57 継親家族(Stepchildren と Stepparents)のための 相続法 ― Factors Test の利用可能性と比較分析― 岩﨑 麻未 (前田研究会 4 年) Ⅰ はじめに Ⅱ カリフォルニア州における継子相続制度の問題点 1 無遺言相続法 2 統一検認法典(UPC)とカリフォルニア州検認法における継子の無遺言相続権 Ⅲ 新制度の提案―“factors test” 1 各要因(factor)の論理的根拠 2 継親家族のかたち 3 親権・面会権に関連した親子関係確認テストの利用可能性 4 “factors test”に対する潜在的批判 Ⅳ 日本法への示唆 1 日本における継親家族の現状 2 相続におけるフェアネス Ⅰ はじめに 90年代から日本人の離婚件数が増え、継親家族(Stepfamily)と呼ばれる家族が 増えている。継親家族(Stepfamily)はブレンド家族(Blended-family)とも呼ばれ、 親が未成年子の親ではない者と婚姻することにより形成される家族として定義さ れる1)。近年、継親家族(Stepfamily)を題材にしたテレビドラマが放送され、継 親家族(Stepfamily)と家族にかかわる職業に従事する人のために情報や支援を提 供する非営利団体(SA J:Stepfamily Association of Japan)2)が創設され、日本でも継 58 法律学研究50号(2013) 親家族(Stepfamily)に関する研究や組織の編成が進んできた。しかしその一方で、 日本の家族法を中心とした法的対応はあまり進展していない。 日本と同様にアメリカでも継親家族(Stepfamily)が増え、調査によると、全ア メリカ人の半分以上は継親家族(Stepfamily)と住んでいた、あるいは現在住んで いる、あるいは今後住むだろうと予想されている。しかし、アメリカでも日本と 同様にこの家族形態の変化に法律が追いついていない現状が存在する。 日本の現行家族法において、継子(stepchildren) と継親(stepparents) は、相 続人の範囲から除外されている(日本民法第890条参照)。一方でアメリカでは、 1969年に制定された統一検認法典(UPC:the Uniform Probate Code)3)と呼ばれる 法律が存在し、継親家族(Stepfamily)が現在よりも一層除外された30年以上も前 からその法定対応が模索されてきたが、未だ十分に相続人の範囲を広げるには 至っていない。 アメリカのほとんどの州は無遺言相続において継子の相続権を認めていない4)。 その中で初めて継子相続権を定めたのがカリフォルニア州であるが、同州法は同 時に継子の相続権の限界も定めており、継子から他の親族や継親への相続権は認 められない5)。 無遺言相続においても、実親子・養親子と同様に、継親家族の被相続人の意思 を尊重し、同人の家族の保護を考慮すべき必要性の高い場合があり得る。離婚率 の高さ並びに継子・継親間の親子関係の増加を考慮すれば、UPC および州法は 継親家族市民の意思に沿った内容に改正されるべきであり、また、継親から継子 への相続を非常に限定的な範囲でのみ許容する現行制度にも問題が存在する。 日本の親族・相続法下における継子・継親の地位の脆弱性にかんがみて、本稿 ではアメリカ・カリフォルニア州の無遺言相続における継子の地位並びにその脆 弱性への対策を紹介し6)、日本法への示唆に供しようとするものである。 Ⅱ カリフォルニア州における継子相続制度の問題点 1 無遺言相続法 被相続人が遺言なしに死亡した場合には、無遺言相続に従うことになる。無遺 言相続に関する規定を有する UPC は、アメリカの18州においてその全体が包括 的に採択され、その他の州においてはその一部が採択されている7)。 UPC 第 2 章第 1 節第 3 条では、無遺言相続について、被相続人の生存配偶者 59 以外の相続人の順序について次のように定めている。すなわち、⑴ 被相続人の 直系卑属、⑵ 生存する直系卑属がいない場合は被相続人の片親あるいは両親、 ⑶ 生存する直系卑属も親もいない場合は被相続人の兄弟姉妹、⑷ 生存する直系 卑属も両親も兄弟姉妹もいない場合は被相続人の祖父母8)。これらのいずれも該 当者がいない場合に被相続人の財産は州へ引き渡される9)。 無遺言相続法は、遺言をせずに死亡した被相続人の財産から分配を受ける権利 を一定の相続人の範囲に限定することによって、残された家族の金銭的・心理的 な援助を提供する10)。 上記のように、被相続人の「親族」のみが考慮され、その結果、継子のように 被相続人がその「親族」同様に考慮する者は除外される。このことは、最終意思 たる遺言を残すことなく死亡した被相続人のあたかも支援的・バックアップ意思 (a back-up will)として、被相続人のあるべき願望に従った遺産分配を行う無遺言 相続制度の本来的な存在意義と矛盾するであろう11)。 