米国の対イラク政策に関する世界の反応

三田祭論文集 2002
米国の対イラク政策に関する世界の反応
∼欧州諸国・アジア主要国・中東諸国∼
土肥
目次
序章
第1章
第2章
終章
はるな
湾岸戦争と対テロ戦争の相違点
対イラク政策に関する各国の反応
序章
ブッシュ米大統領は、イラクなどを「悪の枢軸」と名指しし、テロ撲滅の一環とし
て、軍事攻撃を検討しているとされる。同盟国などに国際的な協調を呼びかけている
が、アフガニスタンのタリバン政権攻撃の時のようには、足並みがそろっていないの
が実情だ。また、今回の対イラク攻撃へ向けた一連の動きは湾岸戦争のころと比較す
ることができる。湾岸戦争時に多国籍軍を送ったアメリカと諸外国の今回の反応はど
うなっているのだろうか。賛成国、反対国を見ていき、さらに反対国のなかでもどの
ような違いが見られるのかを見て行きたいと思う。
第 1 章 湾岸戦争と対テロ戦争の相違点
第 1 節 湾岸戦争
1990 年 8 月 2 日にイラクがクウェートに突入したとき、ブッシュ政権は直ちに国家
緊急事態を宣言、民間シンポジウムに同席していたサッチャー英首相と会談、イラク
制裁で合意している。デクエヤル国連事務総長がアジズ・イラク外相とたびたび会談
し、また、フランスのミッテラン大統領やロシアのプリマコフ元連邦会議議長などが
イラクの説得にあたったが結果は芳しくなかった。エジプトなどの国々もイラクのク
ウェート撤兵を要求、アメリカは「限定武力行使」決議案を国連安全保障理事会に提
出、採択させる。1991 年 1 月 9 日にジュネーブで開かれたベーカー国務長官とアジズ・
イラク外相との会談は決裂。これを受け、1 月 12 日、米議会は大統領に武力行使を認
める決議を可決する。ペルシア湾には 28 国からなる多国籍軍 68 万人、うち米軍 41
万 5 千人が展開された。
この多国籍軍であるが、実は微妙な位置にあった。本来は国連軍が出て行くべきで
あったのだが、国連軍を構成するために必要な安全保障理事会の常任理事国であるロ
シア・中国などがイラク攻撃に対する武力行使に慎重な態度を見せていたのだ。そこ
で苦肉の策として攻撃に関して賛成派の国を集めて多国籍軍を編成したのだった。
1991 年、2 月 27 日多国籍軍がクウェートを奪回、ワシントン時間の午後 9 時、ブ
ッシュ大統領は、クウェートは解放され、イラク軍は敗北、軍事目的は果たされたと
して午前 0 時をもって停戦することを命じたとの声明が発表された。その後、イラク
政府指導部はクウェート併合無効の国連決議を受け入れている。
湾岸戦争はこのようにして幕を閉じたが、この敗北にも関わらずサダム・フセイン
大統領は今もなお健在であり、南イラクなどでの反政府活動を力で封じ込め、その政
治の維持に成功した。
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[イラク]
第 2 節 現在の状況
湾岸戦争時と現在の状況の根本的に違うものは国際社会の後押しという面である。
湾岸戦争時は多くの国がイラクによるクウェート侵略にショックを受け、迅速に事態
を解決しようと結束を固めた。多国籍軍に関しては半数以上を米兵が占めていたが、
ヨーロッパ諸国もアメリカとともに兵を出していたし、中東からの兵士たちも含まれ
ていた。現在の情況は十数年前とは打って変わってアメリカをサポートしようとして
いる国の数がきわめて少ない。湾岸戦争では戦費が 611 億ドルにのぼり、484 億ドル
を同盟国らが分担した。フセイン政権の転覆を目指すとなると戦費はさらにかさむと
言われている。だが今回はほとんどの国がアメリカのイラク攻撃に対して慎重に対応
しようとしているか、反対を示している。このような状態からしてアメリカは相当の
根回し外交が必要となっていきそうである。
第 2 章で、今回のアメリカにより対イラク攻撃がどのように各国々で捉えられてい
るかを見ていきたい。
第 2 章 対イラク政策に関する各国の反応
強気な姿勢を見せるアメリカに対して各国はどのような反応を見せているのだろう
か。大きく分けてアメリカの対イラク攻撃賛成国と反対国があるのだが、それぞれを
国ごとに見ていきたい。
第 1 節 欧州諸国
<イギリス>
