労働力の送出・受入れについてのPDFファイル

マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
5.1
関係法令及び制度の概要
マレーシアの労働者の移動に係る最大の関心事は、外国人労働者のマレーシアへの移住
である。国家レベルにおける外国人労働者の管理政策は、外国人労働者に関する内閣特別
委員会の管轄であり、同委員会がマレーシア国内にいる外国人労働者の必要性と状況を確
認し、適切な政策を策定することになっている。法律としては、3 つあり、1955 年雇用法
(Employment Act 1955)
、1968 年雇用(規制)法(Employment Restriction Act 1968)
、
及び 1959/63 年移住法(Immigration Act 1959/63)である。しかしこれらの法律は移民
労働者のみを対象としているものではない。例えば、1955 年雇用法は、労働者の一般的な
枠組みとその関連事項についての法律であり、外国人労働者に関係するのは雇用主は採用
した日から 14 日以内に当局に対して届出する必要があること、及びマレーシア人と外国
人労働者を差別しないことという部分のみである。
移民を規制する最も重要な政策は、すべての外国人労働者の入国と就労を許可する労働
許可証(Work Permit)の発行である。労働許可証は、移民労働者を規制する基本的な条
件として、移民にマレーシアで居住することと就労することを許可するものだが、これは
主に労働市場の需要を満たすためだけの期間に限定したものである。いくつかの条件、例
えば、年齢、性別、国籍、技能、期間、分野を許可証で特定することにより、移民を制限・
規制している。個々の許可証ごとに必要条件を変えながら、移民で労働力不足と技能者を
補おうとしている。技能レベルを特定する労働許可証は 2 種類ある。単純労働者及び未熟
練労働者は、月 2,000 リンギ1(約 580 米ドル)以下の労働者として分類されている。こ
のグループに属する労働者は主に“移民労働者”もしくは“外国人労働者”と称される。
2,000 リンギ以上の収入を得る労働者は“専門家(Professional Workers)
”もしくは“海
外 駐 在 者 ( Expatriates )” と 呼 ば れ て お り 、 2 年 以 上 の 契 約 で あ れ ば 、 雇 用 パ ス
(Employment Pass)が発行される。海外駐在者でも短期契約者(1 年以内)は専門家と
してビザが発行される。
もう 1 つの政策は、外国人雇用税(Levy)の徴収である。この税金は最初、1991/1992
年の国家予算策定時に、社会保障費の補填と外国人労働者への過度の依存を避けるために
導入された。年間の税額は産業と技能レベルによって変わる。この税金の主な目的は、外
国人労働者を採用するコストを高くすることにより、外国人労働力に対する依存を軽減す
ることである。税金の年間額は、外国労働者 1 人当たり、360 リンギ(105 米ドル)から
1,800 リンギ(530 米ドル)まで幅広いものである。
もっと広い視点からマレーシアにおける外国人労働者の管理の基本となる政策として、
1)移民労働者の管理及び規制、2)不法移民の排除、3)移民労働者の保護がある。マレ
ーシアの国家政策として、外国人労働者が従事できる産業を植林、建設、製造、サービス
に限定している。外国人労働者の国籍や産業分野も規制している。家政婦として就労する
ことができる外国労働者は、インドネシア人、タイ人、カンボジア人、スリランカ人、フ
ィリピン人のみである。
マレーシアには自国民が国外へ働きに行くことに対しての規制は特にないようである。
このことは、多くの労働者を送出している国に特定な法律があったり、労働者送出に関す
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1 リンギ=27.1915 円(2009 年 12 月 31 日現在)
1
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
る責任機関を設置していることと比べると大きな違いである。例えばスリランカであれば、
1985 年外国雇用法(1994 年に改定)で、移民労働者に関するさまざま問題に対処してい
る。この法律は、国外で働くスリランカ人を保護するだけでなく、国外での就労を促進す
る目的もある。インドでは、イギリス植民地時代からあった 1923 年移民法を 1983 年に新
移民法に改定した。国外で働くマレーシア人に関しては、国外に 3 カ月以上滞在を希望す
る者は当該国の大使館/領事館に登録することになっているため、外務省がそのデータを
把握している程度である(マレーシアは 104 カ所に在外公館を設置している)
。
5.2
労働力移動の規模
ほとんどの国では、海外移住民に関する統計や指標の統一システムはない。また、労働
者の送出国は海外移民の動向を記録しておらず、受入国で統計を取っていても、双方で移
民の定義が違うこともある。それ故に移民の正確な動向を知ることは難しい(Carrington
& Detragiache 1999)
。1 つの手法として取り入れられたのが世界銀行が採用している方
法で、国外で誕生した移民の子供を集計することで、移民の概数を算出している。その報
告によれば、
マレーシアの国外移民及び受入移民の数は各々145 万 8,944 人と 163 万 9,138
人になっている。
マレーシア政府は自国を出て働きに行く(労働者の送出)人数及び国外からマレーシア
に働きに来る(労働者の受入れ)人数について、正式には発表していない。正式な統計デ
ータはどこにも存在しないため、断片的に、政府がその都度発表した時だけに、情報を得
ることができる。例えば、国会において議員から質問が出た場合などである。2009 年 12
月 4 日の段階で、ヒシャムディン(Dato Seri Hishammuddin)内務大臣は、省内で外国
人の数及び彼らの許可証やビザの洗い出しをしている最中であり、まとまり次第副首相に
報告すると発言している(2009 年 12 月 5 日付、スター紙)。しかしながら、現在まで何
も発表されていない。同省移民局によると、マレーシアでは約 200 万人の正規外国労働者
を雇用している。彼らのほとんどは、インドネシア、ミャンマー、インドからの労働者で
あり、マレーシアの労働人口の 5 分の 1 を占めている。不法滞在者の数はデータの出所に
よって異なるが、だいたい 50 万人から 150 万人と推測されている。
5.3
労働力移動の要因
人が仕事を目的に国境を越えて移動するという行動は、偶発的な出来事ではない。移民
の出入国については、特定のグループや地域などのパターンがあり、さまざまな要素が移
動の原因となっている。Ratha & Shaw(2007)の調査、「南から南への移住と送金
(South-South Migration and Remittances)
」によると、次のような要因がある。
(1) 近さ
人は近い国、ほとんど自国に隣接する国に移住する傾向がある。南から南へ移住する者
の 80%は国境が接している国への移動であると報告している。国境を接している国がない
場合でも、自国から近い国へ移住することが多い。この傾向は、移住にかかる費用が遠い
