エッセイ 素敵・発見!マーケティング 43 世界最大の国際食品見本市、パリ「SIAL」 会場から見た食品トレンド情報 株式会社クリエイティブ・ワイズ 代表取締役 三宅曜子 2 年に一度、パリで開催される世界最大の国際食品見本市「SIAL」が、今年は 10 月 21 日~25 日の期間で開催された。 私は経済産業省の平成 24 年度 JAPAN ブランド育成 支援事業で採択された、広島県福山市商工会議所の「カ クテルや洋菓子に使用する 30 度アルコールの保命 酒」事業プロデューサーとして、参画事業者の皆さ んとフランスでの提案の一環で会場に行った。 1964 年以来、パリで隔年開催されている SIAL は、面 <SIAL 会場> 積 106,123 ㎡と東京ドームの 10 倍もの広さの会場で、 2010 年実績が来場者数 14 万人、出展者数 5,838 社 という規模。テーマやアイテムにより 8 エリアで構 成されている。全体を見学するには 4 日間はかかる。 世界中の最新食品情報が見られるため、毎回多くの 出展企業とバイヤーが集まる。規模は世界一という こともあり、各国の新商品はまずここに出品される ため、食品のトレンドを知るためには重要な見本市 <会場の屋外で大規模広告を打つ> だ。 平成 16 年に JAPAN ブランド育成支援事業がスタートしたが、その年に 16 年ぶりに JAPAN パビリオンが SIAL に出展するということで、京都府和束町商工会の宇治茶のブー ス出展に合わせ、私は JETRO から依頼されてパビリオン全体のプロデュースをすること になったが、それ以来パリで開催される SIAL には毎回行っている。 世界最大の国際食品見本市で、今回は例年になく大きく変化したことがある。まずこ こからご紹介する。 旬レポ中国地域 2012 年 11 月号 1 ■ 中国ブースの多さとその内容に驚く! JETRO 主催の JAPAN ブースは毎回海外パビリオン が集結する第4~第5ブースである。近くにはアジ ア圏の韓国、台湾、中国などのブースがあるが、こ れまではアメリカやヨーロッパ各国が多くのウエ イトを占めていた。 ところが今回は全体の 1/5 程度が中国ブースに なっている。それだけではなく、1~8 ブースある <JAPAN ブース> すべてのエリアに『CHINA』の文字が目につくほど 中国ブースの数がとても多く、異様な光景だ。しかし このブースはどれも貧弱で、テーブルを置きポスタ ーが数枚貼られているのみ。担当者はほとんどのブ ースで 1 人か 2 人。しかもブース内で座って食事を していてバイヤーが来ても知らん顔。商品提案をす る意欲も見られない。商品は唐辛子やニンニク、冷 凍野菜や果物、スナック類、インスタント食品など。 試食をさせることもなく、ただ商品を並べているだ けのコーナーがズラリと並んでいるのだ。中には照 明すら当てていないブースもみられる。これらはす <大きな面積を占める中国ブースー> べて中国政府が出展料から渡航費用まで出してい るということだ。 一方会場内の顧客も中国人がやたらと多い。各国 ブースに行ってはサンプルを欲しがり、断りもなし に商品写真を近くで撮るため出展企業は警戒して、 アジアの人が来ると「どこの国ですか?」と聞き、 日本人だとわかると途端に態度が柔らかくなり、商 品説明と試食を出してくれるという状況があちこ ちで見られた。すべての人ではないと思うが、この 国のモラルと常識は考えものだ。しかし大国である <中国ブースはまったく販売意欲がない> 中国がビジネスにおいてどんどん世界中に進出する 状況を目のあたりにし、日本の今後の積極的な国際 化戦略について、改めて考えさせられる光景だった。 旬レポ中国地域 2012 年 11 月号 2 ■ 世界的な『Bio』と『高品質冷凍野菜』 『Energy Drink(エナジードリンク)』 ブームの予感 一昨年のパリ SIAL でも注目していたが、今年ま 『ビ すますパワーアップしているのが『Bio』素材。 オ』と読み、フランスではオーガニックなどの自然食 品を指す。大豆を中心としたヘルシーな商品はとて も多くなっており、主食から惣菜類、ドリンク、離 乳食まで各国のブースが出展していた。特に今年は 味がレベルアップしており、見た目だけではなく食 感や味付けも 向上していたので 今後の市場が楽し みだ。味付けはアメリカやヨーロッパブースで照り <グレードアップした Bio 商品> 焼きスタイルがとても多く、醤油が「Soy Sauce」 として頻繁に使われていたのも、注目していきたい。 