Review Effective Use of Mass Spectrometry in the Clinical Laboratory Paul J. Jannetto1,* and Robert L. Fitzgerald2 Author Affiliations 1 2 Laboratory Medicine and Pathology, Mayo Clinic, Rochester, MN; Department of Pathology, University of California-San Diego, San Diego, CA. * Address correspondence to this author at: Mayo Clinic, Laboratory Medicine and Pathology, 200 First St. SW, Rochester, MN 55905. E-mail [email protected]. Clinical Chemistry 2016; 62: 92-98 臨床検査室における質量分析の有効な利用 概要 背景:歴史的に臨床検査室の質量分析の成功例として、ドラッグ乱用の確定、新生児スクリーニン グおよびステロイド分析が注目されてきた。 質量分析の臨床応用は拡大し続けており、また、質量 分析は今、検査医学のほとんどすべての分野で使用されている。 内容:臨床検査室における質量分析の発展の簡単な背景が、将来的な応用と一緒に本篇で議論され ている。 質量分析の顕著な例として、どのようにそれが医療を改善したか、それがよりよい患者へ のケアを提供するために、どのようなことを医師ができるようになったかについての例証が含まれ ている。増加する経済的圧力および減少する臨床検査の支払いで、質量分析による検査はコスト面 の効率化の解決策を提供することが示されてきた。多くの利点を指摘することに加えて、臨床検査 室で質量分析を実施することへの挑戦も、本編に含まれている。 要約:質量分析は、検査医学の分野において顕著な役割を果たし続けている。 新しいアプリケーシ ョンの開発に加えて、この技術の進歩はより多くの医学分野への質量分析の参入を加速するであろ う。 質量分析(MS)3 は臨床検査室でユニークな役割を提供し、特殊な検査から広く応用される検査まで、 急速に普及移行している。歴史的に、MS の主な役割は、免疫測定で陽性の薬剤スクリーニングの 確定試験(1)、先天性代謝異常の識別( 2)、ステロイドホルモンの分析 (3)を含む。ごく最近で は、MS は微生物の識別に必要な時間を劇的に改善した(4)。分析的なプラットフォームでの継続的 な改善によってもたらされたこの発展は、MS の分析的な特異性によるものである。10 ダルトン(小 さな分子)から何十万ダルトン(生体分子)までのサイズに及ぶ分子の決定的な識別は、異なった原理 に基づいている。例えば、現在、小さな分子は LC-MS/MS を使用して識別される。LC-MS/MS の識 別は、フラグメント・イオンの保持時間、親イオンおよび比率を含むいくつかのユニークな特性に 基づいている。新生児スクリーニング検査の場合には、サンプルはプレカーサーイオンとプロダク トイオンの特定の推移に基づいた識別をもった、質量分析計へ直接注入される。微生物学検査では、 1 識別はレーザー照射によってイオン化された微生物由来の蛋白から、生成されたイオンのパターン に基づいている。すべての場合において、その分析の分析学的特異性は、興味のあるイオンの質量/ 電荷数の比(m/z)の決定により、「分子スケールで重量を量る」ための質量分析計の能力に基づいて いる。最も単純な形式では、MS は興味のある分析成分のあるタイプの分子のフィンガープリント を提供している。このミニレビューは、臨床検査室での MS の発展に関する簡潔な背景を提供し (図 1)、また、MS がコスト面の効率化において、患者へのケアを改善するためにどのように利用 されているか要約する。 図 1 臨床の MS の発展に関するいくつかの重要な出来事の経過 研究室から臨床検査室に MS を移行させた主な推進力は、航空母艦 Nimitz の事故であった。1981 年 5 月 26 日に、ある航空機が、Nimitz に着陸する際に事故を起こし、14 人が死亡、45 人が負傷した (5)。後の免疫測定検査によって、軍人達からの尿サンプルの多くに、マリファナの代謝物質に対し て陽性反応が認められた。このことから、軍隊にて乱用薬物の許容範囲をゼロにするようにレーガ ン大統領に促すことになった(6)。