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マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
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国よりは自国に近い方が安く済み、社会的にも文化的にも近く、物価も大幅な違いはない
と考えられるからである。もう 1 つの理由は、ほとんどの移民たちが移住に必要な正式書
類を所持していないことから、陸続きの国へ移動していくのである。そのため、国境が接
している国でなければ越えて行くのは難しいという行動上の制約がある。これはマレーシ
アにもいえることである。というのも、ほとんどの移民がマレーシアの南 1.5 キロの海峡
を隔てたシンガポールへ移住するからである。逆にマレーシアに移住してくる者で一番多
いのはインドネシア人であり、同国とは陸と海で数千キロにもわたる長さで国境が接して
いる。
(2) ネットワーク
報告書によると、移住を考えている者にとってネットワークは重要である。移住目的国
に人種、コミュニティ、血族等のつながりがあることで、移住に伴う費用や不安要素を減
らすことができるからである。また、この要因はマレーシアにも当てはまる。後述するが、
マレーシアとシンガポールは過去には 1 つの国であったため、両国の国民は、人種、家族、
友人などの縁でつながっている。
(3) 収入
報告書では、自国と移住国との収入の差が少なからず影響があると指摘している。その
傾向は、
言わずもがなであるが、
収入が低い国から高い国へと移住するということである。
しかし、Ratha & Shaw の調査では、収入格差が強い要因にはなっていないとしており、
後述するようにマレーシア人は高い収入を得られるとともに、通貨の交換レートが強い国
に移住する傾向があるとしている。また、マレーシアに移住してくるのは、マレーシアよ
りも”貧しい”とされる国の、インドネシア人、バングラデシュ人やネパール人などが多い。
(4) 季節的移住
いくつかの国では、天候が要因となる季節的な移住が見られる。ただし、それは農業の
季節労働者の場合が大部分である。マレー半島の北部では、タイ国籍のイスラム教徒が稲
作やその他の作物の種植えと刈り取りのために移住する季節的な移動が見られたが、近年
では農場における機械化によりほとんど見られなくなった。
(5) 経由地
移住しようとする国に移動する際に経由する国への移住も見られる。途上国では、先進
国に移住しようとする移民を受入れているケースがある。マレーシアは、その多民族的な
人口構成や地理的位置により、インドやパキスタン、近年増加しつつある中東からの移民
が、オーストラリアやその他の先進国へ移住する際の経由地になることが多い。
(6) 紛争、災害
大量な人の移動や難民は、国内に紛争や災害があった時に見られる。国内で災害があっ
た場合、避難のためにとりあえず近くの国に移動することがしばしばある。
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Ratha & Shaw(2007)によると、南から南への移住は、南から北への移住と同じくら
い多いと推測している。彼らの計算によると、途上国である自国から移民する約 7,400 万
人、もしくは移民の半分は、そこから別の途上国へ移動していく。さらに、南から南への
移住の 80%は、国境を接している国々の間で行われており、多くの場合、収入に差がほと
んどない国の間での移動である。Ratha & Shaw が指摘するこれらの要因は、すべてでは
ないとしてもその多くがマレーシアに当てはまることは前述したとおりである。マレーシ
アの労働者の送出、受入の要因に関する詳細は後述する。
5.4
送り出しの所管機関
前述のとおり、マレーシアには国外に移民する、もしくは国外に働きに行く国民に対す
る特定の法律はなく、またその数も把握していない。また、国民の海外への移動の調査を
担当する機関もない。外務省は、マレーシア国民が外国に一定期間滞在するためのビザを
申請する際に必要となる無犯罪証明書(Good Conduct Certificates)の発行責任を有して
いる。また、外務省は海外におけるマレーシア国民の福祉と安全を支援している。外交レ
ベルでは、マレーシア大使館が国外に居住するマレーシア人を把握することになっている。
大使館は、マレーシア国籍の国民が当該外国に居住する期間中、適切な扱いを受けられる
ように支援している。外務省と在外公館は、労働問題を含むマレーシア国民が関係する問
題についての、二国間の外交交渉も担当している。
5.5
送出労働力の属性
労働者の送出もしくは輸出にはさまざまな要因があるが、経済的、社会的、政治的状況
が個人もしくはあるグループが移住しようと考える要因になることが多い。その他には地
理的、歴史的、親族等の要因がある。Ratha & Shaw の調査では、移住の多くは、収入に
大差がない国の間で行われることが多いという結果が得られたが、マレーシアにおいて、
それは見られなかった。マレーシア国民が移住している国のトップ 5 は、マレーシアに比
べると実質的に平均的な収入レベルがかなり高い国々である(表 5‐1 を参照)
。移住先は
1 位から順番に、シンガポール、オーストラリア、ブルネイ、アメリカ、イギリスである。
これらの国々の 1 人当たりの所得は、実際に多いだけでなく、外国為替市場での交換レー
トを使用してリンギに変換しても、実質的な収入が多くなる。
ここで、シンガポールを例に労働者送出の属性を見ていく。シンガポールとマレーシア
は、地理的に隣接しており、二国の間は狭い海峡だけであり、75 年前に建設された 1.5 キ
ロの橋によってつながっている。1965 年にシンガポールがマレーシア連邦から分離独立す
るまでは歴史的に 1 つの国とみなされていた。そのため、主に中国系、マレー系だけでな
く、インド系マレーシア人にも、親族あるいは友人から物理的にも政治的にも分離させら
れた者が数多くいる。このようなケースは地理的にシンガポールに近いマレーシア南部で
特に多い。地理的に近いこと以外に、親族及び人種的関係がシンガポールで就労するため
のコストを低下させている。他には労働市場の情報、住居及び交通の便などもその要因と
なっている。ジョホール(マレーシアの最南端でシンガポールに最も近い州)に在住して
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マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
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いるマレーシア人の多くは毎日シンガポールに通勤している。5 万人以上が 1.5 キロの距
離を毎日通っていると推測されている。この多数の通勤者が出入国問題に発展することが
しばしばあり、最近の例では、14 名がマレーシア移民局に不法出国したとして拘束された。
彼らは毎日通勤しており、イミグレーション窓口や出国ゲートに人がいなかったと主張し
ている。その日にたまたま誰もいなかったイミグレーション窓口を通過したことは、違法
ではないとの言い分である(2009 年 12 月 13 日付、スター紙)
。
上述したように、マレーシア人がシンガポールへ移住する理由は、Ratha & Shaw の調
査とおおむね合致している。ただし、マレーシア人がシンガポールに働きに行く最大、か
