イスラーム金融~地域間差異及び展望に関する分析

イスラーム金融
-地域間差異及び展望に関する分析Islamic Finance
-Analysis of Regional Difference and Prospect-
1
2011/9/17
09W1405012J
玄
鋒
目次
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
本研究の概要
問題意識
先行研究
事例
理論分析
含意および提言
考察
参考文献
2
本研究の概要・問題意識
Abstract and Awareness
3
問題意識
近年、中東及び東南アジアのイスラム教諸国家において独自の金融形態が盛ん
であり、年を追うごとにその市場は拡大しつつある。
また、その成長速度及び市場規模は無視することのできないものであり、その
形態を理解することは必要不可欠といえる。
本研究は、以下の要素に焦点を当てつつ、イスラム金融のプレイ
ヤーの今後の成長戦略に関して政策提言を目指すものである。
・イスラム金融の地域的優位性
・イスラム金融機関の成長戦略
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イスラム金融機関による債券発行額の推移
2007-2010における推移(単位は10億米ドル)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
2007
2008
2009
2010
Congressional Research Service:Islamic Finance: Overview and Policy Concernsより引用
5
イスラム金融・概要
中東及び東南アジア等ムスリムの多い地域で広まっている金融形態
イスラム法(シャリーア)に準拠
・利子(リバー)の禁止 (:無利子経済)
・不労所得の禁止
・禁忌事項(ハラール)に関わる取引の禁止
e.g. 豚肉やアルコール類を扱う企業への投資など…
・不確実なものの取引の禁止
・リスクと損益の共有
・無形資産担保の禁止
※シャリーアは主として聖典であるコーランに準拠
政治や日常生活等細かな
点にわたり規定
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主なイスラム金融のプレイヤー
国
・パキスタン
・サウジアラビア
・クウェート
・バーレーン
・アラブ首長国連邦
・マレーシア
・シンガポール
・インドネシア
・英国
etc...
金融機関
・Bahrain Islamic Bank
・Affin Islamic Bank Berhad
・Alliance Bank Malaysia
・Southern Bank Berhad
・HSBC Bank Malaysia
・Kuwait Finance House
・Hong Kong Islamic Bank
・Citi Islamic Investment Bank E.C.
etc...
2005年時点で65カ国前後、300超の金融機関が存在
(Businessweek誌調べ)
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イスラム金融概念の基本類型
金利(リバー)の概念の回避
商品等実物ベース
の取引を介在
・ムラーバハ
・イスティスナ
・イジャラ
etc
投資・損益分配
・ムダーラバ
・ムシャーラカ etc
無利子による運営≠無収益
キャピタル・ゲインや手数料等の収益により
成り立っている。
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イスラム金融の基本類型・具体例
ムラバハの基本スキーム(ローンに相当)
1. 商品売買合意
商品売り手
3. 商品受け渡し
2. 支払い
商品買い手
4. 返済
・それぞれの取引モデルは
従来型の金融機関が展開す
るサービス等と大差はない
。
・投機的要素の強い金融商
品でも必ず
銀行
・実物資産の介在
・当事者全員のリスク負担
ムダラバ預金の例
預
金
者
預金
資金
銀
行
配当
利潤
プロジェ
クト等へ
の投資
のいずれかを達成する必要
があるため、イスラム金融
全体としては従来型と比べ
(相対的に)ローリスク・ロー
リターンの傾向がある。
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イスラム金融機関のガバナンス
シャリア評議会の存在を除けば、基本的
な構造は一般的な企業と変わらない。
金融商品の開発
評議会による
宗教適合性の審査
市場への導入
評議会は数名の
イスラム法学者(ウラマー)
から構成
国や地域によって保守的/世俗的な
どの違いが大きい
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先行研究
Precedents
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イスラム金融に関する先行研究
学術的側面でのアプローチ
ムハンマド=バーキル・サドル (1994) 『無利子銀行論』
⇒イスラム経済には、2つのレベル。
→・資本主義が存在しない場合:無利子銀行とは経済における宗教的行動にすぎない
・非イスラム経済が競合する場合:イスラムの原則を維持しつつも現実的環境との
折り合いをつけなければならない
長岡慎介 (2006,2008)『現代イスラーム金融研究のための分析枠組み』
⇒イスラム金融発生の歴史的経緯と規模の拡大に関する考察
実務的側面でのアプローチ
吉田悦章 (2006)など
ほかシンクタンクおよび格付け会社等による年次レポートetc…
→金融商品の収益性や税制に関する議論等ミクロ経済的側面からの実証的研究
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既存の研究の枠組みに関する指摘
学術的アプローチ
→イスラム金融の成立に関して歴史的・文化的観点から考察
実務的アプローチ
→イスラム金融が展開する金融モデルに関して、既存の金融モデル
と比較・分析
・イスラム圏においても国や地域ごとに差異が存在するのにもか
かわらず、イスラム金融という一つの概念で括っている。
・実務的アプローチにおいては金融モデルの分析上に焦点を置い
ており、イスラム教との関連性及びイスラム金融自体の優位性に
関する分析が希薄になっている。
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事例と分析
Precedents and Analysis
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事例 -東南アジア型(マレーシア、シンガポールなど)・首都:クアラルンプール
・民族:マレー系、華人、インド系
・宗教:イスラム教、キリスト教等
・言語:マレーシア語、英語、タミル語、客家語等
マレーシア
・イスラム金融の主導的役割
・人口の約6割がムスリムだが、中東の諸地域
に比べ世俗的。
・デリバティブ取引等、より発展的な(既存の
金融形態に近い)金融商品が提供されている。
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事例 -中東型(バーレーン、サウジアラビアなど)バーレーン
・首都:マナーマ
・民族:アラブ系、インド系
・宗教:イスラム教
・言語:アラビア語、ペルシア語等
・中東地域におけるイスラム金融の拠点
・原油高によるキャッシュフローの増加を
背景に取引規模を拡大
・東南アジア諸国に比べ、シャリア遵守の
傾向あり
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事例まとめ-従来の金融モデルとの比較
東南アジア型
→世俗的国家で発達。
•より投機的な金融モデルの構築
•従来型との親和性高い
•シャリア適合性には議論も
中東型
→イスラム的国家で発達。
•シャリアの厳格な運用
•制限された金融モデル
•非イスラム圏では皆無
先進国でも一定の
プレゼンス?