多くの偽陽性の免疫測定結果の理由から、GC-MS によって確認さ れるまで、抗体ベースの薬剤スクリーニングの結果は「推定結果」と考えられ始めた(7)。陽性率が 10 年のタイムスパンで 18%から 8%まで落ちたので、薬物検査の早期の使用が従業員の薬物検査の 陽性結果の数を減らすことに有効だったことは明らかである(8)。いくつかの研究から、尿による薬 物検査もコストの効率が良いことを実証した(8, 9)。GC-MS での確定検査に対する要望は、毒性試験 室でもまた治療薬剤のモニタリングのために使われ始めたが、それは MS の発展につながった。 臨床検査室で GC-MS が普及するにつれて、特に女性と子どもにおいて低濃度のテストステロンを 測定する時、ステロイドの免疫測定の限界は明白になった(3, 10)。GC-MS の主要な限界は、その分 析成分が揮発性である必要があることであり、さらにほとんどの臨床試料での分析では、容易に揮 発させることができる分析物を精製するために、化学的誘導体と共に複数回の抽出/精製ステップが 必要であった。GC-MS 分析に必要な多くの試料調製ステップは、低い処理能力および高いコストの ため、臨床検査室での MS の広範囲にわたる応用を制限した。High-performance LC-MS/MS と結合し た、エレクトロスプレイ・イオン化(エレクトロ・サイエンティフィック・インダストリーズ)のよ 2 うな気圧イオン化技術は、ルーチン臨床検査室用の実行可能なプラットフォームとして MS を可能 にした、次の主な分析的な改良点であった。 ESI LC-MS/MS は、分析成分が揮発性である必要性はなく、試料調製ステップを単純化させた。単 純化された試料調製は、改善されたサンプル処理能力および低コストと等価である。50 サンプルを 準備するために、一人の技師が 8 時間かかった GC-MS 分析は、LC-MS/MS を使用する場合、現在は るかに高い処理能力で、2、3 時間で同じ技師によって処理できるであろう。GC-MS 分析の律速段階 は、試料調製にかかる時間であった。一方、LC-MS/MS における律速段階は、典型的には分析の LC のランタイムでる。試料調製ステップの単純化によって、LC-MS/MS は MS が臨床検査のコスト効 率の良い分析ツールであることを実証した。 MS の処理能力を改善するための、特に有効なツールは多重分析の開発であった(11)。初期の総事業 費の展望から考え、質量分析計の購入が最も高いコストになる(典型的に 200000 ドル~500000 ドル)。 一台の MS に、いくつかの(一般には 2~4 の)LC システム(それらは一台につき 50000 ドルかかる)を 接続することによって、全プロセスの費用対効果は数倍改善される場合がある。多重 LC は、質量 分析計が興味のあるピークを常に測定しているため、異なる LC システムへのサンプル注入時間を 調整して単一の分析成分を分析する際に、最良に作動する(図 2)。さらに、多重 LC は異なる化合物 を分析するために使用することができ、従来のバッチ分析に対抗するものとしてのランダムアクセ ス・モードでの適用が潜在的に可能である。多重化を有効にさせる基本原理は、典型的には興味の あるピークが一度のクロマトグラフィーの実行の間に、いくつかの別の時間に溶出させるというも のである 。多重 LC なしの時、通常、質量分析計はピークが溶出されるのを「待つ」。4 つの LC シ ステムを備えたタイプだと、注入時間を調整することによって、何倍も MS の生産性を向上させら れる。 図 2 多重 LC-MS システム 3 この例において、複数の位置のスイッチング・バルブによって、1 つの質量分析計に 4 つの LC シス テムが接続されている。ピークは興味のある化合物を示す。棒は、どの LC システムが MS と接続 されるか示す。LC 1 については、興味のあるピークが 0.5 min で溶出する。LC ランの全時間は、カ ラム再平衡あるいはサンプル注入器のサイクルタイムのような要因により 1.25 min である。LC シス テムへのサンプル注入は、最初のサンプルの後 0.25 min 経過したときに LC2 のサンプルを注入する ように、セットされている。LC 1 からの目的のピークが溶出した後、LC 2 が今質量分析計に接続さ れているので、バルブが切り替わっている。これは 4 つの LC システム全てにおいて繰り返される。 この方法では、興味のあるピークが溶出している時、質量分析計は常にデータを集めており、シス テムの効率を向上させる。 微生物学検査では、TOF 質量分析と結合した MALDI の開発が、微生物の迅速な同定分析を可能に した(12)。