日本における環境ベンチャーキャピタルの必要性

平成 19 年度文教大学情報学研究科
修士論文
日本における環境ベンチャーキャピタルの必要性
A6G51001 小林秀樹
1
目次
第一章 定義
第二章 環境ビジネスの問題点
3
4
2-1 リサイクルの現状
4
2-2 風力発電
5
2-3 太陽光発電
6
2-4 バイオ燃料
8
2-5 二酸化炭素排出権取引
9
第三章 日本における VC の問題点
11
3-1 真のリスクマネー供給のために
11
3-2 業界団体
12
3-3 CSR
12
3-4 SRI
13
3-5 独立性
14
3-6 世界からみた日本の VC
15
3-8 日米 VC の比較
16
3-8-1 日本の VC
16
3-8-2 アメリカの VC
17
3-9 サラリーマンキャピタリストの限界
18
3-10 コミュニケーションの不足
18
3-11 相互不信による投資リスク
20
3-12 透明性
22
3-13 日本版 LLP(Limited Liability Partnership)
23
第四章 環境ビジネスの新しい姿
24
4-1 環境保全と資金調達
26
4-2 カーボンファンド
27
4-3 利害関係者との関係
28
4-4 旧来の VC との違い
29
4-5 資金と情報のトライアングル
30
4-6 カーボンマーケット
31
4-7 カーボンファンドの賞品開発
32
むすび
参考文献
要約
33
34
35
2
第一章
定義
本論文で取り扱う環境ビジネスとは、カーボンニュートラル(Carbon Neutral)に則し
た産業、もしくはカーボンオフセット(carbon offset)産業に関わる事業、製品、サービス
などの総称である。カーボンニュートラルとは、環境中の炭素循環量に対して中立という
意味であり、何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素
と吸収される二酸化炭素が同じ量であるという概念である。カーボンオフセットとは、人
間の経済活動や生活などを通して排出された温室効果ガスを別の場所で吸収するといった
考え方である。
これを実現する為には、植林産業のように直接的に二酸化炭素を固定化する方法と、京
都議定書で定められた「クリーン開発メカニズム:clean development mechanism(CDM)」
を通して、潜在的に二酸化炭素を多く排出する途上国の設備を先進国の削減技術を用いて
改良し、排出する二酸化炭素の量を減らす方法の、二通りがある。
CDM には理事会があり、理事会の承認を受けたプロジェクトには Certified Emission
Reductions(CER)が発行され、これは事業の投資国の排出削減量とみなして、認証され
る。認証された後は京都メカニズムに則って売買が可能である。
本論文で取り扱う環境 VC とは、CER を中心としたクレジットを金融的手法で売買し、
その元となるプロジェクト事態にも投資し、利益をあげる企業形態のことである。
3
第二章 環境ビジネスの問題点
2-1.リサイクルの現状
近年、地球環境をめぐる諸問題がクローズアップされ、なかでも地球温暖化に伴う気
候変動の影響は、多くの学識者によって懸念されている。温暖化の原因としてよく挙げ
られるのは、温室効果ガスである。これは、昨今盛んに排出削減が叫ばれている二酸化
炭素をはじめ、メタン、亜酸化窒素などが代表的なものである。これらは、多くを人間
の経済活動によって排出され、そのなかでも特に問題となるのが、ゴミの焼却に伴う排
出である。
そんななかで、最近日本でも 3R 運動というものがよく言われるようになった。これ
は Reduce(リデュース:減らす)
、 Reuse(リユース:再び使う)
、 Recycle(リサイ
クル:再資源化)の頭文字をとったもので、エコ運動のスローガンとしてよく使われる。
そのなかで最も注目されているのが、最後のリサイクルである。リサイクルは新しい
考え方ではなく、以前から多くの国で当たり前のように行われてきたものであり、これ
が昨今注目されるようになったのは工業製品の高度化、複雑化によって、大規模施設で
しかこれを行えなくなってきたことが大きい。
そして、それは不可避的にビジネスの機会を呼んだ。環境省の平成 15 年の調査では、
循環型社会ビジネスの市場規模は約 21 兆円、約 57 万人と推計されている 1 。平成 12
年における市場規模や雇用規模の主な内訳としては機械・家具等修理、住宅リフォー
ム・修繕などいわゆるリペア(修理)産業に関する分野が約 9 兆円、雇用規模で約 15
万人、次いでプラスチック・鉄・古紙などの再生素材に関する分野が約 8 兆円、雇用規
模で約 20 万人、廃棄物処理、資源回収、リサイクル、リース・レンタルなどのサービ
スの提供に関する分野が市場規模で約 3 兆円、
雇用規模で約 20 万人と推計されている。
さらに、国家としても 1997 年に容器包装リサイクル法が制定されたのを皮切りに、
廃棄物処理法、食品リサイクル法、建設サイクル法、グリーン購入法などが制定され、
2005 年に法案が可決した自動車リサイクル法により、個別品目のおけるリサイクル法
体制がほぼすべて出そろった。また、循環型社会形成推進基本法や、資源有効利用促進
法などのガイドラインなども整備されており、日本はリサイクル国家として着実にその
歩みを進めているかのように見える。
だが、このような法体制、産業体制とは裏腹にリサイクルそのものを疑問視する声も
数多く聞かされる。つまるところ、その発言の骨子は「新品を造るほうが、再生させる
より安く、しかも環境にも優しい」というリサイクルの根幹を揺るがすものである。
このような現状を踏まえ、公共性と収益性を両立させるためには、客観的かつ科学的
1鈴木隆之「循環型社会形成推進基本計画の進捗状況」環境省
4
2007
な評価がなされなければならない。
2-2.風力発電
風力発電は、地球環境の保全、エネルギーセキュリティの確保、経済成長の維持を同
時に実現可能なエネルギー源として、今後の再生可能エネルギーの有望なひとつとして
現在普及が進んでいる。
風力発電は従来の発電方式と異なり、将来にわたって燃料を調達するコストがかから
ないことに大きな利点がある。風力発電の潜在的な資源量は膨大な数になり、72TW が
風力によって発電可能とされる。これは世界全体の電力需要量の約 5 倍に相当する。
NEDOによる風況調査 2 などで設置有望地域が多く存在する可能性が示され、現時点
での調査結果からは、日本の陸上で発電可能な量は日本の総発電量の 7~10%とされて
いる。小型の高さ 40mの風車では風が弱いために 2~3%程度となるが、最近の大型の
風車を仮定し、高さ 100mの風車で計算した場合では数倍になる(牛山など)。さらに
洋上(オフショア)発電まで考慮すれば、潜在的には 20~30%程度まで可能という指
摘もある。しかし、これらを実現する為には、まだ大きな技術的な課題が残されており、
数多く今後の技術革新が期待されている。風力発電の事業は新エネルギーの中で採算性
が高いとされているため、ベンチャー以外の大手電力会社の子会社などもこぞって開発
に力を入れている。このため欧米では早くから積極的な導入が進められ、事業性につい
ては実証済みである。大規模に導入されているデンマークにおいては、風力発電のコス
トは過去 20 年間で 80%以上削減され、今後 10 年間のうちに通常電力と競争可能なレ
ベルまで低下する見込みである 3 。温暖化対策コストまで考慮すると、欧州における風
力は石炭火力より発電コストが一桁少ないとされる。 日本における単純な(温暖化対
策等のコストを含めない)総発電量あたりのコストは平成 13 年の時点で 10~24 円
/kWhとされ、国内でも条件さえ良ければ実用水準に達する。平成 8 年の時点で、100kW
の小型機ながら 9-12 円/kWhを達成した例などが報告されている。
このように事業化が比較的容易であるため、世界的に大規模な実用化が進んでいる。
2005 年末時点での設備容量は、世界全体で約 59322MW(=5932 万 kW=約 59GW)であ
る。これは 2004 年から約 25%増加している。
しかし日本では欧米諸国に比して普及が遅れている。日本国内での風力発電(出力
10kW以上)の累計導入量は 2006 年 3 月時点で 1050 基、総設備容量は約 108 万kWで
ある。発電量では標準的な原発(100 万kW前後)の数分の1である。1 基あたりの出
力を見ると、2005 年度では 1MW以下の機種が中心であり、より効率の良い 1.5~2MW
2NEDOエネルギー対策推進部「日本における風力発電設備・導入実績」
3
http://www.ewea.org/
European Wind Energy Association
5
以上の出力のものの基数はまだ限られている。風力発電設備の大部分は輸入品であり、
