までにアフリカ支援を 250 億ドル増やして、2004 年実績から倍増させることに合意した5(各国の対応は上記表の中のイタリックで記載され たとおり)。その資金源として G8 及びその他の国々のうちいくつかの国々は、国際金融 ファシリティー(IFF)6、航空券への連帯徴収及び IFF を含む革新的資金調達メカニ ズムを進展させるとし、その作業部会は、これらのメカニズムの実施について検討する 5 6 Steve Radelet, Center for Global Development, エコノミストによれば、このような増額は G8 のアフリカに対する 大きな変化だとしながらも、増額の提案とその実施は異なると注意を喚起している。また、Kumi Naido of South Africa, chairman of the Global Call to Action Against Poverty も早くもその実行性に疑問を提示している。 (Washington Post, 10 July 2005) フルスケールの IFF ではなく、その一部でパイロット的に International Finance Facility for Immunization(IFFIm) として、予防接種のために次の 10 年で追加的に 40 億ドルを国際金融市場で調達し、現在と 2015 年の間に 5 百万の 子供を死から守るとしている。http://www.iffim.com または、http://www.grips.ac.jp/csids/news/issue66.pdf 参照 4 としている。G8 は世界銀行が、G8、その他のドナー及びアフリカの間のパートナーシ ップを支援することに主導的役割を果たし、追加的な支援が効果的に調整されることを 確保することに貢献することに合意した。 日本は前記表の他、1993 年にアフリカ開発会議(TICAD I)を開催して以降、アフリ カのオーナーシップ(自助努力)と国際社会とのパートナーシップの重要性を提唱しア フリカに関する国際的な議論を主導するとし、2008 年には TICAD IV を開催予定して いる。その他、 「平和の定着」に向け、人間の安全保障を重視する支援を拡充7。アフリ カでの「緑の革命」の実現と農村の暮らしの向上の支援、アフリカ諸国の貿易/投資の 促進のための包括的な支援、アジア・アフリカ協力の強化をするとしている。アフリカ の重債務貧困国に対する債務救済は、総額約 49 億ドルで全債権国中最大級である。 アメリカは援助額について、ブッシュ大統領は「アメリカはサブサハラ・アフリカへの アメリカの支援を 2000 年-2004 年の間に 3 倍にした。2010 年までに 2004 年と比較して これを 2 倍にする」と述べている。しかし、CGD の報告書8によれば、アメリカのアフリカ への ODA(2 国間と多国間を含む)の増額は 2000 年-2004 年の間では 3 倍ではなく 2 倍 である($2.1billion -> $4.3billion)。なお、2 国間援助だけで見ると 3 倍は正しい ($1.1billion ―> $3.2billion)。また、このコミットメントは 6 月 30 日に既にブッシュ大 統領が行ったものを繰り返して述べたもので、今回のサミットで初めてお披露目したもの ではない9。 アフリカへの援助に占めるアメリカの割合は、8%(1996 年)、16%(2000 年)、21%(2004 年)と増加し、これは、全アフリカ向け援助額の 5 分の 1 がアメリカからの援助となって いる(ブッシュ政権は 4 分の 1 と主張している)10。また、アフリカ人 1 人当たりでは$6 (2004 年)で、これはヨルダン人 1 人当たりの 30 分の 1、イラク人 1 人当たりの 20 分の 1、アフガニスタン人 1 人当たりの 4 分の 1 に過ぎない。なお、アメリカのアフリカへの援 助総額はペンタゴン予算の 1%に過ぎない。 アフリカ・コミッションの提案によればアフリカへの援助は徐々に増やして 2010 年まで に年 500 億ドルとなるようにとしている。その理由として、Bob Geldof11がアフリカの政府 アフリカで現在活動中の 8 つの PKO の活動資金全体の 20%は日本が貢献。2004 年度は 5.5 億ドルを拠出。西部アフ リカ地域、太湖地域及びスーダン、ソマリア等の 14 カ国を対象とした総額約 5,000 万ドルの「平和の定着」支援を実 施。2005 年 1 月のスーダン南北包括的平和合意成立を受け、4 月に 1 億ドルの支援を南北双方に実施する方針を発表 し、既に 1,000 万ドル実施済み。「新地雷政策」に基づき、スーダン、アンゴラ、今後における地雷対策強化。 