デンマークの養豚産業の生産性の真相(#4)

デンマークの養豚産業の生産性の真相(#4)
By Terry L. Steinhart and Larry McMullen, ISU Extension Swine Field Specialist
(アイオワ州立大養豚普及所農場スペシャリスト- 2005 年 10 月現在)
デンマーク事情を研修したアメリカ人の手記であるが、全部で4部あり、今回特に離乳子豚30頭は、どうやって達成
しているのか、関心が高いその秘密に触れてみた。
養豚生産主要国のうち、デンマークほど際立った生産性を示している国や地域はない。実際養豚生産を語るとき北
欧諸国を抜きにはできない。アイオワのわずか 3 分の 1 の国土に 1300 万頭の豚を飼っている(アイオワは 1600 万頭)
デンマーク、そこで繰り広げられていることは実績が伴うだけにある意味で正論だ。それにしても、おおよそ周囲を海
に囲まれた限られた土地にどうしてこのような生産性の優れた、しかも競争力のある養豚生産が構築できたのであろう
か。このあたりを探ってみたいと思う。
デンマーク養豚産業がいかにして繁栄してきたか、という観点から 10 項目の要素を取り上げて紹介している。ほとん
どのポイントは繁殖農場に置かれている。すなわち、繁殖農場の成績が農場全体の成績を左右するからだ。限られた
土地と使用できる飼料の制限を乗り越え、ドイツへ肥育素豚を輸出するというこれまた厳しい世界で生き残っている彼
ら。 これらのポイントはなんといっても繁殖豚にあるといっても言い過ぎではないだろう。
デンマークの養豚生産者は明らかに母豚群の生産性、労働効率そして生産コストに目標を定めている。並外れた
母豚生産性がデンマークに利益をもたらしているのである。
データ上は年間母豚当りの生産性は 23.7 頭だが、少なくても生産者は適切な管理および周到な準備が重要だと心
得ている限り、30 頭以上の生産もいずれ普通に達成されることだろう。一方アイオワでは管理能力、環境そして衛生レ
ベルが生産性を上げる必須ポイントだと考えられている。
更新豚(ギルト)の育成
ギルト、これこそがデンマークの農場の基本である。小さく若いギルトには種付けしない(かわってそのようなギルトは
十分大きく成熟させる)。適切な制限給与と繊維質の豊富な飼料を与えることもポイントであろう。繊維は腸の発達を
助け、また胃潰瘍の発生も抑える。上手に管理されていれば馴致を終えたギルトプールが常時稼動しており、発情の
チェックもモニタリングされている。一般に推奨初回種付適期は、
290 ポンド(131kg 以上)で 8 ヶ月といわれているが、農場によっ
ては 9 ヶ月令 160kgとしているところもあるくらいだ。このための
発情コントロー
ルと、太らせない工夫が現場レベルで厳格に行なわれている
のである。この時のポイントとしては移動を制限すること、育成期
での編成なども極力控えることだ。産子数の達成という目標にギ
ルトの生産性がその成否を握っている。
ギルトの育成は離乳から2産まで続けられ、
高い母豚生産性のポイントである
管理者のかかわり
デンマークの農場には際立って高いレベルの養豚管理能力に優れた習熟スタッフが詰めている。様々なレベルの
公的作業管理教育も充実している。例えば、農場を所有し管理するには大学終了レベルの教育を受け、さらに「グリ
ーンカード」なる認定生産資格を受ける必要がある。そうでないと農場主にはなれないのである。従業員の扱われ方も
異なり、農場のいろいろな場所でその働きが認められ、彼らの判断基準も認められている。農場主と管理者は一緒に
なってチームワークよく、農場自ら立てた目標を達成せんがために努力する。彼らの労働に対する満足度も高く、チ
ームとしての心得も充実して仕事を楽しんでいるかのようである。農場内で特殊な役割をそれぞれ担う一方で、農場
全体としての調和も忘れず理解しながら進めていく。例えば離乳体重を大きくすることが重要だ、というテーマであれ
ば、これが生産コスト、肥育農場の衛生レベルや生産性、そして農場全体の売上げに至るまでにどのように影響する
かを理解しながら取り組む。
管理者はあくまでも専門養豚管理者であって他の仕事例えば畑仕事などをすることはない。農場主や場長はリーダ
ーシップにたけ、従業員の関心についても熟知している。さらに農場外でも様々に関与していくことが要求される。管
理者たちは高い動機付けを持ち、チームの一員としての自覚を持っている。従業員が家族の一員という文化がそこに
はあるのだろう。
もう一つの素晴らしい特徴は一時的に養豚業界で働く人をトレーニングしてネットワーク派遣する援護団体も機能し
ている点である。これは農場の様々な理由による生産活動の停止期間の圧縮につながり、管理者が疾病や長期休暇
などの際に一時的にまかなう補助要員として重要な役割を担っている。これはデンマーク人が年間 42 日間もの休暇
を取ることができる構造上のインフラである。
ナース母豚の管理
2004年度の一腹当りの生存産子数は 12.9 であった。また上位 25%の農
