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裸の王様
(アンデルセン童話)
①
むかしむかし、ある所に、おしゃれ好きな王様が住んでいました。この王様はあきっ
ぽい性格で、一度着た洋服は二度と着ないのでした。そうなると、家来たちは大変です。
新しいデザインの洋服や珍しい布地をいつも探していました。
②
そのうわさを聞いて、やって来たのは二人の詐欺師。お城にやってくると、王様にう
やうやしく、申し出ました。
「私たちが織ります布は世界でも珍しい布でございまして、愚か者や嘘つきには見
えないという布でございます。王様にはこの布で、世界に二つとない美しい洋服を
縫って差し上げます」
王様はこの話を信じ、二人の詐欺師に大金を払いました。
③
次の日から、二人の詐欺師はお城の中の一室で機を織り始めました。
キーコン、カラリン、キーコン、カラリン
糸も何もありません。二人は機を織るまねをしているだけなのです。
④
布がどこまで織りあがったか、心配した王様は大臣に様子を見に行かせることにしま
した。王様がどうして自分で見に行かなかったかというと、もしかして、布が見えなか
ったらと不安だったからです。賢くて、正直者の大臣なら、きっと大丈夫だと思ったの
です。
大臣が部屋に入っていくと、機織りのまねをしていた二人の詐欺師は手を休め、
「大臣様、布は半分ほど出来上がっております。あと数日、お待ちください」
と言い、また一生懸命、機織りのまねを続けました。いくら目を凝らしても布が見えな
い大臣はうわずった声で言いました。
「これはなかなか見事な布じゃ。出来上がりを楽しみにしておるぞ」
愚か者だと思われたくない大臣は王様に「布は順調に織りあがっている」と報告しま
した。
1
⑤
翌日、王様は信頼している家来の一人にもう一度見てくるように言いました。大臣が
うそをついていないか、心配になったのです。
戻ってきた家来は
「見たこともないような、本当に美しい布でございます」
ないはずの布が見えたはずはないのですが、愚か者だと思われたくなかったので、嘘
をついてしまいました。
⑥
布が出来上がったという知らせを受け、王様も恐る恐る、見に行きました。家来たち
はみんな口々に布の出来栄えを誉めそやします。王様はしばらく考え込むと、胸を張っ
て、言いました。
「これは美しい。早速、ニューデザインの洋服を縫ってくれよ」
⑦
そのころ、人々の間にも王様の新しい洋服のことが噂にのぼっていました。
「王様の今度の洋服は今までにない、素晴らしいものらしい」
「愚か者や嘘つきには見えない、不思議な布で作られているらしい」
⑧
数日後、王様は出来上がった洋服を試着することになりました。
詐欺師が言いました。
「この服もズボンも布地がとても軽く、着ていて、動きやすいのが特徴でございま
す」
「素晴らしい。とても素晴らしい服じゃ。ぜひ、今度のお祭りにはこれを着て、街
中を行進することにしよう」
2
⑨
さて、お祭りの日。王様はたくさんの家来を従え、お城を出発しました。大通りには
何千何万と言う市民が詰めかけました。
「素敵な服だ」
「美しいデザインだ」
「王様によくお似合いだ」
みんな、口々に王様の洋服を褒めそやします。
⑩
王様たちが街の大広場に差しかかったときです。一人の子どもが王様を指差して、言
いました。
「王様は何も着ていないぞ。王様は裸で歩いている!」
それを聞いて、まわりの大人たちも言い始めました。
「確かに王様は裸だ」
「王様は何も着ていない」
しまいには街中の人々が
「王様は裸だ」
「裸の王様だ」
と、叫ぶようになりました。
王様は市民たちがそう叫ぶのを聞いて、恥ずかしくなりましたが、引き返そうにも引
き返せず、今まで以上に胸を張って歩きました。
3