「痛快!憲法学」まとめ 小室直樹著

「痛快!憲法学」まとめ
小室直樹著
第 1 章 日本国憲法は死んでいる
「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のた
めに、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の
行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存す
ることを宣言し、この憲法を確定する。
」(日本国憲法 前文)
【導入:なぜ今憲法論議が盛んなのか】
◆ハーバード白熱教室 1-1 「殺人に正義はあるか」を視聴→慣習としての法
◆ハーバード白熱教室 1-2 ミニョネット号事件
殺人に正当性はあるのか?
①正当性はある…功利主義
②正当性はない
①正当性はある
a.公正な手続き
b.同意がある
①強制がない
正しい
同意とは
②判断に必要な情報
が事前に与えられ
ていること
②正当性はない
※J.ロックの社会契約論
我々は「同意」によって社会を作った
①何に同意したのか? → 多数の決めたことに従う
②なぜ同意したのか? → 自然状態における自然権を守るため
自然権=生命・自由・財産の権利
権利の侵害とは
不特定の人から
↓↑
①特定の人から
②恣意的に奪うこと
法の支配
↓↑
前もって
→適正手続きの保障・同意という近代の法の精神
1
(1)あなたは護憲派?改憲派?
問うことの無意味さを考える ⇒ 日本国憲法はそもそも「生きているのか?」
※法律は廃止されない限り有効
例:決闘罪ニ関スル件(明治 22 年制定)
物価統制令(昭和 21 年制定)
「…終戦後の物価に対処し、物価の安定を確保し以て
社会経済秩序を維持し国民生活の安定を図る」(第 1 条)
→明治時代に作られた法律が、まだ生きている
(2)殺されたワイマール憲法
第一次世界大戦の敗戦…ドイツ革命⇒ワイマール共和国の誕生
ワイマール憲法の成立(1919 年)=世界で最も進んだ憲法
○国民主権の導入
○国民の直接選挙による大統領制
○社会権の保障
ワイマール憲法は何故死んだのか?
ナチス党の誕生
1932 年、第一党になる
1933 年 1 月 30 日、ヒトラー首相に就任
1933 年 3 月 23 日、
「全権委任法」(授権法、翌日公布・施行)が議会で可決
↓
この日、ワイマール憲法は事実上廃止された=ワイマール憲法の死
(3)憲法とは慣習法である
見える法と見えない法
慣習法…発見される法
成文法…制定される法
※たとえ成文法であっても、実質的な運用がなければ存在しないのと同じ
⇒慣習法としての憲法
常に反省・修正が必要
(4)アメリカ憲法は欠陥憲法だった
アメリカ合衆国憲法(1787 年制定)…最古の憲法といわれる
※アメリカ合衆国憲法は、生きていたのか?
1776 年 7 月 4 日 独立宣言(フィラデルフィアで採択)
「…われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主に
よって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由
および幸福の追求の含まれることを信じる。
」
2
しかしアメリカ合衆国憲法には、権利の章典(人権規定)がなかった
憲法制定会議では反連邦派の猛反対
当初は信教の自由もなく、言論の自由もなかった
※その後、合衆国憲法発効直前(1788 年)に人権条項の導入
⇒家を建てたは良いけれど、住む前から補修工事
ネイティブアメリカンに白人は何をしてきたか?
※ベンジャミン・フランクリンの手紙
「インディアンと白人との間に戦われた戦争のほとんど全部は、白人がインデ
ィアンに対して何らかの不正を行ったことから始まったものなのです。
」
(猿谷要「物語アメリカの歴史」中公新書)
黒人奴隷を持っていた建国の父たち
アメリカにおける黒人奴隷の歴史は、建国以降から急速に拡大
19 世紀初頭、産業革命の影響で、イギリスの綿の需要が急増
南部諸州の農地での人手不足→奴隷の輸入
1200 万人~1500 万人
初代大統領ワシントン・三代ジェファーソンも大農場主・奴隷所有者
※奴隷制度は南北戦争後に廃止
1865 年、アメリカ合衆国憲法修正第 13 条・14 条・15 条
○奴隷制度廃止
○公民権の付与
○黒人男性への参政権の付与
1883 年の最高裁判決「アメリカ合衆国で生まれた(または帰化した)すべての
者に公民権を与えるとした修正第 14 条は、私人による差別には当てはまらない」
⇒実質的に無効化
1890 年ルイジアナ州 黒人と白人で鉄道車両を分離する人種差別法案を可決
1896 年 5 月 18 日合衆国最高裁判決…「分離すれど平等」主義
「公共施設での黒人分離は人種差別に当たらない」
1955 年 12 月 1 日 モントゴメリー・バス・ボイコット
1956 年、合衆国最高裁判決
「バス車内における人種分離(=白人専用及び優先座席)は違憲」
1957 年リトル・ロック高校事件
1964 年 7 月 2 日に公民権法(Civil Rights Act)が制定
(5)ゴールドラッシュの恐るべき真相
※シュテファン・ツヴァイク『人類の星の時間』
(みすず書房)より
サンフランシスコの歴史
1834 年 ヨーハン・アウグスト・ズーター(独)が
3
カリフォルニアに移住
農園経営に成功し、妻子を呼び寄せる
1848 年 1 月 大工が農園で砂金を発見
「もっともまずしい、もっともあわれな、もっとも失意の乞食に
彼はなるのである。
」
アメリカ中から彼の農園目がけてアメリカ人が砂金探しに殺到
ズーターの乳牛を殺して食い、
穀物倉庫を壊して自分たちの家を建て
農地は踏み荒らされ
農耕機械は盗まれた
⇒あっという間にたくさんの人々が不法に占拠し
町が造られた= サン・フランシスコ
↓
ゴールドラッシュの真相
サン・フランシスコは不法占拠の町
(6)アメリカには民主主義がなかった
1850 年 ズーターは裁判に訴える
「サン・フランシスコ市がその上に建てられている
地所の全部は法律上彼の所有地である」
「盗み取られた財産上の損害を、政府は賠償してくれる
義務がある」
⇒農園内の 17220 人の不法占拠者の立ち退きを要求
カリフォルニア州政府へ 2500 万ドルの賠償金を要求
↓
裁判で勝訴
しかし判決後、不法占拠者の暴動勃発
「1 万人の人間が暴動を起こして…裁判所を襲ってその建物を焼き、
裁判官を私刑にしようとし…ズーターの全財産を略奪しに
出向いた」
「彼の長男は暴徒たちに強迫されてついにピストル自殺を遂げ、
次男は殺害され…」
「彼の動産、蒐集品、彼の金銭は奪い取られ、莫大な持ち物は
残酷な凶暴さによって荒しつくされた」
↓
アメリカ政府もカリフォルニア州政府も対処せず
1880 年 ワシントンの連邦議事堂前でズーター死去(脳卒中)
↓
19 世紀後半、アメリカの憲法は「死んでいた」
他人の土地に勝手に家を建て、町を造ることが許されるのか?
4
※日本は幕末維新の頃
(7)なぜ日本の憲法論議は不毛なのか
どんなに立派な独立宣言があり、憲法の条文があっても、
それが慣習として定着していなければ、憲法はただの紙切れ
↓
憲法は慣習法であり、成文法ではない
憲法を生かすも殺すも、国民次第
憲法学の本質は、条文解釈ではない
その憲法が本当に生きているのかをチェックすることが本来の役目
⇒憲法の脳死判定
憲法論議が不毛なのは、
「憲法が生き物である」ことを忘れているため
死んだ憲法の条文改正に意味はあるのか?
第 2 章 誰のために憲法はある
「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその
他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
」(日本国憲法 第 98 条)
【導入】立憲主義と憲法
立憲主義とは「法による権力の制限」
日本国憲法は矛盾だらけ
(1)欽定憲法を改正すると民定憲法?
(2)占領管理下の 1946 年に、日本には主権はなかった
⇒天皇にも国民にも主権なし
(3)誰が憲法を作るのか?…憲法制定権は主権者のみ
(4)なぜ日本の憲法論議は不毛なのか?
見える法と見えない法
慣習法…発見される法
成文法…制定される法
※たとえ成文法であっても、実質的な運用がなければ存在しないのと同じ
⇒慣習法としての憲法
常に反省・修正が必要
(1)法とは何か
「法とは、(誰かが)誰かに対して書かれた強制的な命令である」
5
(2) 人を殺しても刑法違反に問われない?
刑法が命令する相手は誰か…裁判官(司法権力)
⇒刑法 199 条(殺人罪の規定)を例として
刑法は殺人や窃盗を禁じてはいない
刑法違反ができるのは裁判官だけ
罪刑法定主義
(3)裁判で裁かれるのは誰か?
刑事訴訟法が命令する相手は誰か…検察官ほか(行政権力)
⇒刑事訴訟法 475 条を例として
法務大臣の 475 条違反は許されるのか
法律による行政の原則
裁判所と「お白州」は、どこがどう違うのか?