つ特徴的な要因は、賃金と収入の差である。1965 年に分離した時の為替換算は同価であっ
たが、現在、1 シンガポールドルは、2.40 リンギである。シンガポールで得られる賃金を
リンギに換算した場合、マレーシア人の未熟練労働者でも建設現場で簡単に 3 倍もの賃金
を得ることができる。また、同じ仕事をシンガポールで行っても、賃金の絶対値がマレー
シアより低いということはなく、例えば、マレーシアの新卒の初任給は、2,000 リンギで、
シンガポールでは、少し高額(2,000 シンガポールドル以上)のシンガポールドルである。
最近では、隣接する東アジア諸国の急速な経済発展により、多くの産業分野でマレーシ
ア人専門職及び技能労働者がシンガポール以外の隣接国にも流出する状況が続いている。
2007 年 12 月 22 日付スター紙は、
“建設産業の多くの専門家は、より高い賃金とキャリア・
アップを求めて、ベトナム、シンガポールあるいは中東諸国に移動している。サービス産
業においても、金融および観光業の専門家も東アジア地域あるいは中東、中国へ移住する
現象が起きている”と書いている。この記事では、移住の動機は、金銭だけではなく、
“会
計士、医師及びエンジニアといった専門家の間では、賃金は国外で働く理由の 1 つにすぎ
ない。多くの場合、生活の質の向上や子供へのより良い教育の機会が得られることが移住
の理由となっている。研究開発分野に従事する者は、インフラの問題ではなく教育の質が
問題と言っている”。しかし、金融業界で津波のように世界中に拡大した米国のサブプライ
ム・ローン危機は、マレーシアの技能労働者の国外移住をかなり減少させている。実際、
外国から帰国するマレーシア人技能労働者及びその他の労働者による影響が、現在大きな
不安材料となりつつある(2008 年 11 月 2 日付、マレーシアインサイダー紙)。今まさに、
中東の経済・金融問題によって移民のマレーシアへの帰国ラッシュが再び発生しつつある。
5.5.1 受入国
国外で就労しているマレーシア人の正確な情報とデータを取得するのは難しく、いくつ
かの情報は矛盾していたり、一致していなかったりする。ここでは、いくつかの数字が矛
盾している可能性があることを前提に、さまざまな情報から得たデータを集計し提供して
いる。人的資源省副大臣は、2007 年 12 月のマレーシア国会に対する答弁で、海外で 35
万人が働いていると述べている。
副大臣によると 24 万人はシンガポールに滞在している。
つまり、10 万人以上が他の国で働いていることになる。この情報の中で、副大臣は海外に
いる労働者の 20%が専門家であり、残りは単純労働者であるとしている。また別の場面で
は、コヒラン・ピライ(Kohilan Pillay)外務副大臣氏が、国会で 2008 年 3 月から 2009
年 3 月までの間にマレーシアから国外に移住した人は 30 万 4,358 人、
2007 年は 13 万 9,696
人であると発言している。移住の理由は、教育、キャリア向上、ビジネスであるとしてい
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マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
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る。
海外で働くマレーシア人を推定する指標として、調査時点に当該国で生まれたマレーシ
ア人の数を集計する方法も使われている。次の表は、その方法で推定された海外居住のマ
レーシア人の数を示しているものである。この表は各国に居住している者の数であり、既
に国籍を変更している者も含まれていたり、
働いていない者も含まれていたりする。
ただ、
ほとんどがどのような形であれ働いていると推測されるので、そのような前提の上で、マ
レーシアの労働者送出の基本的な数値として活用している(かなり粗い‘推定’であるが、大
まかな指数としては利用可能である)。
表 5‐1 マレーシアからの移民が目的地とする国での在籍者数
国名
人数
オーストラリア
79,322
バングラデシュ
0
ブルネイ
68,397
カナダ
23,197
--
中国
フランス
1,894
ドイツ
5,121
インド
13,573
インドネシア
--
アイルランド
3,212
日本
9,257
韓国
1,290
--
ミャンマー
2,823
オランダ
10,535
ニュージーランド
パキスタン
--
フィリピン
338
993,809
シンガポール
206
スリランカ
スウェーデン
1,107
スイス
1,336
タイ
3,112
イギリス
55,449
アメリカ
56,710
1,458,944
合計
*出典:World Bank, http://www.worldbank.org/prospects/migrationandremittances
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マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
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表 5‐1 から分かることは、マレーシアからの移民の約 3 分の 2 はシンガポールに移住
している。145 万 8,944 人中 99 万 3,809 人がシンガポールにいる。次に多いのは、オー
ストラリアとブルネイであり、各々7 万 9,322 人と 6 万 8,397 人である。その次の 2 カ国
はかなり差をおいてアメリカとイギリスである。
各々5 万 6,710 人と 5 万 5,449 人である。
この結果は、Ratha & Shaw の調査報告に書いてあった、ほとんどの移民は国境を接して
いる国に行くことが多いという内容と一致している。というのも、シンガポールもブルネ
イもアセアン諸国の中でもマレーシアと国境が隣接している国々である。オーストラリア
もアジア大洋州地域にあり、一番近い‘白人のいる’先進国である。移住先トップ 3 の国々は
すべて英連邦の一員(つまり旧イギリス植民地)であり、ある程度似かよった歴史をたど
ってきている。また、マレーシア人の移住先の傾向として、トップ 5 カ国はすべて英語圏
であり、移住者にとって言葉の壁が少ない国である。
次項から、マレーシア人労働者の数が比較的多い国々の詳細を述べていく。
(1) シンガポール
シンガポールは歴史的に、労働市場が開放的であった。19 世紀初頭から、移民が同国の
経済発展に大きな役割を果たしてきた。ほとんどが北アジア及び南アジアからの労働者で
あり、シンガポールに定住していった。過去には、外国労働者が全労働人口の半数近くを
占めた時期もあった。現在も、外国人労働者は同国経済にとり重要であり続けている。シ
ンガポール人材開発省が 2008 年 1 月に発表した統計によると、90 万 800 人が外国人労働
者であり、全労働人口 273 万人の 33%を外国労働者が占めている。
シンガポールの外国労働者の中でもマレーシア人が大きな比重、約 3 分の 2 を占めてい
る。その次にシンガポールで多いのは、順にフィリピリン人、タイ人、インドネシア人、
スリランカ人である。マレーシア人は、主に製造業、サービス業、建設業、及び専門職と
して働いている。マレーシアの人的資源省の大臣であるサブラマニアム博士(Dr. S.
