IFEフォーラム レーザー核融合技術振興会 2010.2.1 2009年11月25日 IFEフォーラムシンポジウム 「輝く星のエネルギーを地上へ ∼レーザー核融合が拓く低炭素社会∼」会場風景 IFEフォーラム IFEフォーラム IFEフォーラムシンポジウム 「輝く星のエネルギーを地上へ 開催 ∼レーザー核融合が拓く低炭素社会 報告 ∼レーザー核融合が拓く低炭素社会∼」 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 教授 乗松 孝好 平成21年11月25日に新霞ヶ関ビル内にある全社協・灘尾ホールでIFEフォーラムシンポジウム 「輝く星の エネルギーを地上へ ∼レーザー核融合が拓く低炭素社会∼」 が開催された (本文最後に式次第) 。世界の 主要レーザー核融合研究施設の現状報告として、 日本からは疇地宏氏、米国リバモア研究所からはエドワー ド・モーゼス氏、欧州からはマイク・ダン氏が現状報告を行った。パネル討論では上記3名に加え、 プラズマ核 融合学会会長の本島修氏をパネリストに、評論家・ジャーナリストの立花隆氏をコーディネーターに迎え、低炭 素社会に向けて日本の核融合研究をどのように進めるべきか議論した。なお、残念ながら当初予定されてい た原子力委員会委員長の近藤駿介氏は体調不良でキャンセルとなった。 会場には坂田東一文部科学省事務次官、熊谷貞俊 次に来賓である奥村直樹氏(総合科学技術会議議 衆議院議員他、産官学の著名人を含む約150名の参 員)より挨拶を賜った。総合科学技術会議では鳩山 加者を迎え、活発な議論が交わされた。レーザー核 政権の温室効果ガス削減中期目標に沿って、環境と 融合で点火燃焼が間近であること、ヨーロッパでは 経済が両立する社会を目指す「グリーンイノベーシ NIFの点火成功を見越し、レーザー核融合発電を目 ョン」の推進を最重要政策に位置づけたこと、核融 標とした高繰り返しレーザーの開発が具体化されつ 合は究極のエネルギーとして長期的戦略で進めるべ つあることが印象づけられた。 きものに位置づけられ、レーザー核融合に対する期 待も大きいことが示された。続いて森口泰孝氏(文 はじめに主催者であるIFEフォーラム座長の橋本 德昭(関西電力株 部科学省 文部科学審議官) より、 式会社常務取締 大阪大学の高速点火に関する計画 役)より日本の核 は科学技術学術審議会において評 融合研究をどのよ 価を受け、その結果を踏まえて、 うに進めるべき 点火燃焼の実現を目指す第二期計 か、議論していた 画に移行するということが判断さ だく場を設けさせ れることになっていて、近々この ていただいたとの 評価が行われる予定であること、 開会の挨拶があっ 第二期計画への移行が早期に実現 た。 来賓挨拶をされる奥村氏 (左) と森口氏 (右) IFEフォーラム ・2・ して核融合点火燃焼が達成されま IFEフォーラム すよう、文部科学省といたしましても可能な限りの が集光することなく数秒で溶けてしまうビデオを紹 支援をしていきたいとの激励があった。 介した。100kWレーザーが実現したことから高繰 基調講演では大阪大学レーザーエネルギー学研究 り返しによる冷却の問題もクリアでき、炉用レーザ センターの疇地氏より、高速点火原理実証実験 ーは十分建設できると考え、2 0 2 0 年には発電実証を、 FIREXの現状が報告され、追加熱用LFEXレーザー 2030年には商業化を目指す計画が示された。 の1ビームが稼働し始め、実際の爆縮加熱実験に用 最後に「この計画は野心的過ぎるという人もいる。 いられていること、30倍の核融合中性子の増大が観 しかし、野心的でなければ開発途上国も含めた人口 測され、実験結果の解析からFIREX-Iの目標である 爆発で、急速に伸びるエネルギー不足の危機から人 5keVへの加熱に見通しが付いたことが報告された。 類を救うことはできない」とレーザー核融合の推進 透明度の高いセラミックYAGとレーザーダイオー を訴えた。 ドアレイにより、炉用レーザーの建設見通しが付い たことをベースに、国際協力で発電実証を進めるレ ーザー核融合発電実験炉i-LIFTが提案された。 会場からの質問に答えるダン氏 英国ラザフォードアップルトン研究所のダン氏は、 欧州におけるHiPER計画の現状を紹介した。リバ モアによる点火燃焼は確実なものと考え、高繰り返 モーゼス氏による基調講演 しを目指すHiPERプロジェクトがスタートした。昨 米国ローレンスリバモア研究所のモーゼス氏から 年10ヶ国26研究施設が参加して調印式を行い、共同 は国立点火燃焼施設NIFの詳細が報告された。