平成 27 年度(第 65 回)関西畜産学会大会要旨集 開催場所:愛媛県松山市樽味 3-5-7 愛媛大学農学部大講義室 日 程:平成 27 年 9 月 3 日(木)~ 9 月 4 日(金) 第 65 回関西畜産学会愛媛大会実行委員会 委員長 岡田栄一(愛媛県農林水産研究所 畜産研究センター) 副委員長 一戸俊義(島根大学生物資源科学部) 幹 事 佐伯拡三(愛媛県農林水産研究所 畜産研究センター) 幹 事 橘 哲也(愛媛大学農学部 畜産学研究室) 大会 1 日目(平成 27 年 9 月 3 日) ・評議委員会(12:00 ~ 13:00) ・総 会(13:10 ~ 13:50) 関西畜産学会賞 受賞講演 「但馬牛の遺伝的多様性評価と対策及び効率的な飼養管理に関する研究」 福島護之 会員(兵庫県立農林水産技術総合センター 北部農業技術センター) ・愛媛県主催による企画シンポジウム(14:00 ~ 15:20) テーマ「地域ブランド戦略と畜産の活性化」 司会:佐伯拡三 特別講演(3 題) 1. 青野逸志(愛媛県農林水産部 農業振興局畜産課) 「愛媛県における畜産物のブランド戦略」 2. 今井士郎(愛媛県中予家畜保健衛生所) 「媛っこ地鶏の開発と普及」 3. 淡野寧彦 氏(愛媛大学法文学部 地理学研究室) 「地理学の視点からみたブランド畜産物の特徴と課題 -銘柄豚を例に-」 総合討議 司会・進行 佐伯拡三 ・一般講演(15:30 ~ 17:40、優秀発表賞エントリー8 題の講演を行います) ・懇 親 会(18:00 ~ 20:00、優秀発表賞受賞者の報告・表彰を行います) 場所:愛媛大学農学部生協 大会 2 日目(平成 26 年 9 月 4 日) ・一般講演( 9:30 ~ 11:20) 1 平成27年度関西畜産学会賞受賞講演要旨 「但馬牛の遺伝的多様性評価と対策及び効率的な飼養管理に関する研究」 福島護之(兵庫県立農林水産技術総合センター 北部農業技術センター) 肉用牛の中でも兵庫系黒毛和種である但馬牛は、他の系統を交配しない独特の育種形態をとっ てきた。演者は、但馬牛の育種改良ならびに飼養管理に関する研究を行った。 1 但馬牛の遺伝的多様性評価と対策に関する研究 但馬牛は、永年閉鎖育種を継続してきたことによる近交係数の上昇が大きな問題となっていた。 近交係数の上昇を抑制し、産肉能力(育種価)や血統情報の利用を図るために、適正交配シミュ レーションソフトを開発し、畜産技術者や和牛繁殖農家に広く普及させた。その結果、上昇基調 であった近交係数が、22%前後で 10 年間抑制されるとともに、産肉能力の優れた子牛が多く生産 されるようになった。 また、ジーンドロッピング・シミュレーションによる系統分類手法を但馬牛に応用して、従来 の中土井系、熊波系や城崎系の雌牛も含めて系統を再編する種雄牛造成手法を開発し、新たな系 統造成を図った。ジーンドロッピングには、それ以上は遡れない始祖個体のうち遺伝子伝達過程 で消失する確立の低い個体 100 頭を選定した。次に、始祖個体 100 頭から全ての現存牛へのジー ンドロッピング・シミュレーションを実施し、この結果を主成分分析して 8 グループに分類した。 8 グループを精査したところ、第 1 主成分で正の値を示した 4 グループは従来の城崎系であった ことから、今回は 1 集団と見なし、ジーンドロッピング手法により 5 集団に分類することとした。 その結果、ジーンドロッピング手法を用いた分類を元にして、衰退しつつあった城崎系の種雄牛 が作出され、但馬牛全体としては遺伝的多様性が確保された。今後も、この手法を継続的に利用 することにより、次世代の種雄牛造成の方向性を検討している。 さらに、但馬牛集団における主流系統である中土井系に対する熊波系は、中土井系の亜系統と 考えられ、血統情報の解析だけでは系統分離が難しいことが明らかとなってきた。そこで、SNP 情報(約 62 万個)を用いた主成分分析により新たな系統分類が可能なことを提案した。この手法 2 は、適切な SNP 数の決定など検討を要する部分も残されているものの、血統情報を利用したジー ンドロッピング・シミュレーションでは対応が困難であると考えられていた全国の和牛系統を分 類する手法にも応用することが可能である。 以上、閉鎖育種を継続して行ってきた但馬牛における種々の育種手法は、多様性が急速に縮小 しつつある黒毛和種全体に応用できる手法を提案できることから、育種的には重要な研究である と考えられる。 2 但馬牛の効率的な飼養管理に関する研究 和牛大規模繁殖経営において、子牛の疾病や母牛の繁殖効率低下が大きな問題となっていた。 そこで、分娩後 7 日以内に母子を分離して飼育する超早期母子分離技術を開発した。本技術につ いて母子それぞれの飼育管理マニュアルを作成し、普及させたことにより、子牛の発育改善や母 牛の繁殖効率改善(11~12 か月 1 産)に貢献した。また、超母子分離子牛の省力管理のために、 ほ乳ロボットの使用条件を明確にし、発育良好な子牛育成技術を確立した。 子牛の初期発育に関する検討から、代用乳を 1 kg 哺乳する体系を確立したが、母乳量に換算す ると通常発育には 6 リットル/日以上の母乳を摂取する必要があることを明らかにした。このこ とは、母乳を利用する通常の飼養管理においても子牛の発育改善に代用乳を追加して管理するこ とが可能であることを示唆し、 「追加哺乳技術」開発のきっかけとなった。超早期母子分離を行う には飼養管理方法の変更や母乳利用の縮小など経営的に無駄な面もあったが、 「追加哺乳技術」に より母牛の泌乳能力に応じて子牛管理の方法を変更する簡易な修正で効率化が図れるようになり、 繁殖農家の経営改善に貢献した。 3 企画シンポジウム講演要旨-1 「愛媛県における畜産物のブランド戦略」 青野逸志(愛媛県農林水産部農業振興局畜産課) 1 えひめブランド『 「愛」あるブランド産品』 愛媛県では、愛媛の農林水産物を消費者に対し、分かりやすく、覚え やすく、伝えやすいイメージで印象付けるため、平成 14 年2月より、 統一キャッチフレーズ「愛媛県産には、愛がある。 」を付与し、消費拡 大・販売促進活動を展開してきた。当該キャッチフレーズは、県内外で 一定の知名度を得るとともに、 「愛媛県産」ということでの一般的な「安 全・安心」のイメージという点でのトータルブランドとしての位置付け が確立された。 さらに、この「愛媛県産には、愛がある。 」を基本コンセプトとし、消費者がブランドに求める「安全・安 心(人と環境への愛) 」 、 「品質(産物への愛) 」 、 「産地・特産(ふるさとへの愛) 」といった項目について、 生産者が『 「愛」を込めて作った産品』である産品を、特に、 「愛」あるブランド産品として位置付け、消費 拡大・販売促進活動を展開しているところである。 2 「愛」あるブランドの位置付け えひめブランドとしてPRを行う産品は、 本県が有数の生産地であるもの、 本県独自のものを中心として、 生産振興と販路開拓に一体的・戦略的に取り組む次のものとしている。 (1)リーディングブランド(産品) 愛媛県農林水産業の主要な産品の上級品クラス、県外市場 を中心に販路拡大が見込める産品、もしくは、愛媛県試験研 究機関等で開発した新品種や特色ある生産技術を活用して生 産されたもので、新たな需要開拓と販売拡大が期待される産 品 (2)地域特産ブランド(産品) 生産量は少量であるが、地域限定的な生産で、他にない特 徴を有する特色ある産品で、食材にこだわる料理店や愛食家 など、特定の消費者・消費地をターゲットとした販売戦略の展開が見込める産品 3 畜産物のブランド戦略 本県畜産物は、県内消費が多いものの、四国の他県に加え、高級品などは京阪神へも出荷されている。し 4 かしこれまでは、主要な産地や地域の特性を生かした他県産品などと品質的には同様な水準にあっても、同 様の価格評価は得られず、ブランド化には至っていなかった。 このため、生産から販売までの一体的なえひめブランドの構築を図り、地域の特性を生かした他県産品と の競争に打ち勝つため、これまでの作った物をどのようにして売るかというプロダクト・アウトから、売れ る商品をどのように作るかというマーケット・インへの発想の転換を図るとともに、トレーサビリティの取 り組みや飼育・処理過程における衛生管理の徹底等により、安全・安心な畜産品の生産・販売に努めている ところである。 現在では、伊予牛「絹の味」黒ラベル、愛媛甘とろ豚、ふれ愛・媛ポーク、媛っこ地鶏のリーディングブ ランドと鬼北熟成雉の地域特産ブランドを県内外で販売促進することにより、愛媛の畜産物の「安全・安心」 、 「品質」 、 「産地・特産」をPRし、本県全体の畜産物のブランド化を積極的に推進しているところである。 『参考』 愛媛の農業産出額 区 分 (単位:億円、%、位) 農業産出額 畜産 乳用牛 愛 肉用牛 豚 鶏 その他 媛 1,291 295 43 33 132 84 3 全国シェア 1.5 1.1 0.6 0.6 2.3 1.0 0.6 全 国 順 位 23 28 30 34 14 30 18 5 企画シンポジウム講演要旨-2 「媛っこ地鶏の開発と普及」 今井士郎(愛媛県中予家畜保健衛生所) 1 開発の経緯 昭和 63 年に愛媛県養鶏試験場(現:養鶏研究所)が開発した伊予路しゃも(名古屋種の雌にロードアイランド レッドの雄を交配し、生産されたF1雌にシャモの雄を交配)は、肉質は良いとされながらも大きな普及に至ら なかった。この要因は、低い育成率や飼料効率、歯ごたえのあるこだわりの肉質が鍋物等の利用に偏り、年間を 通じた需要とならず生産者の経営を圧迫したと考えられた。 そこで、平成8年度から生産効率を向上させ生産者の負担を軽減するため、伊予路しゃもの肉質を保持しなが ら早く大きく成長する経済的な肉用鶏を開発する取組みを開始した。折しも、消費者ニーズは、伊予路しゃも開 発時期のバブル経済期の高級志向から、 味も価格も地鶏とブロイラーの中間的なものを望む時代に変化していた。 2 開発の目的 伊予路しゃもは、生産者には生産効率、消費者には料理が限定される等の課題があったため、これらの課題を 克服し広く一般に流通できる鶏肉生産を目的に開発に着手した。具体的には、伊予路しゃもを活用しながら生産 性・経済効率を追求することで、生産者側は、飼育期間の短縮、出荷体重の増大、飼料効率の向上を検討するこ とで、コストを抑え、消費者に買いやすい価格で流通させること。また、消費者側には、歯ごたえと脂ののりを 改善し、幅広い料理に対応できることを検討した。 