20151016 colorspace

色空間とヒトの知覚
岡田 雄斗
廣安 知之
2015 年 9 月 17 日
IS Report No. 2015091701
Report
Medical Information
System Laboratory
Abstract
色の情報は,物を見て判断するうえで非常に重要なものである.現在,人間の生活にはカラー画像が
溢れているが,画像メディアによって画像の取り込みの方法(入力),画像の記録方法,また画像の
再現方法(出力)は異なる.これらの異なる画像メディア間で共通するのは,それを観察する人間の
視覚のみである.本稿では,人間がどのようにして画像を見,また色を見ることが出来ているのかを
理解するために,視覚系の構造や機能について述べるとともに,現在主に用いられている色空間につ
いて述べる.
キーワード: 色覚, 視細胞, 表色系, 色空間
目次
第 1 章 視覚系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1.1
視覚系の構造
2
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.1.1
錐体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.1.2
桿体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
色覚のメカニズム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
1.2.1
第 1 段階:錐体レベル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
1.2.2
第 2 段階:反対色レベル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
第 2 章 表色系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.1
マンセル表色系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.2
CIE-RGB 表色系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.3
CIE-XYZ 表色系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
第 3 章 色空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.1
混色の原理と応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2
様々な色空間
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2.1
RGB 色空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2.2
HSV 色空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2.3
HLS 色空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2.4
YUV 色空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2.5
RGB から他の色空間への変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
1.2
第 1 章 視覚系
1.1
視覚系の構造
人間の視覚情報の流れを Fig. 1.1 に示す.外界からの情報は角膜や水晶体などの眼球光学系により
網膜に結像され,網膜において光信号が神経信号に変換される.その後,視神経や外側膝状体を経由
し,大脳へ伝わり外界情報の意味が認識され,理解される.
人間の視覚情報の流れの中で最初に色覚において重要な役割を果たすのは網膜である.網膜は層状
の構造になっており,光は視神経繊維層から入射し,光を感じる細胞である光受容細胞(桿体,錐体)
に到達する.また,光受容細胞の後ろには黒いメラニン色素を含んだ色素上皮があり,背後からの光
の反射や眼球内の散乱を防ぎ,像を鮮明にする効果がある.光受容細胞の前にある細胞層は透明だが,
より鮮明な像を得るためにはこの細胞層も障害になるため,双極細胞や神経節細胞を横に押し広げ,
光受容細胞に直接光が入射するようになっている部分がある.この部分が,目の解像度が一番すぐれ
た中心窩である.
光受容細胞は桿体と錐体と呼ばれる 2 種類に分類することができ,それぞれ特性や働きが大きく異
なる.桿体は約 1 億 2000 万個,錐体は約 700 万個網膜上に存在している.この光受容細胞の軸索が,
双極細胞の樹状突起と結合し,双極細胞の他方の軸索は神経節細胞の樹状突起と結合している.神経
節細胞は網膜における情報処理経路の終点であり,ここから信号は電気インパルスの信号となり,視
神経繊維を通り網膜から離れる,人間の視神経は約 100 万本であり,光受容細胞に比べかなり少ない
が,水平細胞やアマクリン細胞が光受容細胞,神経節細胞,双極細胞の横方向の連絡を取っているた
め,一つの神経節細胞に複数の光受容細胞が繋がっている状態になっている 1) .
1.1.1
錐体
錐体は明るい場所で働き,色覚において重要な役割を果たし,中心窩に密集しているため解像度が
高められている.また,瞳孔の中央付近を通過し網膜に垂直に入射する光に対しては感度が高いが,
収差の多い瞳孔周辺を通過する光や眼内での散乱光のように網膜に斜めに入射する光に対しては感度
が低い.このような錐体の感度の方向性はスタイルズ・クロフォード効果と呼ばれ,網膜に垂直に入
射する視覚情報の信号成分の光を効率よく取り込み,斜めに入射するノイズ成分を抑える役割をして
おり,網膜像の鮮明化に役立っている 1) .
