「痛快!憲法学」まとめ 小室直樹著

「痛快!憲法学」まとめ
小室直樹著
第 1 章 日本国憲法は死んでいる
「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のた
めに、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の
行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存す
ることを宣言し、この憲法を確定する。
」(日本国憲法 前文)
【導入:なぜ今憲法論議が盛んなのか】
◆ハーバード白熱教室 1-1 「殺人に正義はあるか」を視聴→慣習としての法
◆ハーバード白熱教室 1-2 ミニョネット号事件
殺人に正当性はあるのか?
①正当性はある…功利主義
②正当性はない
①正当性はある
a.公正な手続き
b.同意がある
①強制がない
正しい
同意とは
②判断に必要な情報
が事前に与えられ
ていること
②正当性はない
※J.ロックの社会契約論
我々は「同意」によって社会を作った
①何に同意したのか? → 多数の決めたことに従う
②なぜ同意したのか? → 自然状態における自然権を守るため
自然権=生命・自由・財産の権利
権利の侵害とは
不特定の人から
↓↑
①特定の人から
②恣意的に奪うこと
法の支配
↓↑
前もって
→適正手続きの保障・同意という近代の法の精神
1
(1)あなたは護憲派?改憲派?
問うことの無意味さを考える ⇒ 日本国憲法はそもそも「生きているのか?」
※法律は廃止されない限り有効
例:決闘罪ニ関スル件(明治 22 年制定)
物価統制令(昭和 21 年制定)
「…終戦後の物価に対処し、物価の安定を確保し以て
社会経済秩序を維持し国民生活の安定を図る」(第 1 条)
→明治時代に作られた法律が、まだ生きている
(2)殺されたワイマール憲法
第一次世界大戦の敗戦…ドイツ革命⇒ワイマール共和国の誕生
ワイマール憲法の成立(1919 年)=世界で最も進んだ憲法
○国民主権の導入
○国民の直接選挙による大統領制
○社会権の保障
ワイマール憲法は何故死んだのか?
ナチス党の誕生
1932 年、第一党になる
1933 年 1 月 30 日、ヒトラー首相に就任
1933 年 3 月 23 日、
「全権委任法」(授権法、翌日公布・施行)が議会で可決
↓
この日、ワイマール憲法は事実上廃止された=ワイマール憲法の死
(3)憲法とは慣習法である
見える法と見えない法
慣習法…発見される法
成文法…制定される法
※たとえ成文法であっても、実質的な運用がなければ存在しないのと同じ
⇒慣習法としての憲法
常に反省・修正が必要
(4)アメリカ憲法は欠陥憲法だった
アメリカ合衆国憲法(1787 年制定)…最古の憲法といわれる
※アメリカ合衆国憲法は、生きていたのか?
1776 年 7 月 4 日 独立宣言(フィラデルフィアで採択)
「…われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主に
よって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由
および幸福の追求の含まれることを信じる。
」
2
しかしアメリカ合衆国憲法には、権利の章典(人権規定)がなかった
憲法制定会議では反連邦派の猛反対
当初は信教の自由もなく、言論の自由もなかった
※その後、合衆国憲法発効直前(1788 年)に人権条項の導入
⇒家を建てたは良いけれど、住む前から補修工事
ネイティブアメリカンに白人は何をしてきたか?