MALDI-TOF の実施前、微生物学検査は、グラム染色、培養、生化学試験および感受性試 験に依存していた。米国食品医薬品局(FDA)に認可された MALDI-TOF を使用したアプローチは、 従来の技術と比較して、菌同定のための平均時間を 1.45 日に減少させた(13)。Tan らは、標準の培 養法と比較して、MALDI-TOF の実施が試薬と労働のコストの 50%以上を省くだろうと推測した(13)。 これらの著者は、検査のコストダウンについて報告したが、恐らく本質的であろう迅速な菌同定に 関連した全体を通したヘルスケアに関するコストダウンについて言及していない。MALDI-TOF の 商業化は臨床微生物学のために継続され、いくつかのメーカー(bioMerieux 社および Bruker Daltonics 社)によって、MS、ソフトウェアおよび微生物のデータベースから成るシステムが、FDA によって 承認された。FDA に承認された微生物検査リストは網羅的でなく、主としてグラム陰性およびグラ ム陽性菌、酵母に制限されているが、研究目的の使用のみに利用可能である(14)。その結果、利用 者は市販のデータベースで探索され得る適切な菌種と、ローカルに分離された菌種に対して、自分 自身の質量分析のデータベースの構築を必要とするかもしれない。例えば、メイヨークリニックは、 利用可能なデータベースによってカバーされない 1599 のスペクトルのイメージを含んでいるカスタ ム MALDI-TOF ライブラリーを構築した(14)。しかしながら他の技術が、例えば 16S rRNA 遺伝子の シークエンスなどが、小さいあるいは粘液様のコロニーを迅速に同定する場合により良いかもしれ ないので、MALDI-TOF はすべての菌同定のための最良の技術ではないかもしれないが(14)。更によ り新しい MS 法は、さらに亜種の taxonomic なレベルまで微生物を同定する場合に優れているかもし れない (15)。 MALDI-TOF に加えて、生体サンプルから直接的な微生物の迅速な同定のための他の MS ベースのプラットフォームが開発されてきた。これらのプラットフォームは、包括的なプライ マーを使用して増幅された PCR 産物を識別するために ESI を使用する(16)。FDA による承認はまだ なされていないが、このアプローチは同定のために 8 時間で分子の特異性を見出す。 MALDI MS の他の新しいアプリケーションは、臨床のイメージング・アプリケーションを含んでい る。病理学の研究および実務では、MALDI イメージングは組織中のタンパク質、ペプチド、薬、代 謝物質、脂質および他の分析成分を識別するために使用された(17)。具体的には、MALDI イメージ ングは、従来の組織学染色のサンプルを採取し、組織切片の中の種々の分子を、ラベルなしでの多 重測定ができる。この連結されたアプローチは、解析された質量スペクトルの空間位置確認を維持 し、また、そのソフトウェアは個々の分子あるいはグループの分子を視覚化すると同時に、組織の 仮想顕微解剖を提供するために使用することができる。MALDI イメージングの研究は、新鮮な凍結 組織、パラフィン包埋組織およびホルマリン固定組織を使用して実施されてきた(18)。腫瘍に関す る最近の MALDI イメージングの研究では、以前からの分子の知識のない生存予後に関連した表現 型の腫瘍の分類の認識および特性を新たに示すことができた(17, 19)。直接の質量計測により、空間 的に解析された分子の識別とデータベースとの一致度は、質量の高い正確さをもつ MALDI イメー ジング技術によって行うことができる。この情報は、疾病と病態生理学についてのより完全な理解 を進める手助けをするかもしれない(20)。 4 Metabolomic、lipidomic、そして proteomic、MS を使った臨床のサンプルの分析は、他の omic な分析 と同様に、臨床検査にとって広い意味合いを持つ可能性の高い、刺激的な研究分野である。これら の技術のゴールは、ターゲットを設定しないアプローチを使って、何百あるいは何千もの生成物に 対して情報を得ることや(23)、ターゲットを設定したアプローチを使って、いくつかの生体分子に 対して情報を得ることである(21, 22)。ターゲットを設定しないアプローチは、一般に 2 つの異なる グループ(例えば、健常者群と疾患群)からの omic なサンプルを比較するための発見という側面で使 用される。一旦 2 つの群を区別する分子が識別されたならば、ターゲットを設定したアプローチは、 推定上のバイオマーカーの変化をモニターすることの有用性をさらに特徴づけるために使用するこ とができる。