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「二つの言語の間で育つ子どもたち―
日本で子育てする親に伝えたいこと―」
∼日本語ボランティアシンポジウム2012から∼
12月1日、名古屋国際センターと東海日本語ネットワークの共催で、日本語ボランティアシンポジウム
2012を開催しました。今年は、
「外国にルーツをもつ子どもの支援」をテーマに、彼らに対してどのような
言語教育が有効か、さまざまな子ども支援の取り組みの中で母語や母文化をいかに育むか、また親にはど
のような働きかけができるのかを考えました。
∼絵本を通して世界のクリスマスと冬のくらしを知ろう!∼
かん へい
外国人の講師による絵本の読み聞かせやお話、歌やゲーム
中国人の関平さんは、春節
(旧正月)
について、
スライドを使っ
を楽しみながら世界のクリスマスや冬の暮らしについて知る
て紹介してくださいました。子ども向けに工夫したイラストや
「外国語で楽しむ絵本の会特別企画」
が12月9日、名古屋国際セ
写真が多く、なかでも春節のたくさんの食べものの映像とお話
ンターライブラリーで開かれ、日本人、外国人の親子連れでに
ぎやかな時間を過ごしました。
に子どもたちも真剣に聞き入っていました。
最後を飾ってくださったのが、アメリカ人のサムエル・ウェイ
この日は4カ国の講師の話にのべ108名の親子が耳を傾けま
ドさん。サムエルさんは、ピアノ演奏に合わせて、参加者たちと
した。フランス出身のボー・ジューリさんは、ご自身の子ども時
一緒に英語でクリスマスソングを歌って、会場はおおいに盛り
代のクリスマスの思い出や過ごし方などを分かりやすく紹介。
上がりました。なお、当日の写真は裏表紙に掲載しています。
子どもたちも興味深々に聞き入り、反対に子どもたちからイン
ご覧ください。
未来に希望を持てずにいた川崎さんを救ったのはキリスト
はじめに、幼少期における現地語と継承語(親の母語)の二
教との出会いでした。教会で礼拝の同時通訳をしながらポル
言語教育を研究しているトロント大学名誉教授の中島和子さ
トガル語を必死で覚え、公共施設や病院で通訳をしながら小
んが、
「定住1.5世代」
と呼ばれる、
「日本生まれあるいは幼少
遣いを稼ぎました。独学で日本語能力試験1級に合格し、親か
期に来日した幼児」の言葉と学力の獲得について講演しまし
らの独立を果たします。そして、弟に同じ思いをさせたくない
メキシコ人のチャムー・アリアス・コラールさんは、スライドを
ボランティア」
の企画・運営によるもので、
「絵本の会」
をもっと
た。
「定住1.5世代」の特徴として、
「4∼8歳の間は二つの言語
と自費で塾に通わせ、反対する親を説得して中学に入学させ
使って、美しいメキシコの
多くの人に知っていただき、異文化に触れていただく機会を提
が競合しているが、母語が確立する前に日本語に急激に接触
た末、高校進学にまで導きます。弟が毎日笑顔で高校に通う
街並み、人びとの生活や文
供したいという願いから昨年より開催されています。
するため、母語が後退あるいは失われてしまう子が多い」
こと
姿に、自分が果たせなかった夢を重ね合わせています。
化、そしてクリスマスの過
クリスマス企画は年1度ですが、絵本の会は毎月2回
(日曜日)
を挙げ、その間の言語環境・言語教育がその後の両言語の獲
川崎さんは今、自分の経験から、同じように言語の選択を迫
ごし方をクイズ形式で紹
開催していますので、是非ライブラリーにお立ち寄りください。
得・保持・伸長に大きく影響する、と述べました。
られている子どもたちに言語を学ぶ大切さを、そして保護者
介し、子どもたちはもとよ
中島さんは、日本語修得の妨げになるなどの間違った思い
には教育の重要性を伝えていきたいと思っています。
り、保護者の方々も映像に
自尊感情、自己肯定感を育む支援を
本語力へ転移する」
「母語の読み書きを継続して母語力を伸ば
シンポジウムでは、就学前支援の各地の取り組み事例も紹
すと、認知力、思考力、学力にプラスに働く」
とされていること
介され、幼少期からの支援の重要性の認識は支援者に広まり
を紹介し、母語の保持・伸長の重要性を訴えました。
つつあります。
支援する中で何より大切にしたいのは、子どもたちが自分
姉弟が抱き続けた就学への思い
のルーツに関心と誇りを持ち、母語や母文化を肯定的にとら
つ づ い て、自 治 体 嘱 託 職 員 の
え、自尊感情を持てるようにすることです。しかしながら、母
ウェンドリング・ユミ・川崎さんが、
語や母文化の継承が、個人の努力、家族の協力だけに任され
家庭の事情で学校に行けなかった
ている現状ではそれも覚束ないのが実情です。子どもたちが
自身の苦難と、その後悔から同じく
二つの言語、二つの文化を持ち合わせていることが彼らの優
不就学だった弟を高校進学まで導
位性となり、将来の可能性を広げることを、家族をはじめ支援
いた経験談を語りました。
者や学校、地域の人々が十分に理解した上で、両方を大切に
ともに3歳で来日、忙しく働く親と
学校に通えなかった
つらい体験を語る川崎さん
育んでいく姿勢と環境が求められています。
のすれ違いから家でポルトガル語を使うこともなく、日本語を
スライドを使ってメキシコのくらしを紹介する
チャムーさんと真剣に聞き入る子どもたち
高校へ行こう!
