2011年度B日程入試問題 法学専門試験 刑法 問 A は K 大学附属病院内の混雑している待合室の椅子の上にバッグを置いたまま、椅 子から 10 メートル離れた調剤室前で薬剤師から薬の説明を受けていた。そのとき通院 患者で暴力団員の X と Y が待合室に入ってきた。そのバッグを見つけた X は、誰かが 置き忘れたものだと思い、Y に「あのバッグは忘れ物だろう。ほしいなあ。 」と言った ところ、Y は「そうですね。誰かが忘れたバッグでしょう。お金が入っているように見 えますね。兄貴。」と答えた。X が「ドジを踏むなよ。うまくやれよ。 」と言ったので、 Y は「はい。 」と答え、何気ないふりをしてこの椅子に近づき、このバッグを取り上げ、 急いで待合室の出入り口付近にいた X とともに病院の玄関から外に出た。 X と Y は近くの公園でこのバッグの中身を調べたが、現金や支払い用カード類はな かった。しかしこのバッグ自体が有名ブランドの新品だったので、X と Y はこのバッ グの中身をすべて近くの川に捨て、このバッグを売却して換金し均等に山分けすること にした。そしてすぐに、Y がこのバッグに入っていたすべてのものを川に捨て、このバ ッグを持って B 古物商の店舗に行き、 店員に「1 週間前にフランスで買ったバッグだが、 妻が気に入らないというので売りたい。いくらでもよい。」と言ったところ、店員はバ ッグの品質を確かめたうえで、このバッグを 5 万円で買い取った。 それから 2 時間後、喫茶店で X と待ち合わせた Y は、X に「4 万円で売れました。」 と言って 4 万円を差し出した。X は「そうか。ご苦労さん。 」と言って、その場でその うちの 2 万円を Y に手渡した。 X と Y の罪責を論じなさい(但し、特別法上の罪責を除く)。 (以下余白) 1 <出題意図> 本問は、財物の占有概念と帰属、抽象的事実の錯誤、共謀共同正犯の成否、詐欺罪に おける財産的損害概念、不可罰(共罰的)事後行為につき、条文の解釈と論理的なあて はめを問うものである。刑法総論と刑法各論における典型論点が組み合わされている。 答案では、法的処理の枠組みを的確に構成し、それを説得的に展開することが求められ、 刑法知識の正確さ、事例問題の処理における論理性および適切な表現力が問われること になる。試験として時間的制約がある以上、問題処理において論じるべき重要度を判断 し、それに応じた解答の工夫も必要である。すべての問題点を網羅的に処理していなく ても、重要な条文の解釈と論理のあてはめが丁寧になされていれば、刑法の基本的な思 考能力が身についていると判断されうる。 <問題解説> 1.バッグの占有の帰属 ①事実的支配(物理的支配、占有の主従関係)と支配意思 A の占有、または管理者(病院長)の占有 ②あてはめ → Y の行為=窃盗行為 2.抽象的事実の錯誤(占有離脱物横領の故意で窃盗行為) ①学説 ・具体的符合説:符合否定 未遂犯と過失犯の成立 ・法定的符合説:「重なり合う」限度で軽い罪の故意犯成立(38条②) ・抽象的符合説:軽い罪の故意犯成立(38条②) ②あてはめ ・(純粋)具体的符合説―無罪 ・法定的(実質的)符合説、抽象的符合説―占有離脱物横領罪(254条) 3.器物損壊罪(261条)、盗品運搬罪(256条②)の成否 ・不可罰(共罰)的事後行為→不成立 ・上記無罪→器物損壊罪のみ成立 4.財物詐欺罪(246条)の成否(先行行為とは別の法益侵害性) ①詐欺罪の要件 とくに「財産上の損賠」の意義 ・形式個別財産説 ②あてはめ ・実質個別財産説 形式説・実質説―成立 ・全体財産説 全体説―不成立 5.単純横領罪(252条①)の成否(Y について) ①単純横領罪の要件 ②あてはめ 代金(同一性の有無)の占有と所有、委託関係 要件肯定―成立 要件否定→不成立 6.非実行者 X の正犯性(60条) ①「共謀共同正犯」の概念と要件:共謀者の正犯性基準=支配性、重要な役割など ②あてはめ 7.結論 肯定→Y との共同正犯(上記5を除く) 否定→教唆犯(61条)の検討 X の罪責と Y の罪責のまとめ(罪数処理) 以上 2
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