2 統一検認法典(UPC)とカリフォルニア州検認法における継子の無 遺言相続権 ( 1 ) UPC の無遺言相続法における継子の不在 UPC 第 1 章第 2 節第 1 条では、子とは「関係を有する親から無遺言相続によっ て本法典の下で子として考慮される権利を有するあらゆる個人」と定義され、同 条後半において、継子(stepchild)は、里子(foster child)や孫(grandchild)と並び、 明文で「子(Child)」の範囲から除外されている12)。ただ UPC では、法改正を通 じ、「親子関係」(parent-child relationship)という文言を用いて、養子並びに最近 の生殖補助医療により出生した子に無遺言相続権を認めている13)。このように UPC 第 1 章第 2 節第 2 条に対して行われた一連の改正は、変わりゆく家族の状 況に対応したものであるが、今なお継子の無遺言相続権を含んでいない14)。UPC では、生殖補助医療に際して、親子関係創設のためにその子を養子にする必要が ない。したがって UPC は、その親の生物学的な子でもなければ、法律上の養子 でもない子をその親の子と認め、その子に無遺言相続権を付与している。これと 比較すれば、UPC は、養子縁組をしていない継子の継親からの無遺言相続権を 認めるべきとの価値判断もあり得よう。 なお、継親子間の無遺言相続権が認められにくい要因として、同相続権が不在 であるからといって継親子間の相続が全く不可能というわけではなく、無遺言相 60 法律学研究50号(2013) 続以外の方法すなわち遺言に基づいて相続がなされ得ることが挙げられる。 ( 2 ) カリフォルニア州法における制限的継子相続 カリフォルニア州では、改正前検認法第26条の下15)、継子である以上、当然に 相続権はなく、継親子関係の実質を審査するという段階には至っていなかった。 夫婦とその間に生まれた子から形成される家族のみをその射程に入れ、それ以外 の家族は家族ではないとして排除するものであった16)。 1983年、カリフォルニア州立法府は、検認法の大改正を伴う、下院法律案第25 号を可決した。そこには、検認法第6408条⒜⑵号が含まれており、次のように規 定した17)。 ある者とその者の里親ないし継親との間の関係は、ⅰ 当該関係がその者 の未成年の間に開始し当事者の共同の生涯にわたり継続し、かつ ⅱ 明白か つ確信を抱くに足る証拠をもって、里親ないし継親が法的障碍がなければそ の者を養子収養したであろうことが立証された場合、養親子関係と同じ効果 を取得する。 この改正の目的は「養子収養の同意に拒絶する実親の相続権を子から奪うとい 18) う好ましくない結果」 を回避することにあり、そのため「養親子関係と同じ効 果を取得する」という文言が削除され、養子収養による実親との関係の断絶が回 避される結果、継子は継親のみならず実親をも相続することが可能となった。ま た、継子または直系卑属の継親に対する固有相続ないし代襲相続のみを規定した ため、継親は継子を相続できないこととなったが、その理由について改正委員会 の説明はなく立法趣旨は不明である19)。 現行検認法第6454条は、継子が無遺言により継親を相続するためには、次の 5 つの要件を充足しなければならないと定めている20)。すなわち、 ① 継親子関係が存在していること ② 当該関係(the relationship)が継子の未成年の間に開始したこと ③ 当該関係が当事者の共同の生涯にわたり継続したこと(continued throughout the joint lifetimes) ④ 明白かつ確信を抱くに足る証拠により、継親が継子を養子収養したであろ 61 うこと(would have adopted)を立証すること ⑤ 明白かつ確信を抱くに足る証拠により、法的障碍がなければ(but for a legal barrier)当該養子収養がなされたことを立証すること これら 5 要件をすべて充足したときにはじめて、継親と継子の間に法的親子関 係(the relationship of parent and child)が成立し、継子は継親を相続できるものと する21)。 ( 3 ) エクイティ上の養親子関係の法理(The doctrine of equitable adoption) 継子相続のための不十分策 ― 以上の制定法による対応と並んで、それ以前から「エクイティ上の養親子関係 の法理」が認められてきた。里親または継親が法律上の養子としない子を認める 契約を締結する場合、裁判所は、その者がエクイティ上養子収養したものとして その子を扱うことを許容するエクイティ上の養子という制度を創設した。さらに 進んで、いくつかの裁判所では、養子収養をする明確な契約が存在しない場合に もこの制度を適用した。しかしながら、継親がエクイティ上継子を養子収養し、 そしてそれゆえに継子が無遺言相続における相続権を持つという判決が下される ことはめったにない。ほとんどの法域では、養子縁組の主張のために、里親が子 を養子収養する保証があることを示すことを必要とする。継親子関係は養子収容 する保証と同義ではない。