名越健郎教授 『市政』発行:全国市長会

世界の動き
トルコクーデタ ー事件の地政学
軍の影響力が強いトルコでは、 1960年代以降軍事ク lデ
名越健郎
トルコで7月 日 日 に 発 生 し た 軍 事 ク ー デ タ ー は 半 日 後 に 鎮 圧
ターが4回 発 生 し て い る 。 中 進 国 で は タ イ と 並 ん で 軍 部 の 政 治
拓殖大学海外事情研究所教授
さ れ た が 、 こ の 事 件 は ト ル コ 内 政 の 不 安 定 ぶ り を 示 し た 。欧 州
関与が強いが、経済成長や国民の成熟で、さすがにクーデター
クーデター発生当時、 エ ル ド ア ン 大 統 領 は 家 族 と 南 西 部 の 保
と 中 東 の 中 間 地 帯 に あ り 、 北 大 西 洋 条 約 機 構(NATO)加 盟 国
難民問題の最前線に位置する戦略的要衝であり、地域情勢を悪
養地のホテルに滞在しており、大統領が情報に接してホテルを
は時代錯誤になりつつあることを示した。
化させかねない 。 日本とトルコは安倍政権下で同盟国並みに関
逃れた直後に軍部隊がホテルを襲撃した。間一髪で難を逃れた
で あ る ト ル コ は 、 過 激 派 組 織 、 イ ス ラ ム 国(IS)の婦討作戦や
係を強化しており、 トルコ内政の動揺は要注意だ。
大統領は直ちにテレビに登場し、反乱軍への抵抗を呼び掛け、
など不透明な部分が多いが、 エルドアン大統領のイスラム化政
クーデタ ー事件は、 ト ル コ 軍 首 脳 が ど の 程 度 関 与 し て い た か
軍に乗り出した。拘束者や解職者は、瞥察官、教師、公務員な
令 。 反 乱 に 関 与 し た と さ れ る 約6000人 の 軍 人 を 逮 捕 し 、 粛
同 大 統 領 は 反 乱 鎮 圧 後 、 全 土 に3 カ 月 間 の 非 常 事 態 令 を 発
流れが変わった。
策 や 独 裁 的 手 法 に 反 発 し た よ う だ 。トル コ 軍 は 伝 統 的 に 世 俗 主
ども合め、 6万 人 に 及 ん だ と さ れ る 。
民衆が反乱に抵抗
義で、政教分離を重視しており、軍内部に同大統領への不満が
指導者で米国亡命中の聖職者、ギュレン師だと批判し、米政府
大統領はまた、 ク ー デ タ ー の 黒 幕 は イ ス ラ ム 教 世 俗 主 義 派 の
しかし、反乱派は国民の支持を得られなかった。同日夜、反
に身柄引き渡しを-要求した。 しかし、 米 国 が 引 き 渡 し に 応 じ る
高まっていた。
乱派が放送局などを占拠して決起を発表すると、多くの国民が
とは思えず、 両国関係に摩擦が生じかねない。
観光産業を直撃
街頭に繰り出し、兵士らに立ち向かった。その結果、市民を含
め2 9 0人の死者が 出 た。野党も軍部を非難し、同調しなかっ
た。野党や若者は、エルドアン大統領への反発を強めていたが、
な 粛 清 へ の 不 満 が く す ぶ り 続 け る 。 エルドアン大統領はますま
早く擁護した。首相官邸はトルコの反乱に気が気でなかったよ
秩序を回復すべきだ﹂との談話を出し、 エルドアン政権をいち
ト ル コ 情 勢 は 今 後 、 不 安 定 化 を 強 め そ う だ。 軍部 に は 大 規 模
す強権支配を強め、国民の反発を招きかねない。対外関係は縮
うで、情報連絡室を設置したり、外務省に細かく指示を出して
軍 事 ク ー デ タ ー よ り ま し と 判 断 し た 模 様 だ。
小を余儀なくされ、 IS掃 討 作 戦 や シ リ ア 情 勢 、 難 民 問 題 で 前
いたという。
