銀河団の cooling flow 問題

銀河団の cooling flow 問題
ペルセウス座
銀河団中心部
(Fabian et al. 2005)
poster: 23, 31, 48
藤田裕 (大阪大学)
内容
X線で見た銀河団
Cooling Flow 問題
Cooling Flow 問題の解決案
AGN
熱伝導
津波モデル
最近の話題
Introduction
銀河団
質量~1013-15 M
銀河数~10-1000
大きさ~Mpc
宇宙で最も重い重力的
に閉じた天体
(van Dokkum et al. 1998)
銀河団をX線で見ると
A133
X-ray の等強度線を可視
光画像に重ねた図
(Fujita et al. 2004)
広がったX線が銀河団ガス(Intracluster medium; ICM)から
出ている
銀河団のバリオンの大部分は銀河団ガス
銀河団ガスの正体は高温の熱的プラズマ (∼2-10 keV).
とても希薄 n~10-3 cm-3
銀河団ガス (ICM)
質量
4-10 × 銀河団中の銀河の総質量
1/4 -1/10 × 銀河団の全質量
温度 (2-10 keV)
銀河団のポテンシャルの深さを表す
ガスが銀河団に落ち込むときにポテンシャルエネル
ギーを開放
X線の放射メカニズム
制動放射 (Bremsstrahlung)
銀河団ガスの冷却時間
X線放射による冷却の時間
−1
1/ 2
n

  T 
(n: 密度
tcool = 8.5 ×10 yr  −3 −3   8 
T: 温度)
 10 cm   10 K 
銀河団の平均的な領域では宇宙年齢よりも長い
銀河団の大部分の領域では銀河団ガスは冷えない
10
銀河団コア (rd100 kpc) は例外
密度が高いので (n∼0.1 cm-3) 、冷却時間は短い
(∼108-9 yr)
冷却が効く
コアからの強いX線放射
実際にコアからは
強いX線放射が観
測されている
コアのX線強度
3D representation of the X-ray
surface brightness of A478
(White et al. 1994)
∼1042-45 ergs s-1
コアの銀河団ガス
は熱エネルギーを
∼108-9 年で失って
しまう
Cooling Flows (冷却流)
冷却のためコアの圧
力は減少する
外周領域
冷えない
コア
冷える
Cooling Flow
銀河団
コアのガス圧ではその
外側からの圧力を支
えられなくなる
ガスが冷えながらコア
に向かって流れ込む
はず (Cooling flows)
銀河形成?
.
推定されるコアへのガスの流入量 M は非常に大きい
k BT &
(LX: X線光度、kB: ボルツマン係数、
LX ~
M
T: 温度、μmp: 粒子の平均質量)
µ mp
X線光度 LX とガス温度 T は観測で分かる
M& ∼100 M yr-1
銀河団の年齢(1010 yr )ぐらい続いたら∼1012 M のガスが
流れ込む
銀河の質量に匹敵
cooling flows は銀河形成の実験室だという考え方も
あった
銀河はガスが冷えて星になってできる
実際銀河団の中心には cD 銀河と呼ばれる巨大楕円銀河
があることが多い
Cooling Flow 問題
以前から知られていた Cooling Flow
モデルの問題点
流れ込んだガスの行方は?
M& ∼100 M yr -1
1010 年で ∼1012 M
星になった?
銀河団中心部での星形成率は ∼10 M yr -1
冷たいガスのまま?
銀河団中心部での HI or H2 ガスの量は d1010
M
90年代まで
80年代、90年代には(問題は
あるとはいえ)cooling flow モ
デルは多くの支持を得ていた
しかしながら当時から日本のX
線グループは cooling flow モ
デルに異議を唱えていた
冷却中のガスからの放射が予想
ほど強くない
残念ながら声は大きく広がらな
かった(牧島、池辺2004、天文月
報)
標準 cooling flow モデルを仮定
Makishima et al. (2001)
Chandra and XMM-Newton Era
~2000年以降
Chandra(アメリカ)
優れた角度分解能
XMM-Newton(ヨーロッパ)
集光力(良質なスペクトル)
Chandra
XMM-Newton
Cooling Flow モデルには問題があることが広く認識されるよう
になった
冷却中のガスがコアにほとんど観
測されない
XMM-Newton で得
たコアのX線スペク
トル(青線)
Peterson et al. (2003)
緑線が cooling flow
モデルの予想
低温のガスに特有
の輝線放射(緑線)
がほとんど見えない
多くの銀河団につい
ても同様
M& XMM∼0.1 M& Classical
何かがガスの冷却を止めている
Chandra による温度分布の観測
温度
Tout
6 clusters
(Allen, Schmidt & Fabian 2001)
半径
ガスの冷却は T∼1/2 Tout で止まっている
Cooling flow モデルの予想 (T→0 as r→0) に反する
なぜCooling Flow問題は
「問題」なのか?
