博 士 ( 理 学 ) 早 川 裕 之 学位論文題名 Synthetic Studieson Biologically Active Natural Products Ba sedontheSt ereospecificConstruction Methodologiesfor Acyclic OrganicMolecules (立体特異的鎖状有機分子構築法を機軸とする 生理活性天然物の全合成研究) 学位論文内容の要旨 鎖状有 機分子 にメチル 基や水 酸基が 隣接し た構造 は、医 薬品を 始め農 薬、テル ベン系 化合物、昆虫フェ 口モン、 生体関 連物質 など自 然界が 産生す る多様 な生理 活性物質 に共通 して見 出され る構造 であり、これ ら鎖状分 子を立 体特異 的に作 り分け る精密 有機合 成手法 の開発は 、現代 有機化 学の重 要な課 題である。申 請者は 、立体特異的鎖状有機分子構築法を機軸とし、 ト ウ モ ロ コシ の 宿 主 特異 的 毒 素 である PM-toxinAの 最初の 全合成を達成するとともに、海産マク口ライド MisakinolideAの全 合成研 究を行っ た。また、以下に 述 べ る 2種 の 新 規 鎖 状 分 子 構 築 法 を 開 発 し た 。 1. トウモ ロコシ の宿主 特異的 毒素PMー toxinAの立体 選択的 全合成 PM-toxinA(1)は、 優良品種 である T-cornにの み特異 的に寄 生する Phyllostic tama ydisというカピが生産 す る宿主 特異的 毒素で 、トウモ ロコシ 黄色ゴ マ葉枯 れ病の 主要毒 素であ る。PM-toxinは炭素数 33あるいは 35か らな る 直 鎖 状化 合物 であり 、中で もPM-toxinA(1)は 4組の特 徴的な アルド ール構 造を含 むユニ ークな 植 物毒素 である 。特異 な生理活 性と化 学構造 を有す ること から植 物病理 学者や 有機合成 化学者 から注目さ れ てきた が、化 学的に 不安定な アルド ール構 造を多 く含む ため、 PM-toxin類の 全合成 はこれま で達成され て いなか った。 申請者 は、PM-toxinの 特異な 生理活 性と構 造に興 味を持 ち、化 学合成 を通じて 植物病理学 に 資する ことを 目指し 1の全合 成に着手 した。 OHO OHO OHO OHO ^ ハ亠儿 ーハ上 儿ーハ 上ルハ ー上儿 PM-toxinA(1) O Na[PhSeB(OEt)3],AcOH O O O O O ぜ o む O aldolreaction O O O ハ ノVム丶 rOHCヘノ 丶 o む 人MPMOヘノヘノ AVOHC/丶/丶 ;人 o ざ A BSchemel C B ― 209 - 全 合成を 進める 上で、化 学的に 不安定 なアル ドール 構造を いかに 構築す るかとい う点が 最重要課題とな る が、4組 のアルド ール構 造を全 てエポ キシケ 卜ンと してマ スクし 、合成の最終段階で有機セレン還元法を 用 いてアル ドール 構造を 一挙に 構築す る合成 ルート を立案 した。ま た、鍵 中間体 となる テトラキスェポキ シ ケ ト ンは 、 乳 酸 メチ ル か ら それ ぞ れ立 体選択 的に合 成した 3つのフ ラグメン 卜A-Cを アルド ール反応 に よ っ て 連 結 し 、 PM‐ toxinA( 1) の 最 初 の 立 体 選 択 的 全 合 成 を 達 成 し た ( Scheme1) 。 2.海産天 然物MisakinolideAの立 体選択 的全合 成研究 MisakinolideA(2)は 、沖繩の海綿Th eonel laから単離、構造決定された40員環二量体マク口ライドである。 2は、アク チンの 脱重合 に基づ く強カ な抗腫 瘍活性 ならび に細胞毒 性を有 することが明らかにされ、内外の 科 学者か ら注目 を集め ている 。2はpremisakinolideAが特 異な二 量体大 環状構造を形成したもので、全体で 30個 の 不斉 中 心 を有 する。 申請者 は2の特 異な生 理活性 とユニ ークな化 学構造 に興味 を持ち 全合成 研究に 着 手した 。