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論文
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける
異音発生メカニズムの解析※
Small Motorcycle for Pressure Regulator Analysis of Noise Generation Mechanism
上 原 寿 史*1
Toshifumi UEHARA
福 重 光 豊*1
Mitsutoyo FUKUJYU
To cope with emission regulations of each country in recent years, FI of motorcycle is accelerating. Demand for
inexpensive motorcycles is high, cost containment is an important element in developing countries, Costs through
simplification and miniaturization is progressing in the FI system as a whole. Pressure regulator role to keep constant
the fuel pressure has reduced the number of parts therein, Ball valve type pressure regulator has spread around
the small motorcycles. However, ball valve type pressure regulator pressure adjustment, Ball valve has a structure
easy to swing, there is a noise problem could occur. When idling or when it is ON the ignition with less noise
especially around, it sounds remarkably has become a problem, noise reduction was necessary. By angularly narrow
valve seat, by suppressing the amount of movement of the ball valve in the present report, we report the results
and consider ways of reducing noise while maintaining the characteristics of the pressure regulator of prior art.
Key Words: Pressure Regulator, Noise, Valve Ball, Fuel Pump Module
1.はじめに
に伴いボールバルブが開弁することで燃圧を
レギュレートする.
近年の各国の排出ガス規制に対応する為,
ボールバルブ式 P / R E G を搭載している二
二輪車の FI 化が加速している.発展途上国に
輪車においては特に周りの雑音が少ない状態
おいては安価な二輪車の需要が高く,コスト
でイグニッションを O N にした際やアイドリ
抑制が重要な要素であり,F I システム全体で
ング時に乗り手にとって不快な異音が聞こえ
小型化や簡素化によるコストダウンが進んで
ることが問題となっており,異音の低減が必
いる.
要であった.
その中で燃料圧力を一定に保つ役割のプ
従 来 は ,筐 体 の 剛 性 U P や 通 路 の 形 状 変
レッシャレギュレータ(以下 P / R E G)は部品
更で異音対策を行っていたが,異音発生源で
点数を削減した,ボールバルブ式 P/REG が小
Injector
型二輪車を中心に普及している.
P/REG
Fuel Feed Pump
FI システムについて Fig. 1 に示す.P/REG
はフューエルフィードポンプ(以下 FFP)から
インジェクタに至る配管内に設置されており,
Fuel Tank
燃圧をレギュレートしている.
ボールバルブ式 P / R E G の構成について
F i g . 2 に示す.P / R E G は,ボールバルブ,
ボールガイド,スプリング,プラグ,ボディの
Filter
5つの部品で構成される.配管内の燃圧上昇
Fig. 1
※2013 年 7 月 4 日受付
*1 開発本部 第一開発部
- 21 -
FI system
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける異音発生メカニズムの解析
ある P / R E G の異音低減対策は講じていな
Without noise (5L/Hr)
本報では P / R E G 本体の対策を講じること
で従来のプレッシャレギュレータの特性を維
0.5
0.4
0.4
Vibration [G]
Vibration [G]
かった.
Noise generation (40L/Hr)
0.5
0.3
0.2
0.1
0.3
0.1
0
持しながら異音を抑制した検討方法と結果を
Noise impeller
0.2
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
0
1000
Frequency [Hz]
報告する.
Fig. 3
2000
3000
4000
5000
Frequency [Hz]
Vibration characteristic
【VALVE, BALL】
Noise generation (40L/Hr)
Without noise (5L/Hr)
Material: SUS440C
Function: Air tight
【BODY, REGULATOR】
Material: POM-C
Function: Received the
valve, ball
【SPRING, COMPR】
0.02
Pulsation peak [kPa]
0.02
Pulsation peak [kPa]
【GUIDE, BALL】
0.015
0.01
0.005
537Hz
0.015
0.01
0.005
0
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
0
1000
Frequency [Hz]
Material: SUS440C
Function: Air tight,
Retention of
each component
Fig. 4
2000
3000
4000
5000
Frequency [Hz]
Pulsation in the piping
【PLUG】
Material: SUS304WPB
Function: Pressure
regulation
Fig. 2
3.異音発生源の推測
Material: C3604
Function: Retention of
the spring
3.1. 構成部品の共振
P/REG 構成部品の共振の検証を行うにあた
Configuration of the pressure regulator
り構成部品のモーダル解析を行った(Table 1)
.
SPG 以外の構成部品の固有振動数は脈動周
2.異音事象について
波数 537Hz と大幅に乖離している.SPG の固
有振動数は脈動周波数と近いため,SPG の共
本 P / R E G の異音発生時の事象を把握し,
振特性検証を行った.共振特性検証の結果を
Fig. 5 に示す.