遠山の金さんは暗黒裁判の象徴
刑事・検事・裁判官・弁護士の一人 4 役の危険
検察=性悪説が近代刑事裁判の大前提
(4)有罪率 99 パーセントの異常
アメリカは 70 パーセントくらい?
世界の有罪率 http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/15459851.html
Yahoo!知恵袋・世界の有罪率と分析 http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n44514
米研究者論文 http://ideas.repec.org/p/wpa/wuwple/9907001.html
仏 TV も注目する日本の特捜問題 (MAD) http://tsuigei.exblog.jp/12867606/
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=kuhAAxgTamM
(↑映像はアテレコ)
英語論文? http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n10140
小坂井敏晶著「人が人を裁くということ」
http://sendatakayuki.web.fc2.com/etc5/syohyou293.html
裁判所は真実を明らかにするところか?
刑事裁判で裁かれるのは被告人ではなく、行政権の代理人たる検察官
近代裁判の原点には「権力は悪なり」という考え方がある
デュー・プロセスの原則
※刑訴第 336 条
「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件につ
いて犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡を
しなければならない。
」
つまり有罪の立証ができなければ無罪
6
しかし日本では、無罪の立証ができなければ有罪
⇒被疑者の権利の観点がない
◇ 日本人は、あまりにも検察を信用しすぎてはいないだろうか?
※アメリカの小説『復讐法廷』
(1982、ヘンリー・デンカー、ハヤカワ文庫)より
強姦の容疑者を逮捕
◇被害者の装身具を所持
◇被害者の体から容疑者の精液を採取
◇被害者の爪から加害者の皮膚の断片
◇当日、容疑者は現場の近くで事情聴取・逮捕
↓
しかし、無罪となる
州法では、仮釈放中の人間は弁護士の立合いが必要
なぜ、 疑わしきは罰せず なのか
「1000 人の罪人を逃すとも、一人の無辜(むこ)を刑するなかれ」
⇒近代法の精神
一人の犯罪者の悪事より、国家の悪事の方が重大
(5)憲法が命令する相手は誰か…公務員(国家権力)
⇒憲法 99 条を参照
憲法 21 条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。2.
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
」
しかし、言論の自由は家庭にも職場にもない⇒親が子をどなっても憲法違反にはならない
⇒上司が部下に暴言を吐いても
憲法違反にならない
↓
人権保障の義務を負うのは誰か?
憲法は国家を縛るための命令
憲法に違反できるのは国家(公務員)だけである
(6)17 条憲法と日本国憲法はまったくの別物
「一に曰く、和(やわらぎ)を以て貴しと為し、忤(さか)ふること無きを宗とせよ。
」
→聖徳太子から役人への訓戒
トマス・ホッブス『リヴァイアサン』
(Leviathan、1651 年)
リヴァイアサン=旧約聖書・ヨブ記に登場する無敵の怪物
※国家(コモンウェルス)はリヴァイアサンである
国家には軍隊や警察という暴力装置
7
国家の命令一つで財産を奪われ、命を奪われる
↓↑
罪刑法定主義・デュープロセスの原則
その上に、最後の鎖としての憲法
第 3 章 すべては議会から始まった
「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
」(日本国憲法 第 41 条)
(1)民主主義と憲法と議会と多数決主義はそもそも無関係だった
民主主義と憲法は本質的には無関係である
→憲法はいつ、どのような目的で作られたのか?
(2)国王がいても、 国家がなかったヨーロッパ中世
中世の王国には、国土も国民も国境もない
⇒領土には複数の支配権が混在
国王と臣下の関係は契約によってのみ成立している
⇔契約を守るのが良い家臣
契約を守るのが良い王様
欧米:
「契約」に忠実なのが良い家臣
日本:
「人」に忠実なのが良い家臣
◇ビジネスの基本は人間関係か、契約か?
※ 国王は臣下(領主)の土地を守る代わりに、戦争が起きたら
兵 1000 人を連れて駆けつける
※ 国王が人質になったら○○円の身代金を提供する etc.
※ 契約条項に無いことは要求できない
※ 中世の王国がまとまっていたのは、王が有能だからではなく
契約が結ばれていたから
→契約という概念は近代資本主義以前から存在
(王国≒国家…ではない!)
国王(領主 A)
主従関係(契約)
領主 B
領土(農奴つき)
領土(農奴つき)
領主 C
領土(農奴つき)
領主 D
領土(農奴つき)
8
領主 E
領土(農奴つき)
(3)奴隷と農奴はどこが違うのか
農奴は領土とセットであり、領主といえども農奴の売買はできない
そのわずかな自由が、近代市民革命の原動力に
(4)王様は学級委員長
国王は、領主たちの領地をめぐる争いの調停役として誕生
中世初期には、領主の中の主席程度の権限しかなかった
契約における主従関係という限界
(5)日本の武士に「武士道」はなかった
主従関係における「仇討ち」はない ⇔ 江戸時代の仇討ち話は 99%が親の仇討ち
戦国時代:豊臣秀吉
江戸時代:赤穂浪士
日本では裏切り(契約違反)は恥ではないが、
西欧では契約を守らなければ相手にされない
※ 1600 年関が原の戦いは裏切りに次ぐ裏切りで
東軍(徳川家康)の勝利に
→中世騎士の方が頼りになる
(6)まとめ:中世ヨーロッパ理解の二つのポイント
(1)中世の封建社会では「主権」(=絶対的な支配権)は
存在せず、今のような国家の概念はなかった
(2)国王の権利は「契約」によってのみ正当化される
ため、臣下に対して限られた権限しか行使できなかった
(7)王様は中間管理職?
当時のことわざ 「王は人の上に、法の下に」
王といえども契約と慣習法には従わなければならない
↓
「永遠の昨日(M.ウェーバー)」 が支配する中世
伝統主義…「過去にあったことを、ただそれが過去にあったという
理由で、それを将来に向かって自分たちの行動の基準に
すること(大塚久雄)」
↓
良い伝統と悪い伝統とは区別しない ⇔ 近代合理精神
自然法(神の法)> 慣習法>
国王
>臣下
中世ヨーロッパにおいて伝統は絶対=人間が判断を下してはならないもの
9
(8)ペストと十字軍が封建領主を没落させた
中世社会の解体のきっかけのひとつは、ペスト(黒死病)←1348 年前後
ペストによる農奴の減少
(イングランドでは人口の 1/4~1/3 が減った)
農奴の減少が農奴を有利に…地代の軽減により裕福な農奴が出現
中世の経済の中心は自給自足か物々交換←貨幣経済による打撃
きっかけは十字軍の遠征(1096 年~)
トルコとの戦いで圧倒的なイスラム文化に遭遇
交易品の流通⇒都市の商工業者階級の出現⇒貨幣経済の発達
地代の貨幣化
収穫物は貯められないが貨幣は貯められる
裕福な農奴は自由農民へ・都市へ逃亡する農奴も⇒領主の没落
(9)国王の新しい金づる、商人
都市の商工業者の献金と引き換えの守護
貨幣の蓄積による国王の領主からの相対的な台頭
軍隊の創設
それまでの軍隊は山賊・海賊の寄せ集め
しかも領主たちとの契約による借り物(指揮者は各領主)
⇒思うとおりに動かせない
貨幣の力で常備軍の創設へ→国王の権力の強大化
(10)常備軍、現わる
領主たちの寄せ集め軍隊と国王の常備軍の格差の拡大
※軍事力は兵器と訓練が重要
織田信長の兵農分離政策…桶狭間の戦いで今川軍を破る(1560 年)
兵 3000 対 25000 といわれる
都市の発達と商業の拡大・国王権力の増大へ
(11)なぜ教会は堕落していったのか?