8 CGD Report, US Pledges of Aid to Africa: Let’s Do the Numebrs, Steve Radelet and Bilal Siddiqi, July 2005 より。 9 Faryar Shirzad, U.S. Deputy National Security Advisor for International Economics, 既に述べられたコミットメ ントの再度の表明。 10 CGD Report, 同上 7 11 Bob Geldof は the impresario of the Live 8 concerts でかつ Commission for Africa の委員の一人 5 関係者から聞いたところとして「これ以上援助を吸収することなどできない。我々(アフ リカ)の政府(統治)機構はとても弱いんだ」と述べている12。 気候変動: 懸案となっていたアメリカのコミットメントは明確には引き出せなかったが、少なくと も、ブッシュ大統領は地球温暖化には「人間の活動が影響している」との考えを示し、あ る程度議長国イギリスの主張を受け入れる姿勢を示した。しかし、同時に「京都議定書は 機能しなかった」と述べ、温室効果ガス排出抑制のための数値目標導入に消極的な姿勢を 示した。欧州や日本などの京都議定書を批准した国は同議定書へ引き続きコミットし、今 年後半にモントリオールで開催される国連気候変動会議において、気候変動と取り組むグ ローバルな努力を前進させ、京都議定書以降の枠組み作りにつなげる意向である。 より詳細には気候変動への対応、省エネ、クリーン・エネルギーの促進、持続可能な開 発の達成における共通の目的を設定し、温暖化ガス排出を減少させ、そのために先進国が リーダーシップを取る必要性について合意した。クリーン・エネルギー技術のために市場 を発展させ、開発途上国が入手し易いようにし、脆弱なコミュニティーが気候変動の影響 へ適応するのを助ける措置を取る。新興経済諸国のエネルギー需要に答えると同時に、ク リーン・エネルギー技術に関する国際協力へのアプローチを提唱した。 日本は引き続き「3R」、すなわち、Reduce(廃棄物は削減していこう)、Reuse(使える ものは資源として再利用しよう)、Recycle(循環型の社会、ゴミゼロの社会、ゼロエミッシ ョンの社会)の取り組みを国際的に進めており、小泉首相はケニアのノーベル賞受賞者マ ータイ女史が感銘を受けた日本語の「もったいない」という言葉の概念をサミット中に紹 介して、日本の環境保護活動を訴えた。また、環境保護と経済発展を両立させそのための 技術の活用、違法伐採対策の強化などを主張した。 市民参加 1985 年に資金収集を目的として行われたライブ・エイドとは異なり、7 月 6 日には G8 メンバー国の各地で、また、7 月 6 日にはエディンバラでライブ・エイトとして大規模なコ ンサートを行った。今回のライブ・エイトは G8の国民の関心を世界の貧困に向けさせ、 彼らが G8 の各政府に重債務貧困国の債務帳消しなどを働きかけることを目的としていた。 また、Global Call to Action Against Poverty の一環として、日本では「ほっとけない: 世界の貧しさ」キャンペーンが実施されている。具体的には、6 月にロンドンで行われた G7 財務省会議に併せて、日本では財務省前での重債務貧困国の債務帳消し、フェアトレー ドプロモーション、ODA の増額を呼びかけ、また、一本定価 300 円のホワイトバンドの販 売(売れ行き好調で品不足気味)、2008 年日本で開催される予定のサミットに向けて日本で 12 Washington Post, Paul Blustein, July 10, 2005, After G-8 Aid Pledges, Doubts on ’Doing It’ 6 世界の貧困問題を重点課題として取り上げるように盛り上げていく予定となっている。 農業補助金 アフリカに住む人々の生活を支えているのは農業であり、先進国が農産物の市場を開放 する一方で、農産物の輸出補助金をなくさなければアフリカの貧困はなくならない。G8 は 原則農業補助金をなくすことで合意しているが、今回のサミットでは具体的な日程を決め ることはなく、12 月の WTO 香港閣僚会議にまで持ち越されたことにコフィー・アナン国 連事務総長は遺憾の意を表明した。また、UNDP 長官のマーロック・ブラウンも援助の増 額と比較して、不公平でコストのかかる農業補助金の全面廃止に向けて先進国及び途上国 の人々が圧力をかけなければならないと述べている。