それらのことが、生産者には「飼いやすさ」 、消費者には「買いやすさ」を提供でき、開発の目的である広く一 般に、 「誰もが生産でき、誰もが食べられる鶏肉」になると考えた。 3 「媛っこ地鶏」の誕生 この間、平成 11 年に、特定 JAS 法が施行され地鶏肉や銘柄鶏肉の定義が定められたため、将来地鶏肉として流 通可能な組合せを基本に開発を展開した。その結果、平成 14 年度にその性能・肉質を現地実証試験で確認し、新 たな肉用鶏が完成した。この肉用鶏は、前述した「伊予路しゃも」の雌に、白色プリマスロックの雄を交配した ものである。この肉用鶏は、生産効率やしゃもの歯ごたえと名古屋種やロードアイランドレッドのコクと旨みを 持ち、新たに白色プリマスロックのボリュームを付加したものである。 その後、新聞広告等を通じた名称募集を行い、県内外から応募のあった中から、親しみやすさ、覚えやすさ、 地鶏のイメージなどを考慮して、平成 15 年 4 月に『媛っこ(ひめっこ)地鶏』と命名された。 その後は、愛媛県独自のブランドとして一層の生産拡大と販売促進を図り、広く県内外に発信していくため、 愛媛県が商標登録を出願し平成 17 年 11 月 25 日に登録され、愛媛県が登録した農林水産物の第一号となった。ま た、えひめ愛フード推進機構が認定する「愛」あるブランド産品にも認定されている。 4 「媛っこ地鶏」の普及方策 これまでの試験研究は完成までを成果としていたが、 「媛っこ地鶏」では、その後の普及も養鶏試験場が担当し た。まず、生産者への普及活動では、既存ブロイラー農家への普及に加え、 「飼いやすさ」から複合経営での普及 にも取り組んだ。耕作放棄地、未利用施設の有効活用、また高齢者でも生産が可能であると考え幅広く生産方策 6 を検討し、県関係機関(家畜保健衛生所、普及センター)や市町村を通じ新規生産者の掘り起こしに努めた。耕 種農家が「媛っこ地鶏」を初めて飼育する生産現場を実証展示と位置付け、見学者の受け入れや広報活動に積極 的に活用した。このことは新聞等で紹介され、その後の新規生産者の参入や普及活動に大きな影響を与えた。 また、需要の掘り起しでは、市場評価を兼ねた宣伝普及活動として、松山市内を中心にホテル、居酒屋、焼き 鳥店にサンプルを持ち込み、アンケート調査とともに取引きについて相談し、可能であれば生産者とのマッチン グを行うなどの普及活動を行った。 これら養鶏試験場の活動に併せ、平成 15 年に生産者、農業団体、流通業者等で構成する「媛っこ地鶏振興協議 会」を設立した。協議会では、雛の分譲計画、飼育基準の遵守、生産販売に関する情報交換を行うとともに、関 係機関と連携し法令や商標等の遵守徹底を会員に対して指導することで、 「媛っこ地鶏」を安全・安心とともに提 供できる活動に取り組んでいる。 5 普及の効果 現在、県内ではブロイラー専業者も含めた 27 戸で約 60,000 羽の「媛っこ地鶏」を生産しているが、生産羽数 の約 60%は個人生産者が担っている。平成 14 年の実証展示生産者も継続飼育しているほか、U ターン者、真珠養 殖業者、みかん農家、ガス会社等幅広い業種から参入が続いている。しかし、生産者が、飼育と合わせ自らが販 路開拓に取り組む必要があるため、生産拡大が飛躍的に進まない要因ともなっている。 そうした中、近年では、未利用資源や飼料用米の活用等による他産地との差別化を図る動きも出ている。それ ぞれの地域と連携した独自性のある「媛っこ地鶏」は、地域の活性化や町おこしにもつながると期待している。 また、これまでの精肉販売に加え、焼き鳥店や移動販売により自身が営業を行う生産者も現れ、一部ではある が複合経営の一作目から専業化に向けた動きも出ている。最近では、加工食品を開発し直売店を開店するなど 6 次産業化の取組みも行われている。 6 今後の取組み これまで生産羽数は増加しているものの、県ではさらなる生産拡大を目指している。専門業者での増羽もさる ことながら、これまで生産の主体を担ってきた個人生産者にも生産拡大の期待がかかるが、設備投資や周辺環境 への影響、前述した販路開拓などの理由で規模拡大には消極的であるため、今後の生産拡大には新たな産地と生 産者の育成が不可欠な状況である。 現在、当所では、平成 26 年度から管内自治体と協力しながら、新たな産地づくりに取り組んでいる。この自治 体は、四国山地のふもとに位置する高原地域であり、夏は冷涼な気候であるが冬は県内でも有数の厳寒地域であ る。また、交通の不便地であり人口流出による過疎化や高齢化の進展、耕作放棄地の増加等により産業の衰退が 深刻化しており、行政としても新たな産業起こしとその育成に力を入れている。 当所は、高齢者や条件不利地でも取り組める新たな産業として、既存施設(トマトハウス)等を活用し た「媛っこ地鶏」の生産に取組み、新たな産地化を推進することで生産拡大を実現し、新規参入者や雇用の 創出により将来的に町の産業振興に寄与できると期待している。 7 企画シンポジウム講演要旨-3 「地理学の視点からみたブランド畜産物の特徴と課題 -銘柄豚を例に-」 淡野寧彦(愛媛大学 法文学部) 1 はじめに 第二次世界大戦後の食肉消費の拡大とともに,豚肉生産を担う養豚業も急拡大を遂げた。このなかでは,鹿児 島県や宮崎県といった南九州と,千葉県,群馬県,茨城県といった東京周辺部,そして北東北から北海道,およ び愛知県などで主な産地が形成された。一方で,現在の日本の養豚業は,食肉消費量の増加停滞や安価な輸入豚 肉の急増,担い手の減少と高齢化など,様々な課題に直面している。さらに 2013 年,日本は TPP(環太平洋パー トナーシップ協定)の参加交渉に加わり,牛肉や豚肉などの一層の価格低下が現実化しつつある。 これらを背景に,近年,第一次産品の高付加価値や知名度の向上などを図ったブランド化の取り組みが活発化 している。豚肉についても,そのブランド化を目指した銘柄豚事業が多数出現している。今回は,この銘柄豚事 業に注目し,全国的な動向や主だった産地における銘柄豚事業の展開や産地間の比較などの考察を,地理学的視 点から紹介する。これとともに,ブランド化の方法や消費者への情報提示などのあり方についても,簡単に検討 したい。 2 銘柄豚事業の全国的展開 1999 年から 2014 年までに計6冊が発行された『銘柄豚肉ハンドブック』をもとに,まず掲載事業数の推移を みると,1999 年:179 件→2003 年:208 件→2005 年:255 件→2009 年:312 件→2012 年:380 件→2014 年: 398 件と年を経るごとに銘柄豚事業は増加している(※同ハンドブックに,国内の全ての銘柄豚事業が掲載されているわけで はない)。2014 年のハンドブックに掲載された全事業を合わせた銘柄豚の年間出荷頭数はおよそ 720 万頭に上り, 単純換算すれば国産豚の2頭に1頭は何らかの銘柄豚として出荷されたことになる。また事業ごとの年間出荷頭 数では,数百頭から数十万頭と大きな開きがあり,大小さまざまな経営体や組織が銘柄豚事業に取り組んでいる ことがうかがえる。銘柄豚の名称には地名が多く用いられるが,ブランドの根拠とされるのは飼料の工夫である 場合が多い。 3 主要産地における銘柄豚事業の特色 -鹿児島県と茨城県の事例- 日本最大の養豚県である鹿児島県と,国内屈指の養豚県である茨城県を対象として,銘柄豚事業の特色につい て,現地調査をもとに検討する。 鹿児島県における最も特徴的な銘柄豚事業は,黒豚 (バークシャー) 生産である。元々,鹿児島県の養豚業で は黒豚が主であったが,1960~80 年代に県内の養豚業が拡大するなかで,生産効率の良い大型雑種 (LWD 雑種) への転換が進み,黒豚は急減した。しかし 1990 年代以降,鹿児島県の豚飼養頭数が伸び悩むなか,黒豚の頭数 は次第に増加した。この背景として,一般的な品種となった大型雑種は豚肉の価格低下傾向の影響を大きく受け 8 るため,当初は飼育頭数の増加によって利益の確保が目指されたが,過密飼育による病気の発生など,より深刻 な問題が生じることとなった。そのため,グルメブームなどの影響によって品薄となり,高値で取引されるよう になっていた黒豚生産へ転じる経営体が多数出現した。さらに,鹿児島県産の黒豚がブランド豚肉として定着し た要因として,1990 年に設立された鹿児島県黒豚生産者協議会の取り組みは無視できない。主な黒豚生産グルー プと行政機関などによって構成されたこの組織は, 「かごしま黒豚」のブランド名称とその生産基準の設定や,か ごしま黒豚証明書制度,かごしま黒豚販売指定店制度などを取り決めた。また,農水省が 1999 年に「黒豚」と 明記できる豚肉をバークシャー純粋種に限るという定義を発令したことも,この協議会をはじめとする強い働き かけがあった。このような組織的なブランド管理によって,鹿児島県の黒豚の価値が向上し,養豚経営を支える 原動力となったのである。 一方で,同じく主要な養豚産地である茨城県においては,組織的なブランド化の動きはさほどみられず,個々 の経営体が独自に銘柄豚事業を行う動きが強かった。この要因として,東京や大阪等の大消費地からは遠い鹿児 島県においては,産地形成の段階から組織的な仕組みづくりが整えられた一方で,大消費地に近接する茨城県で は,個別の経営体による規模拡大や効率化が優先され,こうした気風の違いが銘柄豚事業にも色濃く反映されて いることが考えられた。以上のように,産地の違いによってブランド化の取り組みにも違いが生じることが明ら かになった。 4 ブランド化の方法や消費者への情報提示などのあり方に関する地理学的一考察 今日のように膨大かつ様々な食料が供給されるなかでは,食料の生産や流通における空間性を社会全体が認識 しづらい状態が形成されてしまっているといえる。この点について,具体例を交えながら,当日の発表にて紹介 する。 5 おわりに ブランドとは「ある売り手あるいは売り手の製品およびサービスを識別し,競合他社の製品およびサービスと 差別化することを意図した名称,言葉,サイン,シンボル,デザイン,あるいはその組み合わせ」であり, 「ブラ ンドと消費者の間の関係は,ある種の契約や協定とみることができる」(Keller,1998)。銘柄豚事業が全国的に氾 濫する中では,消費者に特別な感情を抱かせるような新たな価値の創出や,それをいかに消費者に伝えてニーズ を掘り起こすかが重要となっている。