Subramaniam)によると、シンガポールには 30 万人のマレーシア人が就労しており、シ
ンガポールの外国労働人口の 30%を占めている。彼はさらに、シンガポールにいるマレー
シア人は単純労働者で、製造業で働いていると述べている。また人的資源省のノラニ・ア
マッド(Noraini Ahmad)副大臣が 2008 年 6 月に発表した別の報告によると、シンガポ
ールで働いているマレーシア人専門家は 4 万∼5 万人としている。また、シンガポールで
働く多くのマレーシア人は不法滞在であり、労働許可証を持っていないとも報告されてい
る。彼らは、毎日シンガポールへ旅行者として通っている。独立機関の調査では、マレー
シア人労働者の約 20%である 5 万人が、両国のイミグレーション窓口を通過しており、正
式な統計上数えられることがない労働者(つまり、労働許可証は持っていないが、正式な
旅行手続きはしている)となっている。これらのほとんどの労働者は、シンガポールの飲
食業及び製造業で働いている。
シンガポールに大量のマレーシア人労働者がいる要因は数多くある。前述したとおり、
その近さと歴史的背景以外に、両国間の出入国管理にかかわる要素も大きい。アジア開発
銀行(ADB)の調査報告書によれば、マレーシア人はシンガポールにおける外国労働者の
中では優遇されており、頻繁に往来する旅行者にはイミグレーションアクセスカードが与
えられたり、シンガポール滞在の規制が緩やかであるなど、ある程度優遇されている。シ
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マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
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ンガポールの人材開発省における移民政策からもマレーシア人が優先されていることが次
の表からも読み取ることができる。表 5‐2 によると、マレーシア人は 4 項目すべての産
業、建設業、サービス業、製造業、海運業での就労を許可されている。北アジア、香港、
マカオ、韓国、台湾からの労働者も同じ 4 項目すべての産業での就労を許可されているこ
とが表に書かれているが、これらの国々の経済発展レベルはマレーシアより高い。その結
果、シンガポールでより高度な技術、より高い賃金の仕事を求めるマレーシア人労働者た
ちは北アジアの労働者たちと競合することになる。
表 5‐2 シンガポールに労働者を送出可能な業種と国
国名/地域
建設
サービス
製造
海運
マレーシア
○
○
○
○
中国
○
×
○
×
その他の送出国
○
×
×
○
北アジア
○
○
○
○
(注 1)その他の送出国:インド、スリランカ、タイ、バングラデシュ、ミャンマー、フィリピン、
パキスタン
(注 2)北アジア:香港、マカオ、韓国、台湾
*出典:Yap Mui Teng and Cheryl Wu, “Foreign Worker Management in Singapore”.
(2) オーストラリア
オーストラリアは、南アジア及び東南アジア諸国の人たちが好んで選択する移住先であ
る。そのため、移住に関する政策や規制は詳細かつ明確に規定されており、厳格に運用さ
れている。例えば、技能者や職人を移民させるプログラムがある。また、ワーキングホリ
デー制度があり、観光産業や建設業での短期間の就労を支援している。2008 年 2 月には、
2007∼2008 年における労働力不足を解消するために、技能労働者の移民プログラムの対
象を 6,000 カ所から 10 万 8,500 カ所に増加させた。
オーストラリアはマレーシア人からも移住先として好まれている。1995 年 6 月付、マ
イグレーションニュース紙によると、1984∼1994 年の間に、4 万人のマレーシア人がオー
ストラリアに移住している(1995 年 6 月付、マイグレーションニュース紙)
。オーストラ
リアでは移民の多くをマレーシア人が占めている。1996∼1997 年では、全移民の 1.8%で
あったが、2004∼2005 年には 3.7%に増加している。技能労働者では、マレーシア人はイ
ンド、イギリス、中国に続く 4 番目(技能移民全体の 4.9%)であった。2001 年の国勢調
査によるとオーストラリアにおける移民グループとしては、マレーシア人が 12 番目であ
った。移民多文化先住民関係省(DIMA)によると当時 7 万 8,850 人のマレーシア人がオ
ーストラリア生まれであった。彼らは主にヴィクトリア州、ニューサウスウェールズ州、
ウエスタンオーストラリア州、クイーンズランド州に在住しており、ほとんどが技能労働
者もしくは専門家であり、専門分野は金融、不動産、ビジネス、奉仕活動、教育や医療で
ある。DIMA によると、オーストラリア社会に融合している移民の中でもマレーシア人が
最も良く適応している。オーストラリア生まれのマレーシア人の多くは中国系であり、教
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育が行き届いている。彼らは正しい英語を話し、就労もする。また、オーストラリア人と
の結婚率も一番高く、オーストラリア社会との融合性が高いことの指標としてみなされて
いる。
正式な手続きを経てオーストラリアに移住する者以外にも、正式な手続きで入国しなが
ら法定の期限を過ぎても就労のために滞在している者や不法滞在者も多い。オーストラリ
アに入国し、不法就労する方法はいくつかある。最も多いものが観光ビザで入国して期限
内に出国しない方法、もしくは不正旅券等を使用して入国する方法である。1999 年 6 月
時点で、約 5 万 3,000 人がビザの期間を超過して、オーストラリアの不法滞在者となって
いる。その中でも約 27%の 1 万 4,500 人が 9 年以上も滞在している。また、数は分からな
いが不法な手段でオーストラリアに入国している者も大勢いる。マレーシアは、オースト
ラリアでの期間超過滞在者の出身国トップ 10 に入っている。1999 年 6 月 30 日時点では
1,631 人のマレーシア人が超過滞在であり、全体の 3.1%を占めた。1997∼1998 年の訪問
者数が 11 万 2,822 人であった中で、マレーシア人の超過滞在者は 0.1%であった。これら
超過滞在者のほとんどが就労目的であるとみられている。DIMA の推定では 2005∼2006
年における超過滞在者の 8%はマレーシア人であった。マレーシア人の超過滞在者は増加
しており、2005∼2006 年ではオーストラリア訪問者の数を 3 倍した人数であると推定さ
れている。オースラリアを訪問するマレーシア人のうちで超過滞在となる比率を 2003∼
2004 年と 2005∼2006 年とで比較すると増加していることが分かる。2003∼2004 年は
0.55%(807 人)であったのに対し、2005∼2006 年は 0.93 %(1,345 人)が超過滞在者と
なった。
(3) 中東