まずは賛成国であるイギリスである。2002 年 9 月 7 日に大統領山荘キャンプデービ
ッドで会談したブッシュ米大統領とブレア英首相はイラクの核兵器開発などの証拠が
十分あると懸念している事を示し、対イラク攻撃を視野に入れた協力をしていくこと
を強調した。ブレア首相とブッシュ大統領は会談を経て、フセイン政権は世界全体の
脅威だとし、対イラクで国際社会が協調する必要があると呼びかけた。
また、9 月 10 日にはイギリスのブレア首相は国内でも最大の労働組合連合組織であ
る労働組合会議の年次総会で演説を行い、その中で対イラク攻撃に関する問題につい
て、
「国連の意思がイラクに無視されるのなら、行動を起こさなければならない。国連
もサダム(イラクのフセイン大統領)の脅威を避けるのではなく、解決すべきだ」1と
訴え、対イラク強硬姿勢を示すブッシュ大統領を支持する姿勢を示している。それと
ともに、国連に対しても対イラク攻撃に向けて行動を起こすよう促す発言をした。 ま
た、
「サダムの政府は世界最悪の体制」とイラクを強く非難したとも報道されている。
ブッシュ大統領の国連演説を受け、大量破壊兵器の査察受け入れを期限付きで迫る
新たな決議案をまとめるよう動き始めた安全保障理事会であるが、ストロー英外相は
常任理事国の会合後、
「イラクが査察を受け入れなければならないという点で一致して
いる。査察を義務づけるということは、期限を設定するということだ」と述べている。
このことから、新しい決議に期限を入れることで常任理事国は一致しているというこ
とが明らかになった。
27 日には米英両政府はイラクに対して期限付きで大量破壊兵器の査察受け入れを要
求する国連安全保障理事会決議案の草案をまとめた。フセイン政権に対し、大統領府
を含むあらゆる場所への査察などの受け入れ同意までの期限を1週間と定める厳しい
要求になっている。拒否した場合の軍事行動に筋道をつける内容でもあり、30 日にも
安全保障理事会に提示される見通しである。しかし、新決議から武力行使に至るシナ
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三田祭論文集 2002
リオへの否定的な意見が国際社会に根強いため、内容の調整や採択をめぐって混乱を
巻き起こすのではないかと心配される。
アメリカの唯一といっていいであろう同盟国イギリスであるが、国内では相当の数
の反対論が渦巻いていると言われている。イギリスのキリスト教指導者たちがイラク
への軍事攻撃に対して「戦争ではなく、不正な構造を改めることで平和を達成すべき
だ」と呼びかける意見書を首相官邸へ届けたことのなども報じられており、ブレア首
相はイギリスとしてはアメリカの行動をサポートするとしているが、国内の声はこれ
からどうなっていくのかも興味深いのではないだろうか。
<フランス>
次はフランスである。フランスの対イラク攻撃に関する反応は次のとおりである。
フランス・シラク大統領はイラクの危険性を強調しながらも「原則を踏まえた手続き
が必要」と主張している。フランスとしてはまずイラクに査察を 3 週間以内に無条件
で受け入れるよう求める決議を国連安全保障理事会が採択すること、次にフセイン大
統領が拒否した場合、武力行使を認める決議を採択することが重要であると考えてい
るようだ。また、シラク大統領は「フランスは決議の草案をつくる用意がある」と述
べているが、武力行使への参加については明言を避けている。
9 月 7 日にはドイツのシュレーダー首相とシラク大統領がハノーバーのシュレーダ
ー首相の自宅で会談し、アメリカの一方的なイラク攻撃に反対する姿勢を明確にした。
しかし、イラク攻撃へ実際に参加するかどうかについては、シュレーダー首相が不参
加を改めて明言したのに対し、シラク大統領は「ドイツの立場は理解している」とし
ながらも、
「安全保障理事会の議論の行方を見極めた上で決断する」と語っていた。つ
まり、フランスとしては参加の可能性がまだ残っているということを示したのだ。
しかしその 2 日後、フランスは「国際社会が同意すれば、対イラク軍事作戦は不可
能ではない」2と発表し、アメリカのブッシュ政権が行おうとしている軍事力によるフ