※ベンジャミン・フランクリンの手紙
「インディアンと白人との間に戦われた戦争のほとんど全部は、白人がインデ
ィアンに対して何らかの不正を行ったことから始まったものなのです。
」
(猿谷要「物語アメリカの歴史」中公新書)
黒人奴隷を持っていた建国の父たち
アメリカにおける黒人奴隷の歴史は、建国以降から急速に拡大
19 世紀初頭、産業革命の影響で、イギリスの綿の需要が急増
南部諸州の農地での人手不足→奴隷の輸入
1200 万人~1500 万人
初代大統領ワシントン・三代ジェファーソンも大農場主・奴隷所有者
※奴隷制度は南北戦争後に廃止
1865 年、アメリカ合衆国憲法修正第 13 条・14 条・15 条
○奴隷制度廃止
○公民権の付与
○黒人男性への参政権の付与
1883 年の最高裁判決「アメリカ合衆国で生まれた(または帰化した)すべての
者に公民権を与えるとした修正第 14 条は、私人による差別には当てはまらない」
⇒実質的に無効化
1890 年ルイジアナ州 黒人と白人で鉄道車両を分離する人種差別法案を可決
1896 年 5 月 18 日合衆国最高裁判決…「分離すれど平等」主義
「公共施設での黒人分離は人種差別に当たらない」
1955 年 12 月 1 日 モントゴメリー・バス・ボイコット
1956 年、合衆国最高裁判決
「バス車内における人種分離(=白人専用及び優先座席)は違憲」
1957 年リトル・ロック高校事件
1964 年 7 月 2 日に公民権法(Civil Rights Act)が制定
(5)ゴールドラッシュの恐るべき真相
※シュテファン・ツヴァイク『人類の星の時間』
(みすず書房)より
サンフランシスコの歴史
1834 年 ヨーハン・アウグスト・ズーター(独)が
3
カリフォルニアに移住
農園経営に成功し、妻子を呼び寄せる
1848 年 1 月 大工が農園で砂金を発見
「もっともまずしい、もっともあわれな、もっとも失意の乞食に
彼はなるのである。
」
アメリカ中から彼の農園目がけてアメリカ人が砂金探しに殺到
ズーターの乳牛を殺して食い、
穀物倉庫を壊して自分たちの家を建て
農地は踏み荒らされ
農耕機械は盗まれた
⇒あっという間にたくさんの人々が不法に占拠し
町が造られた= サン・フランシスコ
↓
ゴールドラッシュの真相
サン・フランシスコは不法占拠の町
(6)アメリカには民主主義がなかった
1850 年 ズーターは裁判に訴える
「サン・フランシスコ市がその上に建てられている
地所の全部は法律上彼の所有地である」
「盗み取られた財産上の損害を、政府は賠償してくれる
義務がある」
⇒農園内の 17220 人の不法占拠者の立ち退きを要求
カリフォルニア州政府へ 2500 万ドルの賠償金を要求
↓
裁判で勝訴
しかし判決後、不法占拠者の暴動勃発
「1 万人の人間が暴動を起こして…裁判所を襲ってその建物を焼き、
裁判官を私刑にしようとし…ズーターの全財産を略奪しに
出向いた」
「彼の長男は暴徒たちに強迫されてついにピストル自殺を遂げ、
次男は殺害され…」
「彼の動産、蒐集品、彼の金銭は奪い取られ、莫大な持ち物は
残酷な凶暴さによって荒しつくされた」
↓
アメリカ政府もカリフォルニア州政府も対処せず
1880 年 ワシントンの連邦議事堂前でズーター死去(脳卒中)
↓
19 世紀後半、アメリカの憲法は「死んでいた」
他人の土地に勝手に家を建て、町を造ることが許されるのか?
4
※日本は幕末維新の頃
(7)なぜ日本の憲法論議は不毛なのか
どんなに立派な独立宣言があり、憲法の条文があっても、
それが慣習として定着していなければ、憲法はただの紙切れ
↓
憲法は慣習法であり、成文法ではない
憲法を生かすも殺すも、国民次第
憲法学の本質は、条文解釈ではない
その憲法が本当に生きているのかをチェックすることが本来の役目
⇒憲法の脳死判定
憲法論議が不毛なのは、
「憲法が生き物である」ことを忘れているため
死んだ憲法の条文改正に意味はあるのか?
第 2 章 誰のために憲法はある
「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその
他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
」(日本国憲法 第 98 条)
【導入】立憲主義と憲法
立憲主義とは「法による権力の制限」
日本国憲法は矛盾だらけ
(1)欽定憲法を改正すると民定憲法?
(2)占領管理下の 1946 年に、日本には主権はなかった
⇒天皇にも国民にも主権なし
(3)誰が憲法を作るのか?…憲法制定権は主権者のみ
(4)なぜ日本の憲法論議は不毛なのか?
見える法と見えない法
慣習法…発見される法
成文法…制定される法
※たとえ成文法であっても、実質的な運用がなければ存在しないのと同じ
⇒慣習法としての憲法
常に反省・修正が必要
(1)法とは何か
「法とは、(誰かが)誰かに対して書かれた強制的な命令である」
5
(2) 人を殺しても刑法違反に問われない?
刑法が命令する相手は誰か…裁判官(司法権力)
⇒刑法 199 条(殺人罪の規定)を例として
刑法は殺人や窃盗を禁じてはいない
刑法違反ができるのは裁判官だけ
罪刑法定主義
(3)裁判で裁かれるのは誰か?