∼外国人の子どもと保護者のための学校訪問
プログラム∼
定時制高校を訪問
は授業後に言語活動
日本の教育制度についてよくわからず、子どもの進学につ
として、中 国 語 が で
いて具体的に考えることができないという外国人の保護者は
きる講師に来てもら
少なくありません。名古屋国際センターは今年度、外国人へ
い支援を行っています。舩越教頭先生は
「本校では、できるだ
の教育支援の一環として、
「外国人の子どもと保護者の学校訪
けわかりやすい授業をするように努力していますが、授業が
問プログラム」
を開催。1回目・2回目は大学、
11月21日開催の
分からないということは本人にとって苦痛だと思います。高校
3回目は、名古屋市立中央高等学校夜間定時制を訪ね、学校
入学までに日本語をできるだけ学んできてほしい」
と話してい
生活や入試の制度などについての説明を聞き、授業や校内を
ました。
外国人の保護者の関心は…
生まれ、環境は一変。仕事を辞め専業主婦になった母親の話
しかけてくるポルトガル語に強烈な違和感を覚えます。簡単
なポルトガル語はわかったものの母語や母文化に嫌悪感を抱
きました。小学4年になると家庭の事情で突然退学を強いら
れ、家で勉強をするよう言いつけられます。親との会話も避
けるようになり、孤立していった川崎さん。将来を考えた時、
はっきりと自分の置かれた状況を理解します。
「日本の学校も
2013.2 ニック・ニュース
した。
見学しました。
生活言語として覚えていきました。小学校に上がるころ弟が
出られず、ポルトガル語も分からない自分は無学なのだ」。
このクリスマス特別企画は、名古屋国際センター
「絵本の会
見入る姿が見受けられま
す。しかし最近のバイリンガル研究の知見では、
「母語力は日
川崎さんは、ブラジルから両親と
タビューをされる場面もありました。
NICホットライン
NICホットライン
日本語と母語を両方伸ばす
込みから母語を家庭で使うことをためらう親が多いと言いま
03
外国語で楽しむ絵本の会特別企画
会場には多くの参加者が詰めかけ、
熱心に耳を傾けました。
授業を理解するための日本語能力を
学校訪問プログラムでうかがわれたのは、外国人の保護者
中央高校夜間定時制には、中国やフィリピンなど外国出身
の授業料や入学金、奨学金への関心の高さです。
「授業料は
の生徒が20名ほど在籍しています。入試の試験科目は国語と
いくらか」
「奨学金はあるか」
という質問がよく聞かれました。
数学、英語、作文、面接。読み書きや日常会話ができないと入
名古屋国際センターでは、
2月9日
(土)
に
「外国人の子ども
学することができません。しかし、入学しても日本語が十分分
と保護者のための子ども総合相談会」
を開催し、その中で学
からないために、授業を理解できない生徒もいるそうです。
費のことなど
「日本での子育てにかかるお金」
に関するセミ
同校では、一部の授業に限られますが、
1年生の時に日本語が
ナーを行います。詳しくはニックページ(P8)をご覧ください。
苦手な生徒を対象に少人数指導を行っています。平成24年度
2013.2 ニック・ニュース
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