それゆえに、次に述べる“factors test”のような、裁 判所が継親家族(Stepfamily)の個別状況に従って継親子間の無遺言相続を認め得 る解決策を必要とする。 Ⅲ 新制度の提案―“factors test” 以下ではカリフォルニア州検認法第6454条に関連して提示された新制度である “factors test”についてその具体的な内容を紹介する。 継親の役割には相当程度のばらつきがあるため、単純化された機械的なテスト では簡単に管理できるかもしれないが、その実行可能性に欠けると言わざるを得 ない。一様ではない継親・継子間に親子関係が存在するかどうかを判断する方法 として“factors test”が提示されている。つまり、これらの複雑さゆえに、継親 子関係の存在が認定されるからといって直ちに相続権が保障されると考えるべき 62 法律学研究50号(2013) ではない。相続権を認めるべき継親子関係と相続権を認めるべきではない継親子 関係がある。したがって、無遺言相続を目的とした継親子間の親子関係の存否の 判断は、特に子の関心とその家族の状況に影響しているすべての要因を評価する ことによってなされるべきである。次の⒜から⒥が検討すべき要因として抽出さ れ得る22)。 ⒜ 継親が継子の人生に立ち入った時の子の年齢。継子が成人年齢に達した 後に継子の人生に立ち入った継親は、継子との親子関係を持ちそうにない ⒝ 継親と法律上の親の間の婚姻の長さ ⒞ 故人たる継親に生存する法律上の子がいるかどうか、そして継親子関係 が法律上の親子関係にどのくらい匹敵するか ⒟ 継親が高齢になるにつれて、あたかも法律上の親であるかのように、継 子が継親を介護していたかどうか ⒠ 継親と継子の生涯にわたる両者の交流・接触(contact)の頻度 ⒡ 継子がその友人に対して継親を“お母さん”または“お父さん”と呼ん でいるかどうか ⒢ 継親が継子の幼少期(Childhood)に法的障碍がなければ継子を養子収養 していた ⒣ 法律上の親(継親の配偶者)の死亡後も、継子が継親と同居した ⒤ 法律上の親(継親の配偶者)と継親の離婚後も、継子が継親と同居した ⒥ 継親死亡時に、継子が未成年であり、かつ、継親による経済的援助を主 として受けていたかどうか23) なお、この“factors test”で言及されている、「法律上の親」とは、生物学的 な親または養子縁組をしている親である。また、「法律上の子」とは、親の生物 学的な子または養子縁組をしている子を指す。 1 各要因(factor)の論理的根拠 要因⒜について、継親子関係開始時の子の年齢は、故人が無遺言で継親または 継子に相続させる意思を有したかどうかを確定する重要な要素である。一般的に 高齢の継親は成人した継子と僅かな時間を共にするだけであろうし、その関係を 進展させようと考えていない場合が多い。ゆえに、人生の遅い段階で関係性を有 63 した継親は、一般的に継子から家族の一員としてみなされておらず、また親族間 の扶養等の義務は適用されないと考えるべきである。調査によれば、思春期の若 い成人継子は、親でありかつ他人である継親を、親という点ではその実親と、他 人であるという点では友達とは対照的に、それ以上の年齢に達した時よりも一層、 主体的に継親を敬遠することが明らかとなった。そうであるとすれば、この場合 の故人たる継親は、両者(継親・継子)の人生や感情に関する情報を共有しない 継子との継親子関係を形成しようとは思わない可能性が高い。以上より、要因⒜ は、継親子関係が相続を余儀なくされる親子関係と親族間扶養義務関係をもたら す可能性の存否(違和感があるかないか)を識別することに資するものである24)。 要因⒝について、継親と法律上の親の間の婚姻の長さは、親子関係形成にかか る時間の長さと連動し、長期的な継親子関係は血族的親族関係と同等ともいえる。 研究によれば、継親子関係が短期である場合、その関係性は薄いことが分かった。 また、継親子関係が血族的親族関係と同等としてみなされるために、高齢継親と 成人継子との間の関係がどのくらいの長期間にわたって存在するかがその二者間 に血族的親族関係が存在するかどうかを断定することにつながらないということ も分かった。つまり、継親子関係が長期でありさえすれば、関係性が高いわけで はない。要因⒝は前出の要因⒜と密接な関係があり、若年でその継親との関係を 有するに至る継子や、長期間その継親家族(Stepfamily)の一員であった者に関し ては、その継親に親権(parental authority)が付与される可能性が高く、このこと は親子関係が存在することを示す兆候といえるからである25)。 要因⒞では、故人たる継親に、継子に加えて生存する法律上の子がいるかどう かを考慮している。継親と法律上の子との関係性が、継親自身にとっての実質的 な親子関係の指標あるいは親子像として現れると考えられる。つまり、継親とそ の法律上の子の間の親子関係と、継親とその継子の間の親子関係の比較を通して、 裁判所は親子関係が存在するかどうかの差異を認識することができる。