刑事訴訟法が命令する相手は誰か…検察官ほか(行政権力)
⇒刑事訴訟法 475 条を例として
法務大臣の 475 条違反は許されるのか
法律による行政の原則
裁判所と「お白州」は、どこがどう違うのか?
遠山の金さんは暗黒裁判の象徴
刑事・検事・裁判官・弁護士の一人 4 役の危険
検察=性悪説が近代刑事裁判の大前提
(4)有罪率 99 パーセントの異常
アメリカは 70 パーセントくらい?
世界の有罪率 http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/15459851.html
Yahoo!知恵袋・世界の有罪率と分析 http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n44514
米研究者論文 http://ideas.repec.org/p/wpa/wuwple/9907001.html
仏 TV も注目する日本の特捜問題 (MAD) http://tsuigei.exblog.jp/12867606/
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=kuhAAxgTamM
(↑映像はアテレコ)
英語論文? http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n10140
小坂井敏晶著「人が人を裁くということ」
http://sendatakayuki.web.fc2.com/etc5/syohyou293.html
裁判所は真実を明らかにするところか?
刑事裁判で裁かれるのは被告人ではなく、行政権の代理人たる検察官
近代裁判の原点には「権力は悪なり」という考え方がある
デュー・プロセスの原則
※刑訴第 336 条
「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件につ
いて犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡を
しなければならない。
」
つまり有罪の立証ができなければ無罪
6
しかし日本では、無罪の立証ができなければ有罪
⇒被疑者の権利の観点がない
◇ 日本人は、あまりにも検察を信用しすぎてはいないだろうか?
※アメリカの小説『復讐法廷』
(1982、ヘンリー・デンカー、ハヤカワ文庫)より
強姦の容疑者を逮捕
◇被害者の装身具を所持
◇被害者の体から容疑者の精液を採取
◇被害者の爪から加害者の皮膚の断片
◇当日、容疑者は現場の近くで事情聴取・逮捕
↓
しかし、無罪となる
州法では、仮釈放中の人間は弁護士の立合いが必要
なぜ、 疑わしきは罰せず なのか
「1000 人の罪人を逃すとも、一人の無辜(むこ)を刑するなかれ」
⇒近代法の精神
一人の犯罪者の悪事より、国家の悪事の方が重大
(5)憲法が命令する相手は誰か…公務員(国家権力)
⇒憲法 99 条を参照
憲法 21 条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。2.
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
」
しかし、言論の自由は家庭にも職場にもない⇒親が子をどなっても憲法違反にはならない
⇒上司が部下に暴言を吐いても
憲法違反にならない
↓
人権保障の義務を負うのは誰か?
憲法は国家を縛るための命令
憲法に違反できるのは国家(公務員)だけである
(6)17 条憲法と日本国憲法はまったくの別物
「一に曰く、和(やわらぎ)を以て貴しと為し、忤(さか)ふること無きを宗とせよ。
」
→聖徳太子から役人への訓戒
トマス・ホッブス『リヴァイアサン』
(Leviathan、1651 年)
リヴァイアサン=旧約聖書・ヨブ記に登場する無敵の怪物
※国家(コモンウェルス)はリヴァイアサンである
国家には軍隊や警察という暴力装置
7
国家の命令一つで財産を奪われ、命を奪われる
↓↑
罪刑法定主義・デュープロセスの原則
その上に、最後の鎖としての憲法
第 3 章 すべては議会から始まった
「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
」(日本国憲法 第 41 条)
(1)民主主義と憲法と議会と多数決主義はそもそも無関係だった
民主主義と憲法は本質的には無関係である
→憲法はいつ、どのような目的で作られたのか?
(2)国王がいても、 国家がなかったヨーロッパ中世
中世の王国には、国土も国民も国境もない
⇒領土には複数の支配権が混在
国王と臣下の関係は契約によってのみ成立している
⇔契約を守るのが良い家臣
契約を守るのが良い王様
欧米:
「契約」に忠実なのが良い家臣
日本:
「人」に忠実なのが良い家臣
◇ビジネスの基本は人間関係か、契約か?
※ 国王は臣下(領主)の土地を守る代わりに、戦争が起きたら
兵 1000 人を連れて駆けつける
※ 国王が人質になったら○○円の身代金を提供する etc.