5月 で高繰り返しレーザーの開発を進めることで合意し の完成以降、170ショットの運転が行われ、順調に た。また、本シンポジウム当日にチェコが4000万 稼働していること、重水素を使ったクライオターゲ ユーロを拠出することを決めたとの連絡があったこ 11 ット爆縮実験で半径比33倍の圧縮が観測され、10 とが報告された。6年程度で技術的確立を図り、 のDD核融合中性子をシミュレーション予想したこ 2030年には発電を実証する計画である。資金の確保、 とが報告された。 産業界との連携が重要で、NIFによる点火燃焼が産 将来計画としてNIFクラスのレーザーとターゲッ 業界から投資を得る重要なきっかけになること、日 ト技術の延長で繰り返しを高め、生成した核融合中 米欧の協力、法整備、民間へのアピール等が重要で 性子で核分裂物質を燃焼させて発電するLIFE計画 あることが強調された。人類の核融合への長い科学 が紹介された。既に出力100kWのLD励起のYAGレ の旅は、あと数年で終わろうとしているというダン ーザーが開発されているとして、厚さ2mmの鉄板 氏の言葉が印象的であった。 IFEフォーラム ・3・ IFEフォーラム ー核融合は各要素の独立性が高く、 設計に自由度があり、対応可能と考 えている。基本的には経済性で、米 国民が受け入れ可能なのかはまだ分 からないとのことである。 ダン氏からは磁場核融合、慣性核 融合の比較よりも、最終目標に焦点 を合わせ、世界で協力して進めるべ パネリストの疇地氏、本島氏、 モーゼス氏、 ダン氏とコーディネーター立花氏 パネル討論では、立花隆氏をコーディネーターに、 きことが強調された。 本島氏より磁場核融合も慣性核融合も核融合出力 パネリストとして、本島修氏、エドワード・モーゼ という点で見れば、開発時間は同じ程度になる可能 ス氏、マイク・ダン氏、疇地宏氏を迎え、低炭素社 性があり、相互の協力、コヒーレンスが大切である 会に向けて日本の核融合研究をどのように進めるべ との指摘があった。また、専門家が増えすぎ、全体 きか議論された。 を見ることができる研究者が減っている危険性も指 冒頭、立花氏より、話には聞いていたがここまで 摘された。 進んでいるとは思わなかった。日本の核融合政策を 疇地氏からは慣性核融合では点火後の物理には問 根本的に変えなければならない。本日はシナリオ無 題が無く、開発時間は短いと予想されていることと、 しに進めたいとの発言があった。 日々変動する電力需要の基本負荷を磁場核融合で、 イントロとして立花氏ご自身の自己紹介の後、日 変動の激しい日中の負荷を慣性核融合で供給するこ 本ではレーザー核融合=軍事研究として冷遇され、 とが社会に説明しやすいことが説明された。 一般の人は核分裂以上に恐ろしいものという程度の 会場の電力中央研究所の岡野氏にユーザーとして イメージしか持っていないことが指摘された。立花 のコメントが求められ、ターゲット1個100円では 氏よりモーゼス氏、 ダン氏にいくつかの質問をして、 成立せず、 1個10円では問題ないことが説明された。 それらの質疑の後、本島氏、疇地氏のコメントを求 また、発電所は5000億円以下で作らなければ電力 める形で進められた。 会社は導入が難しいとの指摘があった。 立花氏からモーゼス氏への質問の要点は、米国で また、会場の山中千代衛氏にもコメントが求めら は慣性核融合は一般市民にどのように受け入れられ れ、もう物理に逃げ込んで行くことは許されない。 ているのか、点火燃焼 を達成した後、実際に 安定にエネルギーを取 り出すまでにはかなり の困難があることを指 摘する人がいるが、ど のような展望を持って いるのかの2点である。 モーゼス氏の回答は 未解決の問題がないわ けではないが、レーザ 会場からコメントする岡野氏 (左) と山中氏 (右) IFEフォーラム ・4・ IFEフォーラム リバモアにチームの半分ぐらいを出すぐらいの覚悟 とを希望するとの結論が示された。 が必要であり、若い人の目を輝かせるような信念を 持って進んで欲しいとの激励があった。 最後に、レーザー核融合技術振興会会長 八木重 最後に立花氏より、人類は1万年続かなければ宇 典(三菱電機株式会社先端技術総合研究所開発本部 宙の中で消えて行く。今のままではエネルギーが持 役員技監)より、本日の基調講演、パネルディスカ たない。第2のプロメテウスの火を手に入れ、第2 ッションにご出席いただいた先生方、 ご来賓の皆様、 の進化の時代に入らなければならない。