ヒーター線 熱電対(T型) 銅管 150mm 75mm 3mm

砂およびシルトの熱伝導率の水分依存性
苫小牧工業高等専門学校
国際会員
○ 所
哲也
苫小牧工業高等専門学校
学生会員
白井
翔也
北海道大学大学院
国際会員
石川
達也
苫小牧工業高等専門学校
国際会員
中村
努
1.はじめに
北海道では,凍結融解作用が主因と考えられる地盤災害が冬から春にかけて 数多く発生する.近年生じた
災害を例に挙げると ,2011 年 5 月に発生した国道 230 号中山峠で発生した斜面崩壊 がある.この発生原因は,
暖気による急激な融雪に降雨が重なったことによる地下水位上昇であると考えられ, 同様の原因で北海道で
は融雪期に斜面崩壊が多発している.斜面崩壊の他にも,擁壁背面の土の凍結膨張圧による擁壁の変状 ,破
壊や,凍結融解作用により路盤材の支持力低下などによる舗装の亀裂の発生など ,凍結融解作用による地盤
災害によって北海道の社会基盤は 多大な損害を受けている .これら災害の対策を行う上で,熱伝導率などの
熱物性値を用いて凍結深さ,地盤内の温度 分布を推定する必要があるが,土の熱伝導試験は基準化されてい
ないため,土の熱伝導率は過去の試験デ ータや推定式を用い ているのが現状である.土の熱伝導率は, 含水
量,密度,石英含有量 などの影響因子が多いため 推定するのが難しいが,これまで種々の熱伝導モデルが提
案されている.これらの中で,Johansen 1) による推定式は,飽和度,間隙率に加え石英含有量を考慮している
ため,適合性が高いとされ広く用いられている .しかし,当該推定式も石英含有量 が低い土に対しては適さ
ないとされており
2)
,現状では幅広い土質に適応 可能な推定式は存在していない.このため,土質によって
は凍結深の推定が必ずしも正しいとは言えず, 凍結融解作用による被害を拡大させている可能性がある.
そこで,本研究では, 熱伝導率の測定結果の蓄積により 熱伝導モデルを構築することを 目標として,非定
常熱線法の一種 であるサーマルプローブ法を用い,粒度分布が異なる二種類の未凍土 に対して熱伝導試験を
実施した.得られた熱伝導率を水分特性曲線と照合して水分依存性 について考察する.
安定化直流
電源
2.試験装置および試験方法
2.1試験装置
本研究では,比較的簡易に土の熱伝導率を求める
恒温水槽
ことができる非定常熱線法の一種である サーマルプ
20.0℃
20.0℃
ローブ法を試験法として採用 した.試験装置の概略
図を図1に示す.装置は供試体内に挿入するプロー
デジタル温度計
電流計
電圧計
0.5A
ブ,プローブに電流を送信する安定化電源 ,プロー
プローブ
供試体
ブの温度上昇を計測する温度計 ,プローブへの入力
5.0V
電力を計測する電流計,電圧計,および 供試体を一
PC
定温度に保つための恒温水槽から構成されている.
図1
図2にプローブの詳細図を示す. プローブは,長
さ 150mm,外経 3mm,内 経 2mm の中空銅管にヒー
試験装置概略図
銅管 熱電対(T型) ヒーター線
ター線(コンスタンタン線)と熱電対 (T 型)を封
入し,常温で固体のワックスを 充填することでそれ
75mm
ぞれ絶縁,固定している.
図2
3mm
150mm
プローブ詳細図
Effect of water content on thermal conductivity of soils: Tetsuya Tokoro, Shoya Shirai (Tomakomai National College of
Technology), Tatsuya Ishikawa(Hokkaido University),
Technology)
191
Tsutomu Nakamura (Tomakomai National College of
100
2.2試料と供試体作製方法
豊浦砂
東陵土
90
化火山灰(以下東陵土と 称す)を 用いた.各試料の
粒径加積曲線と物性値を図3,表1にそれぞれ示す.
供試体は目標の 飽和度となるように 含水比を調整し,
試料と水を十分に混ぜ合わせた後, 直径 72mm,高
さ 180mm のステンレス容器に試料を充填し,所定
通過百分率(%)
試料には,豊浦砂と北見市東陵町で採取された 風
密度になるように突固めることで作製した .
80
70
60
50
40
30
20
10
密度,および含水量の違いが 熱伝導率に与える影
0
1E-3
響を検討するため, 表2に示す試験条件で試験を実
0.01
0.1
1
10
粒径(mm)
施した.なお,熱伝導試験終了 後に供試体の上部,
中部,下部の含水比を測定し, 目標値とのばらつき
図3
が小さいことを確認している.
試料の粒度分布
表1
試料名
2.3試験方法
豊浦砂
東陵土
作製した供試体を 20 o C に設定した恒温水槽内に
物理的指標
s
 d max
 d min
D 50
Fc
g/cm3
2.65
2.56
g/cm3
1.65
1.34
g/cm3
1.35
0.84
mm
%
0.18
0.09
0
46.98
設置し,温度が均一になった後に 熱伝導試験を実施
した.試験は,安定化電源からプローブへの供給 電
表2
力が 12W/m となるようにプローブに 通電し,プロー
 d(g/cm3)
1.60
1.50
ブの温度,電流,電圧値をパソコンにより自動計測
する.