metabolomics への特に新しい 1 つのアプローチは、病気および正常細胞でのエネルギ ー源の代謝的な動態を追うための安定同位体の使用である(24)。 MS の利点 MS は、徐々に検査医学の実務を変えており、改善された分析的な特異性および感度を含むいくつ かの因子により運用されている。テストステロンおよび他の性ステロイドの測定は、MS がその測 定のために望ましい方法である例として使用された。MS の使用を要求する専門の学会ガイドライ ン(例えば、元々の内分泌学会そして現在は泌尿器科まで)は、この普及移行を広めるのを支援して いる(25, 26)。両方の性別の子どもおよび大人の中のテストステロンの測定は、多数の条件(例えば不 妊、ある癌、男性化および多嚢胞性卵巣症候群)の診断および管理において重要である(27, 28)。分析 感度向上に用手法の RIA が元々使用されたが、自動免疫測定は、改善された処理能力および検査で の放射能を除去するという要望により、すぐにそれらと取って替えられた。しかしながら、これら の免疫測定は分析的な特異性問題および限界のある計測のダイナミックレンジに苦しんだ(26)。従 来の免疫測定は、女性においてテストステロン値の偽高値、および男性においてわずかにテストス テロン値の偽低値になることが示された(3, 10)。他方では、MS ベースの方法は優れた分析的な特異 性を持ち、両方の性別の子どもおよび成人に必要な広い濃度範囲に関するテストステロン値を測定 する能力を持つことが示された(27)。 従来の免疫測定と比較してサイログロブリンの測定は、MS が優れた分析の質を提示することを示 した別の臨床例である。サイログロブリンは甲状腺癌の治療の有効性および再発を評価するために 使用される。しかしながら、免疫測定は抗サイログロブリン自己抗体によって影響される場合があ り、偽低値になり得る(29)。ペプチドに特異的な免疫捕捉に加えてトリプシン消化を行う前処理に より、LC-MS/MS によるサイログロブリンに特異的なペプチドの定量は、抗サイログロブリン自己 抗体の妨害という問題を克服することができる(29, 30)。MS ベースの方法も、免疫測定でサイログ ロブリン測定での偽高値を引き起こす場合がある、不均一性のある自己抗体による干渉を克服する と考えられる(31)。 経費削減は MS の採用を駆り立てる。設備の初期投資コストは高く、MS ベースの測定法の開発、バ リデーションおよびメンテナンスにおける検査の専門知識に制約はあるかもしれないが、多量検体 の試験に関して外注するコストを抑えるために MS による試験を開発することは、検査にとってコ スト効率が良いかもしれない。さらに、免疫抑制剤分析が良い例であったように、単一の MS 法を 使って、多重分析成分パネルを開発する能力は、時間や労働、費用などの削減を提示する。臨床検 査では、同時にシクロスポリン A、tacrolimus、sirolimus および everolimus を測定するために LCMS/MS を使用し始めた。薬のパネルの単純化・標準化されたサンプル処理は、時間、試薬および労 働費を節約する。さらに、MS ベースの免疫抑制剤分析の分析的な特異性は、既存の免疫測定(そ れは免疫抑制剤代謝物質との交差反応のために、これらの薬剤濃度を過大に見積もってしまう(3234).)のそれより優れている。結局、今 1 つの FDA に認可された MS による tacrolimus 分析 (Waters- 5 MassTrak®)や、免疫抑制剤の計測の為の IVD(in vitro diagnostic)-CE の認可がおりたいくつかの市販 の MS のキット (Chromsystems-MassTox®、Recipe-ClinMass®および Waters-MassTrak®)があり、MS ベースの分析法は、より少ない専門知識を備えたより小さな検査室に対してより魅力的になる(35)。 MS との挑戦 MS は患者のケアへの著しい貢献をし続けるが、MS ベースのサービスを実施する前に、理解される 必要のある本質的な挑戦がある。これらの挑戦は、高い設備の初期費用、熟練検査スキルの必要性、 自動化の欠如および規則的な不確かさ、を含んでいる。 高い設備の購入費用は、投資効率計算に関して日常的な収益分析を使って対処するので簡単である。 MS を考慮する場合、検査室はこの種の装置の立ち上げに必要かもしれない装置のコスト、人件費、 トレーニングコスト、熟達度試験、試薬、供給、請負契約および改装/修復のためのコストを説明す る必要がある。さらに、分析開発およびバリデーションをサポートする時間および費用を説明する 必要がある。