投資とキャッシュフロー -中国上場企業による検証- 関西大学商学部招聘研究者・上海財経大学金融学院准教授 馬文傑 2009年7月29日(水) PM4:30-6:00 福岡大学経済学部 第30回先端経済研究センター研究会 注:この資料は郭麗虹、馬文傑の共同研究に基いて作成したものである。 内容 研究背景 研究目的 研究方法 データの説明 分析結果 まとめ 研究背景(1) Pecking orderの理論によると、投資家と企 業の間情報の非対称性が存在するため、企 業が資金調達する時に以下の順番を取る。 内部資金、負債による資金調達、株による資金 調達 推論:企業が財務制約を受ける場合、投資 対キャッシュフローの敏感性が高くなる。 研究背景(2) 現実はそうなっているのか。 Fazzari(1988)は、配当支払い率を用いて企業が財務制約を受ける 度合いを判断する。 結論:財務制約を受ける度合いが高いグループはそうでないグループ に比べ、投資対キャッシュフローの敏感性が高い。 Hoshi(1991)は、日本企業のデータを使って実証分析をした。 日系企業をメンバンクのあるグループとメンバンクのないグループに 分ける。 実証結果:メンバンクのないグループがをメンバンクのあるグループ に比べ、投資対キャッシュフローの敏感性が高い。 。Chapman( 1996) 、Goergen、Renneboog(2001)、Shin and Park (1999)は、それぞれオーストラリア、イギリス、韓国のデー タを使って実証分析し、同じような結論が得られている。 研究背景(3) 中国企業に関する実証分析: 先行研究の殆どは「投資対キャッシュフローの敏感性 は企業が財務制約を受けているかどうかを判断でき る」という結論に基いて、分析している。 財務制約と投資-キャッシュフロー敏感性の関係に関 する研究は、結論が分かれる。 Chow and Fung(1998)は、Fazzari(1988)の結論を支持する。 郭丽虹・金德环(2007)、连玉君・程建(2007)は、反対の結論を 得ている。 研究目的 以上の先行研究の分析にふまえて、本研究 は中国企業において、新たなデータと新た な実証方法を用いて、財務制約と企業投資 -キャッシューフロー敏感性の関係を再検 証する。 研究方法(1) 企業投資モデルの選択 本研究は、Bond and Meghir ( 1994 )のモデルを使う。 Iit 1Iit 1 2 Iit21 3Qit 1 variables related to cash flows it 財務制約を識別する方法 先行研究(Gilchrist and Himmelberg(1995)、Alti(2003)、 郭丽虹・金德环(2007)、连玉君・程建(2007)、Hoshi et al. (1991)、Whited(1992)など)では、配当支払い率、企業の 規模、格付、レバレッジ、企業と銀行との関係の緊密性 などを用いて企業をグループ分けしていた。 研究方法(2) 本研究は、以下の方法を用いて財務制約を受ける度合いを識別する。 筆頭株主の性質で分ける。筆頭株主が国家或いは国立法人である場合は 「国有企業」に、そうでない場合は「民営企業」に分類する。 「国有企業」:財務制約を受けにくい。 「民営企業」:財務制約を受けやすい。 TobinのQで分ける。1998年のデータを基準に、各企業をQの値で並び替え、 上位30%の企業を「高Q企業」を呼び、下位30%の企業を「低Q企業」と 呼ぶ。 「高Q企業」:財務制約を受ける可能性が高い。 「低Q企業」:財務制約を受ける可能性が低い。 レバレッジで分かる。1998年のデータを基準に、各企業をレバレッジの値 で並び替え、上位30%の企業を「高レバレッジ企業」を呼び、下位30%の 企業を「低レバレッジ企業」と呼ぶ。 「高レバレッジ企業」:財務制約を受ける可能性が高い。 「低レバレッジ企業」:財務制約を受ける可能性が低い。 研究方法(3) 以下の仮説を検証する: 仮説1:「民営企業」が「国有企業」に比べ、 投資-キャッシュフロー敏感性が高い。 仮説2:高Q高レバレッジの企業が低Q低レバ レッジの企業に比べ、企業投資-キャッシュフ ロー敏感性が高い。 仮説3:金融の引き締め期と緩和期に比べ、企 業投資-キャッシュフロー敏感性が高い。 本研究のオリジナリティ 企業が財務制約を受ける度合いを識別する ために、新しい分類方法を採用する。 ダイナミック・パネルデータを分析する際、 Arellano and Bond(1991)が提案した方法 を採用し、一致性且つ効率性を持つ推定量 が得られる。 