講評 (PDF 195KB)

平成 26 年度 国文学科中期入試問題講評
(一) 現代文
【出題意図】
問題文は、『白秋望景』(川本三郎著)の冒頭にあたる部分からとった。文学的味わいの深い
文章で、本文の内容理解を測ることを中心に作問した。また、文学史的知識を問う問題も
入れた。
【採点のポイント】
問一
正確に漢字の読み書きができているかを見た。一点、一角、払いなどをないがしろ
にせず、書くことが大事である。
問二 (正しい漢字で)雑誌名が書けていること。
問三
どういう点で「逆説的」なのか、と設問にあるように「逆説」をしっかりつかんで
解答しているかどうかを見た。
問四 「本歌取り」の意味を理解した上で、
『廃市』が「わが生ひたち」の趣向や表現を意
識的に取り入れ、生かしたものであることが説明されていること。
問五
設問の文章の前後にある、秋、たそがれ、水、静かな死、世をはかなむ、世捨人と
いった言葉に注目することがポイントである。
問六
「どのようなものか」と問われているので、「……もの。」と納めるのが常道。傍線
部 A の前の二文、
「詩人は現実の町というより、言葉によってイメージされてゆく幻
の町のほうを大事にしている。記憶、思い出という操作によって浮かび上がってく
る「あるべき故郷」である。
」の内容を柱として、解答の文字数を合わせる。
【講評】
問一
ア ~○
コ 、全問正解の答案もあったが、概して○
オ 「ひつぎ」、○
コ 「けし」と読めな
○
かった答案が多かった。読めない語句に当たった時、確認する習慣をつけておきた
い。曖昧に漢字に接していると思える誤字も多く見られた。
問二 『明星』がわかった人はすべて正しい漢字で書けていた。
『白樺』という誤答が目立
って多く、
『太陽』
『キング』なども目についた。与謝野鉄幹と『明星』は、文学史
の初歩的な問いである。
問三
「柳河」が失われた町、廃市でありながら、それだからこそ「よみがえった」とい
う点が重要である。
「柳川」と書いている答案もあったが、文意がくみ取れていない
と判断される。前後の文章をつなげているだけの答案も見られたが、逆説をとらえ
たことになっていないと減点した。
問四 本歌取りを単なる引用ととらえていたり、
『廃市』を柳河のイメージで読ませようと
したと考えていたり、解答が正しいものからずれているものが多くあった。
問五 「西欧の詩人たち」の具体名をあげるにとどまったり、「影響」のされ方にとらわれ
たりして、
「たそがれの感受性」の内容について説明することをしていないものが、
大分あった。
問六 「動機」の一部を誇張する解答が多い。柳河の廃れ様を表したいとの解答が多いが、
それだけでは「深い」動機にはならない。
「言葉によってイメージ」することには「思
い出という操作」が必要である。それを定着させたいというのが詩人北原白秋の動
機である。ここを論理の破綻がないようまとめるのがよい。なぜ、そう思うのかと
いう、西欧の象徴詩人の影響までは細かく書く必要はない。
(二)古文
【出題意図】
問題文は賀茂真淵の「岡部日記」による。平明な文章であるが、適確に語句を捉え、文を
解釈することができるかを見るための出題である。
【採点のポイント】
問一
文中の動詞の活用形を問う。動詞の下の助動詞が動詞の活用形の何形に接続するか
について理解しているかがポイント。
問二 助詞の文中における用法を問う。文中における機能に留意。
問三
文の現代語訳。基本語を理解しているか、また直訳では文意が通らないのを言葉を
補いながら適確に訳せているか、などがポイント。
問四
冒頭からの文脈の流れの把握が大切。その把握の上で適確に主語を答えること。傍
線部④は「九月十三夜という日柄といい、海、山の美景を見わたせる土地柄といい、
今夜ほど月見をするのに絶好の機会に恵まれることは、またとないであろう」とい
うほどの趣旨で、
「月見の絶好の機会」などと端的に答えたいところである。単に「名
月の美しい夜」などとしたものには、部分点を与えた。
問五
歌の第五句に用いられている「あはれ」の心情を具体的に言い表すことができるか
を問う。歌の初句から第四句までの理解の上に立って答えることが必要。
問六
歌の中の掛詞を問う。関所の「駅鈴」という歴史的事柄を理解しているかがポイン
ト。
【講評】
問一
⑤⑧は正答率が高かった。⑩は連体形とする誤答が目立った。助動詞「べし」は動
詞の終止形接続。
問二「この山を」を強調していることが明示できない解答が多かった。強意の助詞の文中
における機能について具体的な把握が不十分。
問三
②は基本語「中々に」が理解できていない答案があった。③は、直訳で文意が通ら
ない答えが目立った。⑪は「ならで」「ばや」の理解が不十分で、文意を十分に把握
できていない答案も少なからず見られた。
問四 直前の和歌にひかれて「夕日に映る富士山の風景」としたり、
「宿に泊まらないこと」
としたりする誤りが散見された。文脈を着実に把握してほしいところである。
問五 おおむねできていた。
「ながむる」(終止形「ながむ」
)はいうまでもなく、物思いに
ふけりながら眺めやる意。
問六
正答はきわめて少なかった。文学と歴史的事柄は密接にかかわっており、基本的な
歴史的事項はしかと押さえておきたい。
(三)漢文
【出題意図】
今年度は平安時代の漢詩文集『本朝文粋』から、都良香の「道場法師伝」の一部をとりあ
げた。返り点・送りがなを手がかりとしながら文意を正しく読み取る力を備えているか。
また、返り点の付け方や基本的な語句の読みなど、漢文を読むための基礎知識が定着して
いるかをみることを主眼とした。
【採点のポイント】
問一 基本的な語彙についての読み方を問う問題。A・B・Cいずれも、漢文に頻出の重
要語彙。
問二 書き下し文に従って返り点を正しく付けられるかをみる問題。「一・二・三」点と
「レ」点を用いて答える、ごく基本的な問題。
問三
文章が読解できているかをみる問題。農夫は、墜ちてきた雷のために楠舟を作って
やった。そのとき雷は「我汝に異児を生ましめ、此れを以て汝に報ぜん」と言った
が、まことに驚くべきことに、数ヶ月後に生まれた子供の首には不思議な蛇が巻き
ついていたのであった。
【講評】
問一 全体的に正答率は高かったが、A「莫」を「なし」に誤っているものが相対的に多か
った。問題文のように禁止の基本句形でもよく用いられるので、もっと出来て欲し
かった。B「為」は、漢文で最も重要な語の一つだが、おおむね出来ていた。
問二 正解の答案がほとんどであった。ただ、「一・二・三」点を使うべきところで、「上・
中・下」点に誤っている答案が少々目立った。
問三
大半の受験生は文章の大意をとらえられていたようで、おおむね良くできていた。
「之」は目前の出来事を指すと読んで解答すればよいが、「雷のいったとおり…」と
因果関係を含めて答えているものも可である。蛇がふたまわり首をめぐっていたの
を、
「二匹の蛇が」とする答案があった。文末表現が「…こと」等で終わっていない
ものは、減点である。