中東研究センター 情勢分析報告会(要旨) 2013 年 11 月 15 日 Ⅰ.ロシアの中東戦略と米露関係 畔 蒜 泰 助 (東 京 財 団 研 究 員 ) ロ シ ア が 提 案 し た シ リ ア の 化 学 兵 器 の 国 際 機 関 に よ る 管 理 ・ 廃 棄 が 2013 年 9 月 27 日 に 国 連 安 保 理 で 採 択 さ れ 、 米 軍 に よ る シ リ ア 空 爆 の 可 能 性 は 当 面 な く な っ た 。 本合意を主導したと見られているロシアの中東への影響力が注目を集めてきており、 本報告ではロシアの中東戦略と米露関係について、議論する。 ロシアの中東戦略を理解するには、対リビア政策におけるメドベージェフ前大統 領とプーチン現大統領の考えの相違が重要なポイントとなる。前大統領が安保理で拒 否権を行使しなかったことを批判したプーチン大統領は、その結果、現在、リビアが 国家の体をなしていないことに憂慮している。また、シリアがリビアの二の舞となり 国内が乱れることや、テロ組織の勢力拡大およびシーア派とスンニ派の対立加速によ り中東全体が不安定化することを恐れている。対シリア国連安保理決議に対し、ロシ アは拒否権を 3 度行使しているが、これを主導したのは首相時代を含めプーチン大 統領である。 ロシアの提案した国際機関によるシリアの化学兵器管理・廃棄は、米露の専門家 の 間 で 2012 年 よ り 協 議 が 行 わ れ て き た 。 シ リ ア の 政 治 体 制 を め ぐ り 、 ア サ ド 大 統 領 の退陣を前提とする欧米側の意見と、それは現実的ではないとするロシア側の間で前 提条件の調整が長引いていたが、アルカイダの勢力が強くなることは危険であるとい う認識は、プーチンと米国の間で一致していた。米オバマ政権がアルカイダ系の Jabhat al-Nusra を 海 外 テ ロ 組 織 と 正 式 に 認 定 し た 2012 年 12 月 以 降 、 シ リ ア 問 題 を巡る米露の協力プロセスは事実上、始まっていたと見ることができるだろう。つま り、安保理決議での対立構造とは異なり、シリア問題では米露の利害が一致する点は 多かったのである。 今回の米露合意に向けて、キッシンジャー米国元国務長官やサイムス米シンクタ ン ク Center for National Interest 代 表 な ど 、 ニ ク ソ ン 政 権 時 代 に 活 躍 し た “ 米 ソ デ タント人脈”が一定の役割を果たした。キッシンジャー氏は、中東の安定化はロシア の安全保障にとっても重要であり、国益を追求するロシアを信用できるとして、ケリ ー国務長官へアドバイスした模様である。同氏は、アサド排除も現実的でなく、シリ ア問題は独裁政治よりはむしろシーア派とスンニ派の対立にあると考えている。これ ら は 、 CBS 放 送 に よ る 同 氏 イ ン タ ビ ュ ー か ら 推 察 で き る 。 シリアを巡る米露合意は、イスラム過激派問題の更なる悪化・拡散を回避できた こと、スンニ派対シーア派問題の更なる悪化・拡散を回避できたことで評価できる。 またイラン核開発問題の解決に向けた米・イラン対話の開始につながったことでも評 価できる。もし、米国がシリアを空爆していたらイランは国内の保守勢力の反対で米 国との対話路線を変更せざるを得なかったであろう。 -1- 中東研究センター 情勢分析報告会(要旨) 2013 年 11 月 15 日 プーチン大統領は最近、米・イラン対話に反発するサウジやイスラエルと電話協 議を行ったが、これは米国にとって代わろうとするものでは全くない。ロシア自身は、 米国抜きで中東の安定化が図れるとは全く考えてなく、この点が旧ソ連時代とは全く 異なる。 中東地域でのロシアの戦略目標は 3 つある。第一に、中東で米露は対立と協調の 関係にあり、中東問題への対処は対米戦略上のカードである。第二に、中東地域の更 なる不安定化の阻止である。具体的にはアルカイダ問題、スンニ派対シーア派問題で ある。第三に、武器を含めた商業利益である。しかし、3 番目のそれは中東の安定化 が図れた前提での戦略目標であると言えよう。 -2- 中東研究センター 情勢分析報告会(要旨) 2013 年 11 月 15 日 Ⅱ . GCC 経 済 の 最 近 の 動 向 永田 安彦(中東研究センター 研究主幹) 報 告 の 前 半 で は 、 GCC 諸 国 の 経 済 動 向 と 見 通 し 、 エ ネ ル ギ ー 及 び プ ロ ジ ェ ク ト 動 向などの基本的情報の整理を行う。