データの説明(1) 分析対象:上海、深圳で上場した製造業企 業。 サンプル期間:1995年~2005年 ミスデータを取り除き、さらにサンプル数 が8より少ない企業のデータを取り除いた。 最終のデータセットは390社のデータから成 り立てる。 データ説明(2) 変数の定義: I it : 企業 i が t 年における投資 {t 年の(減価償却累計額+固定資産)-t-1 年の(減価償却累計額+固定資産)}/ t-1 年の固定資産 CFit :企業 i が t 年におけるキャッシュフロー {t 年の(減価償却累計額+未処分利益)-t-1 年の(減価償却累計額+未処分利益) }/ t-1 年の固定資産 DSit :企業 i が t 年における短期借入金 (t 年の短期借入金 - t-1 年の短期借入金)/ t-1 年の固定資産 DLit :企業 i が t 年における長期借入金 (t 年の長期借入金 - t-1 年の長期借入金)/ t-1 年の固定資産 データの説明(3) 変数の定義: WK it 1 :企業 i が t-1 年における純流動資産 t-1 年の(流動資産―流動負債-棚卸資産)/ t-2 年の固定資産 CASH it 1 :企業 i が t-1 年における現金 t-1 年の(現金+短期投資)/ t-2 年の固定資産 Qit 1 :企業 i が t-1 年におけるトービンの Q 値 (t-1 年の株式時価総額+総負債)/ t-1 年の総資産 記述統計量(全サンプル) 記述統計量(国有企業) 記述統計量(民営企業) 銀行貸付金利の変動 0. 18 0. 16 0. 14 0. 12 利率 0. 1 0. 08 0. 06 0. 04 0. 02 0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 年 「国有企業」と「民営企業」財務制約比較 I it 1Qit 1 2 D _ Pit 3 D _ P _ Qit it it i it i IID(0, 2 ), it IID(0, 2 ) 分析結果 まず、全サンプルで分析する。 このモデルは、ダイナミック・パネルデータモデルにな るため、LSDVは使えない。Arellano and Bond(1991) が提案した方法を使い、GMMで推定する。 I it 1 I it 1 2 I it21 3CFit 4 DSit 5 DLit 6WK it 1 7 CASH it 1 8Qit 1 it it i it i IID(0, 2 ), it IID(0, 2 ) 全サンプル 仮説1と仮説3の検証 仮説1と仮説3を検証するために、以下の モデルを採用する。 I it 1 I it 1 2 I it21 3CFit 4 DSit 5 DLit 6WK it 1 7CASH it 1 8Qit 1 9 D _ P _ CFit 10 D _ T _ CFit 11 D _ P _ CASH it 1 12 D _ P _ WK it 1 13 D _ T it it i it i IID(0, 2 ), it IID(0, 2 ) 全サンプル 民営企業 仮説2を検証するため、以下のモデルを採用する。 I it 1 I it 1 2 I it21 3CFit 4 DSit 5 DLit 6WK it 1 7CASH it 1 8Qit 1 9 D _ hh _ CFit 10 D _ ll _ CFit 11D _ hh _ CASH it 1 12 D _ ll _ CASH it 1 13 D _ T _ CFit it it i it i IID(0, 2 ), it IID(0, 2 ) 民営企業 国有企業 まとめ 民営企業が国有企業と比べ、企業投資-キャッシュフロー 敏感性が高い。 民営企業の中で、高Q高レバレッジの企業が低Q低レバ レッジの企業に比べ、企業投資-キャッシュフロー敏感性 が高い。 国有企業の中で、高Q高レバレッジの企業と低Q低レバ レッジの企業の間、企業投資-キャッシュフロー敏感性に 有意の差が見られない。 金融の引き締め期と緩和期に比べ、企業投資-キャッシュ フロー敏感性が高くなっていることが分かった。 以上の分析結果から、中国企業において、企業投資- キャッシュフロー敏感性は、企業が財務制約を受ける度合 いを反映されていると考えられる。
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