慣性核融合とその応用に関する国際会議(IFSA2009

インフォメーション
【プラズマ診断法】
■慣性核融合とその応用に関する国際会議
(IFSA2009)
プラズマ診断では信頼性が高く,かつ,高エネルギー X
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
田辺
稔,植田
達,藤村
線や中性子が発生しても安定的に動作する計測器の改良,
猛,有川安信
および,その導入が目立った.来年に核融合点火実証実験
を控えた National Ignition Facility(NIF)では X 線,ガン
二年に一度開催される標記国際会議が,2009年9月6日
マ線,中性子,高速電子などの計測器のオペレーションが
から9月11日まで米国カリフォルニア州サンフランシスコ
既に始まっており,点火実証実験を待つばかりであった.
市で開催された.
点火実証実験を進めていくための基本となる X 線計測器
本会議には,爆縮プラズマ物理,レーザー核融合技術,
は,ピンホールカメラを用いたビームのポインティング計
高エネルギー密度科学とその応用等で活躍する研究者が集
測から,ストリークカメラを用いた1
92本のビームの同期
まる.今回の会議参加者は6
00名で発表論文は約450件で
計測,フレーミングカメラを用いた爆縮コア画像の時間履
あった.発 表 論 文 は,Key Note Lecture,Teller Award,
歴計測をはじめとして,ホーラム中の放射温度計測や高エ
Plenary,Oral および,Poster の5つであり,Oral のみ3セッ
ネルギー X 線から発生するノイズ計測まで,抜け目のない
ション並行で行われた.Key Note Lectureでは,最初に,三
計測準備が整いつつある印象を受けた.
間圀興名誉教授がアジアにおけるレーザー核融合とハイパ
核融合反応の証拠となる中性子イメージングでは,高空
ワーレーザーの現状と将来について講演を行い,続いて,
間分解能を得るために倍率を大きくとっているため,計測
Mike Dunne 博士がヨーロッパでの慣性核融合研究につい
器のアラインメント方法に関する技術報告がされていた.
て講演を行った.最後に,John Nuckolls 博士が今日までの
中性子計測器は,ロチェスター大学の OMEGA レーザーで
慣性核融合研究と今後の展開について講演を行った.
テストが開始されている.
「高速点火・その基礎物理」,
「プラズマ診断法」,「ター
ガンマ線計測に関しては,点火時間,燃焼時間等を計測
ゲットデザイン」,「将来の核融合炉等」,各分野 でのト
する目的で,ガスチェレンコフディテクターを用いた計測
ピックスを報告する.
手法が従来から採用されている.本会議では,可視光に変
換された後の光の転送方法の改良に関する発表がなされ
【高速点火・その基礎物理】
た.ガンマ線計測用のガスチェレンコフディテクターは既
大 阪 大 学 の LFEX レ ー ザ ー,ロ チ ェ ス タ ー 大 学 の
に OMEGA レーザーにて原理実証を終了しており,もうす
OMEGA-EP の建設が進み,高速点火核融合の原理実証に
ぐ NIF にて実際の計測が始まる.
(植田)
向けた爆縮追加熱実験が開始された.阪大レーザー研では
10倍,ロチェスター大学では2倍の中性子増加数報告が
【ターゲットデザイン】
あった.追加熱実験が始まったばかりで,追加熱レーザー
IFSA2009においてターゲットに関する発表は,レー
が予定のスペックに達していない,高速電子からコア加熱
ザー照射実験の結果をフィードバックしたターゲットの設
へのカップリング率が小さく,プレパルスの影響等の問題
計 と い う 観 点 か ら の[Ignition and High Gain Target De-
があるが,これらの問題の解決策等も発表された.プレパ
sign]とターゲットを実際に作る方法の
[Target Fabrica-
ルス除去やカップリングの向上をめざした今後の高速点火
tion]の二つのセッションで情報交換が行われた.
研究展開が楽しみである.
[Ignition and High Gain Target Design]においては,従来
超短パルスレーザーを用いた実験では,テーブルトップ
通りの CH をベースとしたターゲットのデザインが中心で
クラスのフェムト秒レーザーが日本や欧米だけでなく中国
あったが,アブレーター層に添加される元素の種類と量の
やインドでも導入されている.高速点火基礎実験だけでな
最適化が発表された.最適化だけにとどまらず,Ignition
く,超短パルスレーザーを用いた応用実験も盛んに行われ
Threshold Factor という独自のパラメータを用いて系統的
るようになってきた.高速点火基礎実験では,レーザーか
にターゲットのクオリティを評価することでターゲットの
ら電子のエネルギー変換効率を電子スペクトルメーターや
許される許容範囲についても発表された.また CH ベース
X 線で計測する報告,レーザー照射強度に対する電子のス
の次の試みとして Be を中心とした高利得ターゲットのデ
ケーリングに関する報告などが目立った.また,電子加熱
ザインが復活し(半年前には微小な空げきが発生するため
でなくプロトンやイオンを用いた爆縮コア加熱などの研究
断念されていた)
,さらには,ダイヤモンドシェルター
に関する報告やレーザーからプロトンへの変換効率を計測
ゲットという新型のターゲットデザインも発表された.
する報告もあった.さらに,核融合分野だけでなく,電子
[Target Fabrication]
のセッションにおいては,NIF に
やプロトンを加速し医療応用へ展開する報告も多数みられた.
用いられるホーラムターゲットが次々と完成しているとい
(田辺)
う報告があり,General Atomics では大量生産に向けた装
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Information
置の開発が進んでいるとの報告があった.また,ダブル
核分裂とのハイブリッド発電炉であるが,この原理実証炉
シェルターゲットのアイデアやターゲットを二分し,片方
は2020年に完成する見通しと,2030年までにはより高利得
を高速点火し,もう片方を高速点火のホットスポットから
になるという予測が立てられていた.
の伝播により燃焼させるというユニークなアイデアも展開
欧州では,高繰り返しレーザー核融合実証プロジェクト
されていた.
HiPER プロジェクトの構想が現実味を帯びてきている.
総合的には,NIF に用いるために,アメリカでは現実的
レーザーは冷却 LD 励起の冷却 Yb ドープ YAG セラミクス
に使用できるターゲットを完成させていくとともに,大量
アンプで構想されていた.LD 励起システムの実装計画は
生産や高利得に向けて新しくデザインしたとの報告が中心
米国でも進んでおり,NIF の施設内で現物の展示があっ
となっていた.
た.またファイバーレーザーの結束による高繰り返し発電
(藤村)
炉という構想も紹介された.
【将来の核融合炉等】
総合的には,メガジュールクラスで1
0Hz のレーザーシ
将来の核融合炉のための研究としては,Key Note Lec-
ステムの設計は可能だと思われ,またターゲットの安価大
ture で John Nuckolls 博士が「次のチャレンジはターゲット
量供給の体制は整いつつあるが,ターゲットの高繰り返し
やドライバーにシフトしている」と発表したとおり,高利
インジェクションシステム開発がほとんど進んでいないよ
得ターゲットデザインや高繰り返しドライバー開発等の発
うな印象を受けた.ターゲットをチャンバー中心に1
0Hz
表が多数行われた.
で高精度に投入する技術の開発は,これから世界が全力で
その1つとして,LIFE についての計画が発表されてい
取り組むべき課題である.
た.LIFE とは,現在,核融合で生成する中性子を利用した
(有川)
(原稿受付:2009年10月1
3日)
FIREX 計画を発表している疇地(阪大レーザー研センター長)
サンフランシスコのケーブルカーを背景に撮った集合写真
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