光干渉表面作製技術の開発

光干渉表面作製技術の開発
一第1報可視光干渉用回折格子の作製一
材料環境部
平井智紀
プラスチック製品に装飾的付加価値をつけるため,表面に微細な凹凸を形成し光干渉表
面を有する立体形状製品の開発を行う.実験の第1段として収束イオンビーム(FIB)加
工装置を用いて可視光干渉用回折格子をS1基板上に作製した.干渉光は回折格子のライン
幅が1 3μm,段差が0.35 2.17μmで発現していたが,加工前のSj基板表面が鏡面でなけ
れは発現しなかった.今回の実験で高強度および広角度範囲で干渉光が得られる条件は,
凹音帥配μm,凸音帥配μm,段差0.72μmのときであった.この結果より,安価な等倍露光
フォト・りソグラフィ法で,可視光干渉用回折格子が製造できることが明らかになった
1.はじめに
し,以下の3点が問題となる.①実験的にマスクを
様々な製品に装飾的付加価値をつけるため,現在
は光干渉技術を用いたホログラムシートなどを手作
複数作製するのは時問とコストが高くなる.②アゲ
ハチョウの燐粉構造はライン幅が1μm,ピッチ間隔
が3μmの回折格子で構成されているが,この形状を
人工的に作るには高額な縮小露光装置が必要とな
業で製品に貼り付けている.しかし,手作業による
貼の付け工程の削減と干渉光を独自にデザインした
いという2つの企業二ーズがある.そこで,プラス
チック製品などの成形時に直接光干渉効果を生み出
す微細構造を形成することにより,これらの企業
る.(現在,商用の等倍露光用マスクは2μmピッチ
が限界である.)③干渉光と回折格子形状との関係
を明らかに調査するためには,被加工物の基板は高
ニーズに答える
い平滑性と反射率,加工性及び導電性が必要とな
主な工程は,①微細加工による母型作製②電鋳に
よる型取り③金型の作製④射出成形⑤反射膜形成で
る
ある.この技術の大きな利点は,一度金型を作れは
大量生産が可能であること,母型から金型を複製で
きることにある.課題は,半導体プロセス等で使用
される平面的な微細加工技術を三次元の曲面にいか
そこで,以下の方法で実験を行なう.①回折格子
の試作には任意形状加工が行えるN B (集東イオン
ビーム)加工装置を使用する.②安価な等倍露光装
置の限界である2μm付近で光干渉用回折格子の作製
を試みる.③被加工物には単結晶Si基板を使用する
に展開するかである
本帳では,最終目的である光干渉表面を有する立
体形状製品の開発を行うため,研究の第1段階とし
2.2 装置および加工条件
HB加工装置は日立製作所製郎一200OAを使用した
て,鮮やかな光を発色するアゲハチョウの燐粉構造
このFIB 加工装置はGa イオンを試料に照射し,ス
を取の入れた光干渉表面を作製したので報告する
キャンしながら試料表面を任意の形に掘る装置であ
る.加工時におけるFIB のビーム条件はイオン加速
2、実験方法
電圧30kv,ビーム電流12.7nAである.この条件は,
通常試料を深く加工する時に適している
2.1 光干渉表面の試作
アゲハチョウの燐粉構造は,ライン幅が1μm
次に, FIB による加工条件を表 1に,加工例を図
ピッチ間隔が3μmで構成されている".また,南半
球の熱帯雨林に生息する青色に輝く羽を持つモル
フォチョウの燐粉構造は,1μmの幅とピッチで構成
されているb モルフォチョウの発色にはその他の
1に示す.加工は長さ200μmのラインに対し,ライ
ン幅とピッチ間隔を合わせて1周期と考え,1周期が
4μmとなるように幅とピッチを変更し,全体で50周
期(200 μmX200μm)となるように設定した.これ
要素も絡んでいるが,ここでは割愛する
は,後の評価を考慮して,ライン数と全加工領域を
上記の構造作製には,半導体デバイスの製造工程
で使用されるフォト・りソグラフィを用いる.しか
常に一定とするためである
-6 -
表1
試料名
ライン幅
(μm)
加工条件
ピッチ間隔
(μ m)
光源
表面
状態
段差
(μ m)
NO .1
0.35
鏡面
NO.2
0.35
鏡面
NO.3
0.35
鏡面
NO.4
0.35
非鏡面
NO.5
0.72
鏡面
NO.6
1.67
鏡面
NO.フ
2.16
鏡面
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図4 角度依存性の測定方法
X
2.3 光干渉表面の評価
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FIB加工装置により作製した回折格子を室内の蛍
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光灯に当て,干渉光の有無を確認した.図2に観察
時の光源と試料,カメラの位置関係を示す.試料加
エラインをX-y平面のy方向とし、光源となす角度は
y軸に対して90゜, Z-X平面でZ軸から45゜となるよう
図1
nBによる回折格子の加工例
配置した.試料とカメラのなす角度θはZ-X 平面上
で変化させた.このようにして,ライン幅,ピッチ
Z
光源
カメラ
間隔および表面粗さによる干渉光の違いを調ベた
また,加工領域が200μⅢX200μmと非常に小さいた