今までの資 会場の皆様へお礼が述べられ、シンポジウムは閉会 源を奪い合う形から協力して共有するようになるこ した。 シンポジウム式次第 IFEフォーラム ・5・ IFEフォーラム IFSA 2009国際会議出張報告 光産業創成大学院大学 特任教授 三間 圀興 進展等、盛りだくさんであった。また、NIFの計画に IFSA 2009は2009年9月6日、レセプションで開幕 した。6日間の会期で、サンフランシスコにあるイン 関連し、会議の直前にUsers Meetingが開催された。 ターコンチネンタルホテルに於いて開催された。我が Meetingには全米のみならず、海外の研究者も大勢参加 国からはIFEフォーラムの視察団(団長:橋本IFEフォ しNIFの核融合研究ならびに極限状態科学の研究や共 ーラム座長)をはじめ、大阪大学、光産業創成大学院 同実験への参加提案がなされた。 NIFの計画は、図1に示す通りである。2009年5月 大学、核融合科学研究所、日本原子力研究開発機構関 西光科学研究所、 九州大学、 宇都宮大学、 東京工業大学、 NIFレーザーの完成式典が行われたのはご承知の通りで 東北大学等より60名以上が参加した。筆者のアジアの ある。それに引き続き、昨 年 来 続けられている計 測 、 活動を紹介するキーノート講演と、疇地宏(大阪大学 クライオターゲット、プラズマ物理実験に関する総合 レーザーエネルギー学研究センター センター長: 試験と点火に向けた最適化のための物理実験を2010年 Fast Ignition Realization EXperiment(FIREX)Pro- まで実施しつつ、同年に点火実証に向けたキャンペー gram For Inertial Fusion Energy)、加藤義章(光産業 ン(NIC : National Ignition Campaign)を開始する予定 創成大学院大学 学長:Photon Frontier Network In である。Edward Moses をはじめとするローレンスリ Japan)、藤岡慎介(大阪大学レーザーエネルギー学研 バモア研究所(LLNL)の報告によると、レーザーは所 究センター 助教:Laser-Produced Plasmas As Unique 定の出力を実現するとともに、初期のプラズマ実験で X-Ray Sources For Industry And Astrophysics)の3件 も照射対称性や爆縮特 のプレナリー講演をはじめ、多くの招待講演により、 性で計画に沿った成果 我が国のレーザー核融合ならびに関連分野の研究成果 を上げているようであ が世界に向けて発信された。 る。会場から今後の 2025 2020 LIFE Commercialization NIF計画に厚い期待が 本会議の話題は、大阪大学のFIREX-I計画の進捗、 寄せられた。 NIF(国立点火施設)の点火実験に向けた取り組みの 2015 Pilot plant develcpment 現状と点火キャンペーンの計画、ロチェスター大学の 衝撃点火実験並びにクライオターゲット高密度爆縮実 NIFによる点火実証 験成果、HiPERの準備研究と計画、中国の研究計画の 成功後には、レーザー 核融合エネル FYO4 NIF FYO5 FYO6 FYO7 FYO8 FYO9 FY10 FY11 FY12 Operateand maintain facility and utility systems ★ NIF Activation NIF Proiect Complete Integration Initial operation NIC Complete ★ させることが LLNLより提案 2000 NIF Early Light 図2 レーザー核融合 エネルギー開発計画 Diagnostic Integration された。計 画は図2に示 す 通りである。現 在、 Cryogenic Target Integration 高平均出力レーザーの技術開発(Mercury: PEPS Integration Operations 2005 Mercury-100 J/10Hz ギー実験炉の 開発を本格化 NIF laser operation start 2010 NIF Ignition Campaign 100J/10Hz の半導体レーザー励起固体レーザー) Integrated Physics optimization Integration Ignition Experiments ★ PD が同時に進められており、開発をさらに加速 するとともに、NIC成功後にはターゲット製作、 図1. NIF (国立点火施設) のタイムスケジュール (NIF資料より) IFEフォーラム ・6・ IFEフォーラム インジェクション、高繰り返し照射のための核融合炉 プログラム議長)、David Crandoll(米国 DOE 主席 技術等、レーザー核融合炉工学を総合的に進める計画 科学官)、William Goldstein(米国 運営議長: LLNL である。 