※ 契約条項に無いことは要求できない
※ 中世の王国がまとまっていたのは、王が有能だからではなく
契約が結ばれていたから
→契約という概念は近代資本主義以前から存在
(王国≒国家…ではない!)
国王(領主 A)
主従関係(契約)
領主 B
領土(農奴つき)
領土(農奴つき)
領主 C
領土(農奴つき)
領主 D
領土(農奴つき)
8
領主 E
領土(農奴つき)
(3)奴隷と農奴はどこが違うのか
農奴は領土とセットであり、領主といえども農奴の売買はできない
そのわずかな自由が、近代市民革命の原動力に
(4)王様は学級委員長
国王は、領主たちの領地をめぐる争いの調停役として誕生
中世初期には、領主の中の主席程度の権限しかなかった
契約における主従関係という限界
(5)日本の武士に「武士道」はなかった
主従関係における「仇討ち」はない ⇔ 江戸時代の仇討ち話は 99%が親の仇討ち
戦国時代:豊臣秀吉
江戸時代:赤穂浪士
日本では裏切り(契約違反)は恥ではないが、
西欧では契約を守らなければ相手にされない
※ 1600 年関が原の戦いは裏切りに次ぐ裏切りで
東軍(徳川家康)の勝利に
→中世騎士の方が頼りになる
(6)まとめ:中世ヨーロッパ理解の二つのポイント
(1)中世の封建社会では「主権」(=絶対的な支配権)は
存在せず、今のような国家の概念はなかった
(2)国王の権利は「契約」によってのみ正当化される
ため、臣下に対して限られた権限しか行使できなかった
(7)王様は中間管理職?
当時のことわざ 「王は人の上に、法の下に」
王といえども契約と慣習法には従わなければならない
↓
「永遠の昨日(M.ウェーバー)」 が支配する中世
伝統主義…「過去にあったことを、ただそれが過去にあったという
理由で、それを将来に向かって自分たちの行動の基準に
すること(大塚久雄)」
↓
良い伝統と悪い伝統とは区別しない ⇔ 近代合理精神
自然法(神の法)> 慣習法>
国王
>臣下
中世ヨーロッパにおいて伝統は絶対=人間が判断を下してはならないもの
9
(8)ペストと十字軍が封建領主を没落させた
中世社会の解体のきっかけのひとつは、ペスト(黒死病)←1348 年前後
ペストによる農奴の減少
(イングランドでは人口の 1/4~1/3 が減った)
農奴の減少が農奴を有利に…地代の軽減により裕福な農奴が出現
中世の経済の中心は自給自足か物々交換←貨幣経済による打撃
きっかけは十字軍の遠征(1096 年~)
トルコとの戦いで圧倒的なイスラム文化に遭遇
交易品の流通⇒都市の商工業者階級の出現⇒貨幣経済の発達
地代の貨幣化
収穫物は貯められないが貨幣は貯められる
裕福な農奴は自由農民へ・都市へ逃亡する農奴も⇒領主の没落
(9)国王の新しい金づる、商人
都市の商工業者の献金と引き換えの守護
貨幣の蓄積による国王の領主からの相対的な台頭
軍隊の創設
それまでの軍隊は山賊・海賊の寄せ集め
しかも領主たちとの契約による借り物(指揮者は各領主)
⇒思うとおりに動かせない
貨幣の力で常備軍の創設へ→国王の権力の強大化
(10)常備軍、現わる
領主たちの寄せ集め軍隊と国王の常備軍の格差の拡大
※軍事力は兵器と訓練が重要
織田信長の兵農分離政策…桶狭間の戦いで今川軍を破る(1560 年)
兵 3000 対 25000 といわれる
都市の発達と商業の拡大・国王権力の増大へ
(11)なぜ教会は堕落していったのか?
