海の物流システム革新事例-商船の変遷史 ばら積み船-(2013年3月

海の物流システム革新事例-商船の変遷史
ばら積み船
掲 載 誌 ・ 掲 載 年 月 : 日 本 海 事 新 聞 1303
日本海事センター企画研究部
次長 臼井 潔人
ばら積み船大型化の歴史
鉄 鉱 石 や 石 炭 な ど の 資 源 輸 送 は 、当 初 在 来 貨 物 船 の 復 航 ス ペ ー ス を 利 用 し
て 行 わ れ て い た 。し か し 、海 上 輸 送 量 の 増 加 に よ り 在 来 貨 物 船 に よ る 輸 送 で
は 効 率 が 悪 く な っ た た め 、ば ら 積 み 船 に よ る 輸 送 が 開 始 さ れ た 。ば ら 積 み 船
は 、船 倉 構 造 の 形 状 に よ り 2 種 類 に 分 類 で き る 。鉱 石 に 特 化 し た 鉱 石 専 用 船
と 鉱 石 、石 炭 、穀 物 な ど 幅 広 い ば ら 積 み 貨 物 に 対 応 で き る バ ル ク キ ャ リ ア ー
( ま た は バ ル カ ー )で あ る 。日 本 で は 第 二 次 世 界 大 戦 後 の 経 済 復 興 に 伴 う 粗
鋼 生 産 の 増 加 に よ り 、 鉱 石 専 用 船 に よ る 輸 送 が 昭 和 30 年 代 に 入 る と 始 ま っ
た が 、 昭 和 28 (1953)年 に は 、 計 画 造 船 に よ り 準 鉱 石 専 用 船 と い え る 「 日 隆
丸」
( 15,368 重 量 ト ン 。以 下 ト ン と 表 示 )が 日 産 汽 船 向 け に 建 造 さ れ て い る 。
計 画 造 船 は 、 昭 和 22( 1947) 年 に 設 立 さ れ た 復 興 金 融 公 庫 が 、 石 炭 、 鉄
鋼 、電 力 等 と 並 ん で 海 上 輸 送 力 の 増 強 に 財 政 資 金 を 融 資 す る こ と に よ っ て 開
始 さ れ た 。 昭 和 28( 1953) 年 以 降 は 、 新 た に 設 立 さ れ た 日 本 開 発 銀 行 に よ
り 計 画 造 船 が 進 め ら れ た 。計 画 造 船 は 平 成 7( 1995)年 ま で 行 わ れ 、第 二 次
世界大戦により壊滅的な被害を受けた日本海運の戦後復興と発展に決定的
な 役 割 を 果 た し た と い え る 。そ の 方 式 は 、政 府 が そ の 年 の 外 航 船 の 必 要 建 造
量 を 決 定 し 、そ の 船 舶 の 建 造 を 希 望 す る 船 主 の 中 か ら 選 考 し た 会 社 に 対 し て 、
船価の一部について低利の財政資金を融資して船舶建造を促進するもので
あ っ た 。 1970 年 頃 か ら 外 国 籍 船 の 傭 船 が 増 加 し 、 日 本 籍 船 の シ ェ ア は 相 対
的 に 低 下 し て い く が 、日 本 の 輸 出 入 の 増 加 に 対 応 し た 日 本 商 船 隊 と 日 本 籍 船
の 拡 充 は 、国 家 プ ロ ジ ェ ク ト と し て 取 り 組 ん だ 計 画 造 船 に よ り 実 現 し た も の
といえる。
(1)鉱 石 専 用 船 と 鉄 鉱 石 輸 送
計 画 造 船 に よ る ば ら 積 み 船 の 建 造 は 昭 和 26( 1951) 年 か ら 開 始 さ れ 、 当
セ ン タ ー の 集 計 で は 、 平 成 7( 1995) 年 ま で に 、 隻 数 で 345 隻 、 重 量 ト ン
で 2,377 万 ト ン の ば ら 積 み 船( 油 兼 用 船 と 自 動 車 兼 用 船 を 除 く )が 建 造 さ れ
た 。 昭 和 36( 1961) 年 に は 、 日 本 郵 船 向 け の 「 興 津 丸 」( 50,752 ト ン ) と
昭 和 海 運 向 け の「 日 鵬 丸 」
( 50,503 ト ン )と い う 5 万 重 量 ト ン を 超 す 鉱 石 専
