デジタルカメラとフリーソフトを用いた簡易運動計測システムによる歩行分析

第 50 回日本理学療法学術大会
(東京)
6 月 6 日(土)ABC 区分
ポスター会場(展示ホール)【生体評価学 3】
P2-A-0542
デジタルカメラとフリーソフトを用いた簡易運動計測システムによる歩行分析
水野
智仁,山中
悠紀,山本
洋之,村上
仁之,石井
禎基
姫路獨協大学 医療保健学部 理学療法学科
key words 歩行分析・簡易動作解析システム・フリーソフト
【はじめに,目的】
近年,動画撮影機能をもつ安価なデジタルカメラを用いた簡易の運動計測や汎用の画像解析ソフトウェアを用いた解析が注目
されており,リハビリテーション領域でもさまざまな運動計測システムが提案されている。我々は,第 49 回日本理学療法学術
大会において,市販のデジタルカメラとフリーソフトを使用した簡易動作運動計測システムを使用して立ち上がりの動作解析
を行い,その有用性を報告した。しかし,立ち上がり動作を矢状面で撮影し,関節角度を解析する場合,正投影面で被写体とカ
メラとの距離の変化はないため誤差は少ないが,歩行動作を矢状面で撮影する場合,カメラと被写体との距離の変化を伴うため
誤差が生じる可能性がある。そこで,本研究では簡易動作運動計測システムを使用して歩行動作の分析に応用することが可能な
のか,その有用性を検証した。
【方法】
健常男子大学生 4 名を被験者とした。運動計測にはデジタルカメラ(ハイスピードエクシリム,CASIO)1 台を使用した。直径
28mm の円形ゴム製マット(黒色)に直径 20mm のゴム製半球(蛍光黄色)を組み合わせた自作のカラーマーカーを被験者右側
の肩峰,大転子,大腿骨外側上顆,外果,外果から床面の垂線と第 5 中足骨底外側を通る床面との平行線との交点,第 5 中足骨
底外側に貼付し,通常の歩行速度で約 7m の歩行路を歩かせた。歩行路中央から右側方 170cm,高さ 80cm の位置にカメラを三
脚で水平位に固定し,HS 120 モード(サンプリング周波数 120Hz)で歩行の計測を行った。記録した動画を静止画像に分割し,
フリーソフト(BMP_measure)による静止画像 1 枚ずつに対する手動マーキング作業による解析(手動解析)と有償の動画解
析数値化システム(PV Studio 2D,エル・エー・ビー)の動画上でのマーカー自動追尾機能による解析(自動解析)の 2 種類の
方法で矢状面での股関節,膝関節,足関節角度を算出した。解析区間は 1 歩行周期とし,腰部正中後面に装着した体幹加速度セ
ンサー(LP WS0942,追坂電子機器)で計測した前後および鉛直成分の加速度波形から踵接地を推定し,動画との一致を確認す
ることで同定した。2 種類の解析方法によって得られた下肢関節角度の最大および最小値を中央値で算出するとともに,交差相
関関数を用いて経時的データの類似度を分析した。統計解析には IBM SPSS Statistics 21.0 を使用し,有意水準は 5% 未満とし
た。
【結果】
被験者 4 名の 1 歩行周期の股関節の最大屈曲角度は手動解析 22.7̊,自動解析 23.5̊,最大伸展角度はともに 8.1̊ であった。膝関節
の最大屈曲角度は手動解析 63.8̊,自動解析 64.6̊,最大伸展角度は手動解析−3.5̊,自動解析−2.9̊ であった。足関節の最大背屈
角度は手動解析 9.8̊,自動解析 9.4̊,最大底屈角度は手動解析 10.0̊,自動解析 15.1̊ であった。交差相関関数による解析では time
shift=0 で股関節角度(0.99∼1.00)
,膝関節角度(0.99∼1.00)
,足関節角度(0.88∼0.97)がそれぞれ相関係数最大値を示した。
【考察】
本研究では手動解析と自動解析の 2 種類の解析方法によって算出した歩行動作の経時的データの類似度を分析した。1 歩行周期
の下肢関節の角度変化は股関節では伸展と屈曲が生じ,1 つの正弦波が描かれる。膝関節では相対的な伸展位から屈曲し,再び
伸展位に戻るという 2 つの屈曲の波形が描かれる。足関節では 2 回の背屈と底屈が生じるような波形が描かれる。本研究で手動
解析によって得られた股関節,膝関節,足関節の経時的データは 3 次元動作解析装置で下肢関節角度を計測した先行研究と同程
度の値を示すとともに,自動解析とに高い類似性を認めたことから,簡易動作運動計測システムが歩行分析にも有用である可能
性は高い。ただ,交差相関関数による解析で股関節角度や膝関節角度の相関係数と比較すると足関節角度の相関係数はわずかに
低値を示した。足関節では足角による影響など 3 次元の要素を多く含むため,矢状面での解析には従来から問題が指摘されてい
るが,フリーソフトを用いた解析では画像解像度の限界などによって誤差がさらに拡大する可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
簡易の運動計測システムを用いて歩行動作を経時的データから分析した本研究結果は臨床での運動計測システム利用の発展に
資する意義がある。
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