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B.強皮症 187
6.新生児エリテマトーデス neonatal lupus erythematosus
類義語:新生児ループス(症候群)
(neonatal lupus syndrome)
症状
シェーグレン
生下時〜生後 3 か月の間に,
Sjögren 症候群に伴う環状紅斑様,
あるいは SCLE 様の鱗屑を伴う環状皮疹を生じ(図 12.9)
,6
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か月程度で軽度の色素沈着を残して消退する.ときに全身症状
(肝機能異常,血球減少)を生じる.非可逆性の先天性心ブロ
ックを 1 〜 2%の症例で伴い,細心の注意と対応が必要である.
病因・治療
SLE や Sjögren 症候群に罹患した,あるいはときに無症状の
母親から,経胎盤的に移行した母親由来自己抗体による受身型
の自己免疫疾患.とくに皮膚症状は抗 SS-A 抗体と関連してい
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る.遮光および対症療法が中心となるが,心ブロックにはペー
スメーカー導入が必要になることが多い.
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図 12.9 新生児エリテマトーデス(neonatal lupus
erythematosus)の環状紅斑
7.結節性皮膚ループスムチン症 nodular cutaneous lupus mucinosis
背部や上肢などにみられる丘疹や結節で,真皮内に多量のム
a:0 歳男児左顔面.初め 5 mm~1 cm 大の紅斑とし
て生じ,徐々に環状に拡大.中心部は消退傾向を示
すが,辺縁部は著明な浮腫と隆起を認める.b:右頬
部に生じた 2 つの環状紅斑.
チンが沈着して生じる慢性型エリテマトーデスの一型である.
SLE に伴うことが多い.
8.水疱型エリテマトーデス bullous lupus erythematosus
顔面など上半身を中心に多形紅斑様の浮腫性紅斑が生じ,小
しゅうぞく
デューリング
水疱が単発ないし集簇する(図 12.10)
.臨床的に Duhring 疱疹
状皮膚炎や後天性表皮水疱症(14 章参照)に類似することが
ある.Ⅶ型コラーゲンに対する自己抗体を認めることがある.
B.強皮症 scleroderma
皮膚が浮腫→硬化→萎縮と変化していく疾患である.強皮症
は,種々の内臓病変を合併する全身性強皮症(systemic sclerosis)と,他臓器に病変をきたさない限局性強皮症(localized
scleroderma)に大別される.
図 12.10 水疱型エリテマトーデス(bullous lupus
erythematosus)
SLE 患者に生じた症例.水疱は LE の紅斑上だけで
なく,健常皮膚上にも生じる.
i
188 12 章 膠原病および類縁疾患
1.全身性強皮症 systemic sclerosis;SSc
同義語:進行性全身性強皮症(progressive systemic sclerosis;
PSS)
●
四肢末端より生じる皮膚硬化と Raynaud 現象.
●
舌小帯の短縮,仮面様顔貌に加え,食道狭窄,強皮症腎,肺
線維症など,全身臓器や血管の硬化を伴う.
●
検査では抗 Scl-70 抗体陽性,抗セントロメア抗体陽性.
●
治療は血管拡張薬やステロイドなど.
分類
ルロイ
本症はいくつかの分類法や亜系が存在するが,現在は LeRoy
メッガー
& Medsger の分類が主に用いられる(表 12.5).すなわち,皮
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膚硬化が肘関節より近位にも出現し,進行が急速で各種内臓病
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変を生じやすいびまん皮膚硬化型(diffuse cutaneous SSc;dcSSc)
と,皮膚硬化が肘関節より遠位にとどまり内臓病変が比較的軽
度な限局皮膚硬化型(limited cutaneous SSc; lcSSc)の 2 病型
である.それぞれの病型の臨床症状の相違点を表 12.6 に示す.
症状
30 〜 50 歳代に好発し,男女比は 1:3 〜 4 と女性に多い.
Raynaud 現象および関節痛で初発し,冬季に増悪することを繰
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り返しながら次第に末端(指趾や顔面)から近位へ硬化してい
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く.部位により特徴的な皮膚病変がみられるが,基本的に数年
〜数十年をかけて浮腫期→硬化期→萎縮期の順に進行する.
①指趾
Raynaud 現象をほぼ全例で認める.初期では浮腫性腫脹が認
められ,押しても陥凹しない〔ソーセージ指(sausage-like finger)
〕
.進行すると硬化して皮膚をつまむことができなくなり,
表 12.5 全身性強皮症の主な病型分類
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図 12.11① 全身性強皮症(systemic sclerosis)
a:強い硬化をきたし,手指の運動障害を認める.b:
皮膚が硬化し,手指の伸展障害を認めている(prayer
sign)
.c:示指先端は血流障害のために壊死して脱
落している.他の指も先端部が一部壊死して短くな
っている.
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B.強皮症 189
表 12.6 全身性強皮症の臨床症状
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さらに伸展障害をきたして特徴的な姿勢となる(prayer sign).