用 船 が 建 造 さ れ た 。 6 万 重 量 ト ン 以 上 の パ ナ マ ッ ク ス は 昭 和 40( 1965) 年
に 一 挙 に 4 隻 建 造 さ れ た 。 日 本 郵 船 の 「 大 磯 丸 」( 69,626 ト ン )、 新 和 海 運
の「 八 幡 丸 」
( 69,688 ト ン )、商 船 三 井 の「 富 士 山 丸 」
( 70,503 ト ン )と 第 一
中 央 汽 船 の 「 お う す と ら り あ 丸 」 で あ る 。 重 量 ト ン が 10 万 ト ン 以 上 の ケ ー
プ サ イ ズ は 、昭 和 42( 1967)年 に 日 本 郵 船 の「 富 隆 丸 」( 102,805 ト ン )が
第 一 船 と し て 竣 工 し て い る 。現 在 で も 鉄 鋼 原 料 の 輸 送 に 最 も 多 く 投 入 さ れ て
1
い る 船 型 は 16 万 ト ン 以 上 の 大 型 ケ ー プ サ イ ズ で あ る が 、 計 画 造 船 で は 、 昭
和 45( 1970)年 に 新 和 海 運 の「 新 竜 丸 」
( 165,022 ト ン )と 山 下 新 日 本 汽 船 ・
日 正 海 運 の 「 新 鶴 丸 」( 165,196 ト ン ) が 初 め て 建 造 さ れ て い る 。 計 画 造 船
に よ る ケ ー プ サ イ ズ の 建 造 量 は 合 計 で 94 隻 、 重 量 ト ン で は 1,394 万 ト ン と
ば ら 積 み 船 全 体 の 6 割 近 く を 占 め て い る 。ち な み に 、計 画 造 船 に よ り 建 造 さ
れ た 最 大 船 型 は 、 昭 和 56( 1981) 年 に 竣 工 し た 川 崎 汽 船 の 「 千 城 川 丸 」
( 224,666 ト ン ) で あ っ た 。
鉄 鉱 石 供 給 国 で は 、 昭 和 35( 1960) 年 12 月 に 豪 州 が 鉄 鉱 石 輸 出 を 解 禁
し 、 数 年 で 世 界 有 数 の 鉄 鉱 石 輸 出 国 に 成 長 し た 。 日 本 へ は 昭 和 41( 1966)
年 に 初 め て 輸 出 さ れ て い る 。ま た 、同 年 4 月 に は 、ブ ラ ジ ル で 大 型 専 用 船 を
受 け 入 れ 可 能 な ツ バ ロ ン 港 ( 最 大 船 型 15 万 重 量 ト ン ) が 開 港 し 、 豪 州 と ブ
ラジルにインドを加えた 3 ヵ国が主要な鉄鉱石供給国としての地位を確立
した。
豪 州 や ブ ラ ジ ル と い っ た 新 興 鉄 鉱 石 供 給 国 で は 、日 本 企 業 と の 長 期 契 約 を
前 提 に い く つ も の 巨 大 鉄 鉱 山 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト が 進 行 し た が 、開 発 に 要 す る
初 期 投 資 は 膨 大 で あ り 、開 発 を 進 め る た め に 、当 該 国 の 国 有 企 業 や 欧 米 の 多
国 籍 資 源 企 業( 資 源 メ ジ ャ ー )が 中 心 と な っ て 設 立 さ れ た 国 際 コ ン ソ ー シ ア
ム に 、 日 本 の 鉄 鋼 メ ー カ ー や 商 社 も 参 加 す る 必 要 が あ っ た 。 現 在 も LNG な
ど の エ ネ ル ギ ー 資 源 の 開 発 に も 継 承 さ れ て い る「 開 発 輸 入 」と 呼 ば れ る 方 式
で 、開 発 資 金 を 融 資 し て 産 出 し た 資 源 の 現 物 に よ っ て 債 務 を 相 殺 し て い く 手
法 や 、開 発 プ ロ ジ ェ ク ト に 資 本 参 加 し て 輸 入 す る 資 源 の 権 益 を 確 保 す る 方 式
がとられた。鉄鋼原料の開発輸入では、鉱山から港までの専用鉄道の建設、
