ワードでお絵かきを楽しもう

ワードでお絵かきを楽しもう
―シニアパソコンボランティアが拡げるシェイプアートー
近藤則子
ICS研究会アクティブシニアプロジェクト
総務省地域情報化アドバイザー
1.はじめに
「シェイプアート」とは、介護の必要な高齢者むけ
非営利パソコン教室で誕生したデジタルアートである。
シェイプとは、図形の意味であるが、広く普及して
いるワープロソフト、 Microsoft「Word」の図
形描画機能を使い、マウスだけで絵を描くアートとい
う意味で「シェイプアート」と名づけた。
シェイプアートは、シニアパソコンボランティアが
開発した、誰もが絵を描く楽しさを発見できる新しい
デジタル絵画の表現技法である。
横浜市民生委員
描 き か た は 高 倉 さ ん の ホ ー ム ペ ー ジ 「 Yume
Palette-ゆめパレット」から公開されている。
よみうりオンラインに好評連載中の高倉さんのスイ
ートピーの描きかたを紹介する。
1.ハートの図形を描きます。
「オートシェイプ」、「基本図形」、「ハート」を順
番にクリックし図形を描きます。
2.シェイプアート
シェイプアートを考案した高倉幸江さんは、老人
福祉施設のパソコンボランティアとして活動してきた。
7年前から週2回、東京都内のパソコンボランティア
仲間たち数名と共にケアハウスで開催されている入居
者むけパソコン教室で講師ボランティアをしてきた。
施設内のパソコン教室は、当初住友生命の社会貢献
事業として全国各地で実施され、同社が寄贈したパソ
コンを使用し、短期間に開設されたものであったが、
他の地域のパソコン教室終了後も、この教室では、受
講生とボランティアの熱意に支えられ継続されてきた。
講座内容はインターネットの活用や文書作成などで
あったが、高倉さんは、講師や受講生が講座を通じて
親しんでいたソフトウエア「Word」を活用し、高
齢者にとって難しいキーボード操作や文字入力などが
苦手な人にも楽しむことのできるよう、図形機能を活
用したのがシェイプアートのはじまりである。
この手法は、ケアハウスで活動する多くのボランテ
ィア仲間同士で教えあいながら発展してきた。
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2.ハートの図形を変形して増やします。
・図形を選択し、コピー&貼り付けで2つ増やします。
2つの図形は幅を狭くしてから全体を縮小します。
3.大小のハート図形を組み合わせます。
・規定の大きさのハートを中央にして、両側に小さい
ハート形をつけます。回転ハンドルで向きを変えて重
ねましょう。・3つの図形を選択して「グループ化」
しておきます。
シェイプアートの作品
4.月形の図形を描きます。
・「オートシェイプ」、「基本図形」、「月」を順番
にクリックして図形を描きます。
・図形を選択して、中央の黄色い調整ハンドルを外側
へドラッグして、幅を尐しだけ広くします。
朝顔
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作者
高倉幸江さん
シェイプアートの描きかた
シェイプアートは基本図形を組み合わせるため、高
倉さんは「デジタルアップリケ」と呼んでいる。
5. 大小のハート図形の両端に月の図形をつけます。
・ハートで描いた図形を横向きにします。
・月の図形をハートの図形に合わせて大きさを調節し
た後、回転させて、図の様に重ねます。
・「オブジェクトの選択」矢印で図形を大きく囲み、
「図形の調整」から「グループ化」をクリックし
ます。
周りの線の色を無しにします。図形を選択し、「線の
色」→「線なし」を選びます。
6. 図形に色を塗ります。
・図形を選択し、「塗りつぶしの色」、「塗りつぶし
効果」、「その他の色」、「標準」を順番にクリック
します。色のパレットから「薄いピンク色」を選び、
「OK」を押します。
茎は線で、ガクは曲線を使って描きます。
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スイートピーの完成です。
・
・グラデーションの濃さと方向を決めます。
色(1)の下にあるスライドバーを「明」の方向
へ移動してグラデーションの濃さを調整します。
右端の白い部分が尐し残る位あけておきます。
結果は、右下に表示される「サンプル」で確認し
ます。
・グラデーションの種類を選びます。
グラデーションの種類 横バリエーション 左上
を選び「OK」を押します。
出典 YomiuriOnline 新しい大人たち
ワードでお絵かきより
http://otona.yomiuri.co.jp/it/drawing/
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シェイプアートの応用
シェイプアートの作品を絵はがきやTシャツに印刷
して楽しむ他、石鹸や風鈴にケマージュという塗料を
使った作品は贈答品として喜ばれている。
・
朝顔のイラストを江戸風鈴に応用
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シェイプアートイベント
2007年春から、ICS研究会アクティブシニア
プロジェクトでは、ゼロスタートコミュニケーション