慣習法による国王権力の制限=伝統主義
一方で教会の権威…教会領が 1/2~1/3 という王国も
貨幣経済の拡大に伴う変遷⇒「免罪符」の販売(1315 年~)
「売官」(聖職者の地位の売買)
教会の堕落へ
※ルターの宗教改革の200年前
↓
「等族(=身分)国家」に変質
国王・商工業者連合 VS 貴族(領主)・教会連合
※戦場は議会へ
10
(12)議会が誕生した二つの理由
西欧初の議会は 1265 年…「身分制議会」
「等族議会」と呼ばれる
1302 年、三部会の誕生(フランス)
貴族(領主)、聖職者、平民
議会が開かれた理由(1)王様の都合
権力増大に伴う領主たちへの租税の導入
しかし契約の改定が必要
→話し合い、個別の改定ではなく一挙に改定=全員の合意とみなす
(カネ集めが目的)
議会が開かれた理由(2)貴族の都合
常備軍の増強・租税の導入=慣習法を破る危険な存在
慣習法(=貴族の特権)を守らせるために議会を利用
※好き勝手に法律を作らせず、税をかけさせない
⇒どちらにしても自分たちの利益と特権を
守るための道具として議会は誕生
(13)マグナ・カルタは反民主主義の憲法
西欧初の憲法は「マグナ・カルタ(大憲章)」(1215 年 6 月 15 日)
慣習法を無視した英ジョン王への制裁として 63 ケ条の契約書を作成
マグナ・カルタの目的①…伝統を守ることの確認
②…破った場合は反乱に訴えてもよい
※当初は「自由民=貴族・裕福な商工業者」の特権の維持
(人口の 9 割を占める農奴は含まない)
→議会政治の発達へ
自由民の拡大
慣習法や契約に反していないかのチェック
国王と対立・やがて国王をしのぐようになる=「議会」の機能へ
↓
マグナ・カルタからイギリス民主主義が誕生
(14)多数決誕生の意外な舞台裏
ゲルマン社会における決定は「全員一致」…中世騎士物語など
多数決会議の始まりはローマ教会の「コンクラーベ」(12 世紀頃)
(次期法王決定会議)
※国王は血統制で決まるが法王は一代限り
→法王の地位を空白にするのは良くない=多数決の導入
やがて議会にも導入
※ポーランド議会は 18 世紀まで全員一致
しかし多数決の妥当性について今日まで議論あり
↓
11
◆「多数決が正しい」という保証はどこにもない
(15)南北戦争で多数決は定着した
アメリカ南部 11 州の合衆国離脱の危機(少数意見の尊重がない)
リンカーン大統領「たとえ南部 11 州が不満であろうと、勝手に連邦を離脱
するのは非合法である」として認めず
※「多数決で決まったことだから正しい」のではない
多数決は効率的に物事を決めるための一種の便法
→「多数の意見を、(仮に)全体の総意とする」という約束事でしかない
→多数決はフィクション(擬制)
(16)教科書が教えない「憲法」と「民主主義」
憲法や議会はもともと民主主義と何の関係もない
なぜ教科書は教えないのか?
→政府は、
「議会」と「憲法」があれば民主主義だと
国民に思い込ませたいのではないか?
※民主主義は国民の監視と努力によってのみ維持される
第4章
民主主義は神様が作った?
「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は
政治上の権力を行使してはならない。(以下略)」(日本国憲法 第 20 条)
※民主主義の 2 つのエートス(要素)
小さな政府⇔大きな政府
(1) 平等←特権の否定
↑
(2) 労働の自己目的化→資本主義←①権力の不介入
←②私有財産の保障←J.ロック
【聖書の構成】
旧約聖書……創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記・ヨシュア記・士師記・ルツ記
サムエル記上・サムエル記下・列王紀上・列王紀下・歴代志上・歴代志下・エズラ記
ネヘミヤ記・エステル記・ヨブ記・詩篇・箴言・伝道の書・雅歌・イザヤ書・エレミ
ヤ書・哀歌・エゼキエル書・ダニエル書・ホセア書・ヨエル書・アモス書・オバデヤ
書・ヨナ書・ミカ書・ナホム書・ハバクク書・ゼパニヤ書・ハガイ書・ゼカリヤ書・
マラキ書
新約聖書……マタイによる福音書・マルコによる福音書・ルカによる福音書・ヨハネによる福音書
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使徒行伝・ローマ人への手紙・コリント人への第一の手紙・コリント人への第二の手
紙・ガラテヤ人への手紙・エペソ人への手紙・ピリピ人への手紙・コロサイ人への手