この実現には多くの困難がともなうが,生産面での効率化や耕畜連携など の新しい取り組みも進めつつ,消費者には簡潔明瞭な正しい情報を発信していくことで,生産者と消費者がブラ ンド化によって結びつくことを期待したい。 9 一般講演プログラム 1 日目( 9 月 3 日(木) 、計 13 演題、15:30 ~ 17:40、*印の 8 講演は優秀発表賞の審査対象) 座長:松井 徹(京大院農) *1-1 黒毛和種経産牛の分娩前後の血漿成分に及ぼす乾燥ニンジン給与の影響 ○谷口紗耶 1・王 蒙東1・池田俊太郎1・吉岡秀貢 2・長瀬祐士 2・北村祥子 2・糸山恵理奈 2・村上弘明 2・ 小草啓輔 3・佐藤健史 3・杉本実紀1・久米新一1(1京大院農・2 京大附属牧場・3 中部飼料) 1-2 黒毛和種子牛における哺育方法の違いが血液生化学所見と発育成績に及ぼす影響 彦田夕奈 1・○家木 一 1・丹比就一 1・山本 哲 2・稲谷憲一 2・木下政健 2 (1 愛媛県南予家畜保健衛生所・2 愛媛県畜産研究センター) 1-3 黒毛和種去勢牛の肥育期間における血清中バイオマーカー候補タンパク質量の動態 池上春香 1・松橋珠子 2・永井宏平 1・塚口智将 3・内堀 翔 3・樋口智香 3・守田昂太郎 3・小林直彦 4・ ○松本和也 1,3(1 近大生物理工・2 岐阜県畜産研究所・3 近大院生物理工・4 飛騨家畜保健衛生所) 座長:吉村幸則(広大院生物圏) *1-4 コルチコステロンはニワトリの脂肪組織トリグリセリドリパーゼ遺伝子の発現を促進する ○髙木聖子・ 杉本はるか・倉地清隆・青木達哉・實安隆興・本田和久・上曽山 博(神戸大院農) *1-5 MALDI-TOF MS イメージングを利用した腸管組織上におけるアミノ酸の動態評価法 ○高木 涼 1・山内高尚 1.2・川崎浄教 1・松本由樹 1 (1 香川大学農・2 宮崎みどり製薬) *1-6 リポポリサッカライドはニワトリヒナにおける飼料のそのう通過を抑制する ○荻野円佳 1・モハメド シャキル・イスラム カーン 2・橘 哲也 1(1 愛媛大農・2 愛媛大医) 座長:松本和也(近大院生物理工) 1-7 肥育牛脂肪組織では給与飼料によって UCP2,3 発現が変化する ○Wong Yun Yi1・山田知哉 2・金森燿平 1・重松芽衣 1・冨士本有祐 1・木田龍祐 1・喬 宇航 1・友永省三 1・ 舟場正幸 1・松井 徹 1(1 京大院農 動物栄養・2 畜草研) *1-8 水溶性ヘム鉄の給与と運動の負荷が高脂肪食給与マウスに及ぼす影響 ○勝村仁智・實安隆興・本田和久・上曽山 博(神戸大院農) 1-9 集団構造解析手法を用いた黒毛和種肥育牛のミトコンドリア DNA D-loop 領域多型による系統分類の試み 山中 颯 1,2・○安部亜津子 3・安田康明 3・長谷川清寿 3・成相伸久 3・渡部 徹1 (1松江高専情報工学・2 神戸大・3 島根県畜技セ) 座長:松本由樹(香川大農) *1-10 ウシ乳腺における水チャネルおよび密着結合分子の発現に及ぼす Estradiol の影響 ○三浦千佳 1・吉村幸則 1,2・磯部直樹 1,2(1 広大院生物圏・2 広大畜産研セ) 10 *1-11 異なる日本鶏初生ヒナの消化管粘膜に発現する抗菌ペプチド(トリβディフェンシン)の比較 ○寺田拓実 1・竹之内惇 1・都築政起 1,2,3・磯部直樹 1,2・吉村幸則 1,2,3 (1 広大院生物圏・2 広大畜産研セ・3 広大 JAB) 1-12 ヒスタミンの中枢および末梢投与によるニワトリヒナの行動の変化 ○白川 宰 1・冨田明日美 1・モハメド シャキル・イスラム カーン 2・浮穴和義 3・山根彩也夏 1・橘 哲也 (1 愛媛大農・2 愛媛大医・3 広大院総合) 座長:家木 一(愛媛県南予家畜保健衛生所) *1-13 リポ多糖の血中投与がヤギ乳房炎に及ぼす影響 ○植田 丈 1・吉村幸則 1,2・磯部直樹 1,2(1 広大院生物圏・2 広大畜産研セ) 2 日目( 9 月 4 日(金) 、計 11 演題、9:30~11:20 ) 座長:一戸俊義(島根大生物資源科学) 2-1 小規模採卵鶏農家におけるワクモ捕獲装置(i-Trap2)を用いたワクモ対策について ○片山進亮 1・E. C. Satrija 2・松本由樹 2 (1 香川県東部家畜保健衛生所・2 香川大学農学部) 2-2 Kapok (Ceiba pentranda) Fiber Filled Mite Trap as Mite Control Device in Tropical Country ○E. C.Satrija1, 2, T. Kondo3, N. Kunikata1, Y. Kayahara4, Y. Matsumoto1 (1 Faculty of Agriculture, Kagawa University, 2 Faculty of Veterinary Medicine, Bogor Agricultural University, Indonesia, 3 Kondo Electronics Co., Ltd., 4 Kagawa Prefecture Livestock Experimental Station) 2-3 牧草サイレージを多給した乾乳牛と泌乳牛のメタン発生量と可消化 ADF 摂取量の関係 ○久米新一(京大院農) 座長:安部亜津子(島根県畜産技術センター) 2-4 種々の牛肉サンプルの味覚センサーによる客観的呈味性分析について ○趙 婭楠1・西田昌弘1・中田悠介1・上田修司1・羽原正秋2・池崎秀和2・山之上 稔1 (1神戸大院農・2(株)INSENT) 2-5 牛肉中のミネラル濃度と肉質の関連 ○北川貴志 1・青木義和 1・飯田文子 2・友永省三 3・舟場正幸 3・松井 徹 3 (1 滋賀畜技セ・2 日本女大家政・3 京大院農) 2-6 牛乳におけるガスクロマトグラフ質量分析計を用いたメタボローム解析の検討 ○友永省三・西浦 誠・矢野純司(京大院農) 11 座長:久米新一(京大院農) 2-7 黒毛和種去勢肥育牛に給与した微細断高糖分飼料稲 WCS 混合発酵 TMR の消化率 ○福馬敬紘 1・河野幸雄 1・城田圭子 1・神田則昭 1・岸本一郎 1・新出昭吾 1・高橋仁康 2・ 岡嶋 弘 3・北中敬久 3(1 広島総技研畜技セ・2 近中四農研・3(株)タカキタ) 2-8 バンカーサイロを用いた極短穂型イネの WCS 調製 ○河野幸雄 1・福馬敬紘 1・城田圭子 1・神田則昭 1・岸本一郎 1・新出昭吾 1・高橋仁康 2・ 岡嶋 弘 3・北中敬久 3 (1 広島総技研畜技セ・2 近中四農研・3(株)タカキタ) 座長:友永省三(京大院農) 2-9 ワイン濾過残渣の給与が肥育後期豚の発育と栄養素消化に及ぼす影響 ○川﨑淨教・高木 涼・矢野公伸・松本由樹(香川大農学部) 2-10 インターロイキンの中枢および末梢投与がニワトリヒナの摂食行動に与える影響 児玉朋代 1・モハメド シャキル・イスラム カーン 2・○橘 哲也 1 (1 愛媛大農・2 愛媛大医) 座長:本田和久(神戸大院農) 2-11 粗飼料主体の飼料を給与した育成メンヨウにおける窒素蓄積と組織への栄養素供給量との関連 ○金 多慧 1・崔 基春 2・小田伸一 3・萩野顕彦 4・岡田 太 5・宋 相憲 6 ・一戸俊義 6 (1 鳥取連大・2 韓国国立畜産科学院・3 岩手大農・4 東北大院農・5 鳥取大医・6 島根大生資) 12 1-1 黒毛和種経産牛の分娩前後の血漿成分に及ぼす乾燥ニンジン給与の影響 ○谷口紗耶 1・王 蒙東1・池田俊太郎1・吉岡秀貢 2・長瀬祐士 2・北村祥子 2・糸山恵理奈 2・ 村上弘明 2・小草啓輔 3・佐藤健史 3・杉本実紀1・久米新一1(1京大院農・2京大附属牧場・3 中部飼料) 【目的】高泌乳牛では分娩前後の栄養管理に関する研究が進展し、分娩前後の血漿成分の変動要因は数多く報告されているが、黒 毛和種繁殖牛の分娩前後の血漿成分の変動については不明なことが多い。本研究ではサイレージ主体で飼養した黒毛和種経産牛に β-カロテンを多量に含有した乾燥ニンジンを給与し、経産牛の血漿成分と初乳成分に及ぼす乾燥ニンジン給与の影響を検討した。 【方法】イタリアンライグラスサイレージ主体で飼養した黒毛和種経産牛 11 頭を対照区および乾燥ニンジン区に割り当てて、乾燥ニ ンジン区では分娩予定日の 3 週間前から分娩日まで乾燥ニンジンを 300g/日(β-カロテンとして 138mg/日)給与し、分娩予定日の 10 日前に血漿を、また分娩直後に血漿と初乳を採取した。血漿と初乳中β-カロテンとビタミンAを HPLC 法で、血漿一般成分を臨 床化学自動分析装置で測定した。【結果】繁殖牛の血漿および初乳中β-カロテンには乾燥ニンジン給与による影響は認められなか ったが、乾燥ニンジン区の分娩直後の血漿β-カロテン含量は 475μg/dL と対照区の 378μg/dL よりも高い値であった。乾燥ニンジ ン区の分娩 10 日前の血漿遊離脂肪酸、総タンパク質および尿素態窒素濃度は対照区よりも低かった(P<0.05)が、経産牛の分娩直後に おける血漿ビタミンA、グルコース、コレステロール、遊離脂肪酸、総タンパク質、尿素態窒素、カルシウムおよび無機リン濃度に は乾燥ニンジン給与による影響は認められなかった。分娩 10 日前の血漿成分と比較すると、分娩直後に血漿遊離脂肪酸(P<0.05)お よび総タンパク質(P<0.05)濃度が上昇したが、血漿ビタミンA(P<0.05)、コレステロール(P<0.05)、カルシウム(P<0.001)お よび無機リン(P<0.05)濃度は低下した。 1-2 黒毛和種子牛における哺育方法の違いが血液生化学所見と発育成績に及ぼす影響 彦田夕奈 1・○家木 一 1・丹比就一 1・山本 哲 2・稲谷憲一 2・木下政健 2 (1 愛媛県南予家畜保健衛生所・2 愛媛県畜産研究センター) 【目的】受精卵移植による和牛生産は増殖速度の向上や資質の均一化を図る上で有効な手段であるが、乳牛への受精卵移植で生産さ れた黒毛和種子牛(和子牛)は代用乳給与による人工哺育で飼養されるため、母乳で育つ自然哺育よりも細かな栄養管理が求められ る。しかし、人工哺育で飼養された和子牛では発育性の低さが指摘されており、哺育方法の違いによって子牛の栄養状態に差が生じ ている可能性もある。そこで演者らは、フィールドで飼養される哺育期和子牛の血液生化学検査と発育調査を行い、血液生化学所見 から人工哺育牛(BF)と自然哺育牛(MF)の栄養状態を比較するとともに、発育成績に及ぼす影響について検討した。 