相続放棄住宅の空家問題

PPPニュース 2015 No.13 (2015 年 10 月 10 日)
相続放棄住宅の空家問題
2015 年2月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」
(以下「空家特措法」)が施行となり、関
連規定が続く5月 26 日に施行されたことによって、特定空家に対する地方自治体の対応も本格始動
となったことは周知の通りである。空家特措法では、「空家等」の定義を建築物又はこれに附属する
工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他
の土地に定着する物を含む。
)と原則しており(特措法2条1項)
、さらに、問題がある空家を「特定
空家」とし「特定空家」とする条件として、①基礎や屋根・外壁などに問題があり、倒壊などの危険
があること、②ごみの放置などで衛生上有害なこと、③適切な管理が行われておらず著しく景観を損
なうこと、④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切なことを挙げている。
この特定空家とされた家の所有者に対しては、地方自治体は修繕や撤去の指導や勧告、命令ができ、
命令に従わなかった場合には、行政が強制的に撤去し費用を所有者に請求できる「代執行」も可能と
している。加えて、空家特措法では、空家の所有者を探すことを目的として固定資産税の納税情報の
活用を可能にして特定空家に関する都市、非都市部を問わず国内外を含めた遠隔地に居住する所有者
も含め把握をスムーズに行うことができる環境整備を行った。固定資産税や都市計画税の住宅用地特
例で税負担が軽くなる制度があることで、所有者が空家を放置する傾向が否定できないことに対し、
特定空家と認定された場合には税制上の優遇措置の例外となる等対処が行われている。
しかし、こうした空家特措法の取組みに対して、新たな壁が生じている。それは、相続放棄された
住宅に対する特定住宅としての対応である。具体的には、相続人が特定でき地方自治体によって特定
住宅として勧告、命令を行っても、当該相続者が相続放棄を行っている場合、相続放棄者が管理者と
しての当事者意識がない場合が多いことである。2013 年段階で相続放棄件数は 17 万件程度に達して
おり、10 年前の 14 万件から増加し、今後、さらに増加する傾向にある。
この問題の第1は、相続放棄制度に関する認識と制度的な情報共有が十分に整っていないことであ
る。相続放棄は、相続人が家庭裁判所に申述し受理されることで有効となる。民法上の規定では、相
続人が相続放棄を行っても当該相続財産に対する管財人が選任されるまで、当該相続財産を管理する
義務が規定されている(民法 940 条)
。そのため、相続放棄者は相続人全員が放棄した場合には、利
害関係者や検察官と並んで当該相続財産に対する管理者選任の申し立てなどを行い、相続財産の管理
者を選考する手続きを行う必要がある。加えて、相続財産の管理人は、相続人の捜索・不存在確定や
相続財産の清算等を任務としており、相続財産たる空家の修繕等維持管理は行わないため、最終的に
相続財産が国庫帰属するまでの間、相続放棄者が相続財産の管理を行うことを想定している。しかし、
残念ながらこうした相続放棄に関する基礎的な事項を当該相続人が理解していない場合が少なくな
く、相続放棄している実態も家庭裁判所から地方自治体等に情報提供するルートも形成されていない。
なお、相続財産管理人が選任されていない場合は、前述のように民法 940 条に基づき相続放棄者が相
続財産の管理者となり、空家特措法上も管理者としての適切な管理義務を負うことになる。相続放棄
者と地方自治体間で意識の齟齬が生じる結果となっている。空家対策の所管官庁である国土交通省等
国の機関が積極的に制度の情報共有を図る必要がある。
第2の問題点として、非都市部で地価が低い地域では、転売等の条件が悪く、かつ更地ではなく古
家が存在するとその取り壊しの費用も負担となり、相続放棄等を選択するケースも少なくないという
ことがある。都市部で土地取引が頻繁に発生する地域であれば、不動産会社等市場の機能によってあ
る程度改善することが可能ではあるものの、過疎地域等の非都市部では市場機能が働かず、政策的補
完を積極的に行うことが必要となっている。今後、一戸建て住宅だけでなく都市部集合住宅(マンシ
ョン等)でも同様の問題が発生することが見込まれ、高齢化とともに縦型の限界集落、そして縦型の
集合空家に対する対処も視野に入れる必要がある。
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