紙・テサロニケ人への第一の手紙・テサロニケ人への第二の手紙・テモテヘの第一の
手紙・テモテヘの第二の手紙・テトスヘの手紙・ピレモンヘの手紙・ヘブル人への手
紙・ヤコブの手紙・ペテロの第一の手紙・ペテロの第二の手紙・ヨハネの第一の手紙
ヨハネの第二の手紙・ヨハネの第三の手紙・ユダの手紙・ヨハネの黙示録
(1)絶対君主、現わる
王権の拡大 ⇔ 慣習法(伝統主義)で対抗する領主(貴族)
両者の争いの中で議会や憲法は生まれた
しかし、両者の争いの中で民主主義が生まれるわけではない
実際の西欧史においては
王権の増大と相対的に領主(貴族)の弱体化
貨幣経済の興隆が後押し
⇒ 絶対王権の誕生
当初スペイン→フランス(ルイ 13 世、1614 年~)では議会は開かれなくなる
この後、フランス革命まで 170 年間、三部会なし
王は、もはや貴族や僧侶の意見を聞く必要なし
↓
太陽王(ルイ 14 世)「朕は国家なり」
→イギリス(ヘンリー8 世、1533 年)
キャサリンと離婚、アン・ブーリンと再婚しようとする
ローマ法王・クレメンス 7 世の拒否
「国王至上法」を議会で制定し、イギリス国教会の長に就任
修道院を解散させ、領地を没収
法王…「イギリス人は皆地獄に堕ちるであろう」
その後、アン・ブーリンはエリザベス 1 世を産み、処刑される
(2)かくしてリヴァイアサンは生まれた
絶対王権に理論的根拠を与えたのは、ジャン・ボダン(フランス)
『国家に関する6章』(1576 年)
主権概念の提唱…「国家の絶対的にして永続的な権力である」
国家主権は何者の拘束も受けない
主権者は国王
主権とは…①慣習法を無視できる⇒ 立法権
②自由に税金をかける⇒ 課税権
③戦いに参加させる ⇒ 徴兵権
↓
名実ともにリヴァイアサンの誕生
13
近代国家の原型
ここまでのまとめ
①近代国家は絶対主義国家からスタートした。だから近代国家は
とてつもなく恐ろしい。
②近代国家は主権(sovereignty)を持ち、その主権は絶対である。
③中世の王権(prerogative)は非常に限定的なものだったが、漸次強大になり、
絶対王権(absolute prerogative)、主権へと成長した。
④中世の「自由」とは特権(privilege)のことで、その内容は身分により異なる。
特権が人権(human right)になるには長い時間が必要であった。
(3)十字架と聖書が怪獣退治?
絶対王権から民主主義へ きっかけは宗教改革
叙任権闘争(教会聖職者の任免権)
○カノッサの屈辱(1077 年 ローマ教皇対神聖ローマ皇帝の抗争)
○アヴィニョン捕囚(1309 年~1377 年 教皇の島流し?)
教会権力の堕落へ
(4)腐敗しっぱなしのローマ教会
14 世紀 免罪符(贖宥状)の販売「善行を積まなくともお金さえ積めば救われる」
売官(聖職者の地位をお金で売ること)が日常茶飯事
法王が自分の隠し子を甥と称して教会の要職に就けさせる
⇒「ネポティズム(情実主義)」
↓
教会の堕落に批判の声
マルティン・ルター「95 ヶ条の提題(テーゼ)
」(1517 年)
免罪符の根拠に疑問を突きつける
「聖書に書かれていないことは認めることができない」
1521 年、法王により破門
ドイツ・ザクセン選帝侯フリードリヒ 3 世の下で布教
↓
「プロテスタント」(新教徒)の誕生
(5)世界史を変えた天才
ジャン・カルヴァン(1509 年~)
聖書の徹底的な研究から一つの結論 ⇒ 予定説
↑
キリスト教の奥義
信じれば、人は丸ごと生まれ変わったかのようになる
14
○内面的な効果…世間のどんなものも怖くなくなる
○外面的な効果…大変な働き者になり、お金もどんどん稼げる
(6)聖書すら読ませなかったローマ教会
ローマ教会の腐敗と堕落
当時の聖書はラテン語・ギリシャ語
信者には聖書すら読ませない→何を拠り所に信仰していたか
サクラメント(秘蹟)=儀式
生まれてすぐの洗礼~死ぬときの終油の儀式
全部で 7 つの儀式を受ければ天国へ行けると教える
→but 聖書には記載なし
根拠:聖ペテロ以下多くの法王・聖人が大変な善行を積み
「救済財」があるので、教会が秘蹟を行えば信者は
救済財の一部を分け与えられ、聖書を読まなくても
救われる
→免罪符販売まで
(7)宗教改革とは、原点回帰
カルヴァンも秘蹟には反対
しかし、聖書に書いていないからではない
予定説では、人間は何をやっても救われない
↑
イエスの本来の教えに帰る=原点復帰運動
(8)近代科学と仏教の共通点
近代科学の目的…因果関係の発見
りんごは落ちるのに、なぜ月は落ちないのか?