さらに、 法律上の子の存在から、継親がその相続に際して法律上の子を優先し、継子を劣 後させるものかどうか、裁判所は慎重に認定を行うべきである26)。 要因⒟について、継親が高齢になるにつれて、継子が継親を介護しているかど うかは、継子が継親について感じる責任感や親密さを適切に指し示す。一般的に 人間は、成長すると同時にその家族の一員、特に親を支援する大きな責任感を持 つようになる。実際、継親子関係の認定に際して、情愛に基づく親密さの程度は 最も際立った要素である。情愛に基づく親密さが存在する場合、継子は高齢継親 64 法律学研究50号(2013) の介護をするであろう。研究では、情愛に基づく親密さが、継親子関係が親族間 扶養義務を携える血族的親族関係を認定する際の指標となり得ることを指摘する。 継親子間の親密さは、その親族の一員とその親族の他の構成員らが疑似の生物学 的関係として同継親子関係を捉える可能性を増大させ、ひいては継親または継子 に無遺言相続権を認めることにつながる27)。 要因⒠について、その継子との親子関係の確立や維持に関心を持つ継親は継子 と親密な交流・接触(contact)を保持する可能性が高い。つまり、継親子関係の 確立と継親家族(Stepfamily)の形成の間に直接的関係はなく、ゆえに要因⒠の存 在により、継親と法律上の親が離婚した場合でも継親子間の親子関係が継続し得 る可能性が識別される。つまり、継親子関係が継親家族(Stepfamily)の形成を超 越し、それと独立して生じ得る。その生涯を通しての継親と継子間の交流・接触 の頻度を調査することで、親子関係に程度上の差異の存在が認識できるであろう。 要因⒠は、継子がその生物学的な親および継親の両方と交流・接触し続ける可能 性を考慮して、継子の幼少期において同継子の親権を有した者の要素を組み込ん でいる。よって、継親と継子の間の交流・接触が継続し、頻繁である場合に、要 因⒠は、親子関係が継親または継子の一方の死亡以前に存在していたかどうかに ついて判定する有効な要素となり得る28)。 要因⒡について、調査によれば、継子がその友達と話す際に継親を“お母さん” または“お父さん”と呼んでいるかどうかが、継子の人生における継親の役割を 果たせているかどうかを明らかにするということが分かった。継親を“お母さん” または“お父さん”と呼んでいる子には、恐らく、家庭のしつけを重んじ、あた かも自身の子のように継子に自制心を持たせ、また継子の人生の歩み方を彼らに 助言する継親が存在するであろう。継親によるこれらの行動は、継子との親子関 係において継親の十分な親としての役割の履行を指し示している29)。 要因⒢について、 “factors test”が、カリフォルニア州検認法第6454条を修正 した結果であり、継親が継子の幼少期に法的障碍がなければ継子を養子収養して いたというルールに変更した。すなわち、上記第6454条では、当該関係が当事者 の共同の生涯にわたり継続したこと(continued throughout the joint lifetimes)、お よび、明白かつ確信を抱くに足る証拠により、法的障碍がなければ(but for a legal barrier)当該養子収養がなされたことを立証することという二要件から、法 的障碍が継親の死まで存在しなければならないというカリフォルニア州最高裁判 所の解釈につき、それでは多くの継親または継子である故人の意思を実現してお 65 らず、 “factors test”はそれを修正し、法的障碍は継子の幼少期を通して存在す ることで足りるとした。その理由は、成人した子の継親による養子縁組は、法的 障碍が原因でなされないのではなくて、継親が自然の情愛がすでに存在している ために養子縁組をする必要がないと判断してしまうことが原因でなされないこと が多いからである30)。 要因⒣と⒤について、継子が法律上の親の死亡後や法律上の親と継親の離婚後 も継親と同居し続ける場合、継親子間の関係は法的親子関係と強く類似するとい えることから両要因は親子関係の存在を示す重要な指標となり得る。とりわけ、 他所で法律上の親(継親の配偶者でない方の親)が存命であるのに、子が継親との 同居を選択する場合はなおさらであろう。このような関係は、継親からみてあた かも継子は法律上の子と同様であり、恐らく継子に相続させたいとの意思を持ち 得ることが強く推認される31)。 要因⒥について、継親の死亡時、継子が継親による経済的援助を主として受け ていたかどうかは、裁判実務で認定されてきた要素であり、また連邦社会保障法 の下ですでに継親子関係が存在するかどうかを判断する要素として実施もされて いる。継親が第一に継子を援助するとき、継親に、その子に対する継親が果たす べき親責任を果たす意思が存在することを明らかにする。継子の金銭的負担を引 き受けることで、継親は母親または父親の役割と義務を負うことを理解している ということを示している。よって、継親が継子を金銭的に援助している否かは、 親子関係認定の重要な要素である32)。 