2005 年度では導入基数ベースでほぼ 4 分の 3 を占めている 4 。ただしここ数年は国産機
の割合が増える傾向にある。また海外機の独壇場であった 2MW以上の大型機について
も、国産機の開発が進んでいる。
しかし、風力発電には今なお技術的な課題が多く存在し、大手のメーカーによる開発
がメインであったが、日本風力開発やエコ・パワーのようなベンチャー系のディベロッ
パーも少数ながら存在する。特に日本風力開発は環境系ベンチャーとしては注目に値す
る。1999 年に設立された JWD は 2003 年にマザーズに上場し、現在は風力開発ディベ
ロッパーではシェアが三位になり、今後も政府の環境対策の強化によって成長が見込ま
れる。このようなワンストップサービスのディベロッパーのほか、DONAMI のような
直線翼垂直軸型風力発電に特化した中小企業も多数存在する。前述したように、日本は
風土的に風力発電に適しているとは言い難いが、それでもまだまだ開発の余地は残って
おり、そのため日本の国土に適した技術開発が必要不可欠である。しかしながらこのよ
うな中小のベンチャー企業に対する資金需要はいまだにすくないままだ。それが国産の
プロペラ、発電機の普及に大きな足かせとなっている。
3-2.太陽光発電
太陽光発電は従来の集中型電源とは様々な点で異なる特徴を持つ。電源としては、昼
間時のみに発電することが最大の特徴である。再生可能エネルギーの一種であり、二酸
化炭素などの温室効果ガスの排出量削減に貢献し、運転用燃料の調達リスクが無い。最
大の欠点は導入コストがまだ比較的高く、日本の現行制度下では電力会社以外の設置者
にとって採算性が不確実なことである。
太陽光のエネルギーは薄く広く分布するが、地球全体では膨大な量となる。太陽から
地球全体に照射されている光エネルギーは、ワット数にして約 180PWである。そのう
ち、地上で実際に利用可能な量は約 1PWといわれる。これは現在の人類のエネルギー
消費量の約 50 倍である。またゴビ砂漠の半分に現在市販されている太陽電池を敷き詰
めれば、全人類のエネルギー需要量に匹敵する発電量が得られる。設置場所における年
間の日射量は緯度や気候によって異なる。日本では約 1200kWh/m2である。欧州では
中部で約 1000kWh/m2、南部で約 1700kWh/m2である。また赤道付近の国々では最大
約 2600kWh/m2に達する。
太陽光発電システムの生産に必要な原料も基本的に豊富である。セルの主要原料であ
るシリコンの資源量は事実上無限である。それを精製した高純度シリコン原料は生産が
4飯田哲也「自然エネルギー市場」築地書館
2005
6
需要に追いつかない状況であり、原料メーカーの増産が続いている。太陽電池の薄膜化
と原料の増産で解消が見込まれている。なお太陽電池の生産には微細シリコン半導体デ
バイスほどの原料純度は必要ない。そのため高純度原料製造工程で発生したオフグレー
ド品や、リサイクル品のシリコンなどが原料として用いられていたが、生産量の増大に
伴い、太陽電池専用の比較的純度の低い、ソーラーグレードシリコン原料の増産の動き
が活発である。
現在の太陽光発電のコストは、発電電力量あたりで見るとまだ比較的高い。しかし需
要が多く電力料金の高い昼間のみに発電するため、実際には他電源との比較における太
陽光発電の価値は単純な発電電力量あたりで見たときよりも大きくなり、コスト的にも
既に実用域に達しつつある。太陽光発電の特徴として、コストは機器の購入費用でほぼ
決まり、事前調査に要する期間や工期は概して短く、その間の利子は無視できる場合が
多く、運転に燃料費は不要であることが挙げられる。
現在の太陽光発電のコストは、単純な電力量あたりで見ると比較的高価であるが、寿
命を 25 年、30 年と置いた場合はその分数割安くなるが、現在の一般家庭向けの電気料
金(15~35 円/kWh 程度)と比較してまだ割高である。 ただし単純な発電量あたりの
コストは、太陽光発電特有の利点を考慮しない値であり、実際は他電源との比較におい
て付加的なコスト上のメリットが生じる。このような付加的なメリットは大きく、単純
な発電量あたりでみたコストが従来型電源の数倍であっても、なお電力網全体のコスト
低減に寄与し得る。
なお、現在用いられている比較例には、下記のような欠点を含むものが多い。これら
が原因で、他電源との比較において、太陽光発電のコストが不必要に高く見積もられて
いることがある。たとえば燃料費や解体費などの差を無視して建設費だけを比べている
ケースなどがあり、注意が必要である。
また太陽光発電のコスト低減の方策には、量産規模の拡大と、薄型化などのコスト低
減技術の実用化がある。欧米で行われている固定価格制では、早期に設置された設備ほ
ど高額で電力を買い取り、後になるほど漸減させることで、急速な普及を図ると同時に
コスト低減圧力をかけている。
平成 17 年度におけるシステム設置費用は、新エネルギー財団による集計では、平均
価格で 68.4 万円/kW と報告されている。太陽光発電モジュールの寿命は技術改良によ
って延びており、現在では 30 年以上の寿命も期待できるとされる。
1kW 当たりの設置費用は、1994 年度から 2003 年度までの 10 年間で、半額以下に
なっている。近年の需要の急拡大により原料シリコンの供給が不足して勢いが鈍ったり
はしたが、長期的には価格の低減が続いている。専用シリコン原料の増産、量産規模の
拡大、シリコン使用量の削減や新材料の実用化により、今後も価格低減が続くと見込ま
れている。
欧米における太陽光発電のコストの相場は、2007 年 5 月の時点の平均で設備容量 1W
7
あたり 5 ドル弱、発電量 1kWh 当たり 21 セント程度である。安価な製品では設備容量
1W 当たり 4.5 ドルを切る。2012 年頃には 4 ドルを切り、世界の 6 割以上の地域で補
助金なしで発電事業として経済的に成立するようになると予測されている。
設置後の保守は、家庭用システムの場合、約 10 年ごとのパワーコンディショナの
メンテナンスが必要な場合がある。近年は部品の定期交換を不要とし、メンテナンスコ
ストの削減を図ったものも登場している。保証期間を過ぎてから故障した場合は、パワ
ーコンディショナ全体の交換費用がかかる場合もあり得る。このほか、モジュールの架
台などの定期点検が推奨されている。一戸建ての住宅に設置できる太陽光発電システム
の規模は、設備容量にして通常 2~5kW/軒である。
動力の電力はもともと単価が安いため、電灯に比較して、「元を取る」にはより長
い年数がかかることが多い。今後費用の削減が進めば、業務用にも爆発的な需要が考え
られる。
日本での太陽光発電による電力の買い取り価格は、現在は電力会社が自主的に電力料
金に近い価格で購入しているのに依存している。価格は電力会社や契約条件によって異
なる。
電力会社にとっての太陽光発電はピーク削減効果を持つ事は確かだが、そのピーク発
電原価は揚水発電所の稼働率などから計算できる。試算 5 した数字によれば、
「2000 年
運転開始・利用率 10%、今後 10 年に運転開始する揚水式水力の平均的モデルとされて
いるものの発電原価は 33.4 円」、また関西電力では「1999 年運転開始・利用率 70%の
火力発電所の加重平均をベース電源として挙げていてこれから換算したピーク対応の
電源コストを 31.96 円」としている。揚水発電所の平均的な稼働率は 3%以下なので単
純に計算すればピーク発電原価は 1kW/hで 100 円を超えていることになる。当然、こ
の部分に電力を供給する太陽光発電はその時点ではその価値を持つ電力を電力会社に
発電量の全量貢献している事になるが、現時点ではそうした経済的評価を受けていない。
3-3.バイオ燃料
二酸化炭素の排出を抑制するために、2002 年頃からバイオ燃料の開発が盛んになってき
ている。これは、石油燃料に比べて食物由来のバイオ燃料は二酸化炭素の排出量が増えな
いことに由来し、カーボンニュートラルとも言われるように、食物はその成長の過程で二
酸化炭素を取り込んでおり、これらを燃やして二酸化炭素を排出しても差し引きがゼロに
なると言われている。しかしながら、生産プラントを建設する段階、生産の段階、輸送な
どの過程でどれほどの二酸化炭素が排出され、それが本当に差し引きゼロになるのか、と
いう問題は、バイオエタノールが大量に生産、運用されるまでは結論が出ていない状況で
5
丸山真弘「最近の電力卸供給入札について」公益事業研究 1996
8
ある。また、日本国内で生産する場合は元々の食料受給率が 40%と低い状況では、その生
産をエネルギーに転用できる余裕は殆ど無い。実際、日本のバイオエタノール燃料は殆ど
がフランスからの輸入に依存している。さらに、ただでさえ食物を輸入に頼っている日本