1970 年代初め、石油価格の高騰により、石油生産国である中東ではインフラ開発に活発
な投資が行われたため、さまざまな分野の労働者が必要となった。しかし、移民、特にイ
スラム教徒である南アジアの出身者(パキスタン、バングラデシュ、インドなど)がサウ
ジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、オマーンの労働市場を独占して
きた。これらの人たちに比べてこの湾岸地域で働くマレーシア人の数はあまり多くない。
中東におけるマレーシア人労働者は、マレーシア企業が中東における開発やプロジェクト
を受注することでその数を増やしてきた。そのため、中東の労働市場に入り込む方法は、
南アジア諸国とは大きな違いがある。ほとんどのマレーシア人は建設業やインフラ整備の
プロジェクト契約を受注したマレーシア企業に採用されている。マレーシア本社から派遣
される担当者やスタッフ等以外に、これらの企業は直接または人材派遣企業を通じて人材
を集めることが多い。これらの企業がマレーシア人を採用するのは、現場とのコミュニケ
ーションにおいて言葉の壁が少ないこと以外にも、現場労働者の技能や働き方が分かると
いう点もある。例えば、2008 年 11 月時点で、湾岸諸国においてマレーシア企業は、54 件
の建設プロジェクト、340 億 8,800 万リンギ(94 億 9,000 万米ドル)を受注している。こ
れらのプロジェクトは主に、建設、エンジニアリング、金融サービス、ヘルスケア、病院
関連サービス、ICT、石油ガス、教育・特別訓練、エネルギー・発電、ロジスティクス・
輸送、専門サービス、フランチャイズ、デザイン・芸術分野などである。技術を有する職
人やサービス分野の専門家が、
中東におけるマレーシア人の労働市場の大半を占めている。
9
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
5.5.2 職種
マレーシアから海外に移住する労働者の大多数は専門家、高等教育を受けた者、もしく
は熟練技能者である。オーストラリア当局(DIMA)によるとオーストラリアに移住する
マレーシア人の多くは、高度な技能を要求されており、例えば、金融、不動産、ビジネス、
奉仕活動、教育、医療分野などに従事している。多くが中国系であり、高等教育を受けて
おり、英語も堪能である。シンガポールに関しては、労働許可証を取得しているマレーシ
ア人の多くは、製造業やサービス業に従事しており、雇用パスや永住権を取得している者
は、技術管理者や管理職レベルの者であることが多い。他の国で働くマレーシア人とは違
い、シンガポールで働いているマレーシア人の多くは単純労働者もしくは未熟練技能者で
ある。これはシンガポール人材開発省の外国労働者政策が、マレーシア人をあらゆる分野
の仕事に就くことを許可していることによるものである。前述のとおり、歴史的、文化的、
地理的な近さにより、シンガポールの外国労働者政策は、マレーシア人を優遇している。
その結果、未熟練技能者・単純労働者が働くことが可能となっている。また、その地理的
な近さゆえ、多くの者が労働許可証を持たずに毎日ジョホール(南マレーシア)からシン
ガポールに通勤する‘雇労働者的な労働者となり、食品サービスや製造業の一般労働資源
(未熟練技能者・単純労働者)となっている。
5.5.3 年齢
2006 年に実施された ADB の調査では、東南アジアの移民の年齢は一般的に若いとされ
ており、その中心的な年齢層は 20∼30 歳である。同調査報告書によれば、シンガポール
在住のマレーシア人移民労働者の平均年齢は 30 歳となっている。この 30 歳という平均年
齢は、シンガポール在住のインドネシア人移民労働者と比較すると高く、フィリピン人移
民労働者と比べると低くなっている。その一方で、香港、日本、マレーシア及びシンガポ
ールに在住するインドネシア人移民は、同じ地域に移住しているフィリピン人と比較する
と対象国すべてにおいてその平均年齢は低くなっている。またその調査では、日本で就労
するほぼすべてのフィリピン人、インドネシア人及びマレーシア人移民は、高等学校以上
の教育を修了している。この調査に回答した日本にいるマレーシア人移民は、大多数(71%)
が 21∼30 歳の間であった。彼らの多くは 1 年以上滞在しており(39%が 1∼3 年)
、90%
が専門学校を卒業していると回答しているので、その大部分が学生であると考えられる。
5.5.4 技能水準
国外で就労するマレーシア人の技能水準に関しては、項目 5.5.2 の職種で説明した。結
論としては、国外で就労するマレーシア人は 2 種類に分けることができる。ほとんどの国
において、正規の移民は、専門家もしくは高い能力を有する職員である。その一方で、不
法移民は技能がないもしくは技能レベルが低い者である。これらの不法移民たちは、たい
てい製造工場、農場、レストランや工事現場で働いている。ほとんどが 3D(日本でいう
3K、汚い、危険、キツイ)の仕事に従事することになる。しかし、マレーシア人不法就労
女性は、工場以外でもサービス業、レストラン、ホテルや娯楽施設等でも働いている。こ
のような例外的な国が、前にも指摘しているようにシンガポールである。シンガポールで
は、マレーシア人は技能がなくても一般職員や建設現場の労働者、サービス業などで働く
10
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
ことができている。
5.6
送出労働力の技能水準の評価制度
マレーシア国内においても、技能水準の評価制度(Skim Kemahiran Malaysia:SKM)
はまだ開始されたばかりである。新しいマレーシアの資格枠組みで SKM として知られて
いる職業及び技術証明は、8 段階から構成されているが、最低段階からの 1、2、3 レベル
の証明が多くを占めている。労働者の移住に関しては、マレーシアから国外へも国外から
マレーシアへの両方とも技能水準の評価制度は存在しない。その結果、評価制度を実施し
ているその他の主要労働者送出国とは異なり、マレーシアには移民労働者の技能水準に関
する評価制度は存在しない。
5.7
受入れの所管機関
冒頭で説明したように、マレーシアにおける外国労働者に関する法律は 2 つ、移民法と
雇用法がある。これらの法律は、異なる省の管轄となっている。移民局が管轄する移民法
は内務省の傘下にあり、その一方、雇用法は人的資源省の管轄であり、国内の労働市場や
労働全般に関する事項を取り扱っている。さらに、西マレーシアと東マレーシアとの間で
は、移民に関する法律や規則に違いがあり、西マレーシアは東マレーシアよりも、移民に
関してはより大きな自治権をもっている。また、経営者から緊急な労働力不足を補うよう
強い要望があった場合、政策が変わることが頻繁にあり、それは正式な手続きを経ない移
民に対する規制の緩和も含まれている。この結果、政府決定や政策はめまぐるしく変わる
ものとなってしまった。これらの政策に関する最高決定機関は、外国労働者の閣議委員会
であり、大臣レベルがメンバーとなり、副首相が委員長を務めている。1991 年にマレーシ