【方法】調査は、 愛媛県内の和牛繁殖農家 3 戸と酪農家 17 戸で飼養された BF:34 頭(平均日齢 20.1 日)および MF:13 頭(平均日齢 20.2 日)につい て実施した。血液生化学検査は、朝哺乳の 2~3 時間後に頸静脈から採材した血液の血清部を分析に供し、乾式分光光度計(富士ドラ イケム 4000V)によりグルコース(Glu) 、総コレステロール(T-Cho) 、総タンパク質(TP) 、アルブミン(Alb) 、尿素態窒素(BUN) 、 グルタミン酸-オキサロ酢酸転移酵素(GOT) 、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT) 、カルシウム(Ca)を測定した。調査牛 のうち、愛媛県南予北部地域で生産された BF:23 頭(平均日齢 20.7 日)および MF:13 頭(平均日齢 20.2 日)について、体重(BW) と体高(WH)を測定した。日齢差の影響を排除するため、BW および WH を調査時の日齢で除した BW/D および WH/D により、子牛の発 育成績を評価した。 【結果】血液生化学所見では、BF の Glu、TP および Ca 濃度が MF よりも有意に低い値を示した(Glu と TP;P<0.01、 Ca;P<0.05) 。また発育成績については、雌雄ともに BF の BW/D が MF よりも有意に低い値を示した(P<0.05) 。以上のことから、フ ィールドにおいて人工哺育で管理された和子牛は自然哺育に比べて栄養水準が低く、その差は発育成績にも影響する可能性が示唆さ れた。 13 1-3 黒毛和種去勢牛の肥育期間における血清中バイオマーカー候補タンパク質量の動態 1 池上春香 ・松橋珠子 2・永井宏平 1・塚口智将 3・内堀 翔 3・樋口智香 3・守田昂太郎 3・小林 直彦 4・○松本和也 1,3 (1 近大生物理工・2 岐阜県畜産研究所・3 近大院生物理工・4 飛騨家畜保健衛生所) 【背景】現在、我々は科学的根拠に基づいて肥育中にと畜時の枝肉形質の状態を早期に予測診断する方法を確立するために、肥育期 間中にと畜時の枝肉形質を予測するバイオマーカーの開発を進めている(日本畜産学会報 83(3), 2012、86(2), 2015 他) 。本研究 では、と畜時の枝肉形質を予測するバイオマーカー候補タンパク質について肥育期間中の動態を調べた。 【方法】岐阜県で平成 22 年 1 月~5 月に肥育導入した黒毛和種去勢牛 30 頭から、肥育開始後 2 ヶ月毎に採取した血清を供試材料とした。これまでにプロテオー ム解析によって同定したバイオマーカー候補タンパク質 7 種類について、それぞれの血清中の量を定量して、肥育期間中の動態を調 べた。さらに、肥育過程の血清中バイオマーカー候補タンパク質の定量値と、と畜時の枝肉形質(枝肉重量,ロース芯面積,皮下脂 肪の厚さ,BMS ナンバー)との関連性を比較・検討した。 【結果】血清中の各タンパク質の動態を調べた結果、2 種類は肥育開始後 1 ~3 ヶ月目に一時的な変動が示され、一方 3 種類は肥育初期から中期にかけて量が増加する傾向が認められた。これらの血清中タン パク質量と、と畜時の枝肉形質を比較検討した結果、と畜時の皮下脂肪の厚さや BMS ナンバーの上位個体群と下位個体群に差を示す 傾向が認められた。 【考察】肥育開始後 1~3 ヶ月目においてタンパク質量が変動するタンパク質は、その変動とと畜時の枝肉形質に 関連は見られず、肥育開始後の環境の変化に応答した結果一時的に量が変化したものと考えられた。一方、肥育中期において枝肉形 質の上位個体群で血清中タンパク質量に特徴ある動態を示したタンパク質は、肥育期間中にと畜時の枝肉形質を予測診断することが 可能なバイオマーカーであることが示唆された。※本研究の一部は、JRA・畜産振興事業で実施した。 1-4 コルチコステロンはニワトリの脂肪組織トリグリセリドリパーゼ遺伝子の発現を促進する ○髙木聖子・杉本はるか・倉地清隆・青木達哉・實安隆興・本田和久・上曽山 博(神戸大院農) 【目的】家禽産業においては、ブロイラーの体脂肪の過剰蓄積とそれに基づく脂質代謝異常の頻発が問題となっている。しかしなが ら、ニワトリの脂肪組織トリグリセリド(TG)代謝調節機構については未だ不明な点が多い。哺乳動物においては、リポプロテイン リパーゼ(LPL)及び脂肪組織 TG リパーゼ(ATGL)が、脂肪組織における TG 代謝調節において重要な役割を果たすとされている。 本研究では、ニワトリ脂肪組織における TG 代謝調節の分子機構を明らかにする目的で、ブロイラーの脂肪組織における LPL 及び ATGL 遺伝子の発現調節機構について調べた。 【方法】実験 1:6 時間の絶食が、10 日齢のブロイラーの腹腔内脂肪組織における LPL 及び ATGL の mRNA 量、並びに血漿コルチコステロン濃度に及ぼす影響について調べた。実験 2:培地への終濃度 3μM のコルチコ ステロンの添加が、ブロイラーの初代遊離脂肪細胞の LPL 及び ATGL の mRNA 量に及ぼす影響について調べた。実験 3:2 mg/kg 体 重のコルチコステロンの経口投与が、10 日齢のブロイラーの腹腔内脂肪組織における LPL 及び ATGL の mRNA 量に及ぼす影響につ いて調べた。 【結果】実験 1:絶食により、脂肪組織における LPL mRNA 量は有意に減少し、ATGL mRNA 量は有意に増加した。又、 血漿コルチコステロン濃度は絶食により有意に上昇した。 実験 2:コルチコステロンの培地への添加は、 脂肪細胞における ATGL mRNA 量を有意に増加させたが、LPL mRNA 量には影響しなかった。実験 3:コルチコステロンの経口投与は、 脂肪組織における ATGL mRNA 量を有意に増加させたが、LPL mRNA 量には影響しなかった。これらの結果から、ブロイラーの脂肪組織における ATGL 遺伝子の発 現は、コルチコステロンによって上向き調節されることが示唆された。 14 1-5 MALDI-TOF MS イメージングを利用した腸管組織上におけるアミノ酸の動態評価法 ○高木 涼 1・山内高尚 1.2・川崎浄教 1・松本由樹 1(1 香川大学農・2 宮崎みどり製薬) 【目的】家禽の腸管における栄養吸収を光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて形態学的に評価してきたが、形態学的データだけでなく、 生理学的データを含めて「機能と形態」を評価する手法が必要となってきつつある。マトリクス支援型レーザー脱離イオン化法-飛行 時間型質量分析計(MALDI-TOF MS)イメージングは組織上で質量ごとのマッピングが可能であり、栄養成分の質量に着目することで栄 養成分を可視化することを目指している。本研究では木酢酸炭化粉末(WCV)を添加したブロイラー腸管をサンプルとして、MALDI-TOF MS を用いてアミノ酸ごとのマッピングを行い、アミノ酸ごとの動態を追跡することを目的とした。 【方法】雄ブロイラーを用いて対 照区(WCV0%)と実験区(WCV0.8%、1.0%、1.2%)の 4 区を設けた。49 日齢で十二指腸・空腸・回腸を所定の方法で採取し、パラフィン包 埋した。薄切した 10um 切片を予め、酸化インジウムスズ(ITO)コートしたスライドガラスにのせ、キシレンによる脱パラフィンの後、 デシケータにて乾燥させ、30mg/ml ジヒドロキシ安息香酸(DHB)in Methanol/0.2%TFA(1:1)を image prep(Bruker)にて噴霧し、 Ultraflextreme(Bruker)を用いて腸管組織上のアミノ酸マッピング解析を行い、WinROOF(Mitani)を用いて数値化を行った。 【結果】 1.0%WCV 区で組織中のアミノ酸局在が対照区に比べて減少傾向を示した。WCV を 1.0%添加して飼育することにより、筋肉中のコラー ゲン量の増加や卵殻膜の厚さが厚くなることが報告されており、本実験の結果は腸管において吸収されたアミノ酸が速やかに輸送さ れ、標的臓器に輸送されたことによるものと考えられた。以上、MAKDI-TOF MS を用いることで各アミノ酸の栄養吸収状態を可視化で きると示唆された。現在、トリプシン処理を行った切片による MS/MS 解析や切片からの RNA 抽出によるトランスポーターの発現量の 比較を行っている。 1-6 リポポリサッカライドはニワトリヒナにおける飼料のそのう通過を抑制する ○荻野円佳 1・モハメド シャキル・イスラム カーン 2・橘 哲也 1(1 愛媛大農・2 愛媛大医) 【目的】グラム陰性菌の細胞壁外膜成分であるリポポリサッカライド(LPS)は、内毒素として様々な生理反応を引き起こす。例えば 哺乳類に LPS を末梢投与すると免疫反応の誘発や摂食行動の抑制、飼料の消化管通過の抑制等が生じる。ニワトリでも同様の研究が されているが、LPS が飼料の消化管通過に与える影響は明らかにされていない。そこで本研究では LPS の腹腔内投与がニワトリヒナ の飼料のそのう通過にどのような影響を与えるかを調べた。 【方法】本研究には 7 または 8 日齢の白色レグホンオスヒナを供試した。 (実験 1)15 時間絶食させたヒナに LPS を腹腔内投与し、その直後に飼料をそのう内に経口投与した。その 1 または 2 時間後にその うを摘出し、そのう内の残存飼料重量を調べることで飼料のそのう通過率を算出した。 (実験 2)LPS が作用する時間を調べるため、 LPS の腹腔内投与のみ実験 1 よりも 3 時間早めた場合のそのう通過率を調べた。 (実験 3)ニワトリでは LPS の投与がコルチコステロ ン(CORT)およびプロスタグランジン E2(PGE2)の分泌を促すことが明らかにされている。そこで、これらの物質をヒナに腹腔内投 与した後の飼料のそのう通過率を調べた。 【結果】 (実験 1)LPS は飼料経口投与 1 時間後にはそのう通過率に影響を与えなかったが、 2 時間後には通過率を有意に低下させた。 (実験 2)実験 1 よりも 3 時間早く LPS を投与した場合では、飼料経口投与 1 時間後から通 過率が有意に低下した。 (実験 3)LPS と同様に、CORT および PGE2 の投与はそのう通過率を有意に低下させた。以上のことから、LPS はヒナにおける飼料のそのう通過を抑制することが明らかとなった。