職員研修会① インリアル・アプローチ学習会

職員研修会①
インリアル・アプローチ学習会
日時
H22.4.20(火)
15:30~
場所
1
2階学習室
ねらい
コミュニケーションのアプローチ法や技法を学び、児童生徒の微細なサインを読みとる力を向上さ
せ,授業に生かす。
2
インリアル・アプローチについて
(1) INREALの歴史
「In-class Reactive Language therapy」 1974:アメリカ
(クラスの中での反応的かかわりによる言語学習の推進)
↓
「Inter Reactive Learning and Communication」1984:アメリカ
(相互に反応しあうことで学習とコミュニケーションを促進する)
↓
「Inter Reactive Learning」1994:アメリカ
(2)日本におけるインリアル(1985:日本INREAL協会)
「Inter Reactive Learning and Communication(相互に反応しあうことで,学習とコミュニケーシ
ョンを促進する)
」の略で,相互的反応による,コミュニケーション能力の支援のこと。話し言葉だけで
はなく視線,表情,身振り等非言語行動もコミュニケーション行動としてとらえる。インリアルでは,
子どもから始める力(主導権)をもつことを目標にしているため,大人からの開始を尐なくし,リアク
ティブ(反応的)にすることで,子どもが始めるチャンスを与えていく。子ども自身が開始の効力,つ
まり応じてもらえることに気づくことがコミュニケーションに自信をもつきっかけになる。そのために
まず,子どもを取り巻くコミュニケーション環境を変えていくという発想の元に行われる。この意味で
大人は重要なコミュニケーション環境であり,大人が自分の役割を自覚する必要を強調している。
(3) 基本理念
一人の人間として認め,その人のもつ潜在能力を信じ,主体性を重視しようというごく当たり前のこ
とを基本理念として掲げている。
1)自由な遊びや会話の場面を通じて、子どもの言語やコミュケーション能力を引き出そう。
2)規範のテストにとらわれず、実際のコミュニケーションの場面から子どもの能力を評価しよう。
3)子どもから遊びやコミュニケーションを始められる力を育てよう。
4)上記実現のためにセラピストの質を向上させよう。
(3) 特徴
1)ことばの獲得は、ひとつの社会的特徴であり、こどもは現実のコミュニケーションの体験を通じて
言語の意味や使い方を学ぶ。そのため、インリアルでは、ことばの遅れを持つ子どもをコミュニケー
ション障害としてとらえる。
2)どんな子どももコミュニケーションをしようとしている存在である。話し言葉だけではなく視線、
表情、身振り等非言語行動もコミュニケーション手段としてとらえる。
3)子どもは人との豊かなコミュニケーションの楽しさを経験することで、コミュニケーションへの意
欲や基礎的能力を育て、自分の持っている潜在能力を十分発揮できるようになる。
4)ことばについては表象機能だけでなく、言語が人との相互作用のための媒介として持つ伝達機能も
重視する。また、自発的・機能的使用や文脈・場面での適切な使用といった観点も含めて評価・指導
する。
5)コミュニケーションの指導には、問題を持つ子どもだけではなく、もう一方の担い手である大人の
要因も相互客観的に評価する。このためにかかわりの場面をビデオに録画し、分析シートを用いて大
人のかかわりや言葉かけが適切なものであるかを検討していく。
(4) コミュニケーションの原則
1)子どもの発達レベルに合わせる。
2)会話や遊びの主導権を子どもに持たせる。
3)相手が始められるように待ち時間を取る。
4)子どものリズムに合わせる。
5)ターンテーキング(やりとり)を行う。
6)会話や遊びを共有し、コミュニケーションを楽しむ。
(5)大人の基本姿勢 【SOUL】
Silence(静かに見守ること)
子どもが場面に慣れ,自分から行動を始められるまで静かに見守る。
Observation(よく観察すること)
何を考え,何をしているのかよく観察する。
コミュニケーション能力・情緒・社会性・認知・運動などについて能力や状態を観察する。
Understanding(深く理解すること)
観察し,感じたことから,子どものコミュニケーションの問題について理解し,何が援助で
