九州大学北海道演習林の地衣類

九州大学北海道演習林の地衣類
国立科学博物館・大村嘉人,広島大学・竹下俊治,○九州大学・久米 篤
地衣類とは
地衣類は菌類と藻類から構成される共生体で,安定した地衣体を形成するという特徴を持ちま
す.菌類は藻類を乾燥や紫外線から守るための安全な生育場所を提供し,藻類は光合成によっ
て固定した炭水化物を栄養として菌類に与えます.両者の共生関係は非常に密接で,地衣体自
身は独自に増殖・遺伝し,地衣体の形態,生理的な特徴,生育場所や分布などは,独立した1種
の生物のように扱うことができます.また.地衣類は北極から南極,高山から砂漠まで世界中に広
く分布し,都市域でも身近に観察することができるものの,その存在はなかなか気づかれません.
地衣類は主に形態と含有成分によって分類され,外形は葉状地衣類,樹枝状地衣類,固着地衣
類に大別されます.日本には約1,600種の地衣類が生育しており,植林地より自然度の高い天然
生林で種数が多くなることが経験的に知られています.これは,天然生林では,地衣類が定着で
きる様々な樹木や倒木などの表面基物が多様であることや,林冠木によるギャップ生成に伴う多
様な光環境が存在するため,様々な微環境に適した地衣類の生育可能な場が増加すること,さら
に植林地のように定期的な伐採がないことから成長速度が遅い地衣類の繁殖に適している,など
が理由として考えられています.
地衣類研究会による調査
北海道の地衣類については,阿寒岳周辺の高山帯・亜高山帯(針葉樹林)や十勝岳,釧路湿
原,厚岸地方および日高山系において調査が実施されています.九州大学北海道演習林に広
がる落葉広葉樹林には様々な地衣類が生育しており,樹木のほとんどの幹や倒木の表面には
様々な地衣類が観察されます.しかし,これらの地衣類はこれまでほとんど関心を持たれることは
なく,その種組成や多様性について調査されることもありませんでした.そこで,北海道演習林の
地衣類の多様性を明らかにするための調査も兼ねて,2009年に北海道演習林で地衣類研究会
第38回大会を開催しました.この時,観察・採集会を実施し,その際に採集された地衣類採集品 ,
および大会に先立って行われた演習林内の下見における採集品のリストを,参加者の協力を得
てまとめました.この時,同定できた標本は約90点あり,49種が 確認されました.本発表では,作
成された種組成リストと,観察会の折に撮影された生態写真を元に,北海道演習林の地衣類の多
様な世界を紹介します.なお,標本はすべて国立科学博物館(TNS)に保管されています.
引用文献:大村嘉人・竹下俊治・久米 篤(編) 九州大学北海道演習林の地衣類
地衣類研究会2009年度観察会採集記録
. ライケン 16(3) 24-28 (2010)