臨床検査室で典型的に配備される装置は、$200,000-500,000 の間でコストがかかるが、 共同出資や多量検体の外注試験により正当化することができる。メディケアは、外注先のラボの金 額以上の請求書を拒否するので、外注試験は検査室にとって赤字である。これらの外注試験は、ほ とんどの検査室が原価のわずか約 25%しか取り戻せないので、大赤字を出す。例えば、あなたの検 査室(検査室 A)が外注検査ラボ B に試験を依頼し、検査室 B があなたに 100 ドルを請求する場合、 検査室 A はフルの料金を払うように義務づけられている。その後、検査室 A は患者の保険会社でこ の 100 ドルの料金を要求するが、保険会社は料金のわずか 25%を支払われるという契約を検査室 A の病院と結んでいる。この単純取引は、外注を依頼するたびに(外注のプロセスに関連するコストを 含まない)、病院に対して 75 ドルを要求することになる。もしあなたが同じ検査を自身の検査室で 提供するならば、あなたは適切に支払を要求する事ができ、この潜在的な利益の損失を取り戻す事 ができる。MS は、FDA に認可されたキット/分析法を待つ代わりに、新しいバイオマーカーのより 迅速に試験メニューを拡大する能力を持っている。 MS の正当化は、既存の自身の検査室での試験を見渡すことによっても成し遂げられる。検査室は、 常に安全性および規制の問題により、検査室から放射能(つまり RIA)を減らしたり無くしたりする 方法を模索している。MS は、遊離のテストステロン、インスリン、プロラクチンおよび 1, 25dihydroxyvitamin D のように、従来の RIA により測定されてきた分析成分を測定するための、コスト 効率の良い選択肢を提示する。代わりに、C ペプチドや β- hydroxybutyrate のようないくつかの従来 のより低量の免疫測定のコストは、市販のプラットフォームの場合、1 検査につき$20 かかるが、 MS は優れた結果を提供すると同時に、本質的により少ないコストで実施され得る。最近、15 の外 因性のインスリンに対する 10 の異なる免疫測定法の交差反応性が試験され、その著者は、その免疫 測定の質の悪い交差反応性により、外因性のインスリンに伴う低血糖を診断するために、MS が使 用されるべきであると結論付けた(36)。質量分析計という単一の分析法は、要求される検査室のす べての改善コスト、開発、バリデーション、トレーニングおよび労働を正当化させる為に十分では ないかもしれないが、自身の検査室かつまたは外注の試験とのコンビネーションは、この技術の獲 得を正当化するために上手に使用することができる。 MS ベースの検査サービスのセット・アップの別の挑戦は、どの機器を購入するかを決定すること である。機器の選択は、興味のある分析成分に依存する。ほとんどの小さな分子の定量法(例えばテ ストステロン、ビタミン D、乱用の薬物)のためには、LC を備えた三連四重極質量分析計が選択さ れる。三連四重極質量分析計は新生児のスクリーニング検査や、ペプチドとタンパク質の定量にも 使用される。様々な微生物の定性分析に興味を持っている臨床微生物学検査については、MALDI- 6 TOF 質量分析計が最適である。高解像度 MS のような新しい開発は、改良の要素に期待がかかって いるが、臨床検査室の中に証明された実績を持っている既存の機器は、合理的に開始できる。指摘 されたように、MS の利用者は改良がなされるうちに、次の分析的な進歩は全てを凌駕すると思う 傾向がある(37) 。 伝統的に、バッチ・モード分析で実行された時、MS の分析はより効率的である。分析が同様のカ ラム/移動相を使用するように開発され得るけれども、そのシステムは完全にランダムアクセスでは なく、利用者はポジティブ/ネガティブイオンモード、カラム温度、移動相を変化させることを必要 とする場合、挑戦に直面するであろう。さらに、現在バッチ・モード分析を駆り立てる主要な因子 の一つは、MS 分析の前に要求される試料調製(抽出/精製/処理)が、バッチ中で最も効率的に行なわ れるということである。 検査ラボにて開発された試験(LDTs)に基づいた MS のアプリケーションにとって、熟練した技術の 要求が特に急務である。LDTs は、方法開発およびバリデーションでの相当な専門知識が要求される。 これらの能力は訓練で得るのが難しく、習熟するためには機能的な MS の施設で一般に数年の実務 経験を必要とする。微生物検査については、興味深いことに、機器の運営とメンテナンスをするた めに MS の専門知識が必要とされないほど、MS が十分に単純化されたことが注目されている。