で、輸入先の農場が食物用から燃料用に種を転作している状況下では、食物の価格上昇を
招いている。このような状況では極端な場合「食物か環境か」という二択を迫られる場面
が出始めてきており、実際アメリカの輸入が大半を占めるトウモロコシに関しては、エタ
ノールに転用される量が図 1 のように 2000 年前後から急上昇している。 6 また、国内でも
一部の米作農家が品種改良した米からバイオエタノールを抽出し販売するという試みが始
められている。しかしながらや
図 1
はり中心は国外からの輸入で
あり、日本のバイオエタノール
の半分はフランスからの輸入
である。
このようなバイオエタノー
ル・バブルとでも呼べるような
状況になったのは、2002 年に
アメリカが今後 10 年以内に石
油依存体質から脱却し、バイオ
エタノールへの転換を図ると
いう政策を打ち出したからで
あり、行政主導の面が大変大き
い。また日本でも 2000 年の京都議定書締結後に温室効果ガス削減の為の税制優遇処置など
が執られ、それが近年の環境ベンチャー出現の要因である。今後このような行政主導的な
側面は失われていくであろうが、2007 年の日本の現状では到底、市場の原理に基づいてい
るとは思えない。
3-4.二酸化炭素排出権取引
21 世紀に入り、各地で記録的な猛暑やハリケーンなどの異常気象が報告されている。
これらは地球の温暖化による海流の変化によって引き起こされたと見る向きも一部で
は報告されている。しかしながら、その相関関係は未だに解明されたとはいえない。
しかしながら、温暖化しているというのは事実であり、気候変動に関する政府間パネ
ルではそれを基本的な科学知識や観測を基にした研究、「気候モデル」(GCM)の検証か
Earth Policy Institute
http://www.earth-policy.org/Updates/2007/Update63_data2.htm
6
9
ら、
「1990 年から 2100 年にかけて気温は 1.4-5.8℃上昇する」と予測している。
このような時流のなかで可決されたのが 1997 年の京都議定書であり、そのなかで排
出権取引についても規定された。これは各国に排出権許容枠が設定され、これをクリア
ーできない場合はペナルティを課せられるというものであるが、そのなかで許容枠を下
回る分の二酸化炭素については各国間で取引できるメカニズムが作られた。
温暖化によって引き起こされる経済的損失は、英国政府の委託研究「スターン・レビ
ュー」によると世界各国の国内総生産 (GDP)総計の約 20%に上ると指摘されており、
各国間の協調によって二酸化炭素の排出を削減することが急務である。
このなかで CER という排出権削減分を売買できるクレジット制度が作られ、
現在 EU
でも ETU というクレジットを売買する市場が出来上がっている。2003 年から取引が
始まったが、図 2 をみればわかるとおり、その価格は新興国での原油需要の逼迫などの
要素と絡み合い、上昇の一途を辿っている。日本でも同様の構想があり、将来、国内企
業間で商社などの介在を経ずして CER の売買がされることは間違いない。
このような現状を踏まえるに、環境ビジネスとクレジット取引はこれからセットとし
て取り扱いをすることは新たなビジネスを考える上で必須となる。だが、そのための認
証手続きは現状では行政の認可を受けねばならず、その基準を満たすためのマネジメン
トを包括的に行う企業の需要が増えている。本論文で提案するVCでは、以上のような
事情を踏まえた上でVB本体に投資しつつ、そのプロジェクトで出た過剰のCERをファ
ンドと連動させ、収益をあげることでVB本体のリスクを分散させることにある。VBの
投資する資金とは、本質的にリスクマネーであるが、我が国では多額のリスクマネーこ
そがまさに今、特に環境分野でのイノベーションを起こすために必要なのである。 7
図 2
CER の推移と予測(GHG の資料をもとに作成)
10$
CER価格の推移
5$
2003
7
2005
2007
2010
GHGソリューションズ「排出権価格予測のシナリオとシミュレーション」2003
10
第三章 日本における VC の問題点
3-1.真のリスクマネー供給のために
日本の VC が真の意味でのリスクマネーを供給できるようになるためには、乗り越え
ねばならない二つの壁がある。ひとつは統計の充実である。リスクとリターンが読めな
いところに金は流れない。ふたつは、利益率の改善である。アメリカの VC は株式市場
の影響に強く左右される上場益よりも、会社の売却によって大きな利益を得ている。し
かし、日本のベンチャービジネスは VC によっての売却がなかなか起こらない。これは
減損会計、時価主義会計が厳格化し、のれん代売却後の償却や減損処理の為に損益計算
書にも費用・損失として影響が出ることが要因のひとつとしてある。また、売却先の企
業が 2000 年頃の IT バブルブームの時に中小のベンチャー企業を買収し、その「売却
疲れ」も要因のひとつに挙げられる。
しかしながら、ただ単に米国の VC に物真似をするだけではなく、今後は米国の手法
もふまえた上で、日本の雇用風土や企業関係にも合った VC のあり方が模索される必要
があり、後述するような基本的な方法論の充実が求められる一方、
「日本風 VC とは何
か?」が試行錯誤される必要がある。
では、どのようにすれば日本風の VC 的な手法が見つかるのか?というのはなかなか
難しい問題ではある。試行錯誤と言ったが、日本の VC はどうしてもリスクを嫌う傾向
がある。
図 3 をみてみると、投資先企業が設立して間もないアーリーステージでは半数近くも
投資が行われているが、設立そのものを支援するシードステージに投資することは少な
い。だがVCのリターンが大きくなるのは、ベンチャー企業が設立して早ければ早いほ
ど効果的であるのは調査結果 8 によって明らかとなっている。また、平たく言ってしま
えば設立して投資先企業に「色」がつくまえにVCが支援関係を持っておけば、上場ま
でにスムーズな関係が作れることが多い。これは、VCにとって内部収益率が高くなる
のは、投資してから上場(または売却)するまでの期間が短ければ短いほど良いわけで
あり、これをみてもなるべくはやい投資の時期が望ましいと思われる。
しかしながら、設立まもない、もしくは設立前の、まだ海の物とも山の物ともわから
ぬ企業に投資するのはどうしてもリスクがつきまとう。そのため、日本の VC の特徴と
して有望な投資先企業に対して投資が集中することが多く見られる。米国では、投資す
る時に共同で投資した方が利益が上がることが多いが、日本はこのような結果があるた
めに、やはりリスクをとって一社で投資した方が、結果的には利益効率は高くなる。
8
石井芳明「VCにおける投資収益率の現状と今後の課題―日本のパフォーマンスを向上さ
せるために―」産業経済ジャーナル 2007 年 11 月号
11
図 3
VB 企業への投資時期
(平成 18 年度 VC 等投資動向調査報告/ファンド・ベンチマーク調査報告を元に作成)
15年以上
分類不能
設立投資
10年以上~15年
未満
設立後~5年未満
5年以上~10年未
満
3-2.業界団体
VC の社会的役割の成長に比べ、業界の組織化は遅れていると言わざる得ない。日本
の第一号の VC は、1963 に設立した東京中小企業投資育成株式会社であるが、この企
業と日本の VC の最大手であるジャフコは、VC の業界団体である日本 VC 協会に加盟
していない。東京中小企業投資育成株式会社は発足した当初国営であった。現在は民営
化され、政府の関与が限りなく弱い特殊会社という扱いになっている。特殊会社とは、
国策上必要な公共性の高い事業ではあるが、行政機関が行うよりも、会社形態でこれを
行う方が適切であると判断される場合に設立される形態の組織である。
このように、日本の VC は、はじめに国家主導で行われ、その後民間が数多く設立さ
れることとなったのだが、日本の伝統的な産業に漏れず最初は国家主導のトップダウン
であったために、リスクを取らないという悪しき伝統がある。現在では VC の数も増え、
その投資スタイルも様々なスタイルになってきた。しかし 2007 年現在、銀行や大手金
融機関の紐付きでない VC の数は 30 社ほどしかない。また、その中には欧米資本の VC
などが含まれているため、日本の VC の投資スタイルはまだまだ多様性を欠いたもので
ある。
投資文化は違うといえど、日本にはアメリカと違い、中小企業に優れた技術を持つと
ころも多く、そのような企業を発掘し、社会へ出すことが VC の社会的意義ならば、自
己完結した強い業界団体は必要不可欠である。資本の力だけでなく、モラルの面でもそ
ういえることができる。
3-3.CSR
最近、CSR、SRI の活字を頻繁に見るようになった。大手企業やコンサル企
12
業、そしてメディアまでがこの新しい言葉に踊らされ、言葉遊びに終始している。