きるか考える。
Listening(耳を傾けること)
子どものことばやそれ以外のサインに十分,耳を傾ける。
(6)大人のことばかけ(言語心理学的技法)
1)ミラリング
子どもの行動をそのまままねる。
2)モニタリング
子どもの音声や言葉をそのまままねる。
3)パラレル・トーク 子どもの行動や気持ちを言語化する。
4)セルフ・トーク
大人自身の行動や気持ちを言語化する。
5)リフレクティング 子どもの言い誤りを正しく言い直して聞かせる。
6)エキスパンション 子どもの言葉を意味的、文法的に広げて返す。
7)モデリング
3
子どもに新しい言葉のモデルを示す。
インリアル・アプローチの具体的方法
基本姿勢の確率
ビデオ録画(ビデオ録画に慣れる)
↓
子どもの問題に応じたかかわりの確立
ビデオ録画
↓
マクロ分析(大人のかかわりを中心に
マクロ分析(子どもの言語・コミュニケー
評価)
ションの問題を評価)
↓
↓
目標設定(SOULを中心に目標設
ミクロ分析(子どもと大人の両者の行動分
定)
析,ことばかけの分析
さまざまな障害やコミュニケーションの問題に合わせた治療的アプローチ
*マクロ分析:ビデオ画面全体を通して,大人と子どものコミュニケーションが成立しているかどうかを
基本に見ていく。大人の基本姿勢が守られているかといった大人側の評価や,コミュニケ
ーション能力を中心とした子ども側の評価を行う。
*ミクロ分析:ビデオ場面の一部を取り出し,子どもと大人の行動や言葉を時間軸に沿って書き出したト
ランスクリプト(継時的記録)を作成して行う。大人の具体的な言葉かけの適切性やそれ
が子どもにどう伝わったかなどを細かく検討する。
(1)マクロ分析シート
評
価
目
標
設
定
場
面
設
定
A さん
・音のする方向を見ようとする。
・教師の動きに視線を向けることがある。
・活動の後に笑顔や発声が見られる。
・教師の動きを感じて笑顔になることがあるが,
要求表現には達していない。
・人を意識してはいるが,やりとりには至って
いない。
・好きな活動の中で教師との遊びを通して,遊
びの楽しさや人とかかわる楽しさを経験す
る。
・教師からの働きかけに気づく。
・腕の動きや発声による伝達手段を知る。
・歌に合わせた手遊びやかけ声に合わせたゆら
ゆら遊びをする。
教
師
・言葉の統一ができている。
・言葉をかけてから反応を十分に待つことができ
ている。
・右側からアプローチして,右手の動きを見逃す
ことがある。
・自発的な動きに対して言語で気持ちを代弁する
ことが尐ない。
・生徒の表情や動きをよく観察する。
・腕の動きや発声に気をつけながら,タイミング
よく言葉をかける。
・自発的な動きに対して,気持ちを言語化して返
す。
具体的方法
・SOULを守る。
・はっきりとした口調でゆっくりと言葉をかける。
・言葉をかけてから尐し間をおき,表情の変化や
発声・腕の動きをよく見る。
・活動の始まりと終わりをはっきりさせる。
<大人側の評価>
①あなたは反応的にかかわっていますか。
・子どものリズムに合わせていますか。
・子どもの開始を待っていますか。
・子どものすることをよく見ていますか。
・子どものことばに耳を傾けていますか。
・子どもの意図や気持ちをよく理解していますか。
②子どもと遊びを共有していますか。
・子どもと同じ遊びを共有していますか。
・子どもとの遊びを楽しんでいますか。
・子どもが考えられるよう待っていますか。
・遊びが発展できるようなモデルを示していますか。
③子どものレベルに合ったことばかけをしていますか。
・指示的(命令・禁止・質問)ことばかけが多すぎませんか。
・子どもを認めることばをかけていますか。
・早口ではありませんか。
・ことばが多すぎたり,長すぎませんか。
・子どもにわかりやすい内容ですか。
④楽しい雰囲気を提供していますか。
・表情豊かに楽しそうにかかわっていますか。
・ジェスチャーや指さし等を使ってことばの理解を助けていますか。
・声は大きすぎませんか(威圧感を与えていませんか)
。
・声は小さすぎませんか(よく伝わっていますか)
。
(2)ミクロ分析シート
大人の氏名と子どもの関係
佐藤美奈子
担任教師
指導年月日 H16.10
分析年月日 H16.11.02
ビデオ録画 2回目
カウンターナンバー
伝達意図
A さん(トランスクリプト)教師
伝達意図
何をやるの?
