ブラジル調査の実施について 経済産業省製造産業局 素形材産業室 北 村 貴 直 経済産業省素形材産業室では素形材企業の海外進出への足がかりとして、海外ミッション・ 現地調査を実施しており、今年度はベトナム、フィリピン、インドの海外ミッションとブ ラジル、メキシコ、ロシアの現地調査を実施する。 ブラジルの現地調査について、10 月 27 日から 11 月 3 日の 8 日間でサンパウロ州、ミナス ジェライス州の政府機関や各種支援機関、自動車産業を中心に日系企業や現地企業等を訪 問し、現地調査を行った。 1.ブラジルの概要 素形材企業において最も関係の深い自動車産業につ ブラジルの面積は約 851 万平方キロメートルで、日 いて、自動車の生産台数は堅調に推移しており、2012 年の生産台数は 334 万台となっており、今後堅調に推 本の 22.5 倍の面積に相当する。 移していくと予想されている。フォード、フィアット、 ブラジルの首都はブラジリアであるが、サンパウロ VW がビッグ 3 として高いシェアを維持しているが、 がブラジル最大の都市であり、工業についてもサンパ 日系企業も徐々にシェアを伸ばしている。販売価格の ウロを中心として発展している。 約4割が税金となっており、車種はリッタークラスの 人口は約 2 億人で、世界第 5 位の規模となっている。 小型車がほとんどで、一般的には高級車の生産・需要 人口増加は 2042 年まで続き、2 億 2,840 万人でピーク 共に少ない。 に達した後、ゆっくりと減少する見込みである。 実質 GDP 成長率は 2012 年は 1.5%となっており、 2009 年のリーマンショックにより大きく減少したが、 2.ブラジルにおける投資環境について それ以降は堅調に推移している。 ブラジルにおける投資環境については、複雑な税制、 また、2014 年のブラジルワールドカップ、2016 年 労働・雇用面での過剰な保護措置、治安の改善といっ にはリオデジャネイロで夏季五輪の開催が決定してお た問題がブラジルコストとして存在する。 り、これらも今後のブラジルの成長にとって大きなプ ラスになると予測される。 ① 自動車にかかる税金について 自動車を販売するにあたり、非常に複雑かつ高額な 税金がかかる。INOVA-AUTO 政策によって部品の 現地調達比率を高めなければ税優遇が受けられないた め、価格競争で非常に不利となる。 < INOVA-AUTO 政策について> 2011 年に国内産業強化を目的として発表。ブラジ ル国内自動車メーカーに対して 工業製品税(IPI)の 減税措置を 30%引き上げる措置。自動車生産におい ては部品の現地調達率を引き上げなければ減税措置が 受けられない。 ミナスジェライス州 Vol.55(2014)No.1 SOKEIZAI 47 政策TREND ② 人件費の上昇について カーについては生産数が堅調に伸びているため、誘致 労務費については憲法上でインフレ率に連動して をしたいとのこと。 上昇することとなっており、毎年 10%程度上昇する。 離職率は高いものの、労務費の高騰が企業を非常に苦 しめている。 ③ 原材料・輸送コスト ブラジルにおける鉄、アルミ等の原材料コストにつ いては日本とほぼ同等か高い模様。電気代については 水力発電が主であり日本よりは安いものの、労務費の 高騰と相まって他国への輸出するには非常に厳しい環 境である。また鉄道網も発達しておらず、輸送費の高 いトラック輸送に頼らざるを得ない。 ② 全国工業職業訓練機関(SENAI: Serviço Nacional de Aprendizagem Industrial)Euvaldo Lodi 職業訓 練センター 16 歳以上を対象とした工業技術に関する職業訓練 校。ブラジルの工業系の企業は義務として SENAI に 出資することとなっている。金属加工や金型、プラス チック成型等の技術だけでなく、経営や労務管理、IT 等を教えている。また、企業からの受託で検査や製品 改良のコンサルティング的なことも行っている。 ④ 治安について ブラジルの治安については所得格差による貧困、麻 薬等を起因として、強盗、殺人等の凶悪犯罪が多発し ている。