慣習法による国王権力の制限=伝統主義
一方で教会の権威…教会領が 1/2~1/3 という王国も
貨幣経済の拡大に伴う変遷⇒「免罪符」の販売(1315 年~)
「売官」(聖職者の地位の売買)
教会の堕落へ
※ルターの宗教改革の200年前
↓
「等族(=身分)国家」に変質
国王・商工業者連合 VS 貴族(領主)・教会連合
※戦場は議会へ
10
(12)議会が誕生した二つの理由
西欧初の議会は 1265 年…「身分制議会」
「等族議会」と呼ばれる
1302 年、三部会の誕生(フランス)
貴族(領主)、聖職者、平民
議会が開かれた理由(1)王様の都合
権力増大に伴う領主たちへの租税の導入
しかし契約の改定が必要
→話し合い、個別の改定ではなく一挙に改定=全員の合意とみなす
(カネ集めが目的)
議会が開かれた理由(2)貴族の都合
常備軍の増強・租税の導入=慣習法を破る危険な存在
慣習法(=貴族の特権)を守らせるために議会を利用
※好き勝手に法律を作らせず、税をかけさせない
⇒どちらにしても自分たちの利益と特権を
守るための道具として議会は誕生
(13)マグナ・カルタは反民主主義の憲法
西欧初の憲法は「マグナ・カルタ(大憲章)」(1215 年 6 月 15 日)
慣習法を無視した英ジョン王への制裁として 63 ケ条の契約書を作成
マグナ・カルタの目的①…伝統を守ることの確認
②…破った場合は反乱に訴えてもよい
※当初は「自由民=貴族・裕福な商工業者」の特権の維持
(人口の 9 割を占める農奴は含まない)
→議会政治の発達へ
自由民の拡大
慣習法や契約に反していないかのチェック
国王と対立・やがて国王をしのぐようになる=「議会」の機能へ
↓
マグナ・カルタからイギリス民主主義が誕生
(14)多数決誕生の意外な舞台裏
ゲルマン社会における決定は「全員一致」…中世騎士物語など
多数決会議の始まりはローマ教会の「コンクラーベ」(12 世紀頃)
(次期法王決定会議)
※国王は血統制で決まるが法王は一代限り
→法王の地位を空白にするのは良くない=多数決の導入
やがて議会にも導入
※ポーランド議会は 18 世紀まで全員一致
しかし多数決の妥当性について今日まで議論あり
↓
11
◆「多数決が正しい」という保証はどこにもない
(15)南北戦争で多数決は定着した
アメリカ南部 11 州の合衆国離脱の危機(少数意見の尊重がない)
リンカーン大統領「たとえ南部 11 州が不満であろうと、勝手に連邦を離脱
するのは非合法である」として認めず
※「多数決で決まったことだから正しい」のではない
多数決は効率的に物事を決めるための一種の便法
→「多数の意見を、(仮に)全体の総意とする」という約束事でしかない
→多数決はフィクション(擬制)
(16)教科書が教えない「憲法」と「民主主義」
憲法や議会はもともと民主主義と何の関係もない
なぜ教科書は教えないのか?
→政府は、
「議会」と「憲法」があれば民主主義だと
国民に思い込ませたいのではないか?
※民主主義は国民の監視と努力によってのみ維持される
第4章
民主主義は神様が作った?
「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は
政治上の権力を行使してはならない。(以下略)」(日本国憲法 第 20 条)
※民主主義の 2 つのエートス(要素)
小さな政府⇔大きな政府
(1) 平等←特権の否定
↑
(2) 労働の自己目的化→資本主義←①権力の不介入
←②私有財産の保障←J.ロック
【聖書の構成】
旧約聖書……創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記・ヨシュア記・士師記・ルツ記
サムエル記上・サムエル記下・列王紀上・列王紀下・歴代志上・歴代志下・エズラ記
ネヘミヤ記・エステル記・ヨブ記・詩篇・箴言・伝道の書・雅歌・イザヤ書・エレミ
ヤ書・哀歌・エゼキエル書・ダニエル書・ホセア書・ヨエル書・アモス書・オバデヤ
書・ヨナ書・ミカ書・ナホム書・ハバクク書・ゼパニヤ書・ハガイ書・ゼカリヤ書・
マラキ書
新約聖書……マタイによる福音書・マルコによる福音書・ルカによる福音書・ヨハネによる福音書
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使徒行伝・ローマ人への手紙・コリント人への第一の手紙・コリント人への第二の手
紙・ガラテヤ人への手紙・エペソ人への手紙・ピリピ人への手紙・コロサイ人への手
紙・テサロニケ人への第一の手紙・テサロニケ人への第二の手紙・テモテヘの第一の
手紙・テモテヘの第二の手紙・テトスヘの手紙・ピレモンヘの手紙・ヘブル人への手
紙・ヤコブの手紙・ペテロの第一の手紙・ペテロの第二の手紙・ヨハネの第一の手紙
ヨハネの第二の手紙・ヨハネの第三の手紙・ユダの手紙・ヨハネの黙示録
(1)絶対君主、現わる
王権の拡大 ⇔ 慣習法(伝統主義)で対抗する領主(貴族)
両者の争いの中で議会や憲法は生まれた
しかし、両者の争いの中で民主主義が生まれるわけではない
実際の西欧史においては
王権の増大と相対的に領主(貴族)の弱体化
貨幣経済の興隆が後押し
⇒ 絶対王権の誕生
当初スペイン→フランス(ルイ 13 世、1614 年~)では議会は開かれなくなる
この後、フランス革命まで 170 年間、三部会なし
王は、もはや貴族や僧侶の意見を聞く必要なし
↓
太陽王(ルイ 14 世)「朕は国家なり」
→イギリス(ヘンリー8 世、1533 年)
キャサリンと離婚、アン・ブーリンと再婚しようとする
ローマ法王・クレメンス 7 世の拒否
「国王至上法」を議会で制定し、イギリス国教会の長に就任
修道院を解散させ、領地を没収
法王…「イギリス人は皆地獄に堕ちるであろう」
その後、アン・ブーリンはエリザベス 1 世を産み、処刑される
(2)かくしてリヴァイアサンは生まれた
絶対王権に理論的根拠を与えたのは、ジャン・ボダン(フランス)
『国家に関する6章』(1576 年)
主権概念の提唱…「国家の絶対的にして永続的な権力である」
国家主権は何者の拘束も受けない
主権者は国王
主権とは…①慣習法を無視できる⇒ 立法権
②自由に税金をかける⇒ 課税権
③戦いに参加させる ⇒ 徴兵権
↓
名実ともにリヴァイアサンの誕生
13
近代国家の原型
ここまでのまとめ
①近代国家は絶対主義国家からスタートした。だから近代国家は
とてつもなく恐ろしい。
②近代国家は主権(sovereignty)を持ち、その主権は絶対である。
③中世の王権(prerogative)は非常に限定的なものだったが、漸次強大になり、
絶対王権(absolute prerogative)、主権へと成長した。
④中世の「自由」とは特権(privilege)のことで、その内容は身分により異なる。
特権が人権(human right)になるには長い時間が必要であった。
(3)十字架と聖書が怪獣退治?
絶対王権から民主主義へ きっかけは宗教改革
叙任権闘争(教会聖職者の任免権)
○カノッサの屈辱(1077 年 ローマ教皇対神聖ローマ皇帝の抗争)
○アヴィニョン捕囚(1309 年~1377 年 教皇の島流し?)
教会権力の堕落へ
(4)腐敗しっぱなしのローマ教会
14 世紀 免罪符(贖宥状)の販売「善行を積まなくともお金さえ積めば救われる」
売官(聖職者の地位をお金で売ること)が日常茶飯事
法王が自分の隠し子を甥と称して教会の要職に就けさせる
⇒「ネポティズム(情実主義)」
↓
教会の堕落に批判の声
マルティン・ルター「95 ヶ条の提題(テーゼ)
」(1517 年)
免罪符の根拠に疑問を突きつける
「聖書に書かれていないことは認めることができない」
1521 年、法王により破門
ドイツ・ザクセン選帝侯フリードリヒ 3 世の下で布教
↓
「プロテスタント」(新教徒)の誕生
(5)世界史を変えた天才
ジャン・カルヴァン(1509 年~)
聖書の徹底的な研究から一つの結論 ⇒ 予定説
↑
キリスト教の奥義
信じれば、人は丸ごと生まれ変わったかのようになる
14
○内面的な効果…世間のどんなものも怖くなくなる
○外面的な効果…大変な働き者になり、お金もどんどん稼げる
(6)聖書すら読ませなかったローマ教会
ローマ教会の腐敗と堕落
当時の聖書はラテン語・ギリシャ語
信者には聖書すら読ませない→何を拠り所に信仰していたか
サクラメント(秘蹟)=儀式
生まれてすぐの洗礼~死ぬときの終油の儀式
全部で 7 つの儀式を受ければ天国へ行けると教える
→but 聖書には記載なし
根拠:聖ペテロ以下多くの法王・聖人が大変な善行を積み
「救済財」があるので、教会が秘蹟を行えば信者は
救済財の一部を分け与えられ、聖書を読まなくても
救われる
→免罪符販売まで
(7)宗教改革とは、原点回帰
カルヴァンも秘蹟には反対
しかし、聖書に書いていないからではない
予定説では、人間は何をやっても救われない
↑
イエスの本来の教えに帰る=原点復帰運動
(8)近代科学と仏教の共通点
近代科学の目的…因果関係の発見
りんごは落ちるのに、なぜ月は落ちないのか?
その原因を探り、万有引力を発見
仏教の論理…「縁起」(縁りて起こる)=因果律
原因と結果の法則
因果関係(=法)の発見が釈迦の「悟り」…法前仏後
人間はなぜ苦しむのか?
