SRI の新たな展開 ―マテリアリティと透明性

〜経営戦略情報〜
2005 年 9 月 29 日
全 17 頁
SRI の新たな展開
―マテリアリティと透明性―
経営戦略研究部
河口真理子
SRI(社会的責任投資)が世界的に広がる中で、SRI 事業者に対して調査の質向上と組織
としての透明性を求める声が広がってきた。
本稿では欧米及び日本の SRI 調査機関の現状を報告し、また SRI 拡大のために求められ
る課題―CSR 活動の企業価値に与える影響(マテリアリティ)および組織の透明性―
ついて概観する。
1.はじめに
世界的に SRI(Socially Responsible Investment, SRI)への関心が広がってきている。SRI は
80 年程度の長い歴史があるというものの、つい最近までキリスト教の教会関係者、労働組合、社会
運動家など、限られた投資家が倫理や社会的正義を目的に行うニッチな投資手法、とみなされてきた。
このニッチな SRI が社会一般に広がり始めてからはまだ 10 年程度にすぎない。SRI 調査を手がける
機関は、おおむね SRI の理念に共鳴した NGO など非営利組織などが母体となった組織で、いまだに小
規模な機関が多く、やっとビジネスとしての体裁を整えられるようになりつつある、という状況であ
る。しかしながら最近では大手の運用機関が SRI に参入するケースが増えており、企業もIR戦略の
なかで SRI を意識せざるを得なくなってきた。こうした中で企業や機関投資家などから SRI の品質向
上に対する要求が強まってきている。本稿では、SRI に対する期待が高まる中で SRI 業界が一段と成
長するために求められる課題について概観する。
最初に過去 10 年の間でおきたSRI を取り巻く状況変化について整理しておく。
① 環境問題、南北問題などの深刻化、世界規模で相次ぐ企業不祥事などからCSRに対する社
会の関心が高まっている。
② 英国の年金法改革などにみられるように、欧州を中心に SRI 促進のための法規制の整備がす
すんでいる。
③ 米国の確定拠出年金制度によって SRI が個人投資家に身近な投資手法となった。
④ 米国の場合は、投信の不祥事などから、確かな投資とされる SRI に関心が集まってきている。
⑤ SRI 運用はおおむね良好なパフォーマンスを示している。
⑥ さまざまな SRI インデックスが相次いで作成されたため、運用サイドとして SRI 運用のベン
このレポートは、投資の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を意図するものではありません。投資の決定はご自身の判断と責任でなさ
れますようお願い申し上げます。記載された意見や予測等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更され
ることがあります。内容に関する一切の権利は大和総研にあります。事前の了承なく複製または転送等を行わないようお願いします。
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チマークができ、さらにインデックスファンドを組成しやすくなるなど、SRI 運用がしやす
い土壌がでてきた。
⑦ 多くの SRI 調査機関が生まれて、運用側も幅広い SRI 情報を入手できるようになってきた。
以上のような要因によって SRI の認知度が高まる中で、SRI 調査機関にも市民運動的な運営から
脱却し、運用機関のビジネスパートナーとなりうる、しっかりした組織に脱皮すること求められるよ
うになってきた。
投資家からは、「SRI 調査が企業価値あるいは投資にどのようなインパクトがあるのか、株価に
どのような影響があるのか、また影響があるとすれば、多数ある SRI 要素のうちどれがどの程度イン
パクトを与えるのかについて知りたい」という声が増えている。
一方、企業側からは、「大量の SRI 調査機関のアンケートや問い合わせに協力してきたが、その
結果は実際には誰が、どこでどのように評価しているのか良く分からない、そしてそのアンケートを
元に SRI 評価が行われたことが企業にどのように影響するの不明である」という不満の声があがって
いる。こうした中で、企業に透明性を求めている SRI 事業者自身の透明性と説明責任が問われるよう
になってきた。本稿では SRI 事業者のおかれている現状と上記のような課題、および課題解決に向け
た取り組みについて報告する。
なお SRI に関するいくつかの定義や考え方を最初に明確にしておく。SRI 事業者とは、SRI 運用
を行う SRI 運用機関と SRI 調査を行う SRI 調査機関両方をさす。また、SRI 運用機関と対比して、通
常の伝統的な運用手法で運用する運用機関を mainstream investor(主流投資家)とする。
図表1) SRI運用の手順
財務評価
SRI評価
投資ユニバース
株価、タイミング、
ポートフォリオの
バランスから投資判断
投資対象銘柄
SRI 運用は図表1で示したように、通常の投資プロセス(財務分析で投資ユニバースを定め、そ
の中から、株価などを見て投資する方法)に、SRI 調査が加わったものである。一般的に SRI 評価は
通常投資ユニバースを決定する段階で財務情報とあわせて使われる。SRI 運用機関は、SRI 調査も自
社で行う(インハウス)機関と、SRI 調査機関に調査を委託あるいは、SRI 調査機関から調査データ
を購入するケースに大別される。またインハウス調査の運用機関も、参考情報として外部調査機関の
データを購入する場合も多い。SRI 事業者全体の透明性を高めるためには、調査機関と運用機関それ
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ぞれの透明性を高める取り組みが必要となる。
2.SRI 拡大にむけた課題
1) SRI 事業者と主流投資家と企業との間の SRI に関する認識ギャップ
SRI は市民権を得つつあるといいながらも、主流投資家や企業に完全に受け入れられてい
るとは言いがたい。SRI 事業者、主流投資家、企業の3者の間には、まだ認識や言語のギャ
ップが存在している。欧州での SRI を取り巻く現状を、2003 年 6 月に発行されたレポート
Speaking
The Same Language
の内容に沿ってみてみよう。このレポートは、企業や
SRI 関連機関あわせて 37 機関に SRI についてのインタビューを行い、7つの観点から SRI
が抱える問題点・課題を明らかにしたものである。英国の CSR 団体
Business in the
Community 1と英国の SRI 団体、UKSIF との対話を中心に、Arthur D Little が執筆してい
る。
2) 会社vsSRI 運用機関とのコミュニケーション強化の必要性
企業側も SRI 運用機関も、CSR が事業活動・企業価値について与える影響に関する議論を
深めたいと考えている。それが進めば主流の投資家も SRI 運用に関心をもつようになること
が期待される。そのためには SRI 運用機関、企業の CSR 担当者がお互いにコミュニケーショ
ンを図り、「CSR が企業の事業にもたらす価値とは何か、それをどう評価するのか」、とい
う点について研究を進める必要がある。
3) マテリアリティの研究
SRI を議論する上で、欧米では Materiality(マテリアリティ)という新しい概念を中心
に議論する流れができている。Material には「物質、具体的、実質的」という意味がある。
これに基づいてマテリアリティを定義すると、「個々の CSR の活動が企業価値に与える実質
的あるいは具体的な影響の度合い」となる。主流投資家の間からは、「異なる CSR 活動のそ
れぞれのマテリアリティを知りたい」、さらに「業界固有のマテリアリティを明らかにして
欲しい」というニーズが高まっている。参考までに同レポートに掲載されているマテリアリ
ティの事例を図表2に示した。
すでに SRI アナリストはそれぞれの業種や個別企業のマテリアリティを解明する努力を
している。しかし、自社のマテリアリティについて一番把握しているあるいは把握可能なの
は企業自身である。SRI アナリストの調査分析を待つだけでなく、企業が自社の CSR 活動情
報を開示するのであれば、そのマテリアリティについても積極的に情報発信する必要があろ
1BITC(Business in the Community)は、1982年に英国の主要企業によって設立された、企業の社会貢献(CSR)推進機構である。 400名以上の常勤
職員を持ち、メンバー企業と協働して様々な活動をしている、この種のものとしては、世界最大の組織である。英国の主要企業750社以上(FT インデックス