セイン体制排除に反対しない立場を初めて明確にした。さらに、まずは国連査察団の
受け入れをイラクに求め、もし国連の査察をイラクが拒否した場合、国連安全保障理
事決議が採択されれば軍事作戦を認めるとの考えを示したのだ。このようなフランス
の動きを見てくると、今後の国連の動きがフランスの動向を決めると考えてよいだろ
う。イラクのフセイン政権は国連の査察団を受け入れる様子を見せていないことなど
からしてフランスがイラクに対しての軍事攻撃を支持することも出てくるかもしれな
い。
<ドイツ>
今回取り上げる国の中で、ドイツはもっともアメリカの対イラク攻撃に反対してい
る国として注目したい。ドイツはアメリカにおける同時多発テロ以来、アメリカに「限
りない連帯」を表明するなど緊密な対米関係を維持してきた。そのため、イラク攻撃
にドイツは参加しない」と発言したシュレーダー首相に、ブッシュ政権から不快感を
表明した親書が届いた。
ドイツの「対イラク戦不参加」は 9 月 5 日にシュレーダー首相が党首を務める社会
民主党の集会で初めて語られた。
9 月 22 日に控えた連邦議会総選挙に向けた演説では、
91 年の湾岸戦争でドイツが出兵に関して多額の財政支援をしたにもかかわらず重要な
国際決定から排除されたとコール前政権を批判し、
「小切手外交」からの絶縁も宣言し
た。
シュレーダー首相は米国が単独でイラクを攻撃した場合、クウェートに駐留してい
るドイツ連邦軍の特殊装甲車6台と兵士約 50 人を撤収することを表明した。また、ク
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ウェートのドイツ軍部隊はアメリカが主導する対テロ軍事行動の支援が目的であり、
これまで対米関係を配慮して駐留が続くともみられていたが、シュレーダー首相はこ
れを否定した。さらにシュレーダー首相は「アメリカで話が進んでいるイラク攻撃は
対テロ軍事行動とはまったく異なる。ドイツ連邦軍が派遣目的以外のことに使われそ
うになれば、我々の態度は明白だ」3と述べ、イラク攻撃不参加を貫く方針を示してい
る。
フランスのシラク大統領と 9 月 7 日に行った会談後にはイラク問題について「一方
的な行動に反対することで両国は一致した」と記者会見で述べ、アメリカ主導のイラ
ク攻撃を視野に入れているアメリカ・イギリス両国を牽制した。 そのほかに、シュレ
ーダー首相は「ドイツがイラクへの軍事行動になぜ参加しないかをシラク氏に伝えた」
と述べた。それに関してシラク氏は「ドイツの立場を理解する」と述べたが、先にも
書いたとおりフランスとしては「国連安全保障理事会だけが決定権を持つ」とし、安
全保障理事会の決議があればイラク攻撃への参加もあり得ることを示唆した。シュレ
ーダー氏はこれに先立ち「安全保障理事決議があっても参加しない」とメディアに語
っており、同じ対イラク攻撃反対国としてもドイツとフランス間の対応に違いがある
ことを示した4。
それ以外の点では、大量破壊兵器を調べる「国連査察団の無条件のイラクへの復帰」
と「その際、国連が重要な役割を果たさなければならない」などといったことをドイ
ツ・フランス間では一致しているということがわかっている。さらにシュレーダー首
相は「地域の諸勢力が一致して解決しなければならない」と語り、イラク問題解決に
は中東諸国の合意と、対テロの国際的連帯を崩さないことが肝心だという考えを示し
た。
13 日に行われたブッシュ大統領の国連演説については、ブッシュ大統領がイラク問
題で国連と協調する用意があるとしたことを歓迎した。しかし、
「国連安全保守理事会
が自由に決断することが保証されていない」とも述べており、武力行使へと進みつつ
あるアメリカの圧力に懸念を示している。そして対イラク攻撃は対テロの国際協調を
崩すとの考えから、「イラク攻撃にドイツは参加しない」とさらに強調した。これは、
中東への武力介入は、穏健なアラブの国々を対テロの国際協調から切り離してしまう
ことになると考えるからである。
<ロシア>
次はロシアを見てみよう。ロシアはアメリカの対イラク攻撃に反対としつつも柔軟
な姿勢を見せている国である。イラク問題をめぐってイワノフ・ロシア外相は 9 月 10
日にロシア国営テレビのインタビューで、
