モンテレー開発資金国際会議の成果 - FASID 財団法人国際開発機構

2002年4月4日
FASID国際開発研究センター
秋山 孝允・大原 淳子
最新開発援助動向レポート No.2
モンテレー開発資金国際会議の成果
3月19日からメキシコ・モンテレーで開催されていた開発資金国際会議は、22日夜
「モンテレー合意」を採択して閉幕した。合意は、途上国の貧困問題に対して今後どのよ
うに対処していくのかについて総合的にその方策をまとめたもので、先進国には ODA の
増額と貧困国の債務緩和を呼びかけている。合意の大きな焦点は、国連と世界銀行が20
15年に向けた国際開発目標を達成するため、援助を大幅に増額する(援助倍増)とした
点であった。
「モンテレー合意」のキーポイントとして、次の6つがあげられる。
1.援助増額
2015年に向けた国際開発目標を途上国が達成するためには、国連、世界銀行そ
れぞれの計算によると、ODA を500億ドル増額、つまり現拠出額を倍増させる必
要があると言われている。このたびの会議では、1975年の国連総会決議で定めら
れた「先進国は国民総生産(GNP)の0.7%を ODA にあてる」という目標の達成
に向けて先進国は努力するように求められたが、もし経済協力開発機構(OECD)の
開発援助委員会(DAC)加盟先進22カ国がすべてこの比率で ODA を供与したとす
れば、それは現拠出額の約3倍に達し、2倍を大幅に上回る額となる。
2.債務救済
援助資金が直接的に途上国の持続的成長と開発のための資金として使われるように
するためには、まず途上国の債務を救済することから始めなければならない。特に重
債務貧困国(HIPCS)の負債を救済するためのプログラムは、即時実行されるべきで
ある。
3.貿易
貿易の自由化と同様に、国際的なルールに基づくオープンで平等な多角的貿易シス
テムは、世界中の開発を促進させることができる。先進国は、輸入制限や自国の農作
物等への補助金を撤廃し、途上国からの輸出品に対して市場を開放することが重要で
ある。今回の合意文書では、WTO メンバー国に対して、昨年11月のカタール・ド
ーハにおける WTO 会合にて作成された「国境における貿易障壁の撤廃」のためのア
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ジェンダを実行するように奨励している。
4.被援助国の役割
グッド・ガバナンスは持続的開発にとって必要不可欠である。健全な経済政策の実
施、民主化の促進、インフラの改善は、開発のための基礎となる。被援助国はあらゆ
るレベルでの汚職の撤廃を優先的に行わなければならない。
5.民間資金の重要性
国際金融が安定している状態においての民間国際資本の流れ、特に外国直接投資
(FDI)は、国内・国際開発にとって非常に重要な要素である。アナン国連事務総長
は開発資金に対する投資の割合が ODA を大幅に上回っていることから「外資の導入
が開発に重要な役割を果たす」と言っている。
また、各国は透明で安定した投資環境を築くよう努力しなければならない。
6.金融改革
国際的な通貨、金融、貿易システムの結合力、ガヴァナンス、一貫性は、緊急に強
化される必要がある。国際金融構造の改革は、より透明性を高めながら継続されてい
かなければならない。そのひとつの目的は、開発と貧困根絶のための融資を強化する
ことである。
モンテレー合意は、途上国の貧困問題をいかに対処するかについて総合的な方策がまと
められた点で高く評価されるべきであるが、その一方、途上国や非政府組織(NGO)の間
では、合意に即効性のある具体的な方策が盛り込まれていない点において懸念の声があが
っている。NGO の多くは、世界銀行の開発援助アプローチに対して不満を抱えており、
世界銀行は貿易の自由化や貧困削減のための役割を民間企業に委ね過ぎであり、そこでは
途上国主導の開発ではなく援助国主導の開発が行われていると非難している。ある NGO
の代表は「モンテレー合意は単にワシントン合意にソンブレロ(メキシコの帽子)をかぶ
せたようなものだ」と言っている。
米国の動き
ブッシュ米大統領は22日、2004年の会計年度(2003年10月―2004年9
月)から3年間で援助を100億ドル増額させ(現拠出額がグロスで約100億ドルであ
るから約135億ドルに達する)、その後は拠出額をさらに増額し毎年約150億ドルの
援助資金を拠出する(GNP 比では0.15%レベルになる)方針を表明した。しかし、
米国が援助を提供する条件として、途上国側に汚職追放、人権・教育の改革、衛生状態の
改善、市場の開放を要求している。こうした条件が満たされないかぎり、援助は行わない
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と断言した。こうした米国の対応は「新しい開発契約」と呼ばれている。
先進国からの援助が被援助国の独裁者に渡り、それがその後軍隊の資金に回されたり、
個人的な娯楽に使われてしまうケースがしばしば発生しているが、こうしたファンジビリ
ティーの問題を解決するために、ブッシュ大統領は「ミレニアム・チャレンジ・アカウン
ト」の創設を発表した。これは、インフラの建設や基礎教育の拡充、衛生状態の改善、市