また、CORT および PGE2 が LPS による飼料のそのう通過抑制に 関わっている可能性を見出した。 15 1-7 肥育牛脂肪組織では給与飼料によって UCP2,3 発現が変化する 1 2 ○Wong Yun Yi ・山田知哉 ・金森燿平 1・重松芽衣 1・冨士本有祐 1・木田龍祐 1・喬 宇航 1・友永省三 1・舟場正幸 1・ 松井 徹 1(1 京大院農 動物栄養・2 畜草研) 【目的】エネルギーを脂肪として蓄積する機能を有する白色脂肪細胞とは対照的に、褐色脂肪細胞はエネルギーを熱として散逸する。 これは、褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜ではプロトンチャネルである UCP1 が発現し、ミトコンドリアマトリックスへのプロト ン流入と ATP 産生の共役が阻害されることに起因する。我々は、これまでに、肥育牛の白色脂肪組織における UCP1 発現レベルは 給与する飼料によって変動することを明らかにしている。 脱共役活性を有するタンパク質には UCP1 以外にUCP2 やUCP3 もある。 今回、飼料条件の違いが肥育牛白色脂肪組織中の UCP2 ならびに UCP3 発現に及ぼす影響を検討した。 【方法】 (実験 1)10 ヵ月齢 の黒毛和種去勢牛 8 頭を 4 頭ずつ 2 区-粗飼料多給区(TDN ベースで粗:濃=35:65)あるいは濃厚飼料多給区(粗:濃=10:90) -に分け、30 ヵ月齢に白色脂肪組織(腰部皮下脂肪ならびに腸間膜脂肪)を採取し、UCP2 ならびに UCP3 の遺伝子発現をリアル タイム RT-PCR 法により測定した。補正遺伝子は Hprt1 とした。 (実験 2)10 ヵ月齢の黒毛和種去勢牛 8 頭をビタミン A 栄養の異な る 2 区-発酵TMR を給与した対照区、 あるいは、 オーチャードグラス乾草と市販配合飼料を給与したビタミン A 欠乏区-に分けた。 採材等は実験 1 と同様とした。 【結果】 (実験 1)皮下脂肪における UCP2 発現は、濃厚飼料多給区の方が有意に高かった一方、UCP3 発現に違いは認められなかった。 (実験 2)腸間膜脂肪における UCP2 発現は、ビタミン A 欠乏区の方が高かった。先行研究におい て、濃厚飼料多給時には皮下脂肪における UCP1 発現が亢進する一方、ビタミン A 欠乏飼料給与により、腸間膜脂肪における褐色脂 肪細胞関連遺伝子群の発現が亢進することが明らかにされている。この結果と併せて考えると、これらの白色脂肪組織では脱共役タ ンパク質の発現は給与される飼料によって変化することを示している。 1-8 水溶性ヘム鉄の給与と運動の負荷が高脂肪食給与マウスに及ぼす影響 ○勝村仁智・實安隆興・本田和久・上曽山博(神戸大院農) 【目的】我国においては、家畜から得られる屠畜血液はその殆どが廃棄されている。ヘム鉄は屠畜血液から製造される鉄分補給用の 機能性素材であるが、その消費量は未だ少ない。それ故、ヘム鉄に鉄分補給以外の新たな機能性を見出し、その消費量を増加させる ことができれば、現在廃棄されている屠畜血液の有効利用につながると判断される。これまでに、我々は水溶性ヘム鉄の給与が高脂 肪食給与マウスの内臓脂肪蓄積を抑制する可能性を報告している。本研究では、ヘム鉄給与と運動負荷の併用が高脂肪食給与マウス の体脂肪蓄積に及ぼす影響について調べた。 【方法】5 週齢の ICR マウスを平均体重が等しくなるよう 14 匹ずつ 2 群に分け、高脂肪 食、或いは、3%の水溶性ヘム鉄を添加した高脂肪食を 4 週間に渡り給与した。この間、トレッドミルを用いて、各試験飼料給与群の 半数のマウスに運動を負荷し、体重を週に 1 回、摂食量を週に 2 回測定した。4 週間後、24 時間絶食し、イソフルラン麻酔下で腹部 大静脈より採血した。血漿を分離後、血漿中のグルコース濃度、遊離脂肪酸、及び中性脂肪の濃度を測定した。また、肝臓、精巣上 体周囲脂肪組織、腎周囲脂肪組織、及び腓腹筋を摘出し、その重量を測定した。 【結果】体重、摂食量、血漿中のグルコース、遊離脂 肪酸、及び中性脂肪の濃度にはヘム鉄給与及び運動負荷の影響は見られなかった。精巣上体周囲脂肪組織重量はヘム鉄給与により減 少する傾向を示した。また、腎周囲脂肪組織重量は運動によって有意に減少した。肝臓及び腓腹筋の重量にはヘム鉄給与及び運動負 荷の影響は見られなかった。これらの結果から、ヘム鉄の給与と運動負荷は、異なる部位の脂肪組織重量を減少させる可能性が示さ れた。 16 1-9 集団構造解析手法を用いた黒毛和種肥育牛のミトコンドリア DNA D-loop 領域多型による系統分類の試み 山中 颯1,2・○安部亜津子3・安田康明3・長谷川清寿3・成相伸久3・渡部 徹1 (1松江高専情報工学・2神戸大・3 島根県畜技セ) 【目的】これまでに、黒毛和種肥育牛のミトコンドリア DNA (mtDNA) D-loop 領域から、クラスター分析によって系統を分類し、枝 肉成績との関連を検討したが、系統による明確な効果は得られなかった(日畜第 101 回大会) 。今回、新たな解析手法である集団構造 解析を mtDNA による系統分類へ適用し、系統と枝肉成績との関連を調査した。 【方法】解析データとして、種雄牛 A から生産され た黒毛和種去勢肥育牛 162 頭の mtDNA D-loop 領域(15921-78bp)の塩基配列情報および枝肉成績(枝肉重量、ロース芯面積、 ばらの厚さ、皮下脂肪の厚さ、歩留基準値および BMS No.)を用いた。各個体の塩基配列は、Anderson ら(1982)が報告した配列と 比較して SNPs を検出し、STRUCTURE2.3.4 を用いて集団構造解析を行った。その結果に基づいて、対象個体を系統に分類し、枝 肉成績に対する系統の効果を分散分析により検討した。系統間の多重比較検定は Tukey-Kramer 法により行った。 【結果】対象個体 群には 27 タイプの mtDNA 型が存在し、集団構造解析によって 5 つの系統(A~E)に分類された。枝肉形質のうち、歩留基準値に おいて、系統による有意な効果が認めら(P<0.05) 、系統 C がその他の系統に対して有意に低かった(P<0.05) 。また、BMS No.は、 系統により異なる傾向がみられ(p<0.1) 、系統 C がその他の系統に対して高かった。これらのことから、mtDNA で分類された系統 間で、肉量および肉質に関わる遺伝的特性が異なることが示唆された。 1-10 ウシ乳腺における水チャネルおよび密着結合分子の発現に及ぼす Estradiol の影響 ○三浦千佳 1・吉村幸則 1,2・磯部直樹 1,2(1 広大院生物圏・2 広大畜産研セ) 【目的】乳腺上皮細胞は乳汁の産生のみならず抗菌因子の合成・分泌も担っており、乳腺における免疫機能に重要な役割を果たして いる。我々は、Estradiol(E2)が培養ウシ乳腺上皮細胞における抗菌因子の mRNA 発現およびタンパク質分泌量に影響を及ぼさない ことを報告した。しかし、E2 によって乳量が減少すれば、抗菌因子の濃度が増加し、乳腺における抗菌作用が増進すると思われる。 乳量には、水チャネルおよび上皮細胞間の密着結合が影響していると考えられるが、これらと E2 との関係はわかっていない。そこで 本実験では、このことを検討する。 【方法】 《実験 1》乳牛(n=4)に Prostaglandin F2製剤を 2.5 ml 筋肉注射し、その翌日から Estradiol benzoate (EB) 2 mg/ml を 4 日間毎日筋肉注射した。投与開始から 11 日間、1 日 2 回乳汁を採取し、乳量を測定した。 《実験 2》乳牛 から採取した乳汁中の乳腺上皮細胞を培養・増殖させた後、培地に E2(0、0.01、1 ng/ml)を添加して、24 時間培養した。その後、 全 RNA を採取し、リアルタイム PCR で水チャネル(AQP6、7)および密着結合分子(Claudin-1、-3・4・9、-6、Occuludin、ZO-1、JAM-1) の mRNA 発現を調べた。 【結果】 《実験 1》EB 投与開始日と比べて翌日の乳量が有意に減少したが、その後、投与前の乳量に戻った。 《実 験 2》培養乳腺上皮細胞における AQP6 の mRNA 発現は E2 添加と無添加との間に有意な差はなかったが、AQP7 の発現は 1 ng/ml E2 添加 区で無添加区より有意に低かった。Claudin-1 の mRNA 発現は 0.01 および 1 ng/ml E2 添加区において、Claudin-6 の mRNA 発現は 0.01 ng/ml E2 添加区において無添加区と比べて有意に減少した。以上の結果より、E2 は乳量を減少させると考えられ、これは乳腺上皮細 胞の水チャネルおよび密着結合分子の発現の減少が関与していると示唆された。 17 1-11 異なる日本鶏初生ヒナの消化管粘膜に発現する抗菌ペプチド(トリβディフェンシン)の比較 ○寺田拓実 1・竹之内惇 1・都築政起 1,2,3・磯部直樹 1,2・吉村幸則 1,2,3 (1 広大院生物圏・2 広大畜産研セ・3 広大 JAB) 【目的】日本鶏は我が国で造成・維持されてきた鶏資源であり、外来鶏と交配し主に肉用鶏に使用されている。日本鶏には我が国の 環境に適した抗病性が期待されるが、抗病性特性の情報は少ない。抗菌ペプチドのトリβディフェンシン(AvBD)は AvBD1 から 14 まで の分子種が同定されており、多様な微生物に作用する。本研究では、日本鶏の抗病性特性の比較を目的に、自然免疫応答で抗菌作用 を示す AvBD に着目し、異なる日本鶏種の消化管粘膜における AvBD 発現を RT-PCR 解析で比較した。 【方法】供試鶏には土佐地鶏,比 内鶏,大軍鶏、チャンキー・ブロイラー(対照;福田種鶏場 岡山)の初生ヒナを用いた。腺胃,回腸,盲腸,ファブリキウス嚢(BF)を 採取し、各組織から全 RNA を抽出し、cDNA を合成後、AvBD1-14 発現を PCR 解析した。各日本鶏の種卵は広島大学日本鶏資源開発プ ロジェクト研究センターから分与されたものを使用した。 【結果】チャンキーにおいて、腺胃では AvBD1, 2, 4, 7, 10,回腸では AvBD1, 2 ,4, 7, 10, 盲腸では AvBD1, 2, 4, 6, 7, 10,BF では AvBD1, 2, 4, 6, 7, 10 の発現が検出された。