Q. 地域との関係づくりで大切にしてきたことや実際に取り組んだことを教えてください。 A.今、学校において教職員と地域住民とのトラブルはないが、それ以上の関係もない場合を学校と 地域との「関係」が良好であるととらえる意識が学校現場にあるのではないか。しかし、両者の関係 が良ければ連携しているわけではない。 「関係」は、つながりのある状態を意味するにとどまるのに対 し、 「連携」は、つながりを前提にした目的指向的な一連の「作用」を意味するものである。国立教育 政策研究所の研究プロジェクトは「連携」を「子どもや青少年に学校内外で幅広い多様な教育機会を 提供することによって教育の改善を行うことを目的として、学校と様々な組織・団体を含む地域社会 とがそれぞれの組織文化、行動様式、資源の相違や特色を活かしつつ、知識、経験、資源(人的、物 的、金銭的)を交換し協力し合う行動を指す」と定義している。佐藤晴雄は「連携」の定義を「学校 と家庭・地域社会とが学校教育の改善と地域の生涯学習推進を目的として、それぞれが所与の役割分 担を前提にした上で、①情報交換・連絡調整、②相互補完、③協働などの諸機能を発揮する恒常的な 協力関係の過程である」と述べている。その場合、①、②、③の三つの機能は「情報交換」から「相 互補完」を経て「協働」へと発展する関係に置かれる。この発展過程は時間的、質的変化の過程であ り、具体的な取組の手続きの過程でもある。 以上のことから、学校と地域の連携が目指す「協働」とは、学校と家庭・地域が明確な目的の下で 目標を共有化し、その達成を図るために協働体系の中で各主体が対等な関係性と明確な役割分担を前 提としながら相互に物的・人的・社会的システムを活用していく活動のことだと定義できる。これま でにありがちな、学校に対する家庭・地域による一方的な貢献や協力にとどまるものではなく、逆に、 学校が家庭・地域への支援に終始するものでもない。真の「協働」とは、学校、家庭、地域がともに 一つの目的を達成させるために協働して活動に取り組み、その結果をそれぞれが共有できる互酬性の あるものである。 私が校長として勤務した小学校での実践をもとに述べていく。校区には古墳があり、そこから出土 したものをもとに、地域は、 「○○の里」として活性化に取り組む一方、子どものために学校・家庭・ 地域の三者が協力連携して『祭り』が行われてきた。 2000(平成 12)年度、2001(平成 13)年度に市教育委員会推進モデル地区の指定を受けて「トライ アングル事業」地域における心の教育の在り方(学校・家庭・地域の三者が協力・連携して)の実践 的研究が進められた。この事業の導入期は、目的の共有が学校、地域の双方から高まり、学校の組織 として校長が推進力になり、学校内では、ミドルリーダーがリーダーシップを取り、校内の役割分担 を図っていった。子どものために学校と地域が双方から当事者意識をもち、多様で活発な取組がなさ れ安定期へと進展していた。しかし、研究指定期間が終了した4年目後半ころから停滞段階を迎える。 継続事業がマンネリ化し、教職員の意欲が減退すると共に多忙感が募ってくる。連携事業から教職員 の心が離れていく。その背景には、第1に学校の組織の変化がある。年度末の人事異動による転勤や 管理職の退職である。入れ替わりに転勤してきた校長が地域連携事業のリード役をいきなり果たせる か問題である。第2に、この事業の推進役であったミドルリーダーの転勤に伴いリーダー役の引き継 ぎがなされていないため推進役の仕事が宙に浮いてしまった。この状態は、地域連携の事業の停滞を 意味し、連携活動の姿が形骸化していく様相を生み出す。そこで、このような学校・地域連携活動の 停滞状態をどう改善していくかという課題意識をもち、これまでの学校・地域連携の先行研究を踏ま えつつ、スクールマネジメントの観点から方策を見出そうとした。あわせて、学校・地域連携活動事 業が学校教育の枠外にあるという教職員の無意識的認識を学校教育の内にあるとして意識的認識に転 換を図る方策を見出そうとした。 学校と地域との連携に鍵を握るのは、スクールマネジメントであることが明らかになってきた。そ こでスクールマネジメントの観点から学校と地域を真に結びつけるものを明らかにする。 その一つに、地域の教材化がある。地域を教材にすることによって「授業時間がスリム化される」 「地 域への関心が高まる」という二つのメリットが見出せた。そして、この地域教材の利点を採り入れて 「教科書教材と置き換える」 「対象から繋がりを深化させる」「選択を子どもがする」という方法が意 味を伴ってカリキュラムに位置付けることができる。また、地域教材の活用には、地域人材の関わり が必要であり、教職員は地域のヒト・コト・モノとの関わりによって自己有用感、自己充実感をもつ ものである。さらに、外部資源の活用では「役割転換の活用」も見出された。スクールリーダーは、 これらのことを踏まえて「地域素材を教育課程に位置付けること」 「子どもの思いや願いに立った学校 ヴィジョンを示すこと」で互恵性のある連携・協働の方途が見出せる。 二つ目に、学校と地域を真に結びつけるものとして「コミュニケーションの活性化」が考えられる。 その方法として「学校通信」がある。学校通信には、①学校の情報伝達機能、②保護者への指導機能、 ③学校・保護者のネットワーク機能という三つの機能が見出せた。スクールリーダーはこれらのこと を踏まえて「学校のヴィジョンを示すこと」 「学校と地域の双方向のコミュニケーションを活性化し協 働できる礎石をつくること」で互恵性ある連携が深まっていく。 三つ目にスクールマネジメントの一面として、児童の安全確保と危機管理に取り組むことは、学校 と地域を協働させるものである。児童の安全確保と危機管理に取り組むためには、地域と家庭を結ぶ 確かなネットワークシステムの構築が欠かせない。ネットワークづくりを実効性のあるものとするた めには、キーパーソンの存在を見出すことである。ネットワークが機能するためには、人の良好な関 係づくりが編み出されなくてはならない。 学校と地域との連携は、いまや当たり前であると認識されている。それは教育活動全場面を包含し ているからであり、さらに、学校と地域連携の必然性は、日本の公立学校の成り立ちからも述べるこ とができる。そのためには、地域連携を行事的取組にとどめず「仕組み」を整備して継続することが 肝要である。もう一点、平成25年度教員採用試験の要項にみる府・県市の教員像から地域との連携 の必然性が見て取れるのである。特に関西では顕著に見られる。 このように学校と地域の重要性は、あらためて言うまでもないが、いざ実践となると様々な課題に ぶつかる。幸いにも筆者は在職中に、佐藤晴雄(2008)が指摘したようなモデルになるような貴重な経 験をしたのではないかと思う。この幸運に感謝するとともに、これを科学的裏付けをもった臨床知へ と磨きあげたいと思う。 経験校種 小学校
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