採用100社中75%)が現在メンバーとなっている。www.bitc.org.uk
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う。
図表2)企業価値に影響を及ぼすCSR要因の例
業種
従来のCSR要因
石油・ガス
石油の流出リスク、生産時のCO2排出
加工食品
食品の安全性、ブランドとレピュテーションリスク
薬品
自動車
生物の安全性、動物実験禁止
安全性と経済性の兼ね合い。運転時のCo2排出量
これからのCSR要因
上流における社会ー経済的影響(産油国政府との関係、歳入
の配分、キャパシティビルデイング)。製品の炭素密度。
機能性食品のラベル化と規制、栄養価の低い低所得層の食事
への責任(食育)。
国の医療健康政策における役割。特許権。コンパウンドの環境
影響。
モビリテイとその社会経済的影響。低燃費技術に対する規制。
出所)Arthur D Little, Business in the Community, UKSIF 'Speaking the same language' June 2003 より大和総研仮訳
なお、同報告書では、企業が自社のマテリアリティを解明する方法として以下の手順を示し
ている。
① 対象企業の企業戦略を見直す。全社的なビジネスモデルとそれの強みと付加価値の源泉、
組織としてのコアコンピテンスなどの点を把握する。
② CSR 活動が市場での競争にどのようにプラスに活用されているか、という問題意識が必要。
こうした観点を会社の事業戦略に組み込むことにより、事業リスク CSR リスクを低減さ
せることができる。
③ サプライチェーンの長さを調べる。当然ながらサプライチェーンが長いほどリスクは高
まる。
④ それぞれの事業分野におけるリスクを統合してみる。異なる部門間でのリスクをうまく
統合できないと会社全体としてのリスクが低く見積もられてしまう懸念が残る。
⑤ 特定のステークホルダーグループが業績など株主価値に影響を及ぼすことのできる力の
程度を把握する。
⑥ 労働組合の役割を明確にし、労働組合が業種固有の CSR にどのように取り組んでいるの
か現状を理解する。
⑦ CSR を経営課題としての評価対象に組み込む。そしてその成果に対してなんらかの見返り
を作る。
⑧ 内部管理会計において外部不経済を認識する。
⑨ コーポレートガバナンスに対する取り組み状況を把握する。
以上の観点から、自社の置かれている状況を再確認することで、自社の行っている CSR
活動が事業において、あるいは従業員や顧客との関係などにおいて、どのようなインパクト
を持つのかという点が明らかとなる。そして、その結果それぞれの CSR 活動が企業価値に与
える影響、マテリアリティが把握しやすくなると期待される。
4) 株主行動
FTSE4Good や DJSGI など、投資家に影響力のある SRI 指数が増え、SRI 運用のベンチマー
クとして活用されるうになってきた。またこうした指数を使うインデックスファンドなどの
SRI 金融商品も増加している。したがって、SRI 業界の中で SRI 指数、すなわち SRI スクリ
ーニングで構成銘柄を選別するSRI型の株式指数の影響力が強くなる傾向がある。これは
SRI を広める効果があるが、一方でこれらの SRI 指数の影響力が大きくなることに対する懸
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念もある。指数を作成する SRI 調査機関はアンケートやメデイア報道などの情報を元に企業
の CSR を評価して指数に組み入れているが、こうした表面的な調査では企業の内部に踏み込
んだ実質的な CSR 問題の分析評価が行われていないという批判である。また指数の場合組み
入れ銘柄は大手優良企業のみが対象で、中小企業が排除されてしまうという批判もある。
こうした問題点を解決し、企業の実態に基づく調査をするためには、個別企業との直接対
話によって CSR の情報を得ることが必要となる。しかしこの方法の場合、人的・時間的制約
から、おのずと対象企業は大手優良企業中心となり、中小企業が調査対象から漏れてしまう
という可能性が大きい。しかし、実際には中小企業のなかには CSR で優れた取り組みをして
いる企業が存在する。
より社会の実態に即した SRI 調査をするためには、SRI 調査機関は多くの企業との直接対
話を進めるべきであるし、何らかの方法で、優れた取り組みをしている中小企業を評価耐省
とする仕組みを工夫することが必要となる。
また、中小企業は必ずしも最初から投資対象から完全に除外されているわけではないので、
自社の CSR の取り組みに自信のある中小企業は SRI 事業者に対して直接に自社の CSR 戦略や
そのマテリアリティについて情報発信していく必要があろう。
ちなみに、日本のエコファンドや SRI ファンドでは、組み入れ銘柄は大手優良銘柄中心と
なっているが、ファンドのなかには、独自性を出すために優れた取り組みをしている中小企
業を発掘して積極的に組み入れる傾向も見られるようになった。
5) 情報の標準化に関する考え方
現在企業が発信するCSR情報は、企業独自のデータやフォーマットに基づいて発信され
ている。これが財務情報のように標準化されたフォーマットで情報提供されるようになれば、
SRI に関する投資家と企業間のコミュニケーションのレベルが向上するものと期待される。
しかし、現在話題になる CSR のテーマは多岐に渡っているために、フォーマットを標準化で
きる状況にない。一方で、投資家の理解を得る為には、何らかの形での情報の標準化は必要
であるというジレンマがある2。
6) SRI 事業者の「企業の透明性」に関する考え方
SRI 事業者は、企業がマテリアリティに関する情報をより積極的に開示すべきであると考
えている。しかし企業側にはあまり積極的に開示したがらない傾向が見られる。それは、企
業が一旦情報を開示し始めると、その妥当性正確性をより厳密に評価されることになること
を恐れているためと推測される。また企業側は、良好なパフォーマンス情報は開示しても不
満足なパフォーマンス情報を積極的に出したがらないので、良好なパフォーマンス情報しか
出てこないということになりがちである。
2 こうした面では、企業の持続可能性情報(経済的・環境的・社会的な持続可能性の観点からの企業情報)に関する世界的ガイドラインであるGRIガイ
ドラインの活用が期待される。現在世界で707社(うち日本企業 124 社)が同ガイドラインを参考に CSR 報告書を作成している。www.globalreporting.org.
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一方企業のほうも「SRI 事業者は自身の透明性を高めるべきである」と主張している。
「SRI 投資家とは誰を代表しているのか」、「なぜこのような質問をしてくるのか」、「企
業側の回答はどのように評価され使われているのか」というような点に多くの企業は疑問を
感じている。こうした傾向は日本でも同様に見受けられる。
7) SRI 事業者と主流投資家
SRI 投資家に限らず、主流投資家の間でも、ブランド価値など企業の経営の質を評価する
ことに関心が高まってきている。しかし、企業のIR担当者の実感として主流投資家むけの
アナリストミーティングの席上で CSR が議論のテーマになることはほとんどないという状
況がある。ただし、こういう席上で CSR を議論しない主流投資家でも、後日電話を通じて
CSR の取り組みに関する質問が来ることもあり、企業は主流投資家も CSR にまったく関心が
ないわけではないという感触を持っている。すでに一部の主流投資家には、SRI 事業者が有
効な CSR の企業評価モデルを提示してくれれば使いたいというスタンスがでてきている。た
だし、現在流通している CSR 情報だけをもとに SRI 評価を加えても、それが既存の分析手法
にどれだけ付加価値を与えるのかはっきりしないので、SRI 的手法をとりいれたくても実施
できないという投資家が少なくないのが現状である。
8)
重点課題
以上の指摘は以下の 2 点にまとめることができよう
①
企業が発信する CSR 情報の質と量の向上、特にマテリアリティに関する CSR 情報を
増やすこと。あわて SRI 調査機関の調査能力をレベルアップして、SRI 調査の質を
向上させること。
②
②SRI 事業者の組織としての透明性、および企業や主流投資家とのコミュニケーシ
ョンの改善、の 2 点と考えられる。次章以降では、この 2 点について欧米の議論や
日本での取り組み状況をみてみよう。
3.