定量的に判断する為に P / R E G を組み込んだ
フューエルポンプモジュール(以下 F P M)に
1次の共振周波数は約 800Hz であり,脈動周
ピックアップを取り付け,振動周波数を測定
波数と乖離している為,SPG の共振が異音発
する方法と配管内脈動の周波数解析を測定す
Table 1
る方法を実施した.
Analysis of the components
Natural frequency [Hz]
前者は異音発生時に 500~2000H z に振動
の盛り上がりが見られるが,明確なピーク周
VALVE, BALL
波 数 が 現 れ て お ら ず ,定 量 的 判 断 が 難 し い
(Fig. 3).
Primary
Secondary
3 Order
619620
―
―
11345
11355
26560
686
770
927
31618
―
―
40768
―
―
GUIDE, BALL
後者は約 540Hz に明確なピークが確認され
た為,脈動ピークで定量的な判断が可能であ
SPRING, COMPR
ることが分かった(Fig. 4).よって,この脈動
PLUG
を抑制することで異音を低減できると判断し
た.脈動を発生させる要因として,「構成部品
BODY, REGULATOR
の共振」及び「ボールバルブの自励振動」が推
測される為,これらの検証を行った.
- 22 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
生源ではないと判断した.以上のことから内部
Fig. 7,Fig. 8 に流体解析結果を示す.色調
部品の共振による脈動発生は無いと判断する.
で流速を識別しており赤色の流速が速く,青
色は流速が遅い.
3.2. 自励振動の確認
クランク流路下流の配管内の流れをみると,
流路内で流速差が生じており,クランク通路を
異音発生時の P/REG 内部の挙動を確認する
為,BODY を透明なアクリルで製作し,高速度
通過した燃料は外周壁付近の流速がより早く,
カメラを用いて可視化検証を行った(Fig. 6).
内周壁付近は流速が遅いことが推測される.
次に P/REG 内部の解析結果に注目すると,
可視化検証の結果,異音発生時にボールバ
ルブの自励振動が確認され,揺動の周波数を
ボールバルブ左右にも同じく流速差が発生し
測定したところ,異音発生時の配管脈動とほ
ており,前述の P / R E G 上流で発生した流速
ぼ同じであることが分かった.
差をもった燃料が P/REG にそのまま流入し,
P/REG 内でも流速差が発生したと推測する.
以上のことから異音の発生はボールバルブ
以上のことから,異音は配管内の流速差に
の揺動が原因であると推測した.
よって発生したボールバルブの揺動が原因で
3.3.ボールバルブの揺動
あると推測した.よってボールバルブの揺動
ボールバルブを揺動させる要因として,配
を抑制することが異音低減に効果があると判
管内の燃料の流れが影響していると推測し,
断し,検証を行った.
F P M 内の流路をモデル化シミュレーション
<The flow of a crank piping>
ソフトによる流体解析を実施した.流路モデ
ルは,FFP から吐出した燃料が流入方向より
90°方向に曲がり P/REG に至るクランク構成
The flow
of fuel
Atmospheric
pressure
になっている.流量設定は異音が発生してい
る 40L/Hr で解析した.
SPG vibration [G]
2
Flow velocity
difference generating
Fig. 7
Electric Noise
The velocity inside the piping by a simulation
Primary (798Hz)
1.5
Secondary
1
0.5
0
Flow velocity
difference generating
0
500
1000
1500
2000
Frequency [Hz]
Fig. 5
SPG resonance characteristic
Fig. 8
Valve ball
The velocity inside the P/REG by a simulation
4.異音低減の手法
Guide ball
ボール揺動抑制での異音低減を行うにあた
り,異音低減の目標値を設定した.
Spring
今回,異音低減が必要となった車体の最大
Fig. 6
電圧時の流量が 40L / H r であることから,異
P/REG visualization
- 23 -
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける異音発生メカニズムの解析
音対策の目標を「流量 40L/Hr で音が聞こえな
の流速が減少し,ボールバルブ揺動が抑制さ
い仕様」とし,P/REG の基本性能である,圧力
れたことによって,異音低減に繋がったと推
勾配,残圧特性を異音低減仕様でも同等水準
測する.
しかし,I N 側絞り追加は異音タフネス向上
とすることを目標にした.
ジー音発生原因である,ボール揺動を抑え
を確認できたが,圧力損失が増加する為,基本
る方法として「ボールバルブ周り流速低減」と
性能の圧力勾配が絞り径を小さくするほど悪
「ボールバルブの水平方向拘束力 U P」に着目
化することから,異音低減の手法としては適
さないと考えた(Fig. 10)
.
し,低減仕様を考案した(Table 2)
.
異音低減効果があったのは2つあり,I N 側
絞り追加とシート狭角化である.この2仕様
4.2. バルブシート狭角化
について以下に考察を行った.
シート狭角化も角度を狭くすればするほど,
異音に対するタフネスの向上が確認できた
4.1. IN 側絞り追加
(Fig. 11)
.