銀河形成の標準モデル
宇宙にあまねく存在する銀河は数十~百億年前にガスが
冷えて星になってできたと考えられている
Cooling Flow との類似
なぜ銀河団では冷えるべきガスが冷えない?
我々はガス冷却について何か忘れているのでは?
ガスは銀河では冷えて、銀河団では冷えないの
か?
銀河の質量<銀河団の質量
銀河の質量の上限を決めるメカニズムの存在?
ある質量以上でガス冷却や星形成が妨げられている?
Cooling Flow 問題の解決案
コアの冷却を防ぐ加熱源が必要
Popular ideas
AGNs (Tucker
& Rosner 1983)
(
銀河団中心の巨大ブラックホールの活動
熱伝導 (Takahara & Takahara 1981)
銀河団の外周部からの熱輸送
その他
津波モデル (Fujita et al. 2004)
ニュートラリーノ(Totani 2004)
AGNs
AGN 活動は銀河団コアで
よく見られる
Bubbles
銀河団A2052のコア
AGN
中身はおそらく非熱的ガス
(相対論的ガス)
AGN ジェットが銀河団ガス
を押しのけてできたと考えら
れる
ジェットの活動の模式図
(NASA)
Color: X-ray
Contours: Radio
(Blanton et al. 2001)
AGN 加熱モデルの問題点
観測より
AGN やバブルの周囲のガスの温度が高くなっているということはない
かなり高い加熱効率を要求される
理論より
一般的に冷却と加熱をつりあわせることは難しい
たいてい不安定
中心で(何らかの)強い加熱があった場合、Brighenti & Mathews (2003)
バブルによるガスの混合?
バブルは銀河団ガス中
を浮力で上昇
バブルの運動により周
囲のガスに流れが発生
する
混合により外側の暖か
いガスと内側の冷たいガ
スが入れ替わる
しかしやはり冷却と加熱
をつりあわせるメカニズ
ムは必要
Brüggen & Kaiser (2002)
No cooling
熱伝導説の問題点
観測より
銀河団ガスには細かい温度
構造がしばしば見られる
熱伝導率は小さくなければ
ならない
小さくないと細かい構造はすぐ
消えてしまう
しかし熱伝導率が小さいとコア
に熱を運べない
Cool
Hot
理論より
そもそも温度が低い銀河団
では熱伝導は効かない
熱伝導率(最大値) ∝ T2.5
Cold Front
Vikhlinin, Markevitch & Murray (2001)
津波モデル
Fujita, Suzuki, & Wada (2004), Fujita,
Matsumoto, & Wada (2004)
銀河団では大規模なガスの運動が絶えず存
在する
宇宙の大規模構造形成と関係
大規模なガス運動が銀河団コアに影響を与
える
加熱に効くか?
大規模ガス運動の起源
宇宙の大規模構造
銀河団はフィラメントの
交差するところに出来る
銀河や小さな銀河団は
フィラメントに沿って、銀
河団に落下
大規模構造形成のシミュレーション
(ダークマターのみ)
中心に銀河団が出来る
(矢作日出樹氏[東大]提供)
速度 > 1000 km s-1
落下してきた天体により、
銀河団ガスは激しく運動
する
2次元高精度数値計算
ガスの大規模運動がコアに与える影響を調
べた
国立天文台のスパコンで世界最高精度の計
算を行った
Nested grid code (Matsumoto & Hanawa
2003)
分解能は銀河団中心で 22pc
ガスの放射冷却を考慮
ガスの大規模運動は平面波で近似
Movie (δv=0.3cs, λ=100 kpc)
Temperature
Filament of LSS
Cluster
Center
d200 kpc
d20 kpc (zoomed up)
結果 1
Rayleigh-Taylor (RT) and Kelvin-Helmholtz
(KH) 不安定性の成長
乱流の発生
メカニズム
→
→
→
→
→
→
コアは放射冷却によって冷える
コアのガス密度は高くなる
波がコアを動かせなくなる(コアは銀河団ポテンシャ
ルの底に固定されようとする)。コアが振動する
コアと周囲のガスとの間に相対運動が発生する
RT and KH 不安定性
乱流
結果 2
コアの典型的な冷却時間
振幅(音速)
Hot Gas
波長
α
λ(kpc)
tcool (Gyr)
0
...