1.1.2
桿体
桿体は中心窩周辺にはほとんど存在せず,暗い場所で働く細胞でり,1 個の光量子の吸収で反応す
るほどの高い感度を持つ.また桿体は光の検出が最優先であるため,どのような方向から入射する光
でもできるだけ効率よく吸収し,像の鮮明さを犠牲にしてでも微弱な光を検出しようと働いているた
め,錐体のようなスタイルズ・クロフォード効果は見られない 1) .
2
1.2 色覚のメカニズム
第 1 章 視覚系
Fig. 1.1 人間の視覚情報処理過程(参考文献 1) より自作)
1.2
色覚のメカニズム
現在,人間の色覚モデルは Fig. 1.2 に示すような段階説が最も妥当であると言われている 1) .
1.2.1
第 1 段階:錐体レベル
錐体は分光感度により,最高感度を示す波長により低波長側から以下の 3 種類に分けられる.
• 短波長感錐体(Short-Cone:S 錐体)
:570nm 付近がピーク波長であり,赤錐体 1 とも呼ばれる.
• 中波長感錐体(Middle-Cone:M 錐体)
:530nm 付近がピーク波長であり,緑錐体とも呼ばれる.
• 長波長感錐体(Long-Cone:L 錐体)
:420nm 付近がピーク波長であり,青錐体とも呼ばれる.
L 錐体,M 錐体,S 錐体は網膜上にモザイク状に並んでいるが,錐体の種類により数が異なり,その
数の比は L:M:S=32:16:1 とも言われている.
ある一つの錐体には種々の波長成分を持つ光刺激が吸収されるが,その錐体からの出力は吸収され
た光量子の数だけの情報を有し,波長の情報は伝達されない.すなわち光刺激の持つ分光放射分布と
いう多次元変数が,吸収された光量子数という単一変数に変換されるということである.これを単一
変数の原理と呼び,この原理より人間の網膜には分光感度の異なる 3 種類の錐体があるため,光刺激
の多次元の分光情報は 3 種類の錐体からの応答という 3 変数で表すことができる.この原理よりヤン
グ・ヘルムホルツの三色説 2 が唱えられた 1) .
1.2.2
第 2 段階:反対色レベル
錐体レベルの次に,r,y という過渡的なレベルを経て,r-g と y-b と呼ばれる反対色レベルがある.
r-g は主に赤色光で興奮性(または抑制),緑色光で抑制性(または興奮)の応答をする赤対緑反対色
過程と呼ばれ,y-b は主に黄色光で興奮性(または抑制),青色光(または興奮)の応答をする黄対青
反対色過程と呼ばれる.r-g と y-b は L 錐体,M 錐体,S 錐体からの差分を取るメカニズムで,非線
形な特性があり,色覚系では神経節細胞,外側膝状体,第 1 次視覚野の細胞で反対色応答が見られる.
これらの出力から輝度信号である Lum や色差信号 Crg,Cyb が得られ,ヒトは色刺激の輝度(Bright-
ness),色相(Hue),彩度(Saturation)を知覚している 2) .
1
実際,570nm は黄色の波長であり,L 錐体だけが働いた場合必ず赤に見えるということではないため,現在呼び方に
色を付けることは的確でないと言われている 1)
2
「すべての色は独立な3つの色光の混色により等光できる」
3
1.2 色覚のメカニズム
第 1 章 視覚系
Fig. 1.2 色覚モデル(参考文献 1,
4
2)
より自作)
第 2 章 表色系
色を定量的に表す体系を,表色系という.表色系には,人間が知覚した色を記号や色票などで定性的
に扱う顕色系と,実験に基づいて色を心理物理量として定量的に扱う混色系がある.また,顕色系に
はマンセル表色系,混色系には CIE-RGB 表色系や CIE-XYZ 表色系がある 3) .
2.1
マンセル表色系
マンセル表色系は,色を心理学的な観点から,色相,明度,彩度の三属性で定義される.
• 色相:色の違いを示す属性.
• 明度:各色相の明るさを示す属性.
• 彩度:色の鮮やかさを示す属性.