また角度に対する脈動ピークを測定したと
IN 側絞り追加は絞り径を小さくすればする
ほど,異音に対するタフネスの向上が確認で
きた.
With no fluid restrictor
Fluid restrictor
メカニズムを解析するにあたり,絞りを追
加した CAE 解析を行った(Fig. 9)
.
流速の解析結果に注目すると,絞りによっ
て,バルブシート前の流速は増加しているが,
バルブシートを通過した後の流速は低減して
Velocity
いる.
次に圧力の解析結果に注目すると,絞りに
よって,ボールバルブ手前の圧力が減少して
おり,バルブシート通過前と通過後で圧力差
Pressure
が減少している.
このことから,バルブシート通過前と通過
後の圧力差減少によって,ボールバルブ近傍
The proposal which controls vibration of a
ball
View
point
Measure
Turning point to mass production
specification
Sheet acute
angle
The
measure
effect
○
Ball binding
force
Form change
of a guide ball
The flow
velocity
reduction
of the
circumference
of a flange
Fluid restrictor
addition
Diameter
change of
a flange
×
Fluid
restrictor
○
The diameter
of a flange
×
The simulation of fluid restrictor existence
8
Pressure gradient [kPa/(L/Hr)]
Table 2
Fig. 9
Fluid restrictor
7
6
5
With
no noise
4
3
2
With no fluid restrictor
1
0
0.5
Fig. 10
- 24 -
Noise
generating
generatong
1
1.5
2
2.5
3
Diameter of a fluid restrictor [mm]
3.5
4
Relation between a fluid restrictor and a
pressure gradient
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
ころ,角度を狭くするほど,脈動ピークの減少
無く,異音ピークの低減を確認できた為,異音
が確認できた(Fig. 12)
.
低減の手法として適していると考える.
シート狭角化のメカニズムとしてはシート
また,シート狭角化は角度を狭くするほど,
角が狭くなったことによって,ボールバルブ
異音発生流量のタフネスが向上する結果が得
リフト時の揺動量が減少した為と推測した.
られたが,バルブシート角度を 10°にしたと
Fig. 13 に流量に対する 30°と 60°の揺動量の
ころでボールバルブの食いつきが発生する.
関係を示す.
よって,目標流量を達成し,食いつきに対し
シート狭角化は基本性能を悪化させること
て,十分なマージンが取れる,最適なシート角
を設定することが重要である.
Noise generating discharge [L/Hr]
70
60
5.まとめ
50
40
ボールバルブ式 P / R E G の異音について原
30
因解析及び異音低減検証行った結果,以下の
20
結果が得られた.
10
0
1) 異音発生原因は P/REG 上流のクランク
20
30
40
50
60
通路で発生した流速差がボールバルブを
70
Sheet angle [°]
Fig. 11
0.02
生し,流動音が異音として聞こえていた
ことが分かった.
2) バルブシート角を狭くし,ボールバルブ
60°
50°
30°
0.015/450Hz
Pulsation peak [kPa]
揺動させたことによって,燃料脈動が発
Relation between a sheet angle and a noise
generation discharge
0.015
の揺動を低減することで,既存機種の性
能を維持しながら,異音タフネスの目標
0.011/494Hz
値をクリアできた.また,バルブシート
0.01
角の狭角化によるネガ検証も行い,異音
低減には最適なシート角の設定が重要と
0.005/463Hz
0.005
0
なることが分かった.
0
1000
2000
3000
4000
5000
著 者
Frequency [Hz]
Fig. 12
Pulsation in piping
The amount of rocking (mm)
0.25
60°
30°
0.2
0.15 18.3 (L/Hr)
(Sheet angle: 60˚)
The amount of rocking
0.1
0.05
0
47.4 (L/Hr)
(Sheet angle: 30˚)
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
The amount of lifts (mm)
Fig. 13
上原寿史
The amount
of lifts
0.6
福重光豊
ボール式 P / R E G は潜在的に脈動音を持っ
0.7
ており,発生した異音の抑制が長年の課題と
Noise generating
discharge
なっています.今までは対処療法で都度対応
していましたが,今回のジー音低減によって,
The amount of noise generation rocking
- 25 -
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける異音発生メカニズムの解析
メカニズムの一部が分かりましたので,それ
らを探求し,更なる商品性向上を図っていき
たいと思います.最後に本研究に対して,ご指
導,ご協力頂いた皆様にお礼を申し上げます.
ありがとうございました.
(上原)
本研究テーマに携わったことで P / R E G 異
音低減,原因解析の難しさとやりがいを感じ
ました.今後も異音を更に低減できる P/REG
を開発出来るようチャレンジしたいです.最後
に本研究を遂行するに当たり御指導,御助言
を頂きました皆様に深く感謝致します.
(福重)
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