第 4 回おおきなルーヴルのちいさな物語コンクール 1等 高学年 題名:ルーブルからわたされた色と光の旅 部門:お話 作品番号:5 受賞者名:堤 悠佳子 ルーブルの小さな美術館の中を私は一人で歩いていた。今まで吸ったことのない空気 に取り囲まれていく。とても静かで不思議な世界。本の中でしか見たことのない彫刻 や様々なブロンズ像が並ぶ。ふと、そのうちの一つの赤絵のつぼに私は強くひきつけ られた。そのつぼは肌に食い込んでくるような光を持った色合いで、言葉では表せな い強烈なオーラを放っているようだった。次の瞬間、私は強い渦に巻き込まれた。目 を開くと、勇気ある英雄たちが戦う競技場の片すみにいた。いよいよ戦いが始まろう とする時、私のほうを一人の勇者が見ていた。その瞬間、私とその勇者以外の時が止 まった。 「あの、どうしたのですか。」 あまりにも悲しそうで、思わず声をかけた。 「勝てるかどうか、心配でたまらないのだ。相手は馬の頭を持つ、凶暴な怪物で、今 までに誰にも負けたことがない。きっと誰も私を応援してくれないだろう。勝ったほ うは、負けたほうをどうにでもできるのだ。もしかしたら、私は殺されるかもしれな い。 」 「戦う前から負けちゃだめ。私は最後の最後まであなたを力の限り、応援するわ。 」 私たちの会話が終わると同時にまたざわめきが戻り、何事もなかったかのように人々 は動き始めた。さっきのはなんだったのだろうと考える暇もなく、試合が始まってし まった。 剣が風を切る音、観衆のざわめきやさけび、闘志たちの激しい息づかいなど、その場 で聞こえる音の全てが、身動きできないほど私の心をしばり、ぎゅっと握りしめた。 私のこぶしからは汗がしたたり落ちてきた。 私と言葉を交わした勇者が不意をつかれて負けそうになった。彼は半分あきらめたよ うに、半分救いを求めるように私のほうを見つめた。私は心の底から、彼に届くよう に願いながら、「負けないで。あきらめないで、最後の最後まで。」と応援した。する と私の思いが届いたかのように、勇者の瞳に光と希望がたたえられ、剣を握る腕に力 がこもったようだった。そして、ついにその勇者が勝利を収めた。彼は負けた相手に 情けをかけ、止めを刺さなかった。観衆からは拍手かっさい。彼は私のほうを見て、 手を差し出した。私は彼の勇気を心から祝福したかった。私も手を伸ばした。その瞬 間、再び突風が吹いた。 私は、また静かなルーブルの小さな美術館の中に一人たたずんでいた。夢を見ていた のだろうか。けれど、私のてのひらにはぎゅっと握りしめた時のつめのあとが残って いた。 すぐれた芸術だけが作り出すことのできる、人を招き入れる時空を超えた世界に私は 旅していたのだろうか。いつかまた、絶望もまたぎこした勇者の住む、色と光の世界 へ通じる扉が開かれるのだろうか。それとも違う世界へ私は誘われるのだろうか。わ からない。でも、もしまたあの勇者に会うことがあるとすれば、そのときまでに私も 少しは成長していたいと思う。
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