神経構成理論とは何か 1 .「運動の発達が神経の発達と密接な関係がある」 運動の発達には順序があり、神経の発達にも当然順序があります。一般に乳幼児の 発達を見た時に、3ヶ月で首が座ったとか、寝返りをしたのは何ヶ月であるのか、1 才で歩き始めたか?ということが重要です。そのような運動の発達は、神経の発達と 密接な関係があります。手を振って歩くということと這うということがとても重要な のです。 2 .「個体発生は系統発生を繰り返す」 個体発生とは1人の人間が人として生まれて大きくなっていくまでの成長を指しま す。昔、生物の教科書で人間の胎児と猫やウサギの胎児が非常によく似ていることを 見られたことがあると思います。あの受精の瞬間からから始まったビッグバン(細胞 分裂)は急速な勢いで、魚から哺乳動物に、そして人間になる進化の歴史を垣間見れ ます。そして、その進化の歴史は実は出産後も続きます。テンプル・フェイは脳外科 医でしたので人間の脳が幾層にもなっていることに気づきました。これはコンピュー ターとの大きな違いです。自動車のチェンジ・レバーのように最初はロー、次にセカ ンド、サード、トップそしてオーバー・トップとなります。大きなトラックなどには 5段階変速や6段階変速のものもありますが神経構成理論では、脳を7段階と考えて います。 7層の段階に一番下が延髄です。脊髄の上に位置します。脊髄が傷つきますと、下 半身が不随になったりしますが、脳の機能は正常であることが多いです。延髄は生命 の源といえると思います。この延髄の運動が魚が泳ぐような体全体のバタバタした動 きをします。延髄の上を脳橋と呼び 、「橋」と書きます。脳橋の運動は腹這いです。 動物では両生類にあたります 。蛇や蛙のようにお腹を床に付けて這うという行為です 。 海から陸に上がった魚類は、両生類となり、この次は爬虫類です。そして恐竜の登場 です。爬虫類の脳は、中脳と呼びます。今までお腹を地面に付けていたものを4本足 で重力に逆らい身体を地面から持ち上げます。いよいよ哺乳動物の登場です。哺乳動 物には大きな脳(大脳)があります。蛙やトカゲの目は頭の上に飛び出ているように 見えますがこれは大脳がないために目の上の脳が小さいからそのように見えるので す。 神経構成理論では大脳をさらに4つに分けています。発生期皮質・原始皮質・初期 皮質・成熟皮質の4つです。哺乳動物でいえば、発生期皮質はイヌやネコです。歩け ますが手は肩より上になります。原始皮質は、猿です。木に登り木から木にぶら下が り移動していく中で前脚が進化し手となりました。しかしまだ手を交互に振って歩く ことは難しく、手を前にだらーっと下げたままの歩行です。初期皮質はいよいよ人類 の登場です。両手を交互に振って歩くことが出来ます。初期皮質を古皮質、古い皮質 と呼ぶのが一般的です。三歳から六歳小学校入学までにはごく自然のうちに人は両手 を交互に振って歩くことが出来るようになります。そして大脳はさらに分化し、右の 脳と左の脳が、左脳と右脳に分化して行きます。右手と左手が、右足と左足が、どち らか片方がより優勢になり、脳もまた対応する側の脳が優位になります。 3 .「感覚の重要性」 人間が動物と異なる3つの特徴は、2本足で歩くことと話すことそして手を使うこ と、と言われています。手を使うことは、火を使うこと・道具を使うこと、とする学 者もいます。歩くことのリハビリを理学療法(P・T)と呼びます。話すことのリハ ビリを言語療法(S・T)と呼びます。また手を使うことのリハビリを作業療法(O ・T)と呼びます。しかし、ここで神経構成理論では、感覚の重要性を訴えます。 人間の3大特徴である、歩くことも、話すことも手を使うこともすべて脳からのア ウトプット(出力)なのです。脳そのものに良い刺激を与えるには脳の中に入ってい く側の入力(インプット)が大切なのです。 知的な遅れによって言葉の発達に遅れがある子ども達の多くは、耳の検査に行って も異常がない、という検査結果になることが多いのです。実は 、「見ていても見てい ない。聞いていても聞いていない 。」ことがあるのです。例えば、難聴にも二種類あ り、伝音性の難聴と感音性の難聴です。伝音性の難聴は、内耳に音が届くまでのとこ ろの難聴です。伝音性でしたら補聴器をつければ、多くの場合聞こえは改善します。 しかし感音性の難聴は、内耳までは確かに音が伝わっているのですが、耳から脳に正 しく伝わらなかったり、あるいは脳に伝わっていても理解するところに困難を持って いることが多いのです。この感音性の難聴は補聴器をつけても解決しません。 以上、運動の成長と感覚の重要性についてはドーマン先生の「親こそ最良の医師」 をしっかり読まれることをお勧めします。 4 .