その原因を探り、万有引力を発見
仏教の論理…「縁起」(縁りて起こる)=因果律
原因と結果の法則
因果関係(=法)の発見が釈迦の「悟り」…法前仏後
人間はなぜ苦しむのか?
その原因・四苦八苦 それを取り除けば悟りの境地
※根本的な苦が「生・老・病・死」の四苦
○愛別離苦(あいべつりく)…愛する者と別離すること
○怨憎会苦(おんぞうえく)…怨み憎んでいる者に会うこと
○求不得苦(ぐふとくく)…求める物が得られないこと
○五蘊盛苦(ごうんじょうく)…五蘊(人間の肉体と精神)が
思うがままにならないこと
の四苦を合わせて八苦と呼ぶ
15
↓
<諸行無常・諸法無我・一切皆苦・涅槃寂静の四法印へ=悟り>
(9)神はすべてを超越する
仏教…法前仏後
キリスト教…神前法後 神が法を作った
旧約聖書によれば、神こそがこの宇宙を作り、そして宇宙の法則を作った
⇒物理現象でさえ神が作れるのだから、神に不可能無し
神は全知全能にして絶対である
↓
あらゆるものから自由な存在 ⇔ 釈迦といえども法を変えることはできない
=何をしても救われない ⇔
=修行をすれば救われる
※神は人間の行いで決断を変えるのか?
ある人が毎日良い行いをし、1 つも悪いことをしなくなったら
神は救ってやろうと思うだろうか?
→それは人間の行いに左右されることになる
人間の行いに神様が影響を受けたことになる
それでは 絶対神 ではない
↑
何をしても神の決断は動かされない
そう考えるのがキリスト教
(10)人間は二度死ぬ
第 1 のポイント…「神はあらゆることから超越している」
第 2 のポイント…「一人の例外もなく、人間は堕落した存在である」
→アダムとイブの楽園追放
神の命令に背いて禁断の木の実を食べ、追放
罰として「死」を与えられることに
連帯責任として、以後の全ての人間にも
= 原罪
※キリスト教において、死んだ人間はどうなるのか?
【正解】どうにもならない
肉体の死は仮の死…「天国・地獄」は聖書にはない
本当の死は、
「最後の審判」のとき
世界の終わりに神が現れ、死んだ人にも肉体が一旦は与えられ
生前の姿に戻る
→そこで永遠の死が与えられる(天国も地獄もない)
(本当の死)
(11)ルールを変えられるのは神様だけ
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しかし、全ての人間に永遠の死が与えられるわけではない
「最後の審判」で、神は一部の人々に「永遠の生」を与える = 救済
神に救われた人々は、神の国で永遠に生きることができる
「原罪」は神の決定 → 人間の努力で覆せない
ではなぜ救われる人がいるのか?
人間が努力したからではなく
神が「救ってやろう」と思ったからである
※神が与えた「原罪」を免除できるのは神しかいない
↓
予定説へ
(12)善人が救われない理由
[設問]最後の審判において、神が救済するのはどんな人か?
※「善人を救う」と分かっていたら、誰もが善人になろうとする
cf. オモチャの欲しい子供が良い子を演じる
それは、神様を操ることになる
神は全知ゆえ、お見通しである
神が人間と同じ尺度で判断するかどうかも分からない
仮に選ぶとしてもその条件は想像できないものではないか
↓
[回答]どんな人間が救われるかは誰にも分からない
=神の判断は人間の想像を超える
(13)人間の努力も意志も意味がない
カルヴァンの予定説とは…「誰が救われるか救われないかは、その人が生まれる
ずっと前から決まっていることである。
」
↓
救済は前もって定まっている = 予定説
どんな条件を満たせば救われるか→誰にも分からない?
どのような人生を送ったかを最後の審判の段階で判断するのか?