ズの協力で、同社の“Posh!me”サイトを使っ
たインターネット上で作品を公募し、シェイプアート
コンテストを実施している。
2008年のコンテストの結果は下記のサイトから
閲覧できる。
http://audition.poshme.jp/?category_id=74
昨年の第1回グランプリは、高倉さんの活動を紹介し
たNHK教育テレビの「趣味悠々」という番組を見て、
シェイプアートを描きはじめたという小林三知子さん
が受賞した。
小林さんは エクセルの図形機能を使って描いている。
会場内の高倉幸江さんと参加者の小学生
ぬりえをしましょうと指導する峰尾節子さん
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第1回
遠隔講習
2007年3月には、韓国の元老坊の文玉東氏の協
力を得て、遠隔交流や講習の日韓電脳雛祭りイベント
も実施した。
MSNメッセンジャーでの交流は文字も映像も快適
に通信でき、慶應義塾大学の留学生、李智賢さんに通
訳を、日本と韓国のマイクロソフト社に技術等の協力
をお願いした。
シェイプアートコンテストグランプリ受賞
雛祭り 作者 小林三知子さん
小林さんは、30代のワーキングマザーである。
2007年、慶應義塾大学で開催されたNPO法人
CANVASの主催による「子供のためのワークショ
ップコレクション」で、アクティブシニアプロジェク
トのシニアボランティアが参加した「シェイプアート
で七夕飾りをつくろう」には、小学生の娘さんと参加
してくれた。
基本図形を組み合わせた七夕飾りに色をぬり、願い
ごとを書くという体験を子供たちといっしょに楽しん
だ。
ワークショップコレクション2007in慶應義塾の
報告は以下のサイトから公開されている。
こどものためのワークショップコレクション
http://www.canvas.ws/wsc2007/index.html
主催
会場
NPO法人CANVAS
慶應義塾大学三田キャンパス
日本側の会場は藤沢駅前のマンションの会議室
撮影 若宮正子さん
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雛人形の描きかたをウエブカメラで送信
左
右
筆者 中央 読売PC賞を受賞した沢信子さん
群馬県みなかみ町総合政策課石坂貴夫さん
日本側のパソコン画面に映る李さんと文さん
みなかみ町と札幌会場とメッセンジャーで交流
ソウル側の元老坊の文玉東さんら会員の方々
韓国会場
マイクロソフト社会議室
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みなかみシェイプアートギャラリー
上越新幹線上毛高原駅前の観光センター内に、20
08年6月の1週間、シェイプアートギャラリーを設
置した。
第2回コンテストの受賞作品を展示し、高倉さん、
峰尾さん、沢さん、小林さんといったシェイプアート
名人による描きかた講習会を実施したところ町民や観
光客らが参加してくれた。
みなかみ町ではこの時期、蛍祭りが開催され、近隣
から多くの訪問者がある。祭り会場に近いギャラリー
に立ち寄る人は1000名を超え、好評であった。
札幌会場の資料を遠隔交流でも鮮明に読めた
会場では、シェイプアート愛好者の多い札幌市で開
催中のシェイプアートイベント会場とインターネット
でつないで、愛好者相互の交流を実施した。
札幌会場の服部真湖さんの笑顔が美しい
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東京のバルマー氏とみなかみ会場の筆者
筑波市で受信
撮影
都留常暉氏
みなかみシェイプアートギャラリー開催概要
期間2007年6月22日―6月30日
主催 みなかみ町
協力 NEC EPSON 東芝
スローネット NTT東日本
ゼロスタートコミュニケーションズ
NPO法人ブロードバンドスクール
シェイプアートファン倶楽部
老テク研究会
協賛 情報通信月間推進協議会
(財)全国地域情報化推進協会
後援 総務省関東総合通信局 群馬県
群馬県地域情報化推進協議会
札幌との2地点間の遠隔交流のあと、札幌会場からN
ECの内川直人さんの協力で、ストリーミング生中継
が実現した。
みなかみ町、筑波市、沖縄県宮古島、米国ハワイ、韓
国ソウルの5地点で受信してもらった。各地で映像を
楽しむことができた。
ホノルルの田島さんは、服部さんとフラの共演を楽し
むシニアの映像が映るパソコンに、可愛らしいレイを
飾ってくれた。
筆者は2005年12月の韓国政府主催のデジタル
ディバイド解消国際会議の発表の中でも、シニアのシ
ェイプアート活動他、日本のシニアネット活動を紹介
したが、2008年2月にも韓国の延世大学で開催さ
れた「高齢者と情報社会」の国際会議で、シェイプア
ートを中心に発表した。
撮影
International
conference
[Information
Society and the Elderly: Global Perspectives]
sponsored by the Center for Social Welfare
research at Yonsei University and Microsoft.