X
め,詳細な評価には実体顕微鏡を用いて,加工部を
拡大し観察した.図3に実体顕微鏡での干渉光観察
4
における光源,試料及びレンズの位置関係を示す
Y
光源と試料とレンズのなす角度は常に一定で約34゜
である.評価は光の照射強度を一定とし,各試料で
の干渉光の明るさの違いなどを調ベた.併せて,図
3の条件下で干渉光の角度依存性を評価するため,
65゜くθく84゜
図2
干渉光観察における位置関係
^
光源と加エラインのなす角度を変化させ,反射光が
明るくなり始める角度から再び暗くなる角度を調査1
した.図4に角度依存性の測定方法を示す
﹂
3、結果及び考察
,
図5にライン幅とピッチ問隔を変化させたときの
''
干渉光の様子を示す.併せて,Z・X平面上のZ軸に対
して65゜ 84゜でカメラ角度を変化させた時の干渉
'゛婁
y
゛ンレンズ
光の様子も示す.図5より,角度を変化することで
干渉色の色が異なっておの,赤,緑,青と可視光の
光源
,,光源,
一气
代表的な色を有していることが分かる.また,今回
行った実験の範囲では,ライン幅とピッチ問隔の違
式料
毎ゞ
^
影
いによる干渉光の差は実用レベルに影響するほど現
われていなかった
次に基板の粗さに違いがあるときの,干渉光の様
図3
実体顕微鏡での干渉光観察
子を調ベた.加工前の基板表面の粗さは十点平均値
-62-
卿劃脚
露脚睡
建幽翻
(a)
(b)
ー,、'
r-ーー、'
智.ゞ,1、1点
ノ゛1玉ι、が"'甕ーイ藩、'ニタイ左轟イ
0.35 μ m
凹1 μm,凸3 μm
図6
2.16μm
1.67μm
0.72 μ m
実体顕微鏡による段差の影響評価
(光源, 試料,レンズのなす角度は34゜である.)
干渉光および反射光の角度範囲
表2
試料名
凹2 μ m,凸2 μm
14
NO,2
18
8
N03
21
11
一6
NO.4
21
"
一8
NO.5
25
"
-10
27
29
35
NO.6
20
20
11
一6
26
12
一6
26
NO.フ
図5 凹凸ライン幅の違いによる干渉光の比較
範囲(゜)
暗(゜)
明(゜)
20
-10
5
(C)凹3μm,凸1μm
暗(゜)
NO.1
30
23
(カメラと試料の角度θを変化させ,干渉光が左から
順に赤,緑,青と変化している様子.舶゜くθく84゜)
ないため回折次数が低く,干渉光の角度範囲が限ら
RZで鏡面力如.叫μm,非鏡面が0.27μmである.鏡面
れている.本研究の目的上,これ以上ライン数を増
やすことができないため,干渉光の角度範囲を補問
では前述のとおり干渉光が現われていたが,非鏡面
するように微細パターンを配列することが必要とな
では反射光の強まる角度は存在したが干渉光は見ら
れなかった.少なくとも, RZで0.27 μm以下でなけ
る
れぱ干渉光が得られないことが分かる.これは試料
表面で光が乱反射し,光の干渉力辻方げられるためと
4,おわりに
考えられる
し,光干渉を発現させた.干渉光はSi基板を鏡面加
工した場合に発生しており,1μm程度の寸法変化に
図6に加エラインの段差を変化させたときの,干
HB加工装置を用いてS1基板上に回折格子を作製
渉光の様子を示す.ライン幅,ピッチ間隔はそれぞ
より消滅することはなかった.干渉光が最も強く,
れ2μmであり,段差は0.35,0'π, 1.餌,2.16 μ mと
変化させた.それぞれの段差で干渉光が確認できた
角度範囲が広い条件はライン幅2 μm,ピッチ間隔2
μm,段差0.72μmであった'この結果,厩型ヘ凹凸
を形成するためのフォト・りソグラフィを行う際に
が,はっきのと確認できるのは段差0.72 μm であ
リ,その他の0.35,1.67,2.16 μmは大きな違いがな
かった
次に,干渉光が発現する光源と加エラインの角度
安価な等倍露光を適用できることが確認できた'そ
の後,本報告の結果を基にした仕様でフォトマスク
を作製し,マスクの状態でも赤色から紫色までの光
範囲を調査した.表2 に表 1の試料NO.1 NO.7のf
渉光の角度範囲を示す.ただし, NO.4は非鏡面であ
るため,反射光が明るい範囲を記した.各加_1条件
干渉が発生していることを確認した
今後,フォト・りソグラフィによる母型の加工,
による干渉光発現の角度範囲はほとんどが26゜前後
ル作製を行なう予定である
電鋳による表面形状の転写,射出成形によるサンプ
と大きな違いは確認できなかったが,唯・-NO.5では
35゜と多少範囲が広くなっていた.また,干渉光が
強まるのは光源と加エラインがX・y平面上で垂直で
参考文献
D h11P://WWW.ⅢPec.tsu.mie.jp/kyolku/kyouzai/
はなく, W゜前後斜めに位置するときであった
DE朏別/HTML/AG醐A.HN
現在,市販されている光学用の回折格子はlmmに
つき1000本のライン(10oo lines/mm)を加工してい
2)永山国昭,構造が生み出す色結晶化美粒子膜
が再現するモルフォブルー,化学,V01.54,
るが,今回の実験結果では50O Hneymmでも光干渉
が発現することを確認した.しかし,ライン数が少
-63-
NO.4,PP.23-24,1999