神の力は万能で無限→どの人生を送るかはお見通し←既に決めている
※全ては神のスケジュールで動く
神の予定したとおりに動き、1 つの例外もない
最後の審判でも例外・偶然はあり得ない
(14)預言者は神のラウド・スピーカー
ジョン・ミルトン(文豪 1608~74『失楽園』という叙事詩の作者)の批判
…「たとえ地獄に堕されようとも、私はこのような神をどうしても尊敬する
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ことはできない」
↑
しかし聖書には、神は全てを予定しているという教義が
あちこちに現れている
※マタイ福音書第 1 章 18 節(新約聖書)
「…すべてこれらのことが起ったのは、主が預言者によって
言われたことの成就するためである。…」
預言者とは…神の言葉を預かる人
神が人間に対してメッセージを伝えたいときに預言者を任命
=神のラウド・スピーカー
※預言者は志願してなるのではなく、ある日突然神から命じられる
その基準は誰にも分からない
(15)神はこうやって現れる
→預言者エレミア(旧約聖書・エレミヤ書第 1 章 5 節)
あるところにエレミアという少年がいた
「…わたしはあなたをまだ母の胎につくらないさきに、あなたを知り、
あなたがまだ生れないさきに、あなたを聖別し、あなたを立てて万国の
預言者とした。
」
=エレミヤ少年が生まれる前から
預言者として決めていた
『1:6 その時わたしは言った、
「ああ、主なる神よ、わたしはただ若者に
すぎず、どのように語ってよいか知りません」1:7 しかし主はわたしに
言われた、
「あなたはただ若者にすぎないと言ってはならない。だれに
でも、すべてわたしがつかわす人へ行き、あなたに命じることをみな語
らなければならない。
』
↓
神の言葉を伝えるだけだから能力はいらない
(16)預言者ほどつらい仕事はない
エレミアのその後…エルサレムへ行く
『
「1:16 わたしは、彼らがわたしを捨てて、すべての悪事を行ったゆえに、
わたしのさばきを彼らに告げる。彼らは他の神々に香をたき、自分の手で
作った物を拝したのである。…1:18 見よ、わたしはきょう、この全国と、
ユダの王と、そのつかさと、その祭司と、その地の民の前に、あなたを堅き
城、鉄の柱、青銅の城壁とする。 1:19 彼らはあなたと戦うが、あなたに勝
つことはできない。わたしがあなたと共にいて、あなたを救うからである」
と主は言われる。
』
エルサレムの人々への警告
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→当然、人々の反感を買う
それでも預言者は触れて回らなければならない
それはエレミアの意志ではなく、神の決定
↓
人間は神の決めたとおりに生きろというのが
キリスト教の神の厳しさ
(17)予定説の恐るべきパワー
カルヴァンの予定説は、またたく間にヨーロッパ中に普及
新教徒 …
フランスのユグノー
英・米のプロテスタント
予定説を信じると、おそろしく信仰熱心に
四六時中、神のことが頭から離れなくなる
(18)救われる人は、どんな人?
どのような人が救われるかは分からないが、
「結果として」救われる人がいる
その推測は可能か?
神が救済を予定している人がいると仮定
彼らの共通点は?
神様から救われるほどの人はキリスト教を信仰しているはず
↑
神の国に神と入る人間が、神を信じていないはずはない
キリスト教を信じ、神の万能を信じ、予定説を信じているはず
間違っても、仏教徒やイスラム教徒ではなく熱心な信者
↑
(神がそう予定しているはず= 予定説の信者 )
(19)なぜ予定説を信じると熱心な信者になるのか
予定説を信じるのは「必要条件」
しかし「十分条件」ではない
↓
予定説を信じているのなら、救われる可能性は0ではない
少なくともカトリックより可能性大
予定説に出会ってそれを信じたのは「神の予定?」
=自分は選ばれた人間なのかも知れない
→ますます信仰熱心に
→それも神の予定?
→ますます…以下同文
※予定説を信じれば、すべてのことが「神の定め」と思えてくる
そして、
「信仰の無限サイクル」がヨーロッパを変えた
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(20)「新人類」が近代を作った
なぜ予定説を信じると信仰心はどんどん篤くなるのか
神を信じれば信じるほど、それを神の「予定」と思えてくる
→自分は幸せ
→もしかすると救われるのか?
→信仰するとますます「予定か?」
しかし、どれほど信じても救われるかどうかは
本当のところ、分からない
⇒信仰に終着点はない(信仰の無限連鎖)
新人類の出現=24 時間信仰を考える人々
⇔救われると分かっていたら、努力しても無駄
分からないからこそ、熱心に信仰する
この新人類=プロテスタントの登場が近代への変革を生む
カルヴァンの予定説により
○絶対王権の転覆
○民主主義・資本主義の誕生へ
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