「アメリカが圧倒的大多数の国の意見に耳を
傾けるよう望む」とブッシュ政権の強硬姿勢に批判的な発言をしている。イワノフ外
相は、
「国連査察だけがイラクの大量破壊兵器開発疑惑に結論を出せる」5と強調し、
アメリカの単独行動には賛成していないと述べていた。基本的には親イラク派である
ロシアであるが、イラクが国連の安全保障理事会の査察を受け入れないという姿勢に
対してはさすがにこのままの状態でよいとは考えていないようだ。親イラク路線をと
っていたロシアのイワノフ外相も、記者団に対し、
「安全保障理事会への協力を拒むな
ら、イラク指導部は予想されるあらゆる結果に責任を負うだろう」と明言しているこ
とからそのことが分かる。また、このことから国連がイラク対して「最後通牒」を手
渡すべきだとしたブッシュ大統領の国連演説を受けて、安全保障理事内で急速に合意
形成に向けた動きが出ていることも示されている。
アメリカが訴えているイラクの大量破壊兵器保有についてはロシア側は外交委員会
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三田祭論文集 2002
のマルゲロフ委員長が「イラクの大量破壊兵器製造をめぐる例証は極めて説得力に欠
ける」6と批判している。また、マルゲロフ委員長は、ブッシュ政権のイラク攻撃論が、
同盟国や「反テロ連合」に参加する国々、アメリカ議会を納得させきれていないとも
指摘している。
9 月 13 日にはロシア外務省のマラホフ情報局次長がブッシュ演説について「国際テ
ロへの断固とした戦い」に賛同するとしながらも、
「反テロ包囲網の中心的役割は国連
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が担う」と強調している 。イラク問題については「政治・外交的解決の道が尽きたわ
けではない」と述べ、アメリカの武力行使に同意しないということを明らかにした。 ま
た、イラク攻撃の是非をめぐっては、プーチン大統領がすでに国連安全保障理事会の
審議を必要条件にしなければならないことを伝えている。
アメリカのイラクへの一方的攻撃に反対してきたプーチン政権が、攻撃不可避との
見方が強まる中で、微妙な立場に追い込まれていることも事実である。ロシアは米ロ
の協調とイラクとの友好関係などをはかりにかけながら出かたを見極めているようだ。
「ロシアはイラクへの査察体制を強化する決議に反対とは言っていない」イワノフ国
防相はアメリカ・イギリスが主張する新たな国連決議の採択よりも国連査察再開を優
先させるというロシアの立場から、柔軟姿勢を示している。表向きには査察再開を優
先させ、アメリカの一方的攻撃は反対という原則的立場を崩してはいない。しかしイ
ラクに対してはイラクとの長期経済協力計画の調印を見送るなど、イラクとの距離を
徐々におき始めている。
ロシアとしてのポジションは、国連中心主義を掲げつつ、
「反テロの総論は賛成。各
論のイラク攻撃は反対」という立場をとることにしている。これからはイラクへの武
力行使に道を開く新たな国連安全保障理事会決議案について、ロシア側の理解を得ら
れるかどうかが焦点になってくる。しかし、アメリカとの間で「イラクとグルジアの
交換」とよばれるチェチェンのテロリストが潜伏しているグルジアに関しての交渉な
ど、水面下の調整が続いているという情報もあり、今後ロシアの対応が変わっていく
ことも考えられる。
第 2 節 アジア主要国
<中国>
中国はイラク問題の解決で対応が注目されているが、唐外相が武力行使への明確な
「反対」表明を見送るなど、アメリカへの反発を抑制し始めている。国連安全保障理
事会に新たなイラク制裁決議案が提出されたとしても、中国が拒否権を発動する可能
性は一歩遠のいたといえるであろう。 唐外相は国連総会演説でイラク問題について
「われわれは問題の政治解決を主張する」と述べ、国連の役割発揮と、イラクの安全
保障理事決議履行を求めるにとどまった。これは江沢民国家主席が「軍事行動に反対」
明確な反発を示していることからも分かる。朱鎔基首相はアメリカが国連安全保障理
事会の決議なしにイラクに軍事攻撃を開始した場合、どのような事態が発生するか予
想できないと警告しており、
「国連による武器査察が実施されない場合、イラクの大量