マテリアリティに関する議論について
1)
Values for Money -SRI 評価機関の品質評価の評価ポイント
過去 10 年ほどの市場の急拡大にあわせてニーズが急増している SRI 調査は、現在、量的
拡大から質的向上に移行する踊り場に来ている。そして、SRI 事業者の間では体制整備(品
質の向上、組織としての透明性の確保など)が一層の発展の為には不可欠であるという認識
が広がってきている。一例をあげると、英国の CSR コンサルテイング会社 SustainAbility
社とスウェーデンの財団 Mistra が共同で 2003 年夏から秋にかけて SRI 調査機関の品質評価
を行っている。2004 年に発表されたその報告書
Values for Money から評価の概要をみ
てみよう。
この調査では、欧米の主要 15 機関を対象に、詳細な面談調査を行い、ベストプラクティ
ス調査機関を選出している。調査対象となった 15 機関は、以下のとおり。Center Infro (ス
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イス)、CoreRatings (英)、Covalence (スイス)、 Demiar
Ratings (仏)、DSR(蘭)、EIRIS(英)、
Ethibel/Stockat Stake(ベルギー)、Oekom (独)、SAM Research (スイス)、SERM (英)、
Vigeo(仏)、Innovest(米)、IRRC(米)、KLD(米)、Jantzi(加)
図表3)
Values for Money におけるSRI調査機関評価の視点
ベストプラクティス機関
1リサーチ手法の妥当
CoreRatings, Innovest, SAM Research
性
2使用する情報源の質 Innovest, IRRC, SAM Research
3調査のプロセスと管
Cetre Info, Oekom, SAM Research
理体制
該当なし。調査チームは6人から40人と幅が広
4 リサーチチームの評 く、アナリストの専門分野経験年数も多岐にわ
価
たっている
5
囲
調査対象会社の範
該当なし
6
組織の透明性とガ
Ethibel、SAM Research, Vigeo
バナンス
7
企業の評価
該当なし。調査チームは6人から40人と幅が広
く、アナリストの専門分野経験年数も多岐にわ
たっている
改善のための提案
企業価値に影響を与えるCSR項目を判別する調査手法を確
立し、それがどの程度の潜在的影響があるかを予測する。
業種固有の問題を評価するクライテリアと手法を確立する。
調査手法の定期的見直しを行う。
企業の財務や経営計画など、より広範なデータを活用し、持
続可能性の課題と結びつける努力をする。企業からのデータ
収集の方法を改善する。
第三者による検証の導入について検討する。
組織が謳う調査を可能とする調査チームの能力かをしっかり
調べるべき。調査チームに財務アナリスト、ビジネスアナリス
トを増やす。
調査対象を中小型株へひろげ、対象国も増やすべき。組織
的なモニタリング制度を導入すべき、ユーザーフレンドリーな
調査レポートにする。
ガバナンスと株主構成の透明性を増やすべき。潜在的な利
益相反についての対応策について情報提供する。
企業も、自分の企業価値に影響のあるCSR項目を判別する
調査手法を確立し、それが質的量的に企業価値に与える影
響を予測する。 SRI調査機関と積極的に対話する。内部の
情報収集ネットワークを確立する。
出所) Sustainability 社'Values for Money' 2004 より大和総研仮訳
図表3に、この調査における評価項目を示したが、同報告書ではこの調査の結果として、以
下にあげた SRI 調査機関の問題点を指摘している。
・ マテリアリティについての分析をしている調査機関は 3 機関のみと少ない。
・ SRI の調査手法がまだ未熟で、業種特性にあった調査手法が確立されていない。
・ 多くの場合、調査データは企業から(自己申告で)入手したものに頼っており、これ
らのデータは検証されていないので、調査結果の正確性に疑問が残る。
・ 調査プロセスで第三者検証をうけているのは 1 機関のみで、調査機関の透明性に問
題が残る。
・ 調査に従事するアナリストは、概して社会・環境の知識や経験が豊富だが、財務や
経済についての知識に欠けている。
・ 多くの調査サービスが提供されているが、調査の対象企業は欧米の大手企業に限ら
れる場合が多い。
こうした問題を解決する方策として、SRI 調査機関に対して以下を提案している。
・ マテリアリティに関する調査に注力すべきである。
・ 評価プロセスにおいて、より広い範囲から財務データやその他の事業データを活用
するべきである。
・ こうした調査の結果は、第三者検証を受け、正確性、客観性を担保すべきである。
・ 財務経験のあるアナリストを調査チームにいれ、通常のビジネスの方法を理解し、
CSR 情報と財務分析との整合性を図るようにする。
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以上の方策は、投資家が重要と考える CST のマテリアリティを分析し、企業価値への影響
の大きい CSR 活動に焦点をあてた SRI 調査を提供できる SRI 調査機関が優れた調査機関であ
る、という前提に基づいている。こうした情報が資本市場に広がれば、投資家としては、少
なくとも企業価値に影響のある CSR 項目を投資判断材料に含めざるを得なくなるので、自然
に SRI 的な要素が主流の投資行動に包含されるようになり、SRI の実質的な拡大には極めて
有効な方法となる。
2) 誰にとってのマテリアリティか
一方でマテリアリティの調査分析には落とし穴がある。SRI 調査の対象が、投資家の興味
を持つ CSR 活動、あるいは、企業価値への影響を計測できる CSR 活動に限定されてしまうリ
スクである。こうした観点から、この調査の対象調査機関ともなった米国 KLD の共同経営者
P.D Kinder がこの調査手法について反論している。その論文
Values and Money での彼
の主要な批判は以下の通りである。
・ そもそも、SRI 発祥の地米国3では、株価との相関関係がないアパルトヘイトとか環
境などの CSR 要素を投資判断に組み入れてきた。例えば反アパルトヘイト運動の場
合、南アで操業している企業を投資対象からはずす、という投資行動がとられたが、
この場合業績や株価動向から判断して投資対象からはずしたわけではないので、パ
フォーマンス上マイナスに作用する場合もあった。しかし、その行為自体(例えば
米国企業がアパルトヘイトに反対して南アから撤退するという行為自体)に社会的
な価値を見出すステークホルダーは確実に存在し、こうしたステークホルダーのた
めに SRI は存在してきたのである。
・ マテリアリティを、「株価に影響する CSR 要因」と限定すると、株主というステー
クホルダーの要請には応えるかもしれないが、CSR活動に別の観点から社会的意
義を見出すステークホルダーの要請に応えられるとは限らない。
・ マテリアリティを「株価に影響する CSR 要因」とすると、企業の社会的側面がすべ
て経済的要素に還元可能であるということになる。言い換えると、このことは、企
業の社会的、環境的な側面が究極的に経済価値に置き換えることができることを前
提としている。これは、SRI を行う大原則であるトリプルボトムライン(企業が達
成すべき収支<ボトムライン>は、経済上の収支だけでなく、環境、社会の収支の
3 収支を黒字にしなければならないという考え方)に反する。
・ 「CSR 要因が企業価値に影響を与えることが立証できなければ SRI 調査には意味が
ない」、という考え方が広がる可能性がある。SRI 調査には、企業の CSR 活動その
ものを評価する、という意味や意義もあるのである。
以上の指摘は、「株主に関心のあるマテリアリティのみに関心が集まることは SRI の本来
の意義に照らしても危険だ」とまとめることができよう。このことを具体例で考えてみよう。
3 Values for Money での評価を行った SustainAbility 社は英国、Mistra はスウェーデンの機関である。
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温暖化防止のための省エネ活動と、企業が障害者を積極的に雇用するという2つの CSR 活動
を考えてみる。省エネ活動は、温室効果ガスの排出量削減という社会的効果だけでなく、企
業にもエネルギーコスト削減などの財務上のメリットをもたらすので、そのマテリアリティ
は大きくかつ計測も可能である。一方後者の場合はどうだろうか。障害者の雇用が増えるこ
とは、障害者自身にとっても社会にとっても価値のあることである。しかし、障害者雇用数
の増加が、企業の株価や企業価値にどのくらい影響を及ぼすのかということは現段階では不
明である。よって、障害者雇用のマテリアリティは計測できない。障害者雇用の実態が企業
価値に何ら影響を与えなければ、SRI の評価項目とする意味がないことになる。そうなると、
障害者雇用を評価する投資家がいなくなり、企業が障害者雇用に消極的になる可能性が高ま
る。
つまり、SRI 調査でマテリアリティに注目しすぎると、社会的な価値が認められる CSR 活
動のうち省エネ活動などマテリアリティのある活動は積極的に行われるが、障害者雇用のよ
うにマテリアリティのない CSR 活動は行われなくなるリスクが高くなるのである。しかし、
障害者雇用のような CSR 活動が行われるようになった背景は投資家のニーズとは関係ない
社会のニーズがあったからこそである。SRI 調査機関が SRI を「社会的な課題を解決する重
要なツールである」、と明確に位置づけるのであれば、投資家にとってのマテリアリティは
ない CSR 活動を SRI の調査項目から切り捨てることには問題がある
以上まとめると、SRI 調査機関にとって、主流の投資家の関心を集める手段としてマテリ
アリティについての調査研究を進めることは必要だが、投資家にとりマテリアリティは小さ
くても社会的意義の高い CSR 活動についてもその他のステークホルダーのニーズに応える
為にも調査を継続する必要もあるのである。なお次章で述べるが、欧米の SRI 調査機関は、
SRI 投資家にとどまらずNGOや事業会社なども顧客として SRI 情報を提供しており、投資
家の関心のある CSR 情報に特化してしまう懸念は今のところ大きくないと思われる。
4.SRI 調査機関の現状と評価
1) 欧米の SRI 調査機関の現状
SRI が広がる中で、「SRI の定義が分かりづらい」、「どのような組織が SRI 調査を行っ
ているのか良く分からない」などの批判も増えてきた。こうした批判に対して SRI 調査機関
側が自らの業界の透明性を高める取り組みを始めている。その一つは、欧米主要 SRI 事業者
からなるCSRRグループ4による調査である、彼らは、2003 年1月に欧米主要 19 機関を
対象に調査機関の実態調査を行い、15 機関から得た回答をもとに報告書5をまとめた。その
概要は以下の通りである。ちなみに、今回の調査の対象となった調査機関は Avanzi(伊)、
Caring Company( ス ウ ェ ー デ ン ) 、 Centre Infro( 仏 ) 、 CoreRatings ( 英 ) 、 DSR( 蘭 ) 、
4 メンバーは、Avanzi(伊),Centre Info(スイス)., CFIE(仏), DSR(蘭) Ecodes(伊), EIRIS(英), Ethibel(ベルギー), Ethifinance(仏), GES(スウェ
ーデン)IMUG(独), OEKOM(独), PIRC(英), Scoris(独), SERM(英), SiRi Group(スイス), Stock at Stake(ベルギー)の各調査機関。今回の調査