指趾尖端は先細り(マドンナの指)
,循環不全により激痛を伴
う小潰瘍が形成され,治癒後には陥凹した瘢痕を残す〔虫食い
状瘢痕(digital pitting scar)
,図 12.11〕
.このような症状は,一
般に手指から上肢へと近位方向に拡大する.爪甲では爪上皮の
延長(2 mm 以上)と毛細血管拡張がみられる.そのほかに,
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毛細血管拡張や色素沈着,色素脱失,石灰沈着などをきたす.
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②顔面(図 12.11 ②)
仮面様顔貌:浮腫性硬化のため顔面の皺が消失する.鼻が小さ
く尖ってくる.開口障害のため口が小さくみえ〔小口症(microstomia)
〕
,その周囲に放射状の皺を形成する.本症に特徴的
である.
舌萎縮(microglossia)
,舌小帯萎縮:これにより舌が出しに
くくなる.
③その他
他臓器においても,線維化や血管の内膜肥厚による症状が出
現する.関節炎(手指関節の腫脹や腱摩擦音)や食道蠕動運動
低下,逆流性食道炎,肺線維症,肺高血圧症,心症状(心筋虚
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血や心筋炎)
,腎症状〔強皮症腎クリーゼ(scleroderma renal
crisis)
〕などがある.
図 12.11② 全身性強皮症(systemic sclerosis)
a:仮面様顔貌.b:舌萎縮.c:第 1,第 2 足趾先端
の潰瘍・壊疸
病因
本症の本態は,膠原線維の合成促進による硬化である.原因
は不明であるが,①免疫学的機序(TGF-b や PDGF など線維
細胞増殖因子の亢進)
,②遺伝的要因(上記サイトカインの遺
伝子多型など)
,③マイクロキメリズム(妊娠を経験した女性
や輸血経験者などで,体内にわずかに存在する非自己細胞が発
症に関与する)
,④環境因子などが考えられている.
病理所見
初期には真皮中層から下層にかけて膠原線維の増加や軽度の
CREST 症候群
(CREST syndrome)
190 12 章 膠原病および類縁疾患
膨化,浮腫やリンパ球浸潤がみられる.硬化が進むと,表皮萎
縮と付属器の減少や消失がみられ,膠原線維の均質化(表皮に
平行に走る),ムチン沈着が観察される.SSc 単独では,皮膚
組織の免疫染色直接法では通常陰性である.
検査所見
びまん皮膚硬化型の 40%,限局皮膚硬化型の 15%で抗トポ
イソメラーゼⅠ抗体(抗 Scl-70 抗体)を認め,SSc に特異的で
ある.抗セントロメア抗体(抗 CENP-B 抗体)はびまん皮膚
硬化型の 3%未満,限局皮膚硬化型では 30 〜 60%でみられ,
限局皮膚硬化型のマーカーとなりうる.これは抗核抗体検査で
唯一,離散斑紋型(discrete speckled type)を呈する.そのほか,
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抗 RNA ポリメラーゼ抗体(男性の重症型で出やすい)などが
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検出されうる.
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診断・鑑別診断
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診断基準を表 12.7 に示す.前腕伸側からの皮膚生検で硬化
の有無や程度を判断する.皮膚の重症度判定は modified Rodnan total skin thickness score(TSS)が頻用される.本症の浮腫
期においては,混合性結合組織病との鑑別に注意を要する.ま
た類縁疾患として,以下にあげたような強皮症に類似する皮膚
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病変を呈する疾患が存在する.
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・ヒトアジュバント病(human adjuvant disease):豊胸術など
で従来用いられていたシリコンやパラフィンが免疫反応を起こ
し,強皮症など膠原病に類似した症状をきたす.
・好酸球性筋膜炎:後述 p.192.
・慢性 GVHD:10 章 p.150 参照.
・化学物質による強皮症様変化:トルエンや塩化ビニルなどの化
学物質やブレオマイシンによって強皮症様変化をきたしうる.
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治療・予後
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皮膚硬化の早期病変に対してはステロイドの中等量内服が行
われるが,強皮症腎クリーゼの誘発に注意する.Raynaud 現象
や皮膚潰瘍にはプロスタグランジン製剤などを投与する.四肢
の保温や禁煙も大切である.重症例では免疫抑制薬や造血幹細
胞移植などを行うことがある.本症の予後は強皮症腎クリーゼ,
肺病変,心病変によることが多い.
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図 12.12 限局性強皮症(localized scleroderma)
:
モルフェア(morphea)
a:右前腕伸側に生じた直径 10 cm 大の硬化性局面.
中心部は象牙色で光沢を有する.周囲にはライラッ
ク輪があり淡い紅斑を認める.b,c:前胸部.d:線
状強皮症(小児の口唇)
.
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PSS から SSc へ呼称の変更
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B.強皮症 191
2.限局性強皮症 localized scleroderma
表 12.7 全身性強皮症の診断基準
大基準
近位皮膚硬化(指先あるいは足趾より近位に及ぶ皮
膚硬化)
定義・病因
皮膚に限局して硬化をきたすものの総称であり.内臓病変を
伴わない.原因不明であるが,外傷が誘因となる症例もある.