後半では、経済の急回復をみせるドバイについて、 債務問題のその後、バブルの兆候、再開発プロジェクトなどに焦点を当てる。 1. GCC 経 済 の 動 向 GCC の 経 済 は 、 原 油 価 格 の 上 昇 を 受 け 、 2003-04 年 頃 か ら 経 済 成 長 が 加 速 し た が 、 2008 年 9 月 の リ ー マ ン シ ョ ッ ク を 受 け て 2009 年 は 低 下 し た 。 そ の 後 は 原 油 の 価 格 上 昇 、 増 産 を 背 景 に 回 復 基 調 へ と 転 じ た 。 最 近 の 動 向 を み る と 、 2012 年 か ら 2013 年 に か け て 、 UAE と バ ハ レ ー ン を 除 い て 、 経 済 成 長 率 は 鈍 化 す る 見 込 み で あ る 。 IMF が 行 っ た サ ウ ジ ア ラ ビ ア の 経 済 成 長 率 の 見 通 し に よ る と 、 非 石 油 部 門 は 5.9% と 高 い 伸 び が 予 想 さ れ る の に 対 し て 、 石 油 部 門 は 3.3% の 伸 び に と ど ま る 。 2012 年 に サ ウ ジ は 大 幅 な 原 油 の 増 産 を 行 っ て お り 、 2013 年 は 低 い 伸 び と な る こ と が 予 想 さ れ る た め で あ る 。 UAE は 今 年 11 月 に 統 計 庁 が 上 半 期 の 経 済 成 長 率 を 4.9% と 発 表 し て お り 、 IIF ( Institute of International Finance) が 予 想 す る 4.7% は 実 現 の 可 能 性 が 高 い 。 GCC 諸 国 は 石 油 部 門 に 大 き く 依 存 し て お り 、 GDP に 占 め る 比 率 も お お む ね 高 い 。 た だ し 、 バ ハ レ ー ン と UAE は 50%を 割 っ て お り 、 相 対 的 に 石 油 ・ ガ ス 部 門 の 占 め る 比 率 が 低 い 。 バ ハ レ ー ン は 原 油 埋 蔵 量 が 1.2 憶 バ レ ル に と ど ま り 、 石 油 の 生 産 が 低 水 準 で あ り 、 金 融 部 門 等 の 占 め る 比 率 が 高 い 。 UAE は 貿 易 や 観 光 、 サ ー ビ ス 部 門 の 比 率が高いことがあげられる。一方、歳入に占める石油・ガス部門の比率は、全般に高 い が カ タ ル の み 70%に と ど ま る 。 こ れ は 投 資 収 入 が 多 い こ と が 影 響 し て い る 。 2. ド バ イ 債 務 問 題 2009 年 11 月 、 ド バ イ の 政 府 系 持 株 会 社 Dubai World の デ フ ォ ー ル ト ( 債 務 不 履 行)問題が表面化して、ドバイ発の金融危機が世界を駆け巡った。それから 4 年が経 過した。不動産市場は活況を呈しており、市場でのセンチメントの変化を背景として、 金 融 問 題 に つ い て 楽 観 的 な 見 方 も あ る 。 し か し 、 IMF の 調 査 で は 、 ド バ イ の 公 的 債 務 は 1,310 億 ド ル に も 達 し て い る 。 特 に 、 2014-16 年 に 返 済 期 日 の 到 来 す る 590 億 ド ル の債務をどう乗り切るかという点に注目が集まる。 ドバイは、来る債務の返済に対応するため、資産の処分から債券の発行増、アブ ダビからの継続的支援など幅広い戦略を用いるであろう。来年返済期日の到来する UAE 中 銀 等 か ら の ロ ー ン に つ い て は 数 年 ロ ー ル オ ー バ ー さ れ る と 予 想 さ れ る 。 ド バ イは危機から力強く回復したが、経済成長だけではこれらの負債を返済する十分な資 金は提供されない。ドバイはそのキャッシュフローを拡大する余地はほとんどないと みられている。 債務の返済のためには、国有資産の売却等に踏み込む必要があり、こうした施策 -3- 中東研究センター 情勢分析報告会(要旨) 2013 年 11 月 15 日 なしには、問題の先送りという指摘を受けてもやむを得ないものと考える。 -4-
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