先進国がどれだけ農業問題で譲るこ とができるかは WTO 香港閣僚会議を重要な足がかりとして、G8 は 2006 年までに WTO ドーハラウンド交渉を妥結すべく取り組んでいくことに同意している。 所感 今回はブラジル、中国、インド、メキシコと南アフリカがアフリカ支援と気候変動につ いて議論するために参加していた。これら経済成長の高い国々は遠からず重要な援助国に もなるであろう。既に、中国は 2000 年から中国・アフリカ協力フォーラムを展開し、アフ リカ支援を積極的に押し進めている。今回のサミットでアフリカ・パートナーシップ・フォ ーラムの強化が合意されたが、次回以降のサミットではこれら新興経済諸国の援助活動も 含めて、アフリカと開発について包括的に議論されることが望ましい。 今回の議長国は各国の援助額アップに対する言質を取ることに拘り過ぎていた感がある。 既に、パリハイレベルフォーラムでも取り上げられているように援助の効率性、有効性向 上も合わせて議論されてもよかったのではないであろうか。また、援助受け手の吸収能力 にも懸念が残る。 「アフリカへの支援増大は必要ない」という意見はどこからも上がってこないであろう。 債務削減により返済に充てていた分が教育・保健医療などにまわり、MDGs 達成に貢献す ることは間違いなさそうである。しかし、貸し出した方の責任は十分に問われたのであろ うか?冷戦期下の政治的理由で貸し出しが実行されていたのであれば、無理もなかったの かもしれず、更に、当時貸し出しを担当した人たちは既に引退しているのであろう。 同様に今回のサミットでの各国首脳による重要なコミットメントを 2010 年に現職として 見届ける者はいないであろう。そうであればこそ 2010 年に向けてコミットメントをモニタ ーし、レビューしていく仕組み創りを検討しても良いのではなかろうか。 7 関連 Web Site 外務省: G8 グレンイーグルズ会議 首相記者会見、声明文その他(仮訳) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/gleneagles05/index.html G8 グレンイーグルズ会議 議長総括(全文仮訳) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/gleneagles05/s_14.html グレンイーグルズ・サミット(ODA の中期的な目標) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/kaigi/gleneagles_cm.html G8 グレンイーグルズ会議 公式サイト(英語) http://www.g8.gov.uk/servlet/Front?pagename=OpenMarket/Xcelerate/ShowPage &c=Page&cid=1078995902703 世界銀行: ポール・ウォルフォウィッツ世界銀行総裁ステートメント http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/NEWS/0,,contentMDK:2057689 9~menuPK:34463~pagePK:34370~piPK:34424~theSitePK:4607,00.html UNDP: マロック・ブラウン総裁コメント http://www.undp.org/dpa/pressrelease/releases/2005/july/prMMBG8080705.htm IMF: デ・ラトIMF専務理事ステートメント http://www.imf.org/external/np/sec/pr/2005/pr05159.htm DFID: G8: “Significant progress” for Africa http://www.dfid.gov.uk/news/files/2005/g8-outcomes.asp G8 Africa Action Plan progress report http://www.dfid.gov.uk/news/files/africa-action-plan.asp Center for Global Development: G8 の評価 http://www.cgdev.org/G8.cfm NGOs: Global Call to action against poverty http://www.whiteband.org/national/jpn/Country ほっとけない キャンペーン http://www.hottokenai.jp/event/index.html 8
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