その原因・四苦八苦 それを取り除けば悟りの境地
※根本的な苦が「生・老・病・死」の四苦
○愛別離苦(あいべつりく)…愛する者と別離すること
○怨憎会苦(おんぞうえく)…怨み憎んでいる者に会うこと
○求不得苦(ぐふとくく)…求める物が得られないこと
○五蘊盛苦(ごうんじょうく)…五蘊(人間の肉体と精神)が
思うがままにならないこと
の四苦を合わせて八苦と呼ぶ
15
↓
<諸行無常・諸法無我・一切皆苦・涅槃寂静の四法印へ=悟り>
(9)神はすべてを超越する
仏教…法前仏後
キリスト教…神前法後 神が法を作った
旧約聖書によれば、神こそがこの宇宙を作り、そして宇宙の法則を作った
⇒物理現象でさえ神が作れるのだから、神に不可能無し
神は全知全能にして絶対である
↓
あらゆるものから自由な存在 ⇔ 釈迦といえども法を変えることはできない
=何をしても救われない ⇔
=修行をすれば救われる
※神は人間の行いで決断を変えるのか?
ある人が毎日良い行いをし、1 つも悪いことをしなくなったら
神は救ってやろうと思うだろうか?
→それは人間の行いに左右されることになる
人間の行いに神様が影響を受けたことになる
それでは 絶対神 ではない
↑
何をしても神の決断は動かされない
そう考えるのがキリスト教
(10)人間は二度死ぬ
第 1 のポイント…「神はあらゆることから超越している」
第 2 のポイント…「一人の例外もなく、人間は堕落した存在である」
→アダムとイブの楽園追放
神の命令に背いて禁断の木の実を食べ、追放
罰として「死」を与えられることに
連帯責任として、以後の全ての人間にも
= 原罪
※キリスト教において、死んだ人間はどうなるのか?
【正解】どうにもならない
肉体の死は仮の死…「天国・地獄」は聖書にはない
本当の死は、
「最後の審判」のとき
世界の終わりに神が現れ、死んだ人にも肉体が一旦は与えられ
生前の姿に戻る
→そこで永遠の死が与えられる(天国も地獄もない)
(本当の死)
(11)ルールを変えられるのは神様だけ
16
しかし、全ての人間に永遠の死が与えられるわけではない
「最後の審判」で、神は一部の人々に「永遠の生」を与える = 救済
神に救われた人々は、神の国で永遠に生きることができる
「原罪」は神の決定 → 人間の努力で覆せない
ではなぜ救われる人がいるのか?
人間が努力したからではなく
神が「救ってやろう」と思ったからである
※神が与えた「原罪」を免除できるのは神しかいない
↓
予定説へ
(12)善人が救われない理由
[設問]最後の審判において、神が救済するのはどんな人か?
※「善人を救う」と分かっていたら、誰もが善人になろうとする
cf. オモチャの欲しい子供が良い子を演じる
それは、神様を操ることになる
神は全知ゆえ、お見通しである
神が人間と同じ尺度で判断するかどうかも分からない
仮に選ぶとしてもその条件は想像できないものではないか
↓
[回答]どんな人間が救われるかは誰にも分からない
=神の判断は人間の想像を超える
(13)人間の努力も意志も意味がない
カルヴァンの予定説とは…「誰が救われるか救われないかは、その人が生まれる
ずっと前から決まっていることである。
」
↓
救済は前もって定まっている = 予定説
どんな条件を満たせば救われるか→誰にも分からない?
どのような人生を送ったかを最後の審判の段階で判断するのか?
神の力は万能で無限→どの人生を送るかはお見通し←既に決めている
※全ては神のスケジュールで動く
神の予定したとおりに動き、1 つの例外もない
最後の審判でも例外・偶然はあり得ない
(14)預言者は神のラウド・スピーカー
ジョン・ミルトン(文豪 1608~74『失楽園』という叙事詩の作者)の批判
…「たとえ地獄に堕されようとも、私はこのような神をどうしても尊敬する
17
ことはできない」
↑
しかし聖書には、神は全てを予定しているという教義が
あちこちに現れている
※マタイ福音書第 1 章 18 節(新約聖書)
「…すべてこれらのことが起ったのは、主が預言者によって
言われたことの成就するためである。…」
預言者とは…神の言葉を預かる人
神が人間に対してメッセージを伝えたいときに預言者を任命
=神のラウド・スピーカー
※預言者は志願してなるのではなく、ある日突然神から命じられる
その基準は誰にも分からない
(15)神はこうやって現れる
→預言者エレミア(旧約聖書・エレミヤ書第 1 章 5 節)
あるところにエレミアという少年がいた
「…わたしはあなたをまだ母の胎につくらないさきに、あなたを知り、
あなたがまだ生れないさきに、あなたを聖別し、あなたを立てて万国の
預言者とした。
」
=エレミヤ少年が生まれる前から
預言者として決めていた
『1:6 その時わたしは言った、
「ああ、主なる神よ、わたしはただ若者に
すぎず、どのように語ってよいか知りません」1:7 しかし主はわたしに
言われた、
「あなたはただ若者にすぎないと言ってはならない。だれに
でも、すべてわたしがつかわす人へ行き、あなたに命じることをみな語
らなければならない。
』
↓
神の言葉を伝えるだけだから能力はいらない
(16)預言者ほどつらい仕事はない
エレミアのその後…エルサレムへ行く
『
「1:16 わたしは、彼らがわたしを捨てて、すべての悪事を行ったゆえに、
わたしのさばきを彼らに告げる。彼らは他の神々に香をたき、自分の手で
作った物を拝したのである。…1:18 見よ、わたしはきょう、この全国と、
ユダの王と、そのつかさと、その祭司と、その地の民の前に、あなたを堅き
城、鉄の柱、青銅の城壁とする。 1:19 彼らはあなたと戦うが、あなたに勝
つことはできない。わたしがあなたと共にいて、あなたを救うからである」
と主は言われる。
』
エルサレムの人々への警告
18
→当然、人々の反感を買う
それでも預言者は触れて回らなければならない
それはエレミアの意志ではなく、神の決定
↓
人間は神の決めたとおりに生きろというのが
キリスト教の神の厳しさ
(17)予定説の恐るべきパワー
カルヴァンの予定説は、またたく間にヨーロッパ中に普及
新教徒 …
フランスのユグノー
英・米のプロテスタント
予定説を信じると、おそろしく信仰熱心に
四六時中、神のことが頭から離れなくなる
(18)救われる人は、どんな人?
どのような人が救われるかは分からないが、
「結果として」救われる人がいる
その推測は可能か?
神が救済を予定している人がいると仮定
彼らの共通点は?
神様から救われるほどの人はキリスト教を信仰しているはず
↑
神の国に神と入る人間が、神を信じていないはずはない
キリスト教を信じ、神の万能を信じ、予定説を信じているはず
間違っても、仏教徒やイスラム教徒ではなく熱心な信者
↑
(神がそう予定しているはず= 予定説の信者 )
(19)なぜ予定説を信じると熱心な信者になるのか
予定説を信じるのは「必要条件」
しかし「十分条件」ではない
↓
予定説を信じているのなら、救われる可能性は0ではない
少なくともカトリックより可能性大
予定説に出会ってそれを信じたのは「神の予定?」
=自分は選ばれた人間なのかも知れない
→ますます信仰熱心に
→それも神の予定?
→ますます…以下同文
※予定説を信じれば、すべてのことが「神の定め」と思えてくる
そして、
「信仰の無限サイクル」がヨーロッパを変えた
19
(20)「新人類」が近代を作った
なぜ予定説を信じると信仰心はどんどん篤くなるのか
神を信じれば信じるほど、それを神の「予定」と思えてくる
→自分は幸せ
→もしかすると救われるのか?
→信仰するとますます「予定か?」
しかし、どれほど信じても救われるかどうかは
本当のところ、分からない
⇒信仰に終着点はない(信仰の無限連鎖)
新人類の出現=24 時間信仰を考える人々
⇔救われると分かっていたら、努力しても無駄
分からないからこそ、熱心に信仰する
この新人類=プロテスタントの登場が近代への変革を生む
カルヴァンの予定説により
○絶対王権の転覆
○民主主義・資本主義の誕生へ
第5章 民主主義と資本主義は双子の兄弟
「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、
経済的又は社会的関係において、差別されない。
」 (日本国憲法 第 14 条)
(1)なぜ神は人を救うのか?
人間は便器である!?