積 み 地 と 揚 げ 地 に お け る 港 湾・貯 蔵・荷 役 設 備 な ど の 整 備 、そ し て 、鉄 鉱 石
や原料炭を安定的かつ効率的に輸送するための大型鉱石専用船の建造とい
っ た 巨 大 な 物 流 シ ス テ ム を 構 築 す る 必 要 が あ り 、鉄 鋼 原 料 調 達 に お け る 海 の
物流システムが革新されることとなった。
(2)バ ル ク キ ャ リ ア ー と 一 般 炭 輸 送
ば ら 積 み 船 に と っ て は 、鉄 鉱 石 に 次 ぐ 主 要 貨 物 で あ る 一 般 炭 (燃 料 炭 )で あ
る が 、一 般 炭 は 戦 後 日 本 で は 国 内 炭 鉱 保 護 の 立 場 か ら 原 則 輸 入 禁 止 で あ っ た 。
し か し 、 昭 和 48( 1973) 年 10 月 に 発 生 し た 第 一 次 オ イ ル シ ョ ッ ク に よ り
石 油 主 体 の エ ネ ル ギ ー 政 策 を 転 換 せ ざ る お え な く な り 、 同 年 12 月 に は 政 府
諮 問 機 関 で あ る 石 炭 鉱 業 審 議 会 が「 海 外 か ら の 一 般 炭 輸 入 の 検 討 」に 言 及 し 、
昭 和 50( 1975) 年 7 月 に 、 原 則 と し て 国 内 炭 を 優 先 す る も の の 、 新 設 さ れ
る石炭火力発電所用に海外から一般炭を大量輸入する方針が正式に打ち出
さ れ 、 13 年 ぶ り に 一 般 炭 輸 入 が 解 禁 さ れ た 。 電 力 業 界 に お い て は 、 電 源 開
発 ( J-POWER) が 昭 和 49( 1974) 年 に 海 外 炭 専 焼 の 松 島 火 力 発 電 所 ( 長
崎 県 西 海 市 。50 万 KW2 基 )の 建 設 を 決 断 し 、同 火 力 発 電 所 は 昭 和 56( 1981)
年 1 月から稼働している。一方、現在世界最大の石炭輸出国である豪州は 、
当 時 資 源 ナ シ ョ ナ リ ズ ム の 観 点 か ら 、一 般 炭 や 石 油 、天 然 ガ ス 等 を 輸 出 禁 止
と し て い た が 、昭 和 49( 1974)年 の 日 豪 首 脳 会 談 で 、田 中 角 栄 首 相( 当 時 )
が 石 炭 輸 出 に 関 す る 問 題 を 取 り 上 げ 、そ の 後 の 両 国 協 議 の 結 果 、豪 州 は 石 炭
2
を は じ め と す る エ ネ ル ギ ー 資 源 の 輸 出 を 解 禁 し 、エ ネ ル ギ ー 資 源 産 業 が 豪 州
の基幹産業へと成長するきっかけとなった。
一 般 炭 の 輸 入 解 禁 に 伴 い 、国 内 で は 最 初 に セ メ ン ト 、製 紙 、化 学 の 各 産 業
が 従 来 の 石 油 燃 料 を 石 炭 に 切 り 替 え る 処 置 を と り 、 昭 和 53( 1978) 年 10
月 に 発 生 し た 第 二 次 オ イ ル シ ョ ッ ク に よ る 原 油 高 騰 を 受 け 、昭 和 55( 1980)
年頃から主要電力会社も一般炭輸入を本格化させた。
結 果 と し て 、 昭 和 49( 1974) 年 度 に 37 万 ト ン し か な か っ た 一 般 炭 輸 入 量
は 、平 成 23( 2011)年 度 に は 1 億 177 万 ト ン ま で 拡 大 し 、そ の う ち 60%が
豪州からの輸入となっている。
オ イ ル シ ョ ッ ク 以 降 超 省 エ ネ 船 型 大 型 鉱 石・石 炭 運 搬 船 の 開 発 が 進 め ら れ 、
昭 和 57( 1982) 年 に は 香 港 船 主 向 け 「 Hitachi Venture」( 267,889 ト ン )
や 新 和 海 運 の「 新 豊 丸 」
( 208,952 ト ン )等 が 竣 工 し た が 、1990 年 代 以 降 は 、