2 継親家族のかたち しばしば子の一方の法律上の親(継親の配偶者でない方の親)がその子の親権を 放棄せず、継親がその子を養子にできない場合がある。この法的障碍は、子が成 人年齢に達するまで存在する。子が成人すると、その子自身の選択により、子と の面会権や親権に関わる問題なしに関係を継続することができる。このような継 子は“factors test”の要因⒠の下で認識されるように、相続を許容されるべき親 子関係の存在の証拠となる時間を継親と過ごすことを選択するであろう33)。 法的障碍が存在しなくても、継親がすでに形成された親密な継親子関係を変え る必要がないと感じる場合、特に子が成人年齢に達しているときは、その子をあ えて養子にしない可能性がある。継親が養子縁組に対して積極的でないのは、現 存する養子縁組法では養子縁組をする際の必要条件が多く面倒であり、感情の問 66 法律学研究50号(2013) 題を考慮していないからである。さらに、養子縁組の費用の節約や、子と法律上 の両親との関係への配慮といったことも養子縁組を行わない理由となり得る。ま た、子のいない配偶者(継親)との再婚では、養子縁組の有無にかかわらず、そ の配偶者は連れ子を家族の一員として捉え、相続人と考慮することが考えられる。 ゆえに、子は、法律上の父、法律上の母およびそのどちらかの配偶者たる継親と いう三種類の親子関係を有することになる34)。 継親はそもそも継子を当然に家族の一員として捉えているので、継親と継子の 間に相続関係が感情的に存在しないとは考えておらず、むしろ当然に存在するも のだと考えている。よって、形式を重視する法律と感情を重視する継親との間に 認識の差異が生じることになる。そのため、人々はしばしば家族であれば、遺言 を作成しなくても法的に相続することが可能であるという誤った前提を持ってお り、それゆえに故人は継子も法定相続人の範囲内にあると勘違いし、わざわざ遺 言を作成しない35)。 上述の以上のどの状況でも、共通することは、継親が法律上の親でなくても子 を養っているということである。したがって、これらの家族全員が一家族として 機能した事実は、家族全員のそれぞれが継親家族(Stepfamily)をただ単に生活す るためだけの機能的な目的に役立つものとして見るというよりは、むしろあたか も彼ら全体に法的な関係があるかのように継子も相続権を有することに家族全体 の合意があることを意味する。しかし、無遺言相続法における相続人の範囲は、 養子縁組や生物学的関係に基づくのみで、継親家族全体のための条項を設けてい ないのが現状である。つまり、いずれの無遺言相続体系も“家族”として機能し たかどうかに目を向けるものではない。ゆえに、相続財産が、継子ではなく、疎 遠である親戚に渡ってしまうということも避けることはできない36)。 3 親権・面会権に関連した親子関係確認テストの利用可能性 ( 1 )“parent-like tests” “factors test”は、無遺言相続に際して、継親子間の法的親子関係を認定する という機能を有する。これに対し、“parent-like tests”は、親権や面会権などの 問題に対処するため、親類似関係の存否を判断する規準であり、裁判実務におい て利用されている。 裁判実務では現在、継親家族に関して、“factors test”に類似する様々な継親 子の関係性に関するテストを利用している。それらの関係性を認めるテストは相 67 続権を容認するテストではなく、機能的な親子関係と面会権の存否を考慮するた めのテストである。 マサチューセッツ州最高裁判所は、「事実上の親(de facto parent)」を「子と生 物学的関係を有しないがその子の家族の一員として子の人生に参加している者」 と定義する。 ウィスコンシン州最高裁判所は、「親類似関係」が子との間で存在するかどう かを決定するために“four-part test”を創設する。親類似関係を構成するといえ るためには、第一に、申立人(継親)は法律上の親がその関係に同意しておりま た当該関係を発展させることを望んでいること、第二に、申立人と子が同じ家で 同居していること、第三に、申立人が親であることの責任を持って子を養ってい ること、第四に、申立人の親としての役割が子との親子関係を発展させるのに十 分な長期間存在することの四点を証明しなければならない。 ニュージャージー州最高裁判所は2000年に当該“four-part test”を採用し、 「親」 の中に、面会権の認定に際しての規準に適合する心理的な親(つまり、法的な地 位を有しない親)を含める解釈を行った。 フロリダ州においても、離婚後の親権を持つ親を決定するための20の関係要因 リストが示されている37)。 ( 2 ) 他の法領域における継子の相続権の認容 他の法領域では継子をその継親の当然の相続人として考慮する場合がある。社 会保障法(Social Security Act)では、生命保険の受取人として、その死亡した親 の扶養を受けていた子を指定することができるが、この子の範囲には、保険金の 契約日から溯って少なくとも 1 年間その継子であった子、または(被保険者が死 亡した場合には)その死亡日から溯って少なくとも 9 か月間その継子だった子を 含む。