場の開放などにおいてよいパフォーマンスをあげている国に対しては援助資金を増額し、
一方、援助資金を浪費したり改革の失敗を繰り返している国に対してはまったくもしくは
ほとんど援助を行わないとするものである。こうした制度を取り入れることによって、ブ
ッシュ大統領は被援助国において援助資金が健全かつ有効に使われるためのフィナンシャ
ル・インセンティブを与えようとしている。よいパフォーマンスを見せている国に援助資
金を集中的に流そうという政策は、世界銀行でも採用されている。
また米国は、貧困国に借款による援助を行っても貧困国はそれを返済することができず
負債がどんどん積み重なってゆく現状をあげて、援助を基本的には無償資金供与の形式で
実施していくと表明した。他の先進国にも借款ではなく無償援助を拡大するよう呼びかけ、
また国際開発協会(IDA)の借款の50%を無償援助にするように提案している。この案
に対しては、欧州諸国、日本は反対の立場をとっている。
米国はこれまで援助拡大に対して消極的だったが、援助増額を決めた理由は、米国同時
多発テロで、「貧困がテロ組織の勢力を広げる温床になりかねない」との認識が高まり、
ODA を通じて途上国の貧困問題を解決しようと考えるようになったからである。
しかしながら、米国の援助の大きな問題点はエジプトなどの外交政策を進める観点にと
らわれすぎていることである。世界銀行のレポート(Assessing Aid, 1998)でも述べられ
ているように、米国の援助効果は疑問視されている。
欧州の動き
モンテレー開発資金国際会議の直前、欧州連合では2006年までに援助を現在の約3
20億ドル(欧州共同体からの約50億ドルを含む)から約390億ドル(70億ドルの
増額)に増額することに合意した。
欧州連合の援助額平均が GNP の0.33%であるのに対し、ドイツの援助額は GNP
の0.27%であったことから、会議前ドイツは他の EU 諸国から中期目標として援助額
を0.33%まで引き上げるよう圧力をかけられ、その結果シュレーダー・ドイツ首相が
援助増額を約束したことから、このたびの会議において EU 諸国は一団となり援助増額を
表明するに至ったのである。
日本の動き
日本は OECD の DAC に加盟する先進22ヶ国のなかで、91年から10年連続で最大
の ODA 拠出国である。GNP 比においても0.35%と欧州連合の平均0.33%を上回
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っているが、2002年度予算案では ODA 予算10%削減となっている。
開発資金国際会議において、米国や欧州連合が援助増額を表明したのに対し、
日本は ODA
10%削減で会議に臨むこととなった。ODA 予算削減に踏み切った理由としては、現在
の厳しい財政事情に加え、ODA 事業の決定経過や具体的な成果が見えてこないことなど
に対する国民の批判が高まったことが考えられる。また米国が他の先進国に対して借款で
はなく無償援助を呼びかけているが、日本の援助は依然として借款に偏っており、以上の
点を鑑みると、日本の開発援助政策は量、質ともに改善される余地があると言えよう。
援助増額に対する議論
国連開発計画(UNDP)のブラウン総裁は、米国、欧州連合の ODA 増額発表を受けて、
「ODA 拠出額の増額分は、2006年時点で米国の50億ドル、欧州連合の70億ドル
を合わせて合計120億ドルになる。現拠出額520億ドルから20%以上の増額となり、
大きな前進である」と言っている。
またその一方で、援助機関はしばしば援助の量に心を奪われがちで、援助の質を軽視し
てしまう傾向がある。途上国の開発においてもっとも重要なことは、健全な途上国政府、
政治家を擁立し、開発プロジェクトの失敗に対して責任をとらせるとともに、背任行為や
開発資金の持ち逃げをする者を処罰する制度を確立させることである。「被援助国に対す
る援助が増額されれば、被援助国の開発は促進される」とは一概には言えないことを、特
に米国は強調している。増額された援助を有効に使うためには、開発プロジェクトの結果
を重視し、過去のプロジェクトの失敗から学び、また被援助国政府のアカウンタビリティ
ーを向上させることが必要不可欠であろう。この分野の研究は世界銀行でも行われている
(Role and Effectiveness of Development Assistance, 2002)
。
米国と欧州連合は ODA を大幅に増額することを表明してはいるが、米国も欧州連合も
被援助国の政策が良好で制度がある程度整備されていなければ援助資金は有効に使われな
いという見解で一致している。2015年に向けた国際開発目標を全世界の水準で達成す
るためには、ひとつの方法として、中国、インド、ブラジルなどの比較的よい開発パフォ
ーマンスをあげている国々に対して援助を集中させることがあげられる。しかしながら、
政策および制度が脆弱な途上国に対して、どの程度援助を増額することができるのか、ま
た増額したとしてもその援助資金がこれらの途上国の国際開発目標達成に貢献することが
できるのか疑問が投げかけられている。
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