を行ったのは、IMUG、EIRIS,Ethibel, Siri Group の四機関。
5 CSRR’ Developing a Voluntary Quality Standard for Corporate Sustainability and Responsibility Research’ April 2003.
(10/17)
E‑Capital(伊)、EIRIS(英)、Ethibel/Stock at Stake(ベルギー)、ECODES(スペイン)、FEF(ス
ペイン)、IMUG(独)、Innovest (英)、ODE(仏)、Oekom(独)、Oxford(デンマーク)、PIRC(英)、
Scoris(独)、SERM(仏)、Vigeo(仏)の 19 機関である。 (下線は第 2 章で触れた Values for Money
の評価対象機関)
<SRI 調査機関の組織としての特徴>
・ 多くの調査機関(15 機関中 12 機関)は、株式会社など営利組織形態をとっている
が、それらはもともと NGO や基金など非営利組織からスタートしている。
残りは、
現在でも非営利組織形態である。
・ 調査機関が SRI 調査を行う目的としてあげているのは、SRI 投資を行う顧客のニ
ーズに応えること(13 機関)、企業の CSR 活動をサポートすること(10)、ステ
ークホルダーに対して企業の CSR 対策を理解させるツールを提供すること(7)
などとなっている。
<調査体制の特徴>
・ 調査人員についてみると、7 人以上の CSR アナリストを擁しているのは 8 機関、
4‑6 人が 2 機関、2‑3 人が 4 機関である。一方調査対象企業数は 41 から 2700 と
幅が広い。
・ 調査アナリストの専門知識については、6 機関で環境の学位か経験のあるものを
あげている。12 機関では、経済、経営の知識や学位を要件としている。アナリス
トの前職は、労働組合、NGO 企業、MBA 取得者、行政出身者と幅広い。
・ 組織独自の倫理規範を持つのは9機関である。これらは利益相反とインサイダー、
守秘義務についての倫理的規範が中心である。
<調査手法・評価の考え方>
・ 現在行っている調査手法の決め方であるが、顧客の要望に従った(14 機関)、内
部での研究結果に基づいている(13 機関)、ステークホルダーとのダイアログで
決定した(13 機関)、CSR の専門家の意見による(12 機関)、外部専門家による
アドバイザリー会議での決定による(10 機関)、既にある評価基準などを援用す
る(10 機関)などとなっている。こうした決定の方法のうち最も重要視されてい
るのが、調査機関内部での独自の研究成果であり、8機関がこれを一番重視して
調査手法を確立しているとしている。
・ ステークホルダーの関与の度合いを見ると、13 の調査機関では何らかのアドバイ
ザリー委員会を設置している。重視しているステークホルダーグループは、労働
組合とNGO、続いて消費者団体、行政関係者、学者・研究者などである。
・ 具体的な評価項目についてみると、10 機関では単一のクライテリアに基づいて企
業を評価している。そして評価の方法としては、そのクライテリアにおけるベス
トインクラス(各業種のなかで最も優れているものを選ぶ)方式を使っている。
(11/17)
調査機関が使用する主要なクライテリアには、ガバナンス、経済的な影響、環境
マネジメント、環境パフォーマンス、労働の実態、人権、社会問題、排除クライ
テリア、などがあげられる。
・ 全ての調査機関は、「調査方法として企業に送付するアンケートが有効である」
としている。うち6機関は、CSRのテーマが企業の財務面に与えるリスクやチ
ャンス(マテリアリティ)についての評価も試みている。また7機関は、自機関
の調査結果が他の機関でも使用されているとしている。
・ 全ての調査機関では明文化された調査プロセスを持っている。しかし、それを公
開しているのは6機関(うち3機関はウェブ上で公開)にとどまる。8機関は、
顧客のみに開示している。
・ 評価に使う企業情報として、全ての機関が会社からの文書(報告書など)および
ウェブ情報を使用している。さらに13の機関では、独自のアンケートを実施(6
機関が毎年、2機関は2年に一度)している。
・ さらに 13 の機関では電話取材を行い、11 機関は会社訪問を行う。そのうち4機
関は毎年会社訪問を行っている。また 12 機関は専門家からのアドバイスを受け
ている。
・ 10 機関は、行政のデータも使用している。具体的には環境規制当局の環境汚染デ
ータ、反トラストを調査する当局のデータ、消費者保護関係の虚偽広告情報など
である。
<アウトプットについて>
・ 品質管理対策として、ほとんどの調査機関では会社から得た情報はNGOなどス
テークホルダーからの情報とすり合わせ、情報と評価の正確性の確認を行ってい
る。またアナリストの作成した評価結果は、上司や同僚がチェックする体制がと
られている。また 13 の機関では企業とのコンタクト状況が文書化されている。
さらに企業の評価プロファイルの 76‑100%を毎年見直す機関は 13 ある。
・ 8 機関では調査結果の第三者評価を受けている。うち 6 機関では、科学者やアド
バイザーグループによるチェック、さらに、ステークホルダーや顧客がチェック
する機関も1つある。また 6 機関では第三者チェックをうけていないが、その必
要がないこと、また調査の独立性をその理由にあげている。
・ 調査のアウトプットについては、企業の評価プロファイルは全ての機関が販売し
ている。11 機関では、クライテリアに合格した企業のリストを販売し、同じく
11 機関が企業の格付けを販売している。業種のプロファイルや産業レポートを 9
機関が販売し、データベースを提供する機関も 9 つある。
・ 評価される企業に対しては、全ての調査機関が、当該会社の評価結果をフィード
バックしている。
以上のような実態が明らかになったが、調査機関自身の透明性についての取り組みをみる
(12/17)
と、調査手法を公開する機関が6機関、倫理綱領を持つ機関が9機関にとどまっている。
「SRI 調査機関は企業に対して透明性や誠実さを求める一方で、自分たちの透明性への取り
組みは遅れている」との観はいなめない。そうした危機感から、報告書をまとめたCSR
Rグループでは、調査機関の品質向上を目指して、品質ガイドライン(CSRR‑Q)を 2003 年
11 月に策定している。
2) 欧米主要 SRI 調査機関の実態
次に個別の調査機関の状況についてみてみよう。個々の調査機関の実態については、地
球産業文化研究所編『平成16年度持続的な社会経済システムと企業の社会的責任研究員会
報告』の『第四部
欧米評価機関による企業の社会性評価プロセス調査』(鈴木賢志編著)
において、欧米主要7機関6に対して聞き取り調査を基にした詳細な報告が行われている。
同調査では、①企業情報の収集方法、②評価方針、③評価プロセス、④分析結果、⑤評価
機関の独自性独立性、⑥非欧米企業の評価、⑦SRI評価の将来像の7分野において聞き取
り調査を行っている。対象調査機関とその概要は図表 4 に示した通りである。
まずこうした調査機関が誰のために調査を行っているかというと、主要な顧客は年金基金、
SRI 指数や NGO などがあげあれる。調査対象企業の選定に方法であるが、一部の機関は「ク
ライアントからの要請によって決まる」としているが、株式指数採用銘柄をベースにするな
ど主に大企業を対象としている調査機関が多い。
調査機関の情報収集の手段として定期的なアンケートを実施しているのは、EIRIS、
Ethibel, SAM の 3 機関で、CoreRatings の場合は全く行っていない。Innovest はクライア
ントの要望に応じて例外的に行うとしている。Oekom と Vigeo も必要性があればアンケート
ではなく、関連の資料の送付を依頼する形をとっている。一方で全ての機関は、第三者(NGO
行政、メディア、他の調査機関情報)の情報を活用している。アンケートを行わない
CoreRatings では判断材料の全ては第三者情報を元にしている。なおこうした第三者情報が
企業の発信する情報と食い違う場合は、企業側に反証データの提示を求めたり、意見を聞く