円本企業は親日国のトルコを重視し、自動車メーカーの生産
線 国 家 と し て の 機 能 が 低 下 し よ う。
何よりもトルコ経済への打撃が大きい。 トルコは観光大国で、
日本にとって、 トルコは橋や 地 下 鉄 な ど イ ン フ ラ 輸 出 の ド ル
拠 点 と な っ て い る 。 進 出 日 本 企 業 は100社以上で、 トルコを
型テロが続発しており、政情不安が観光産業を直撃するだろう。
箱でもある。 2013年 に イ ス タ ン プ l ルの地下鉄が日本の援
外 国 人 観 光 客 は 毎 年4000万人。 昨 年2000万 人 と 過 去 最
2003年 か ら 政 権 を 掌 握 し て い る エ ル ド ア ン 大 統 領 は 、 外
助で完成した際、安倍首相は﹁日本とトルコはアジアを東西か
中東市場や中央アジア進出の開拓拠点と位置付けている。
国投資を呼び込んで高い成長率を遂げ、長期政権を実現した
ら支える2 つ の 翼 だ ﹂ と 表 現 し た 。 日 本 側 は 原 発 輸出 や戦車部
高だった日本もはるかに及ばない。しかし、最近はIS関連の大
が、政情不安で外国投資は低下し、成長率も停滞しつつある。
と述べ、 エルドアン大統領を擁護した。トルコはシリアとイラ
出し、﹁米国は民主的に選ばれたトルコ政府を完全に支持する﹂
も、安倍首相とエルドアン大統領の個人的親交が基礎になって
大国のトルコを製造業てこ入れの最重要市場とみている。それ
2国 間 の 経 済 連 携 協 定 (EPA)も 交 渉 中 で 、 安 倍 政 権 は 地 域
品の輸出も計画している。
クにまたがるISと の 戦 い で 、 米 軍 に 基 地 を 提 供 す る 。I S掃
おり、 エ ル ド ア ン 政 権 が 崩 壊 し て い れ ば 、 安 倍 外 交 に 重 大 な 支
クーデター事件に対して、 ケリ l米 国 務 長 官 は 直 ち に 戸 明 を
討やシリアの内戦終結、難民問題の対処には、シリアと国境を
障が生じるところだった。
はIS の 石 油 密 輸 ル ー トになっており、 I S情 報 を 得 ら れ る
行っており、 I Sの 情 報 を ト ル コ か ら 入 手 し 始 め た 。 トルコ
外交筋によれば、 日 本 と ト ル コ は 密 か に 機 密 情 報 協 力 も
接するトルコの積極的な関与が欠かせない。米国は強権支配に
走るエルドアン政権に懸念を強めながらも、同政権に頼らざる
を得ないジレンマがある。
ロシア政府も﹁トルコの政治状況悪化は地域の安定に不安定を
IS関連の大型テロはこのところ、 ダッヵ、仏ニ l ス、米フ
立場にある 。
トルコ機によるロシア爆撃機撃墜事件で険悪化したが、トルコが
ロリダ州、独ミュンヘンと毎週のように世界各地で頻発する。
もたらす﹂とし、反乱を非難した。ロシアとトルコは昨年 日月
、
不安定化すれば、 ISな ど イ ス ラ ム 原 理 主 義 組 織 が 勢 力 を 浸 透
ISは駄米と組む日本も標的にすると警告しており、 2020
(8月1日)
要 に な る 。 ト ルコは 日本外交にとっても戦略的要衝なのだ。
年東京五輪を控え、 エ ル ド ア ン 政 権 と の 情 報 協 力 が ま す ま す 重
させ、 ロシアのイスラム教徒に波及するとの懸念があるようだ。
日本外交も左右
ク ー デ タ ー 事 件 で は 、 安 倍 晋 三 首 相 も ﹁ 民 主 体制 を尊重し、
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SEPTEMBER2016市政