予定説の先には、
「人間は神の奴隷に過ぎない」という考え
※パウロの「ローマ人への手紙」(新約聖書)
『9:19 そこで、あなたは言うであろう、
「なぜ神は、なおも人を責められるのか。
だれが、神の意図に逆らい得ようか」
。 9:20 ああ人よ。あなたは、神に言い逆
らうとは、いったい、何者なのか。造られたものが造った者に向かって、
「なぜ、
わたしをこのように造ったのか」と言うことがあろうか。9:21 陶器を造る者は、
同じ土くれから、一つを尊い器に、他を卑しい器に造りあげる権能がないのであ
ろうか。
』
同じ土が美しい花瓶になることもあれば
便器になることもある
⇒それは陶器職人の権限であって
土には何の権利もない
↓
人間が救われるか救われないかは神が決めること
「どうして自分は救われないのか?」
20
土が「どうして自分は便器になったのか?」と聞くのと同じ
ではなぜ神は人間を救うのか?(ローマ人への手紙)
『9:22 もし、神が怒りをあらわし、かつ、ご自身の力を知らせようと思われつつ
も、滅びることになっている怒りの器を、大いなる寛容をもって忍ばれたとす
れば、 9:23 かつ、栄光にあずからせるために、あらかじめ用意されたあわれ
みの器にご自身の栄光の富を知らせようとされたとすれば、どうであろうか。
』
↓
神の豊かな栄光を知らしめるためである
人間を救うのは、神の力の素晴らしさを示すため
堕落した人間でさえ救えるなら、神の力は無限大
⇒そのために人間を救う
⇔人間は原罪を負った存在なので
憐れみから救うわけではないと考える方が自然
人間とは、神の栄光を表す道具に過ぎない
…どうしようもなく堕落した存在だから
神にすがるしか人間には生きる価値がない
(2)最初に特権ありき
こどもの人権というのはない
人権とは、万民に平等にあたえられるもの
こどもだけに認められる人権というのはない
⇒それは、こどもの特権である
※少年法改正における「少年の人権」の議論は
少年の特権の議論に過ぎない
民主主義と人権はセットの考え
近代民主主義の誕生まで、
「人権」という概念はなかった
⇔ 中世には全ての人が「特権」を持っていた
(3)王様も領主も神の奴隷
予定説の信者は信仰の無限サイクル…寝ても覚めても信仰のみ
最後の審判で自分は救われるのか?
↓
そのような信者にとって、現世は「どうでも良いもの」
予定説の基本は、
「全知全能の絶対神」を信じる
⇔ 仏教や儒教にはない
絶対神から見れば、この世の決まり事など大したことはない
王も貴族も、農奴も商人も大した違いはない
↓
21
予定説を信じると、王様も領主も平民と同じ人間ではないか
= 人間は神の下に平等である
人間が持っている権利も同じ⇒ 人権の誕生
↑
予定説は民主主義のスタートライン
(4)予定説は「革命のススメ」!?
当時は伝統主義の支配する社会=「永遠の昨日」の社会
昨日やっていたからという理由で、今日もやるべき…伝統主義
しかしプロテスタントにとって何より重要なのは
「それが神の御心に沿っているかどうか」のみ
=神のためなら社会の破壊も厭わない
↓
革命の実現へ
(5)革命を起こした総理大臣の子孫
イギリスのピューリタン革命が
近代民主主義を作り出すバックボーンに
ルター・カルヴァンから世界に広まるプロテスタンティズム
フランス…ユグノー
イギリス…ピューリタン
いずれも予定説が信仰の根底
⇒彼らにとって、
「王が生まれながらに尊い」というのは
デタラメにしか思えない
☆1579 年 ネーデルランド(オランダ)北部のプロテスタントらが
フェリペ 2 世の廃位を宣言し、ネーデルランド共和国を建国
☆1642 年~ピューリタン革命 (英)
チャールズ 1 世が絶対王権を濫用し議会が反発
→内戦が勃発
→オリバー・クロムウェル※の独立派が主導権
国王を処刑
※ジェントリー出身(貴族の直下の階層)
祖先トマス・クロムウェルはヘンリー8 世時代の
総理大臣クラスの政治家(=枢密顧問官)
「チューダー統治革命」の立役者
王党派の特権階級
母親の影響でピューリタンに
「必要ならば王を殺しても許される」
チャールズ 1 世の軍隊とも戦う
22
(6)民主主義の扉を開いた「人民協約」とは
1645 年、クロムウェル「ニュー・モデル・アーミー」(革命軍)を指揮
王の軍隊を破る
革命軍全員の討議による議会の設立
軍の中心は手工業者・農民中心の「水平派」
クロムウェルと共同して革命を行った「水平派」とは?
→万民は平等なのだから選挙権も等しく与えるべき
*選挙権の平等、思想信仰の自由など
↓
極めて民主的な成文憲法案「人民協約」を作成し
クロムウェルに要求 ⇔ 結局は実現せず
(7)パトニーの大論争
クロムウェルの革命軍討議の議会での論争
水平派の主張
「イングランドで生まれたすべての人に選挙権を」
クロムウェル側(アイアトン将軍)
「万人に共通する権利などあるはずがない
財産を持っていない人間が、国政に口出しすべきではない」
↓
当時は、権利は身分によって異なる
身分ごとの特権が不動の真理
財産=土地を持つ貴族らのみ政治参加
イギリスの普通選挙は 1911 年…人権という概念の困難さ
水平派は迫害…しかし結局は民主主義・人権の確立へ
(8)資本主義の起爆剤とは
民主主義と資本主義は同じ母から生まれた双生児
この二つを切り離して考えることはできない
近代資本主義とは、単に技術が進み
産業が勃興し
経済が盛んになれば自然に生まれるもの?【ではない】
⇔ プロテスタンティズムの精神が不可欠
M.ウェーバー(ドイツの社会学者)
『プロテスタンティズムと資本主義の精神』
※資本が蓄積されるだけでは資本主義は誕生しない
中国の『史記』に「貨殖列伝」…春秋・戦国時代のサクセス・ストーリー
23
○陶朱(とうしゅ)の物語…「陶朱猗頓の富(とうしゅ・いとん)の富」
莫大な富という意味
越王・勾践(こうせん)の忠臣に范蠡(はんれい)という人あり
「国を富ませたければ、物価法則を利用すべき」
物価上昇が極端になれば、下落する
物価下落が極端になれば、上昇する
この法則を熟知し
市場で売り買いすれば
国庫は豊かになると進言
↓
その結果、越国はたちまち豊かになり、宿敵呉国を倒す
後に范蠡は越国の首相を辞任し、商人になる⇒陶に行き朱公と名乗る
大金持ちに
猗頓は陶朱の弟子
(9)なぜ中国やアラブでは資本主義が誕生しなかったのか?
中国では宋の時代に世界一の経済力に
→宋との交易で巨富を得、政権を取ろうとしたのは平清盛
宋では大運河の発達…世界最大規模の商業都市がいくつも誕生
鉱山の開発・景徳鎮の陶磁器・各地に産業の勃興
朱子学・美術の発達
アラブでは「シンドバッドの冒険物語」が象徴する世界
海を渡って大富豪になる
↓
しかし、交易による経済力だけでは資本主義は生まれない
⇒「前期的資本」
(大塚久雄博士)
(10)資本否定の思想が資本主義を作る
「前期的資本」
(大塚久雄博士)とは
元手としての「資本」は世界のどこにでもある
しかし、
「資本主義の精神」がなければ前期的資本のまま
M.ウェーバー『一般社会経済史要論』黒正・青木訳
「近代資本主義の萌芽は、オリエントや古典古代とは違って、徹底的に資本に
敵対的な経済学説が公然と支配してきた地域に求められなければならない」
=金儲けを否定する思想が必要
※民主主義の平等や人権は、人間の価値を否定する「予定説」から誕生
利潤を追求する資本主義の誕生も、利潤を否定する「予定説」から誕生
24
(11)利息を禁じたキリスト教
カルヴァン以前から、キリスト教は金儲けを禁止する宗教⇒聖書に記載あり
※「出エジプト記 22-25」
(旧約聖書)より
『もし、あなたがわたしの民、あなたと共にいる貧しい者に金を貸す場合は、
彼に対して高利貸しのようになってはならない。
彼から利息をとってはならない。
』
⇒預言者モーゼを通してイスラエルの民に伝えた戒律
○旧約聖書を聖典とするユダヤ教・キリスト教徒は金貸し禁止
『ベニスの商人』のシャイロック(ユダヤ人)は?
→同胞から利子をとってはならないが、異教徒なら OK
↓
キリスト教において、貪欲な金儲けは悪徳である
(12)儒教と独占禁止法の共通点
儒教にはそうした考え方はない
『論語』…孔子は「富と貴(たっと)きとは、これ人の欲するところなり」
(里仁・第 4)
=富や地位を求めるのは人間の性(さが)である
つまり、儲けるのが人の道に反するとは言っていない
儒教とは、君子たる政治家が、天下すなわち中華世界の統治を行うための教え
孔子の教える相手とは、国の統治者たる「聖人」と
その役人たる「君子」のみ
※庶民「小人」は対象ではない
儒教の本質は、天下をあずかる政治家が
儒教を守って正しい政治を行えば
社会全体がうまく行く、という考え
=儒教は個々人を相手にせず、いわば集団救済の宗教
↓↑
キリスト教・仏教は個々人を救済するための宗教
ゆえに、孔子は利潤の追求を肯定も否定もしない
商人は勝手に稼業に励めばよいのであって
天下国家を考える儒教とは何の関係もない
ただし、一部の繁栄は社会全体の秩序が乱される可能性
『孟子』
(公孫丑・第 2)
「独り富貴の中において、壟断(ろうだん)を私(わたくし)するものあり」
=商売は良いが、富の独占はいけない
資本主義を追求すれば、やがて独占に行き着く→市場原理が失われる
25
自由市場を放任すれば、やがて自由市場ではなくなる
=経済学の基本テーゼ
※アメリカがマイクロソフト社を牽制する理由
利潤追求を禁じていない=前期的資本のまま
⇒資本主義は生まれない
(13)カルヴァンのルール
カルヴァンの予定説では、金儲けはどのように考えられていたのか?