などして、双方の情報をすり合わせている。
調査体制をみると、各機関のアナリストの数は 10 人程度から 30 人程度で、アナリスト一
人当たり平均社数は、50‑100 社程度である。また 1 社は1アナリストが担当する 1 社1人
制となっているが、業種は複数人でカバーする、最終判断は上司や外部の委員会で行うとい
う複数の判断を入れる機関が半分程度ある。
SRI 調査の課題として最も多く指摘されるのが情報不足である。具体的には、検証された
客観的データ、本社だけでなくグループ全体のデータ、実態を現すデータの不足が指摘され
ている。一方、これらの調査機関のうち、「マテリアリティの研究」を今後の課題としてい
るのは SAM1機関のみである。なお、この調査結果にはないが、Innovest と CoreRatings
も、マテリアリティに焦点を当てた調査をしており、3 章の Values for Money の調査で、
リサーチ手法におけるベストプラクティス機関に選ばれている。
しかし、SRI 調査機関は全般的にマテリアリティに対しての認識がまだ高くない。これは、
6 Values for Money においてベストプラクティス機関とされた7機関が対象
(13/17)
彼らが SRI 投資家以外の顧客に情報を提供していること、彼らの多くが社会や環境問題の専
門家ということがあると思われる。
今後の情報の質を確保・維持することについて、EIRIS と Ethibel は、「グローバル化の
進展で企業形態が複雑化するなかで、正確な情報を得ることが困難になるだろう」と指摘し
ている。また Oekomは、「SRI に関する社会全般の理解が混乱しており、SRI 事業者の透明
性と専門性を高める努力が必要」と指摘している。
図表4) 欧米主要SRI調査機関の状況
設立の経緯
調査対象企業
クライアントが指
英国 Global Risk
Management Service とフ 定。
ランス ARESEの合併によ
り2002年誕生。現在ノルウ
エーのコンサルティング会
CoreRatings
社DNVの傘下。/ 主要顧
www.coreratings.com, 客はBarclays Global
英国
Investors, Allianz
Dresdner AM, AMN Amro,
デンマークの年金
Sampension, スウェーデン
の年金基金AP3など。
英国の教会など慈善団体 上場企業、FTSE,
を母体とする調査組織。/ MSCIなどの組み
主要顧客はFTSE4Good 入れ企業中心で
2800社うち日本企
指数, Goldman Sachs,
EIRiS www.eiris.org
業500社。小規模で
Co-operative Bank,
英国
Oxfam, WWF, などのNGO もパイオニア的企業
も。英国の倫理ファンドの はカバー。
75%を顧客に持つ。
Ethibel
www.ethibelcom
ルギー
ベ
社会運動団体が母体とな 北米、欧州、アジア
り92年に設立。2005年にV 太平洋の主要上場
igeoと合併しGroup Vigeo 企業、および小型で
になる。/主要顧客はEthi もパイオニア的企
bel Sustainability Ind 業。
ex (S&Pと提携)、SRI
投信の品質保証も行う。
欧州のSRIファンド24本の
うち16本にラベル認証。
98年設立。主要株主はオ
ランダ年金基金のABP。/
ABPなど年金のほか、グ
リーンピースなどNGOも
顧客。年間上げは11億ド
ル。
2100社。うち1500社
はMSCI、SP500日
経225など主要株式
指数の組み入れ銘
柄。残りは顧客の
要望による。
93年に環境格付けの会社
として設立。株主の16%
は環境関係の出版社・基
金・メディア、84%が民間
企業。/主要顧客はBNP
Oekom www.oekomパリバ、UBSアセットマネ
research.com/index̲en
ジメント、教会の年金基
glish.html 独
金,など。
MSCIから750社
超、国際的に社債
を発行している企業
50社超、中小企業
100社超。
95年に設立。運用会社で
もある。/ダウジョーンズサ
ステナビリティ指数。 HS
BC, Swiss Lifeなど運
SAM www.samgroup.com/htmle/main 用会社とも提携。
.cfm スイス
世界の主要2500社
にアンケート送付。
回答企業500社及
び非回答だが規模
が大きい、優れてい
る企業500社を評
価。
Innovest
www.innovestgroup.co
m 米国
2002年設立。運用会社E ユーロ圏。イギリ
ULIAが39%保有。その他 ス、北欧の会社が
の株は7つの資産・年金運 対象。
用会社、8つの労働組合、
36の民間企業が保有。
Vigeo www.vigeo.fr フ 2005年秋にEthibel と合
ランス
併予定。/BNPパリバ、A
XA, CDC, Lombard
Odier, HSBC,他個別
企業(20社程度)のコンサ
ルも行う。
情報収集
アンケートは行わない。調査は全て第
三者の第三者情報のみを利用。評価を
出した段階で、それに対して意見を求め
ることは行っている。
調査スタッフ/調査プロセスの概要
4チーム(業種特性で区分)17名のアナ
リストを擁する。またアナリストは業種以
外の専門性(環境・コーポレートガバナ
ンスなど業種横断的なもの)を有する。
各アナリストが環境・社会・雇用・コーポ
レートガバナンスにおけるリスクを洗い
出し、それぞれが、7つの投資価値(ブラ
ンド価値、無形資産など)に与える影響
を分析、また企業のリスクへの対応を調
査しその達成度・対応方法から評価。
日本企業対応・日本企業側の対応
日本語スタッフはいまのところいな
い。英語のCSR報告書などで評
価。日本企業側の対応については
特にコメントなし
SRI評価の課題
今後は投資家むけに多くの企業
を広く浅く評価する業務よりも。特
定の企業の内部に入り込んむ、
コンサルティング的な業務の割合
が増加するのではないかと考え
ている。なお自分たちの今までの
評価方法は方針の有無を中心と
した評価で、パフォーマンス評価
が弱かった。
企業へのアンケートは年1〜2回行うが、 アナリスト平均担当企業数は65社。そ
れぞれのアナリストが分析から最終評
全ての企業が対象となるわけではな
い。客観資料を利用している。作成され 価まで行う。コーポレートガバナンス,環
た情報が事実と異なる、と企業から言 境、社会、その他の40分野に.350の評
われた場合は、納得できる証拠を提示 価項目を設定。その中で対象企業の業
種内の重要項目を選び、企業の位置を
してくれれば変更する。
評価する。
グッドバンカーを日本のパートナー
にしている。実際の日本企業評価
はグッドバンカーが行う。日本企業
は我々の評価に対して神経質なよ
うだ。評価クライテリアについて、
その根拠など徹底的に聞いてく
る。欧米企業は余りそういうことは
しない。
データを探すことに時間がかか
り、それを検証する時間が少ない
という問題を解決するのが今後
の課題。企業活動がグローバル
化するにつけ、首尾一貫した情
報を入手することがますます難し
くなると予想される。
適切な情報の入手が難しいこと
が最大の課題。積極的な情報開
示を進めている企業もあるが、一
概に良いとも言い切れない。情報
窓口が、環境担当など現場から、
IRや広報に写ってしまったこと
で、以前より対応はよくなったも
のの、実りのある情報が取れなく
なったというケースもある。また企
業の形態が複雑化しているた
め、評価しにくくなっている。
30名程度のアナリスト(平均担当社数7 英語のCSR報告書などを活用。 質問項目の設定やウエイト付け
0社)がいるが、個々のアナリストが、ス 日本人スタフもいる。日本企業対 には常に様々な問題が生じてい
テイクホルダー資本、コーポーレートガ 応での問題は、時差があるため電 る。企業のアンケートへの回答疲
バナンス,人的資本、環境面から、担当 話インタビューの時間を調整しな れも問題の一つである。
業種の主要リスクとチャンスを抽出、点 いといけない。
数付けして格付けマトリックスを作成す
る。
アンケートは2年に1度行う。ただしモニ 業種を3グループにわけ、それぞれを