臨床 微生物学では、MS は単純に読み取りの装置である。MS が臨床検査室で幅広く使われるようになる ために、もっと FDA に承認された MS ベースのプラットフォームおよび NIST により追跡できる分 析キット、キャリブレーター、QCs および標準品などが市販で入手可能である必要がある。最近、 多くの臨床検査が市販で購入可能な試薬、QC およびキャリブレーターに変わった。したがって、 検査技師は、計算して量り分けて、かつまたはこれらの物の準備をすることに対して、それほど熟 練しなくても良くなった。結局、高性能なハイスループットの化学分析器を実行するほとんどの技 師が、選択された波長がどのようにして終点反応をモニターするために使われるのかを理解しない という議論がなされてきた。同様に、MS が自動化された FDA 承認済みのプラットフォーム上の 「単なる別の検知器」になるまで、技術への完全な恩恵は実現されないであろう。 検査室が直面する別の挑戦は、検査室の情報システム(LIS)への機器に双方向の情報交換をもった分 析を通じて、試料処理、処理および準備を組み入れる一貫した自動化の不足である。現在、一台の 機器で試料調製/処理を自動化することができるが、それらは LC-MS/MS のシステムの中で独立的に 作動している。設備をすべて調整しコントロールし、かつ、LIS と MS の間で二方向に通信するた めの、市販のミドルウェアあるいは他のソフトウェアのソリューションの不足がある。サンプル位 置、要求される試験、対照試料処理、テスト分析、かつ他の完全に自動生化学分析機器のような、 LIS に直接結果を返すシステムなどを追跡するための 1 つの基準(モジュール)は必要である。し ばしば、検査室は MS から結果を移動させ、計算の為に Excel のマクロを使用し、あるいは LIS に 結果を移行する前にルールを報告しなければならない。マニュアルの結果入力は多量検体に不向き でもあり、高いヒューマンエラー率および人件費につながる傾向がある。 異なる omics 技術に対して MS の幅広い臨床応用は、その技術が様々な群を比較するための研究応 用から、個々の患者の診断および治療に移行する時、いくつかの挑戦に直面する。以前に私たちは、 自己抗体の干渉のため、免疫測定と比較して臨床の利益を提示することができる MS の分野として、 サイログロブリンの proteomic な分析を報告した。不運にも、MS によるサイログロブリンの検出で きない濃度を持った画像で確認された疾病再発の報告書があるので、MS はこれらの場合にすべて の必要とされる答えを供給できない(38)。技術のより接近している検査は、多くの変数が正確な定 量結果を提供するようにコントロールされる必要があることを明らかにしている。これらの分析的 な挑戦は、他の omic なアプローチの挑戦と本質的に類似している。これらのアプリケーションを私 7 たちが研究施設から臨床現場に移行させる時、参照物質、参照方法および熟達度試験プログラムを 含めた基盤が開発される必要がある。さらに検査室は、適切な品質保証および QC プログラムを設 計するために、規定されたガイダンスを必要とするであろう。新しい検査の点検のプロトコルは開 発され、点検されて、実施される必要もあるであろう。 結局、FDA は、2014 年 10 月 3 日に LDT の規則用の草案のガイドラインをリリースしたが、いつ最 終ガイドラインが提出されるのか、どのくらいの時間をその実施に費やすのかは不明瞭である(39)。 草案の文書は、FDA がリスクベースの経営戦略を追求し、セッティングされた単一の病院で開発さ れ提示される原型の MS ベースの LDT が、低いか中等度の危険(クラス 1 かクラス 2 の医療機器)に なるだろうということを明確にしている。FDA は、最終指針書(ガイダンス)が発行された 24 か 月後に、リスク分類を明確にするだろう。しかし、現在、最終ガイダンスのリリースのための時間 枠は不明瞭である。最終の LDT 規定するガイダンスが公表される 6 か月後に、LDT を行なうすべて の検査室は、すべて FDA に登録するように要求されるであろう。しかしながら、クラス 1 とクラス 2 の医療機器(従来の MS ベースの LDTs)は、最終ガイダンスが提出されてから 5 年後まで、出荷前 の承認を求める必要がないであろう。そして、登録手続は後の 4 年にわたって段階的に導入される であろう。