これと比較し、土佐地鶏で は腺胃で AvBD1, 2, 4, 6, 7, 10、比内鶏では回腸で AvBD10、大軍鶏では腺胃で AvBD1, 2, 4, 6, 7, 10 という異なった発現パター ンが検出された。このことから日本鶏間の消化管粘膜において、AvBD の発現様式はほぼ同一であるが、一部で多様性が存在すること が示唆された。 1-12 ヒスタミンの中枢および末梢投与によるニワトリヒナの行動の変化 ○白川 宰 1・冨田明日美 1・モハメド シャキル・イスラム カーン 2・浮穴和義 3・山根彩也夏 1・橘 哲也 1 (1 愛媛大農・2 愛媛大医・3 広大院総合) 【目的】生理活性アミンであるヒスタミンは炎症反応やアレルギー反応の発現に関わるとともに、神経伝達物質として働くことが知 られている。これらに加え、ヒスタミンは哺乳類の摂食行動を抑制するなど様々な行動に影響を与えることが明らかにされている。 一方、ニワトリにおいては、ヒスタミンが摂食行動を抑制することが報告されているものの、その他の行動にどのような影響を与え るかは明らかにされていない。そこで、本研究ではヒスタミンの中枢投与および末梢投与がヒナの行動にどのような影響を与えるか を調べた。 【方法】 (実験 1)白色レグホン雄ヒナにヒスタミンを脳室内または腹腔内投与した後の摂食量の変化を調べた。 (実験 2) ヒナにヒスタミンを脳室内または腹腔内投与した後 30 分間のヒナの活動量を自発運動量測定装置にて測定した。また、ヒナのケージ の正面にデジタルビデオを設置してヒナの行動を撮影し、ヒナの行動を分類した。 (実験 3)条件付け嫌悪試験を行い、ヒスタミンの 脳室内および腹腔内投与がヒナに嫌悪感を引き起こすかを調べた。 【結果】 (実験 1)いずれの投与においても、ヒスタミンはヒナの 摂食量を低下させた。 (実験 2)ヒスタミンの脳室内投与により鳴き声の回数が増加し、足による毛繕いの回数が減少した。一方、腹 腔内投与では自発運動量、立位時間および嘴による毛繕いの回数が減少し、座位時間が増加したことから、ヒスタミンはヒナの行動 に影響を与えること、またその作用は中枢と末梢で異なることが明らかとなった。 (実験 3)いずれの投与もヒナに嫌悪感を引き起こ さなかったことから、ヒスタミンによる行動の変化は嫌悪感によるものではないことが明らかとなった。 18 1-13 リポ多糖の血中投与がヤギ乳房炎に及ぼす影響 1 ○植田 丈 ・吉村幸則 1,2・磯部直樹 1,2(1 広大院生物圏・2 広大畜産研セ) 【目的】乳房炎は、微生物が乳頭口を通して乳房へ侵入することで発症すると考えられている。分娩後の乳牛では濃厚飼料の多給に より、ルーメン内で揮発性脂肪酸 (VFA) が過度に産生されることによって pH が低下することがある。すると、ルーメン内のグラム 陰性細菌が死滅し、その細胞壁成分であるリポ多糖(LPS) が放出され、血中に移行すると言われている。血液中の LPS が乳腺に移行 すれば、乳房炎を発症する可能性があると考えられる。そこで本研究では、血液中の LPS が乳房炎を誘起するかどうか調べることを 目的とした。 【方法】広大附属フィールド科学教育研究センターで飼育されている雑種メスヤギに、LPS 0.25 mg 添加生理食塩水 1 ml (9 頭) あるいは生理食塩水のみ 1 ml (10 頭) を頸静脈に投与した (この日を Day0 とした)。投与前日 (Day-1) および Day1 から 7 では 1 日に 2 回、 Day0 では LPS 投与 0 から 12 時間後まで 2 時間おきに乳汁を採取し、 乳量、 体細胞数 (SCC)、 ラクトフェリン (LF) 濃度、ラクトペルオキシダーゼ (LPO) 活性を測定した。血液は Day-1 から Day2 まで採取し、血液中白血球数を測定した。また、 LPS 投与 3 および 24 時間後のヤギから採取した乳房組織のパラフィン切片を作成し、LPS の免疫染色を行った。 【結果】LPS 投与 から 3 および 24 時間後の乳腺組織を免疫染色した結果、いずれの時間においても LPS の陽性反応が確認できた。血液中白血球数は LPS 投与時と比較して LPS 投与 2 から 12 時間後まで有意に低下した。乳量は LPS 投与時と比較して Day0 の 6 時間から Day2 ま で有意に低下した。乳中 SCC は Day1 の夕方には 100 万/ ml 以上と LPS 投与時に比べて有意に上昇した。LF 濃度については Day3 で、LPO 活性については LPS 投与後 8 時間以降で LPS 投与時に比べて、有意に上昇した。以上の結果から、血中の LPS は乳腺組 織内に侵潤し、乳房炎を起こすことが明らかとなった。 2-1 小規模採卵鶏農家におけるワクモ捕獲装置(i-Trap2)を用いたワクモ対策について ○片山進亮 1・E. C. Satrija 2・松本由樹 2 (1 香川県東部家畜保健衛生所・2 香川大学農学部) 【目的】段ボールを利用したワクモ防除対策を実施していた管内の小規模採卵鶏農家において、防除効果が期待できず、死鶏が急増 した。そのため、ワクモ捕獲装置(i-Trap2)を用いたワクモ対策を施し、その効果を検証するとともに段ボールの効果が上手く現れな かった原因を考察し、効果的なワクモ対策の進め方について検討をした。 【方法】死鶏が特に多いエリアを4つに区分し、それぞれに i-Trap2 を設置し、捕獲数をカウントした。また、i-Trap2 によるワクモ捕獲の開始から 2 週間は段ボールも従来どおり設置し、効果 の差を検証した。さらに、3 週間後には i-Trap2 でのワクモ捕獲数が減少したため、忌避成分の木酢液(宮崎みどり製薬株式会社製) を鶏に散布し、捕獲数の変化を調査した。 【結果】i-Trap2 によるワクモの捕獲により、死鶏が急激に減少した。木酢液の併用により ワクモ捕獲数が向上したことから、鶏への吸血防止効果とともに、ワクモの早期排除に効果的と考えられた。また、設置された段ボ ールにはワクモが往来している痕跡が多数見られ、ワクモの誘因・捕獲に一定の効果が見られたと考えられるが、同時に、設置によ って新たな活動拠点が増加する危険性が示唆された。今回、段ボールによる捕獲が上手くいかなかった原因として、i-Trap2 ではワク モの捕獲が視覚的に分かりやすいのに対し、段ボールではワクモの存在が視覚的に分かりづらく、段ボール回収のタイミングが合わ なかったことが考えられた。こうした場合、段ボールがワクモの繁殖を助長し、設置箇所を中心とした鶏への被害が増幅される可能 性があるため、畜主への十分な説明が必要と考えられる。そのため、ワクモ捕獲数を視覚的に確認できる i-Trap2 の活用は、段ボー ルでの対策に慣れていない畜主への指導・助言に効果的であると考えられた。 19 2-2 Kapok (Ceiba pentranda) Fiber Filled Mite Trap as Mite Control Device in Tropical Country ○E. C. Satrija1, 2, T. Kondo3, N. Kunikata1, Y. Kayahara4, Y. Matsumoto1 1 Faculty of Agriculture, Kagawa University, Japan, 2 Faculty of Veterinary Medicine, Bogor Agricultural University, Indonesia, 3 Kondo Electronics Co., Ltd., Japan, 4 Kagawa Prefecture Livestock Experimental Station, Japan Mite is one of the most harmful parasite for farm animal. A new mite monitoring and control system had already been established in Japan. This system consisted of a trap (i-Trap , Kondo Electronics) and an automatic counting method using WinROOF™ software. The trap worked by attracting the mites using electrostatic charge and led them to form colony inside it, preventing their movement and infection toward host animal. However, the widespread use of this trap in Indonesia and other tropical countries was still hindered by the high economic value of the synthetic trapping material (polyurethane foam). Kapok (Ceiba pentranda) fiber is a low cost and abundant natural material that historically used as filling material for home appliances which now is fell out of favor towards synthetic filling material due its tendency to become parasite nest such as mites and bugs. The objective of this research was to explore the possibility of utilization of Kapok fiber as mite trapping material in i-Trap Two i-Trap one with polyurethane foam filler as control and another one with modified hybrid kapok fiber – foam filler. Each trap was installed in a highly infected chicken house and observed using four