タリングの結果見直しの必要があれば、 チーム(3-4人)が調査から最終評価の
その段階で調査を行うこともある。これ ための資料作成まで行う。なお最終評
以外に様々なステーホルダーの情報お 価は、社外のEthibel の評価委員会が
よびSiRiグループに所属している他の 行う。調査の方法としては、企業内社会
的方針(雇用)、環境対策、企業外社会
SRI調査機関の情報を利用している。
的方針、企業倫理方針の4分野で評
価。さらに対象企業の業種における相
対評価で最終評価。
企業格付けの見直しは、合併など特別
なニュースが発生した場合に行う。アン
ケートやインタビューはそのタイミングで
行うが、アンケートはクライアントが要望
した場合にのみ行う。なるべく一つの情
報に頼らないようにしている。政府機
関・NGO・メディアなどの情報をチェック
している。好例として、OECD加盟国に
よる化学物質排出データベースがあ
る。もし企業が我々の収集した情報が
正しいものではないと主張し、そのこと
が証明されれば訂正するが、そのような
事例はほとんどない。
企業情報は定期的に企業のニュースを
反映させるため年に2度見直す。また2
年に1度全面的に見直す。この際に企
業にコンタクトをとり関連資料送付を依
頼する。しかしアンケートは行わない。
情報源は、メディア、NGO,労働組合、
政府機関のものである。これらの外部
情報について企業にフィードバックする
しくみがある。企業がその情報に同意し
ない場合、企業が提供した情報も考慮
にいれ、それらの情報をどのように評価
するかを内部で検討する。
毎年アンケートを実施。また第三者情報
として、メディアからの情報を自分たち
の情報とつき合わせたクロスチェックを
行う。双方の情報が異なる場合は、企
業と議論する場を設ける。
毎年、調査対象企業に利用可能な関連
資料の送付を依頼し、それらと第三者
情報によってデータシートを埋め、足り
ない部分についてのみ聞き取り調査を
行う、という形をとる。
日本企業に対しては日本人スタッ
フが対応。日本企業との間では概
念の違いがカベとなっている。
サービス残業など日本特殊の情
報が必要な場合も。日本企業を評
価できる適切なNGOがない。
情報が不足している。多くの企業
は透明性が低い。法令によって
圧力をかけることも必要かもしれ
ない。また評価機関によって方法
論が異なり、「倫理的」、「サステ
ナブル」の概念もまちまちであ
る。したがってSRIの意味につい
て混乱があり、これを調整する必
要がある。SRIについて正しく理
解してもらうためには、透明性と
専門性を高める努力が必要であ
る。
常勤アナリスト12名だが、繁忙期には 重要な情報は殆ど英語になってい サステナビリティと経済的価値と
外部から人を調達するので、通年では2 る。ない場合は翻訳者を使うが、 の間の関係性をどのように見出
0名程度。1企業は1アナリストが担当す 文化的違い、言語のカベのため適 していくかが評価機関における今
後の主な課題である。
る。平均1人当たり50社程度担当する。 切な情報を得るのに苦労してい
経済、環境、社会の3分野でそれぞれ点 る。
数付けして評価、各項目のウエイト付け
をおこない総合点を採点、短期的な株
主価値毀損リスクのある企業を排除し、
最終評価を行う。
アナリスト10名とインターン数名。各ア
ナリストは、3〜5の業種を担当。それぞ
れの業種に主たる担当者はいるが、担
当者がそれぞれ1業種見るのではなく、
3-4人のチームで担当業種をカバーす
る。アナリスト平均担当者数は90社。環
境面(環境経営・製品サービス、環境効
率)と社会面(経営・従業員・外部ステー
クホルダー)から評価、それに基づき調
査し環境面と社会文化面の格付けを行
う。
英語でやりとり(電話やメール)で
今のところ大きな問題は起きてい
ない。ただし、文化的背景の違い
がギャップ。我々の評価基準の是
非についての問い合わせなどあ
り。また逆に日本人の関心が薄
かった領域での変化を促進する効
果もあり。
1企業を一人のアナリストが担当。各業 情報収集の際に国ごとの文化的
種は2-3人づつが担当する。環境、コー ばらつきを直すのが大変。
ポーレートガバナンスなど6分野40程度
の評価基準がある。それら各項目につ
いてステイクホルダーへの影響、影響
の程度、企業リスクの3要素からリスク
をあきらかにし、企業の行動を、リーダー
シップ、実行性、結果という3段階で評価
する。
入手できる情報の質が、最近は
良くなってきたが、まだまだ十分
ではない。特に定量的データが
不足している。また人的資源が全
般的に不足している。
出所)財)地球産業文化研究所「平成16年度持続的な社会経済システムと企業の社会的責任研究委員会報告書」 17年.3月より大和総研で要約
3) 日本の調査機関の現状
こうした欧米の調査機関に対して日本の調査機関の状況はどうだろうか。NPO 法人の社会
的責任投資フォーラム(SIFJ)の報告書「日本における SRI 調査機関の現状」7からその内
容をみてみよう。同報告書は、日本国内で発売されている公募型の SRI 投資信託に SRI 情報
を提供している調査機関を対象として、最終的に6機関の現状についてまとめたものである。
7 社会的責任投資フォーラム 企業スクリーン研究会「日本における SRI 調査機関の現状」2005.9 http://www.sifjapan.org/
(14/17)
図表5)日本のSRI調査機関の現状
名称
具体的な評価項
目。
「環境全般、特に地
球温暖化問題」CSR
のテーマの中で地
球温暖化問題が人
類の持続可能性に
とり最大のリスクで
ある。
株式会社、主要業務 大和証券投資信託 「企業の透明性・誠
は金融機関投資助 委託、三井信託ア 実性」。 ①経営トッ
言、情報提供、CSR セット、モルガンスタ プのコミットメント、
の推進事業
ンレーアセットマネ ②企業の透明性・説
ジメント。SRI売上は 明責任、③ 倫理コ
全体の3割程度
ンプライアンス体
制、④ 企業独自の
CSRの取り組み
組織/主要業務
三井住友海上グ
ループ。株式会社、
主要業務はコンサル
インタリス
ティング、調査研究
ク総研
受託業務
インテグ
レックス
主要なSRI顧客
三井住友アセットマ
ネジメントの投資信
託『海と空』。全体の
売上に占める比率
は1.5%程度
調査体制・調査対象
企業
アナリスト4名。(金
融業務経験者2名、
環境問題のコンサ
ルタント・実務経験
者2名)
アナリストは3名(証
券アナリスト経験者
1名、その他金融業
務経験者2名)。
損保ジャパングルー 損保ジャパンアセッ 環境全般(①環境方 アナリスト6名(アナ
プ。株式会社。リス トマネジメント投信 針マネジメントの展 リスト以外の金融業
ク・マネジメントコン 「ぶなの森」
開度、②情報開示・ 務担当者2名、企業
損保ジャ
サルティング
コミュニケーション、 の環境対策専門家
パン・リス
③環境負荷の削減・ 3名、新人1名)。環
クマネジメ
環境効率の改善
境に配慮している企
ント
業(04年度792社)が
アンケート対象で回
収率は5割程度。
三井住友フィナン
UBSグローバルア 環境・社会(法令遵 5名(環境・社会問題
シャルグループ、株 セットマネジメント投 守、説明責任と情報 の研究員、うち証券
式会社。主要業務は 信「エコ博士」、住信 開示、顧客対応、人 アナリスト経験者1
システム開発・情報 アセットマネジメン 材の育成・支援、環 名)。
日本総合 処理業務、コンサル ト・ SRI投信「グッド 境保全、グローバル
研究所
ティング業務、シンク カンパニー」、住友 市場への対応、社
タンク業務
信託銀行
会活動への関与)
特定非営利法人。主
要業務は寄付事業、
SRI評価、CSR推進
事業
パブリック
リソースセ
ンター
モーニングスター
SRIインデックス(同
指数は野村アセット
マネジメントの投信
「モーニングスター
SRIインデックス・
オープン」で使われ
ている。) フコクSRI
ファンド、損保ジャパ
ンSRIオープン。
1.ガバナンス/アカ 3名の内部アナリス
ウンタビリティ 2. ト+外部客員評価者
マーケット(消費者・ (18名)
顧客対応、調達先
対応) 3.雇用
4.社会貢献 5.