CSR とは Corporate Social Responsibility の頭文字をとった表現で、日本語では「企
業の社会的責任」と言われていて、一般的な定義は「企業が法律遵守にととまらず、企
業が市民、地域、社会に貢献しながら、経済、環境・社会問題においてバランスのとれ
た活動を行うことにより、事業を成功させる」ということである。これは、企業が利益
だけではなく、地域や社会に貢献する。そのような企業でないとこれからは生き残れな
いという事実に、経営戦略として取り組み始めたという証左であろう。しかし経営戦略
のお題目としては大変結構ではあるのだが、その実態なるや理想とはかけ離れたものと
なっている。
例えば CSR では、大手企業が社内に設置している社会貢献室が CSR 室に名称変更し
ている、というまさに言葉が言い変わっただけの状況にあり、はたして社会に貢献して
いるだろうかという疑問がある。多くの場合、広報室的な位置付けであり、実務型では
ないのである。このような受け身で、しかもうわべだけの取り組みでは CSR の本質を
矮小化することになりかねず、各企業ともにその取り組みをより実務化する必要がある
のではないだろうか。ここでいう実務化とは、その CSR などの考えを業務のフローの
一部としてシステム化することである。そしてシステム化するためには、CER の取り
組みを数字で評価する必要があり、数字で評価する為には実際に CSR に則った事業を、
担当部署が行う必要がある。言うまでもないことであるが、企業とは利益追求の為の組
織である。そうである以上は、社会的貢献と利益の関係はもっと同列に語られるべきで
あり、そのことを各企業はもっと真剣に考えるべきである。
3-4.SRI
SRI とは Socially Responsible Investment「社会的責任投資」であり、欧米などで
の投資を行うときの基本的な考え方である。経済性、環境適合性、社会適合性の観点か
ら企業評価を行い、銘柄選定する投資行動である。
日本でも 2000 年頃から SRI の基準に沿って運用を行う企業が増えてきている。しか
しながら、2007 年で運用されている日本の SRI とその資産残高は 2740 億円、確認で
きた SRI はたった 40 種類存在しているに過ぎない。世界全体では 300 兆円以上の総資
産が運用されているが、それは大半が欧米である。また近年問題となっているのは、暴
力団が資金洗浄と利益を目的として VB に資金を提供するという事態である。このよう
な状況を鑑みるに、
一時期はモラルハザードを起こしているとまで言われた日本の VC、
VB 共に発想の転換が必要だと思われる。
SRI には大きく分けて三つのスタイルがあり、コミュニティー投資、環境配慮型投資、
グリーン購入がある。
コミニティ型投資とは、マイノリティや低所得者居住地域の発展を支援するために低
13
利の融資である。これはバングラデシュのグラミン銀行のマイクロファイナンスを代表
としたもので、人権などに配慮した投資スタイルだ。
。
グリーン購入とは、消費者の観点から環境適合性に配慮した製品やサービスを購入す
することである。これらは日本政府としても積極的に推進しており、2000 年には「国
等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」通称、グリーン法が可決された。
最後に、環境配慮型投資とは、投資者の観点から環境に配慮した金融商品を購入する
ことである。本論文で取り扱うのは、この環境配慮型投資を実務化、専門化した投資ス
タイルである。
3-5.独立性
日本では、2000 年の IT バブル以前までは金融機関からのぶら下がりの VC が主流で
あった。このため、連結のバランスシートに影響がないように分散型投資、そして経営
に関与しない形(ハンズオフ型)の投資が主流であったが、IT バブル以降は金融規制
が緩和されたせいもあって、経営に積極的に関与する投資(ハンズオン型)の投資もち
らほら見られるようになってきた。しかしながら、制度が変わり米国流の投資ができる
ようになってきていても VC の経営支援能力が劇的に向上したわけではなく、二人三脚
で会社を作り上げていくために必要なキャピタリストの育成にはまだまだ時間がかか
る。
このようなアントレプレナーを育成するためにはどうしたらいいのだろうか?調査 9
によると、パフォーマンスが高いキャピタリストとは理系出身よりも、文系出身よりも、
双方を学んだ人材が高いパフォーマンスを出しているとされる。また、最も高いパフォ
ーマンスを出すのはベンチャー企業に勤務していた人材であり、次にベンチャー企業を
経営していたキャピタリストであった。注目すべきは最も低いパフォーマンスを出す人
材である。これは、監査法人出身の人材であった。
以上の調査からわかることは、VC にとって必要な人材とは、狭い視野に囚われずに
リスクを取れる人材であるということである。さらに、ベンチャー企業が成功するか否
かを財務面だけで判断するのは間違いだということである。
日本のキャピタリストは新卒採用が多く、どうしてもサラリーマン的な判断に落ち着
いてしまいがちであり、そのためパフォーマンスが低くなりがちであるが、やはりベン
チャー企業を経験した人材というのは絶対数に限りがあり現状でそのような人材を調
達するには難しいと言わざるをえない。
しかしながら、大手のぶら下がりのなかで投資経験を積むよりも投資業務だけで利益
2007 年 11 月号 「VCにおける投資収益率の現状と今後の課題―日
本のパフォーマンスを向上させるために―」
9産業経済ジャーナル
14
を得ている企業のなかで投資経験を積む方がより良い経験になるはずである。求められ
ているのは数字になるパフォーマンスではなく、数字にならないパフォーマンスであり、
このような経験は会社の風土が大きく影響する。さらに企業がそのような意識を持って
人材育成に励むのであれば、新卒採用であってもけしてベンチャー企業経験者に引けを
取らない人材が育成できるであろう。ベンチャー企業投資に必要なのは財務的な独立性
以前に、心理的な独立性であり、逆説的ではあるが VC は、キャピタリストを育成する
ために「非組織的」でなくてはならないのである。
また、組織論的には従来のように親会社の出資によってできあがった VC の場合、た
だでさえ問題になる利益相反問題がより重くのしかかってくることになる。これまでは
金融機関のぶら下がりについて例を挙げてきたが、事業会社がシナジー効果を出すため
に VC を設立する場合も多い。これは確かにベンチャー企業の技術を他企業に渡すこと
を防ぎ、親会社にベンチャー企業の技術を提供し相乗効果が生まれることもあるが、野
心と冒険心が強いベンチャー企業の経営者はこのように飼い殺しにされることを嫌う
であろう。さらに、親会社に不利益になる案件に投資したい場面もでてくるはずで、こ
のように投資先の選択に制限が出てくるのは望ましいことではない。
3-6.世界からみた日本の VC
日本における VC の問題点の大きなひとつとして、その投資額の規模の小ささが挙げ
られる。
図 4、図 5 をみればわかるとおり、日本、アメリカ、EU という世界の三大経済圏を
比較した場合日本の投資額の小ささがよくわかる。米国においてのその投資の規模の大
きさは歴史的に IT ベンチャー発足の地として今更解説する余地はないが、注目すべき
は昨今の EU の VB に対する投資額の大きさであろう。
また、図 5 のように投資額の推移をみた場合でも、その額が少しずつ増えてきてはい
るが、残念なことに大半は投資組合としての投資であり、VC 本体が資本金を出資して
投資するというのは未だにそのパーセンテージは少ない。これはリスクを取れぬ日本の
VC の大きな問題点と言うことができるのではないか。
15
図 4
日米欧のVCの年間投資額
日米欧の年間投資額
(図3と同じ資料を元に作成)
800
700
(100億円)
600
500
日本
欧州
米国
400
300
200
100
0
2004
図 5
12000
2005
VC 投資額推移
2006
2007
2008
VC投資額推移
(図3と同じ資料を元に作成)
10000
億円
8000
本体投資
組合投資
6000
4000
2000
0
05前期
05後期
06前期
3-7.日米の VC の比較
2-7-1.日本の VC
設立形態:株式会社
設立母体:銀行・証券・生損保系が中心
業界団体:
「日本 VC 協会」 が 2002 年に発足
VC 社数:約 200 社強
投資資金:自己資金 45%、組合 55%
年間投資額:2825 億円
資金調達先:事業会社(23%)、金融機関(43%)、他の VC(15%)年金は僅か
3%同業のVCからの資金受け入れは日本独特。
16
図 6
日本の VC の資金調達先
(図3と同じ資料を元に作成)