南 ア フ リ カ の 石 炭 積 み 出 し 港 で あ る リ チ ャ ー ズ・ベ イ に 入 港 で き る 最 大 サ イ
ズ で あ る 15 万 ~ 17 万 ト ン の ケ ー プ サ イ ズ の 建 造 が 主 流 と な っ た 。リ チ ャ ー
ズ ・ ベ イ 港 の 入 港 制 限 は 、 全 長 314.0m、 最 大 幅 47.25m、 最 大 喫 水 18.1m
で あ り 、さ ら に 、フ ラ ン ス の ダ ン ケ ル ク 港 の 荷 役 設 備 に 合 致 す る ダ ン ケ ル ク
マ ッ ク ス と 呼 ば れ る 最 大 幅 が 45m 以 下 の ケ ー プ サ イ ズ も 多 数 建 造 さ れ た 。
パ ナ マ ッ ク ス で も 大 型 化 が 進 展 し て い る 。パ ナ マ ッ ク ス で は 石 炭 な ど 鉄 鉱
石より軽い貨物を輸送し、寄港地の水深が浅いことが多いため、
本 船 の 重 量 ト ン に は 9 万 ~ 10 万 ト ン と い う 制 限 が つ く が 、 船 幅 を パ ナ マ 運
河 の 通 航 制 限 で あ る 32.26m よ り 広 く す る こ と に よ り 、大 量 の 貨 物 を 積 載 し 、
効 率 よ く 荷 役 で き る よ う に 工 夫 さ れ て い る 。幅 広 パ ナ マ ッ ク ス と も 呼 ば れ て
い る 。建 造 例 と し て は 、日 本 郵 船 が 東 北 電 力 と の 専 用 船 契 約 で 建 造 し 、能 代
火 力 発 電 所 向 け を 中 心 に 配 船 し て い る 「 能 代 丸 」( 平 成 15( 2003) 年 建 造 )
は 、 91,439 重 量 ト ン で 全 長 235m、 船 幅 は 43m、 満 船 喫 水 12.9m で あ る 。
平 成 25( 2013) 年 3 月 時 点 で 、 パ ナ マ ッ ク ス は 世 界 で 約 2,400 隻 就 航 し て
い る が 、 そ の う ち 幅 広 パ ナ マ ッ ク ス が 430 隻 を 占 め て い る 。
( 3) ベ リ ー ・ ラ ー ジ ・ オ ア ・ キ ャ リ ア ー ( VLOC)
20 万 重 量 ト ン を 超 え る ベ リ ー ・ ラ ー ジ ・ オ ア ・ キ ャ リ ア ー ( VLOC) と
呼 ば れ る 巨 大 船 が 数 多 く 建 造 さ れ て い る 。 2000 年 以 前 に 建 造 さ れ 現 存 す る
VLOC は 29 隻 あ り 、 そ の な か の 最 大 船 型 で あ る 「 Berge Stahl」( 昭 和 61
( 1986) 年 建 造 ) は 主 と し て ブ ラ ジ ル か ら 欧 州 向 け 鉄 鉱 石 輸 送 に 投 入 さ れ
て い る 。そ の 他 の 運 航 船 社 を み て も 欧 州 と 韓 国 船 社 が 大 多 数 を 占 め 、日 本 船
社 は 僅 か で あ る 。 こ れ は 日 本 で は VLOC を 受 け 入 れ 可 能 な 港 湾 が 大 分 港 (新
日 鐵 )に 限 ら れ て い た た め と 考 え ら れ る 。し か し 、 2000 年 代 に 入 る と 、中 国
の 鉄 鉱 石 輸 入 が 激 増 し 、平 成 11( 1999)年 に 5 千 万 ト ン だ っ た 輸 入 量 は 年 々
増 加 し 、 平 成 15( 2003) 年 に は 1 億 4 千 8 百 万 ト ン と 日 本 を 抜 き 世 界 一 の
鉄 鉱 石 輸 入 国 に な っ た 。 そ の 後 も 中 国 の 鉄 鉱 石 輸 入 は 伸 び 続 け 、 平 成 24
( 2012) 年 の 年 間 輸 入 量 は 7 億 4 千 5 百 万 ト ン を 記 録 し て い る 。 こ の 鉄 鉱