アの不法入国者たちを強制送還することを決定した際、この委員会の役割が注目され、外
国労働者に頼っていた経営者たちを驚かせた(1991 年 11 月 4 日付、ビジネスタイムズ紙)
。
2009 年 11 月 16 日には、外国労働者の閣議委員会の委員長である副首相が政府は、国内
の外国人労働者の事項だけを取り扱う局を設置すると発表し、この局では外国人労働者の
入国だけでなく、国内での移動、及び許可証の期限等の管理を負うこととした(2009 年
11 月 18 日付、マレーシアンインサイダー紙)
。
5.8
受入労働力の属性
マレーシアの外国人労働者受入をけん引している最大の要因は労働力不足である。国際
労働機関(ILO)とマレーシア雇用主連合(MEF)が 2007 年に共同で行った職場環境調
査によると、マレーシア経済は構造的に労働集約型産業に依存している状態であり、労働
力不足が発生しやすい。その調査によると、マレーシア雇用主連合の調査に参加した主要
企業 103 社のうち、77%が最低でも 1 人の外国労働者を雇っており、24%が 100 人以上を
採用していた。このことから、移民労働者が労働力不足を補っていることが分かる。
以下で説明するが、マレーシア国内にいる移民労働者の多くは、正規であれ不法であれ、
11
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
ほとんどインドネシアから来ている。インドネシア人移民が多くマレーシアにいる理由は、
前述したマレーシア人移民がシンガポールに多く存在するのと似ている。簡単にいうと、
両国の地理的近さ、歴史的関係、血縁関係が両国内に多いこと、文化的背景がその理由で
ある。
インドネシアとマレーシアは地理的につながっている。2 カ国の国境は、ボルネオ島に
おける陸によるものと、マラッカ海峡、南シナ海、セレベス海等の海によるものがある。
陸の国境は、2,019.5 ㎞に達し、インドネシア側から東マレーシア側に入りやすい。また、
インドネシアのスマトラ島とマレー半島はマラッカ海峡を隔てて約 800 ㎞の沿岸線があり、
物の密輸だけでなく人の密入出国も横行している。多くのマレー系マレーシア人は、イン
ドネシアの各地にそのルーツがあるといわれており、インドネシアに親族がいるだけでな
く、友好的な感情をとおり越えて親近感さえ感じているマレーシア人も多い。最も重要な
のは、マレー系マレーシア人と多くのインドネシア人は、文化だけでなく宗教も共通して
いるため、インドネシア人のマレーシアでの就労及び受入れがしやすくなっている。シン
ガポールに移住するマレーシア人同様、マレーシアに移住するインドネシア人も賃金と収
入の差に惹かれるのである。インドネシア人未熟練労働者でも、マレーシアで得られる賃
金をインドネシアルピアに換算したら、相当魅力的である。多くの場合、マレーシアに移
住してくる他の貧しい国々、バングラデシュ、ネパール、ミャンマーやインドの人たちに
とっても、賃金と収入差が魅力である。
5.8.1 送出国
マレーシアでは、マレーシアに労働者を“送出”しても良い国を定めている。下記の表の
情報は、マレーシアの正式なシンクタンクである戦略国際問題研究所(Institute of
Strategicc and International Studies:ISIS)から入手したものである。
表 5‐3 マレーシアにおいて外国労働者が就労可能な業種とその出身国
業種
国名
フィリピン(男性)
、インドネシア、インド、カンボジ
建設
ア、カザフスタン、ラオス、ミャンマー、ネパール、
タイ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナム
フィリピン(男性)、インドネシア(女性)、カンボジ
製造
ア、カザフスタン、ラオス、ミャンマー、ネパール、
タイ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナム
フィリピン(男性)
、インドネシア、インド、カンボジ
植林/農業
ア、カザフスタン、ラオス、ミャンマー、ネパール、
タイ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナム
サービス
• レストラン
すべての国(インドはコックのみ)
大都市におけるレストランのみ
• 洗濯
インド以外の国
12
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
• 清掃/下水
インド以外の国
• キャディー
インド以外の国
• リゾート地
インド以外の国
• 老人ホーム
インド以外の国
• カーゴ
インド以外の国
• 高電圧ケーブル
インドのみ
• メイド(個人宅)
スリランカ、インドネシア、タイ、フィリピン、
カンボジア
*出典:Vijayakumari Kanapathy,
“Towards an East Asian cooperation framework for migrant labour”.
前述したとおり、マレーシア当局は国内にいる外国労働者の直近の数を把握していない。
移民労働者についての報告のほとんどは、国会議員からの質問に対する回答という形でな
されている。内務省の事務局長によると、約 230 万人の外国労働者が国内で就労している
ようであり、マレーシアの労働市場である 1,100 万人の 21%を占めている。
外国労働者の多くはインドネシア人である。2004 年 1 月 18 日付のスター紙を情報源と
した統計によると、60%以上の外国労働者がインドネシア人で、25%がバングラデシュ人
である。別の調査では、2008 年末時点で 20 万人のバングラデシュ人と、14 万人のインド
人がマレーシアで働いている。
国際労働機関(ILO)とマレーシア雇用主連合(MEF)が実施した 2008 年の調査によ
ると、60%以上の外国労働者がインドネシア人であることを述べているが、報告書によっ
ては数字が違っており、整合性に欠けている。もし、外国労働者の 25%がバングラデシュ
人ならば、20 万人になり、外国労働者の合計は 100 万人以下になってしまい、内務省の
局長が発表した 230 万人に及ばない。次に、これらの数字はマレー半島のみであると考え
られる。なぜならば、他の調査報告書では、東マレーシアのインドネシアとフィリピンと
国境を接しているサバ州だけで、インドネシア人が約 3 万人、フィリピン人が約 20 万人
いるとしている。他の国からの労働者もおり、中でもパキスタン人は多いとされている。
5.8.2 職種
前述した ILO の調査によると、マレーシア国内の移民の 3 分の 1 は製造業に従事してい
る。メイドが約 25%、建設及び農業が 21%を占める。ここでは包括的なデータの代わりと
して、さらに詳しい情報を例として取り上げる。これはフィリピン大使館から提供された
資料であり、
マレーシアで働くフィリピン人のほぼ正確な数である。
このデータによると、
ほとんどのフィリピン人移民たちは東マレーシアに居住している。フィリピン大使館の数