環境
UFJグループ。株式 UFJパートナーズ投 環境(環境に関する アナリスト4名(環
経営方針・戦略、環 境・社会問題のコン
会社。主要業務は、 信
境マネジメントシス サルタント・アナリス
経済調査、政策研
テム、事業に伴う環 ト)、統計処理1名
究・調査・立案、経営
UFJ総合 コンサルティング
境負荷、官今日コ
研究所
ミュニケーション、環
境教育、環境配慮
型ビジネス)
出所) SIFJ「日本におけるSRI調査機関の現状」2005.9 より 大和総研で要約
調査プロセス
透明性
約300社にアンケート送付、回収率は5割 回答企業に対しては、電話での相
程度。150社程度が調査対象となる。毎年7 談に応じ、アンケートの集計結果を
月ごろにメールでアンケート(デジタルのも 送付。調査仮定で疑問が生じれば
の)を企業に送付、その回答を採点し、採 企業に確認する。 温暖化問題の
点結果を5段階で評価する。基本的に最低 評価が対象なので、企業不祥事が
の2ランクとなった銘柄は投資しない。アン 評価に影響を与えたことがないの
ケートは、温室効果ガス排出量など定量
で、明文化されたルールはない。
調査は、倫理コンプライアンス評価システ 調査プロセスの公正性について、監
ムR-BEC001をベースにしている。全上場 査法人の検証を受けている。アン
公開企業を対象としてアンケートを送付。ア ケート票をウェブ上で開示、不祥事
ンケート回答企業851社(2004年度)を 対応のプロセス、その結果もウエブ
調査対象とする。個別取材は基本行わな 上で開示。
い。回答結果から自動的に評点が計算さ
れる評価システムにもとづき、回答を評価。
その結果は、外部有識者からなる経営諮
問委員会のチェックを受ける。またアンケー
ト項目は毎年見直すがこれも経営諮問会
ISO14001取得企業・環境報告書作成企業 不祥事対応ガイドラインに基づき判
など、環境に配慮していると考えられる企 断する。対象とする不祥事は環境
業に、8月ごろアンケート(WEBアンケート) 事故と虚偽報告。回答企業には、評
を送付。回答企業および、面談に応じる企 価結果と業種別集計結果を送付。
業(約5割)を評価。アンケート回答をあらか
じめ定めた配点にしたがって機械的に採
点、それぞれの業種担当者が、自由記入
欄の情報を評価分析し得点を修正。アナリ
ストの合議で業種ごとにABCの3段階評価
毎年上場企業約2000社にアンケートを送 調査対象企業の不祥事について
付、回答企業(270社程度)を含めて500社 は、金融機関の要望にしたがって情
報提供する。アンケート回答企業に
程度の調査を行い、最終的には250社を
『『社会的責任経営の取り組みの進んだ企 対しては、企業のスコアと全体集計
業」としてレーティング評価。回答企業以外 結果を送付し、さらに社会的責任経
の調査対象企業の場合は、環境報告書・ 営の取り組みの進んだ企業」とした
ウェブなどの公開情報を元に評価する。ア 企業にはその旨通知している。アン
ナリストは担当企業の情報収集から調査 ケート集計結果は、ウェブ上で開示。
結果のドラフトまでそれぞれ担当し、最終 CSR調査レポートのメールマガジン
的には合議制で判断する
も発行
調査サイクルは5年。全公開企業3600社に アンケートは1年遅れでウェブ上に
初年度アンケートを送付、2-4年目は前年 開示。アンケート集計結果同様に開
アンケート回答企業+新規公開企業+申し 示。不祥事対応ルールがあり、不祥
込み企業(300-400社)にアンケート送付。3 事企業をリストから除外する場合は
名の内部アナリストがアンケート回答、公 公表する。回答企業には個別プロ
開情報から個別企業データを作成(05年度 ファイルを送付する。
は380社)。外部客員評価者(5分野の専門
家3-4人、計18名)が、それぞれ100-130社
をA−Dランクで評価。内部アナリストが、
その結果を統合して各社の最終評価を策
定。内部アナリスト及び外部客員評価者の
リーダーからなる企画委員との委員会で最
終評価を行い、インデックス組み入れ対象
銘柄群(05年実績、265社)を決定。
毎年全公開企業にアンケートを送付、回答 不祥事に関しては、官今日関連の
企業約1000社を調査し、最終評価企業は 事故や不正があった場合、企業の
2-300社。(電力・ガス企業にはアンケート 発表と対応計画をみてケースバイ
実施せず。公開情報のみで評価)。1業種 ケースで対応する。対応結果は、年
はぞれそれ1人のアナリストが担当し一環 次で作成する評価結果報告「エコレ
して調査分析評価を行う。最終判断は、ア ポート」にてウェブ上で報告。ウェブ
ナリストの合議で下す。
上でアンケート票も公開している。
個人投資家むけアンケート結果を
翌年の評価クライテリア見直しの参
考情報とする
その概要は図表5にまとめた。日本の SRI 調査機関の組織形態をみると、シンクタンク(い
ずれも株式会社)が4機関、独立系の株式会社が1社、NPO 法人が1社となっている。欧米
の機関の大多数が株式会社組織という状況と似ているが、日本の場合は、環境問題などで調
査研究の実績のある大手のシンクタンクの一部門が、SRI 調査を手がけているというケース
が多い。当然これらのシンクタンクでは SRI 調査関連の売上のウエイトは極めて小さい。こ
れに対して独立系は、組織が小さいこともあり SRI 調査関連の売上の比率が高い。
なお SRI の調査チームの専任アナリスト数は3名から6名程度である。基本的にいずれの
組織も自前の調査手法を持っている。また独立系の2機関をみると、インテグレックスの場
合は、R‑BEC001 という倫理評価システムを活用し、NPO のパブリックリソースセンターは外
部客員研究員のサポートを得ており、外部のノウハウや知識を活用している。SRI 情報の提
供先は、公募型 SRI 投信が中心だが、それ以外に SRI 指数や、年金の運用のために情報提供
をしているところもある。なお、損保ジャパンリスクマネジメントは独立した株式会社であ
るが同じグループ内の損保ジャパンアセットの運用するエコファンドむけに限定して情報
を提供している。またインタリスク総研も UFJ 総研もグループ内の運用会社のみに情報を提
(15/17)
供している。SRI 調査事業の位置づけであるが、事業自体からの収益に期待しているという
より、グループの SRI 戦略の一環として調査業務を行っているという傾向が強い。一方で、
日本総研、インテグレックス、パブリックリソースセンターは、複数の運用機関に SRI 情報
を提供しており SRI 調査自体を一つの収益源とみなしている。
評価クライテリアでは、インテグレックスを除くすべての機関は「環境」を挙げている。
しかし環境といっても、その中身には幅がある。インタリスク総研では地球温暖化に特化し
ているが、UFJ 総研と損保ジャパンは環境経営全般を評価対象としている。また、日本総合
研究所とパブリックリソースセンターは、環境だけでなく社会性の評価もわせて手がけてい
る。
調査方法の手段として、すべての調査機関ではアンケートを毎年実施している。実施方法
としては、全ての公開企業を対象としているのが、UFJ 総研とインテグレックスで、2機関
とも毎年すべての公開企業にアンケートを送付している。いずれも回収率は 2 割程度となっ
ている。またパブリックリソースセンターは調査サイクルを 5 年としており、初年度は全て
の公開企業に送付、2 年目から 4 年目は、回答企業と新規公開企業、問い合わせのあった企
業のみに送付する、という変則的な仕組みになっている。
これに対して、日本総研では 2000 社程度に絞ってアンケートを送付し、損保ジャパンで
は、「環境にすぐれた取り組みをしている企業(環境報告書作成企業、ISO14001 取得企業
など)に送付対象を限定し、インタリスク総研でも 300 社程度と限定している。
なお、実際に分析を行う評価対象企業について、アンケート回答企業に限定しているのが