試験条件
豊浦砂
設定飽和度 S r(%)
0
0
5
5
10
10
15
-
サーマルプローブ法は,プローブに一定の熱量を
加えたときの温度上昇がプローブに接する試 料の熱
伝導率に依存することを利用して熱伝導率を求める
t 
Q

ln  2 
4  t1 
o
手法であり,熱伝導率は次式で表される.
(1)
こ こ で ,  : 熱 伝 導 率 ( W/m/K), Q: プ ロ ー ブ の
単位長さ当たりの熱量 (W/m),t 1 ,t 2:時間(h),  :
t 1 ,t 2 間のプローブの上昇温度である.
図4にプローブに通電した際の プローブの温度上
昇の経時変化の一例を示す.(1)式中の ln(t 2 /t 1 )/  は,
測定開始 1 分後から 8 分間の計測データを 用いて最
小二乗法により求めた値を用いている.
2.4
プローブの温度上昇(C )
 d(g/cm3)
1.30
1.10
6.0
5.5
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
20
20
50
50
80
100
100
-
東陵土
設定飽和度 S r(%)
0
0
10
-
20
20
30
30
35
-
40
40
50
50
60
60
70
70
80
80
豊浦砂 d=1.60(g/cm3) Sr=50%
=0.52ln(t)+4.37 R =0.99
2
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
経過時間 t (min)
保水性試験
図4
豊浦砂(砂質土)と東陵土(シルト)では,粒径,
プローブ温度の経時変化
粒度分布の違いなどから水分特性曲線のサクション範囲が大きく異なる. 西村ら
3)
は,微細多孔質膜を用い
た加圧膜法とセラミックディス クを用いた加圧板法より得られた水分特性曲線を比較し, 低サクション領域
ではセラミックディス クが難透水性であるためヒステリシスが大きくなることを示している.一方,加圧膜
法では,高サクション領域では拡散空気の影響により水分特性曲線に誤差が生じる. このため,本研究では
保水性が低い豊浦砂は加圧膜法,保水性が高い 東陵土は加圧板法により,熱伝導試験と同密度(豊浦砂:
 d =1.60g/cm 3 と東陵土:  d =1.29)で保水性試験を別途実施し,水分特性曲線を求めた.
192
4.0
3
d=1.60(g/cm )
3.5
熱伝導率(W/m/K)
熱伝導率(W/m/K)
4.0
3
d=1.49(g/cm )
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.0
20
40
60
3
d=1.10(g/cm )
0.5
(a)
0
3
d=1.29(g/cm )
3.5
80
100
(b)
0
20
60
80
100
飽和度 Sr(%)
飽和度 Sr(%)
図5
40
熱伝導率と飽和度関係 (a)豊浦砂(b)東陵土
懸垂水不飽和
豊浦砂と東陵土の熱伝導率と飽和度の関係を図5
(a),(b)にそれぞれ示す.豊浦砂,東陵土ともに密度 増
加に伴い,熱伝導率も高くなる傾向が 伺える.土中の伝
熱媒体は,固体層の土粒子,液体層の間隙水,空気層
の間隙空気であるが,空気の熱伝導率は土粒子,水の
熱伝導率と比較すると無視し得るほど小さいため ,主
に土粒子と間隙水に沿って熱が伝わる.このため,密度
過渡的不飽和
封入不飽和
サクション s (kPa)
3.試験結果および考察
増加によって土粒子接点数が増加し,伝熱媒体が増え
ることで熱伝導率が増加したと考えられる .
残留飽和度
飽和度 Sr (kPa)
次に,各試料の 含水量の変化に伴う熱伝導率の変化
について考察する.豊浦砂,東陵土ともに 飽和度の増加
図6
水分状態の概念図
4)
に伴い,熱伝導率も増加している. 前述のように土中の熱は土粒子,間隙水に沿って 伝わるため,乾燥密 度
が一定の条件下においては含水量と熱伝導率は比例関係になると 考えられる.しかし,本研究で得られた 熱
伝導率―飽和度 関係では,高含水領 域では比例関係となっているが,両試料とも飽和度 20%以下の低含水量
領域では非線形となり,熱伝導率は飽和度と一義的な関係となっていない .この理由は,土中水の存在 形態
が含水量によって異なるためであると考えられる.一般に,土中水の存在形態は,水分特性曲線と対比して
図6のようになるとされている
4)
.含水量が極めて低い懸垂 水不飽和状態では,土粒子の接点近傍にメニス
カスを形成する状態で存在し ており,含水量が高い封入不飽和状態では, 気泡が離散的に存在している.過
渡的不飽和状態は,懸垂水不飽和状態と封入不飽和状態の遷移状態である .これらの水分存在形態が熱伝導
率と密接に関係していると考え,熱伝導率の水分 依存性を水分特性曲線を用いることで 土中水の存在形態と
対比して考察する.