字(表 5‐4)の東マレーシアの部分を見ると、移住者の半分が不法滞在者である可能性を
示唆している。実際に不法滞在中のフィリピン人を数えるのは困難であり、特にサバ州は
南フィリピンに地理的に近いことも不法滞在者が多い原因であると考えられる。さらに、
東マレーシアのフィリピン人労働者の内訳を説明すると(表 5‐4 には記載されていない)
、
ほとんどのフィリピン人は農業/植林(31%)
、建設(21%)
、サービス(20%)
、製造(16%)
に従事しており、残り(12%)は材木、メイド、農業/畜産もしくは炭鉱で働いている。
13
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
表 5‐4 からマレー半島で働いているフィリピン人のうち、半分以上がメイドであること
が分かる。さらに、一般家庭におけるメイドの他にも、専門家として働いている者や、ホ
テル、レストラン、リゾート地で働いているフィリピン人もいる。これらを合わせるとほ
ぼマレー半島で働くフィリピン人の約 5 分の 1 になる。インドネシア人やバングラデシュ
人と違い、マレー半島の建設現場、植林地で働くフィリピン人はごく少数であった。
表 5‐4
2004 年 12 月現在、マレーシアで就労しているフィリピン人の数
場所
職種
人数
2,421
19.0
24
0.2
578
4.6
メイド(一般家庭)
6,601
52.2
ビザ所有者の配偶者
2,500
20.0
500
4.0
12,624
100.0
9,000
4.5
IMM 13 所有者(無国籍/難民ビザ)
70,000
35.0
永住ビザ所有者
21,000
10.5
100,000
50.0
100.0
専門家、未熟練技能者
イスラム教の学生
建設/現場労働者
マレー半島
不法労働者
小
計
労働許可証所持者
サバ州及び
サラワク州
割合(%)
不法滞在者
小
計
200,000
合
計
212,624
*出典:Asian Development Bank, “Workers' Remittance Flows in Southeast Asia”,
http://www.adb.org/Documents/Reports/Workers-Remittance/chap2.pdf
残念ながら他の国に関しては、このような詳細な情報を得ることはできなかった。この
他の国の労働者たちは 3D(3K)の仕事に従事していると思われる。あるレポートによる
と、2009 年 1∼9 月の間に、外国で死亡して戻ったバングラデシュ人労働者は 904 人とい
われている。その 5 分の 2 以上に相当する 391 人は心臓発作が原因とされ、82 人がマレ
ーシア国内で死亡している。それに対し、シンガポールでは 7 人だけであった。
5.8.3 年齢
マレーシアへの移民はほとんど男性である。これは特に、バングラデシュ、インド、パ
キスタン、ネパール、ミャンマーからの労働者に顕著である。外国人メイド(一般家庭)
は逆に女性が多い。この分野は主にインドネシア人が非常に多く、次に多いのはフィリピ
ン人である。そのため、インドネシア人及びフィリピン人労働者に関しては、女性が多く
の数を占めている。マレーシアの内務省によると、マレーシアにいる正式な許可を持つ外
国人メイド 24 万人中 23 万人がインドネシア人であり、6,000 人がフィリピンから、残り
がカンボジアとスリランカからの労働者である。
14
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
5.8.4 技能水準
前述の ILO の調査によると、マレーシアへの移民の多くは未熟練、もしくは技能レベル
の低い労働者である。その調査では、マレーシアの総外国人労働者数に占める高い技能を
有する移民労働者の割合は 2%にすぎない。2005 年 5 月 19 日付のマレーシアの地元新聞
サンによると、マレーシア国内にいる約 3 万 4,000 人の外国人労働者の中でも高度技術労
働者は製造業とサービス業に従事している。最も人数が多いのは、日本人であり、続いて
インド人とシンガポール人となっている(2005 年 5 月 19 日付、サン紙)
。
5.9
受入労働力の技能水準の評価制度
マレーシア自体に技能水準の評価が導入されたのは最近のことである。国家職業訓練評
議会(NVTC もしくは MLVK)はマレーシアの技術水準の向上、技能認定を行う権限を有
している。その役割の中には外国人労働者の能力と技能の評価と、政府機関、雇用主、産
業界、国際機関等から与えられる資格の認定も含まれている。しかし、この役割について
はあまり報告がされていない。とはいうものの、国家職業訓練評議会(NVTC)は、5 年
以上マレーシアに滞在することを希望する外国人労働者に対しては、技能認定を行ってい
る。認定を得るためには、外国人労働者は NVTC が行う試験に合格しなければならない。
建設業の労働者であれば CIDB に合格しなければならない。
表 5‐5 は 2009 年 8 月 31 日時点で、外国労働者技能証明書もしくは PKPA(Sijil
Perakuan Kemahiran Pekerja Asing)を取得した外国人の数である。
表 5‐5 資格を取得している外国人労働者数
国名
人数
1
バングラデシュ
590
2
フィリピン
3
インド
4
インドネシア
5
カンボジア
22
6
ミャンマー
836
7
ネパール
8
パキスタン
4
9
スリランカ
6
10
タイ
11
ベトナム
12
296
1,294
1,877
20
合
326
5,283
計
*出典:Department of Skills Development, “Achievement Statistics as at 31 October 2009”,
http://www.dsd.gov.my/bm/index.php?option=com_remository&Itemid=181&func=startdown&id
=1579
15
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
5.10
労働力送出・受入れに関する二国間・多国間協定
移民労働者の権利保護が国際的に注目されている。その結果、いくつかの保護施策が採
用されているが、その中でも下記の 3 つが重要である。
・ILO 移民労働者条約第 97 号(1949 年)
:情報の提供、旅行(移動)の制限をしない、医療
の提供、採用時に差別をしない、宿泊・社会保障・保険の提供、正規移民労働者の強制
送還は行わない、貯蓄の自国への送金を許可する
・ILO 移民労働者(補足規定)条約第 143 号(1975 年):基本的人権の尊重、不法移民の
劣悪な勤務条件からの保護、不法移民の不正人身売買、移住労働者に対する機会均など
・国連(UN)の移民労働者とその家族の権利を守るための国際会議(1990 年)
東マレーシアのサバ州だけが、ILO 移民労働者条約第 97 号に署名している。1964 年 3
月 3 日に批准した。マレーシア労働組合会議(MTUC)が「移民労働者に関する MTUC