教師の動きをじっと
見ている。
「 ゆ ら ゆ ら や
る?」と言う
「ゆらゆら遊び
やろうか?」
やりたいよ!
しばらくして笑う。
「やるよ」と言い
抱っこして揺らす
「やりたいんだ
ね。やるよ」
楽しいね
笑う。
「もう一回ゆらゆ
らやる?」と言う
「楽しかったん
だね。またやって
みようか」
もっとやりたい!
右手を伸ばす。
「やろうね」と言
い抱っこして揺ら
す
「やりたいんだ
ね。やるよ」
楽しかった。もっとやり
たいよ
笑う。右手を伸ばす。
「楽しいね」と言
う
「楽しかったん
だね」
適切な反応の例
「楽しかったんだね。
もっとやろうね」
5
コミュニケーション発達の理解
(1)コミュニケーションの段階
1)聞き手効果段階(発達年齢:0ヶ月~10ヶ月)
<特徴>
・自分の行動に対する効果を知り,その結果に興味をもって関わるようになる。
・うまく伝わることの成功感や楽しさを味わう。
・コミュニケーションのスタイルを学ぶ(交代で話す,相手の意図を理解する,やり取りを続けよう
とする)
。
・物の永続性(物が見えなくなっても存在し続けるということ),因果関係(「~したら~になった」
といった関係),手段-目的関係(ある目的を達成するために何らかの媒体を利用すること),三項
関係(自分と何らかの物と相手といった関係の理解)などコミュニケーション発達を支える認知的
な課題を獲得する。
2)意図的伝達の段階(発達年齢:10ヶ月~12ヶ月)
<特徴>
・伝達の目的が尐なくとも2つに分化していく。
原命令・・・「物」や「サービス」を手に入れるために「人を使う」ような内容の手段(「取って」
「やってちょうだい」等を意味するもの)。
原平叙・・・
「人の注意」を自分に向けさせるために「物」を使うような内容の手段(「こっち向い
て」
「見て」等を意味するもの)
。
・伝達手段を複合化して,時間差で使えるようになる。
「視線(誰に)」+「発声(何を)」+「行為(どうする)」が時間差(例えば,「声を出してから指
差しをする」等)で使える。「視線」「発声」や「行為」のそれぞれが徐々にことばに置き換わって
いく。
・社会的な伝達手段を用いるようになる。
渡す,見せる,指さすといった社会的な身振りを獲得する。
3)命題伝達の段階(発達年齢:12ヶ月~16ヶ月)
・意図的伝達の段階に見られた伝達手段に単語(ことば)が加わる。
(2)コミュニケーション評価
<観点>
1)志向性:コミュニケーション発達の基礎となる内容であり,本人の要求や関心の向く方向性。
2)理解:ことばや身振りの理解の様子。
3)表出:ことばや身振りによる表出の様子。
4)学習の基礎:集中力,注意力,持続力といった,学習の基礎となる力。
5)主な認知発達:物の永続性,因果関係,手段-目的関係といったコミュニケーション発達との関係
が深いとされる内容を理解しているかどうか。
参考・引用文献:インリアル・アプローチ;竹田契一,里見恵子(1994)
障害の重い子どものコミュニケーション評価と目標設定;坂口しおり(2006)