世界的に見てもブラジルの犯罪発生率は非常 に高く、邦人の被害も多発している。 3.調査概要 ブラジルの政府機関や各種支援機関、自動車を中心 とする日系企業や現地企業に訪問し、現地調査を行っ た。訪問先の概要と調査した内容をいくつか紹介する。 ① ミナスジェライス州産業連盟 (FIEMG:Federação das Indústrias do Estado de Minas Gerais) ミナスジェライス州における企業のビジネスマッチ ングや人材育成を担当。ミナスジェライス州の工業 における状況や、国外企業の誘致活動について説明を 受けた。特に国外企業の誘致については積極的で、州 全国工業職業訓練機関(SENAI) 税の優遇やビジネスマッチング、ワンストップの相談 サービス等を展開している。特に自動車部品のメー ③ Teksid(鋳造部品メーカー) 自動車用エンジンブロックやアルミダイカスト部品 ミナスジェライス州産業連盟(FIEMG) Teksid 48 SOKEIZAI Vol.55(2014)No.1 政策TREND を製造。フィアットを中心にエンジンブロック等の部 ⑥ Honda Automoveis do Brasil スマレ工場 品を供給。今後の生産動向や設備投資状況等について 【日系企業】 説明を受けた。鉄やアルミ等の原材料はすべてブラジ 自動車組立を実施。ブラジルでのシェアは 2012 年 ル国内から調達している。 で 8 位となっている。今後の生産動向や世界規模での 戦略について説明を受けた。部品調達や原材料調達に ④ ブラジル日本商工会議所【支援団体】 ついてディスカッションを行った。2015 年に第二工 ブラジルにおける日系企業進出を支援。各種情報提 場の建設を予定している。また風力発電に着工するな 供や会議室の貸与。会員企業は 214 社。ブラジルコス ど環境にも考慮した事業を展開している。 トにより進出の障壁は高いが、人口増や自動車生産の 堅調な推移により市場の魅力はある。ドイツの企業は 約 1,600 社進出しており、これに負けないよう日系企 業の進出を増やして行きたい。 Honda Automoveis do Brasil 4.所感 ブラジル日本商工会議所 ブラジルについては今後人口や自動車生産数が堅調 に伸びて行くことから非常に魅力的な市場である。 ⑤ TOYOTA DO BRASIL LTDA.: TDB サンベル ナルド・ド・カンポ:SBC 工場【日系企業】 自動車産業はブラジルにおける最も重要な産業であ り、INOVA-AUTO 政策等によりブラジル国内での 自動車組立、プレス加工、鍛造部品の製造。クラン 生産をしなければ税金等の問題から勝負にならない。 クシャフト、コンロッド等の鍛造部品を製造している。 欧米のメーカーも次々の進出しており、どのメーカー トヨタにおけるブラジルの販売数は堅調に推移してお も今後は生産能力を増やして行く模様。自動車メー り、今後の生産動向について説明を受けた。INOVA- カーからの部品需要は非常に高く、高品質な部品をブ AUTO 政策への対応や部品、原材料の調達等につい ラジル国内で生産できる企業を探している。また政府 てディスカッションを行った。 の海外企業の誘致への後押しも盛んに行っている。 一方、物理的な距離の問題やブラジルコストといっ た進出への大きな障壁は大きく残っている。労務費の 高騰についてはどの企業も悩まされており、今後は製 造ラインの自動化といった労務費を下げる取組みを実 施しなければならない。また原材料についても日本と 同等か高いと言っている企業が多く、品質についても 日本並みのものは期待できない。 また、事務所を設立するだけでも相当なコストがか かるなど、障壁は高い。 今後はブラジル政府の政策や動向だけでなく、たと TOYOTA DO BRASIL LTDA.(TDB) えばメキシコ等の周辺国との関係を的確に把握してい く必要があると感じた。 Vol.55(2014)No.1 SOKEIZAI 49
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