石 の 輸 送 需 要 に 対 応 す べ く 、重 量 ト ン が 17~ 18 万 ト ン の ケ ー プ サ イ ズ が 大
量 に 建 造 さ れ た が 、 さ ら に VLOC も 多 数 建 造 さ れ た 。 竣 工 隻 数 を み る と 、
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平 成 13( 2001) 年 か ら 平 成 24( 2012) 年 末 ま で の 間 に 、 20 万 ト ン ク ラ ス
が 180 隻 建 造 さ れ ( 改 造 船 は 除 く )、 そ の 上 の 30 万 ト ン ク ラ ス は 、 平 成 19
( 2007) 年 12 月 に 竣 工 し た 商 船 三 井 の 「 Brasil Maru」( 327,180 ト ン ) を
は じ め と し て 8 隻( 後 述 す る 38 万 ト ン の ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス 4 隻 を 除 く )が
建 造 さ れ て い る 。ケ ー プ サ イ ズ は 日 本 や 中 国 で 荷 揚 げ 後 豪 州 に 向 か い 、豪 州
か ら 欧 州 向 け の 石 炭 や 鉄 鉱 石 を 積 み 取 り 、空 船 を 欧 州 か ら ブ ラ ジ ル に 回 航 す
る と い う 三 角 ト レ ー ド を 行 っ て き た が 、「 Brasil Maru」 は 鉄 鉱 石 の 年 間 輸
送 量 を 増 や す た め 、三 角 ト レ ー ド を 切 り 捨 て 、日 本 か ら ブ ラ ジ ル に 直 航 す る
など、従来のケープサイズの運航常識を革新するものとなった。
(4)ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス
最 後 に 、ブ ラ ジ ル の 資 源 メ ジ ャ ー で あ る ヴ ァ ー レ が 推 進 し て い る 超 大 型 鉱
石 専 用 船 の 建 造 に つ い て 触 れ た い 。同 社 が 整 備 を 進 め る 超 大 型 船 は ヴ ァ ー レ
マ ッ ク ス ( 全 長 362m、 幅 65m、 満 載 喫 水 23m) と 呼 ば れ 、 38 万 か ら 40
万 重 量 ト ン の 鉱 石 専 用 船 35 隻 を 建 造 し 、 ヴ ァ ー レ の 生 産 す る ブ ラ ジ ル 産 鉄
鉱 石 を 世 界 中 に 自 家 輸 送 し よ う と い う も の で あ る 。 第 一 船 の 「 Vale Brasil」
は 平 成 23( 2011) 年 3 月 に 就 航 し 、 平 成 25( 2013) 年 6 月 ま で に は 35 隻
全 船 が 揃 う 計 画 と な っ て い る 。中 国 や 日 本 と い っ た 東 ア ジ ア の 市 場 で は 、ブ
ラ ジ ル 鉱 石 は 豪 州 鉱 石 と 比 較 し て 圧 倒 的 に 遠 距 離 ソ ー ス で あ り 、ヴ ァ ー レ の
戦 略 は 自 家 輸 送 に よ り 輸 送 費 用 を 削 減 し 、 か つ 、 CIF( 運 賃 ・ 保 険 料 込 ) 契
約 に よ っ て 船 積 み を 自 社 で コ ン ト ロ ー ル し た い と い う も の で あ っ た が 、ヴ ァ
ーレは大きな誤算に直面している。
最 大 の 誤 算 は 、 ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス の 第 一 船 が 完 成 し た 平 成 23( 2011) 年
3 月 に は 、す で に ば ら 積 み 船 市 況 は 長 期 低 迷 の 真 っ た だ 中 で 、荷 主 が 高 船 価
船 を 自 社 で 保 有・運 航 す る よ り も 、海 運 会 社 か ら 傭 船 し た ほ う が は る か に 経