Phys. and Sci. Vice Director)、Cesar Puruneda (米国 計画の1つの選択肢として、原子力発電所の使用済 LLNL S&T Senior Advisor)であった。筆者が進行役 み核燃料処理のためにレーザー核融合中性子を活用す をし、長嶺総領事の歓迎の挨拶、橋本座長の挨拶、疇 る計画(LIFE)も提案されている。 地センター長の挨拶、乾杯の後、橋本座長からLLNL(E. 高速点火に関しても多くの報告がなされ、世界の研 Moses)への記念品贈呈等があり晩餐会は和やかにす 究者が高速点火の研究に引き続き高い関心を示してい すめられた。食後のテーブルスピーチで E. Moses、 ることが確認された。特に、英国を中心とするEU諸国 M. Dunne、R. McCrory、D. Crandoll、C. Labauneより では、高速点火による点火装置としてHiPERプロジェ レーザー核融合開発戦略や歴史、研究政策など、慣性 クトを進めている。現在、2011年のプロジェクト開始 核融合推進の意思表明がなされる等、有意義な意見交 を目指して準備研究が進行中であり、仏国、西国、伊国、 換の場となった。 捷国、独国等が分担して準備研究を進めている。特に、 高繰り返しレーザー開発と高繰り返しの爆縮核融合装 置開発に研究の重心を移す構想の報告が注目された。 図3 晩餐会の招待状 (IFSA09 主催国議長 E. Mosesへの招待状) IFE視察団は、特別プログラムでNIFの見学を行った。 IFEフォーラム/サンフランシスコ日本領事館主催晩餐会。右から D. Crandoll、橋本座長、E. Moses, 中井貞雄、C. Labaune、 左 手前 長嶺総領事 見学には、大阪大学と繋がりの深いChristopher Barty IFEフォーラムの視察団は、初日の会議参加後、サ 行いただくとともに装置の詳細な説明を受けた。折し ンフランシスコ総領事館のお世話により会場近くの も実験に向けた計測器の設置作業中であり、巨大な実 DUCCAレストランにおいて、IFSAの主要メンバーを 験チャンバーのポートが開かれており容器内部の様子 招待して晩餐会を主催した。図3は、招待者に出され を詳細に眺めることが出来た。高度な技術の集大成と た橋本座長と在米サンフランシスコ長嶺総領事からの して実験が進められていることに今更ながらに感銘を 招待状である。招待状には二つの組織のロゴマークが 受けた。 研究部長にサンフランシスコの会議場からNIFまで同 入っており、日本国の公式晩餐会となった。招待され た海外のメンバーは、 Edward Moses (米国 共同議長) 、 閉幕に先立ち、恒例のテラー賞受賞者、R. Betti、E. Mike Dunne(英国 ラザフォードアップルトン研究所 Mosesの受賞記念講演が有り、IFSA2009は成功裏に閉 レーザー施設 所長)、 Christine Labaune (仏国 国 幕し、第7回となるIFSA2011が仏国ボルドー市にて 際共同議長)、Sylvie Jacquemot(仏国 運営議長)、 開催されることがアナウンスされた。 Robert McCrory(米国 ロチェスター大学レーザーエ 最後に、今回の会議出席に際し、IFEフォーラムに支 ネルギー研究所 所長)、Bruce Hammel(米国 国際 援いただき、貴 重な体 験が出来たことを感 謝したい。 IFEフォーラム ・7・ IFEフォーラム IFSA 2009 国際会議 自然科学研究機構核融合科学研究所 出 張 准教授 尾 哲 (3)LIFEに代表される慣性核融合炉が提案され、早け れば2020年より計画が開始される。 報 告 ご承知のようにNIFはLMJ (レーザーメガジュール、 仏国) と同様に間接照射方式を採用しています。 これは、 国防関連の試験に便乗する形で核融合実験が進行し 今回の出張の目的は、慣性核融合が炉を志向したと ているという特殊事情が大きく関係しています。