富を持てば、人間はますます堕落する
⇒生活は徹底的に質素にし、ほんの少しの楽しみも遠ざけるべき
カルヴァンの禁令=快楽の禁止と質素を目標
○成人前の少女が絹を着ることは禁止
○成人前の未婚女性がビロードを着ることを禁止
○金銀の刺繍服、全ての金・宝石は禁止
○婚礼の席での菓子・砂糖漬けの果物を禁止
○酒は地元の赤ワイン以外禁止
○酩酊は禁止
○獣肉や鶏肉、パイは禁止
○結婚以外のあらゆる男女関係は禁止(婚約も含む)
○あらゆる芸術(音楽・美術)は禁止
○クリスマス・イースターの祭りも禁止(聖書に書かれていない)
↓
ジュネーブの生活から、全ての娯楽が排除
(宗教評議会が監視)…シュテファン・ツヴァイク『権力とたたかう良心』
(みすず書房・高杉一郎訳)
カルヴァンのルールを守らなければ、刑罰
町で歌を口ずさめば監獄行き⇒もっと重い罰は死刑⇒破門
破門になれば救済の可能性はなくなる…ひたすらカルヴァンのルールに従う
(14)予定説を信じれば、カネが貯まる
カルヴァンの教えは、
「徹底的に資本に敵対的な」思想(M.ウェーバー)
しかし、カルヴァンの教えを守ると、カネが貯まる
○質素に暮らしているので出費が少ない
○同時に収入が増える
⇒使わないのに収入が増えれば、カネが貯まる
↓
《質素な暮らしと、労働がカギ》
26
(15)「天職」の誕生
なぜ予定説を信じると、その人は以前よりも裕福になるのか?
当時の人々の金銭観・労働観がポイント
聖書では日曜日が「安息日(あんそくにち)
」…仕事をせず、教会に行く
※中世の人々は日曜日以外もあまり働いていない
カネは自分の生活を支える分だけ稼げばよい
必要以上にカネを稼ぐのは悪徳
=最低限の労働のみ
⇔予定説の信者は安息日以外は働きづめ
↓
全ての人間の人生は神が定めた=自分の職業も神が選んだ
→天職・召命(しょうめい)
神の全能を信じるなら、労働を厭わず行え
働くことが、神の御心に沿うこと
↓
労働こそ、救済の手段
※働かざる者、食うべからず→キリスト教の修道院の戒律
「祈り、かつ働け」=労働が救済になるとされていた
(仏教では、むしろ僧侶の経済活動は一切禁止)
働くことは修行の妨げになるから
◇受験勉強とキリスト教
労働は修行につながる→ 行動的禁欲 (M.ウェーバー)
働くことが禁欲であるという考え
(パウロの教えから派生)
パウロの地方伝道をオリンピックのランナーと同一視
=優勝するためには全ての喜びを犠牲に
パウロは伝道という天職を全うするために、あらゆることを禁欲
↓
行動的禁欲(元々は修道院の教え)
それを全ての信者に開放したのが予定説
しかも、どんなに働いても救いの確信は得られない→不安ゆえにさらに働く
考えるヒマがあるなら、働く方がまし
⇒受験勉強の心理と同じ?
信仰においては、最後の審判までわからない
=天職にはゴールがない
→仕事中毒の人間に
※⇔紀伊国屋文左衛門(木材取引で巨万の富を得る)
大金持ちになれば、働かない⇒伝説に残る豪遊
27
(16)定価販売こそ、隣人愛の実践
労働には、もう一つの特典
=労働による財やサービスの提供は、
「他人に親切にすること」
隣人愛の実践
→隣人愛の高さは利潤(儲け)の量
暴利は禁止されているので
暴利を貪らずに売るには適正な価格=掛け値無しの定価販売が重要
富を厳しく否定→利潤の追求が始まる=逆転現象
予定説を信じると、外形の行動にも変化
エートスの変換(ウェーバー)
※仕事をしたくてたまらないという変化
(17)資本主義の精神とは
資本主義の精神とは、予定説の行動様式のこと
予定説の教えは、中世の人々のエートス(=行動様式)を変換する触媒となった
予定説…「労働は救済の手段であり、隣人愛の実践」
○毎日働く
○利潤を追求する
↓
①エートス変換の第 1 段階
労働観の変化…天職としてひたすら働く
貯まったカネの量は隣人愛実践の量→利潤を求めてさらに働く
↓
②エートス変換の第 2 段階
目的合理性
利潤の最大化のために、伝統主義ではなく、
何をすべきかを合理的に追求 =「昨日よりも今日、今日よりも明日」
↓
このイノベーションの思考が資本主義の神髄
伝統主義では利潤の最大化を追求できない
手作りから工場制手工業(マニュファクチュア)へ
儲かるのであれば転職も可
⇒産業革命の誕生
日常の経営も合理化
→複式簿記※の誕生:勘と経験ではなく
数学的・客観的に事業を把握
↓
近代資本主義を生み出した触媒は予定説である
28
※複式簿記:取引を原因と結果という二つの側面でとらえ、現金の
増加等の単純な結果のみならず、どういった原因によりその結果
がもたらされたのかという、取引の原因と結果とを同時に会計帳
簿に記帳していく技術
(18)日本人に民主主義は理解できるか?
民主主義も資本主義もその根本には予定説
キリスト教における「全知全能の唯一絶対神」→人間同士の平等へ
労働こそが救済 →利潤追求を正当化
資本主義へ
※第 3 のエートス?「契約」概念こそが民主主義の要
第6章 はじめに契約ありき
「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は
国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、
この憲法は、かかる原理に基くものである。
」(日本国憲法 前文)
(1)近代ヨーロッパの進路を決めたジョン・ロックの思想
◇レボリューション(Revolution)と革命の違い
革命思想の原点はキリスト教の予定説
それまでのヨーロッパでは伝統主義
予定説を信じれば、世の中のシステムを覆しても構わない
⇒王様殺しへ:クロムウェルのピューリタン革命
↓
その後をどうするか?
※中国の「易姓革命」とレボリューションの違い
易姓革命は皇帝の「姓」が変わるだけの王朝交代
⇒社会体制そのものは本質的に変わらない
レボリューションは旧体制の否定
⇒中世を終わらせたのは予定説
⇒王様殺しの後のヨーロッパ近代の基礎は
ジョン・ロックの「社会契約説」
↓
この2つが揃って、近代民主主義の誕生へ
◇18 世紀を支配した男
ジョン・ロック…1632 年、イギリス生まれ
8 歳(1640~)でピューリタン革命が始まる
29
17 歳(1649)でチャールズ 1 世処刑
28 歳(1660)でクロムウェルの死・王政復古
オックスフォード大学のクライスト・チャーチで哲学・医学
「17 世紀に身を置きながら 18 世紀を支配した思想家」
←丸山眞男(1914-96)政治学者
※彼の思想の特徴は非常に科学的
(2)「自然人」と「自然状態」
科学的とは?…人間や社会を抽象化して考えること
社会の実態は多様
社会を構成する人間も多様
→議論をシンプルにするために違いを無視
社会が複雑になる前の状況を想定
社会のシステムや伝統のない社会
自由で平等な社会
そこで生きる存在を 「自然人」
自然人は、誰にも束縛されず自分の意志で行動
自然人同士は全く自由・対等
↓
この状況を 「自然状態」
:国家も社会もない状態
自然状態にいる自然人たちがなぜ国家を作ることにしたのか?
(3)社会科学の始まり
ロックの発想の原点は自然科学
数学や物理学ではあらゆる現象を抽象化
幾何学「点…位置だけがあって大きさがないものである」
「線…大きさを持たないもの」
→このような非現実的な仮定からスタート
※ロックの「自然人」も同一
(完全に自由で平等な個人という存在はない)
物理学「物体の運動を考えるとき、移動する際の
空気抵抗や摩擦を 0 と仮定する」
→ニュートンは運動方程式や
万有引力の法則を見いだす
※ロックの「自然状態」も同一
(法もなければ政治権力もない社会を想定)
○近代科学は自然現象を抽象化して考えたことにより
「宇宙とは何か」を解き明かした
⇒ロックは人間を抽象化することにより
30
「国家とは何か」を解き明かそうとした
人間社会を「科学の目」で解剖
(4)なぜ経済学は科学になったのか
経済学の手法はロックのアプローチを引き継ぐ
自由競争という概念…競争が最も理想的に行われる状態のこと
「完全競争」と定義、一般には「自由競争」
①売り手も買い手も十分に多数存在し
②売られている商品の質が全く均一で
③市場の参加者が誰でも同じ情報をフリーで利用でき
④誰もが自由に参加・退場できる
⇒現実には存在しないが
このモデルから様々な法則や原理を導き出せる
※商品価格の決定要因
※銀行金利と市場の関係 etc.