済 的 と な っ て い る 点 で あ る 。さ ら に 、中 国 政 府 が ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス の 直 接 寄
港 を 認 め て い な い こ と が 追 い 打 ち を か け て い る 。第 一 船 の “Vale Brasil“は 中
国 に 向 か う 予 定 だ っ た が 、中 国 政 府 の 許 可 が 下 り な か っ た た め に 、急 遽 向 け
地 を タ ラ ン ト( イ タ リ ア )に 変 更 し た と 言 わ れ て い る 。ま た 、平 成 23( 2011)
年 9 月 に 就 航 し た “Berge Everest”は 、 船 型 は 40 万 ト ン ク ラ ス と 同 型 だ が 、
重 量 ト ン が 388,133 ト ン と 40 万 ト ン に 達 し て い な い た め か 平 成 23( 2011)
年 末 に 大 連 に 入 港 し た 。し か し な が ら 、政 府( 交 通 運 輸 部 )の 事 前 了 解 を 取
り 付 け て い な か っ た と し て 、港 湾 当 局 の 幹 部 が 更 迭 さ れ る と い う 事 件 に 発 展
し て い る 。そ の 後 、交 通 運 輸 部 は 平 成 24( 2012)年 1 月 31 日 に 、
「 30 万 重
量 ト ン を 超 え る 大 型 船 の 入 港 を 今 後 認 め な い 」と の 声 明 を 発 出 し て い る 。こ
の ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス 入 港 禁 止 問 題 は 、中 国 海 運 業 界 が 海 運 会 社 の 経 営 や ば ら
積 み 船 マ ー ケ ッ ト に 悪 影 響 を 及 ぼ す と 猛 反 対 し て い る の に 加 え て 、リ ー マ ン
シ ョ ッ ク 以 降 中 国 鉄 鋼 業 が 鋼 材 価 格 の 大 幅 下 落 に 苦 し ん で い る と き で も 、輸
入 鉄 鉱 石 価 格 交 渉 で 、傲 慢 な 態 度 を と り 続 け た 資 源 メ ジ ャ ー に 対 す る 中 国 鉄
鋼業界の反発も後押ししているものと考えられる。
鉱 石 専 用 船 で は 、特 に 鉄 鉱 石 を 積 み 込 む 際 船 体 に 受 け る 衝 撃 が 大 き い た め 、
原 油 タ ン カ ー よ り も は る か に 船 体 強 度 を 高 め る 必 要 が あ る 。 か つ 、 44 万 重
4
量 ト ン を 超 す 船 体 で は 、エ ン ジ ン と プ ロ ペ ラ を 2 基 備 え る 必 要 が あ る と の こ
と で 、現 時 点 で は ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス よ り も 大 型 の 鉱 石 専 用 船 は 出 現 し な い だ
ろ う と 言 わ れ て い る 。中 国 へ の 寄 港 禁 止 問 題 は さ て お き 、中 国 で 建 造 さ れ た
22 隻 の ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス が そ の 船 体 強 度 を 維 持 で き る か 、 エ ン ジ ン が 減 速
航 海 に 耐 え ら れ る か 、資 源 メ ジ ャ ー に よ る 自 家 輸 送 の 成 否 な ど 、海 運・造 船
史に航跡を残すことになったヴァーレマックスに対する興味は尽きない。
< 図 表 -1> 鉄 鉱 石 積 み 込 み 中 の 「 Brasil Maru」
< 図 表 -2> ヴ ァ ー レ マ ッ ク ス 「 Vale Brasil」
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