間接照 きにどのような方向に進んでいくのか、 とりわけNIF (国 射はホーラムと呼ばれる円筒形の金属の内側にレーザ 立点火施設)の点火実験を間近に控え核融合炉をどの ーを照射し発生するX線で燃料球を爆縮するものですが、 ように設計していくのかを調査することです。私は慣性 爆縮の対称性がよい(現状2%程度)反面、エネルギー 核融合(ICF)出身ですが、長く磁場核融合(MCF)に 変換効率が悪い欠点があります。そこで最適な効率を 携わっております。最近、双方向研究の枠でFIREXの 得るため、主にX線に関するデータを取得しているのが 計 測にも少しば かりかかわっています 。私 見ながら、 現在の状況です。現状でDT実験を行っても軽くチャン MCFから見たICFという観点からも述べさせていただき ピオンデータは出せるはずですが、あくまで慎重に実験 ます。 を進めています。 また、 この余裕を持たせたスケジュール 9月5日から13日まで、慣性核融合炉に向けた調査を には、国防関連の試験が同時進行している様子も想像 主目的に米国・カリフォルニア州のサンフランシスコで開 されます。 催された第6回IFSA(慣性核融合の科学と応用)国際 NIFの計画では1回目の点火実験は米国会計年度 会議に出席しました。サンフランシスコはこの時期日本と 2010年の終わり、つまり2010年の今頃になります。最終 は違って昼間の日差しはきついですが、朝晩は冷え込む 的には点火実験が完了するのは2012年です。現在まで 秋の気配が感じられます。そのせいか名物の金門橋も に得られている結果からシミュレーションにより、 DT燃料 霧の中に浮かんで見えます。 を使用したときに得られる利得は10倍を超えます。 レー この会議はレーザー核融合の大型装置を有する米国、 ザーエネルギーがある値を超えるとアルファ加熱が効率 仏国、 日本が持ち回りでホストになり2年に1回開催され 的に起きることにより利得は急激に大きくなりますから、 るものです。参加者は約20カ国、550名です。午前は招 ブレークイーブンを達成するとすぐに大きな利得を得るこ 待と3つのセッションの口頭発表が行われ、午後からは とができるようになります。 もうひとつ注目しなければいけ 口頭発表に加えポスターセッションが行われます。慣性 ないことは、最初の点火がエネルギー的には効率の悪 核融合というテーマを極端に絞った会議にもかかわらず、 い間接方式で行われることです。炉レベルでは高速点 これほど多くの参加者が一堂に会し大変内容の深い印 火が有力ですが、仮に高速点火がうまくいかなくても、核 象を受けます。 融合炉は十分実用可能である事がこれで実証されるの 今回の会議の内容をまとめると次の3つに集約されま です。 す。 高速点火についてはどの国(LLNL :ローレンスリバ (1) NI Fが順調に基礎データを取得し2010年から点火 モア研究所も含め) も先を争って研究しています。中心 実験を行う。 点火に比べて必要なレーザーのエネルギーを極端に下 (2) レーザー研が提唱した高速点火が世界的な広がりを げることができますから、一国のレベルでも十分建設が 見せ、 これからの慣性核融合のメインになる。 可能でありレーザー核融合の本命と見ています。ただ IFEフォーラム ・8・ IFEフォーラム 効率よい加熱を得る条件は思いのほか厳しく、 (レーザ ば互いに相補的な関係になるでしょう。ただ実用段階と ー研の衝撃点火も含む)改良型もいろいろ提案されて は違って研究段階では同じ核融合予算枠から配分する おり現在各国とも精力的に研究が進行中です。 限り競合は避けられません。他への応用も期待できるレ ーザー核融合には別枠からの手当ても期待したいもの 慣性核融合炉の計画については、 LLNLからLIFE が提案されています。 これは金属リチウムを炉壁に流し、 です。 高速中性子でトリチウムの生成を行いながらエネルギー いずれにしても、 ここ数年のうちに達成する核融合の を取り出すだけでなく、 ウランを転換することによりエネル 点火に伴い、核融合炉の実現が見通せるようになってく ギーを得るものです。核融合をウランの転換に使う考え ると考えていいでしょう。その後には産業界も 「商売にな 方は核融合の初期からありましたが、核融合をクリーン る」形で、 この分野とりわけ炉システムや材料分野への なイメージにするためこれまであまり言い出せませんでし 参入が加速されるものと考えています。 た。今回の提案は現実路線に回帰することで、核融合 会議の途中にはNIFの見学ツアーがあり実物を見る 炉が本当に実現可能であることを伺わせます。 