近々の実際的な実務の局面から、MS に投資する検査室は、考慮している機器に対して FDA が診断装置として承認しているかどうかを知るべきであるが、それは従来の MS ベースの LDTs の形式上の規則は少なくとも向こう 5 年かかると思われる。 将来アプリケーション 新しい視野および傾向は、検査医学における MS の明るい将来を示している。パデュー大学のよう な場所で追求されている MS のシステムの小型化は、オペレーターに必要な専門のスキルセットを 最小化し、ポイントオブケアの形式のような、迅速で正確な MS の分析を行う事が出来る、運送可 能な装置を可能とするであろう。これらの装置は、様々な場所(例えば内科医のオフィス)で使用す ることができるかもしれないが、これはまだ遠いように思われる(40)。現在、MS は、ロンドンのイ ンペリアルカレッジの手術室の中で、臨床検査室の外部で既に使用されている。ここでは正常およ びガン組織を区別するために、メスが質量分析計に接続されている(41)。MS が拡大している追加の 分野は、プロテオミクスとタンパク質のパネルの分野を含んでいる。現在免疫グロブリンは MS に よって測定することができ、免疫、自己免疫、癌検知および免疫系機能の重要なバイオマーカーと して考えられている(42)。単クローン抗体もまた、治療薬として種々の疾病に使用されている。例 えば、infliximab はクローン病と潰瘍性大腸炎を治療するために使用されている。また、治療のため のその濃度は、臨床反応および改善された予後に関係している。MS ベースの方法は、これらの化 合物を測定するために使用される、既存の免疫測定による infliximab に対する内因性の自己抗体で 見られる測定時の干渉を克服することができた。 検査室は、完全に自動化ラインに MS ベースのシステムを接続し、かつ LIS にそれらを直接統合す ることに向かっている。さらに MS のメーカーは、臨床検査室がこの技術を採用するための障害を 縮小するのを支援するために、ready-to-use な「FDA 承認済み」の試薬キットに取り組んでいる。こ の傾向は、結局、質量分析計を検知器として組込む完全な自動臨床化学アナライザーの導入になる であろう。分析感度、特異性、自動化された試料調製および高処理能力におけるさらなる改良は、 この技術に適応するより多くの臨床応用につながるであろう。MS ベースの方法は、診断の医学の 本質的な構成機器であり、規制的、分析的、人的に対する挑戦が解決される時、成長し続けると思 われる。 (訳者:櫻井 俊宏) 8 Footnotes 3 Nonstandard abbreviations: MS, mass spectrometry; ESI, electrospray ionization; FDA, US Food and Drug Administration; LDT, laboratory-developed test; LIS, laboratory information system. Author Contributions:All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the published article. Authors' Disclosures or Potential Conflicts of Interest:No authors declared any potential conflicts of interest. Received for publication August 19, 2015. Accepted for publication September 21, 2015. © 2015 American Association for Clinical Chemistry References 1. Irving J. Drug testing in the military–technical and legal problems. ClinChem 1988;34:637–40. 2. Millington DS, Kodo N, Norwood DL, Roe CR. Tandem mass spectrometry: a new method for acylcarnitine profiling with potential for neonatal screening for inborn errors of metabolism. J Inherit Metab Dis 1990;13:321–4. 3. Fitzgerald RL, Herold DA. 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