膝半月板損傷 (埼玉医大かわごえクリニックスポーツ医学外来) ひざ Ⅰ 膝関節の構造と半月 だいたいこつ けいこつ しつがいこつ 膝関節は、太ももの大腿骨、スネの脛骨、そしてお皿の膝蓋骨といった3つの骨からできていま す。これら3つの骨の表面は関節軟骨におおわれ、関節は滑らかに動くことができます。また、脛 骨と大腿骨のすき間に合うように半月(板)が存在します(図1) 。 半月は関節の内側と外側に1つずつあり、真上からみると半月というよりも三日月のような形を した軟骨です(図2) 。また、ときには、円板状メニスクス(図2)といって満月のように幅が広 く大きな半月があります。半月は、関節の潤滑や支え(関節安定性) 、体重を散らす(荷重分散) 、 関節にかかるショックを吸収する(衝撃吸収)といった働きをしています。 半月の大部分は関節液によって栄養されており、半月には全体の 25~30%しか血液が流れてい ないという特徴があります。身体のどのような部位でも、損傷した組織は血液から栄養をもらい治 癒しますが、半月は血行に乏しい組織なので、この血行が存在する部分以外、すなわち血行のない 部位で損傷した場合には、半月は治る見込みはありません。 a 図1.正常膝関節のMRI 膝関節(右膝)を正面からみたMR画像です。なお、 通常のレントゲン写真では、骨以外は写りません。 a:大腿骨 * c b:脛骨 c:外側半月(黒い▲の部分) * d b d:内側半月(黒い▲の部分) *:関節軟骨(大腿骨と脛骨の表面にある灰色の部分) Ⅱ 半月損傷の症状 成長期には、円板状メニスクス(図2)による損傷が多くみられます。円板状メニスクスは通常 の半月よりも幅が広く厚いので、明らかな外傷がなくても、普段の日常生活動作によって、関節の 中で繰り返しこすられ損傷します。膝の外側の痛みやひっかかり感を訴えます。 思春期から青年期になると、しばしばスポーツ外傷(ケガ)によって損傷するようになります。 ぜんじゅうじじんたいそんしょう じゅうだんれつ え 。縦断 とくに、前十字靱帯損傷では、内側半月の縦断裂やバケツ柄断裂が多くみられます(図2) 裂では痛みとひっかかり感、バケツ柄断裂では膝を曲げたり伸ばしたりすることができず、膝がロ ックした状態(ロッキング)になります。 中高年では、加齢に伴う半月の変性のために、軽微な外力や、明らかな外傷なしに損傷をきたし ます。かぎ裂き状に損傷するフラップ断裂(図2)や、複雑な形に損傷する複合断裂が多く、痛み やひっかかり感を訴え、関節液の貯留をきたすことがあります。 半月損傷の診断は、このような症状に加え、MRI による画像診断によって行いますが、確定診断 は治療を兼ね関節鏡(内視鏡)によって行われます。 図2.半月の損傷 (a) (d) (c) 半月を真上からみた図です。 a:正常半月 三日月のような形をしている。 b:円板状メニスクス(半月) (b) 幅が広く厚いので、容易に損傷する。 c:縦断裂とバケツ断裂 * 縦断裂は半月に沿った断裂(黒い部分)で、不安定 になった断裂片がバケツの柄(*)のように転位し(←)、 断裂片(*)が関節の間にはさみこまれると、膝を曲げたり伸ばすことができずロックした状態となる。 d:フラップ断裂 かぎ裂き状に切れ(←)、不安定になったフラップが関節の間にはさみこまれ、引っかかり感を生じる。 Ⅲ 損傷半月の治療 半月は血行に乏しい組織なので、損傷した半月が自然に治癒することは困難です。従って、通常、 せつじょじゅつ 損傷半月に対して手術が行われます。手術法としては、損傷した部分を取り除く切除術と、糸で縫 ほうごうじゅつ い合わせる縫合術があります。以前は、半月は関節内の無用の長物と考えられ、半月を全て取り除 く全切除術が行われていました。しかし、前述したように、半月にも種々の機能・役割があるので、 半月が取り除かれた分その機能が失われ、関節の他の部分に負担がかかるようになり、後に変形な どをきたすことがあります。そこで、できるだけ切除する範囲を少なくするために、部分切除術が 行われるようになりました。さらに、血行のある場所で損傷し、損傷した半月が少しでも治る可能 性があれば、縫合術を行い半月を残すようにします。 このように、半月も重要な機能を有していることが明らかになり、現在ではできるだけ半月を温 存するために種々の試みが行われています。しかし、縫合術を行っても、血行が悪い、損傷が強い など、断裂した部位の条件が悪い場合には、縫合した部位が癒合せず、再度切除あるいは縫合術が 必要になることがあります。なお、半月を切除しても元通りスポーツができるようになります。 Ⅳ 術後のリハビリテーション 靭帯損傷を伴わない半月の単独損傷では、半月切除術後、数日~1週間程度松葉杖を使用し、ス ポーツには術後2~3ヵ月で復帰します。また、縫合術では、スポーツへの完全復帰は術後6ヵ月 ごろになります。前十字靱帯再建術を同時に行ったときには靱帯の手術に準じます。
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