事業会社
金融機関
他のVC
年金基金
2-7-2.アメリカの VC
設立形態:パートナーシップ形態の個人専門家
設立母体:民間系独立 VC が中心となっている
VC社数:600 強
投資資金:民間系独立ファンドが 80%、金融事業会社は 20%
年間投資額:341 億ドル
資金調達先:年金基金、基金、財団が 44%を占める
図 7
アメリカの資金調達先
(図3と同じ資料をもとに作成)
年金基金
金融機関
個人投資
17
3-8.サラリーマンキャピタリストの限界
アメリカのキャピタリストは、そのベンチャー企業に対する出資者と同一であることが
多い。これは、自己の利益と投資先の利益が同一になることでインセンティブを高める手
っ取り早い方法である。
これは、責任の所在をはっきりさせる方法でもある。身銭を切って投資先をマネジメン
トする以上、他のキャピタリストの反対は押し切れるという理屈である。しかしながら、
日本の VC は大手企業の参加であることが多く、その規模も大きい。そのため、どうしても
キャピタリストの仕事がルーチンワーク化されてしまい、その利益も損失も自己には関係
ないという状況が生まれる。
これは、日本の VC がアメリカに比べてパフォーマンスが低い水準にある大きな原因のひ
とつと言われている。これを解決する方法は簡単である。アメリカのように「パートナー」
という役割をハッキリさせるのだ。日本のように無責任なサラリーマンキャピタリストで
はなく、各々がベンチャー企業と本当の意味で運命共同体である必要がある。これは、ベ
ンチャー企業という企業形態を考える上で必須なことである。
VC を設立して、これからベンチャー企業を支援する人間は、支援する企業以上にベンチ
ャー的である必要がある。そのためには、キャピタリストが投資先に身銭を切って出資す
ることを必須にするシステム作りが必要だ。これはリスクを嫌う日本の経営方式に反する
やり方ではあるが、リスクなしにリターンはありえない。そもそも、このような危険を冒
せない人間は VC という企業形態に手をだすべきではない。
3-9.コミュニケーションの不足
VC とベンチャー企業間にとって、
一番大切なのは何であろうか?豊富な人材や資金、
それに経験などはいうまでもないことだが、それが人間同士のビジネスである以上は信
頼関係が何よりも重要である。特に、ベンチャー企業の経営者にとっての VC というの
は、自らの人生を賭けて作り上げた会社の経営権を一部とはいえ譲り渡す相手である。
どんなに資金やシステムで優れているところであっても、人間味のない相手であってい
いはずがない。また、信頼関係の醸成はお互いの利益にとっても有益である。信頼関係
に基づいた密接な情報交換があって初めて企業の成功がある。
だが、日本の VC に最も不足していると言われているのもまたコミュニケーションで
ある。VB 投資にの手法には大きくハンズオン投資と非ハンズオン投資があるが、日本
の VC にはハンズオン投資がまだまだ少ない。ハンズオン投資を実施している企業でさ
え、その実態は VB にしてみれば満足とはほど遠い状況といえるのではないか。下表は
日本の大手 VC の投資先への役員の派遣比率を表にしてみたものだが、これをみればわ
18
かるとおり、豊富な人材を抱えている大手といえどもまだまだ二人三脚の状態にはほど
遠い。表 1 にあるのは、日本の主要な VC が、ベンチャー企業に役員を派遣している比
率を表にしたものである。
これによると、日本で最も老舗かつ健全な経営をしているといわれる中小企業投資育
成会社が一番役員比率が低いことがよくわかる。エイパックス・グロービスは比率こそ
高いが、キャピタリストの絶対数が少ないのが残念である。また、歴史も古く業界最大
手ジャフコに関しては派遣比率が 10%以下であり、このような日本の VC の先駆けとな
った企業にとって、「投資育成」の「育成」に関して非常に消極的にな現状が浮き彫り
となる。
表 1
大手 VC の投資先への派遣数と比率
(門脇徹雄「投資ファンドと VC に騙されるな」半蔵門出版を元に作成)
従業員
社名
数
役員派遣
キャピタリスト
者数
投資先社数
派遣比率
ジャフコ
411
150
44
1493
2.9%
日本アジア投資
136
71
31
573
5.4%
24
6
25
78
32.1%
NIF ベンチャーズ
138
NA
24
742
3.2%
東京中小企業投資育成
92
NA
14
871
1.6%
15
11
11
13
84.6%
ワールドビューテクノ
ロジー
エイパックス・グロービ
ス
さらに VC 側から見ての投資先案件における投資の失敗事例を表にしたものが表 2 であ
る。以下の表からわかることは、面談の機会が少なく、そのコミュニケーションが不円滑
であるにも関わらず、その失敗は VB 経営者の責任と捉えられることである。これには様々
な要因があるために一慨に述べることはできないが、間違いなく言えることは VC とのコミ
ュニケーションの不円滑が VB の経営者の経営判断に良い影響を与えることは、あまりない。
VC にとって、株式と引き替えに投資するだけではなく、VB と二人三脚で企業を育ててい
くことが必要なだけではなく必然なのである。
表 2
連絡手段と頻度、及び投資先企業の失敗要因
(表1の資料を元に作成)
連絡手段と頻度
頻度
直接面談
毎日
0.0%
週2回
1.9%
週1回
月2回
1.9%
19
21.9%
月1回
49.5%
3ヶ月一回
18.1%
投資先企業における失敗要因
経営
取締役のマネジメント能力不足
72.60%
経営幹部のマネジメント能力不足
43.60%
3-10.相互不信による投資リスク
ベンチャー企業投資には、必ず高いリスクがつきまとう。代表的なものとしては、投資
先の事業が計画通りにいかず、上場も売却もできずに投資額がそのまま損失になってしま
うリスクがある。また、売却や上場をしたものの、思ったほど利益が出ずに全体的に見て
損失になってしまうということも考えられる。
しかし、これらは投資前の事業計画の評価や、事業を行う中での財務的評価である程度
はそのリスクを回避できる。だが投資先企業が虚偽の事業計画で VC を騙し、計画的に事業
を破綻させてしまうという詐欺的な行為に関しては、VC 側は事前の財務的な評価では対処
できないことが多い。これらの行為を回避するためには何よりも経営者の人格的な印象を
優先し判断することが求められるが、「印象」という客観的な基準がない漠然としたものを
判断するのは多くの場合、その経験や勘などに頼らざるえない。ベンチャー投資では、こ
のように財務的な面や技術的な面だけではなく第六感に頼って投資を行う場面が多く、そ
れがベンチャー投資に対する研究を難しくさせている要因のひとつとなっている。
図 8
日本の投資リスクに関する研
委託者と代理人
究 10 では、エージェント・アプ
ローチによる段階的投資によっ
て実施されることが多い。
これは、VC とベンチャー企
業を委託者と代理人として捉
えるアプローチであり、この
場合代理人は委託者にとって
望ましい行動を取るとは限ら
ない。このような場合の投資
においては段階的な投資をす
ることがリスク回避の手段と
して有効である。例えば、疑
わしい企業に投資を行う時に
10
「VCの段階的投資に関する実証分析」船岡健太
20
は投資を何回かに分割して行うことによって、もし一回目の投資のあとのモニタリング
でモラルハザードが起きている兆候が見られる場合、二回目の投資を中止することによ
って、リスクを回避できる。これらはモラルハザードが疑われるケース以外でも、投資
先が高コストの分野である場合などにも使われる場合がある。
図 9
モラルハザードが起こった場合の投資
事業計画
第二期事業計画
初回投資
モラルハザード発生
VC への段階的投資への実証
第三期事業計画
研究では、Gompers(1995)が有名
投資中止
であるが、それによれば投資の感覚
と VC の予想するリスクは負の相
関があるという。
しかしながら、このような小刻みな投資の場合、確かにリスクは軽減されるが、経営者
が思いきった設備投資をしづらくなるという問題点もある。例えば環境系でもバイオ・ベ
ンチャーのような、競争が激しい分野の場合、資金供給が市場の流れに間に合わず、結果
的に損失を出してしまう恐れもある。モラル・ハザードのおそれがある時は、VC は思い切
った投資の中止をすることが確かに必要である。こういった、リスクを回避することによ
って産まれるリスクを回避するためには、やはりリスクの適正な配分を考えることが重要
である。だが、このような場合には定量的なデータはまだ出そろってない場合があり、市
場の動向を見定めるには、やはりキャピタリストと経営者のコミュニケーションによって
適正な戦略を練る、といった当たり前のことが大事になってくる。そのため、前述したよ
うに、ハンズオン投資によって経営者とキャピタリストが密接に結びつくことが重要なの