破壊兵器開発計画について明確な証拠が得られない場合、安全保障理事会が決議しな
い場合には、イラクに対する軍事攻撃を開始できない」とも述べている。
ニューヨークで唐外相とパウエル国務長官との会談が行われたが、これは中国が求
めていた新疆ウイグル自治区の分離・独立派「東トルキスタン・イスラム運動」のテ
ロ組織指定にアメリカ側が同調したことを称賛するなど、米中の駆け引きの色が濃い
会談となった。中国は 1990 年の湾岸危機から年明けの対イラク開戦にいたる国連安全
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保障決議でも、表決ではイラク擁護を捨てて「棄権」にとどめてきた。取引の結果が
国連の判断にも影響を与えてくるのではないか。アメリカとしては拒否権をもつ中国
をいかに取り込むかが重要になってくる。
<日本>
次に日本の立場を見てみることにする。9 月 13 日に国連総会が開かれたが、そこで
の小泉首相の演説を見てみよう。
小泉首相は 9 月 13 日の国連総会の一般演説で、対イラク政策について「必要かつ適
切な安全保障理事決議をできる限り早く採択すべきだ」と語り、国連安全保障理事会
がイラクに大量破壊兵器の査察を受け入れさせる新たな決議を早期採択するのが最善
の策だと考えているという立場を示した。
「問題解決のために国際協調を維持し、国連
を通じた一層の外交努力が重要」との立場も訴えた。小泉首相は演説で、
「貧困問題の
解決、人権侵害をやめさせるための社会的インフラの整備」など非軍事的な手段によ
る解決策が世界の平和への道であると指摘し、それを最も効果的に実施するのが国連
のあるべき姿だとした。また、イラクに対しては「すべての関連する国連安全保障理
事決議に従い、無条件で国連の査察を受け入れ、大量破壊兵器を廃棄すべきだ」と勧
告した。
また、川口外相はパウエル米国務長官と会談し、アメリカ側の「各国が協力してイ
ラクに決議の内容を履行させるようなものを作るように努力したい」という説明をう
け、決議受け入れを働きかけることでアメリカと共同歩調を取る考えを明らかにした。
30 日には小泉首相がマレーシアのナジブ国防相と会談しており、アメリカが検討し
ているイラク攻撃について「現在のイラクに対する行動は理由が明確ではない」とし、
アメリカに慎重な対応を求めていくことを改めて示した。
第 3 節 中東諸国
イラクの隣国である国々はアメリカが対テロ戦争という名目のもとイラクに攻撃を
しかけることをどのように感じているのであろうか。イラン、トルコ、サウジアラビ
アを取り上げてみる。
<イラン>
イランのアブタヒ副大統領は西側諸国は数十年前にイラクのフセイン大統領に対処
すべきだった、と意見している。 イランはアメリカのイラクに対する軍事行動に反対
しており、中東地域での戦争はイラク国民に大きな苦しみをもたらすことになる、と
指摘している。アブタヒ副大統領は、
「イラン国民は、いかなるイラクの政権もフセイ
ン政権よりはましだと思うだろう」ともコメントしている。イラク国内では絶大な支
持を集めているフセイン大統領であるが、イラクからは好意的に見られていないこと
が一目瞭然である。しかし、アメリカの軍事攻撃に関しては支持はしていない。
<トルコ>
トルコは 9 月 6 日にドルムシュ保健相率いる約 100 人の大型訪問団がイラクへ入っ
た。一行は政府関係者のほか財界代表らで構成され、両国間の通商問題などを協議す
る予定であると報じられている。アメリカがイラク攻撃の意思を一層固めつつある時
期に、トルコが大型訪問団を送ったのは、あくまで武力行使に反対し、外交交渉によ
って問題を解決するようアメリカに求める独自のメッセージとみられている。ドムル
シュ保健相は「イラク国内に大量破壊兵器が存在するというなら、国連があらゆる外
交手段を使って対処し、戦争を避けるべきだ」と語っている。
<サウジアラビア>
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当初は基地使用に難色を示していたサウジアラビアも、サウド外相が「安全保障理
事決議に基づく武力行使なら基地使用を認めうる」と述べている。ただ、使用を認め