2.2
CIE-RGB 表色系
撮影対象からの反射光は,ある分光強度分布をもち,その分光強度分布の形状によって色彩が決ま
る.この分光強度分布,つまり波長ごとの強度を測定すれば,撮影対象の色彩を測定できる.しか
しこれでは測定が大がかりになるため,3 種類の原刺激(赤・緑・青の原色光)を用意して加法混色
し,測定対象の色彩と同じになるときの原刺激の調節量である三刺激値を測定することを考えたも
のが CIE-RGB 表色系である.CIE-RGB 表色系は,原刺激を波長 700.0nm(赤),546.1nm(緑),
435.8nm(青)の 3 つの単色光,原刺激の輝度の比を 1:4.5907:0.0601 として,Fig. 2.1(a) に示す等色
関数を用いるものである.等色関数とは,人間の眼で観察したときに,光のスペクトルを構成する各
波長の色と,減色を混合した混合色とが同じ色に見える時の原色の混合比率を表したものである.こ
の等色関数を用いて三刺激値 R,G,B はそれぞれ式 (2.1),式 (2.2),式 (2.3) で求められる.ただし,
L(λ) は測定対象からの反射光の分光エネルギー分布,積分範囲 V は可視光の波長範囲を表す 3) .
∫
R=
L(λ)r(λ)dλ
(2.1)
V
∫
G=
L(λ)g(λ)dλ
(2.2)
L(λ)b(λ)dλ
(2.3)
V
∫
B=
V
2.3
CIE-XYZ 表色系
CIE-RGB 表色系の等色関数は,部分的に負の値があるため,三刺激値を手計算する際に扱うのが
困難であった.そのため,等色関数が非負となるように仮想的な原刺激を設定し,CIE-RGB 表色系
の等色関数から線形返還によって求めた等色関数 x(λ),y(λ),z(λ) を用いて三刺激値 X ,Y ,Z を
求めて色を定量的に表現したものが,CIE-XYZ 表色系である.CIE-XYZ 表色系の等色関数を Fig.
5
2.3CIE-XYZ 表色系
第 2 章 表色系
(a) CIE-RGB 表色系の等色関数
(b) CIE-XYZ 表色系の等色関数
Fig. 2.1 等色関数(参考文献 3) より自作)
Fig. 2.2 色度座標(参考文献 3) より自作)
2.1(b) に示す.この等色関数を用いて三刺激値 X ,Y ,Z は式 (2.4),式 (2.5),式 (2.6) で求められ
る.それぞれただし,L(λ) は測定対象からの反射光の分光エネルギー分布,積分範囲 V は可視光の
波長範囲を表す.
任意の色は,Fig. 2.2 に示すような色度座標において,3 次元ベクトルで表現でき,ベクトルの方
向が色味,長さが色の明るさを表す 3) .
∫
X=
L(λ)x(λ)dλ
(2.4)
L(λ)y(λ)dλ
(2.5)
L(λ)z(λ)dλ
(2.6)
V
∫
Y =
∫
V
Z=
V
6
第 3 章 色空間
色度座標間の距離と人間による知覚は異なる.そのため色空間は CIE-XYZ 表色系で測定した三刺激
値を用いて,異なる 2 色の色の類似度を数値化するために規定されたものである.色空間は色を定量
的に表す指標であり,ディジタルカメラやカラーディスプレイなどで使用される.
3.1
混色の原理と応用
Fig. 3.1(a) のように,3 原色を重ねるごとに明るくなり,3 つを等量混ぜ合わせると白色になる混
色方法を加法混色と呼ぶ.加法混色は,主にディスプレイに表示されるデジタルデータを扱う画像処
理で用いられる.逆に Fig. 3.1(b) のように,3 原色を混ぜ合わせるほど暗く黒い色に近づく混色方法
を減法混色をいい,印刷物の色彩を表現するのに用いられる 4) .
3.2
様々な色空間
色空間は,ディスプレイなどでよく用いられる RGB 色空間の他に,ヒトの色知覚の処理に近いと
言われている HSV,HLS,YUV 色空間などがある.
3.2.1
RGB 色空間
RGB 色空間のモデルを Fig. 3.2 に示す.RGB 色空間は混色系の色空間であり,赤(Red),緑
(Green),青(Blue)の 3 色を組み合わせて色彩を表現する方法である 4) .