また202 ことができました。 NIFの対応は国防関連施設でありな 0年という極めて早い段階で建設を開始することは、来 がら、大変オープンな印象をアピールしている姿勢が伺 年にも始まる点火実験の成功がほぼ確実なことを示し われます。 192ビームもある割には (半分地下に埋まって ています。 日本からは2030年を目処にITERに対抗し いることを差し引いても)建物は小さく感じられます。建 てi-LIFTが提案されました。国防関連プログラムを持 物も日本と比べて簡素な造りです。建物内部には実験 たない国(米仏等以外) には十分関心を持ちうるプロジ 装置がぎゅうぎゅうに詰まっており、 LHDや激光XⅡ号を ェクトと期待できます。 見てきた私には余裕のない設計に写ります。クレーンの MCFから見たICFについて私の印象を述べます。 ストローク一つを取ってもほとんど余裕がなく設計思想 今回、会議でITER機構から招待講演がありました。質 の違いを感じさせられます。 ターゲット室もターゲットの大 問者からも同様な危惧が指摘されていましたが、 それは きさに比べて小さく、 192本のビームが近接して挿入さ NIFの点火がすぐ迫ることへのMCF関係者の受け止 れています。波長変換を制御する部分も日本のレーザ め方についてです。 ITERが予算の関係で点火まで進 ーならカバーで覆われているところですがむき出しです。 めるのを先延ばしにしている中で、 NIFが先行して点火 修理交換はかなり大変な気がします。一方、 レンズ交換 実験結果を得ることにはメリットとデメリットがあります。 はコンパクトにユニット化されており工夫がなされていま それは点火の実験が可能になることでMCF炉の進展 した。 ターゲットは1cm程度ですが実に精巧なものでミク にフィードバックできる利点と、 ICFがMCFより進展して ロンオーダーの冷却パイプまでついています。いずれに いる印象を与えることにより予算配分が変わってしまう懸 しても、 日本の技術で十分追跡可能なレベルとの印象を 念が上げられます。現実にはMCFはICFとは同じ核融 受けています。 合とは言っても方式が異なる上、炉まで見渡したときの さて私の発表ですが、高速点火時の高速電子を測定 研究の蓄積(その中には立地や住民に対する理解など するためのコンパクト電子分析器の開発と今回の実験 サイエンスから離れた部分も含みます) において、MCF の最新結果を報告しました。多くの人に関心を持ってい 関係者はICFとは比較にならないほど大きいと自負して ただけただけでなく、関連する情報収集もでき大変充実 いますからそれほど危機感を持っているようには感じら した会議となりました。 なお次回は2011年フランスのボ れません。 また、電力の利用方法が異なると予想される ルドーで開催されます。 ため十分共存は可能と考えていいでしょう。炉材料を含 本出張に際しては、 IFEフォーラムの方々に大変なご めた核融合炉関係の発表はMCFに比べて明らかに少 協力を頂きました。 また、 白神先生、古賀先生ならびに疇 なく、 ICFではそこまで手が回らないのが現状と見てい 地センター長以下レーザー研の関係者、実験データの ます。そこでICFには不足している炉に関するデータ、 較正に協力頂いた阪大産業科学研究所の方々に、 この MCFには欠けている点火の影響を相互に利用できれ 場をお借りしてお礼を申し上げます。 IFEフォーラム ・9・ IFEフォーラム 編集後記 昨年11月に開催されたシンポジウムにはたくさんの方にご 来場頂き有り難うございました。会場でカメラを持って視界 を遮っていたのが私です。パネル討論では、いきなりの立花 先生の発言にどきどきでしたが、大変有意義な討論となり、 何よりでした。詳しい様子は記事を読んでくださいね。 さて、前号では、暖冬の心配をしていましたが、雪はばっち り積もりました。12月には白馬まで出かけ、新雪パウダースノ ーを満喫、子供と雪に埋もれてました。いつまで一緒に遊ん でもらえるかなあ。 編集委員 麻島 健(関西電力)、 坂和 洋一(大阪大学) 河仲 準二(大阪大学)、 椿本 孝治(大阪大学) 連絡先 (財)レーザー技術総合研究所 〒550-0004 大阪市西区靱本町 1 8 4 大阪科学技術センタービル4F T E L (06)6443 6311 F A X (06)6443 6313 IFEフォーラム ・10・
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