2のよ うな複 雑な多 連続不 斉中心 を有す る巨大 分子を合 成する ためには、収束的な合成ルートの 立 案が不 可欠で ある。 そこで 、実質 的な標 的化合 物となる premisakinolideAを4つに分割し、それぞれのセ グ メ ン ト を 立 体 選 択 的 に 合 成 し た 後 に 連 結 す る 収 束 的 な 合 成 ル ー 卜 を 立 案 し た (Scheme2) 。 Mく 冫 ご premisakinolideA MisakinolideA(2) OMe 0 0H Me。 人 1か入アY Me 0 Me segmentA s egm en tB segmen tC seg mentD Scheme 2 多連 続不斉 中心を 含むポ リプ口 ピオネ ート構造 をトリメチルアルミニウム‐水系による立体特異的メチル 化反 応なら びに有 機セレ ン還元法 を駆使 して構 築し、 セグメ ントA, B,Cの高立体選択的合成を達成した。 エ ポキ シ ド の位 置 お よび 立 体 選択 的 開 環反 応 を機軸 とする立 体特異 的鎖状分 子構築法 の開発 立 体特異 的鎖状 分子構 築法の開 発は、 現代有 機化学 の重要 な研究 課題で ある。 申請者は 、エポ キシドの 位 置およ び立体選 択的開 環反応 を機軸 とする 立体特 異的鎖 状分子 構築法の 開発を 目指し 、新た にェポキシ ス ル フ ィド 3を基 質 と し 、二 重 立 体 反転 を 伴 う 立体 特 異 的 VIC-ジオ ール合 成法を 開発し た(Scheme3) 。 − 210− 「ー Ph I P hB( OH )2 b enz en e , 700C 97 1 0 0c 70 R SPh vic-di ol epoxysu lfide3 e pi su lf o ni u m io n Scheme 3 さらに、工ポキシアルコール4の先例のないC 2 位選択的アジド化反応を開発した( S c h em e 4 )。 ー 砂 丶 丶 OH epoxy alcohol4 PhB(OH)2 NaN3 Scheme 4 77 99% O.B.O N3 DMF C-2azide - 211― 学 位論文審査の要旨 主査 副査 副査 副査 副査 教授 宮 下 正 昭 教授 村 井 章 夫 教授 辻 孝 教授 辻 康之 助教授 谷 野 圭 持 学位論文題名 SyntheticStudiesonBiologicallyActiveNatu ral ProductsBasedontheStereospecif icConstruct ion Methodologies for Acyclic OrganicMolecules (立体特異的鎖状有機分子構築法を機軸とする 生 理 活 性 天 然 物 の 全 合 成 研究 ) 鎖状有機分子にメチル基や水酸基が隣接した構造は、医薬品を始め農薬、テルペン系 化合物、昆虫フェロモン、生体関連物質など自然界が産生する多様な生理活性物質に共 通して見出される構造であり、これら鎖状有機分子を立体特異的に作り分ける精密有機 合成手法の開発は、現代有機化学の重要な課題である。本論文の著者は、新しい立体特 異的鎖状有機分子構築法を利用することにより、これまで化学合成が非常に困難とされ ていたトウモロコシの宿主特異的毒素で黄色ゴマ葉枯れ病の主要毒素であるPM−トキ シンAの最初の不斉全合成を達成し、PM−トキシン類の化学構造を合成的に証明する とともに、トウモロコシの宿主特異的毒素の化学合成法を確立し、植物病理学の進展に 大きく寄与した。 また極めて複雑な鎖状立体構造を有する海産天然物ミサキノライドの全合成研究に挑 戦し、新規鎖状分子構築法を機軸として26個の連続不斉中心の高立体選択的構築を達 成し、ミサキノライドの全合成への道を拓いた。これらの生理活性天然物の全合成研究 に加え、全く新しい2種の立体特異的鎖状有機分子構築法を開発し,有機合成化学に大 きく貢献した。 よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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