また、急速冷凍技術が向上したため水産品や肉類 だけでなく、カット野菜やフルーツなどが新鮮なま ま色や形もきれいに冷凍できるようになり、これら の素材も多くみられるようになった。カットの形状 も工夫され、下加工やサイズなどの種類も多く、 益々多くなるクックチルのレベルを上げる要因に なるようだ。世界中の食材を季節にかかわらずいつ でも新鮮な状態に 保ったままハイレベルな商材と して食することができるようになった。 <冷凍技術の進化で生のままの状態が 維持されている野菜> ド リ ン ク エ リ ア で 注 目 す る の が 『 Energy Drink(エナジードリンク』ブースの多さだ。医薬部 外品の栄養ドリンクと違い、カフェインやビタミン 類などが主成分で、日本でも『レッドブル』、 『バー ン』、 『モンスターエナジー』などがコンビニで見ら れるようになっている。これまでのエナジードリン クのイメージは どちらかと言えばスポーツ系で男 性的だったが、この会場ではさまざまな種類と味が 各メーカーから出されており、その多さに驚いた。 <新たなイメージのエナジードリンク> ヘルシーブームの中で、これから日本にも更に多く のメーカーの商品が入ってくるものと思われる。 旬レポ中国地域 2012 年 11 月号 3 ■ 日本各地のこだわり商品を扱う大規模なインターネットサイト 『NISHIKIDORI MARKET』 SIAL 会場のメインブース入口に大々的に広告を 打つ企業が『NISHIKIDORI MARKET』だ。日本名なの で日本企業かと思いきや、パリから 350 ㎞東にある フランスの企業が日本のパートナー企業と展開し ているのだ。このオーナーの Derenne(ドゥレンヌ) 氏は、フランス食材、特にジビエ(食肉)を世界中に輸 出しており、また日本食や日本文化に魅了され、日本 食材のオンラインショップを立ち上げている。今で は業務用、一般消費者用ともにヨーロッパ中で高い <nishikidori market の商品の一部> シェアを誇っているほどだ。 SIAL 会場の『NISHIKIDORI MARKET』ブースでは、JETRO の JAPAN ブースより充実した日本食材が並んでいた。Derenne(ド ゥレンヌ)氏は、日本の調味料の素晴らしさ、感性の鋭さを高く評 価しており、持参した新たなコンセプトの保命酒についても同様 の高い評価を下さった。今後の展開が非常に面白くなりそうだ。 彼の言葉から、日本人が何気なく日常で使っている発酵食品や 柑橘系の調味料などをもう一度見直し、新たな着眼点を見出し ながら海外展開していく必要があると痛切に感じた。 ※『NISHIKIDORI MARKET』日本語版ホームページ http://www.nishikidori-market.com/index.php?language=jp <オーナーのDerenne 氏 に保命酒を提案> 日本から海外へいいものをしっかり提案する、そして確実に実売に結び付けるために は、再度日本独特の感性の鋭さを見直し、相手国の食文化の中にどのように組み込んで いけるかを意識して、使い方やその応用編、保存方法、その国の食材との調和を提案し なければならない。特に円高の状況下で確実なクロージングを目指すなら、ただ展示会 に出るだけではそれまでだ。キーマンをつかむために常にアンテナを張り巡らし、何度 も渡航してその国の状況を知ったうえで繊細なフォローをしていかなければならない。 今回の展示会では一層その思いを強く感じることとなった。 旬レポ中国地域 2012 年 11 月号 4 マーケティングコンサルタントとして、中小企業支援及び指導、商業活性化事業、ま ちづくり事業等、顧客のニーズを的確に捉えた市場開発とアプローチ手法等、幅広い分 野におけるマーケティング全般のアドバイスを全国各地で手掛ける。また、平成 19 年 度より地域資源活用事業の政策審議委員、国会での参考人をはじめ、全国で地域資源を 活用した事業推進、農商工連携事業、JAPANブランドプロデューサーなど幅広く活 躍中。 ● ● ● ● ● ● 経済産業省地域中小企業サポーター 同、伝統的産業工芸品産地プロデューサー 中小企業基盤整備機構経営支援アドバイザー 同、地域ブランドアドバイザー 内閣官房 地域活性化伝道師 広島県総合計画審議会委員 他 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2012 年 11 月号 Copyright 2012 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 5
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