このような社会保障法における継親子関係の取扱いは、“factors test”に おける要因⒝および⒥と関連し、継子に対するいくつかの経済的責任を果たすも のとして考慮される。すなわち、社会保障法の制度趣旨は、 “factors test”のそ れと、家族を経済的に扶養するか否かという点で一致する。 個別法でも、継親の死亡に際して継子のための条項を含む場合がある。例えば ペンシルベニア労働者補償法(The Pennsylvania Worker’s Compensation Act)では、 死亡時にその故人の家の一員である継子を子の範囲に含めている。仕事が原因で 死亡し労災認定される場合、同法では、生存配偶者がいるかどうか、および、残 68 法律学研究50号(2013) された子の人数に基づいた補償額の計算を行う。したがって、労災による死亡の 場合も遺言を残さない死亡の場合も継子に対する補償という点では違いはない38)。 4 “factors test”に対する潜在的批判 ( 1 ) 継親子関係の強さの矛盾 一つに、再婚する60~74%の人の再婚理由が死別ではなく離婚であること、も う一つに、継親家族(Stepfamily)にとって家族が親密になるには時間が必要であ ることを考慮して、継親家族に広範な相続権を認めるべきではないとする見解が ある。しかしながら、“factors test”は「広範な」権利を認めているわけでは全 くなく、むしろ個人的関係に基づいた個別的相続を許容しようとするものである。 “factors test”は継親と継子の間の時間の過多と訪問の頻度を考慮に入れる。ま た“factors test”では、故人が無遺言相続において継親家族(Stepfamily)の一員 にも相続権を認める意思があったかどうか、実親子・養親子との差異を認識し、 よって継親子関係の強さを認定するものである。“factors test”は、継親子関係 の状況全体にかんがみて、同関係の強さが実親子・養親子関係の強さに匹敵する かどうかを決定する39)。 ( 2 ) 継子のための相続の機会 子間の相続を認めることは、継親のいない生物学的な子と養子の子より相続の 機会が増加することになり、継子に不当に有利であるという異議が唱えられてい る。しかし、何人かの養子の子は、二名の生物学的な親しかいない子よりも多く 相続を受ける機会を有する。さらに、統計上、継子の生物学的な親が、その子の 人生の初めから終わりまで不在であることが多く、しばしば継子は継親から相続 を受けるのみである。したがって、継子が三人の親から相続するという、不平等 な状況はそれほど生じないであろう。 結局つまり、無遺言相続法の目的は、故人の意思に沿って相続権を与えること であって、継子が相続し得る者の数を平等にすることではない。親権を持たない 親、または、親権を持たない親の家族に対して、子が情愛に基づく関係を保って いる継親家族(Stepfamily)には家族のつながりを認めるし、親権を持たない親族 と継親から無遺言相続をする機会が与えられるべきである。 二人の生物学的な親からしか相続できない者と比べて、継子の相続する機会が 多いから継子への相続を禁じるべきという議論は合理性がない。そもそも家族に 69 は富裕の差があるから、全人類的に相続財産の平等を図ることは不可能である。 また、生物学的な二人の親を持つ者が一人っ子である場合には、兄弟姉妹から相 続を受ける機会はない。そもそも、相続という問題に関して比較対照し得る二種 類の人物を想定することができないのであるから、相続の機会に関してフェアネ スを用いること自体がナンセンスである40)。 ( 3 )“factors test”による裁判実務上の負担について 継親子関係の存否評価を必要とする条項を含むことは、裁判実務として司法の 大きな負担になるとの批判が存在する。しかしながら、UPC 第 2 章第 1 節第14 条において、法律上の親が子を子として扱わないかまたは子の養育を拒絶する場 合、子からまたは子への相続を不可能にするという親子関係の存否評価に関する 条項をすでに有している。したがって、UPC は親子関係の存否判断に関して積 極的であるといえる。同様に、いくつかの州法および連邦政府の社会保障法 (Social Security Act)では、継親の死亡による適切な分配および保障のために、親 と継親並びに子の間の関係または関係要因を評価している41)。 結論として、UPC と州法は、継親家族の現状に取り組むことに対してまだ不 十分である。したがって、UPC と州法は親子関係が継親と継子の間に存在する かどうかを判断する“factors test”を盛り込み、継親子間の無遺言相続を許容す る可能性を認めるべきである42)。 Ⅳ 日本法への示唆 継親子関係は、養子縁組をしない限り法定親子関係ではなく、単に姻族一親等 とされるにとどまり、その法的効果は、原則として一般の親族としての効果が付 与されるに過ぎない43)。 