camera that took photos of each trap side for three days and the photos were then analyzed using WinROOF™ software. The observation result showed that modified could obtain 127.27% more average trapped mite number and 26.45% more maximum trapped mite number than control. The higher trapped mites number was due to ability of the modified trap to induce the mites to form colony in two separate area of the trap while the control trap only induced colony formation in a single area. This factor led to the higher maximum and average mite number in the modified trap. These results showed that the kapok fiber could become substitute or supplementary material for the polyurethane foam in i-Trap 2-3 牧草サイレージを多給した乾乳牛と泌乳牛のメタン発生量と可消化 ADF 摂取量の関係 ○久米新一(京大院農) 【目的】乳牛の生産性向上と飼料自給率の向上のためには、粗飼料のエネルギー価とともに乳牛のエネルギー要求量の精密化が必要 である。乳牛は粗飼料摂取量が増えるとメタン発生量が増加するが、乳牛の生産性向上のためにはメタンによるエネルギー損失量を 減らすことが必須である。本研究では乳牛のメタン発生量の推定精度を高めるために、牧草サイレージ主体で飼養した乾乳牛と泌乳 牛のメタン発生量と ADF 摂取量、可消化 ADF 摂取量などの関係を評価した。 【方法】乾乳牛 28 頭と泌乳牛 14 頭を用い、サイレージ給 与比率(乾物当たり)をそれぞれ 70~100%と 60%に設定して、オーチャードグラスサイレージ、アルファルファサイレージと配合 飼料を給与した。供試牛は代謝実験室に収容して、試験は予備試験期 7~10 日、本試験期 4~7 日間の 14 日間とし、本試験期には全 糞尿採取法による出納試験を実施した。また、本試験期の最後の 2~3 日間に開放型呼吸試験装置を用いてエネルギー出納試験を実施 した。 【結果】乾乳牛と泌乳牛の平均メタン発生量は 300(231~430)L/日と 646(541~742)L/日であり、泌乳牛の平均乳量は 30.3 (26.1~35.3)kg/日であった。乾乳牛ではメタン発生量と有機物(OM)摂取量(P<0.001)、可消化 OM 摂取量(P<0.001)、可消化 ADF 摂取量(P<0.001)間に正の高い相関が認められたが、ADF 摂取量(P<0.01)との相関はやや低かった。泌乳牛ではメタン発生量と OM 摂 取量(P<0.001)、ADF 摂取量(P<0.001)間に正の高い相関が認められたが、可消化 ADF 摂取量(P<0.05)との相関は低かった。泌乳牛の 乳量は乾物摂取量の増加とともに増加した(P<0.05)が、乳量とメタン発生量、ADF 摂取量、可消化 ADF 摂取量間に相関関係は認めら れなかった。以上の結果から、乾乳牛のメタン発生量の推定には可消化 ADF 摂取量が適していたが、泌乳牛のメタン発生量の推定に は可消化 ADF 摂取量よりも ADF 摂取量が適していると推察された。 20 2-4 種々の牛肉サンプルの味覚センサーによる客観的呈味性分析について ○趙 婭楠1・西田昌弘1・中田悠介1・上田修司1・羽原正秋2・池崎秀和2・山之上 稔1 (1神戸大院農・2(株)INSENT) 【目的】牛肉のおいしさを左右する要因は複雑だが、味は軟らかさや香りと並び牛肉の食味性に大きく影響する。食肉・肉製品の呈 味性を客観的に分析する手法の一つに、近年味覚センサーを備える味認識装置を応用した報告例が増えてきている。しかし味覚セン サーによる牛肉の呈味性評価では、最適かつ統一された評価方法が未だ確立されておらず、評価間の比較検証に課題が残されている。 本研究では、味覚センサーによる牛肉の呈味性分析に適した手法を見出し、一般化するための基礎的知見を得るために、牛肉サンプ ルの呈味性分析への品種、部位、熟成日数および加熱の影響を調べた。 【方法】黒毛和種およびホルスタイン種牛の第 6〜7 肋骨間ロ ース部から胸最長筋を採取後 4℃で保存し、と畜後7、14、および 21 日目に牛肉片を採取した。またホルスタイン種牛の同ロース部 の胸最長筋および僧帽筋からと畜後 21 日目および 26 日目にそれぞれ筋肉片を採取した。未加熱のまま、または加熱した各牛肉片か ら 4 種類の方法で水溶性画分あるいは煮汁を調製し牛肉サンプルとした。牛肉サンプルの呈味性を 6 種類のセンサーを使用して味認 識装置(インセント社、TS-5000Z)で分析した。 【結果】牛肉サンプルの味要素である酸味は黒毛和種およびホルスタイン種牛肉共に 熟成に伴い減少傾向を示し、苦味雑味、旨味および甘味は増加する傾向であった。筋肉部位間および未加熱サンプルと加熱サンプル 間の差異は大きくは認められなかった。呈味性分析の結果をレーダー図で示すとき、4 種類の調製方法を適用した結果のなかで1方 法の結果が他の結果と異なるパターンを示した。味覚センサーは多様な牛肉サンプル間の呈味性を比較するのに有効であるが、基準 になる牛肉の呈味性分析手法を確立するには、さらに今後の検討が必要であろう。 2-5 牛肉中のミネラル濃度と肉質の関連 ○北川貴志 1・青木義和 1・飯田文子 2・友永省三 3・舟場正幸 3・松井 徹 3 (1 滋賀畜技セ・2 日本女大家政・3 京大院農) 【目的】牛肉中のミネラル濃度はその肉質によって変化することが推測されるが、これらに関する報告は少ない。演者らはこれまで、 黒毛和種牛肉の形質と各ミネラル濃度との関連を検討するために、予備的に半定量分析で得たミネラル濃度を用いて解析したが(第 63 回関西畜産学会 2013 年) 、本試験では供試頭数を増やすとともに、ミネラル分析には精度の高い定量分析を用いて検討した。 【方 法】黒毛和種肥育牛 54 頭(去勢 44 頭、雌 10 頭)の胸最長筋の水分含量、粗脂肪含量、色差と、ICP-MS による Na、Mg、Mn、Fe、Cu、 Zn、Mo の測定、原子吸光法による K の測定を行った。また、16 頭(去勢 12 頭、雌 4 頭)の胸最長筋は焼成し、分析型パネルにより 10 項目を 8 段階で評価した。 【結果】細胞外より細胞内に多いミネラルである Mg と K は水分含量と正の相関、粗脂肪含量と負の相関 があった。また、Mg は多汁性と負の相関、K は色差の L*値とは負の相関、a*値と b*値とは正の相関があり、Mg は赤身の量、K は水分 含量と関連していると考えられた。白筋より赤筋で多いミネラルである Mn、Fe、Cu、Zn はいずれも官能評価における総合評価と正の 相関があった。また、Mn はやわらかさ(噛切時) 、やわらかさ(咀嚼時) 、繊維感の無さ、総合的食感とも正の相関があり、Zn はうま 味とも正の相関があり、赤筋の割合は食味性と関係する可能性が示唆された。以上、ミネラルはいくつかの牛肉形質と関連があり、 細胞内外の液量や、牛肉を構成する各組織の割合などを反映し、その結果、牛肉の外観、食味性にも関連していると考えられた。 21 2-6 牛乳におけるガスクロマトグラフ質量分析計を用いたメタボローム解析の検討 ○友永省三・西浦 誠・矢野純司(京大院農) 【目的】低分子代謝物質の網羅的解析(メタボローム解析)は、生理機能の解明や各種疾患のバイオマーカー探索に用いられている。 一方、農学分野では、食品の品質管理および機能性評価研究などに用いられ始めているが、畜産物における検討は発展途上である。 以上より、本研究では、牛乳のメタボローム解析を試みた。 【方法】京都市内の小売店から牛乳を6種類購入した。原液と 10 倍希釈 水溶液に内部標準物質(2-イソプロピルリンゴ酸)を添加後、水溶性画分を抽出し、メトキシム/トリメチルシリル誘導体化後、ガ スクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010Ultra、島津製作所)による分析を行った。分析条件として、電子イオン化法による SCAN モードを採用し、カラムは InertCap 5MS/NP(ジーエルサイエンス)を用いた。分析データからのイオンピークの自動抽出に MetAlign (Lommen, Anal Chem, 81:3079–3086, 2009)、イオンピークの自動同定には AIoutput (Tsugawa et al., BMC Bioinformatics, 12:131, 2011) を採用した。希釈に伴う濃度減少は、t 検定による有意な減少(P<0.05)から判断した。 【結果】牛乳から約 2,000 のイオンピ ークが抽出され、低分子代謝物質としてアミノ酸、有機酸および核酸など約 100 成分が同定された。全イオンピークの4割以上、同 定成分の6割以上に希釈に伴う濃度減少が確認できた。以上より、牛乳において、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いたメタボロ ーム解析を行うことができる可能性が示唆された。 2-7 黒毛和種去勢肥育牛に給与した微細断高糖分飼料稲 WCS 混合発酵 TMR の消化率 ○福馬敬紘 1・河野幸雄 1・城田圭子 1・神田則昭 1・岸本一郎 1・新出昭吾 1・高橋仁康 2・ 岡嶋 弘 3・北中敬久 3(1 広島総技研畜技セ・2 近中四農研・3㈱タカキタ) 【目的】稲 WCS の微細断化は WCS 調製時の詰込密度の向上により貯蔵・運搬の効率化や発酵品質の改善に有効である。子実型稲 WCS の最適切断長は子実の消化を一定程度維持するために 30mm が推奨されているが,極短穂型の高糖分飼料稲品種「たちすずか」は子実 が大幅に少ないことから微細断化が可能である。