平成 18 年 1 月号 N0.19 嶺南家畜保健衛生センター TEL、FAX 0770(45)0190 今シーズンは、各地で記録的な大雪となり、皆様方も大変な苦労をされたことと推察い たします。 昨年は、基本計画の策定、経営所得安定対策等大綱骨子の決定、WTO 農業交渉、BSE など、農政の転換と国際化が明確になった一年でした。一方、安全・安心という言葉は、 農畜産物や食料品だけに留まらず、社会現象化し、時代のキーワードとなりました。今後 とも、国民一人ひとりが社会の一員として、安全・安心な社会を実現していくという流れ に変わりはないと考えます。 この安全・安心ですが、国内での BSE の発生が契機となって定着したように感じていま す。あらためて、情報提供と手法の重要性を実感します。 現在、消費者のニーズは多様化し、また「個」の時代といわれるように、食料品におい ても「私だけのもの」、「特定の条件を満たす特定の品」を求める傾向にあると言われてい ます。しかし、多様化するニーズも、先ずは、科学的に安全であることと、そこから生じ てくる安心が確保されることが前提となります。今後も、国内畜産物に対する国民の信頼 を外すことのないように、生産者、行政、関連企業が一丸となって、消費者ニーズに応え ていくことが必要です。 本年も、よろしくお願いいたします。 <受胎率向上作戦> 今月から、牛の繁殖についの話に移りたいと思います。一口に繁殖と言っても、不妊治 療、発情・妊娠鑑定、分娩間隔の短縮、お産など広範にわたりますが、基本的なところか ら入りたいと思います。今月は、牛の繁殖生理を正しく理解するために、子宮や卵巣の機 能やしくみについて説明します。 ● 生殖器の位置。 子宮や卵巣などの生殖器が、体の中のどの部分にどのような形でついているかを、下図 に示します。図のように牛では、子宮が直腸のすぐ下にあるので、直腸の壁を介して生殖 器の触診をする直腸検査ができます。 図掲載 ● 生殖器の位置を繁殖の面から考える 牛の外陰唇は、汚れやすい所にあります。つまり、肛門のすぐ下にあることより、腟や 子宮は、常に外からの汚物の侵入という危険にさらされています。人工授精の際にも、精 液と一緒に、汚物を挿入することがないように、外陰唇は、十分に洗浄消毒しましょう。 ● 授精から分娩まで ・排卵について 排卵は、脳下垂体のホルモンの作用によ り、卵巣の細胞が変化して起こります。卵 巣に存在する卵胞は、発情の時には一層発 達します。そして、卵胞の壁が薄くなり、 図掲載 ついには、破れます。そしてその穴から卵 子が排出される現象を排卵といいます。排 出された卵子は、卵管の先端がジョウゴ状 に広がった卵管采に受け止められ卵管の中 に取り込まれます。 ・受精とは 卵子と精子が結合して受精卵となることを受精といいます。 ・受精の場所 種付け適期と判断すれば、子宮の体部または頚管の奥の方で授精を行います。発情時に 注入された精子は子宮の運動によって吸引され、卵管内に進行します。そして、受精の場 所となる卵管上部の卵管膨大部というところで、卵巣から排卵された卵子がおりてくるの を待ち構えます。 卵管膨大部で受精が成立してできた受精卵は、卵管内で分裂を続けながら、3~4 日で子 宮に下りてきます。 ・胚とは 正常な受精卵は、子宮内でどんどん発育していきます。受精から体輪郭の外観的な特徴 が確認され、胎盤の形成が完了するまでを胚といいます。 ・着床について 牛が受胎すると、私達は、“種がついた”と言います。この“つく”というのは、着床と いう専門用語からきたのだと思いますが、着床とはどのような現象をいうのか、説明しま す。 着床とは、胚が子宮壁に定着して発育することを言います。これは、受精から数えて、 12 から 14 日後以降といわれます。しかし、45 日くらいまでは、胎盤を形成せずに子宮内 に分泌される栄養分で発育します。 実質上の着床は、受精から 46 日以降に、胎児の入った袋が、子宮内にある宮阜と連結し て胎盤が形成されることを言います。胎盤の形成により、母体からの栄養供給が活発とな り、胎児が急速に発育します。 ・ 寄生生活中は御身たいせつに 胚の時期は、子宮にくっついているだけで、まだ、根が 生えていません。子宮の中で、ヤドカリのように寄生生活 をしているようなものです。胎盤が形成される本当の着床 をするまでの間に、子宮に栄養分を分泌させる黄体ホルモ ンのレベルが低かったり、子宮に異常があったりすると、 胚は死滅してしまいます。この時期の流産は、妊娠期間全 体の流産のうち約 65%を占めるといわれています。 ● 分娩事故をなくすために、和牛胚受胎牛の分娩予定日を把握しましょう 和牛の妊娠期間は 285 日とされています(乳牛では 280 日)。一方、移植される胚は受 精から 7 日かけて発育したものです。したがって、和牛胚受胎牛の分娩予定日は、“移植日 +285-7”の式から算出されます。簡単な計算方法としては、ET を実施した月から 3 を 引き、実施日に 5 を加えた日が予定日となります。7 月 7 日の移植で受胎した場合は、翌 年の 4 月 12 日が予定日となります。予定の 1~2 週間前には、産室に入れて、お産に備え たいものです。 ● 繁殖優良酪農家の妊娠率は… 全経産牛のうち 6 割以上が妊娠している酪農家は優良農家です。できれば、7割を超え たいところです。また、搾乳牛の分娩後平均日齢は 120 日以内を目標数字とします。 ★ 来月は発情周期中において生殖器が変化する様子について触れたいと思います。 (所感) ~現在、日本は、世界の中で先進主要国に位置付けられており、身の回りには食料が豊 富に存在します。そして、食に対する量的ニーズは過去の話となり、消費者は、情報・フ ァッション的ニーズを求める世の中になっています。しかし、世界には依然、8 億人弱の 飢餓人口がいるようです。一方、国内の畜産物生産体系に目を転じると、輸入穀類に大き く依存しています。世界の穀物相場を決定する米国シカゴ産トウモロコシの供給には、限 度があります。今後、人口増と経済成長を遂げる中国の家畜用飼料の輸入割合が高まると、 国内の畜産物生産量は、いっそう縮小に転じ、量的ニーズに応えることも困難になるかも しれません。拡大する遊休地の利活用、飼養管理技術の見直し、技術継承の重要性を感じ ます。~ <河合 隆一郎>
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