1 日本における継親家族の現状 昔のように再婚が片方の親の死によるものではなく、親の価値観の違いや生活 習慣の違いが原因である離婚によるものである場合、簡単には養子縁組できない 場合が多々ある。その理由には、継親が男性なのか女性なのか、法的なものや実 生活的なもの、また、親の都合や子の都合など様々なものがある44)。 70 法律学研究50号(2013) 上記の要因⒜のように、思春期の継子を持つ継親家族では、継子が継親との親 子関係を認めないことが多く、養子縁組をしない。ここには法的な親との関係が 良好であるため、継親との親子関係が良好でない場合も存在する。また、日本の 場合、養子になると父親の氏に変わるので、思春期の継子にとってはそれも親子 関係を否定する原因になる場合がある45)。要因⒠⒡のように、心理的な面におい ても養子縁組がなされない場合がある。継子の法的な親の存在により継親が引け 目を感じ、ここから子との交流の頻度や継子が継親をどのように呼ぶかに関して も問題が生じてくる。 しかし、このような問題が生じながらも、継親子の関係は感情的な面において つながっているし、養子縁組をしていなくても継親が継子を養育し、経済的に援 助しているのは事実である。そのような継親子関係において相続権を認めず、何 十年も親族としての関わりがない血族に相続財産が渡ってしまうのは、故人の意 思に反している。 よって、日本でも感情面での親子のつながりを考慮し、養子縁組だけによらな い継親子関係を、“factors test”のような継親子の関係性に関するテストを用い て認め、継親・継子に対して相続権を認めていくべきである。 2 相続におけるフェアネス 先述したように、継子は両親と継親の三人から相続できるという点で、他の人 より相続の機会が多いため、不公平だという議論がある。しかし、相続の機会が 多いからといって、財産が多くなるわけではないし、機会が多くても実際にすべ てを相続できるわけではない。例えば、婚姻した相手が高齢であり、婚姻一年で 死亡してしまった場合、夫婦間に情愛はあるものの、その高齢の配偶者に子がい る場合には、それは子に対して不公平な相続となり得る。また別の例では、日本 の場合、女は家庭に入るという考え方がまだ多く残っており、主婦になる女性が 多い。ゆえに、夫亡き後の生存配偶者たる妻の生活を保障するため、妻に相続財 産の半分が渡ると考えることができるが(民法第900条 1 号)、故人(夫)とのつな がりの深さは関係ない上、子の人数を考慮するわけでもないので、数的・量的な 点に関しての不公平さが生じないともいえない。 このように、通常の相続においてもなんらかの不公平さは生じており、相続に 関する不公平さは、継親子間の相続に限られたものではない。また、不公平さの 内容は数的なものから、その相続人・被相続人間の背景まで様々である。した 71 がって、継親子間の相続におけるフェアネスとは何かということを明らかにすべ きである。 1 ) 早野俊明「アメリカ無遺言相続法における継子の地位」白鴎法学 9 号(1997年)、 348頁。 2 ) http://www.saj-stepfamily.org/renew/ を参照。 3 ) 統一検認法典(the Uniform Probate Code)は、統一州法委員全国会議(National Conference of Commissioners on Uniform State Laws)および米国法曹協会(American Bar Association)によって、1969年 8 月に承認された。法典の基本目的と方針は、 被相続人、被保護者と未成年に関する法の簡易化および明確化、並びに、被相続 人の財産の遺産分割における意思を明らかにし、有効化することにある。被相続 人、失踪者、被保護者、未成年者、無能力者等について、統一検認法典を制定す ること、並びに、遺言と無遺言相続についての法律および被相続人、失踪者、被 保護者、未成年者、無能力者等の財産権と手続を整理すること、並びに、死亡の 際に遺言効力を持つ無遺言の譲渡、契約、寄託の有効性と効力を規定すること、 並びに、遺言等による信託の執行を促進する手続を規定すること、並びに、被相 続人についての法律の統一を図ること、並びに、抵触する法律を廃止することに 関連する。なお本法典は、本論文にて後述するように、1983年や1985年などに改 正がなされている(詳細は早野・前掲注 1 )を参照)。 4 ) 認めているのは、コネチカット州、メリーランド州、オハイオ州、サウスカロ ライナ州である。 5 ) カリフォルニア州検認法典第6454条参照;早野・前掲注 1 )、346頁。 6 ) Terin Barbas Cremer, “Intestate Inheritance For Stephchildren And Stepparents”, 18 Cardozo J.L. & Gender 89-108 (2011). 