2.2
0.3
100
3.3
0.5
500
4.7
0.3
1000
6.2
0.3
1500
>6.2
Cool Core
乱流によるガスの混合で冷却時間は増大
少なくとも銀河団の年齢程度(~6Gyr)にはガスの冷却を
止めることができる
複雑なガス分布
Chandra による銀河団コアの観測 (d100 kpc)
Centaurus
(Sanders & Fabian 2002)
2A 0335+096
(Mazzotta et al. 2003)
我々の予想
乱流は複雑な
構造を作る
定常ではない
フィラメントや
cold fronts も
再現される
すざくの XRS
だったら乱流
が直接見えた
はず…
Cold Fronts
d200 kpc
d20 kpc (zoomed up)
最近の話題
音波(とそれが進化した弱い衝撃波)による
加熱と熱伝導
AGN
ペルセウス座
銀河団中心部
(Fabian et al. 2005)
AGNから同心円状に広がる弱い衝撃波と音波
音波による加熱
AGN活動により、AGN周囲に音波が発生
音波は粘性によってそのエネルギーを失う
周囲のガスを加熱
Cooling Flow 問題の解決?(Fabian et al.
2003)
しかし振幅の大きい音波はすぐ非線形になり
弱い衝撃波になる
ペルセウス座銀河団の場合
Fujita & Suzuki (2005)
音波と衝撃波加熱を詳しく考察
音波の振幅は速度で音速の0.5倍ほどあり、
数波長進むだけで弱い衝撃波になる
一度衝撃波になると散逸はとても早い
波はコア全体(~100kpc)に広がる前にエネル
ギーを失う
AGNのごく周囲(~10kpc)のみを極端に加熱
観測されているような温度、密度分布を再現できない
Fujita & Suzuki 2005
log
Dissipation length
細線: 我々のモデル計算
点: 観測(Sanders et al. 2004)
太線: genuine cooling flow
観測は再現できない
短い dissipation length (∼10 kpc `core size)
半径が小さいところで強い加熱がおきる。強い冷却がそれとバ
ランスをとる → High density
Chandra による詳細な観測
Fabian et al. (2005)
900ks の露出時間でペ
ルセウス座銀河団のコア
を観測
弱い衝撃波構造を検出
ところが衝撃波が等温
だった!
大きな熱伝導効果?
~Spizter value(熱伝導率
の可能な最大値)
衝撃波
問題点
確かに衝撃波加熱と熱伝導を組み合わせると銀河
団の密度、温度分布を再現できる(Fujita & Suzuki
2005)
しかし安定性が不十分(AGN加熱モデルの根本的弱点)
銀河団中の微細構造との整合性
場所によって熱伝導率が大きく異なる?
プラズマ物理学との関連
まとめ
Cooling flow 問題
銀河団コアに冷却中のガスがほとんど観測され
ない
コアに何らかの加熱源がある
有力とされている加熱源
AGNs
熱伝導
しかし両方とも問題がある
まとめ
津波モデル
宇宙の大規模構造形成に伴い、銀河団ガス中には大規
模なガス運動が励起される
コアに乱流が発生し、コアの放射冷却を抑制する
最近の話題(音波と熱伝導)
音波(弱い衝撃波)のみではコアの温度、密度分布を再
現するような加熱はできない
熱伝導が加わると再現はできるがまだ安定性で問題あり
熱伝導率は銀河団中で場所によって大きく異なる?
プラズマ物理学との関連
解決までの道のりは長そうです