れば、反体制派が勢いづく恐れがあり、駐留米軍へのテロ攻撃などの危険も増すこと
もありうる。 アブドラ皇太子はブッシュ大統領との会談で、パレスチナ情勢の打開に
向け、国際平和維持部隊の展開など 8 項目の提案をしている。また、アブドラ皇太子
はエジプトのムバラク大統領とリヤドで会談し、アメリカのイラク攻撃を回避するた
め双方が妥協できる方法を探るよう国連安全保障理事会の常任理事国に働きかけるこ
とで一致した。アブドラ皇太子はイラク問題でアラブが結束して対処することの重要
性についても強調している。
攻撃の拠点を周辺国にできるだけ多く確保したい米軍に対し、アラブ湾岸諸国は厳
しい対応を迫られている。イスラム教徒としてイラクに対する「同胞意識」や民衆の
反米意識が強い地域だけに、アラブ各国の政府は表向きには「国内の基地が攻撃に使
われることはありえない」と予防線を張っている。米軍はこうした反発を見越し、現
在カタールなど比較的好意的な国に拠点を移そうとしている状態である。
終章
このように、アメリカの対イラク軍事政策に対して賛成国と反対国とがある。反対
国の中には真正面から援助はしないと言い放つドイツのような国もあれば、フランス
のようにまだ決めかねている国もある。中国、ロシアのように取引次第ではアメリカ
側に好転する国もでてくるかもしれない。また、アラブ諸国からは基本的にはアメリ
カへのサポートは期待出来ない。各国で様々な反応が見られる中、アナン国連事務総
長は、アメリカ単独での対イラク軍事行動に関して強く牽制している。
大量破壊兵器の国連査察を拒否しているイラク政府の指導者に対しては国連安全保
障理事決議に違反するとして、イラク国民のためにも、国際秩序のためにも義務を果
たすべきだとし、イラク指導部に影響力を持つ各国はすべて、必要不可欠な第1段階
として、査察受け入れへの圧力を強化するよう要請することを述べた。
(ここでの影響
力をもつ国とはロシアのことではないかと思われる。
)また、国連によって合法性を与
えられない限り、特定の国が別の国に武力を行使するべきではないとしているが、こ
れはアメリカの対イラク武力攻撃を意識している。
9 月 24 日にはイラク国境沿いのクウェートでアメリカとクウェート合同演習が始ま
った。ブッシュ政権はイラクに対する新たな国連安保理決議案を 9 月 30 日にも提示す
る構えである。また、攻撃に向けた軍事的な準備を湾岸地域で着々と進んでいる。
この数日間でも情況は変わりつつあり、イラクの態度、アメリカの態度で国際世論
の動きも変わってくると考えられる。裏舞台でアメリカと交渉に入りイラクと自国の
問題とで取引を始めている国々もある。また、国連安全保障理事会国内外からの動き
を受け、アメリカの政策も変化していくのではないかと期待できる。これから対イラ
ク攻撃政策に関して国連、アラブ諸国、そして周辺諸国の対応がどのようにして変化
して行くのか、それはアメリカが打ち出していく政策にすべてかかっているのではな
いだろうか。どのような結果であっても唯一の超大国アメリカの動向は責任あるもの
でなければならない。
【註】
1
朝日新聞 2002 年 9 月 11 日
2
朝日新聞 2002 年 9 月 10 日
3
アサヒ・コム
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朝日新聞 2002 年 9 月 8 日
朝日新聞 2002 年 9 月 12 日
朝日新聞 2002 年 9 月 11 日
朝日新聞 2002 年 9 月 13 日
【参考文献】
今川瑛一『アメリカ大統領の中東アジア政策』亜細亜書房
『世界週報』2002.9.24
『世界週報』2002.24.25
ジルス・ケペル他「パレスチナ紛争と中東政治の現実」
『論座』2002 年 7 月号
ウィリアム・J・クリントン「グローバル化というわれわれが共有する未来」
『論座』2002 年 9 月号
NEWSWEEK 2002.9.25 pp.22~25、pp.35~36
NEWSWEEK 2002.10.2 p.35
アサヒ・コム
朝日新聞
毎日新聞
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