3.2.2
HSV 色空間
HSV 色空間のモデルを Fig. 3.3 に示す.HSV 色空間は,色彩の情報を色相(Hue),彩度(Saturation),明度(Value)によって表現した色空間である.色相は赤が 0◦ ,黄が 60◦ ,続いて 60◦ ごと
に緑,シアン,青,マゼンタに対応している.明度は,色相で定義された色の明るさを表す要素であ
り,0%が最も暗く,100%が最も明るくなる.彩度は各明るさでの最大彩度を 100%とした相対的な
値で表し,0%で白色,100%で最も鮮やかとなる 1,
3.2.3
4)
.
HLS 色空間
HLS 色空間のモデルを Fig. 3.4 に示す.HLS 色空間は,色彩の情報を色相(Hue),輝度(Lightness),
彩度(Saturation)によって表現した色空間である.色相は HSV 色空間と同じであり,彩度は輝度
が 50%の時に 0%で灰色,100%で最も鮮やかとなる.HSV 色空間では,原色が白と同じ明度になり,
不自然なため 50%を原色としたものが HLS 色空間である 1,
3.2.4
4)
.
YUV 色空間
YUV(YCbCr)色空間は,輝度信号 Y と 2 つの色差信号 U(Cb),V(Cr)で表現される映像信
号用の色空間である.色差とは,RGB の各色から輝度成分の Y を差し引いた信号のことであり,U
は青-黄成分,V は赤-緑成分を表す.YUV 色空間はヒトの目は明るさには敏感だが色には敏感でな
いという,ヒトの視覚特性を利用した色空間である.YUV 色空間はアナログビデオ信号用に用いら
れているのに対し,YCbCr 色空間はデジタルビデオ信号用に用いられている 3) .
7
3.2 様々な色空間
第 3 章 色空間
(a) 加法混色
(b) 減法混色
Fig. 3.1 混色(参考文献 2) より自作)
Fig. 3.2 RGB 色空間(参考文献 1,
3.2.5
4)
より自作)
RGB から他の色空間への変換
1. RGB から HSV への変換
G−B
+ 0(M AX = R のとき)
M AX − M IN
B−R
H = 60 ·
+ 120(M AX = G のとき)
M AX − M IN
R−G
H = 60 ·
+ 240(M AX = B のとき)
M AX − M IN
M AX − M IN
S=
M AX
H = 60 ·
V = M AX
(3.1)
(3.2)
(3.3)
(3.4)
(3.5)
2. RGB から HLS への変換
M AX − M IN
2
M AX − M IN
S=
(L ≤ 0.5 のとき)
M AX + M IN
M AX − M IN
(L > 0.5 のとき)
S=
2 − (M AX + M IN )
L=
8
(3.6)
(3.7)
(3.8)
3.2 様々な色空間
第 3 章 色空間
(a) 各色情報のモデル
(b) 六角錐モデル
Fig. 3.3 HSV 色空間(参考文献 1,
(a) 各色情報のモデル
4)
より自作)
(b) 双六角錐モデル
Fig. 3.4 HLS 色空間(参考文献 1,
4)
より自作)
3. RGB から YUV への変換
Y = 0.299 · R + 0.587 · G + 0.114 · B
(3.9)
U = −0.147 · R − 0.289 · G + 0.436 · B
(3.10)
V = 0.615 · R − 0.515 · G − 0.100 · B
(3.11)
Y = 0.299 · R + 0.587 · G + 0.114 · B
(3.12)
Cb = −0.169 · R − 0.331 · G + 0.500 · B
(3.13)
Cr = 0.500 · R − 0.419 · G − 0.081 · B
(3.14)
4. RGB から YCbCr への変換
9
参考文献
[1] 日下秀夫, 先端技術の手ほどきシリーズ カラー画像工学, 第 1 版, オーム社, 1997.
[2] 河村尚登, 小野文孝, カラーマネジメント技術 拡張色空間とカラーアピアランス, 第 1 版, 東京
電機大学出版局, 2008.
[3] 奥富正敏, ディジタル画像処理[改訂新版], 第 1 版, 画像情報教育振興協会, 2015.
[4] 小枝正直, 上田悦子, 中村恭之, OpenCV による画像処理入門, 第 1 版, 講談社サイエンティフィク,
2014.
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