田島ゆみこ氏
みなかみ町は、2007年6月に総務省のICTフ
ェアを実施し、11月には、マイクロソフト社のCE
O、スティーブ・バルマー氏とのオンライン交流を実
施した。バルマー氏は、高齢になり難聴の父親がメー
ルやインターネットで、家族とのコミュニケーション
を取り戻したエピソードを紹介し、高齢者にとってパ
ソコンやインターネットが有用であることを記者会見
で語っていた。
バルマー氏に、シェイプアートイラストを転写した
石鹸を贈呈し喜ばれた。
このオンラインイベントは、多くのメディアの関心
を集め、人気パソコン雑誌「読売PC」でのシェイプ
アート連載やよみうりオンラインでの高倉さんの連載
記事が始まった。
http://www.ysise.org/
この会議のコーディネーターをつとめた延世大学の
スタッフ、キムさんがおりよくアジア学会で来日して
いて、みなかみ町のイベントにも参加してくれた。
キムさんは8月から社会福祉の先進的な研究で知ら
れる南カリフォルニア大学博士課程に留学する。
キムさんはシェイプアートの描き方の英訳、韓国語
訳も引き受けてくれ、韓国政府が推進する高齢者むけ
パソコン教室でも普及を目指している。
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しかし、組織を離れた高齢者にとって、新しい技術
の習得は簡単ではない。そこで私たちは、シニアネッ
トという米国の高齢者によるパソコンボランティア活
動を見習って日本の実状にそった取り組みを仙台市や
松本市などで、模索してきた。
今、日本で最も情報化が遅れているのは、情報格
差がありながら、何の対策もない、情報も届かない
のは高齢女性である。
そして、高齢社会とは、女性社会でもある。
韓国から来日参加してくれたキム・ミナさん
利用できれば最も情報技術の恩恵を受けられるの
は高齢女性である。なぜなら、高齢者にとって経済
的な基盤と同じくらい重要なのが「信頼できる人間
関係」でありその獲得と継続に情報技術が不可欠だ
からである。
英文の発表原稿はゆめパレットの英語サイトから
公開している。
Yume Palette ゆめパレット
http://yume-palette.ptu.jp
そして「信頼できる人間関係」は、決してお金で
あがなえない。簡単に入手できるものでもない。
しかし、ボランティア活動を通じて獲得できる可
能性はある。
米国のシニアネットの活動を学んだときに、その
ことを教えてもらったのである。
地域のパソコン教室のボランティア講師をするこ
とで地域に知り合いが増えていく。その知り合いの
絆が、老後の孤立しがちな暮らしの中で、高齢者が
できる地域への貢献の形がみえ、活動が心の支えに
なるのだ。
シェイプアートを教える、シェイプアートを活用
した作品を創る、それを贈呈する、あるいは販売も
するといった活動は、パソコンが可能にした新しい
社会参加である。
そして、同じようにシェイプアートを楽しむ仲間
たちがネットを通じてブログやメールで交流をし、
時には出会い、新しい刺激をうけ、技術や知識が増
えていく。
離れていても同じに趣味を持つ仲間たちとの交流
が長い老後を支え、その交流を継続できる新しい技
術「魔法の杖」がパソコンである。
高齢者と情報社会会議でシェイプアートについて
紹介。(2008年2月 韓国 延世大学)
撮影 文玉東さん
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シェイプアート研究活動がめざすもの
ICS研究会は、利用者の立場で情報通信技術やサ
ービスを研究会するために電子情報通信学会の分科会
として発足したものであるが現在は老テク研究会とい
う小さな分科会が活動している。
アクティブシニアプロジェクトはシェイプアートイ
ベントなどさまざまな関連イベントの開催団体として
使用している名称である。
シェイプアートは女性に適したパソコン学習方法
であると考えたからこそ、私はこの活動をさまざま
な個人や団体と連携しながら継続してきた。
筆者は、1992年からICS研究会や老テク研究