会議」を 2005 年 4 月 18∼19 日に主催し、さまざまな国の労働組合関係者たち、バングラ
デシュ(BMSF)、インドネシア(ITUC)、インド(HMS & INTUC)
、ネパール(Gefont
& NTUC)
、パキスタン(PNFTU)、フィリピン(TUCP)及びベトナム(VGCL)などが
出席した。会議では、次のようなものを含む多くの宣言を採決して閉幕した。
我々は移民労働者も他の労働者と同じ権利と尊厳が必要であることを認識する。これら
の権利は法律や規則によって守らなければならない。
それらの法律・規則は拘束力があり、
さまざまな機関により施行されなければならない。マレーシア労働組合会議(MTUC)は
積極的に 1949 年の ILO 移民労働者条約第 97 号、1975 年の ILO 移民労働者(補足規定)
条約第 143 号及び国連(UN)の移民労働者とその家族の権利を守るための国際会議(1990
年)の批准と導入を促進させ、ILO の移民労働者のための行動計画を支援すべきである。
マレーシアは、この MTUC の決議の後、2005 年の段階では ILO の条約を批准していな
い。
5.11
送出労働力の技能水準に関する二国間・多国間協定
マレーシア政府は、合法的な人材採用を促進するための最初の二国間協定(メダン合意)
を 1984 年にインドネシアと締結した。インドネシア側はマレーシアの要望に応じて、6
つの分野における労働者を提供することになっている。同様の合意をフィリピンとの間で
メイド(一般家庭)派遣に関して締結しており、タイとバングラデシュとは建設現場及び
植林での労働派遣についての契約を締結している。二国間協定の中には両国の責任につい
てだけでなく、契約を締結する雇用主及び移民の双方の責任、住居、労働環境まで言及し
ている。しかし、当初はこれらの協定に基づいて送出された移民は少なかった。これは増
大する単純労働者の需要に対応しきれなかったからである。そのため、協定と関係なく、
多くの移民が個別の代理人、雇用主や人材派遣会社によって送出された。この問題は官僚
的な事務作業の遅延による影響もあった。マレーシア政府はその後、当初の二国間協定に
対応しきれなかった部分に対応すべく、人材派遣会社や代理人等に厳しい規制を課してい
る。
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マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
5.12
労働力移動の問題点
移 民 労 働 問 題 、 特 に マ レ ー シ ア の 移 民 労 働 者 受 入 問 題 に つ い て カ ナ パ テ ィ ( V.
Kanapathy)氏が簡潔にまとめている。それらの問題点は、下記のとおり、経済面、社会
面、安全保障面、政治面と広範囲にわたっている。カナパティ氏の分析に、マレーシア経
済研究所(MIER)のモッド・アリフ(Mohd Ariff)取締役も同意している。アリフ氏は
1980 年後半に植林地、その後製造業において外国労働者に“門戸を開放”した政府の決定
を批判している。開放した結果、マレーシアは低技能、労働集約型経済に陥っていると指
摘している。
・ 賃金の低い労働者が大量、かつ簡単に手に入ることは、
国内の製造コストをゆがませ、
工業の高度化を遅らせ、マレーシア経済を低賃金・低技能の状態にとどまらせること
になる。
・ また、移民労働者がマレーシア人労働者の代わりに働くことで農業及び建設業の賃金
上昇を抑え、国の貧困撲滅目標と相反する方向になる。
・ 移民労働者は、コストを負担をしないで社会保障を享受していると考えられており、
公共施設、保険、教育やその他インフラは、マレーシアの負担となっている。
・ 移民労働者を採用することは“大きな資本の流出”でもある。移民労働者の多くは、不
正な方法で自国に送金をしていることが報告されており、外貨の流出が、マレーシア
の国家予算のサービス分野の負債を増やしているといわれている。
・ 移民労働者の中でも不法入国者たちは、定期的な健康診断を受けていないため、移民
を受入れる前に根絶できた、もしくは管理できていた伝染病の感染源とされている。
・ 外国労働者の受入が増えるにつれ、社会の安全保障に影響が出てくる。なぜなら、移
民の中でも不法入国者たちは犯罪活動に加担する場合があるからである。
・ 移民はマレーシア人の低所得者と安い住宅施設や、不法居住地域やマレー国有休眠地
を奪い合うことになり、近隣住民と問題を起こしている。住宅不足が合法・不法にか
かわらず移民の不法な居住を増加させており、そうしたすし詰め状態による問題や病
気などが発生している。
・ 若年の独身労働者が増えることで、社会の不協和音が増え、性の乱れによる病気の流
行にもつながっている。
・ 移民が、極端な宗教の教えや理論を普及することに加担している場合がある。内務省
は永住権を取得していた移民 16 名がイスラム過激派団体であるジェマア・イスラミ
ア(JI)の一員である疑いがあるとし、資格をはく奪した(2004 年 10 月 4 日付、ス
ター紙)
。
女性の移民については、また別の問題がいくつかある。国内労働市場における移民の重
要度が上がると同時に搾取という問題が出てくる。雇用主宅で監禁されたり、言葉が不自
由であることにより権利の主張ができないという問題が発生している。また、移民に対す
る規則では雇用主が移民のパスポートを預かることを容認していたり、移民の国内滞在期
間を自由に管理をできることになっている。このようなことが、セクハラや暴行などにつ
ながっている。
家政婦/メイドの場合、入国、国内滞在地、仕事内容が雇用主自身の責任となるため、
17
マレーシア(調査大項目 5:労働力の送出・受入れについて)
作成年月日:2009 年 12 月 31 日
ほとんどの場合パスポートを取り上げている。そのような習慣が移民の雇用主を変更する
権利を奪っており、また抵抗できない状態にしてしまっている。また、女性の方が搾取さ
れ、
人身売買の被害者になることが多い。
これは女性の方が正式な移民方法に対する知識、
手段、情報をもっておらず、人身売買や搾取の対象として弱い立場に置かれている
(Theuermann 2005)。
最後に、移民による影響についても公平を期すために述べておく。移民労働者もある程
度の経済効果をもたらすこともある。
・ 移民は労働不足を解消し、経済成長を支えている。期間限定の移民の受入れは、不足
している労働市場を満たし、急激に変化する経済構造産業への影響を抑え、労働対価
に競争力を持たせる。労働力を確保したことにより、企業の利益喪失も最小限に抑え
ることができる。競争の激しい産業に身を置く企業は、雇用契約と賃金を変更しやす
い移民を雇うことは大きなメリットである。
・ 移民は経済変動の緩衝材になることが多い。経済成長時には必要な労働力であり、賃
金上昇を抑え、
経済低迷時には移民労働者を解雇することで不況を乗り切るのである。
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