「ハイパー(Hyper)とハイポ(Hypo)」 感覚のハイパーを感覚の過敏、感覚のハイポを感覚が鈍いと呼びます。感覚がスー パーよりもっとすごいという意味は、すごい過敏ということです。小さな音が大変う るさく聞こえます。耐えられないほど大きな音に聞こえるので、その音から逃げるた め両耳を手で押さえたり、また自分で音を立てたり声を出したりして、嫌な音から逃 げようとします。それでも嫌な音から逃げられない時は、耳のスイッチを切ってしま います。この時いくら大きな声で名前を呼んでも振り向いたりしません。聞こえてい ないのではないかと疑ってしまいます。しかし、好きなお菓子を袋から出すような音 はどんなに小さくても気づきます。このような子ども達には小さな声で話すことをお 勧めます。熱心に大きな声を出せば出すほど、子ども達は耳のスイッチを切り逃げて 行きます。デラカート先生が日本に来られ、白百合学園の利用者たちを1人ひとり見 ていただいた時、この人もこの人も耳の聞こえ過ぎる人達であると、先生は診断され ました。それまで聞こえにくい人達(ハイポの人たち)だと勘違いしていたその利用 者たちに、小さい声で話してみるとちゃんと伝わります。もし聞こえにくい人たちで あるならば、小さい声では聞こえないはずです。実はハイパーで聞こえ過ぎていて、 耳のスイッチを切っていたのです。 ハイポの子ども達は大きな音を求めます。いつも音のするところにいます。自分で 音をたてる時もあります。大声で叫ぶこともあります。 視覚のハイパーは、天才的な行動を示すことがあります。小さいものを好んで見た り、一瞬でものを見分ける力があります。映画で、ダスティン・ホッフマン主演のレ イン・マンという、自閉症を主人公にした映画がありました。非常ベルが鳴って大パ ニックを起こしました。これは聴覚のハイパーです。カジノへ行って出て来たカード をすべて覚えて大金を稼いだり、マッチ箱がひっくり返り、散らばったマッチの軸の 数を一瞬で数えたりしました。これらは、視覚のハイパーです。反対に視覚のハイポ の場合は、まぶしい光を求めて、明るい光に顔を近づけたりします。 触覚のハイパーの子どもは柔らかい刺激を求めます。ぬいぐるみやふわっとした感 触が好きです。小さな傷でいつまでも泣き叫ぶことが多いです。気温の変化に弱く、 少し暑くてもまた寒くても苦手です 。おふろには体温と同じぬるめのお湯が好きです 。 ゴツゴツした服を嫌います。 触覚がハイポ(鈍感)であると、生命上重大な危険を抱えることになります。スト ーブの上に手を置き、手が焦げて煙が出ていても痛みを感じず引っ込めないでそのま ま笑っていた子どもがいました。痛みをかえって気持ち良いと感じてしまうので爪を めくったり自傷行為を繰り返す子もいます。このような子どもたちは、非常に躾るこ とが難しいです。 これら以外に、臭覚(臭うこと )、味覚(味わうこと)に対してもそれぞれにハイ パーとハイポがあります。 デラカート先生は、自閉症を感覚障害と位置付け「さいはての異邦人」で詳しく、 これらの特徴・症状を説明しています。ハイパーの特徴は、感覚が鋭すぎるため弱い 刺激を求め強い刺激を避ける傾向があります。それに対してハイポの特徴は、強い刺 激を求める傾向があります。 5 .「自分で治療する」 デラカート先生は「子どもは自分で治療する」と言われてます。自閉的な子ども達 が振る舞う行動障害の一つひとつは、子どもが自分たち自身で脳の治療をしているの だと説明しています。肩が凝った時に首を動かしたりするのと同じ行為です。しかし 刺激が良質でないので、治療は成功しません。例えば,子どもにマッサージしてもら うと力が弱くとても心地よいのですが、ちっとも肩こりは治りません。反対にプロの 方にマッサージしてもらうと初めは少し痛いのですが、やはり良くなります。子ども が自分で治療する時どうしても心地よい刺激を求めるために、刺激を弱めてしまって いるのでしょう。子どもが求める刺激を私たちが代わりに与えても喜ばないことが多 いです。こだわりがあるため、反対に嫌がることもあります。そのため、ハイパーと ハイポの診断を誤ってしまうことがあります。 6 .「小笠原理論」と「愛」 「神経構成理論」は、大変すばらしい理論です。このすばらしい理論に加えて、前 理事長小笠原は、40年間の社会福祉と関わる中で強く認識されたのが「愛」です。 一見脳の科学と対局にありそうな「愛」が、とても大切だと考えられています。医学 の世界でも、ストレスを受けると免疫システムが弱まったり、反対に愛を認識すると 強められることが知られてきました。研究者の中には「愛は脳を活性化する 」(松本 元著)と述べられておられます。
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