会の事務局を担当してきた。老親を介護する友人、大
島眞理子さんの、過酷な介護に衝撃を受け、高齢社会
への対策を研究しなければならないと考えた一主婦で
ある。
パソコンや携帯電話などは、老後の暮らしを支えて
くれるさまざまな機能がある。
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すばらしいシニアネットの先輩たち
米国のシニアネットの創設会員であるドロシー・ミ
ラーさんは、自宅で長年夫の介護をしていたが、シニ
アネットに参加するようになり「パソコンのおかげで
自宅から世界中に友達ができて寂しくなくなった。」
と、仙台市で開催した、1997年に仙台市で開催し
た第1回目のシニアネットのつどいで日本の高齢者に
パソコンの活用を勧めてくれた。
特に、病気や介護で外出や移動が困難になった時、
あるいは加齢による視聴覚障害や身体障害を抱えなが
ら長い老後を生きる時、パソコンや携帯電話は、高齢
者が失った身体機能を補い、またネット社会を通じて
心の通う友と出会える、新しい社会参加、社会貢献を
可能にする道具である。
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米国シニアネット
2001年の電脳仙台七夕祭りに来日してくれた
ドロシーさんと友人のトムさん。
手前が庄子さん。
中央は仙台市の藤井市長(当時)
ドロシー・ミラーさん
ICS研究会がシニアネット活動を初めてから12
年が過ぎ、ドロシーさん、庄子さんも故人となったが、
すばらしい先輩たちの功績を多くの人たちに伝え、こ
れからの活動に活かしていきたいと思い、この原稿を
書いた。
ドロシーさんは、趣味で続けていた藍染めの研究を
インターネットで公開したとたんに世界中から講演依
頼が殺到したという。
ドロシーさんたちの世代の女性は大学進学は珍しく。
ドロシーさんが日本滞在中に東北や沖縄を旅して採取
した貴重な織物や藍染めの資料はインターネットで公
開することが世界中の多くの人たちの研究や活動に貢
献したのであった。
学校にいかなくても勉強はできる。学位がなくても、
価値ある研究はできる。お金がなくても研究成果をイ
ンターネットで公開でき、世界中の人たちに喜んでも
らえることをドロシーさんは身をもって示してくれた
のである。
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まとめ
気軽に絵を描く楽しさを体験できるシェイプアート
講座を通じ、高齢者の新しいいきがいが生まれている。
今後は、子供たちや海外との交流を増やし、アート
を通じた温かいふれあいや心豊かな人間関係を育てる
と同時に、グローバルネット社会における高齢者の新
しい社会参加の可能性を拡げていきたい。
ドロシーさんのように、自分のウェブサイトからシ
ェイプアートの作品を発表し、教えたり、教えられた
りする、互いに敬意と愛情を持って交流できる仲間た
ちと出会えることができたら、老後の生活は変革でき
る。
女性たちこそ、パソコンやインターネットを活用し
て心豊かな老後の人生を送れることを実証してくれた
ドロシーさんは
「年のとるのは悪いことばかりではない。若い人よ
りも経験がある。知識もある。分別もある。大金は必
要がない。大事なのはパッション、情熱。」といつも
語っていた。
高齢社会に私たちが目指すべきは、情報通信技術を
活用し、それぞれが楽しく参加できる情報コミュニテ
ィや地域コミュニティの形成である。
仙台シニアネットクラブを私と共に創設した庄子平
弥氏は、80歳をすぎたドロシーさんの話に感激し、
仙台でのシニアネット普及活動に熱心に取り組んでく
ださった。
関心を持ってくださる方はぜひICS研究会にアク
セスして、おりおりのシェイプアートイベントにぜひ
ご参加ください。
ICS研究会サイト
http://homepage3.nifty.com/ICSProject/index.html
仙台中央郵便局情報ひろばで指導する庄子さん
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