豊浦砂( d =1.60g/cm 3 )と東陵土( d =1.29g/cm 3 )の熱伝導率- 飽和度関係に別途実施した 保水性試験より
得られた水分特性曲線と VG モデルによる近似曲線を併せて図7(a),(b)に示す.水分特性曲線 から,豊浦砂
は,明確な残留飽和度が見られる.他方 ,東陵土は保水性が高く,350kPa の高サクションを負荷しても排水
が続き明確な残留飽和度は見られなかった が,概ね残留飽和度は 20%~30%程度と推測される .豊浦砂,東
陵土ともに気乾状態(豊浦砂: S r =0%,  = 0.21 W/m/K,東陵土:S r =0%,  = 0.28 W/m/K)から残留飽和度付
近までは,含水量増加による熱伝導率の上昇は極めて小さい. これは,この含水量では,間隙水は主に土粒
子表面に存在する極めて薄い吸着水や 土粒子の接点にメニスカス水として存在し ており,その多くが連続し
ていないため伝熱には寄与していないことに因ると考えられる.実際, 豊浦砂を対象とした土中水の存在形
態をx 線 CT スキャンにより観察した研究報告
5)
からも,残留飽和度以下の低含水領域では, 間隙水の多く
は連続していないことが視覚的に確認されて いる.一方, 懸垂水不飽和状態においては, 熱伝導率の変化が
193
3.0
14
12
-1
(=0.4 kPa ,n=4.1)
2.5
10
2.0
8
1.5
6
1.0
4
0.0
0
20
40
60
80
3.5
サクション
VGモデル
3.0
-1
300
2.0
200
1.5
150
1.0
100
2
0.5
50
0
100
0.0
0
20
40
60
80
0
100
飽和度 Sr(%)
熱伝導率と水分特性曲線 (a)豊浦砂(b)東陵土
4.0
(a)
3.5
飽和状態における熱伝導率
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
気乾状態における熱伝導率
0.5
1
10
熱伝導率(W/m/K)
熱伝導率(W/m/K)
350
250
4.0
0.0
(b)
(=0.5 kPa ,n=2.14)
飽和度 Sr(%)
図7
400
熱伝導率 2.5
0.5
残留飽和度
4.0
熱伝導率(W/m/K)
3.5
(a)
サクション s(kPa)
16
熱伝導率 サクション
VGモデル
サクション s(kPa)
熱伝導率(W/m/K)
4.0
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5 気乾状態における熱伝導率
0.0
100
100
101
102
103
104
105
106
107
108
サクション s (kPa)
サクション s (kPa)
図8
(b)
3.5
熱伝導率とサクション関係( a)豊浦砂(b)東陵土
大きく,この状態で伝熱に寄与する間隙水が連続したと考えられる.過渡的不飽和状態から封入不飽和状態
を経て飽和状態 に至るまでは,既に伝熱に寄与する間隙水が連続しており,含水量の増加に比例して熱伝導
率が増加したと考えられる.以上より,熱伝導率は 不飽和土内における水分の存在状態 に依存していると言
える.
熱伝導率と水分特性曲線との関係をより詳細に調べるため,熱伝導率と サクション の関係を図8に示す.
豊浦砂,東陵土ともに 残留飽和度以下の高いサクション 領域においては,気乾状態からの熱伝導率の増加は
少ない.熱伝導率の増減傾向の変化 は,残留飽和度付近を境界 として生じており,それ以上ではサクション
の減少にともない熱伝導率が増加してい る.したがって ,含水比の変化に伴う熱伝導率の増減傾向を推定式
で表現するためには, 熱伝導率の変曲点となる 残留飽和度を考慮する必要がある.
4.まとめ
粒度分布が異なる豊浦砂と東陵土の熱伝導率は, 水分特性曲線 により説明される土中水の存在形態と密接
に関っており,熱伝導率の変曲点は残留飽和度付近で生じる.このことは, 熱伝導率の 推定やモデル化には
水分特性曲線を考慮する必要性が あることを示唆している .
参考文献
1) Johansen, O.: Thermal conductivity of soils, PhD thesis, Trondheim University, Norway, 1975.
2)
山崎祐樹,土谷富士夫,辻修:石英を含め凍結土および未凍結土の熱伝導率測定と推定モデル,農業土木学
会 論文集 , No.226,43-51,2003.
3) 西 村友 良,古 関潤一: 加圧膜 法 によ る低サ クショ ン領域 の非塑 性シル ト
の水分特性曲線 ,第 47 回地盤工学研究発表会,342-343,2012.
4) 風間基樹,高村浩之,海野寿康,仙頭
紀明,渦岡良介:不飽和火山灰質砂質土の液状化機構について,土木学会論文集 C,Vol.62,No.2,546-561,
2006.
5) 森下諒一,吉田竜也,肥後陽介,岡二三生,木元小百合:x 線 CT を 用いた異なる水分保持状態
における不飽和豊浦砂の微視的構造の観察,第 47 回地盤工学会研究発表会, 349-350,2012.
194