中東・アフリカで今
後展開?
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分析・政策提言
Analysis and Proposal
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分析に用いる理論
参入障壁(barriers to entry)
•構造的参入障壁:既存企業がコストやマーケティング上の優位を
持ったり、規制から恩恵を受けたりする場合
•戦略的参入障壁:既存企業が積極的に参入を妨げようとする場合
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イスラム金融の持つ優位性:中東型イスラム金融
中東地域
・中東地域においては、宗教上の理由から
従来型の保険加入者は皆無である。
・また、同様の理由により預金における従
来型金融の割合も高くない。
→リテール(一般消費者向け)分野における
従来型金融の(構造的)参入障壁高
⇒宗教適合性重視のイスラム金融が優位性
を獲得
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イスラム金融の持つ優位性:東南アジア型イスラム金融
・非イスラム圏においてはシャリ
ア適格である意義が薄れ、また従
来型に比べ
その他非イスラム圏
•キャッシュフローの規模
•ブランド力
•元本保証等の面で劣っている
ため参入障壁は高
一方で中東地域への業務拡大
をめざす企業との提携が考え
られるためホールセール分野
における参入障壁は低
企業戦略上において宗教の差異が大きく影響
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イスラム金融の果たす意義-まとめ
イスラム教諸国家内での制度的差異
⇒シャリア解釈の厳密度(保守/寛容)
⇒歴史的要因(イスラム以外の宗教との接点)
⇒政治的要因(統治形態の問題etc)
→発生する金融形態の傾向に影響
⇒大きく分けて中東/東南アジア型の2種類
・参入障壁の観点から…
中東等イスラム圏
→保険事業を主体にした消費者向けの金融商品を提供(リテール)
西欧等非イスラム圏
→中東でのビジネス進出に際しての提携(ホールセール)
(+北アフリカ等途上国)
→CSR的観点からのサービスの展開 (相互扶助)?
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理論の視覚化(仮)
参入障壁
宗教
地域
構造的
方向の決定
戦略的
東南アジア
低
低
ホールセール
に拡大
中東
高
高
リテールに
拡大
低
低
ホールセール
に拡大
イスラム圏
イスラム
金融
非イスラム圏
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含意及び提言
・市場でのプレゼンスに関して
特に中東においては政治的要因からイスラム金融の形態がこれからも一定のプレゼ
ンスを保持すると言えるが、既存の金融形態と取って代わるものとは言えない。
・非イスラム圏におけるポジショニングに関して
国際化に際しては既存の金融形態に近似していくのではなくある程度の政策的距離
を維持することで利得を最大化できる。
具体的には,
・イスラム圏においてはリテール向けの金融商品(保険など)
・非イスラム圏においてはホールセール向けの金融商品(IB的役割を)
と地域によってポジショニングを変えて戦略を展開する必要がある。
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考察及び今後の研究課題
・イスラム金融の優位性に関して、制度的側面からの分析(歴史的経緯など…)
・世俗的/保守的の具体的な線引きは?
・→中東型/東南アジア型を構成する要素は?(政治、文化、風土、制度など…)
・シャリアに関する研究
・イスラム金融のガバナンスに関する研究
・既存の金融形態に関する研究
etc…
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参考文献
長岡慎介 (2006) 『現代イスラーム金融研究のための分析枠組み-理論と実践の学際的融合をめざして』
長岡慎介 (2008) 『イーナとタワッルクからみた現代イスラーム金融のダイナミズム-地域的多元性から東
西市場の融合へ』
武藤幸治 (2001) 『アジアに広がるイスラム金融』
吉田悦章 (2007) 『イスラム金融入門』
田原一彦 (2009) 『日本法制下のイスラーム金融取引』
吉田悦章 (2009) 『金融先進国のイスラーム金融』
糟谷英輝 (2010) 『アジア諸国におけるイスラム金融の展開』
福島康博 (2008) 『マレーシアのイスラム金融を対象とする研究の論点』
東眞史 (2002) 『イスラームの世界地図』
和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦 (2009) 『マーケティング戦略』
M, B, Sadr (1994). 『無利子銀行論』
S, Douma. (2007). 『組織の経済学入門』
D, Besanko., D, Dranove., and M, Shanley. 『戦略の経済学』 奥村昭博ほか訳
D. North. 制度・制度変化・及び経済成果
Z. Iqbal (1997). Islamic Financial Systems
S, Ilias. (2010). Islamic Finance: Overview and Policy Concerns
R, Wilson. (2007). Islamic Finance in Europe
H. A. Dar., J.R. Presley. Islamic Finance: A Western Perspective
T. S. Zaher., M. K. Hassan. (2001). A Comparative Literature Survey of Islamic Finance and Banking
Swiss. Reinsurance Company Economic Research & Consulting., (2005). World insurance in 2005: moderate premium
growth, attractive profitability.
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ご清聴ありがとうございました
‫!شكرا لك‬
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