場の平均は 13.4 だった。さらには報告によると年間母豚当りの生産頭数は
23.4 であった(体重が 30kg の肥育素豚)。これが信頼できるデータとすれば、
いかに健康度の高い子豚が生産されているか、目を見張る数字だ。多産の
母豚はより多くの子豚を育てる必要がある。農場の最小疾病圧や分娩舎の
継続フローであるため、離乳母豚は2回ナースを受けた子豚の面倒を見るこ
とが多い。若い豚(初産あるいは 2 産)は、乳頭の状況、2産目以降の繁殖
性にかかわる問題を考慮して、そのまま
継続して授乳を続けることもしばしばである。注意すべきポイントは健康状
態の優れたナース母豚を上手に選択しなければならないことであり、離乳子
ナース母豚の存在は不可欠
豚を大きくし、飼料の有効活用を目指さなければならない。ただし授乳延長は母豚のボディコンを維持するのに難しく、
次回の繁殖性への影響は必至のはずだ。
ナース母豚の選定や同腹豚の扱いについては、ワンステップ、ツーステップの2つの現場作業管理がある。(念頭に
置くべきことは離乳日令は4週であること、これは重要である。)ワンステップ法とは少なくても21日間以上授乳(デンマ
ークの法律で21日以上哺乳させるのが義務)させた母豚の腹で構成される。母豚のコンディションも子豚の状態も良
好に違いない。こうして離乳した母豚を、①多すぎたため新たに構成した腹に送り込んでナースさせる(生まれて6時
間以上経過した初乳を飲んだことが確認された大きな子豚)。この場合の母豚をワンステップナース母豚と呼んでいる。
あるいは②生後4~7日令の腹につける、この場合は中間母豚(intermediate sow)と呼んでいる。生後4~7日令の子
豚に授乳していた母豚(初産や2産)は、それから生まれすぎた腹で新たに編成された腹をナースすることになる。こ
の場合の母豚をツーステップナース母豚という。最も推奨されている方法はツーステップナース母豚であり、子豚を動
かすのではなく母豚を移動させる方法である。ツーステップ母豚は新たな腹を受け入れやすく、ワンステップナースや
ナースしない母豚は若干慣れの問題もあり難しいという。
高産子数の腹とナース母豚の使い方は実際の現場では、かなり流動的に行なわれている。しかし、いかに作業が大
変で複雑になっても、目的は出来るだけ多くの子豚を大きい体重で離乳させることであり、その結果として離乳後の事
故率の減少からもたらされる飼料費の節約が現実の関心事である。そういった意味では、分娩舎での作業に充てる時
間、割り振りは、種場や妊娠舎に比べ大きいと思われる。その他のシステム上の特徴としては、分娩舎はコストのかか
るステージであり、より効率よくまわすことが美徳と考えられていたが、こうしたシステムの中では分娩クレートに一杯の
豚が収容されていては土台無理な話で、十分余裕のある数のクレートが必要だという点では逆転の発想が必要であ
る。具体的に言えば、もしも生存産子数が 12.9 頭で、目的とする一腹当りの数を 12 とした場合、計算上は 7.5%分の
分娩クレートが必要になるのである。理屈から言えば 13 頭の母豚が分娩するたびに 1 クレートが空いていて、ナース
母豚と新構成の腹のために使われる勘定になる。
さまざまな関連グループとのかかわり
デンマークの農場がオープンで透明性が高いことが成功の要因かもしれない。親切な通信チャンネルが農場間で
普及しており、文化を通して育てられた強調性がベースになって農場の人は自分で整理整頓でき、試験トライアルな
どの結果を活かし共有していくことに優れている。新しい生産システムの導入を計る際にはハード面でもソフト面でも、
コミュニティの中で空いた豚舎や倉庫などを使って展示会を催し、皆で集う。特定メーカーのアドバイザーによって地
域的に催される場合もある。特別なテーマ、例えば種付け管理についての専門管理者が中心となる場合もあるだろう。
一方農場の経営財務の問題を検討することもある。全般にこのような様々な活動が活発に行なわれ、より効率の良い
生産システムへの関心が高い。
育種的改良に向けて
デンマークの交配プログラムでは、今まで生産子数の向上を主に取りくんできた。2004年の生存産子数は12.9頭
だった。2001年に新たに原々種豚場に取り入れられた種付け目標は生後5日目での生存数(LP5)をインプットして
いこうというものだ。 新基準では産子数もそろそろいいのではないか、これに加えて子豚の活力も重要な指標として
今後改良に生かすべきだという内容である。産子数が多いということは離乳子豚数、そして最終的な出荷数に影響す
る。今までの取り組みは大多数の種豚場でサポートされている。
質を狙った種付けを
発情チェックと種付け作業はよく管理されており、どの農場にもマニュアルがある。ホルモンは使用されていない。基
本的には全て人工授精であるが、ポイントとなるのは、雄の活用法である。ノルウェーのアイディアで、「種付けの5つ
のポイント」が知られている。雄の「サプライズ効果」という雄当て法を使って離乳7日以内の種付けを達成している。雄