○ロックは政治学の父であると同時に、経済学の父でもある?
(5)王はアダムの子孫である!?
◇ロックの社会契約説とは
「自然人」の生活圏である「自然状態」が原初形態
⇒そこから国家や社会の必要性を感じ
人間同士が「契約」を結んで政治権力・国家を作るようになった
↓
人間とは、放っておいてもじきに契約を交わして
社会を作るようになる
⇒理論的に”証明”
『統治二論』
(1660 年)
◇当時のイギリスはピューリタン革命から王政復古へ
1658 年 クロムウェルの死・革命の崩壊
王党派はオランダに亡命中のチャールズ 2 世に帰国を要請
(チャールズ 1 世の息子)
1660 年 5 月 ロンドンで戴冠式→王政復古
※このころ『統治二論』
フランスはルイ 14 世の絶対王政
↓
「国王はアダム直系の子孫であり、神から統治者としての権利を
与えられている。したがって、王に逆らうのは神に逆らうこと。
」
王権神授説
(6)革命の哲学
31
ロックの『統治二論』の目的は、王党派への反論
社会契約説により、
「王の権力を議会が牽制するのは当然」を論証しようとした
王が偉いのは神様に選ばれたからではなく
人民が契約によって国家を作り、その権力を王に信託
⇒国王は人民を守るための存在
※現実には王の暴走がしばしば
議会が権力の濫用を押さえる必要
⇒リヴァイアサンを縛れ
↓
民主主義の哲学へ
※王の暴走が止められない場合は?
個々人は抵抗ができる⇒革命を起こせる「抵抗権」
国家を作ったのは人民だから、ひっくり返せるのも人民
「反乱(=違法)」から「革命(=合法)」へ
※イギリスではマグナ・カルタ以来、
「反乱権」はあり
しかし実際に起きたのはピューリタン革命と名誉革命くらい
(7)ロックとホッブズ、社会契約説のどこが違うのか
◇ロックの論敵はホッブズだった
ホッブズは社会契約説の祖
『リヴァイアサン』…国家の主権者は絶対的な権力を持っている
何が正義かを決めるのも、国家の主権者のみ=国王
↑↓
ロック:国家権力は制限されるべき
ホッブズによれば、
「本来、国家権力は怪獣のように強くなくてはならない」
◇人間は人間に対して狼である
ホッブズも「自然状態」を想定
要するに原始時代…自己保存の本能
「人間の欲望は無限に膨らむ」と考える
人間同士が限りある資源=食べ物を奪い合う
「万人の万人に対する闘い」
「人間は人間に対して狼である」
↓
そこで契約を結び、社会を作る
しかし破るやつが出てくるので押さえつける力が必要
=国家権力(リヴァイアサン)
※国家がリヴァイアサンになるのはやむを得ない
32
◇ビヒーモス対リヴァイアサン
国家の権力が弱まると、内乱(=ビヒーモス:聖書の怪獣)が起きる
内乱が起きれば文明も秩序も破壊される←だから国家権力は必要悪
王権の擁護へ
(8)土地フェティシズム
ロックとホッブズの社会契約説の違いとは?
ロックの「自然人」は他人を殺してまで食物を奪わない
何故か?
⇒自分で生産すれば良い
富は労働によって無限に作り出せる ⇔ 富は有限(ホッブズ)
労働による富の生産と私有財産の定義
→資本主義の発展
中世の「富」とは「土地」を意味する
しかし土地は有限⇒ホッブズのような闘争状態
いわゆる「土地フェティシズム」
(9)なぜ信長は茶の湯を推奨したか?
戦国時代とは、土地の争奪戦の時代
土地にこだわる限り、戦国時代が続く
この争いを収めることが、天下統一のカギ
「楽市楽座」とは何か…土地中心の経済から商品経済への移行
茶の湯の推奨の意義
千利休を重用し、茶道に熱心だった信長
部下たちに茶の湯を推奨し、芸術的な関心を喚起
武功のある武将に、茶器を褒美として与える
(土地は有限だが、茶器は無限)
↓
土地以外の恩賞に満足するように変革を促す
(日本型資本主義の黎明期?)
(10)私有財産はなぜ神聖なのか
自然状態における自然権=自己所有(生命・自由・財産)の権利
自己所有→労働所有→私有財産の発生
国家ができる前から権利として存在する
私有財産の方が、国家権力よりも由緒正しい
(11)人民の、人民による、人民のための政治
なぜ国家は必要なのか?
自然状態における自然人は自然権を行使しつつ概ね平和
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→しかしいずれ格差と不平等
→一部の「貧乏人」が略奪事件を引き起こす
→処罰を繰り返すうちに誰もが自然権を奪われる野蛮な状態へ
⇒仲裁機関としての国家の建設
その目的は、人民の生命と私有財産の維持(=自然権の保障)
=「人民の、人民による、人民のための政治」
⇒必要以上の権力強化は個人から自然権を奪うという問題が発生
※国家権力は人民の合意により作ったものであり
人民に奉仕するためのもの
だから、監視が必要
⇒ 民主主義の精神
(12)契約は守られるのか
社会契約説
富
自然状態
契約後の社会
国家権力
ホッブズ
有限
戦争
無視しがち
押さえる力とし
て強大さが必要
ロック
無限
楽園
理性により守る
暴走しないよう
に監視
(13)代表なくして課税なし
イギリス憲法(慣習法)の大原則
そもそも議会の成立は、国王の課税導入から始まる
税金を掛ける際には、必ず納税者の意見を聞く
1765 年 印紙税法(アメリカの植民地だけを対象・
アメリカ駐屯軍の資金調達のため)
植民地からの反論⇒しかし強行
1773 年 ボストン茶会事件
↓
「抵抗権」の理念により独立戦争へ
(14)なぜアメリカ人は銃を捨てないのか
ロックの自然権には自己保存の権利という考え方
国家以前に自分を守る権利がある
※独立戦争の経緯
植民地人は誰と戦ったのか?
自国の軍を信用しない国民の歴史
(15)なぜアメリカ人はロックを信じたのか
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ヒント:アメリカの民主主義は「予定説」
(16)日本国憲法も社会契約説
致命的な点は、日本人が「社会契約」の意味を理解していないところ
国家権力は国民の信託によるもの
◆政治家の公約違反は民主主義の敵
◇欧米の政治家にとって、公約は命よりも大切
公約を覆すことは政治的な自殺を意味する
第7章 「民主主義のルール」とは何か
「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」
(日本国憲法 第 43 条)
(1)英国史上、最高の首相とは誰か
もしアンケートをすれば、おそらく第 1 位はディズレーリ
2 位はサッチャー?チャーチル?
ディズレーリ:ヴィクトリア王朝の政治家
英は世界経済の覇者・国際社会においても不動の地位
首相としての数々の業績
スエズ運河の買収、フランスの東洋進出・ロシアの南下政策の阻止
ヴィクトリア女王をインド帝国の皇帝に推戴
小説家としても有名
ユダヤ人として首相になるのは希有の存在
※最も重要な功績は「イギリス議会政治の基本ルールの創設」
◇国論を分裂させた穀物法
1840 年代 穀物法を巡る国会論議が発生
※イギリスに入ってくる穀物を制限する法律
イギリスの穀物を守るため(ある種の食管法)
→しかしその保護対象は農家ではなく地主=貴族
↑
都市の資本家たちは猛反対
穀物が安くなれば、賃金を下げられる
農民には選挙権がないので
地主と資本家の大抗争へ発展
※イギリスの政党は保守党と自由党
保守党は地主、自由党は資本家を支持基盤
穀物法支持の保守党が選挙で勝つ
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党首のピールが首相
→アイルランドで馬鈴薯病が発生
大飢饉の襲来
(2)アイルランド人がイギリス人を憎む本当の理由
1801 年以来、アイルランドはイギリスに併合
イギリスはプロテスタント
アイルランドはカトリック →両国は長年の抗争
併合後、イギリスの地主はアイルランドの小作農たちに冷酷な処遇
→収穫物は全没収
→生活の糧はジャガイモのみ
↓
そこで馬鈴薯病から大飢饉へ
餓死者は数十万人にも
(残りは北アメリカへ逃亡)
◇そして誰もいなくなった
アイルランドの人口の激減→小麦の収穫減
⇒ついに 穀物法を廃止し、海外の穀物輸入を解禁
同じ保守党の党員・ディズレーリが首相に論戦
「…穀物法を廃止するのは、誰が考えても当然の措置でしょう。しかし、首相閣下、
あなたがそこに座っていられるのは、保守党が『穀物法を守る』という公約を掲げて
選挙に勝ったからではありませんか。だったら、閣下には穀物法を変える資格はあり
ません。いさぎよく自由党に政権を譲り、自由党内閣に穀物法廃止を任せるのが筋と
いうものではありませんか。
」
↓
「自由党が入浴中に、その衣類をかっぱらった」と首相を批判
ピール
「選挙の公約には反するかも知れないが、私は女王陛下の信任を得て、この国家の要
職に就いた身である。国家のためになることであれば、断固として行うのが女王陛下
から与えられた責務である。
」
ディズレーリ
「では閣下、おたずねします。あなたは『女王陛下、女王陛下』とさかんにおっしゃ
いますが、もし、地主層の支持が得られなかったとしたら、あなたは選挙に勝てたで
しょうか。それでも、陛下はあなたを信任なさったと思いますか。
」
↓
この結果、保守党は少数派に転落し
36
ピール内閣は倒壊
(3)ディズレーリが作った 3 つのルール
◇第 1 のルール…「選挙公約はかならず守るべし」
選挙公約を変えるのであれば、議員全員が辞職し
再度選挙に出て、新しい公約を選挙民に問わなければならない
⇒君主の信任があっても
選挙民を裏切れば首相になれない
◇第 2 のルール…「他人の公約を盗むな」
◇第 3 のルール…「議会における論争によって、すべてを決する」
多数派工作ではなく、論争によってのみ相手を打ち負かす
当時の英議会でも「しょせん政治は数だ。数はカネで集められる」
という認識
←イギリス最初の首相ウォルポールは多数派工作で有名
(18 世紀)
↓↑
「数は弁論の力で獲得するもの」に変化
※ディズレーリ=ピール論争から
※ヴィクトリア時代に英国憲法が完成したと言われる
◇日本の民主主義は 250 年も遅れている!?
