9 月修士論文構想発表会 題:「第一次世界大戦以前におけるイギリスの中東外交」 博士前期課程 2 年 0691201 伊藤容祐 構成 第 1 章 はじめに 第 1 節 問題関心 第 2 節 研究史 第 3 節 課題の設定、研究方法 第 2 章 石油とイギリス海軍 第 1 節 ヨーロッパにおける石油利用 第 2 節 海軍の動き 第 3 章 石油を巡る外務省の動き 第 1 節 外務省をとりまく状況 第 2 節 石油を巡る「利益」と外務省 第 4 章 結論 第 1 章 はじめに 第 1 節 問題関心 z z z z 中東は今日においても紛争が絶えない。 紛争の原因には、宗教的理由や過去の外交的問題、経済的利害や地理的 要因などが考えられている。 とりわけ、第一次世界大戦中から第二次世界大戦以後に注目されることが多 い地域であるが、第一次世界大戦以前から、様々な紛争要因を抱える地域 であったように思われる。 筆者は、外交問題と石油の関連性に関心があるので、修士論文では石油と 外交を扱いたいと考えた。 第 2 節 研究史 z z 中東を巡っては、多様な研究がある。 特に、外交や石油を含む経済的利害といった側面に目を向けて整理したい。 ¾ イギリス外交の特徴 イギリスの「利益に従うこと」 「道徳」の重視→奴隷貿易、虐殺等非人道的行為に対するイギリス 外交の対応。 これらの価値観のバランスをとること→イギリス外交の特徴 同盟外交→外交官の選択肢を狭めた 軍事的観点から外交を考察した際、外交官が目指すところとは異な る結果がもたらされた。 ⇒中東を取り巻く外交が、軍事的な要素にどれほど影響を受けたの か? ⇒中東におけるイギリスの「利益」と「道徳」とは? 中東における商業基盤の弱さ→トルコに対する影響力の不足 バグダード鉄道を巡る問題→防衛上の観点と商業上の観点の対立 バグダード鉄道をドイツの帝国主義的意思の象徴として捉え、イ ギリスのインド洋における防衛力への脅威とみなす 一方、鉄道事業が進展することを前提とし、ドイツ単独の事業と するのではなく、イギリスも参加しようとする トルコとドイツの接近→防衛的にも、商業的にも不利益 石油の発見→需要が高まることが予想されていた資源 ただし、ドイツの影響力下から発見。 バグダード鉄道問題と石油の問題→まとめて解決される必要性 1914 年の 3 月・6 月協定に帰結 ⇒経済的影響力の弱いイギリスが、どのようにして列強と関わったの か? (文献一覧:①②③④⑤⑥⑦⑧) ¾ 石油そのもの 19 世紀中頃→照明、暖房、調理の用途が主流 19 世紀後半→石油使用の発動機の発達→蒸気機関への利用、エ ンジンの発達、ガソリンの精製 20 世紀初頭→石油利用の自動車、飛行機の実用化、艦船への利用 …軍事的関心へとつながる ⇒フィッシャー、チャーチルは海軍艦艇への導入を主張 石油産業の興隆→石油企業と関係をもつ必要性…イギリスは APOC に資本参加 ⇒イギリス外務省はどのように立ち振る舞ったのか? (文献一覧:①⑨⑩) 第 3 節 課題の設定 z 20 世紀初頭のイギリスにとって、中東における「利益」と石油の問題はどのよう に関わるのか、外交はそのときどのような制約を受け、どのような態度をもって 接していたのかを考察する。 ¾ 「道徳」とは、「ルール」とは異なるものであり、その価値観は多様である。 従って、「道徳」的側面については考察しない。 ¾ 石油を巡る全容を鑑みた際、イギリスのほか、仏独露米土など意思決定 能力を有する要素が存在している。これらの構成主体のとる行動は相互 に影響しあうことが十分に考えられる。しかし、これらの国々の行動につい て詳細に検討していくことは困難であるので、修士論文ではイギリスに絞 って検討していく。 ¾ 同様に、石油企業も複雑に関わってくるが、修士論文では APOC に注目 する。 中東に着目する理由→イギリスのエンパイアルートの存在、石油埋蔵が 19c 後半から知られた地域。 ¾ 「中東」の範囲は広く、北アフリカからイラン面にまで広がっている。加え て、カスピ海周辺もそこに含める場合もあろう。しかし、修士論文では、旧 オスマン帝国の領域とペルシャを「中東」として考えていく。 「利益」の定義…イギリス帝国の安定と防衛力の維持・向上 z z 第 2 章 石油とイギリス海軍 第 1 節 ヨーロッパにおける石油利用 z z z フランス、ドイツ…エンジンの開発→自動車産業の発達、飛行機の研究 ロシア…カスピ海周辺の産油地に限るが、機関車への利用 イギリス…自動車においては出遅れ。海軍(特にフィッシャーやチャーチ ル)が注目→燃料貯蔵庫を従来よりも小さく出来る、石炭よりも軽量:艦船の 高速化を促せるという利点。 ¾ 他国艦隊(ドイツを念頭)に対して、優位を維持することを狙いとした。 ¾ 石油を動力燃料とする時代が始まった⇔即座に燃料需要が高まった わけではない…第一次世界大戦から爆発的に消費が増える 第 2 節 海軍の動き z z z z 海軍…石油の利用を企図する ¾ 安定確保が当座の課題となる。 ¾ 戦時における確保の観点から、イギリス政府が影響力を行使しうる石油 企業を得ようとする。 経営難にあった APOC に資金援助→ペルシャの石油を確保 ¾ 海軍の圧力を受けたビルマ石油が援助 資金援助の他、株の発行によって資金を獲得しようとした。 ⇒民間の援助に対する不安感が残された。 メソポタミアにおける石油の発見→ドイツ資本との交渉 ¾ 国立トルコ銀行が交渉 メソポタミアの石油利権にイギリスが有利な形で参加 ¾ 国立トルコ銀行、ロイヤル・ダッチ・シェル、ドイツ銀行が参加 ⇒海軍の反発 第 3 章 石油を巡る外務省の動き 第 1 節 外務省をとりまく状況 z z z 外務大臣グレイ…イギリスの経済的利益を追求しつつも、友好国との対立 が懸念される事業に対しては、消極的姿勢を示す。→国立トルコ銀行 事務次官アーサー・ニコルソン…反ドイツ的 事務次官補エア・クロー…反ドイツ的 ¾ 外務省の中には反ドイツ的な空気とともに、一方では経済的利益を追 求する空気があった。 第 2 節 石油を巡る「利益」と外務省 z z z z 外務省…民間事業への介入をできる限り行わない 石油調達…有力な民間企業から ¾ ロイヤル・ダッチ・シェルとの接近 ⇒「安定確保」という観点を重視した場合、世界各地に産油地をもっている ダッチ・シェルのほうが有利なように思われていた。 ⇒タンカーの船団を保有…輸送能力も高い。 ¾ 海軍からは激しい抵抗→オランダに近い企業であること ロイヤル・ダッチ・シェルへの不安感 外務省の主たる関心→中東地域における敵対的勢力の伸張阻止:国防上 の利益を重視 ¾ 同時に友好国との関係も考慮→フランスとその同盟国であるロシアとの 対立も回避したい。 ¾ メソポタミアの石油利権獲得に際して→バグダード鉄道の軍事的脅威 を排除すること メソポタミア石油利権への APOC 不参加問題…海軍が反発 ¾ 海軍の圧力を受け、外務省が影響力を有する国立トルコ銀行に圧力を 加え、撤退させる。 ¾ トルコ石油会社への APOC 参加 将来、海外の企業に買収される危険をはらむ ⇒外務省から役員を派遣し、イギリス本国にとって危機になるような活 動を予防する。 第 4 章 結論 z z 外務省にとっての「利益」とは、国防上の脅威を排除することにあった。 ¾ 商業的権益に関心がないわけではないが、国防上の利益を犠牲にし てまで推進するつもりはない。 石油の問題に際しては、防衛上の脅威を認識しない限り、取り立てて関心 があったわけではない。