インテグレックス、パブリックリソースセンター、インタリスク総研、損保ジャパン8の 4
機関である。日本総研と UFJ 総研では、アンケート未回答企業でも顧客の要望や調査機関の
判断で必要性があるとした企業を調査対象に含めている。アンケート未回答企業のデータは
報告書など公開情報から得るとしている。
いずれにせよ、全ての機関では、基本的に企業の自己申告による情報をもとに評価してい
るので、情報の正確性をどのように担保するのか、ということが構造的な課題トとして残る。
ただし、各機関とも調査をはじめてから数年経過し、企業のデータが蓄積されてアナリス
トの経験もつまれてきており、入手情報や評価情報の質の精度は上がっている。またマスコ
ミ報道や NGO の情報、マスコミのランキングデータや官庁などの CSR 情報も増えてきており、
これらの第三者情報も活用できるようになってきている。またパブリックリソースセンター
のように、外部の有識者を評価プロセスに加えることで情報の質の向上を図る機関もある。
なお、調査結果のフィードバック方法をみると、調査対象企業に対しては、個別の評価結
果および全体集計結果がフィードバックされている。この際評価の仕方が的外れであれば、
企業からの反応があり評価の修正が可能である。なお、全体の集計結果をウェブなどで開示
しているのは、パブリックリソースセンター、UFJ総研、日本総研、インテグレックスで
ある。インタリスク総研と損保ジャパンリスクマネジメントは、こうした情報を開示してい
ないが、これは、SRI 調査は外部の顧客むけにおこなっているのではなく、グループの運用
会社のために SRI 業務に協力している、という立場を反映していると思われる。
8 損保ジャパンの場合は、アンケートに回答しなくても面談に応じて情報収集できる企業は対象としている。
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評価対象企業に不祥事が発覚した場合の対応についてルールを明文化しているのがイン
テグレックス、パブリックリソースセンター、損保ジャパンの 3 機関である。その結果とし
て「評価対象からはずすなどの処置がとられた場合は、その旨がウェブなどで公開されてい
る。こうした対応は、基本的に評価クライテリアに関連ある不祥事が起きた場合にとられる。
以上、日本の調査機関の現状を欧米と比べると、規模が小さい(アナリスト数は最大でも
6 名)、環境や社会問題の専門家のいるシンクタンクで行う場合が多く、NGO/NPO が少ない、
すべての調査機関がアンケート調査を行う、という特性がみられる。
これには、日本の SRI 市場がまだ小さいこと、SRI が NGO などから草の根的に広がったの
ではなく、大手の投信会社の戦略として始まったこと、NGO/NPO など市民セクターが小さく、
信頼できる第三者情報源が確立されていないこと、などの要因が考えられる。また評価クラ
イテリアをみても、「投資家が重要視する CSR 活動はどれか」、「またそれがどのくらい企
業価値に影響を与えるのか」、というマテリアリティの発想は、欧米の調査機関と同様にあ
まり明確にされていないようだ。
一方、透明性の確保については、アンケート調査表や、集計結果、CSR 情報などをウェブ
上で開示する、アンケート回答企業に対してのフィードバックを行う、また調査プロセスの
第三者検証を受けるなどの取り組みは積極的に行われている。ただし、顧客の運用機関に対
する守秘義務、またノウハウの漏洩のリスクなど業務上の制約のために、個別企業の評価を
開示することは、例外9を除いて基本的行われていない。SRI 調査機関が作成する SRI 情報
が広く開示されれば、SRI 調査機関が具体的に企業のどのような点を見てそれをどう評価し
ているのか、ということが明らかになるので、SRI の理解を助けることになるが、残念なが
ら業務上の制約のために実施は困難である。
5.まとめ
3 章、4 章で国内外の SRI 調査機関の現状について報告したが、いずれの調査機関も課
題を抱えている。透明性の問題解決のために、欧米では、2003 年 11 月に SRI 調査機関の自
主的な品質保証規準である CSRR‑QS10が策定されている。これは、SRI 調査機関の調査手順
調査内容など、調査の品質に関する規準や組織としての透明性の確保、組織要件、体制整備、
調査プロセス、ステークホルダーの関与、記録、報告書など調査結果などについて定めた規
準である。各 SRI 調査機関がこれらの規準をクリアするようになれば、現在の財務アナリス
ト情報のように、広く資本市場においても活用される情報となろう。
しかし、現状では、ステークホルダーの参画など一部の規準を除き、この規準を満たし
ているとはいえない状況である。それは、分析対象となる企業情報の不足、SRI 調査アナリ
9 不祥事企業を、評価対象からはずす、などの措置がとられた場合は、その企業と理由が開示されることが多い。
10 www.csrr-qs.org 参照
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ストの質と量が確保できない、機関の収益力が高くないなどの問題を抱えているためである。
例えば企業情報については、
「グローバル活動を前提とした企業情報が必要」としているが、
CSR 情報を連結ベースで把握している企業自体まだ少数なので、調査したくとも出来ないと
いう状況がある。
マテリアリティの研究は、投資家にアピールするという点では SRI を広める有効な手段
である。社会や環境の知識のない主流の投資家を SRI 市場にひきつけるためには彼らと同じ
土俵で議論できる、財務知識のある SRI アナリストが求められるが、SRI 調査機関に財政力
がなければ、金融機関での経験のある SRI アナリストを育成することも難しい。
図表6) Voluntary Quality Standard for Corporate Sustainability and Responsibility Researc
1 対象範囲
2 定義
3 CSRR-QSの品質原則
1 独立した情報源の活用
2 企業のグローバルな活動を調査対象とする
3 法定基準を満たすだけでない取り組み(ベストプラクティス)を評価
4 評価クライテリアは環境、社会の両分野を含む
5 下記の分野においてバランスをとる。
定量評価と定性評価のバランス
マネジメント指標とパフォーマンス指標のバランス
過去と現在のパフォーマンス
社会と環境のバランス
6 クライテリアの妥当性とマテリアリティ
7 一貫性と比較可能性
8 ステークホルダーの参画
9 最新の情報を使う
10 評価プロセスの透明性を確保
4 組織の誠実原則と倫理性
1組織の独立性
2 専門家の質の確保
3 説明責任
4 客観性
5 不偏不党
6 評価対象企業の平等な取り扱い
7 企業やステークホルダーとの誠実な関係
8 選択的情報開示
9 個人的利害関係の排除
出所) CSRR-QS1.0より大和総研仮訳
こうした調査能力をつけるためには、SRI 調査機関の体力増強が不可欠である。こうした認
識のもとベルギーの調査機関 Ethibel とフランスの Vigeo は、2005 年 6 月に合併することを発
表した。今後も欧米では独立系調査機関の合併や提携を通じた規模の拡大が予想されている。
このような動きは、SRI というNGOや社会運動家が始めた活動が、単なる社会活動として
だけではなく収益性もあるビジネスになり一つの業界として歩み始めたことを示している。SRI
市場の規模が大きくなれば、主流投資家も SRI に取り組まざるを得なくなり、SRI 市場がさらに
拡大し、SRI 調査機関の体力増強につながる、という好循環が期待される。SRI 調査の質の向上
と、透明性を高める取り組みは、今後の SRI 市場拡大のための喫緊の課題である。