巻 頭 言 無線通信機器製造現場に求められるものは What is Now Demanded of Radio Communication Equipment Manufacturing Plants のような環境下にある通信機器は,緊迫した状況にあっても使 う人が信頼し,その通信に意思疎通のすべてを託す事ができ るものでなくてはならない。すなわち, 「いつでも,どこでも, そしてどれでも,同じようにきちんと動いて使える機器」でな ければならない。 当社で機器の製造に従事する者はこの事を常に認識し,装 置の性能と堅牢性を担保した製品をお客様に提供していかな ければならないと考えている。 取締役 常務執行役員 生産担当 当社の先人たちは,自らが開発する製品の心臓部がどこであ 軍 司 明 允 り,どのような作り込みをしていけば極限の環境においてもそ Yoshimasa Gunji の性能・機能を確実に発揮できるかを体で会得していた。そし Managing Director Production て無線で最も繊細さを求められるアンテナ,高周波フィルタ, 信号処理を左右するSAWフィルタ,回路の安定性を決定する プリント基板,専業メーカーより調達できるこれらのキーコン ポーネントをあえて自社生産することで,ものづくりとお客様 通信という言葉の起源を調べてみると, 「通い合って(通じて) からのフィードバックによって培われたノウハウをここに凝縮 信頼を深める(信(よしみ)を通わす) 」となっており,通信 させてきた。加えて,板金・機械加工,処理・塗装,さらには とは相互の信頼を築く為の意思,すなわち情報のやり取りと言 組み立て配線までも緊密な関係をもつ日本無線グループ内生 える。その手段は有史以前から徐々に発展し, 近代における様々 産にこだわり,それを次の世代に伝授し性能と堅牢性を備えた なそして急激な技術的発展によって,より多様で利便性の高い ものづくりを継承してきたのである。 ものへと進化してきた。 このようにして製造された製品は,お客様に受け入れられ世 このような通信の発展の中,当社は1915年の創立以来,多く の中で真に役立てば,それが評価として利益という数字に表れ の無線通信機器を世の中に送り出すことで,見えない点を,無 てきた。この数字は真に役に立つ製品開発へのお客様の期待 線と言う見えない線で確実に結び,無線通信による情報のやり の表れであり,わが社に対する期待値でもある。まさに当社製 取りや,レーダーのように相手からの微弱な電波の反射を確実 品へのお客様の通信簿と考えている。 に捕え,見えない領域の情報提供をする無線通信機器のリー お客様の期待に応えて行く為には,製品のそのものの技術革 ディング・カンパニーとして歩んで来たと自負している。 新に加え,信頼性を担保する為の製造技術の革新が不可欠で あり,ものづくりの技術革新があってこそはじめて安価で信頼 時として生命への危険が及ぶ過酷な環境に急変する海洋を 性の高い機器を供給していくことが可能になる。製品そのもの 航行する船にとって,通信は極めて重要な意味を持ち,高い信 の技術開発の進展に伴って,その製品を作る製造技術も脱皮 頼性が求められる。公共安全・消防の無線通信システムもま し進化しなければならない。求められる製造技術はきわめて多 た住民の安全と安心のために瞬断も許されない高い信頼性を 岐にわたり,しかも同時に経済性が要求されることとなるが, 備えていなければならない。このような分野においては,当社 これに応えるためには何代にもわたる先人たちが受け継ぎ, が製造する製品によって伝えられる情報の欠落や歪みが正し 我々の世代にも叩き込まれた,どのような環境下においても確 い意思疎通を阻害し,状況判断を狂わせることがある。言い換 実な動作をする堅牢なものづくりの精神を愚直に守り通し,社 えれば通信の成否が場合によっては生命の危険や財産の欠損 会に貢献できるコストで製造をしていく必要があるだろう。 をもたらす結果に至ってしまうことになる。 繰り返しになるが,お客様に受け入れられる製品を継続して 加えて,当社が製造する製品は居住空間のように穏やかな 製造していく為には,製造現場の我々が当社の先人たちが持っ 環境下ではなく,厳しい気温と吹雪にさらされる山頂の無人中 ていた技術革新のスピリットとして創意無限のDNAを受け継 継局,極寒の海を航行する船のマストに取り付けられて安全を いでいることを肝に銘じ,それを今一度呼び覚まして,ものづ 見極める船舶用レーダー,あるいは噴火口近くに投下される火 くりの技術革新に無限の努力をしていかなければならないと考 山観測装置のように,極限に近い環境下において,意思疎通と えている。 安全確保の判断情報を確実に提供する使命をおびている。こ 日本無線技報 No.56 2009 - 1
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