図 11
である。
図 10
供給資金と需要資金の関係
21
予想されるリスクと投資間隔
3-11.透明性
これまでは、VC(キャピタリスト)の問題点、VB(経営者)の問題点双方について
述べてきたが、
日本の VC や VC が運営するファンドについても守秘義務の問題がある。
ここで被害を受けるのは VC のファンドに投資する投資家である。日本の株主はよく言
われるように、あまり物を言わぬ株式が多く、米国と比較すると情報公開に対して消極
的である。また、日本の企業体質としても自社の情報を積極的に開示するような体制は
あまり積極的にはしておらず、近年では行政の働きかけもあって最低限の財務情報は公
開されるようになったのであるが、まだまだ不十分である。くわえて、VC という先端
企業に投資する業種であるため、守秘義務が発生する。悪質な VC は、その守秘義務を
盾にとって自社に都合の悪い情報をまとめて隠蔽してしまうようなことがあった。
VC の情報開示とは、ひとつにファンドに関する情報開示、ふたつめに投資先企業に
関する情報開示がある。
ファンドに関しては、多くの VC ファンドでは未公開株式に対して取得価格でなされ
ており、時価総額での評価がなされていない。これは、ファンドの満期直前になって大
きな評価減がなされるという弊害があり、VC 側はそれを知っていて時価総額で評価し
ない。当然、監査法人の監査を受けていればこれらを時価総額で評価し、公表するよう
に指導されるはずであるが、不思議なことに、そうはされてないのが現状である。
このようなことを防止するためには、複数の監査法人に監査を依頼することを義務づ
ける必要がある。アメリカでは 1980 年代に税制の改正や年金基金の投資が緩和された
ことを受けて、多くの機関投資家が VC ファンドに参入した。これによって多くの資金
が VC ファンド市場に流れ、ファンドの利益が軒並み低下するという事態が起こった。
そのために、投資家達は自己の権利を守るために VC ファンドに情報公開を迫るという
経緯があった。日本はこのような歴史から学ぶべきである。
このような状況であるために、日本の VC ファンドはその利益が非常に比較しにくい。
本論文が参考資料としているのは、経済産業省が定期的に委託して発行されている「VC
等投資動向調査報告/ファンド・ベンチマーク調査報告」であるが、この調査でさえ解
答社数がバラバラであり、統一性に欠ける。
次に、投資先企業に関する情報公開であるが、日本では唯一老舗の中小企業投資育成
会社が年二回投資先企業名と、投資後の業務報告しているのみであり、大抵の VC ファ
ンドは個別企業の業績ではなくファンド全体での報告をするのみである。これは、VC
側の問題という他に、日本の VC は米国のように投資先企業に対して深くコミットしな
いため、投資先企業からの詳細なデータを入手できないという問題がある。
22
3-12.日本版 LLP(Limited Liability Partnership)
新しい事業形態として、海外で活用されている LLP 制度や Limited Liability
Company(以下、LLC)を受け、日本においても有限責任事業組合契約に関する法律
を制定、2005 年 8 月 1 日から施行、日本版 LLP が解禁された。これまでは法人税の二
重取りによって収益が阻害された形となっていた会社形態だが、投資組合と法人の中間
の形をとって LLP を使えば以前のように投資組合か法人かといったような法的、税制
的な問題に悩まされることなく米国のような VC を作ることが可能となった。ただ、
LLP はあくまで法人ではなく組合であるので、法人名義の土地などを所有することは
できない。
日本版 LLP の特徴は次の 3 つである。
1.有限責任
出資者が出資額の範囲内で責任を負えばよい。
2.内部自治原則
出資額の多寡に囚われることなく、利益の配分や権限などを自由に決
めてよい。
3.構成員課税
LLP は非課税。利益配分があった場合は、その出資者に直接課税される。
1 については、もともと日本には組合という制度が認められていたが、これは無限責
任を定めており、仮に組合で多額の損失を出した場合、組合員が個人財産を処分してで
もその責任を負わなければならなかった。この点、LLP では有限責任制であるため、
出資者は出資額以上の責任を負う必要がない。
2 については、例えば出資額は多いが業務の推進にはタッチしない A さんと、出資額
は少ないが業務の推進で重要な役目を果たす B さんがいた場合、A さん、B さんの利
益配分を同じにするなど、出資比率に関係なく、利益配分を出資者同士の合意の上で自
由に決めてよいことになっている。
3 については、パススルー課税と呼ばれ、LLP に利益が生じても、LLP そのものに
は一切課税されず、その利益を配分した出資者に課税される仕組みである。
また、2005 年の法改正では法人格をもつ LLC も議案の対象となったが、こちらはパ
ススルー課税については見送られることとなった。今後、需要が見込まれる法人形態で
あるためにパススルー課税についても認められると見込まれる。
23
図 10
パススルー課税
法人税
個人
所得税
法人
個人
個人
個人
法人
個人
個人
個人
第四章 環境ビジネスの新しい姿
環境問題が現在クローズアップされているが、経済的に見た場合、その環境のコスト
とビジネスモデルが両立しているかというと、実際のところ両立できてないのが実際で
ある。事実、環境ビジネスといえば国からの環境税などによる補助金や税の免除に頼り
きりのビジネスモデルが大半である。
真に環境のことを考えた場合、その「収益性」と「公共性」の両立は、システムその
ものに組み込んでいくことを我々は考えていかねばならないだろう。
そこで、前述した環境ビジネスを金融的に側面支援できような目的をもった VC を想
定した場合、我々は何をまず考えねばならないのだろうか。
図 11 は、本論の VC を簡単な模式図にしたものだ。まず、外枠は公共性の輪に注目
していただきたい。
これは二酸化炭素排出削減、そして投資するベンチャー企業の市場を活性化させる公
共性の輪である。
さらに、それを達成するために組み込まれているのが内側の収益性の輪である。これ
は市場、投資家たちの目的の核心であり、信頼を得ることがすなわち公共性と収益性に
繋がる重大な手段であり目的である。それはカーボンファンドの設立、専門家集団、完
全な独立、透明な財務と意思決定などによって支えられる。
24
個人
図 11
収益性と公共性を実現するための VC の模式図
資金提供
カーボン
ファンド
環境
専門性
信頼
保護
独立性
市場
活性化
収益性
透明性
公共性
社会的
認識
それらの二重の輪――公共性と収益性の両立――によって固められた新しい VC の輪によ
って、市場から資金が流入することが期待できる。これは単純にして堅牢なシステムであ
る。また、単純ゆえに堅牢であるとも言えるであろう。
25
4-1.環境保全と資金調達
VC の目的は、第一に利益をあげることである。利益こそはどの業種の企業にとって第一
の目的であり到達すべき目標である。しなしながら、企業においては自社の利益だけを目
的に業務を行うことは考えられなくなった。これは昨今問題になっている企業の不祥事を
例に挙げるまでもなく自明のことである。CSR、コンプライアンスなどがマスメディアを
賑わせる昨今では、社会の利益は直接的に自社の利益になることは経営戦略上から鑑みて
も正しいことである。
本論文で公共性と収益性の両立を方法論として提示するつもりであるが、環境 VC という
業種はその目的にとって最も直接的な業種になりうる。図 11 の外側の輪を見てもらえれば
わかる通り、環境企業育成とは即ち環境に対しての貢献であり、それらが実績となり資金
調達に結びつくことは、それを梃にすることでさらなる事業拡大を期待できる。
だが、このビジネスモデルを考える上で更なる論理的、収益的モデルの強化を考えなく
てはならない。環境に対する貢献と資金調達がイコールで結びつけられるようなシステム
こそが、VC にとっての必然性であるのだ。その中で、これから伸びるであろう二酸化炭素
排出権をファンド運用し、それを投資資金の原資とすることを考えた。次節から詳しく説
明するが、これこそが論理的にもビジネス戦術としても両立する基盤となるモデルである。
図 12
環境保全から資金調達へ
資金調達
企業育成
資金
C・F
Co2
実績
環境保全
26
4-2.カーボンファンド
2007 年現在、日本国内で二酸化炭素の排出枠を取引したければ、環境省の取引参加
者認可を受けて参加せねばならない。
参加の方法はふたつある。ひとつは目標保有参加者で、二つめは取引参加者である。
目標保有参加者とは、一定量の排出削減を約束する代わりに、省エネ設備等の整備に対