一方で、海軍は活発に活動し、その要請にこたえる べく努力した。 ¾ 外交と軍事の密着性が高まり、軍事的要請に外交が左右されることに なった。 文献一覧 一次史料 FO195/2449 Mesopotamia: oil concession, 1913. FO195/2456 Oil in Turkish Empire: concessions, etc., 1914. FO881/10403 Turkish Petroleum Concession,1914. 外務省臨時調査部編「油田利権関係雑件 第一巻 1.波斯油田」1920 年。 二次文献 ①Marian.Kent,Moguls and Mandarins : Oil, Imperialism, and the Middle East in British Foreign Policy 1900-1940, London, 1993. B.J.Blyth,The empire of the Raj:India,Eastern Africa and the Middle East,1858-1947, Basingstoke ; New York,2003. 日本語文献 ②ネル・ジロー著、渡邊啓貴、柳田陽子、濱口學、篠永宣孝訳『国際関係史 1871~ 1914 年―ヨーロッパ外交、民族と帝国主義』 未来社、1998 年。 ③佐々木雄太、木畑洋一編 『イギリス外交史』 有斐閣、2005 年。 永田雄三、加賀谷寛、勝藤猛著 『中東現代史Ⅰ』 山川出版社、1982 年。 飯牟禮渚 『石油の歴史』 産業図書株式会社、1956 年。 ④J.ジョル著、池田清訳 『第一次世界大戦の起源 改訂新版』 みすず書房、1997 年。 村上勝敏 『世界石油史年表』 産学社 1975 年 秋田茂編 『パクスブリタニカとイギリス帝国』 ミネルヴァ書房、2004 年。 村岡健次、木畑洋一編 『世界歴史体系 イギリス史3―近現代―』 山川出版社、 1991 年。 ⑤H.ファイス著、柴田匡平訳 『帝国主義外交と国際金融 1870-1914』 筑摩書房、 1992 年。 H.ニコルソン著、斎藤眞、深谷満雄訳『外交』 東京大学出版会、1968 年。 細谷雄一 『大英帝国の外交官』 筑摩書房、2005 年。 田所昌幸編 『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』 有斐閣、2006 年。 論文 ⑥藤井正博 「第一次大戦におけるイギリスの戦争政策と『東方』の石油」神戸山手女 子短期大学紀要、第 38 巻、 1985 年。 ⑦武田元有 「トルコ負債償還体制の展開と 1903 年バグダード鉄道協定」西洋史研究、 第 24 巻 1995 年。 ⑧武田元有 「19 世紀末トルコにおける仏独金融協商の形成と負債償還体制の展開」 社会経済史学、第 66 巻 5 号、 2001 年。 ⑨村上勝敏 「20 世紀・機械と石油の世紀の開幕―燃料油時代の成立を中心として (1)」 レファレンス 第 48 巻 11 号、1998 年。 ⑩村上勝敏 「20 世紀・機械と石油の世紀の開幕―燃料油時代の成立を中心として (2)」レファレンス 第 49 巻 6 号、1999 年。 梅野臣利 「アングロ・ペルシャン石油の成立とペルシャにおける初期の現地経営」商 大論集第 45 巻 3 号、1993 年。 荻野博 「イギリスのアラブ政策―第一次世界大戦下のメソポタミアを中心として―1」 流通経済論集 第 3 巻 4 号、1969 年。 荻野博 「イギリスのアラブ政策―第一次世界大戦下のメソポタミアを中心として―2」 第 4 巻 1 号、1969 年。
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