かつて日本社会党は「消費税反対」
「自衛隊反対」を公約
1994 年、政権(村山富市内閣)を取った後に
消費税 5%を導入し(1996 年決定、1997 年施行)
、
自衛隊を温存した
自民党の現政権(第二次安倍晋三内閣)では
安倍の総裁選で「デフレ下の消費税増税はしない」
選挙時の公約では「環太平洋連携協定(TPP)交渉で『農業の重
要5項目の関税維持』
」
既に来年度は消費税 8%導入が決定(円安不況下)
「聖域」の維持を廃止
↓
日本の政治はディズレーリ以前:ウォルポール時代と同じ
約 250 年前
(4)契約とは言葉である
◇近代デモクラシーの大前提は「契約を守る」
それがなければ、憲法も国会も意味がない
社会契約の精神がなければ、権力は暴走し、止めることができない
公約が守られなければ、国会はただの数合わせにしかならない
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◇問題はどこにあるのか?
日本人の考える「約束」と西欧人の考える「契約」は違う
契約とは、言葉そのもの=言葉によって定義されない限り、契約とは呼べない
契約とは言葉である
◇「黙って俺について来い」?
契約の典型は、企業が取り交わす契約書
あらゆる場合を想定し、様々な条項を書き連ねる
契約書は言葉の塊
しかし日本人の場合は、言葉にすることを嫌う
⇒信頼しているなら、言葉にするのはかえって失礼という感覚
「黙って俺について来い」
「悪いようにはしない」は日本人の常識
↑
悪いことの定義がない
契約としては、何も約束していないのと同じ
しかも「黙って…」は奴隷的拘束・問答無用と同じ
契約とは、破ったか破らないかが明確に判らなければならない
破ったようでもあり破らないようでもあり…では契約にならない
だから欧米では、契約は文書にしておく習慣に
欧米の契約の特徴は①当事者の人間関係に左右されない
②事情変更の原則も成立しない
←日本や中国と異なる
(5)なぜ欧米人は契約を重んじるのか
◇多様な民族だから相手を信用できない土地柄?
日本では約束を守らない人はいないのか
欧米ではみんなが契約を破ろうとするのか
◇大陸だから契約が発達した
ではなぜ中国では契約社会が出現しないのか
◇王と臣下は契約によって結ばれていた
誓いを守ることが忠実さの証=騎士道
ヨーロッパでは昔から、
「契約とは言葉である」とされていた
↑
それを理解するにはキリスト教を知ることが重要
ヨーロッパ文明の理解にはキリスト教が必須
現象の背後にある本質の理解
聖書における契約とは何か
38
(6)ユダヤ教もキリスト教も契約宗教
キリスト教における聖書は「旧約聖書」と「新約聖書」
ユダヤ教は「旧約聖書」
○旧約聖書とは
アダムとイブの楽園追放以降、
神との契約を破ればどうなるかという事例の羅列
つまり旧約聖書の教えとは、
「神との契約を守れ」1 点のみ
○旧約聖書の契約とは
古代イスラエルの民(ユダヤ人)と神との契約
→この契約を改訂したのがイエス・キリスト
イエスは神の子なので、改訂ができた
十字架に掛かることで神との契約を改訂し、
新しい宗教・キリスト教を打ち立て、新しい聖典を作る
↓
新約聖書
※よってユダヤ教もキリスト教も契約の宗教
(7)旧約聖書は破約の書
◇約束の地カナン
神と古代イスラエルの民はどんな契約をしたのか
カナンの地にアブラハム
そこに突然神が現れる
「わたしは、あなたが滞在しているこのカナンのすべての土地を、あなたと
その子孫に、永久の所有地として与える。わたしは彼らの神となる」
『創世記 17-8』
イスラエルの祖アブラハムと神との契約により
「約束の地」カナン(イスラエル)を与えられ
永久に繁栄することが保証
↓↑
見返りとして「神をあがめよ」
「神を敬え」
具体的な要求を与え、それを守れば「選ばれし民」として
カナンを与えられる
◇エジプト脱出
アブラハムに今後 400 年間奴隷となることを伝える
エジプトに移住→迫害を受けて奴隷
モーゼに預言「乳と蜜の流れる土地」へ導いてやる
『出エジプト記』
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◇恐るべきペナルティ
モーゼだけに預言…シナイ山の山頂で「十戒」
①あなたは、わたしをおいてほかに神があってはならない。
②あなたは、いかなる像も造ってはならない。
③あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。
④安息日を心に留め、これを聖別せよ。
⑤あなたの父母を敬え。
⑥殺してはならない。
⑦姦淫してはならない。
⑧盗んではならない。
⑨偽証してはならない。
⑩隣人の家を欲してはならない。
※契約を破れば、イスラエル人は皆殺しに
◇危機一髪
40 日間の山頂・黄金の仔牛の像
◇イスラエルの懲りない人々
ソロモンに神が怒ったわけ
バビロン補囚
→旧約聖書は破約の書
(8)神との契約を改定したイエス
イエスの改訂内容
①契約対象をユダヤ人以外にも広げる
②細かな戒律を破棄し、
「神を信じ」
「神を愛し、隣人を愛せ」という条件のみ
⇒神の契約対象は、集団(民族)から個人へ
↓
契約は絶対に守らなければならないというエートスが作られる
(9)契約にかかれていなければ、何をしてもよいのか
「約束とは、言葉にして結ぶものである」
契約にないことは、何をやっても許される
※ソドムとゴモラのロトとその娘たち
(10)なぜイスラム教徒は契約を守らないのか→アッラーは寛大である
イスラム教も「モーゼ 5 書」は聖典
その他に最後の預言者マホメッドが「新しい契約」
↓
コーラン
しかしイスラムの神は寛容
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「イン・シャー・アッラー(アラーの思し召しにより)
」
慈悲を願うと許してくれる
↓
イスラム社会が近代化できない最大の原因
(11)ニッポンは砂上の楼閣?
場合によっては契約を破っても良い
と考えている限りは、民主主義も資本主義もない
民主主義・資本主義の基本中の基本は
人間同士の「契約の絶対」が不可欠
⇒日本の民主主義は砂上の楼閣
第8章 憲法の敵はどこにいるのか
◇デモクラシーは最悪の政治である
◇なぜアメリカ人は自分たちを共和主義者と呼んだのか
◇デモクラシーは禁句だった!?
◇フランス革命の光と影
◇ブルボン王朝を滅ぼした「ユグノーのたたり」
◇ロベスピエール
◇結果の平等と機会の平等
◇民主主義は貧乏人の政治である…プラトンの危機感
◇イギリスで貴族が政治を握っていた本当の理由
◇民主主義とは独裁者の温床である
◇アメリカ大統領選に隠された知恵
◇日本にヒトラーは現れるか
第12章 角栄死して、憲法も死んだ
(1)デモクラシーを食い殺す怪物
(2)軍部と戦った代議士たち
(3)言論の自由は議会から生まれた
(4)かくして議会は「自殺」した
(5)何が軍部の横暴を許したのか
(6)議会が独裁者を作る
(7)「越境将軍」の敗北
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