する補助金と排出枠の交付を受ける参加方法である。取引参加者とは、排出枠等の取引
を行うことを目的として、登録簿に口座を設け、取引を行う参加方法である。なお、取
引参加者に対しては、補助金及び排出枠の交付はなされない。これらは基本的に国が認
めた認可機関によって認可を受けなければならない。認可を受けたあとに、取引参加者
は取引によって排出権の売買を行える。2006 年の取引実績は 40 社で、そのなかの大半
は目的保有参加者であるが、この先市場を拡大して相対取引に加えオークション取引な
ども解禁され、また参加希望者の枠が通年になるなどの措置が取られることは EU など
の例をみればあきらかである。私が提案するカーボン・ファンドでは現状では海外のプ
ロジェクト(PJ)のクレジットを日本国内で運用することを目的としているが、今後取引
制度が緩和されれば、それを国内事業に拡大できるようになる。
27
また排出権関連業務には、(1)CO2 削減プロジェクトを発掘し、国連の承認を得るような開
発業務(2)プロジェクトをバイヤーに紹介し利益を得るブローカー業務(3)株などと同じよ
うに排出権を取引する排出権取引市場(4)CO2 削減プロジェクトあるいは実際に削減された
量が適格なものであるか否かを検査する認証・検証業務(5)さらには排出権を利用した金融
商品などがある。これらに省エネルギー産業なども加えると、その市場規模は、2015 年に
図 13
プロジェクト発掘から検証まで
は 7 兆 6,000 億円にもなると試算 11 されてい
る。
排出権関連業務は段階にごとに左の図のよう
排出権PJ 発掘・認可業務
V
C
な流れで行っていくが、本論文の VC では、
発掘から排出権ブローカー業務までを VC 本
体が行う。これは、環境 VC においてベンチャ
ー企業の発掘はすなわち排出権プロジェクトの
排出権ブローカー業務
発掘であり、ここで排出権の認可申請の際の検
証準備などを代行する。検証には二酸化炭素排出
の正確な量の算定が必要不可欠であり、関連書
取引市場業務
C
F
類の提出などが義務づけられるが、これを設
立当初から VC が指導し、準備と同時に操業
を行えばスムーズに検作業作業が行える。また、
取引市場業務と金融商品の開発はカーボンフ
金融商品業務
ァンドが行う。
4-3.利害関係者との関係
検証業務
図 16 はカーボンファンドとその周囲の資金の流れを模
式図にしたものである。まず、VC の株主である投資家は、
投資先企業が上場した時に株式を売却することで利益を得る。また、VC 本体にモラルハザ
ードがないかどうか監視する。前述したように、彼らは自らの権利を守るためだけではな
く、VC の投資先の為にも情報公開を強く要求するべきである。
次に、VC 本体は投資している VC 本体がコミットしているベンチャー企業を対象にファ
ンドを開発し、それを機関投資家向けに販売する。図 5 でみたように、未だ日本には機関
投資家といえば銀行が主であり、年金基金などが高いリスクの VB に投資する機会は少ない。
しかし今議論されている年金制度改革が実現されれば、そのような自由裁量による投資の
機会は増えるであろう。
重要なのはカーボンファンドである。カーボンファンドは VB から拠出された排出権を買
い取り、(会計上は買い取りだが、実際は VC のマネジメント料との相殺となる)それを別
11
西村幸弘「数兆円規模の排出権市場」三菱総合研究所
28
2007
のファンドとして売り出し、こちらは一般投資家から資金を集める。カーボンファンドは
集めた資金をプールしておき、現金や為替、先物などと組み合わせることで非常に低いリ
スクで運用をすることが可能となる。
図 14
VC を中心とした利害関係者の模式図
4-4.旧来の VC との違い
図 13 のように、旧来の VC は主に VB の上場益を期待して投資を実行し、維持費に
関してはコンサルティング料金として徴収していたが、本論の VC では二酸化炭素の排
出権を管理する代わりに、その見返りとしてファンドの収益金を VB 側へフィードバッ
クするものである。通常、VB は契約時に投資の見返りとして自社株を VC に提供する
ものであり、資金と引き替えに自社の経営権が薄まっていくものであるが、このような
システムにすれば、契約によってはファンド収益で維持費を賄うことが可能であり、そ
れ以上経営権が薄まることがなくなる。これは VB 側にとっても安心感に繋がる。
29
図 15
VC と VB の関係
VC
VB
ノウハウ
4-5.資金と情報のトライアングル
資金
カーボンファンドと VC と VC ファンドは、三角
人脈
形の関係で表すことができる。これは資金を最も
低リスクで長期のカーボンファンドに集め、その
ファンド収益
資金をリスクの高い VC ファンドに投資し、そこで
あげた利益をさらにベンチャー企業に投資すると
いう仕組みである。さらに、ベンチャー企業は事
業ででた排出権をカーボンファンドに拠出し、管
排出権
理と運営を任せることでカーボンファンドは利益
をあげる。またその際、ベンチャー企業は VC ファ
ンドから投資された資金の一部を排出権によって
相殺することができる。これによってベンチャー
上場益
企業が日常業務をする上でのインセンティブを期
待することが可能だ。拠出された排出権はカーボ
ンファンドで他の金融商品と組み合わされ、リス
クを分散して安定的な利益をあげることができる
と期待できる。
VC はそれら三者を株式で支配することで、影響力を保ちバランスの配分をする。ま
た、三者の運営に不備がないかどうか監視することも大事であり、基本的に三者には
VC 本体から執行役員を派遣することが前提になる。これらはそれぞれ個々で資金を集
めることができる自己完結の仕組みをそなえているが、それに加えて他のファンドと組
み合わせることによりさらに大きな資金を運用することができる。
これらの利点は、ワンストップ型にすることで円滑に資金と情報を流すことにあり、
未だに手続きが複雑な取引制度の認可期間中にも資金提供や業務が止まることなく進
み、上場までの時間を相乗効果によって短縮することにある。また、個々が独立した法
人であるためにそれ自体でも利益を出すことができる上、三者自体がリスクを分散する
役割をしている。そのため、以前まではリスクが大きかったベンチャー企業への投資が
比較的しやすくなることにその目的がある。
図 18 で表したように、この三者の資金の流れはカーボンファンドに始まり、そこで
得た資金を元にハイリスクなベンチャー企業に投資する。しかしその際は、VC 本体か
らのハンズオン投資があり、ベンチャー企業はその融資のうち、運営費を相殺する形で
排出権をカーボンファンドに拠出する。そして、中央にいる VC 本体は三者すべての財
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務情報を逐一チェックし、その運営に不備はないかを確認する。
図 16
VB、VC、CF の流れ
ベンチャー企業
株
投資
排出権
VC
株
監視・運営
VC ファンド
株
カーボンファンド
資金
高リスク
低リスク
4-6.カーボンマーケット
図 16 のように、カーボンファンドには排出権をカーボンマーケットで売買することで利
益を得ることが大前提である。現状では排出権市場は、環境省に認可された業者しか参加
できず、しかも相対取引でしか取引できない。だが、海外に目を向けると、EU やアメリカ
という巨大なマーケットがある。また 2007 年 10 月にはアメリカ 12 州が EU の市場と排出
権売買の統一基準を設けて売買の利便性をはかるという報道もあった。さらに NYSE でも
来年には専用取引所を開く計画があり、排出権に関わる金融派生商品はこれからの金融の
花形になることであろう。
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図 17
カーボン・ファンド模式図
4-7.カーボンファンドの商品開発
図 18
温室効果ガス排出権の価格は、一般
金融派生商品例
的に既存の化石燃料とは逆の値動きを
するような商品と組み合わせることで
リスクを管理する。
図 17 の表にあるのはほんの一例に過
ぎない。従来エネルギー株とは、例を
あげると日本の製油企業の株式と自動
車や船舶企業の株式、そして為替など
を組み合わせることによって、排出権
とポートフォリオを作成し、それらを
金融商品として売り出せば、図 2 で示
したおりに排出権価格は長期的には上
昇することはほぼ確実なので、短期の
リスクを現物で吸収することが可能なのである。
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むすび
経済学はその計量手法が進化するにつれ、ますます巨大かつ具体的な事象を取り扱う
ように進化してきた。そこに地球環境の変化が注目されるようになり、温室効果ガス取