ボレリア感染が関与するという報告もある.
症状・分類
外観および経過から,大きく 3 病型に分類する.
小基準
1.手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
2.手指尖端の陥凹性瘢痕,あるいは手指の萎縮
3.両側性肺基底部の線維症
大基準,あるいは小基準 2 項目以上を満たせば全身
性 強 皮 症 と 診 断( 限 局 性 強 皮 症 と pseudosclerodermatous disorder を除外する)
(アメリカリウマチ学会)
① モ ル フ ェ ア〔morphea: 斑 状 強 皮 症(scleroderma en
plaques)
〕
中年の体幹に好発する類円形の硬化病変で,中心部は象牙色
で 光 沢 を 有 す る( 図 12.12)
. 初 期 に は ラ イ ラ ッ ク 輪(lilac
ring)と呼ばれる紫紅色の紅暈に取り囲まれる.大きさは数
mm 〜 30 cm 前後までさまざまである.皮下脂肪組織を中心と
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する深在性(morphea profunda)
,水疱を伴う水疱性(bullous
morphea)などの亜型がある.
②多発性モルフェア(generalized morphea)
中年の体幹にモルフェアが出現し,次第に拡大,多発,融合
する.関節痛やまれに Raynaud 現象を生じる.
③線状強皮症〔linear scleroderma:帯状強皮症(scleroderma
en bandes)
〕
小児に好発する.モルフェアに類似した硬化病変が通常は片
側に,線状ないし帯状に生じる.ライラック輪はほとんどみら
けん そう じょう
れない.前頭部に生じたものは剣創 状 強皮症(scleroderma en
coup de sabre) と 呼 ば れ, 頭 皮 部 に 及 ん で 脱 毛 を 生 じ( 図
12.13)
,ときに顔面片側萎縮症(facial hemiatrophy)を伴う.
病理所見・検査所見
全身性強皮症の病理所見に類似する.一般に全身性強皮症で
みられるような免疫異常は認めないが,多発性モルフェアでは
リウマトイド因子や抗核抗体が陽性となることがある.
治療
初期病変や硬化局面にはステロイド局注および外用を行う.
重症例はステロイド内服を行うこともある.一定期間観察し拡
大傾向がなければ外科手術も考慮する.
図 12.13 剣創状強皮症(scleroderma en coup de
sabre)
あたかもサーベルで頭を切られたような分布で脱毛
局面,皮膚の硬化をみる.一部皮下の骨にも萎縮を
伴う.
192 12 章 膠原病および類縁疾患
3.好酸球性筋膜炎 eosinophilic fasciitis
シャルマン
同義語:Shulman 症候群(Shulman syndrome),びまん性筋
膜炎(diffuse fasciitis)
壮年男性に好発する.過度の運動などを契機として四肢遠位
に対称性に皮膚硬化を生じる(図 12.14).臨床的に全身性強
皮症に類似するが,①手足は侵されない,②末梢血および皮膚
生検組織で好酸球増多をみる,③表在静脈に一致して線状に陥
凹が目立つ(groove sign)点で鑑別されることが多い.中等量
図 12.14 好酸球性筋膜炎(eosinophilic fasciitis)
両下腿が硬化し,光沢を伴っている.足背や足趾に
硬化はみられない.
のステロイド内服が行われる.
C.その他の膠原病 other collagen diseases
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1.皮膚筋炎 dermatomyositis;DM
●
ヘリオトロープ疹,ゴットロン徴候,多形皮膚萎縮(poikiloderma)
,びまん性浮腫性紅斑,爪囲の毛細血管拡張などの
特徴的な皮疹.
●
近位筋から筋力低下が始まり,筋障害を反映して CPK 高値,
アルドラーゼ高値,尿中クレアチン高値.
●
内臓悪性腫瘍を高率に合併.
●
間質性肺炎の急性増悪に注意.
●
治療はステロイド.
疫学
日本での患者数は約 3,000 人,30 〜 60 歳代および小児期に
多く,男女比は 1:2 で女性に多い.
皮膚病変を認めないものは多発性筋炎(polymyositis;PM)
という.
症状
皮膚症状:顔面とくに眼瞼,眼窩周囲の浮腫性紫紅色斑〔ヘリ
オトロープ疹(heliotrope rash),約 30%で観察される〕および,
両指関節背面の落屑を伴う扁平隆起性丘疹〔ゴットロン徴候
図 12.15① 皮膚筋炎(dermatomyositis)
体幹前面に生じた瘙痒を伴うびまん性浮腫性紅斑.
左胸部は掻破により線状紅斑(flagellate erythema,
矢印)を呈している.
(Gottron’
s sign)〕は診断的価値が大きい(図 12.15)
.頬部や頭
部では脂漏性皮膚炎様の紅斑が出現し,小児ではしばしば頬部
そう
紅斑となる(図 12.16).また,頸部から上胸部〜上背部に瘙