情報の点描画

情報の点描画
情報の点描画
• 情報をならべることによって、任意の事柄を
私たちは伝えています • 光の科学を応用したことによって、印象派が
生まれたように、情報の科学を応用して、情
報の芸術を生み出すことはできないでしょう
か? • この本はそのような視点にたって生まれた、
情報をつかった芸術の考察です
情報がいつ生まれたか
• 1605年に、フランシスベーコンがある文字を
任意の別の事柄の並びに対応させる方法を
考えだしました。 • 情報の科学の起点を、まずは1605年におい
て、この本では考えてみます。 点描画
• コンピュータグラフィックスは、小さな色の粒
からなりたっています • テレビのブラウン管は、三原色の色の粒から
なりたっています • ジョルジュスーラの絵も、小さな色の粒からな
りたっています • この本の最後では、この点描画と、情報のな
りたちの行く末とのかかわりを、芸術を通じて
考えます
ベーコンの暗号
• この本が情報のなりたちとして定義したベー
コンの暗号は、二種類の表現によって文字を
表現する方法です。 • この表現は、現代では5ビットからなる文字
コードとほぼ同じ考え方です。 5針式電信機 • 1837年に、クックとホーイトストンが五つの
磁針からなる、電信装置を発明します。 • 少しぶかっこうでしたが、これはベーコンの暗
号の考えの応用にもなっています。
モールス信号の誕生
• 1837年に、クックとホーイストンの考え方を
より洗練した形で、モールス信号が生まれま
した。 • 多くの人の手にかかり、モールスの方法は世
界標準の文字コードになります。 符号化と文字
• 文字コードは電信からコンピュータに応用される
ようになりました。 • 1960年代にASCIIコードが普及し、1970年代
にはJISコードが生まれ、1980年代にユニコード
が提唱されました。 • 文字を別の表現で符号化しそれを情報に変え抽
象化する。コード化する、という意味では、ベーコ
ンの暗号から今私たちが使っているコンピュータ
上の文字コードまで、すべて同じルールによりな
りたっています。 二進数、論理回路
• 手紙の暗号がコンピュータの情報にかわるまで、
いま私たちは技術そのものを起点にみてきまし
た。
• 技術を、実践と論理という二つの側面から考える
と • 中国に陰陽や易の考え方があり、17世紀ライプ
ニッツが二進数(バイナリ)を理論化し、19世紀
ジョージブールがブール代数を考えだし、その
ブール代数の考え方を20世紀になりクロード
シャノンが論理回路の基礎を作り出しました。 情報と点
• ベーコンからシャノンまで、すべての考え方は、
ある情報を電気的に表現する、という意味に
おいては同じ地平にあります。 • 情報は点になり、ゼロとイチの組み合わせで、
あらゆる事柄を表現することができるようにな
りました。 • ここで、別の分野の流れについてみていきま
しょう。
色と点
• 文字から情報に変わる世界とは別に、絵画
の世界は、観察と実践により、さまざまな芸
術技法があみだされました。 • 1666年、アイザックニュートンが、プリズムを
使い、光を色で分解できることを発見します。 • 光に含まれている、色を、7つや、4つや、3つ
の原色として表す考えが、近代になって定着
していきます。
色と点
• 原色を方法論の起点として、絵画を描き始め
た一団を印象派と呼びます。 • ニュートンの原色の考えを応用して、原色だ
けで絵画を構成しなおす、筆触分割の技法が
誕生しました。
理論と技法
• 印象派が好んで利用した理論は、さまざまな技
法を生み出し、モネ、マネといった大家から、より
理論を押し進めたスーラ、シニャックといった芸
術家を生み出し、抽象化を推し進めていった理
論と技法の活動は、単なる色彩の枠組みをのり
こえて、ピカソといった天才画家たちを生み出し
ていきます。 • 近代の理論と技法の歴史は、旧体制(アカデミ
ズム)を打破するためのよすがとして考えること
ができます。
情報の遠近法
• 印象派以前の芸術は、おおよそ宗教画から始ま
り、遠近法と光のグラディエーションという、アナ
ログな精密さによるリアリティを追求してきた歴
史としてとらえることができるでしょう。 • 印象派は、このアナログで旧態依然とした状況
に対して、デジタルなアプローチをした、という言
い方もできるでしょう。 • こんにち流通しているさまざまな情報に対しても、
理論と実践による、新たなアプローチをすること
は可能です。 情報の点描画
• 印象派の絵画が、こんにち科学的、と言い切れ
ないように、ある理論の実践と、その理論が真理
に根ざすかどうか、というのは、長い歴史をみる
と、あてにならない点が多くあります。 • セントラルドグマが変わり、パラダイムシフトが起
こっても、それは考え方が変わっただけで、現実
そのものがすぐにひっくりかえるわけではありま
せん。 • 歴史をふりかえると、理論と実践による価値観の
切り替わりは、ゆっくりと訪れるようです。
情報の点描画
• 私たちは、旧来の起承転結や論旨にとらわれ
ないかたちで – 文字から情報が生まれる場面 – 観察から理論へ、理論から技法が生まれる場面 • を、情報と絵画を例にみてきました。 • 旧来の理論に反抗する(アイロニーの)かた
ちで、私たちは新しい時代の芸術を考えるこ
とをしません 情報の点描画
• 情報の点描画は、形式のみならず、鑑賞者の位置や
見方にも協力してなりたつ表現形式です。 • それは、印象派の絵画が、あまりに近寄りすぎると、
意味をなさなくなるのと似ています。 • しかしながら、程度の問題で、顕微鏡で古典絵画をみ
れば、やはりそれはスーラの表現のように近づくわけ
です。 • 情報の点描画は、その意味では、アイロニカルに、現
状の否定をするわけではなくて • 別の視点でものをみたときに生じる新鮮さを、なるべく
自由な立場で持ってもらえるようにするための表現形
式でもあります。