7 ) ユージーン・M・ワイピスキー著、久保木康晴訳『アメリカの相続法』(芦書房、 1989年)127頁;Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 91. 8 ) 統一検認法典第 2 章第 1 節第 3 条参照;ワイピスキー著、久保木訳・前掲注 7 )、 136-137頁。 9 ) 統一検認法典第 2 章第 1 節第 5 条参照;ワイピスキー著、久保木訳・前掲注 7 )、 142-143頁。 10) 無遺言相続法は、公序良俗の原理と、被相続人がそうしたであろうと推測した 財産権の処分に基づいており、また、自然の情愛に基づくものである(ワイピス キー著、久保木訳・前掲注 7 )、 2 頁)。 11) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 92. 12) 統一検認法典第 1 章第 2 節第 1 条( 5 )参照。 13) 統一検認法典第 2 章第 1 節第20条参照。 14) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 92. 15) 統一検認法典第 2 章第 1 節第20条、21条参照;早野・前掲注 1 )、346頁。 72 法律学研究50号(2013) 16) 早野・前掲注 1 )、346-348頁。 17) 早野・前掲注 1 )、348頁。 18) 早野・前掲注 1 )、349頁。 19) 早野・前掲注 1 )、349頁。 20) カリフォルニア州検認法第 6 部第 2 章第 2 節第6454条;早野・前掲注 1 )、349頁。 21) 早野・前掲注 1 )、350頁。 22) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 97. 23) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 97. 24) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 98. 25) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 99. 26) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 99. 27) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 99. 28) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 100. 29) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 100. 30) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 100. 31) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 101. 32) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 101. 33) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 102. 34) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 102. 35) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 102. 36) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 103. 37) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 104. 38) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 105. 39) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 106. 40) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 107. 41) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 108. 42) Terin Barbas Cremer, op. cit. p. 108. 43) 早野俊明「わが国における継親子の法的関係」Artes Liberales 61号(1997年)、 175頁。 44) 駒村絢子「継子養子縁組の一素描―養子縁組を行わないステップファミリー当 事者による語りを紹介しながら―」法学政治学論究91号(2011年)、33頁以下参照。 45) 駒村・前掲注44)、46頁参照。
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