引が考え出されるようになったのは不可避であった。そう考えると、温暖化という差し
迫った問題が浮き上がるにつれ、産業界に強いインセンティブを与えたのは我々にとっ
て逆に幸運だったのかもしれない。
環境とは、我々にとって、もっとも基本的かつ重要な資本である。あらゆる環境資源
をマネーによって効率的に配分可能になることは経済学のひとつの達成点であるが、現
状では、地球というあまりにも巨大な経済資本を正確に定量化するのは困難であるし、
それが効率的に配分されているとも思えない。温室効果ガスを取引する試みはまだ始ま
ったばかりだが、それも今後のシミュレーション技術の進化によってある程度の近似値
が求められるようになり、商品の範囲はさらに拡大するであろう。
本論文で提案した排出権を包括的に売買する環境 VC はひとつの出発点でしかない。
いずれ我々は、温室効果ガスだけでなくあらゆる資源を賞品として取り扱い、金融的な
手法によって売買するようになる需要が出てくるであろう。温室効果ガスの次は、水資
源についても考える必要が出てくるであろう。
これらは以前なら国家の役割であったが、商業が世界的な広がりを見せるようになる
と、これはもう国家の手に負えるものではなくなったというのが、本論文を書き出した
ひとつの動機である。ピーター・ドラッカーは、環境問題のような国家の手から漏れだ
した機能を補完するために、NGO や NPO にその役割を求めた。しかし私には人は自
分の働きに見合った利益なしに行動するとは思えなかった。
そこで、国家が最低限しか介入しなくなる場面を想定すると、その資本の流れを制御
する結節点が必要になってくる。それこそが本論文で述べた「環境 VC」である。これ
らはある時にはエンジン、ある時には制御棒となって、環境への保護と商業利益を最適
値に導いてくれると信じている。
これらは、環境技術の先進国である日本だからこそなし得ることである。現状では、
日本は技術は先行しているものの、金融事業に関して先を行っているとは言えない。だ
が、本論で述べたような問題点が解決したのなら、環境技術と金融理論の野心的な専門
家が育つ土壌は充分にある。
近い将来、日本が技術だけでなく、金融事業でも大いに発展し、二つが融合した環境
VC によって、世界に収益性と公共性の模範を見せることが可能だと私は信じている。
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参考文献
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2005
・門脇徹雄「投資ファンドと VC に騙されるな」半蔵門出版
2003
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済課長
2007
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Capital」The Journal of Finance, Vol. 50, No. 5 (Dec., 1995), pp.
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・財団法人ベンチャーエンタープライズセンター「平成 18 年度 VC 等投資動向調査報
告/ファンド・ベンチマーク調査報告」
・長谷川博和「VC における投資収益率の現状と今後の課題―日本のパフォーマンスを向上
させるために―」産業経済ジャーナル 2007
・ピーター・F・ドラッカー「ポスト資本主義社会」ダイヤモンド社 1993
・ 船岡健太「VC の段階的投資に関する実証分析」総務省 自治行政局 地域情報政策
室
2001
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1996
・ニコラス・スターン「気候変動の経済学」
(スターンレビュー)英国立環境研究所 2006
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http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=2&CLASSNAME=Pcm1
080&btnDownload=ye&hdnSeqno=0000003762
・ 西村幸弘「数兆円規模の排出権市場」三菱総合研究所
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・ EarthPolicyInstitute
http://www.earth-policy.org/Updates/2007/Update63_data2.htm
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http://www.ghg.jp/er/pdf/er200306.pdf
・ NEDO エネルギー対策推進部「日本における風力発電設備・導入実績」2007
http://www.nedo.go.jp/enetai/other/fuuryoku/dounyuu_ichiran.pdf
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要約
この論文は、二本の柱から成っている。一本目は環境ビジネスで、二本目が Venture
Capital(以下、VC)である。そして二本の柱を支えるのは「収益性と公共性の両立」とい
う考えである。
第二章では、環境ビジネスの諸般の問題を取り上げる。経済的な観点からリサイクル、
CO2排出権、エコ発電の問題点を挙げる。
第三章では、日本の VC の問題点について検証する。モデルとなるのは、アメリカの VC
だ。そこでは独立性と公共性に基づいた専門的な VC 企業がこれからの日本で、いかに必要
であるかを論証する。
第四章においては、それまで検証し論証した問題の解決案をひとつに結びつける。21 世
紀の環境ビジネスにおいて、正しく機能した VC の大きな社会的意義を論証する。また、環
境問題をビジネスにする上での経済的合理性が、地球環境に対して大きな影響を与るかを
述べる。さらに、「収益性と公共性の両立」という問題に立ち返り、環境 VC の未来像につ
いて述べる。
Summary
This thesis consists of two pillars. The first is Environmental Business(EB) and the
second is Venture Capital(VC). Consistency of private nature and public nature is
emphasized.
The first chapter takes up several issues of EB. Specifically, recycling, CO2 emission
and ecological generation of electricity are reviewed from the economic viewpoint.
The second chapter analyzes the problems of Japanese VC. A good example is
American VC enterprises where philosophy of independency and public nature has been
established. I point out the important needs of this philosophy to the Japanese
professional VCs.
The third chapter proposes a solution which combines the issues and problems
analyzed below. I present social significances of EB in the 21st century, which is expected
to function properly. In addition, I describe the big effects of economic rationality on
earth environment from the EB business stand point.
Finally, I come back to the original theme of consistency of private nature and public
nature, and describe the future vision of Environment Venture Capital.
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