による押しや鳴き声などの異性効果をより刺激的に利用して母豚の発情刺激を促進する。このいわゆる「サプライズ効
果」は、離乳日(1日目)から3日目までは24時間継続し、4日目は雄との接触を中止し(すなわち種付け前の24時間
にあたる時)、5~7日目で短時間接触(背中のプレッシャーを含む)を再開し、20分以内に種付けするというもの。
離乳後7日目までにどれだけ種付けし、どれだけ分娩するかがどの農場にとっても至上命題である。デンマークでは
このことが手順よく正しく行なわれている。オーナーや場長だけでなく全社員のモチベーションが、一つになっている
からこそ成し遂げられることである。
アドバイサーを使おう
ピッグフロー、設備の設定、労務管理、財務、飼養管理、栄養、種付け管理、動物愛護関連など、あらゆる場面で技
術的なアドバイスを行なう養豚スペシャリストが活躍している。また生
産分析もこなし農場の生産効率についても得意なスペシャリスト、穀
物生産、環境そして経済などに強いスペシャリストもいる。個々の農場
は年間コンサル料金を支払って地域アドバイサリーシステムに登録し、
農場のために機能してくれる数々のコンサルタントに時間ごとに指導
料を支払って働いてもらう。これはコンサルタントが農場内だろうが農
場外だろうが働いてもらう限りは交通費などの実費も含めて農場が支
払う仕組みだ。獣医師は毎月最低1回は農場を訪問することが法律
で規定されており、農場の各種アドバイサーとも必要に応じて協議する。
アイオワの養豚専門家と懇談するデンマーク
の農家およびアドバイザーたち
離乳日令
最低離乳日令は28日である。デンマークの農場平均離
乳日数は31である。(この場合はナース母豚を使って2番
目の腹が離乳するまで最初の腹の離乳は報告されないシ
ステムになっている)。 離乳日令が延びると母豚の再発に
より代謝的にも繁殖機能的にも適正な発情をサポートできる
コンディションが整い種付けが成功しやすくなる。授乳母豚
は不断給餌で、より多くの餌を食べコンディションを維持で
きるように管理される。各腹ごとに微妙な環境コントロールは、
床暖房、ヒートランプ、保温箱などで丁寧に管理されてい
る。
離乳日令が延びると子豚がさらに大きくなり、離乳舎へ導
産子数の大きな腹はナース母豚の存在がポイントだ
入する子豚をより大きく育てることが出来る。大きな豚ほど活力があり育て易いからだ。アメリカとは違って飼料に血漿
タンパクなどを使用していないので、早期の離乳が難しい実情がある。そのため離乳日令は長く、しかも日令差が小さ
くなるように配慮されている。離乳日令の差がないと疾病圧のかかり方も免疫のギャップも最小限に抑えられる。ナー
ス母豚の利用によって離乳子豚に発生する日令差、いわゆる「あぶれ豚」の発生を抑えることが出来るが、それには
細かな努力が必要である。農場では日令の過ぎた豚の離乳、あるいは発育の進んだ豚の離乳の是非に注意を払い、
発育度合いで判断する。分娩管理者の能力が継続的でなければ、システムは回らないはずだ。
豚の移動
豚の移動には当然注意が必要で、適切なマニュアルがある。母豚の場合は受精卵の着床のデリケートな時期には
移動させない、群飼しないルールがある。グループ管理では60%以上の母豚がすでに妊娠した状態であるが、ほと
んどはストール(種場)で種付けされ、その場で4週間休息させて群飼に移動される。こうすることで着床の安定化が促
進され、胚の生存にも良いという。給餌中のストレスを出来るだけ軽減するためにエレクトロニックサウフィーダーを使
用し、実際様々なデザインの給餌ステーションが利用されている。妊娠鑑定、ワクチン、分娩舎への移動なども上手に
管理されている。
豚の飼養環境
デンマークの海洋性の気候は、米国中西部の厳しい温度差の激しい気候とはまるきり違う。そのため豚舎内でも温
度の変動が少なく換気量や設備のタイプもニーズが異なる。さらに重要なことは舎内環境の誤調整の頻度が少なくな
る。静かな換気で効率的な空気交換が出来、隙間風の発生が最小になる。季節性の不受胎期も少ない、代わって中
西部では厳しい暑さのために低受胎率の時期がさけられない。豚舎には自然光が採用され、妊娠種場は人工採光が
取り入れられていて清潔である。豚舎環境が適切であれば豚にも管理者にも適した条件になる。優しい環境がもたら
す管理者の取り組みが、長い目で見た動物の生産性に良い要因になっている印象を受ける。
アイオワ人へのメッセージ
特に変わった概念や情報はなかった。分娩舎だろうが肥育舎だろうが生産性を高めたい、離乳体重を増やしたい、
という共通の目標があれば、まずは母豚農場が先決である。離乳体重が大きければ飼料コストも節約できるし、死亡
率や出荷日令にもよくなるはずだ。離乳子豚数が多ければ子豚当りのコストも下がる。個々の農場の目標は異なって
も、豚にまずベストの管理手法を与えること、デンマークの例を参考にもう一度振り返って頑張れば、結果はおのずと
付いてくるだろう。
2006 年 12 月 グローバルピッグファーム㈱