本試験では,微細断した高糖分飼料稲 WCS を混合して調製した発酵 TMR を黒毛和種 去勢肥育牛に給与して消化試験を実施し,微細断稲 WCS 給与が飼料の消化性に及ぼす影響を調査した。 【方法】供試動物は黒毛和種去 勢肥育牛 18 頭を用い,3 つの試験区に各 6 頭配置した。試験区分は,粗飼料としてイナワラを 9~12 ヶ月齢時(前期)に 25%DM,13 ヶ月齢以降(後期)に 15%DM 給与する RS 区,微細断稲 WCS を RS 区と同様に給与する TS 区,微細断稲 WCS を肥育全期間 25%DM 給与 する TS25 区の 3 区を設定した。微細断稲 WCS は完熟期の「たちすずか」を理論切断長 11 ㎜で収穫・細断・成形・梱包してロールラ ップサイロに調製した。発酵 TMR(水分 40%,発酵期間 2~4 週間,TDN 含量前期 73%・後期 76%)は飽食条件で 1 日 1 回給与(16 時)し,水と鉱塩は自由摂取とした。消化試験は 4 日連続の全ふん採取法で行い,前期(12 ヶ月齢)と後期(19 ヶ月齢)の 2 回実施 した。消化率は,乾物および一般成分について摂取量とふん中への排せつ量よりみかけの消化率として算出した。 【結果】前期の結果 は TS 区と TS25 区が同じ TMR 構成であることから RS 区と微細断稲区(TS+TS25 区)の 2 区で解析を行った。また TS 区の 1 頭が長期 の体調不良のため結果から除外した。前期の乾物摂取量は RS 区(7.22kg/日)に比べて微細断稲区(8.55kg/日)で有意に多かった (P<0.05)が,乾物消化率は処理間に差がなかった(RS 区 68.3%,微細断稲区 68.2%) 。後期については乾物摂取量および乾物消化 率ともに処理間に差が認められなかった。 22 2-8 バンカーサイロを用いた極短穂型イネの WCS 調製 1 1 ○河野幸雄 ・福馬敬紘 ・城田圭子 1・神田則昭 1・岸本一郎 1・新出昭吾 1・高橋仁康 2・岡嶋 弘 3・北中敬久 3 (1 広島総技研畜技セ・2 近中四農研・3(株)タカキタ) 【目的】従来,イネ WCS は脱気処理が難しい茎の筒状構造や,少ない糖含量の問題から,バンカーサイロによる調製は困難とされ てきた。しかし,バンカーサイロは設置費用や運用コストが安く,畜産農家に近い水田で生産されるイネ WCS の利用体系としてメ リットが大きい。そこで,本研究では糖含量が多い極短穂型品種と微細断収穫技術を組み合わせ,バンカーサイロを用いたイネ WCS 調製の可能性について検討する。 【方法】供試イネは広島県庄原市の水田に移植栽培した極短穂型品種「たちすずか」を 10 月末お よび 11 月末に試験用微細断収穫機を用いて収穫し,同市内の畜産技術センター敷地内に設置した間口 3m,奥行 6m,高さ 1.2m の バンカーサイロに詰込んだ。原料草の理論切断長は 10 月末収穫,11 月末収穫ともに 6, 11, 19mm の3水準を設け,各 1 基,合計 6 基のサイロを調製した。調製時には市販の乳酸菌製剤(ヘテロ発酵型)を規定量添加した。10 月末調製したサイロは H26 年 7 月に, 11 月末調製したサイロは H26 年 8 月に開封した。開封後は先端部から 1~4 日間隔で 1 日あたり 40cm ずつ取出しを行い,発酵品質 (pH,有機酸,アルコール,糖) ,品温を調査した。 【結果】詰込密度は 10 月末調製が 11 月末調製よりも高く,何れも切断長が短い ほど高かった。カビや変敗による廃棄は,バンカーサイロの先端部と末端部で多い傾向が見られたが,両端部以外の廃棄率は最も高 いサイロで 8%であった。何れのサイロも発酵品質に著しい異常は認められなかった。以上のことから,極短穂型イネの WCS は理論 切断長を 19mm 以下にすることによりバンカーサイロ調製が可能であることが示唆された。 2-9 ワイン濾過残渣の給与が肥育後期豚の発育と栄養素消化に及ぼす影響 ○川﨑淨教・高木 涼・矢野公伸・松本由樹(香川大農学部) 【目的】ワイン粕やワインオリとは異なりワイン製造過程であるオリ絞りの際に排出されるワイン濾過残渣(wine filtration residue: WFR)は珪藻土といった濾過助剤を含んでおり、産業廃棄物として処理されている。しかし、珪藻土は豚用飼料添加材とし てすでに利用されているため、WFR も飼料に利用できると考えられた。そこで、本研究では WFR の給与が肥育後期豚の発育や栄養素 消化率に及ぼす影響を調べた。 【方法】WFR は 50℃で 48 時間乾燥させ 2mm 以下に粉砕した。雌および去勢雄肥育後期豚 18 頭(LWD 種: ランドレース種×大ヨークシャー種×デュロック種、体重約 79.6±5.23 kg)を対照区(フスマ 1%添加、9 頭)と実験区(WFR1%添加、 9 頭)の 2 区に分け不断給餌で 8 週間飼育した。発育については増体重や枝肉重量、背脂肪厚、ロース重量を調べた。栄養素消化率 は酸化クロム(Cr2O3)を指示物質としたインデックス法により算出した。 【結果】実験区のロース重量が有意に増加した(p<0.05)が、 増体重や枝肉重量、背脂肪厚に WFR 給与による影響は見られなかった。また、実験区の粗タンパク質消化率が有意に高い値を示し、 酸性デタージェント繊維(ADF)消化率と粗灰分消化率が有意に低い値を示した。消化率の変化は WFR に含まれる珪藻土や多糖類によ るものと考えられる。以上、WFR においてもエコフィードとして利用可能であることが示された。今後は WFR 給与豚の肉質の調査(脂 肪酸含量、香気成分)に加え、糞便臭気測定を行う予定である。 23 2-10 インターロイキンの中枢および末梢投与がニワトリヒナの摂食行動に与える影響 児玉朋代 1・モハメド シャキル・イスラム カーン 2・○橘哲 也 1(1 愛媛大農・2 愛媛大医) 【目的】サイトカインであるインターロイキンは免疫反応において重要な役割を果たしている。さらに、哺乳類ではいくつかのイン ターロイキンが摂食行動の抑制に関わっていることが明らかにされている。一方、ニワトリヒナの摂食行動におけるインターロイキ ンの役割についてはほとんど明らかにされていない。 そこで、 本研究では哺乳類の摂食行動を抑制するインターロイキン 1β (IL1β) 、 インターロイキン 6(IL6)およびインターロイキン 8(IL8)の投与がヒナの摂食行動にどのような影響を与えるかを調べた。 【方法】 (実験 1)白色レグホン雄ヒナに IL1β、IL6 または IL8 を脳室内投与(10 および 50 ng)した後の摂食量の変化を調べた。 (実験 2) ヒナに IL1β、IL6 または IL8 を腹腔内投与(10 および 50 ng)した後の摂食量の変化を調べた。 (実験 3)実験 1 および 2 により、 IL1βを投与した場合にのみ摂食量が減少する傾向が見られたため、高濃度(100 および 200 ng)の IL1βを投与した場合の摂食量の 変化を調べた。 【結果】 (実験 1)いずれのインターロイキンもヒナの摂食量に有意な変化を与えなかったが、IL1βを投与した場合に 減少する傾向が見られた。 (実験 2)IL1βを投与した場合にのみ摂食量が減少する傾向が見られたが、いずれのインターロイキンも 摂食量に有意な変化はなかった。 (実験 3)脳室内投与では 200 ng の IL1βを投与した場合にヒナの摂食量が有意に減少した。腹腔内 投与では摂食量が減少する傾向が見られたが、有意な効果は見られなかった。以上の結果から、ヒナにおいては IL1βが摂食抑制作 用を有する可能性が明らかとなったが、IL6 および IL8 ではその作用がないことが示唆された。また、IL1βは末梢ではなく中枢に作 用して摂食を抑制している可能性も示唆された。 2-11 粗飼料主体の飼料を給与した育成メンヨウにおける窒素蓄積と組織への栄養素供給量との関連 ○金 多慧 1・崔 基春 2・小田伸一 3・萩野顕彦 4・岡田 太 5・宋 相憲 6 ・一戸俊義 6 (1 鳥取連大・2 韓国国立畜産科学院・3 岩手大農・4 東北大院農・5 鳥取大医・6 島根大生資) 【目的】演者らは、低品質とされるイタリアンライグラスストロー(IR)の飼料価値について一連の研究を行っており、チモシー乾草 (TH)飼料を対照とした育成メンヨウの長期飼養成績(第 64 回関西畜産学会大会)とホゲット生産成績(日緬研会誌第 51 号)につい て報告した。DCP 摂取量は IR 飼料と TH 飼料給与時で異なったが N 蓄積率に差はなく、ME 供給水準は IR 飼料と TH 飼料給与時で同程 度であったが、18 ヵ月齢での屠体成績が異なる結果となった。これらの原因を追究するため、吸収された各種栄養素の筋・脂肪組織 供給量と N 蓄積成績との関連について検討を試みた。 【方法】頸動脈ループ、肝門脈および腸間膜静脈にカテーテルを装着したサフォ ーク種去勢雄育成メンヨウ 3 頭を供試した。供試動物へ TH と濃厚飼料添加飼料(THD) 、IR と濃厚飼料添加飼料(IRD) 、稲ワラと濃 厚飼料添加飼料(RSD)を一元配置法によりそれぞれ給与した。各粗飼料は乾物ベースで体重の 2%相当量を給与し、濃厚飼料給与量 は前日の粗飼料原物摂取量の 40%とした。THD、IRD および RSD は AFRC(1993)に準拠し、日増体量 100 g を充足する様に設計した。 各飼料を給与し、N 出納試験および腸間膜静脈へのパラアミノ馬尿酸溶液(1% w/v)定速注入下での動脈血および肝門脈血サンプル を 1 時間おきに 12 時間にわたり採取した。血液サンプルについて、ヘマトクリット値、血漿中のパラアミノ馬尿酸、グルコース、NEFA およびトリグリセライド濃度を測定した。本試験では定法の、血中栄養素の静動脈濃度差と血漿流量積による正味流量算出法に依ら ず、薬理動態モデルに基づいた解析により筋・脂肪組織への栄養素供給量の推定を行った。 【結果】1)THD, IRD, RSD の N 蓄積量お よび吸収 N の蓄積率に有意な飼料間差はなかった。2)筋および脂肪組織へのグルコース供給量、NEFA およびトリグリセライドの供 給量推定値に有意差はなかったが、筋組織へのグルコース供給量の多寡と N 蓄積成績との関連が示唆された。 24
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